説明

スズ元素と、希土類元素とを含む着色剤

(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(SnO2d(RExye(EAO)f(Muvg[ただし、REは第3副族の金属、または希土類金属であり、EAはアルカリ土類金属であり、そしてMは任意のさらなる金属である(ただしa=0.8〜3;b=0.5〜1.3;c=0.5〜1.3;d=0〜0.5;e=0〜0.3;f=0〜0.3;g=0〜0.1、かつe+f≧0.01)]の、実験組成の顔料である。REは好ましくは、元素のY、La、Ce、およびPrから選択されている。この顔料は、塗装材料、印刷用インク、インク、プラスチック、およびゴムを着色するための着色剤として使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類金属酸化物、および/またはアルカリ土類金属酸化物を含む、二酸化チタン、酸化亜鉛、および酸化スズベースの顔料に関する。
【0002】
US4,448,608には、(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(SnO2dという組成の着色剤が記載されている。この顔料の結晶構造は、不明である。粉末X線回折(Cu Kα放射)において着色剤は、2Θで5つのメインピーク(相対強度)、すなわち20.69゜(10)、31.24゜(100)、36.22゜(20)、52.14゜(22)、および62.03゜(20)を有する。金属酸化物のa、b、c、およびdのモル比に従って、異なる色の顔料が得られる。黄色とオレンジの色相の他に、緑、茶、および灰色の色相も可能である。好ましい色相は、オレンジと黄色である。色にとって決定的になるのは、結晶における(SnOとしての)Sn(II)の割合である。オレンジ顔料に好ましい組成は、a=1〜3、b=1、c=1、およびd=0である組成である。SnO2の含分が増えるにつれて(d>0)、色相は黄色の方向に移行していく。SnOの含分を減らすと、これらの顔料はますます明るく、かつ着色力が弱くなり、最終的には白い、または明るい灰色の顔料ができる。
【0003】
着色顔料としての使用には一般的に、高い彩度(クロマ)、および高い明度を有する着色剤が望まれている。従って、可能な限り鮮やかな、そして明るい顔料をもたらす組成物が求められる。このほかに、着色力の強さも望まれている。着色力が強い顔料は、より生産的である。と言うのも、被覆材料またはプラスチックにおいて一定の色の強さをもたらすために必要となる顔料が、より少なくなるからである。
【0004】
US4,448,608には、顔料のための2の異なる製造方法が記載されている。1つの製造方法によれば、酸を添加してチタン元素の塩、亜鉛元素の塩、およびスズ元素の塩を水に溶解させる。その後、非酸化性の不活性雰囲気(例えば窒素雰囲気)下でアルカリ溶液の添加により、金属水酸化物もしくは金属水和酸化物を析出させ、これらを濾過し、洗浄してアルカリ分を除去し、乾燥させ、そして800〜1000℃の温度で窒素下、か焼する。この際、Sn(II)がSn(IV)に酸化するのを防止するため、これらの作業工程はすべて、不活性ガス雰囲気下で行わなければならない。か焼に続いて粉砕工程を行い、生成したアグロメレートを微粉砕する。
【0005】
別法の製造方法は、原料であるTiO2、ZnO、およびSnO(また場合によりSnO2)の乾式混合、不活性ガス雰囲気下での800〜1000℃の温度での混合物のか焼、および得られる炉内クリンカー(Ofenklinker)の粉砕を含む。
【0006】
色の鮮やかさと着色力の強さのために重要となるのは基本的に、か焼前に個々の成分を限りなく均一に混合することである。従って好ましいのは、水酸化物、および/または水和酸化物の形で元素を析出させることにより、最適な混合を保証する製造方法である。しかしながらこの方法は、すべての方法工程が完全に酸素を遮断して行われなければならないという欠点が障害となる。
【0007】
本発明の課題は、より明るい、鮮やかな、かつ着色力の強い顔料を提供することである。この課題はとりわけ、二酸化チタン、酸化亜鉛、および酸化スズをベースとする従来技術の顔料を、明度、彩度、および着色力の強さの点で改善することである。
【0008】
この課題は、実験組成
(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(SnO2d(RExye(EAO)f(Muvg
[式中、REは第3副族の金属、または希土類金属であり、
EAはアルカリ土類金属であり、かつ
Mは任意のさらなる金属である(ただし、
a=0.8〜3;b=0.5〜1.3;c=0.5〜1.3;d=0〜0.5;e=0〜0.3;f=0〜0.3;g=0〜0.1
かつe+f≧0.01である)]
の顔料により解決される。
【0009】
意外なことに、明るい、鮮やかな、かつ着色力の強い顔料は、公知の成分TiO2、ZnO、およびSnO、ならびに場合によりSnO2に、希土類金属酸化物、および/またはアルカリ土類金属酸化物を加えると得られることが判明した。
【0010】
REとは、第三副族の金属、または希土類金属である。これは詳しくは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuである。本発明による顔料においてこれらの元素は、純粋に二価の酸化物REO、純粋に三価の酸化物RE23、または純粋に四価の酸化物REO2、ならびに二価の金属RE(II)のほかに三価の金属RE(III)を含む、または三価の金属RE(III)のほかに四価の金属RE(IV)を含む、混合酸化状態の酸化物として存在しうる。従って化学量論的な組成は、REOとRE23の間で、もしくはRE23とREO2との間で変わり得る;すなわち、x=1の場合、RExyにおいてyは1〜2の間で変わる。このため、イットリウム元素とランタン元素は本発明の顔料において一般的に、Y23もしくはLa23として存在する。セリウム元素は一般的に、CeO2として存在する。プラセオジム元素は、Pr23およびPrO2として、ならびにPr(III)/Pr(IV)の混合酸化物の形で存在していてよく、そして例えばPr611という化学量論的組成を有していてよい。プラセオジムのさらなる混合酸化物は、Pr1222、Pr1120、Pr1018、Pr916、Pr814、Pr712、およびPr610である。Eu元素とYb元素はまた、安定的な二価の酸化物であるEuOもしくはYbOとして存在していてよい。
【0011】
本発明による好ましい顔料は、イットリウム元素、ランタン元素、セリウム元素、およびプラセオジム元素のうちの少なくとも1つ、またはこれらの元素の2またはそれ以上を含む。
【0012】
本発明による顔料はさらに、アルカリ土類金属EAを含むことができる。好ましいアルカリ土類金属は、Ca、Sr、およびBaである;これらの次に好ましいのは、Mgである。
【0013】
本発明の実施態様においては、e=0.01〜0.3であり、かつf=0.01〜0.3である:すなわちこの顔料は、REのほかにEAも含む。EAは好ましくは、Ca、Sr、およびBaから選択されている。さらなる実施態様においては、e=0.01〜0.3であり、かつf=0である;すなわち、この顔料はEAを含まない。どちらの場合においても、REが好ましくは、Y、La、Ce、およびPrから選択されている。別の実施態様においては、e=0であり、かつf=0.01〜0.3である;すなわち、この顔料はREを含まない。
【0014】
好ましくは、a=1.0〜3、b=0.7〜1.3、そしてc=0.7〜1.3である。
【0015】
好ましくは、eとfがその都度0.02〜0.15の範囲にあり、より好ましくは0.02〜0.125の範囲にある。
【0016】
本発明による顔料は、さらなる金属Mを含んでいてよい。好ましいさらなる金属Mは、Zr、Al、およびSiから選択されており、これらは一般的にZrO2、Al23、もしくはSiO2として、または2もしくはそれ以上の前記金属の混合酸化物として存在していてよい。その次に好ましい金属Mは、V、Nb、Mo、W、Sb、Bi、およびPbである。
【0017】
本発明の対象はまた、本発明による顔料の製造方法である。
【0018】
一つの方法によれば、酸化物原料であるTiO2、ZnO、SnO、場合によりSnO2、RExy、および/またはEAO、および場合によりMuv、またはこれらの酸化物の前駆体を乾燥粉末の形で混合し、この混合物を不活性ガス雰囲気下、800〜1100℃の温度でか焼し、そして生成する炉内クリンカーを粉砕する。
【0019】
すべての原料の混合、原料混合物のか焼、および引き続いた慣用の粉砕(湿式粉砕もしくは乾式粉砕)という個々の工程から構成される乾式合成によって、本発明による顔料を工業的なスケールにおいても、特別なコストを掛けずに製造することができる。
【0020】
上記元素の酸化物の代わりにまた、加熱で酸化物に反応する酸化物前駆体、例えば上記元素の水酸化物、炭酸塩、水和酸化物、および塩基性炭酸塩を用いることもできる。
【0021】
一般的に、YはY23として、LaはLa23として、CeはCeO2として、およびPrはPr611として添加する。
【0022】
別法としては、チタン元素、亜鉛元素、スズ元素、RE元素、および場合によりEA元素の塩を、酸の添加により非酸化性の不活性雰囲気(例えば窒素雰囲気)下で水に溶解させ、チタン、亜鉛、スズ、RE、および/またはEAの水酸化物もしくは水和酸化物をアルカリ溶液の添加により析出させ、濾過、洗浄、乾燥、および不活性ガス雰囲気における800〜1100℃の温度でのか焼によって、本発明による顔料を製造することもできる。好ましくは上記元素を、塩化物もしくは硝酸塩の形で溶解させる。
【0023】
添加元素REおよび/またはEAの存在が、添加元素を含まない式(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(SnO2dの顔料と比較して、彩度(クロマ)の著しい上昇、着色力の強さの著しい上昇、ならびに顔料の明度の著しい上昇につながり、これと同時に、色がやや黄色くなる。顔料中における添加元素RE、および/またはEAの本発明による割合により、鮮やかで、明るい、そして着色力の強い顔料が得られる。
【0024】
本発明による顔料は、着色剤として多様に用いることができる。好ましい使用範囲は、塗装材料、印刷用インク、インク、プラスチック、およびゴムを着色するための着色剤としての顔料の使用である。塗装材料とは、水性の、もしくは溶媒含有被覆材料、ならびに粉末被覆材料であり、本発明による顔料はこれらの被覆材料中において単独で、または充填材、白色顔料、着色顔料、または黒色顔料と組み合わせて使用することができる。バインダーとしては、被覆材料分野において通常のあらゆるバインダーを使用することができる。本発明による顔料で着色することができる被覆材料はとりわけ:
・オイルベースの被覆材料(亜麻仁油またはポリウレタンオイルをベースとするもの)、
・セルロースベースの被覆材料(NC、CAB、CAP)
・塩化ゴムベースの被覆材料
・ビニル被覆材料(PVC、PVDF、VCコポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルエステル分散液、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルエーテル、ポリスチレン、スチレンコポリマーをベースとするもの)
・アクリレート被覆材料
・アルキド被覆材料
・飽和ポリエステル被覆材料
・不飽和ポリエステル被覆材料
・ポリウレタン被覆材料(1液型、2液型)
・エポキシ被覆材料
・シリコーン被覆材料
・シリカ被覆材料(水ガラス、アルキルシリカートをベースとするもの)
である。
【0025】
これらの被覆材料システムは、D.Stoye,W.Freitag,Paints,Coatings and Solvents,Second Edition,1998,Wiley−VCHに詳しく記載されている。
【0026】
フレーク状の金属エフェクト顔料、および/またはフレーク状の酸化物エフェクト顔料との組み合わせもまた可能であり、角度により異なる興味深い色彩効果につながる。本発明による顔料はまた、通常のプラスチックおよびプラスチックブレンドを着色するため、単独で、または白色顔料、着色顔料、および黒色顔料と組み合わせて、および慣用のあらゆる添加剤および安定剤と組み合わせて有利に使用することができる。適切なプラスチックとして挙げられるのは、硬質PVCと軟質PVC、ポリオレフィン、ならびにすべての工業用プラスチック、例えばABS、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、さらなるポリウレタン、そしてゴムシステムである。これらの顔料は慣用の混合技術、混和技術、混練技術、および押出技術によって加えることができる。これらの顔料は化学的に不活性であり、かつ耐候性と耐熱性が高いので、内装への適用にも、外装への適用にも同様に適している。白色減少度(Weissaufhellung)の点では、顔料はUS4,448,608に記載された顔料に比べて基本的に強い着色力を示し、従って明らかに生産性が高い。
【0027】
これらの顔料は、近赤外線領域付近で高い反射性を示し、そしてこのため単独で、またはさらなる適切な顔料および充填材との混合物において、太陽光照射の際に内部空間(例えば建物や自動車)の加熱を制限するべき塗装材、またはプラスチック製品において有利に使用することができる。
【0028】
白色顔料との混合物に考慮されるのは、以下のものである:
C.I.Pigment White 4、5、6、および7。
【0029】
黒色顔料との混合物に適しているのは、以下のものである:
C.I.Pigment Black 6、7、11、26、27、28、29、30、および32、
C.I.Pigment Brown 29、および35。
【0030】
無機着色顔料との混合物に考慮されるのは、以下のものである:
C.I.Pigment Yellow 42、34、53、161、162、163、164、184、および189、
C.I.Pigment Brown 24、および37、
C.I.Pigment Red 101、および104、
C.I.Pigment Blue 28、および36、
C.I.Pigment Green 17、および50。
【0031】
混合物に適した有機着色顔料は例えば、フタロシアニン顔料、インダントロン顔料、アントラピリミジン顔料、ジオキサジン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ピラゾロキナゾロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾ顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノフタロン顔料、およびアントラキノン顔料の群に由来する。有機顔料の個々の分類に対する適切な例としては、以下のものが挙げられる。
−フタロシアニン顔料
C.I.Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、
C.I.Pigment Green 7、36;
−インダントロン顔料:
C.I.Pigment 60;
−アントラピリミジン顔料:
C.I.Pigment Yellow 108;
−ジオキサジン顔料:
C.I.Pigment Violet 23;
−キナクリドン顔料:
C.I.Pigment Red 122、および202、
C.I.Pigment Violet 19;
−ペリレン顔料:
C.I.Pigment Red 123、178、179、および224;
−ピラゾロキナゾロン顔料:
C.I.Pigment Orange 67、およびC.I.Pigment Red 216;
−イソインドリン顔料:
C.I.Pigment Yellow 139、および185、
C.I.Pigment Orange 61、および69、
C.I.Pigment Red 257、および260;
−イソインドリノン顔料:
C.I.Pigment Yellow 109、110、および173;
−アゾ顔料:
C.I.Pigment Yellow 2、13、62、74、83、151、154、168、および191、
C.I.Pigment Orange 5、13、34、36、64、および67、
C.I.Pigment Red 1、2、3、4、5、23、48:1、48:2、48:3、48:4、49、49:1、51、51:1、53、53:1、57:1、58:2、58:4、112、144、146、148、166、170、184、214、220、221、および251;
−ジケトピロロピロール顔料:
C.I.Pigment Orange 71、および73、
C.I.Pigment Red 254、255、264、および272;
−キノフタロン顔料:
C.I.Pigment Yellow 138、および108;
−アントラキノン顔料:
C.I.Pigment 177。
【0032】
顔料混合物は、さらなる有機顔料、および/または無機顔料を10〜99質量%、および本発明による顔料を1〜90質量%含む。
【0033】
適切なフレーク状顔料の例としては、以下のものが挙げられる:
−金属顔料:
アルミニウム顔料、スチール顔料(Stahlpigment)、亜鉛顔料:
−被覆された金属顔料:
酸化鉄で被覆されたアルミニウム顔料、二酸化チタンで被覆されたアルミニウム顔料、酸化鉄/酸化チタンで被覆されたアルミニウム顔料、酸化アルミニウムで被覆されたアルミニウム顔料、酸化アルミニウム/酸化鉄で被覆されたアルミニウム顔料、酸化ケイ素で被覆されたアルミニウム顔料、亜酸化ケイ素で被覆されたアルミニウム顔料、酸化ケイ素/酸化鉄で被覆されたアルミニウム顔料、フッ化マグネシウム/クロムで被覆されたアルミニウム顔料;
−被覆された酸化物顔料:
酸化チタンで被覆されたマイカ顔料、酸化鉄で被覆されたマイカ顔料、酸化チタン/酸化鉄で被覆されたマイカ顔料、酸化チタンで被覆された酸化アルミニウム顔料、酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム顔料、酸化チタン/酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム顔料、酸化チタンで被覆されたガラス顔料、酸化鉄で被覆されたガラス顔料、酸化チタン/酸化鉄で被覆されたガラス顔料、酸化チタンで被覆されたSiO2顔料、酸化鉄で被覆されたSiO2顔料、酸化チタン/酸化鉄で被覆されたSiO2顔料、酸化鉄/酸化ケイ素で被覆されたマイカ顔料、酸化チタン/酸化ケイ素で被覆されたマイカ顔料、
酸化鉄/酸化ケイ素で被覆されたガラス顔料、酸化チタン/酸化ケイ素で被覆されたガラス顔料、酸化鉄/酸化ケイ素で被覆された酸化アルミニウム顔料、酸化チタン/酸化ケイ素で被覆された酸化アルミニウム顔料、有機着色剤で、および/または有機顔料でコーティングされた酸化チタンを被覆したマイカ顔料、有機着色剤で、および/または有機顔料でコーティングされた酸化鉄を被覆したマイカ顔料;
−オキシ塩化ビスマス顔料;
−フレーク状の酸化鉄顔料。
【0034】
この顔料混合物は、フレーク状の顔料を10〜99質量%含み、かつ本発明による顔料を1〜90質量%含む。
【0035】
以下の実施例によって、本発明をより詳しく説明する。
【0036】
実施例
顔料を製造するために、以下に記載する金属酸化物を使用する:
TiO2:Anatas Kronos 1001
ZnO:Riedel−de−Haen社製
SnO:ABCR GmbH&Co.KG社製、純度99%
SnO2:Elektro Thermit GmbH社製のTego RL
La23:Fluka社製、99.98%
CeO2:>Fluka社製、純度99%
23:ABCR GmbH&Co.KG社製
これらの顔料の合成は、電気加熱式の格納式オーブン内にある、容量500mlのガラス製回転フラスコ内で行った。顔料の原料混合物を導入した後、ガス供給管、およびガス除去管、ならびに熱電対のための開口部をその都度有する栓でフラスコを閉鎖した。この熱電対を介して、格納式オーブンの温度を制御する。ガス導入管を通じて窒素流をフラスコに一定の供給速度(10〜15Nl/h)で導く。ガラス製フラスコを回転させながら30分間窒素で不活性にし、その後1時間以内に900℃に加熱し、そして1時間この温度を維持する。引き続き窒素下で室温に冷却する。か焼した顔料(炉内のクリンカー)を引き続き粉砕する。
【0037】
粉砕のため容量500mlの磁器製乳鉢に、炉内クリンカー30gを、飲料水60g、および粉砕用ガラスビーズ(直径2mm)250gと一緒に充填し、そして10分間にわたって振動ミル(Retsch社製)で粉砕する。粉砕用ビーズを顔料懸濁液からふるい分けによって取り除き、この懸濁液を濾過し、この顔料を空気強制循環式乾燥機内で1時間、160℃で乾燥させ、そして引き続き、Braunミキサーで15秒間、脱アグロメレート化する。
【0038】
顔料の着色特性を評価するため、PVCプラスチゾルペーストに顔料を溶いて調合し、これを強制空気循環式乾燥機内で15分間の加熱により160℃で硬化させる。硬化後、顔料入りプラスチゾルをOptronik社の分光光度計Multiflashを用いて測色する。これらの顔料を、純粋な色相(着色顔料のみ)について、色相HGD、クロマC*と明度L*、ならびに白色減少度(着色顔料1当量+ルチルKronos 2056を3当量=>1:4の減少度に相応する)を着色力の強さの等量(FAE)に対して測定する。この際に比較例1は任意のFAE値、160を有する。この時、他の顔料のFAE値80は、着色力の強さが2倍であることを示し、FAE値320は、着色力の強さが半分であることを表す。比較顔料としては、(TiO21.6(ZnO)1(SnO)1という組成の製品を使用する。
【0039】
プラスチゾルの組成:フタル酸ジノニル(Palatinol(登録商標)N)が40質量部、およびPVC(Vestolit(登録商標)7012)が60質量部。
【0040】
純粋な色相のペーストの調製
着色顔料0.6gをプラスチゾル6gと一緒に、プレート型ローラーミルJEL25.86(Engelsmann社製)において100回転、荷重50kgで分散させる。生成する着色顔料ペーストを、フィルムコーティング装置(Erichsen社製)で平らなへらにより800μmの層厚でガラス板に塗布し、そして短いフラッシュオフ時間の後、空気強制循環式乾燥機内で160℃で15分間硬化させる。
【0041】
白色減少度ペーストの調製
着色顔料0.15g、およびルチル顔料0.45gを、プラスチゾル6gと一緒にEngelsmann社のプレート型ローラーミルJEL25.86において150回転、荷重75kgで分散させる。生成する着色顔料/白色ペーストを、フィルムコーティング装置(Erichsen社製)で平らなへらにより800μmの層厚でガラス板に塗布し、そして短いフラッシュオフ時間の後、空気強制循環式乾燥機内で160℃で15分間硬化させる。
【0042】
冷却後、まだガラス板にある塗布物を、Multiflash分光光度計(Optronic社)を用いてガラスの反対側の面で測色し、そしてBCSWINプログラム(BASF Color System)を用いて着色力の強さ、およびCIELab三刺激値L*(明度)、C*(クロマ、すなわち彩度)、およびHDG(色相)を算出する。45゜の測定角度で得られたデータに基づいて評価する。
【0043】
比較例1
(TiO21.6(ZnO)1(SnO)1
TiO2を23.88g、SnO1を25.44g、そしてZnOを15.2g、ステアタイトビーズ(直径:8mm)250gと一緒に250mlのプラスチックボトルに量り取り、そして強力ミキサー(Skandex社製)で30分間、乾式混合する。この原料混合物をガラス製フラスコに移し、そして引き続き、窒素下(10〜15l/h)で1時間以内に900℃に加熱し、そして900℃で一時間か焼する。炉内のクリンカーを前述のように磁器製振動ミルで粉砕する。乾燥と脱アグロメレート化の後、プラスチゾルの着色組成物を調製し、測色する。測色により、以下の値が得られた:
【表1】

【0044】
比較例2
顔料(TiO21.6(ZnO)1(SnO)0.8の調製
TiO2を23.88g、SnOを20.35g、そしてZnOを15.2g秤量し、そして比較例1のように加工する。測色により、以下の値が得られる:
【表2】

【0045】
この顔料は比較例1に記載の顔料よりも、かなり着色力が弱く、やや黄色く、そして著しくくすんでいた。
【0046】
比較例3〜6
顔料(TiO21.6(ZnO)1(SnO)1-x(SnO2xの調製
比較例3〜6で、SnOの一部をSnO2に置き換える。合成と評価は、実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表3】

【0047】
SnO2でSnOを部分的に置き換えることによって、顔料はやや黄色く、そしてやや明るくなる。着色力の強さはSnO2が5mol%もしくは10mol%の場合に、SnO2置換無しの場合に比べてやや高くなり、そしてそれより多いSnO2割合では低下する。
【0048】
実施例1〜7
顔料(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(La23eの調製
実施例1〜7では比較例1と比べて、SnOの一部をLa23に置き換える。合成と評価は、実施例1に記載したように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表4】

【0049】
La23によるSnOの置き換えを増やすにつれて、顔料はより黄色くなる。1.6molのTiO2あたり0.075molのLa23割合までは、着色力の強さ、彩度、およびとりわけ顔料の明度が極めて著しく上昇するが、それより高いLa23成分においては、顔料は着色力の強さ、彩度、および明度の点で再びやや失われる。
【0050】
実施例7の組成物の粉末X線回折は、La23を含まない比較例の顔料と比べてほぼ変わらない、5つの主な反射箇所を示す。
【0051】
実施例8〜11
顔料(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(CeO2eの調製
実施例8〜11では、比較例1と比べてSnOの一部を、CeO2で置き換える。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表5】

【0052】
SnOをCeO2により部分的に置き換えることによって、この顔料は比較例1の顔料よりも黄色くなり、著しく鮮やかに、明るく、そして着色力が著しく強くなる。
【0053】
実施例12
顔料(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(La23e(CeO2eの調製
実施例12では、La23とCeO2の組み合わせによりSnOの一部を置き換える。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表6】

【0054】
La23とCeO2によりSnOの一部を置き換えることによって、この顔料は比較例1の顔料よりも黄色くなり、著しく鮮やかに、ずっと明るく、そして着色力が著しく強くなる。
【0055】
実施例13
顔料(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(Y23eの調製
実施例13では、Y23によりSnOの一部を置き換える。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表7】

【0056】
23によりSnOの一部を置き換えることによって、この顔料は比較例1の顔料よりも黄色くなり、ずっと鮮やかに、やや明るく、そして着色力が著しく強くなる。
【0057】
実施例14
顔料(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(SnO2d(La23eの調製
実施例14では、La23とSnO2との組み合わせによりSnOの一部を置き換える。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表8】

【0058】
La23とSnO2との組み合わせによりSnOの一部を置き換えることによって、この顔料は比較例2の顔料よりも黄色くなり、かなり鮮やかに、著しく明るく、そして着色力がかなり強くなる。
【0059】
実施例15
顔料(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(La23eの調製
実施例15では、比較例1と比べて、La23を付加的に添加する。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表9】

【0060】
La23を比較例1の基本調製物に加えることにより、この顔料は比較例1の顔料よりも黄色くなり、ずっと鮮やかに、やや明るく、そして着色力が著しく強くなる。
【0061】
実施例16、および17
顔料(TiO21.6(ZnO)1(SnO)1-x(Pr611yの調製
実施例16、および17では、SnOの一部をPr611に置き換える。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表10】

【0062】
Pr611によりSnOを部分的に置き換えることによって、この顔料は比較例1の顔料よりも黄色くなり、そして着色力が著しく強くなる。実施例16の顔料は、比較例1に比べてかなり暗いが、一方実施例17の顔料は比較例1に比べてずっと明るく、そして鮮やかである。
【0063】
実施例18〜21
顔料(TiO21.6(ZnO)1(SnO)0.9(EAO)0.1の調製
実施例18〜21では、アルカリ土類金属化合物によりSnOの一部を置き換え、これらの化合物がか焼の際に相応するアルカリ土類金属酸化物(MeO)に反応する。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表11】

【0064】
調製した顔料の色の評価により、マグネシウムとその上位の同族体との間にはっきりとした差異が現れた。マグネシウムが比較例1に比べてかなり顔料をくすませてしまう一方、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムは比較例1と比べてより黄色い、鮮やかな、明るい、そしてより着色力の強い着色顔料の方向に著しく変化させる。
【0065】
実施例22、および23
顔料(TiO21.6(ZnO)1(SnO)1(EAO)0.1の調製
実施例22、および23では、比較例1の化学量論に比べて、か焼の際に相応するアルカリ土類金属酸化物(EAO)に反応するアルカリ土類金属化合物成分を付加的に加える。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表12】

【0066】
実施例18のように、調製物中のマグネシウム成分が比較例1と比べて彩度(C*)の劣化をもたらす一方、カルシウムの存在が彩度、明度、および着色力の強さについて明らかな上昇につながる。
【0067】
実施例24
顔料(TiO21.6(ZnO)1(SnO)0.9(La230.05(CaO)0.1の調製
実施例24では、La23によりSnOの一部を置き換え、そして付加的にCaO成分を加える。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表13】

【0068】
La23とCaOの付加は、比較例1に比べて著しい着色力の強さ、著しく高い彩度、および著しく高い明度につながる。
【0069】
実施例25〜28、および比較例3〜6
顔料(TiO2x(ZnO)1(SnO)0.85(La230.075、および(TiO2x(ZnO)1(SnO)1(La230.075の調製
実施例25〜28、および比較例3〜6では、異なる割合の二酸化チタンを使用し、その都度La23を添加する場合と、添加しない場合を設ける。合成と評価は実施例1のように行う。以下の表は、使用する原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表14】

【0070】
二酸化チタン成分を使用した場合ではすべて、調製した顔料の色の評価により、La23の無い生成物と、La23を含む生成物との間にはっきりとした差異が見られる。一般的には、La23の添加により、顔料はより黄色く、より鮮やかに、より明るく、そしてより着色力が強くなる。実施例25と26は、二酸化チタン割合が1.2以下であれば、La23の添加により明度と着色力の強さが改善する一方で、クロマはやや減少する。
【0071】
実施例29〜31、および比較例7〜9
顔料(TiO21.6(ZnO)1(SnO)z(La230.075の調製
実施例29〜31、および比較例7〜9では、割合の異なる酸化スズを使用し、その都度La23を添加する場合と、添加しない場合を設ける。合成と評価は実施例1と同様に行う。以下の表は、使用される原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表15】

【0072】
酸化スズ成分を使用した場合ではすべて、調製された顔料の色の評価により、La23の無い生成物と、La23を含む生成物との間にはっきりとした差異が見られる。La23の添加により顔料はより黄色く、より鮮やかに、より明るく、そして着色力が強くなる。
【0073】
実施例32と33、および比較例10と11
顔料(TiO21.6(ZnO)y(SnO)1(La230.075の調製
実施例32と33、および比較例10と11では、割合の異なる酸化亜鉛を使用し、その都度La23を添加する場合と、添加しない場合を設ける。合成と評価は実施例1と同様に行う。以下の表は、使用される原料の量と、測色試験の結果を示す。
【表16】

【0074】
La23の添加により、ランタンを添加しない顔料と比べて、著しく高い着色力の強さ、著しく高い彩度、および著しく高い明度につながる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(TiO2a(ZnO)b(SnO)c(SnO2d(RExye(EAO)f(Muvg
[式中、REは第3副族の金属、または希土類金属であり、
EAはアルカリ土類金属であり、かつ
Mは任意のさらなる金属である(ただし、
a=0.8〜3;b=0.5〜1.3;c=0.5〜1.3;d=0〜0.5;e=0〜0.3;f=0〜0.3;g=0〜0.1、
かつe+f≧0.01である)]
の、実験組成の顔料。
【請求項2】
REが元素のイットリウム、ランタン、セリウム、およびプラセオジム、およびこれらの混合物から選択されていることを特徴とする、請求項1に記載の顔料。
【請求項3】
EAが元素のカルシウム、ストロンチウム、およびバリウム、ならびにこれらの混合物から選択されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の顔料。
【請求項4】
a=1.0〜3:b=0.7〜1.3;c=0.7〜1.3であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の顔料。
【請求項5】
f=0であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の顔料。
【請求項6】
eとfとがその都度0.01〜0.3であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の顔料。
【請求項7】
e=0であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の顔料。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の顔料の製造方法であって、TiO2、ZnO、SnO、選択的にSnO2、RExy、および/またはEAO、および選択的にMuv、またはこれらの前駆体化合物を乾燥粉末として混合し、この粉末混合物を800〜1100℃の温度で不活性ガス雰囲気下でか焼し、そして得られた炉内のクリンカーを粉砕する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の顔料の製造方法。
【請求項9】
YをY23として、LaをLa23として、CeをCeO2として、そしてPrをPr611として使用することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
a)請求項1から7までのいずれか1項に記載の顔料を1〜90質量%含み、かつ
b)1またはそれ以上のさらなる無機顔料もしくは有機顔料、および/または1またはそれ以上のフレーク状の、金属エフェクト顔料もしくは酸化物エフェクト顔料を10〜99質量%含む、
顔料混合物。
【請求項11】
塗装材料、印刷用インク、インク、プラスチック、およびゴムを着色するための着色剤としての、請求項1から7までのいずれか1項に記載の顔料の使用。

【公表番号】特表2010−515792(P2010−515792A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545128(P2009−545128)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2007/064049
【国際公開番号】WO2008/083897
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】