説明

スタチン及びガンマーオリザノールを含有する医薬組成物

【課題】
血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持若しくは向上するための医薬組成物を提供すること。
【解決手段】
シンバスタチン又はアトルバスタチンカルシウムとガンマーオリザノールとを含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを含有する医薬組成物(特に、血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持若しくは向上するための医薬組成物、或いは、血中脂質を改善するための医薬組成物)に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから「ヒトは血管とともに老いる」と言われてきたが、それには加齢や各種疾病等による血管内皮由来一酸化窒素(NO)の産生減少、すなわち内皮型NO合成酵素(eNOS)活性の低下が深く関わっていることが最近判ってきた。
【0003】
血管内皮の機能障害は動脈硬化の発症・進展に深く関係し、eNOSから産生されるNOの低下がその大きな原因であると言われている。血管壁由来のNOは、血管弛緩、血小板の凝集抑制、好中球の内皮細胞への付着抑制、血管平滑筋細胞の遊走・増殖抑制、LDL酸化抑制、等の面から抗動脈硬化作用を示す(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
動物試験でNO合成阻害により動脈硬化症が憎悪することからも、動脈硬化発症・進展に直接寄与することが判る(例えば、非特許文献2参照。)。
【0005】
ヒトにおいても血管内皮産生NOは血管保護的に多面的に働くため、心血管系疾患の治療に、血管内皮機能を温存・改善する治療戦略は重要である。eNOS活性を向上させる薬剤としてスタチン剤、L−アルギニン、ACE阻害剤、アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬、ホルモン、一部のCa拮抗薬が知られており、また、NOの失活を防止すことにより間接的にNO作用を助長するビタミンC、ビタミンE、プロブコール等の抗酸化剤も有効であるとされている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0006】
なお、ビタミンCについては、eNOS活性も上昇させることが明らかにされている(例えば、非特許文献4参照。)。
【0007】
また、漢方薬の構成生薬ではニンジン、オウギ、オウゴンに血管のNO産生刺激作用が見出されている(例えば、非特許文献5参照。)。
【0008】
なお、NO合成酵素(NOS)は血管内皮以外にも存在し、全身の循環調節において重要な役割を果たす。NO産生低下が認められている疾患としては、高血圧、高脂血症、動脈硬化、虚血性心疾患、心不全、血栓症等の循環器疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、肺高血圧、ARDS(成人呼吸窮迫症候群)等の呼吸器疾患、肝障害、肝硬変、胃腸粘膜障害、肥厚性幽門狭窄症、膵炎等の消化器疾患、脳虚血、脳梗塞、脳循環不全、老年性痴呆等の脳血管障害、腎障害、インポテンツ等の腎・泌尿器疾患、妊娠中毒症等の産婦人科疾患、感染症・免疫疾患、糖尿病、熱傷、又は、その他薬剤性にNO産生の低下が認められる疾患が数多く知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
スタチン剤は、生体においてHMG−CoAリダクターゼを特異的かつ拮抗的に阻害して血中コレステロール量を低下させる薬物であるが、上述のようにeNOS活性向上作用も知られている。しかしながら、ガンマーオリザノール及びチアミン類については、eNOS活性向上作用についての報告はなく、さらに、スタチン剤と、ガンマーオリザノール及び/又はチアミン類との併用で、相乗的に血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持・向上作用が得られることは知られていない。
【0010】
また、ガンマーオリザノール及び/又はチアミン類との併用により相乗的に血中脂質が低下することも知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−338637号公報(2頁)
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】脈管学 Vol.38 No.4 1998 p.215-216
【非特許文献2】血管医学 Vol.2 No.2 2001 p.189
【非特許文献3】薬理と治療 Vol.29 No.10 2001 p.716
【非特許文献4】ビタミン Vol.75 No.2 2001 p.511
【非特許文献5】和漢医薬学雑誌 Vol.11 1994 p.102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤と、ガンマーオリザノール及び/又はチアミン類との併用による薬理作用について鋭意研究を重ねた結果、当該併用により、血管内皮性酸化窒素の合成が促進されること、血管内皮性酸化窒素血中濃度が維持若しくは向上されること、及び、血中脂質が改善されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
(1)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを含有する医薬組成物
に関する。
【0015】
上記のうち、医薬組成物は、
(2)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤がプラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、リバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン及びロスバスタチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、(1)に記載された組成物、
(3)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤がシンバスタチン又はアトルバスタチンからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、(1)に記載された組成物、
(4)チアミン類がチアミン、ジセチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、フルスルチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン及び/又はそれらの塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1に記載された組成物、
(5)チアミン類がベンフォチアミンである、(1)乃至(3)から選択されるいずれか1に記載された組成物、
(6)血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持若しくは向上するための、(1)乃至(5)から選択されるいずれか1に記載された組成物、(7)血中脂質を改善するための、(1)乃至(5)から選択されるいずれか1に記載された組成物、
(8)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤がシンバスタチンである、(7)に記載された組成物、
(9)血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下に起因する疾病を予防若しくは治療するための、(1)乃至(5)から選択されるいずれか1に記載された組成物、
(10)血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下を引き起こす疾病を予防若しくは治療するための、(1)乃至(5)から選択されるいずれか1に記載された組成物、
(11)循環器疾患、脳血管障害、腎・泌尿器疾患、糖尿病、或いは、薬剤によりNO産生の低下が引き起こされた状態を予防若しくは治療するための、(1)乃至(5)から選択されるいずれか1に記載された組成物、
(12)高い血中脂質濃度に起因する疾病を予防若しくは治療するための、(1)乃至(5)から選択されるいずれか1に記載された組成物、
(13)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤及びガンマーオリザノールを必須の成分として含有する、(12)に記載された組成物、及び
(14)高脂血症又は動脈硬化を予防若しくは治療するための、(1)乃至(5)から選択されるいずれか1に記載された組成物
である。
【0016】
更に、本発明は、
(15)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを、同時に又は時間をおいて別々に投与することにより血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持若しくは向上するための、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類との組み合わせ、
(16)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを、同時に又は時間をおいて別々に投与することにより血中脂質を改善するための、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類との組み合わせ、
(17)血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持若しくは向上するための、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類との併用、
(18)血中脂質を改善するための、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類との併用を提供する。
【0017】
更に、本発明は、
(19)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを、同時に又は時間をおいて別々に投与することによる、血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持若しくは向上する方法、及び
(20)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを、同時に又は時間をおいて別々に投与することによる、血中脂質を改善する方法を提供する。
【0018】
上記(19)のうち、好適な方法は、
(21)血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下に起因する疾病を予防若しくは治療するための、(19)に記載された方法、
(22)血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下を引き起こす疾病を予防若しくは治療するための、(19)に記載された方法、及び
(23)循環器疾患、脳血管障害、腎・泌尿器疾患、糖尿病、或いは、薬剤によりNO産生の低下が引き起こされた状態を予防若しくは治療するための、(19)に記載された方法
であり、上記(20)のうち、好適な方法は、
(24)高い血中脂質濃度に起因する疾病を予防若しくは治療するための、(20)に記載された方法、及び
(25)高脂血症又は動脈硬化を予防若しくは治療するための、(20)に記載された方法
である。
【0019】
更に本発明は、(26)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン
類とを含有する、血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持若しくは向上するための医薬組成物を製造するための、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類の使用、及び、
(27)HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを含有する、血中脂質を改善するための医薬組成物を製造するための、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類の使用を提供する。
【0020】
本発明の医薬組成物の成分の一つである「HMG−CoAリダクターゼ阻害剤」とは、コレステロール生合成系の律速酵素であるHMG(3−ヒドロキシ−3−メチルグリタリル)−CoA還元酵素を特異的かつ拮抗的に阻害する薬剤である。血中コレステロールを低下させることから、本来、高脂血症の治療剤として使用される。そのようなHMG−CoA還元酵素阻害剤としては、微生物由来の天然物質、それから誘導される半合成物質、及び全合成化合物のすべてが含まれ、例えば、特開昭57−2240号公報(USP4346227)に記載された、(+)−(3R,5R)−3,5−ジヒドロキシ−7−[(1S,2S,6S,8S,8aR)−6−ヒドロキシ−2−メチル−8−[(S)−2−メチルブチリルオキシ]−1,2,6,7,8,8a−ヘキサヒドロ−1−ナフチル]ヘプタン酸(以下、プラバスタチンと省略する。)、特開昭57−163374号公報(USP4231938)に記載された、(+)−(1S,3R,7S,8S,8aR)−1,2,3,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,7−ジメチル−8−[2−[(2R,4R)−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル]エチル]−1−ナフチル (S)−2−メチルブチレート(以下、ロバスタチンと省略する。)、特開昭56−122375号公報(USP4444784)に記載された、(+)−(1S,3R,7S,8S,8aR)−1,2,3,7,8,8a−ヘキサヒドロ−3,7−ジメチル−8−[2−[(2R,4R)−テトラヒドロ−4−ヒドロキシ−6−オキソ−2H−ピラン−2−イル]エチル]−1−ナフチル 2,2−ジメチルブチレート(以下、シンバスタチンと省略する。)、特表昭60−500015号公報(USP4739073)に記載された、(±)(3R*,5S*,6E)−7−[3−(4−フルオロフェニル)−1−(1−メチルエチル)−1H−インド−ル−2−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸(以下、フルバスタチンと省略する。)、特開平1−216974号公報(USP5006530)に記載された、(3R,5S,6E)−7−[4−(4−フルオロフェニル)−2,6−ジ−(1−メチルエチル)−5−メトキシメチルピリジン−3−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6−ヘプテン酸(以下、リバスタチンと省略する。)、特開平3−58967号公報(USP5273995)に記載された、(3R,5S)−7−[2−(4−フルオロフェニル)−5−(1−メチルエチル)−3−フェニル−4−フェニルアミノカルボニル−1H−ピロ−ル−1−イル]−3,5−ジヒドロキシヘプタン酸(以下、アトルバスタチンと省略する。)、特開平1−279866号公報(USP5854259及びUSP5856336)に記載された、(E)−3,5−ジヒドロキシ−7−[4’−(4’’−フルオロフェニル)−2’−シクロプロピル−キノリン−3’−イル]−6−ヘプテン酸(以下、ピタバスタチンと省略する。)又は特開平5−178841号公報(USP5260440)に記載された、(+)−(3R,5S)−7−[4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−2−(N−メチル−N−メタンスルフォニルアミノ)ピリミジン−5−イル]−3,5−ジヒドロキシ−6(E)−ヘプテン酸(以下、ロスバスタチンと省略する。)のようなスタチン化合物を挙げることができる。また、本発明の医薬組成物の成分であるHMG−CoAリダクターゼ阻害剤は、上記HMG−CoAリダクターゼ阻害剤が記載されている公報に開示されている他のHMG−CoAリダクターゼ阻害剤も含有する。
【0021】
以下に、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤の代表的なものの平面構造式を示す。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
これらのHMG−CoAリダクターゼ阻害剤のうち、シンバスタチン及びアトルバスタチンが好適であり、シンバスタチンが更に好適である。
【0025】
「ガンマーオリザノール」は、主に米糠油や米胚芽油より抽出される、ステロール若しくはトリテルペンアルコールと、フェルラ酸がエステル結合した化合物、又はそれらの混合物を意味する。
【0026】
「チアミン類」としては、チアミン、ジセチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、フルスルチアミン、プロスルチアミンもしくはベンフォチアミン又はその塩を挙げることが出来、好適にはベンフォチアミンである。
【0027】
本発明において、含有される上記各成分は、薬理学上許容される塩として含有されていても良く、そのような塩としては、
成分が塩基性官能基を持つ場合には、例えばフッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級有機スルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のようなアリールスルホン酸塩;オルニチン酸塩、グルタミン酸塩のようなアミノ酸塩;及びフマル酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸、マレイン酸のようなカルボン酸塩を挙げることができ、
成分が酸性官能基をもつ場合には、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;アンモニウム塩のような無機塩、t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N−ベンジル−フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機塩等のアミン塩を挙げる事ができ、例えばプラバスタチンの場合、好適にはプラバスタチンナトリウムであり、例えばアトルバスタチンの場合、好適にはアトルバスタチンカルシウム水和物である。
【0028】
本発明において、含有される各成分のうち水和物又は溶媒和物を形成し得るものは、水和物又は溶媒和物として医薬組成物に含有されていてもよい。
【0029】
本発明における、「各種疾病」とは、血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下に起因する疾病、又は、血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下を引き起こす疾病を意味し、例えば、高血圧、高脂血症、動脈硬化、虚血性心疾患、心不全、血栓症、肺高血圧、再狭窄症又は末梢循環障害等の循環器疾患、肺高血圧、脳虚血、脳梗塞、脳循環不全又は老年性痴呆等の脳血管障害、腎障害又はインポテンツ等の腎・泌尿器疾患、糖尿病、或いは、薬剤によりNO産生の低下が引き起こされた状態を含有する。
【0030】
なお、上記「各種疾病」の初期段階においては際立った自覚症状はなく、自己判断は容易ではないが、本発明における「各種疾病」に関わる自覚症状としては、例えば、頭痛、めまい、しびれ又はしびれ感、四肢の冷感、肩こり、皮膚・筋肉の萎縮或いは陰縮等が挙げられる。従って、これら自覚症状に対して本発明の医薬組成物を使用することで、上記疾患を初期段階で治療することができる。
【0031】
本発明において、「血中脂質を改善する」とは、血中脂質を臨床上意義のある程度に低下させることを意味し、即ち、血中トリグリセライドを低下させること、血中LDLを低下させること又は血中総コレステロールを低下させることを意味する。
【0032】
本発明の組成物に含まれるHMG−CoAリダクターゼ阻害剤、例えば、プラバスタチン、ロバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、リバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン又はロスバスタチンは、特開昭57−2240号公報(USP4346227)、特開昭57−163374号公報(USP4231938)、特開昭56−122375号公報(USP4444784)、特表昭60−500015号公報(USP4739073)、特開平1−216974号公報(USP5006530)、特開平3−58967号公報(USP5273995)、特開平1−279866号公報(USP5854259及びUSP5856336)又は特開平5−178841号公報(USP5260440)に記載の方法に従い、容易に製造することができる。
【0033】
また、本発明のガンマーオリザノールは、市販されているもの(例えば、理研ビタミン(株)製のもの)を入手するか、又は、公知の方法で製造したものを使用することができる。
【0034】
さらに、チアミン類は、例えば第14改正日本薬局方及び日本薬局方外医薬品規格等に収載されており容易に入手できる。
【0035】
本発明の「HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを含有する医薬組成物」は、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤及びガンマーオリザノール若しくはチアミン類を必須の成分として含有し、所望により、製剤化のための添加物を含有していてもよく、更に、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール若しくはチアミン類との併用作用に悪影響を与えない範囲で他の成分を含有していてもよい。好適には、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤及びガンマーオリザノール及び/又はチアミン類のみを有効成分として含有し、更に製剤化のための添加物を含有する医薬組成物である。
【0036】
本発明の医薬組成物の具体的な剤形としては、例えば、錠剤、細粒剤(散剤を含む)、カプセル、液剤(シロップ剤を含む)等をあげることができ、各剤形に適した添加剤や基材を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い、製造することができる。
【0037】
上記各剤形において、その剤形に応じ、通常使用される各種添加剤を使用することもできる。
【0038】
例えば、錠剤の場合、乳糖、結晶セルロース等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等をコーテイング剤として、ステアリン酸マグネシウム等を滑沢剤として使用することができ、
細粒剤及びカプセル剤の場合、乳糖又は精製白糖等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、トウモロコシデンプン等を吸着剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等を結合剤として、使用することができる。
【0039】
上記各剤形において、必要に応じ、クロスポビドン等の崩壊剤;ポリソルベート等の界面活性剤;ケイ酸カルシウム等の吸着剤;三二酸化鉄、カラメル等の着色剤;安息香酸ナトリウム等の安定剤;pH調節剤;香料;等を添加することもできる。
【0040】
本発明において、「併用」とは、二つ以上の有効成分を、同時に、又は時間をおいて別々に人体に投与する方法である。
【0041】
本発明における医薬組成物を投与する際は、組成物のそれぞれの成分を同時に、又は、時間をおいて別々に投与することが出来る。
【0042】
上記の「同時に」投与するとは、全く同時に投与することの他、薬理学上許される程度に相前後した時間に投与することも含むものである。その投与形態は、ほぼ同じ時間に投与できる投与形態であれば特に限定はないが、単一の組成物であることが好ましい。
【0043】
また上記の「時間をおいて別々に」投与するとは、異なった時間に別々に投与できる投与形態であれば特に限定はないが、例えば、1の成分を投与し、次いで、決められた時間後に、他の成分を投与する方法が挙げられる。
【0044】
また、投与する組成物の成分が、合わせて3種以上ある場合には、「同時に、又は、時間を置いて別々に」投与するとは、それらの全てを同時に投与する方法、各々時間を置いて別々に投与する方法、2種以上を同時に投与し時間を置いて残りの薬剤を投与する方法、又は、2種以上を時間を置いて投与して、残りの薬剤を同時に投与する方法等を含む。
【発明の効果】
【0045】
本発明の、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを含有する医薬組成物は、血管内皮性酸化窒素の合成を促進する作用、血管内皮性酸化窒素血中濃度を維持若しくは向上する作用、及び血中脂質が改善を改善する作用を有するので、血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下に起因する疾病、血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下を引き起こす疾病、或いは、高い血中脂質濃度に起因する疾病の予防若しくは治療のための医薬として有用であり、例えば、高血圧、高脂血症、動脈硬化、虚血性心疾患、心不全、血栓症、肺高血圧、再狭窄症又は末梢循環障害等の循環器疾患、肺高血圧、脳虚血、脳梗塞、脳循環不全又は老年性痴呆等の脳血管障害、腎障害又はインポテンツ等の腎・泌尿器疾患、糖尿病、或いは、薬剤によりNO産生の低下が引き起こされた状態の予防若しくは治療のための医薬として有用である。
【0046】
本発明において、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤の投与量は、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤の種類、剤形等により異なるが、通常、1日あたり1mg乃至200mgであり、好適には1日あたり5mg乃至160mgである。
【0047】
本発明において、ガンマーオリザノールの投与量は、通常、1日あたり10mg乃至1000mgであり、好適には1日あたり100mg乃至600mgである。
【0048】
本発明において、チアミン類の投与量は、チアミン類の種類、剤形等により異なるが、通常、1日0.5mg乃至500mgであり、好適には1日あたり5mg乃至200mgである。
【0049】
本発明の医薬組成物が固形製剤の場合において含有されるHMG−CoAリダクターゼ阻害剤の重量%は、通常、0.005乃至3%であり、好適には、0.03乃至2%であり、例えば、シンバスタチンの場合は通常、0.005乃至3%であり、好適には、0.03乃至2%であり、アトルバスタチンの場合は通常、0.01乃至5%であり、好適には、0.05乃至3%であり、
ガンマーオリザノールを含有する場合は通常、0.5乃至90%であり、好適には、3乃至60%であり、
チアミン類を含有する場合は通常、0.2乃至40%であり、好適には、1乃至30%である。
【0050】
本発明の医薬組成物が液剤の場合において、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤の含有量は通常、0.005乃至5mg/mLであり、好適には、0.03乃至3mg/mLであり、例えば、シンバスタチンの含有量は通常、0.005乃至5mg/mLであり、好適には、0.03乃至3mg/mLであり、アトルバスタチンの含有量は通常、0.01乃至10mg/mLであり、好適には、0.05乃至5mg/mLであり、
ガンマーオリザノールを含有する場合、その含有量は通常、2乃至200mg/mLであり、好適には、10乃至100mg/mLであり、
チアミン類を含有する場合、その含有量は通常、1乃至100mg/mLであり、好適には、5乃至50mg/mLである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
(実施例)
以下に、実施例等を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
実施例1 錠剤
(1)成分
【0052】
【表1】

【0053】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製する。
実施例2 細粒剤
(1)成分
【0054】
【表2】

【0055】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製する。
実施例3 カプセル剤
(1)成分
【0056】
【表3】

【0057】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製した後、カプセルに充填して硬カプセル剤を製する。
実施例4 シロップ剤
(1)成分
【0058】
【表4】

【0059】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「シロップ剤」の項に準じてシロップ剤を製した後、褐色ガラス瓶に充填してシロップ剤を製する。
(試験例)
試験例1 血中窒素酸化物量及び血中脂質量の評価試験
(1)被験物質
シンバスタチン及びアトルバスタチンカルシウムは(株)ケムテックラボ製造のものを、ガンマーオリザノールは理研ビタミン(株)製の、またベンフォチアミンは三共(株)製のものを使用した。
(2)動物
試験動物としては、Covance Research Products Inc.からビーグル犬雄を5箇月齢で購入し、約1箇月間の検疫および馴化飼育後に使用した。
(3)投与剤形、製剤の調整方法および製剤の保存方法
試験動物毎の体重をもとに算出した必要量の被験物質を、TORPAC社のゼラチンカプセル(1/2オンス)に充填した。充填後、カプセルは動物毎に区分されたケースに入れ、投与時まで冷蔵保存した。
(4)投与経路および投与期間
被験物質を充填したカプセルは、1日1回9:00〜12:30の間に、試験動物に強制経口投与した。なお、試験動物は投与前2乃至3時間絶食させた。
【0060】
投与期間は11日間とした。
(5)被験試料の調製
カプセル投与前−14および−7日(投与開始前第2週および第1週)、投与後4日、8日、12日に、橈側皮静脈から約10mL採血した。なお、採血前約18時間、試験動物は絶食させた。
【0061】
得られた血液を試験管にとり、室温で30分から1時間放置後、遠心分離(約1600×g、10分間)して得られた血清を用いた。
(6)試験方法
一酸化窒素合成酵素(NOS)により生成されたNOは、速やかに硝酸イオン(NO3-)と亜硝酸イオン(NO2-)に変換される。血中窒素酸化物総濃度(NOx)はHPLC法を用いて求めたNO3-とNO2-の和として算出した。
【0062】
また、総コレステロールは酵素的測定法、HDLはホモジニアス法、LDLは化学修飾酵素法、ALPはBessey-Lowry法を用いた。なお、測定には臨床化学自動分析装置(TBA-120FR、
芝製)を使用した。
(試験結果)
シンバスタチン又はアトルバスタチンカルシウムと、ガンマーオリザノール又はベンフォチアミンそれぞれの各投与量における単剤および配合剤における血中窒素酸化物総濃度(NOx)を、投与2週間前および1週間前の各種血液中のNOxの平均を100として換算して求めた。
【0063】
また、シンバスタチン及びガンマーオリザノールそれぞれの各投与量における単剤および配合剤における各種血中脂質量を、投与2週間前および1週間前の各種血中脂質量の平均を100として換算して求めた。
【0064】
得られた結果を表5から表9に示す。なお、各値とも1郡5匹の平均値である。
【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
【表8】

【0069】
【表9】

【0070】
表5及び表6から明らかなように、シンバスタチン又はアトルバスタチンと、ガンマーオリザノール又はベンフォチアミンとを組み合わせることにより顕著な血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持若しくは向上効果が発現した。
【0071】
また、表7乃至表9から明らかなように、シンバスタチンとガンマーオリザノールとを組み合わせることにより顕著な血中脂質の低下効果が発現した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の、HMG−CoAリダクターゼ阻害剤とガンマーオリザノール及び/又はチアミン類とを含有する医薬組成物は、血管内皮性酸化窒素の合成を促進する作用、血管内皮性酸化窒素血中濃度を維持若しくは向上する作用、及び血中脂質が改善を改善する作用を有するので、血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下に起因する疾病、血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下を引き起こす疾病、或いは、高い血中脂質濃度に起因する疾病の予防若しくは治療のための医薬として有用であり、例えば、高血圧、高脂血症、動脈硬化、虚血性心疾患、心不全、血栓症、肺高血圧、再狭窄症又は末梢循環障害等の循環器疾患、肺高血圧、脳虚血、脳梗塞、脳循環不全又は老年性痴呆等の脳血管障害、腎障害又はインポテンツ等の腎・泌尿器疾患、糖尿病、或いは、薬剤によりNO産生の低下が引き起こされた状態の予防若しくは治療のための医薬として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)および(b)を含有する医薬組成物。
(a)シンバスタチン又はアトルバスタチンカルシウム
(b)ガンマーオリザノール
【請求項2】
血管内皮性酸化窒素の合成促進及び/又は血管内皮性酸化窒素血中濃度の維持若しくは向上するための、請求項1に記載された組成物。
【請求項3】
血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下に起因する疾病を予防若しくは治療するための、請求項1に記載された組成物。
【請求項4】
血管内皮酸化窒素合成酵素活性低下及び/又は血管内皮由来血中酸化窒素濃度低下を引き起こす疾病を予防若しくは治療するための、請求項1に記載された組成物。
【請求項5】
血中脂質を改善するための、請求項1に記載された組成物。
【請求項6】
高い血中脂質濃度に起因する疾病を予防若しくは治療するための、請求項1に記載された組成物。
【請求項7】
高脂血症又は動脈硬化を予防若しくは治療するための、請求項1に記載された組成物。


【公開番号】特開2010−150288(P2010−150288A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67405(P2010−67405)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【分割の表示】特願2003−279533(P2003−279533)の分割
【原出願日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】