説明

スタヒロコッカス・アウレウスに対する防御免疫応答を誘導するためのポリペプチド

本発明は、配列番号1に構造的に関連したアミノ酸配列またはその断片を含むポリペプチド、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)AhpC−AhpF組成物ならびにそのようなポリペプチドおよび組成物の使用に関する。配列番号1は完全長スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)AhpC配列を含有する。アミノHisタグおよび3個の追加的なカルボキシルアミノ酸を含有する配列番号1の誘導体はスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫応答をもたらすことが判明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタヒロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)に対する防御免疫応答を誘導するためのポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
本出願の全体にわたって引用されている参考文献は、特許請求されている本発明の先行技術であると自認するものではない。
【0003】
スタヒロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)は、多種多様な疾患および状態を引き起こす病原体である。スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)により引き起こされる疾患および状態の具体例には、菌血症、感染性心内膜炎、毛包炎、フルンケル、カルブンケル、インペチゴ、水疱性インペチゴ、フレグモーネ、ボトリオミセス症、毒性ショック症候群、火傷様皮膚症候群、中枢神経系感染症、感染性および炎症性眼疾患、骨髄炎ならびに関節および骨の他の感染症、ならびに気道感染症が含まれる(The Staphylococci in Human Disease,Crossley and Archer(編),Churchill Livingstone Inc.1997)。
【0004】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染およびスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)の広がりを抑制するためには、免疫学に基づく方法を用いることが可能である。免疫学に基づく方法には受動および能動免疫が含まれる。受動免疫では、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)を標的化する免疫グロブリンを使用する。能動免疫はスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する免疫応答を誘導する。
【0005】
潜在的なスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)ワクチンはスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)多糖およびポリペプチドを標的化する。標的化は、適当なスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)多糖またはポリペプチドをワクチン成分として使用して達成されうる。可能なワクチン成分として使用しうる多糖の具体例には、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)5および8型莢膜多糖が含まれる(Shinefieldら,N.Eng.J.Med.346:491−496,2002)。可能なワクチン成分として使用しうるポリペプチドの具体例には、コラーゲン粘着性物質、フィブリノーゲン、結合タンパク質およびクランピング因子が含まれる(Mamoら,FEMS Immunology and Medical Microbiology 10:47−54,1994,Nilssonら,J.Clin.Invest.101:2640−2649,1998,Josefssonら,The Journal of Infectious Diseases 184:1572−1580,2001)。
【0006】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)ポリペプチド配列に関する情報はスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)ゲノムの配列決定から得られている(Kurodaら,Lancet 357:1225−1240,2001,Babaら,Lancet 359:1819−1827,2000,1997年7月30日付け公開のKunschら,欧州特許公開EP 0 786 519)。ゲノム配列決定から得られたポリペプチド配列を特徴づけるために、ある程度はバイオインフォマティクスが用いられている(1997年7月30日付け公開のKunschら,欧州特許公開EP 0 786 519)。
【0007】
潜在的抗原をコードする遺伝子の特定を補助するために、例えば提示技術を用いるような技術および感染患者からの血清が使用されている(2001年12月27日付け公開のFosterら,国際公開番号WO 01/98499,2002年8月1日付け公開のMeinkeら,国際公開番号WO 02/059148,Etzら,PNAS 99:6573−6578,2002)。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本発明は、配列番号1に構造的に関連したアミノ酸配列またはその断片を含むポリペプチド、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)AhpC−AhpF組成物ならびにそのようなポリペプチドおよび組成物の使用に関する。配列番号1は完全長スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)AhpC配列を含有する。アミノHisタグおよび3個の追加的なカルボキシルアミノ酸を含有する配列番号1の誘導体はスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫応答をもたらすことが判明した。
【0009】
「防御」免疫または免疫応答に対する言及は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する検出可能なレベルの防御を示す。防御のレベルは、動物モデル(例えば、本明細書に記載されているもの)を使用して評価されうる。
【0010】
したがって、本発明の第1の態様は、配列番号1に対して又は配列番号1の断片に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド免疫原を記載する。ここで、前記ポリペプチドはスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらし、前記ポリペプチド免疫原は配列番号1のポリペプチドではない。免疫原に対する言及は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらしうることを示す。
【0011】
配列番号1に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含むことに対する言及は、配列番号1関連領域が存在し追加的ポリペプチド領域が存在しうることを示す。基準配列に対する同一性(%)(同一%とも称される)は、ポリペプチド配列を前記基準配列に対して整列(アライン)させ、対応領域内の同一アミノ酸の数を決定することにより決定される。この数を前記基準配列(例えば、配列番号1)内のアミノ酸の総数で割り算し、ついで100を掛け算し、最も近い整数に丸める。
【0012】
本発明のもう1つの態様は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらすポリペプチドと、カルボキシル末端またはアミノ末端において前記ポリペプチドに共有結合した1以上の追加的領域または部分とを含む免疫原を記載する。ここで、各領域または部分は、独立して、以下の特性、すなわち、免疫応答の増強、精製の促進またはポリペプチド安定性の促進の少なくとも1つを有する領域または部分から選ばれる。
【0013】
「追加的領域または部分」に対する言及は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)AhpC領域とは異なる領域または部分を示す。前記追加的領域または部分は例えば追加的ポリペプチド領域または非ペプチド領域でありうる。
【0014】
本発明のもう1つの態様は、AhpC−AhpF組成物から構成される精製された免疫原を記載する。AhpC成分は、配列番号1に対して少なくとも85%同一であるポリペプチドを含む。AhpF成分は、配列番号3に対して少なくとも85%同一であるポリペプチドを含む。精製されたものに対する言及は、前記組成物が、AhpCおよびAhpFが天然で付随している1以上の他のポリペプチドを欠く環境中に存在すること、および/または存在する全タンパク質の少なくとも約10%に相当することを示す。
【0015】
好ましくは、前記組成物は実質的に精製されている。「実質的に精製された」AhpCおよびAhpF組成物は、AhpCおよびAhpFポリペプチドが天然で付随している全て又はほとんどの他のポリペプチドを欠く環境中に存在する。
【0016】
「精製(された)」または「実質的に精製(された)」に対する言及は、ポリペプチドがいずれかの精製を受けることを要求するものではなく、例えば、精製されていない化学合成ポリペプチドを包含しうる。
【0017】
本発明のもう1つの態様は、患者においてスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫を誘導しうる組成物を記載する。前記組成物は、医薬上許容される担体と、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらす免疫学的に有効な量の免疫原とを含む。
【0018】
免疫学的に有効な量は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する防御免疫をもたらすのに十分な量である。前記量は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染の可能性または重症度を有意に抑制するのに十分なものであるべきである。
【0019】
本発明のもう1つの態様は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する防御免疫をもたらすポリペプチドをコードする組換え遺伝子を含む核酸を記載する。組換え遺伝子は、適切な転写およびプロセシングのための調節要素(これは翻訳および翻訳後要素を含みうる)と共にポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する。前記組換え遺伝子は宿主ゲノムから独立して存在することが可能であり、あるいは宿主ゲノムの一部でありうる。
【0020】
組換え核酸は、その配列および/または形態の点では天然では見出されない核酸である。組換え核酸の具体例には、精製された核酸、天然で見出されるものとは異なる核酸を与える一緒になった2以上の核酸領域、互いに天然で付随している1以上の核酸領域(例えば、上流または下流領域)の非存在が含まれる。
【0021】
本発明のもう1つの態様は組換え細胞を記載する。前記細胞は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらすポリペプチドをコードする組換え遺伝子を含む。
【0022】
本発明のもう1つの態様は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらすポリペプチドの製造方法を記載する。前記方法は、前記ポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する組換え細胞を増殖させ、前記ポリペプチドを精製することを含む。
【0023】
本発明のもう1つの態様は、宿主において前記ポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する組換え細胞を増殖させ、前記ポリペプチドを精製する工程を含む方法により製造されたスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらすポリペプチドを記載する。種々の宿主細胞を使用することが可能である。
【0024】
本発明のもう1つの態様は、単離されたAhpC−AhpF結合タンパク質を記載する。前記結合タンパク質は、AhpC−AhpF複合体に結合する抗体可変領域を含む。
【0025】
「単離(された)」に対する言及は、天然で見出されるものとは異なる形態を示す。そのような異なる形態は、例えば、天然で見出されるものとは異なる純度および/または天然で見出されない構造体でありうる。天然で見出されない構造体には、異なる領域が一緒になった組換え構造体、例えば、1以上のマウス相補性決定領域(CDR)がヒトフレームワークスカフォールド上に挿入されたヒト化抗体、抗体結合タンパク質由来の1以上のCDRが別のフレームワークスカフォールド内に挿入されたハイブリッド抗体、および軽可変ドメインおよび重可変ドメインをコードする遺伝子が互いにランダムに組合された天然ヒト配列に由来する抗体が含まれる。
【0026】
単離されたタンパク質は、好ましくは、血清タンパク質を実質的に含有しない。血清タンパク質を実質的に含有しないタンパク質は、ほとんど又は全ての血清タンパク質を欠く環境中に存在する。
【0027】
本発明のもう1つの態様は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対して患者を治療する方法を記載する。前記方法は、
(a)配列番号1または配列番号1の断片に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含む免疫原(前記ポリペプチドはスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらす)の免疫学的に有効な量、
(b)配列番号1に対して少なくとも85%同一であるポリペプチドまたは配列番号3に対して少なくとも85%同一であるポリペプチドを含む免疫原性組成物、あるいは
(c)AhpC−AhpF結合タンパク質の有効量
のうちの1以上を患者に投与する工程を含む。
【0028】
個々の用語が互いに矛盾しない限り、「または(もしくは)(あるいは)」は一方または両方の可能性を示す。場合によっては、一方または両方の可能性を強調するために「および/または」のような表現が用いられる。
【0029】
「含む(含んでなる)」のような非限定的用語に対する言及は追加的な要素または工程を許容する。場合によっては、「1以上」のような表現は、追加的な要素または工程の可能性を強調するために非限定的用語と共に又はそれを伴わずに用いられる。
【0030】
明示的に示されていない限り、単数表現は単数を示すと限定されるものではない。例えば、「細胞」は複数の細胞を除外するものではない。場合によっては、可能な複数の存在を強調するために、1以上のような表現が用いられる。
【0031】
本発明の他の特徴および利点は、種々の実施例(具体例)を含む本明細書に記載の更なる説明から明らかである。記載されている実施例(具体例)は、本発明の実施に有用な種々の成分および方法を例示する。前記実施例(具体例)は、特許請求されている本発明を限定するものではない。本開示に基づき、当業者は、本発明の実施に有用な他の成分および方法を特定し使用することが可能である。
【0032】
発明の詳細な説明
配列番号1関連ポリペプチドが防御免疫をもたらす能力は、配列番号2を使用する後記実施例において例示されている。配列番号2は、アミノHisタグおよび3つの追加的カルボキシルアミノ酸を含有する配列番号1の誘導体である。Hisタグはポリペプチドの精製および特定を促進する。
【0033】
配列番号1に構造的に関連したポリペプチドには、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)株に存在する種々の対応領域および天然に存在する領域の誘導体を含有するポリペプチドが含まれる。配列番号1のアミノ酸配列は図1の太字領域により示される。図1は、配列番号2に存在するアミノHisタグおよび追加的なカルボキシルアミノ酸をも示す。
【0034】
I.AhpC配列
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)AhpCは元々は、大腸菌(E.coli)アルキルヒドロペルオキシドレダクターゼ(AhpC)に対して著しい類似性を有する、浸透圧上昇ショックにより誘導されるタンパク質として同定された(Amstrong−Buisseretら,Microbiology 141:1655−1661,1995)。種々の類似性のAhpCホモログが哺乳類の脳、および多数の細菌種を含む種々の生物に存在する(Chaeら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:7017−7021,1994,Yanら,Helicobacter 6:274−282,2001)。
【0035】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)AhpC関連配列には種々の参考文献において種々の名称が付与されている。種々の名称の例はTIGR(SA0452);Babaら,Lancet 359:1819−1827,2002(MW0357);Kurodaら,Lancet 357:1225−1240,2001(SAV0381);およびOhtaら,DNA Research 1:51,2004(SAV0381およびSAV0773)に記載されている。
【0036】
図2は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)(配列番号1)およびスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)およびスタヒロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)(配列番号6)に存在するAhpC関連配列に関する配列比較を示す。他のAhpC配列から、更なる比較を行うことが可能である。
【0037】
公知AhpC配列と比較した場合の高い度合の配列類似性または連続的なアミノ酸の存在に基づき、他の天然に存在するAhpC配列を特定することが可能である。連続的なアミノ酸は特徴的なタグを与える。種々の実施形態において、天然に存在するAhpC配列は、配列番号1の場合と同様に少なくとも20個、少なくとも30個または少なくとも50個の連続的なアミノ酸を有する、および/または配列番号1に対して少なくとも85%の配列類似性もしくは同一性を有する、スタヒロコッカス(Staphylococcus)、好ましくはスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)において見出される配列である。
【0038】
配列類似性は、当技術分野で公知の種々のアルゴリズムおよび技術により決定されうる。一般に、配列類似性は、配列の1つにおいてギャップ、付加および置換を許容しつつ最大のアミノ酸同一性を得るために2つの配列を整列(アライン)させる技術により決定される。
【0039】
配列類似性は、例えば、ラライン(lalign)なるプログラム(≪sim≫プログラム用にHuangおよびMillerにより開発されたもの,Adv.Appl.Math.12:337−357,1991)を利用する局所アライメント手段を用いて決定されうる。オプションおよび環境変数は、−f#ギャップ内の第1残基に関するペナルティ(デフォルトで−14)、−g#ギャップ内の各追加的残基に関するペナルティ(デフォルトで−4) −s str(SMATRIX)択一的(alternative)スコアリングマトリックスファイルのファイル名である。タンパク質配列の場合には、配列アライメントのためのデフォルト−w#(LINLEN)出力ライン長(60)により、PAM250が使用される。
【0040】
II.配列番号1関連ポリペプチド
配列番号1関連ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含有する。「ポリペプチド」に対する言及は最小または最大のサイズ限界を示すものではない。
【0041】
配列番号1に対して少なくとも85%同一であるポリペプチドは、配列番号1からの約28個までのアミノ酸改変を含有する。各アミノ酸改変は、独立して、アミノ酸の置換、欠失または付加である。種々の実施形態において、配列番号1関連ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも90%、少なくとも94%または少なくとも99%同一である;0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個のアミノ酸改変だけ配列番号1と異なる;あるいは配列番号1から実質的になる。
【0042】
本発明の1つの実施形態は、配列番号1のアミノ酸178−189に対して少なくとも85%、少なくとも95%または100%同一である配列を含む又は前記配列から実質的になるポリペプチド免疫原に関する。他の実施形態においては、配列番号1のアミノ酸178−189を含むポリペプチドは、合計でせいぜい13、15、20、25、50、100または150個のアミノ酸よりなり、および/またはその全体のポリペプチドは配列番号1の領域に対して少なくとも85%、少なくとも90%または同一であり、配列番号1のアミノ酸178−189を含む。存在しうる追加的なアミノ酸には、追加的な配列番号1のアミノ酸または他のアミノ酸領域が含まれる。好ましい追加的なアミノ酸はアミノ末端メチオニンである。
【0043】
示されているアミノ酸「から実質的になる」に対する言及は、言及されているアミノ酸が存在し、追加的なアミノ酸が存在しうることを示す。追加的なアミノ酸はカルボキシルまたはアミノ末端に位置しうる。種々の実施形態において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の追加的なアミノ酸が存在する。
【0044】
配列番号1のポリペプチドまたはその断片に改変を施して、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫を誘導する誘導体を得ることが可能である。改変は、例えば、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫を誘導する能力を保有する誘導体を得るために、あるいは防御免疫をもたらすことに加えて、特定の目的を達成しうる領域をも有する誘導体を得るために、行うことが可能である。
【0045】
潜在的な改変の設計の指針として、図2に示す配列比較および他のスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)AhpC配列との比較を用いることが可能である。また、アミノ酸の公知特性を考慮して改変を施すことが可能である。
【0046】
一般には、活性を保有するよう種々のアミノ酸を置換する場合には、類似した特性を有するアミノ酸を置換することが好ましい。アミノ酸の置換の場合に考慮されうる要因には、アミノ酸のサイズ、電荷、極性および疎水性が含まれる。アミノ酸の特性に対する種々のアミノ酸R基の効果が当技術分野でよく知られている(例えば、Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002,Appendix 1Cを参照されたい)。
【0047】
活性を維持するようアミノ酸を置換する際には、置換アミノ酸は、1以上の類似特性(例えば、ほぼ同じ電荷および/またはサイズおよび/または極性および/または疎水性)を有するべきである。例えば、ロイシンからバリンへの、リシンからアルギニンへの、およびグルタミンからアスパラギンへの置換は、ポリペプチドの機能の変化を引き起こさない優れた候補である。
【0048】
特定の目的を達成するための改変には、前記ポリペプチドの産生もしくは効力またはコード化核酸のクローニングを促進するよう設計されたものが含まれる。ポリペプチドの産生は、組換え発現に適した開始コドン(例えば、メチオニンをコードするもの)の使用により促進されうる。前記メチオニンは後に細胞プロセシング中に除去されうる。クローニングは、例えば、アミノ酸の付加または変化を伴いうる制限部位の導入により促進されうる。
【0049】
免疫応答を誘導するポリペプチドの効力はエピトープ増強により増強されうる。エピトープ増強は、MHC分子に対するペプチドアフィニティを改善するためのアンカー残基の改変を含む技術およびT細胞受容体に対するペプチド−MHC複合体のアフィニティを増加させる技術のような種々の技術を用いて行われうる(Berzofskyら,Nature Review 1:209−219,2001)。
【0050】
好ましくは、前記ポリペプチドは、精製されたポリペプチドである。「精製されたポリペプチド」は、それが天然で付随している1以上の他のポリペプチドを欠く環境中に存在し、および/または存在する全タンパク質の少なくとも約10%に相当する。種々の実施形態において、精製されたポリペプチドは、サンプルまたは調製物中の全タンパク質の少なくとも約50%、少なくとも約75%または少なくとも約95%に相当する。
【0051】
1つの実施形態においては、前記ポリペプチドは「実質的に精製」されている。実質的に精製されたポリペプチドは、前記ポリペプチドが天然で付随している全て又はほとんどの他のポリペプチドを欠く環境中に存在する。例えば、実質的に精製されたスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)ポリペプチドは、すべて又はほとんどの他のスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)ポリペプチドを欠く環境中に存在する。環境は例えばサンプルまたは調製物でありうる。
【0052】
「精製(された)」または「実質的に精製(された)」に対する言及は、ポリペプチドがいずれかの精製を受けることを要求するものではなく、例えば、精製されていない化学合成ポリペプチドを包含しうる。
【0053】
ポリペプチドの安定性は、ポリペプチドのカルボキシルまたはアミノ末端を修飾することにより増強されうる。可能な修飾の具体例には、アミノ末端保護基、例えばアセチル、プロピル、スクシニル、ベンジル、ベンジルオキシカルボニルまたはt−ブチルオキシカルボニル;およびカルボキシル末端保護基、例えばアミド、メチルアミドおよびエチルアミドが含まれる。
【0054】
本発明の1つの実施形態においては、ポリペプチド免疫原は、カルボキシル末端またはアミノ末端において前記ポリペプチドに共有結合した1以上の追加的領域または部分を含有する免疫原の一部であり、ここで、各領域または部分は、独立して、以下の特性、すなわち、免疫応答の増強、精製の促進またはポリペプチド安定性の促進の少なくとも1つを有する領域または部分から選ばれる。ポリペプチドの安定性は、例えば、アミノまたはカルボキシル末端に存在しうるポリエチレングリコールのような基を使用して増強されうる。
【0055】
ポリペプチドの精製は、精製を促進させるための基をカルボキシルまたはアミノ末端に付加することにより促進されうる。精製を促進させるために使用しうる基の具体例には、アフィニティータグを付与するポリペプチドが含まれる。アフィニティータグの具体例には、6ヒスチジンタグ、trpE、グルタチオンおよびマルトース結合タンパク質が含まれる。
【0056】
免疫応答をポリペプチドが引き起こす能力は、免疫応答を一般に増強する基を使用することにより増強されうる。ポリペプチドに対する免疫応答を増強するためにポリペプチドに連結されうる基の具体例には、例えばIL−2のようなサイトカインが含まれる(Buchanら,2000.Molecular Immunology 37:545−552)。
【0057】
III.AhpC−AhpF免疫原
AhpC−AhpF免疫原は、AhpCおよびAhpFを含有する組成物である。AhpC成分は配列番号1関連ポリペプチドから構成される。AhpF成分は配列番号3関連ポリペプチドから構成される。
【0058】
配列番号1関連ポリペプチドは、配列番号1に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含有する。配列番号1関連ポリペプチドの種々の実施形態が前記II節に記載されている。
【0059】
配列番号3関連ポリペプチドは、配列番号3に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含有する。各アミノ酸改変は、独立して、アミノ酸の置換、欠失または付加である。種々の実施形態において、配列番号3関連ポリペプチドは、配列番号3に対して少なくとも90%、少なくとも94%、少なくとも99%または同一である;0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個のアミノ酸改変だけ配列番号3と異なる;あるいは配列番号3から実質的になる。
【0060】
配列番号3関連ポリペプチドに改変を施して、配列番号1関連ポリペプチド成分と共に使用する誘導体を得ることが可能である。改変は、例えば、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫を誘導する能力を保有する全組成物を得るために、あるいは防御免疫をもたらすことに加えて、特定の目的を達成しうる領域をも有する全組成物を得るために、行うことが可能である。
【0061】
AhpF成分の設計を補助するために使用しうる異なるAhpF配列を図5Aおよび5Bに示す。ポリペプチドに改変を施すための更なる指針は前掲II節に記載されている。
【0062】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)AhpF関連配列には種々の参考文献において種々の名称が付与されている。種々の名称の例はTIGR(SA0451);Babaら,Lancet 359:1819−1827,2002(MW0356);Kurodaら,Lancet 357:1225−1240,2001(SAV0380およびSA0365);およびEnrightら,PNAS 99:9786−9791,2002(SAS0357およびSAR0398)に記載されている。
【0063】
AhpCおよびAhpF組成物は、好ましくは、両方の成分を発現する構築物を使用して組換え的に製造される。例えば、aphCおよびahpFを共発現させるために大腸菌(E.coli)株を操作することが可能であり、AhpCおよびAhpF複合体を単離することが可能である。ポリペプチドの製造に関する更なる指針および具体例を後記IV節に記載する。
【0064】
IV.ポリペプチドの製造
ポリペプチドは、化学合成を伴う技術および前記ポリペプチドを産生する細胞からの精製を伴う技術を含む標準的な技術を用いて製造されうる。ポリペプチドの化学合成のための技術は当技術分野でよく知られている(例えば、Vincent,Peptide and Protein Drug Delivery,New York,N.Y.,Decker,1990を参照されたい)。組換えポリペプチドの製造および精製のための技術も当技術分野でよく知られている(例えば、Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002を参照されたい)。
【0065】
細胞からのポリペプチドの入手は、前記ポリペプチドを製造するための組換え核酸技術を用いることにより促進される。ポリペプチドを製造するための組換え核酸技術は、前記ポリペプチドをコードする組換え遺伝子を細胞内に導入し又は細胞内で産生させ、前記ポリペプチドを発現させることを含む。
【0066】
組換え遺伝子は、ポリペプチドの発現のための調節要素と共に、ポリペプチドをコードする核酸を含有する。組換え遺伝子は細胞ゲノム内に存在することが可能であり、あるいは発現ベクターの一部でありうる。
【0067】
組換え遺伝子の一部として存在しうる調節要素には、前記ポリペプチドをコードする配列に天然で付随している調節要素、および前記ポリペプチドをコードする配列に天然では付随していない外因性調節要素が含まれる。組換え遺伝子を特定の宿主内で発現させるためには又は発現レベルを増加させるためには、外因性プロモーターのような外因性調節要素が有用でありうる。一般には、組換え遺伝子中に存在する調節要素には、転写プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、および場合によって存在するオペレーターが含まれる。真核細胞内でのプロセシングのための好ましい要素はポリアデニル化シグナルである。
【0068】
細胞内での組換え遺伝子の発現は発現ベクターの使用により促進される。好ましくは、組換え遺伝子に加えて発現ベクターも、宿主細胞内での自律複製のための複製起点、選択マーカー、一定数の有用な制限酵素部位、および高いコピー数の潜在性を含有する。発現ベクターの具体例としては、クローニングベクター、修飾されたクローニングベクター、特別に設計されたプラスミドおよびウイルスが挙げられる。
【0069】
遺伝暗号の縮重のため、特定のポリペプチドをコードするために多数の異なるコード化核酸配列が用いられうる。ほとんど全てのアミノ酸は、異なる組合せのヌクレオチドトリプレット、すなわち「コドン」によりコードされているため、遺伝暗号の縮重が生じる。アミノ酸は、以下のとおりに、コドンによりコードされる。
A=Ala=アラニン:コドンGCA、GCC、GCG、GCU。
C=Cys=システイン:コドンUGC、UGU。
D=Asp=アスパラギン酸:コドンGAC、GAU。
E=Glu=グルタミン酸:コドンGAA、GAG。
F=Phe=フェニルアラニン:コドンUUC、UUU。
G=Gly=グリシン:コドンGGA、GGC、GGG、GGU。
H=His=ヒスチジン:コドンCAC、CAU。
I=Ile=イソロイシン:コドンAUA、AUC、AUU。
K=Lys=リシン:コドンAAA、AAG。
L=Leu=ロイシン:コドンUUA、UUG、CUA、CUC、CUG、CUU。
M=Met=メチオニン:コドンAUG。
N=Asp=アスパラギン:コドンAAC、AAU。
P=Pro=プロリン:コドンCCA、CCC、CCG、CCU。
Q=Gln=グルタミン:コドンCAA、CAG。
R=Arg=アルギニン:コドンAGA、AGG、CGA、CGC、CGG、CGU。
S=Ser=セリン:コドンAGC、AGU、UCA、UCC、UCG、UCU。T=Thr=トレオニン:コドンACA、ACC、ACG、ACU。
V=Val=バリン:コドンGUA、GUC、GUG、GUU。
W=Trp=トリプトファン:コドンUGG。
Y=Tyr=チロシン:コドンUAC、UAU。
【0070】
配列番号1または配列番号3関連ポリペプチドの組換え核酸発現のための適当な細胞は原核生物および真核生物である。原核生物細胞の具体例には、大腸菌(E.coli);スタヒロコッカス(Staphylococcus)属のメンバー、例えばスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus);ラクトバシラス(Lactobacillus)属のメンバー、例えばラクトバシラス・プランタルム(L.plantarum);ラクトコッカス(Lactococcus)属のメンバー、例えばラクトコッカス・ラクティス(L.lactis);およびバシラス(Bacillus)属のメンバー、例えばバシラス・サチリス(B.subtilis)が含まれる。真核生物細胞の具体例には、哺乳類細胞;昆虫細胞;酵母細胞、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属のメンバー(例えば、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae))、ピチア(Pichia)属のメンバー(例えば、ピチア・パストリス(P.pastors))、ハンゼヌラ(Hansenula)属のメンバー(例えば、ハンゼヌラ・ポリモルファ(H.polymorpha))、クルイベロミセス(Kluyveromyces)属のメンバー(例えば、クルイベロミセス・ラクティス(K.lactis)またはクルイベロミセス・フラジリス(K.fragilis))およびシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属のメンバー(例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(S.pombe))が含まれる。
【0071】
組換え遺伝子の産生、細胞内への導入および組換え遺伝子発現のための技術は当技術分野でよく知られている。そのような技術の具体例はAusubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002およびSambrookら,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989のような参考文献に記載されている。
【0072】
所望により、特定の宿主内での発現はコドン最適化により増強されうる。コドン最適化は、より好ましいコドンの使用を含む。種々の宿主におけるコドン最適化のための技術が当技術分野でよく知られている。
【0073】
ポリペプチドは、翻訳後修飾、例えばN−結合グリコシル化、O−結合グリコシル化またはアセチル化を含有しうる。「ポリペプチド」、またはポリペプチドの「アミノ酸」配列に対する言及は、宿主細胞(例えば、酵母宿主)からの翻訳後修飾の構造を有する1以上のアミノ酸を含有するポリペプチドを含む。
【0074】
翻訳後修飾は化学的に、または適当な宿主を使用することにより得られうる。例えば、サッカロミセス・セレビシエ(S.cerevisiae)においては、末端前アミノ酸の性質が、N末端メチオニンが除去されるかどうかを決定するらしい。さらに、末端前アミノ酸の性質は、N末端アミノ酸がNα−アセチル化されるかどうかをも決定する(Huangら,Biochemistry 26:8242−8246,1987)。もう1つの例には、分泌リーダー(例えば、シグナルペプチド)の存在により分泌のために標的化されるポリペプチドが含まれ、この場合、前記タンパク質はN−結合またはO−結合グリコシル化により修飾される(Kukuruzinskaら,Ann.Rev.Biochem.56:915−944,1987)。
【0075】
V.アジュバント
アジュバントは、免疫応答の生成において免疫原を補助しうる物質である。アジュバントは、以下のうちの1以上のような種々のメカニズムにより機能しうる:抗原の生物学的または免疫学的半減期の延長、抗原提示細胞への抗原の運搬の改善、抗原提示細胞による抗原のプロセシングおよび提示の改善、ならびに免疫調節性サイトカインの産生の誘導(Vogel,Clinical Infectious Diseases 30(suppl.3):S266−270,2000)。
【0076】
免疫応答の生成を補助するためには、多種多様なタイプのアジュバントが使用されうる。個々のアジュバントの具体例には、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムもしくはアルミニウムの他の塩、リン酸カルシウム、DNA CpGモチーフ、モノホスホリルリピドA、コレラ毒素、大腸菌(E.coli)易熱性毒素、百日咳毒素、ムラミルジペプチド、フロインド不完全アジュバント、MF59、SAF、免疫刺激性複合体、リポソーム、生分解性ミクロスフェア、サポニン、非イオン性ブロック共重合体、ムラミルペプチド類似体、ポリホスファゼン、合成ポリヌクレオチド、IFN−γ、IL−2、IL−12およびISCOMSが含まれる(Vogel Clinical Infectious Diseases 30(suppl 3):S266−270,2000,Kleinら,Journal of Pharmaceutical Sciences 89:311−321,2000;Rimmelzwaanら,Vaccine 19:1180−1187,2001,Kersten Vaccine 21:915−920,2003,O’Hagen Curr.Drug Target Infect.Disord.,1:273−286,2001)。
【0077】
VI.患者
「患者」は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に感染しうる哺乳動物を意味する。患者は予防的または治療的に治療されうる。予防的治療は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染の可能性または重症度を軽減するのに十分な防御免疫をもたらす。治療的治療は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染の重症度を軽減するために行われうる。
【0078】
予防的治療は、本明細書に記載の免疫原を含有するワクチンを使用して行われうる。そのような治療は、好ましくは、ヒトに対して行われる。ワクチンは、一般集団、またはスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染のリスクの高い者に投与されうる。
【0079】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染のリスクの高い者には、医療従事者、入院患者、低下した免疫系を有する患者、手術を受けた患者、カテーテルまたは血管装置のような外来インプラントを受けた患者、免疫低下を招く療法を受けている患者、および火傷または創傷損傷のリスクの高い職業の者が含まれる(The Staphylococci in Human Disease,Crossley and Archer(編),Churchill Livingstone Inc.1997)。
【0080】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に感染しうる非ヒト患者には、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ウマ、イヌ、ネコ、サル、ラットおよびマウスが含まれる。非ヒト患者の治療は、ペットおよび家畜を防御するのに、および特定の治療の効力を評価するのに有用である。
【0081】
VII.混合(組合せ)ワクチン
本明細書に記載の免疫原は、免疫応答を誘導するために、単独で又は他の免疫原と組合せて使用されうる。存在しうる追加的な免疫原には、1以上の追加的なスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)免疫原、例えば前記の「背景技術」において記載されているもの、1以上の他のスタヒロコッカス(Staphylococcus)生物、例えばスタヒロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)、スタヒロコッカス・ヘモリティカス(S.haemolyticus)、スタヒロコッカス・ワーネリ(S.warneri)またはスタヒロコッカス・ラグネンシス(S.lugunensis)を標的化する1以上の免疫原、ならびに他の感染生物を標的化する1以上の免疫原が含まれる。
【0082】
VIII.動物モデル系
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫応答を生成する免疫原の効力を評価するために、動物モデル系を使用した。前記動物モデルは、定常期の細胞から調製され、適切に力価測定され、静脈内投与されたスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)が関与する遅い速度論の致死モデルであった。この遅い速度論の死亡は、細菌感染に打つ勝つための特異的免疫防御のための十分な時間(例えば、24時間ではなく10日間)を与える。
【0083】
定常期のスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)細胞は、固形培地上で増殖させた細胞から入手されうる。それは液体培地からも入手されうるが、固形培地上で増殖させた細胞での結果は、より良好な再現性を示した。細胞は固形培地上で一晩にわたって簡便に増殖されうる。例えば、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)は、倍加時間が約20〜30分間である条件下、約18〜約24時間増殖されうる。
【0084】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)の効力を維持するための標準的な技術を用いて固形または液体培地から単離されうる。単離されたスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)は、例えば、グリセロールを含有するリン酸緩衝食塩水中の洗浄された高密度懸濁液(>10コロニー形成単位(CFU)/mL)として−70℃で保存されうる。
【0085】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)チャレンジは、第1日または第2日から開始して約7〜10日間の期間にわたって動物モデルにおいて約80〜90%の死亡率を与える効力を示すべきである。力価測定実験は、保存されたスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)接種物の効力をモニターするために動物モデルを使用して行われうる。前記力価測定実験は接種実験の約1〜2週間前に行われうる。
【0086】
IX.抗体
配列番号1関連ポリペプチドおよびAhpC−AhpF組成物を含有する免疫原を使用して、前記免疫原に又はスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に結合する単離された結合性タンパク質を得ることが可能である。そのような結合性タンパク質は、ポリペプチドの精製、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)の特定またはスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する治療的もしくは予防的治療における用途を含む種々の用途を有する。好ましくは、前記結合性タンパク質は血清タンパク質を実質的に含有しない。
【0087】
結合性タンパク質は第1可変領域および第2可変領域を含む。前記可変領域は重鎖または軽鎖由来の抗体可変領域の構造を有する。抗体重鎖および軽鎖可変領域は、フレームワーク上に間隔をあけて存在する3つの相補性決定領域を含有する。前記相補性決定領域は主として、特定のエピトープの認識をもたらす。抗体結合性タンパク質の具体例には、一本鎖抗体、完全抗体、抗体フラグメントおよびそれらの誘導体が含まれる。
【0088】
好ましい抗原結合性タンパク質はモノクローナル抗体である。「モノクローナル抗体」に対する言及は、同じ又は実質的に同じ相補性決定領域および結合特異性を有する一群の抗体を示す。モノクローナル抗体におけるばらつきは、前記抗体が同一構築物から製造された場合に生じるものである。
【0089】
モノクローナル抗体は、例えば、特定のハイブリドーマから、および前記抗体をコードする1以上の組換え遺伝子を含有する組換え細胞から製造されうる。前記抗体は2以上の組換え遺伝子によりコードされることが可能であり、この場合、1つの遺伝子は重鎖をコードし、1つの遺伝子は軽鎖をコードする。
【0090】
抗体可変領域を含有する抗体フラグメントには、Fv、FabおよびFab領域が含まれる。各Fab領域は、可変領域および定常領域から構成される軽鎖と、可変領域および定常領域を含有する重鎖領域とを含有する。軽鎖は定常領域を介してジスルフィド結合により重鎖に連結される。Fab領域の軽鎖および重鎖可変領域は、抗原結合に関与するFv領域を与える。
【0091】
また、抗体可変領域は、一本鎖抗体およびミニボディ(minibody)のような、可変領域を含有するタンパク質の一部でありうる。一本鎖抗体は、リンカーにより互いに連結された軽鎖および重鎖可変領域を含有する。前記リンカーは例えば約5〜16アミノ酸でありうる。ミニボディは、約80kDaの二価二量体へと自己集合する一本鎖−CH3融合タンパク質である。
【0092】
可変領域の特異性は、より保存的な隣接領域(フレームワーク領域とも称される)の間に介在する3つの超可変領域(相補性決定領域とも称される)により決定される。フレームワーク領域および相補性決定領域に関連したアミノ酸は、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services,1991に記載されているとおりに番号付けされ、整列(アライン)されうる。
【0093】
一本鎖抗体、抗体または抗体フラグメントのような抗原結合性タンパク質を製造するための技術は当技術分野でよく知られている。そのような技術の具体例には、ファージ提示技術の利用、げっ歯類抗体の特定およびヒト化、ならびにXenoMouseまたはTrans−Chromoマウスを使用するヒト抗体の製造が含まれる(例えば、Azzazyら,Clinical Biochemistry 35:425−445,2002,Bergerら,Am.J.Med.Sci.324(1):14−40,2002)。
【0094】
当技術分野でよく知られた技術を用いて、マウス抗体をヒト化することが可能であり、CDRをヒト抗体フレームワーク上にグラフティングすることが可能である。そのような技術は全般的には、マウス可変領域をヒト抗体フレームワーク上にグラフティングし必要に応じて更なる修飾を行うことによるマウス抗体のヒト化に関して記載されている(例えば、O’Brienら,Humanization of Monoclonal Antibodies by CDR Grafting,p 81−100, From Methods in Molecular Biology Vol 207:Recombinant antibodies for Cancer Therapy:Methods and Protocols(WelschofおよびKrauss編)Humana Press,Totowa,New Jersey,2003)。
【0095】
抗原結合性タンパク質は、好ましくは、組換え核酸技術を用いて又はハイブリドーマの使用により製造される。組換え核酸技術はタンパク質合成のための核酸鋳型の構築を含む。ハイブリドーマは、抗原結合性タンパク質を産生する不死化細胞系である。
【0096】
抗原結合性タンパク質をコードする組換え核酸は、実際に前記コード化タンパク質のための工場として働く宿主細胞内で発現されうる。前記組換え核酸は、宿主細胞ゲノムから自律して又は宿主細胞ゲノムの一部として存在する、抗原結合性タンパク質をコードする組換え遺伝子を与えうる。
【0097】
組換え遺伝子は、タンパク質の発現のための調節要素と共にタンパク質をコードする核酸を含有する。一般には、組換え遺伝子内に存在する調節要素には、転写プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、および所望により存在するオペレーターが含まれる。真核細胞内でのプロセシングのための好ましい要素はポリアデニル化シグナルである。抗体関連イントロンも存在しうる。抗体または抗体フラグメントの製造のための発現カセットの具体例は当技術分野でよく知られている(例えば、Persicら.Gene 187:9−18,1997,Boelら,J.Immunol.Methods 239:153−166,2000,Liangら,J.Immunol.Methods 247:119−130,2001)。
【0098】
細胞内の組換え遺伝子の発現は、発現ベクターを使用して促進される。好ましくは、発現ベクターは、組換え遺伝子に加えて、宿主細胞内での自律的複製のための複製起点、選択マーカー、限られた数の有用な制限酵素部位および潜在的な高コピー数をも含有する。抗体および抗体フラグメントの製造のための発現ベクターの具体例は当技術分野でよく知られている(例えば、Persicら,Gene 187:9−18,1997,Boelら,J.Immunol.Methods 239:153−166,2000,Liangら,J.Immunol Methods 247:119−130,2001)。
【0099】
所望により、当技術分野でよく知られた技術を用いて(Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−1998,Marksら,米国特許第6,743,622号を参照されたい)、抗体をコードする核酸を宿主染色体内に組込むことが可能である。
【0100】
組換え抗原結合性タンパク質の発現には、原核生物(例えば、大腸菌(E.coli)、バシラス(Bacillus)およびストレプトマイセス(Streptomyces))および真核生物(例えば、酵母、バキュロウイルスおよび哺乳類)に由来する細胞系を含む多種多様な細胞系が使用されうる(Breitlingら,Recombinant Antibodies,John Wiley & Sons,Inc.and Spektrum Akademischer Verlag,1999)。
【0101】
組換え抗原結合性タンパク質の発現のための好ましい宿主は、適切な翻訳後修飾を伴って抗原結合性タンパク質を産生しうる哺乳類細胞である。翻訳後修飾には、ジスルフィド結合形成およびグリコシル化が含まれる。もう1つのタイプの翻訳後修飾はシグナルペプチドの切断である。
【0102】
適切なグリコシル化は抗体機能に重要でありうる(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002)。天然に存在する抗体は、重鎖に結合した少なくとも1つのN−結合炭水化物を含有する(前掲)。他のN−結合炭水化物およびO−結合炭水化物が存在することが可能であり、抗体機能に重要でありうる(前掲)。
【0103】
効率的な翻訳後修飾を得るために種々のタイプの哺乳類宿主細胞が使用されうる。そのような宿主細胞の具体例には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、HeLa、C6、PC12および骨髄腫細胞が含まれうる(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002,Persicら,Gene 787:9−18,1997)。
【0104】
ハイブリドーマは、例えばAusubel Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−1998、Harlowら,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988およびKohlerら,Nature 256,495−497,1975に記載されているような技術を用いて製造されうる。
【0105】
X.投与
免疫原および結合性タンパク質は、当技術分野でよく知られた技術と共に本明細書に記載の指針を用いて、製剤化され、患者に投与されうる。医薬投与全般に関する指針は、例えばVaccines PlotkinおよびOrenstein編,W.B.Sanders Company,1999;Remington’s Pharmaceutical Sciences 20th Edition,Gennaro編,Mack Publishing,2000;ならびにModem Pharmaceutics 2nd Edition,BankerおよびRhodes編,Marcel Dekker,Inc.,1990(これらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0106】
医薬上許容される担体は免疫原の保存および患者への免疫原の投与を促進する。医薬上許容される担体は、バッファー、注射用無菌水、正常食塩水またはリン酸緩衝食塩水、スクロース、ヒスチジン、塩およびポリソルベートのような種々の成分を含有しうる。
【0107】
免疫原および結合性タンパク質は皮下、筋肉内または粘膜のような種々の経路により投与されうる。皮下および筋肉内投与は、例えば針または噴射式注射器を使用して行われうる。
【0108】
適当な投与計画は、好ましくは、患者の年齢、体重、性別および医学的状態;投与経路;所望の効果;ならびに使用する個々の化合物を含む、当技術分野でよく知られた要因を考慮して決定される。前記免疫原または結合性タンパク質は多数回投与(multi−dose)ワクチン形態で使用されうる。用量は1.0μg〜1.0mgの全ポリペプチドの範囲よりなると予想され、本発明の種々の実施形態においては、前記範囲は0.01mg〜1.0mgおよび0.1mg〜1.0mgである。
【0109】
投与の時機は、当技術分野でよく知られた要因に左右される。初回投与後、1以上の追加用量を投与して抗体価を維持または増強することが可能である。投与計画の一例は、第1日、第1ヶ月、第3投与としての第4、6または12ヶ月の投与、および必要に応じて行う、間隔をあけて投与する追加的な追加投与であろう。
【0110】
実施例
以下に記載の実施例は本発明の種々の特徴を更に詳しく例示するものである。前記実施例は本発明の実施のための有用な方法をも例示する。これらの実施例は、特許請求されている本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0111】
防御免疫
本実施例は、配列番号1関連ポリペプチドが動物モデルにおいて防御免疫をもたらしうることを例示する。防御免疫をもたらすために、配列番号1のHisタグ付き誘導体である配列番号2を使用した。
【0112】
配列番号2のクローニングおよび発現
pET16bベクター(EMD Biosciences,Madison,WI)から、前記ベクターによりコードされるN末端ヒスチジン残基および終止コドンを伴って発現されるよう、COL SA0452によりコードされるタンパク質を設計した。前記ベクターは、ヒスチジンタグの後の9個の追加的なアミノ酸およびカルボキシル末端の3個の追加的なアミノ酸をもコードする。第1セリンコドンから始まって終止コドンの前の末端イソロイシン残基で終わるCOL SA0452を増幅するPCRプライマーを設計した。フォワードおよびリバースプライマーはそれぞれ、5’GGGAATTCCATATGTCATTAATTAACAAAGAAATCTTACC3’(配列番号7)および5’GGGCTCAGCGATTTTACCTACTAAATCTAAACCAG3’(配列番号11)であり、前記発現ベクター内へのクローニングを促進するための追加的な制限部位(下線部)、すなわち、NdeI(フォワードプライマー)およびBpu11 021I(リバースプライマー)ならびにGCクランプを含有していた。
【0113】
ゲノムDNAをスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)COL株MB5393から精製し、PCR用の鋳型として使用した。50mLの培養をディフコ・トリプティック・ソイ・ブロス(Difco Tryptic Soy Broth)(Becton Dickinson,Sparks,MD)中、37℃で一晩成長させ、前記細胞を遠心分離により集めた。前記細胞を5mLの10mM Tris(pH7.5)、25% スクロース中で1回洗浄し、50μg/mL リソスタフィン(lysostaphin)(Sigma,St.Louis,MO)を含有する同じ溶液に再懸濁させた。前記混合物を37℃で1時間インキュベートし、ついで2.5mLの0.25M EDTA(pH8.0)を加えた。氷上で15分間のインキュベーションの後、7.5mLの2% サルコシルを加え、前記混合物を穏やかに攪拌し、氷上で更に30分間静置した。0.1M 酢酸ナトリウム中の150μLのRNアーゼ5mg/mLを加え、前記混合物を37℃で1時間インキュベートした。つぎに0.6mLのプロテイナーゼK(25mg/mL)を加え、前記インキュベーションを2時間継続し、ついで4℃で一晩のインキュベーションを行った。前記ライセートを、穏やかに回転により15mLの水飽和フェノールで室温で30分間抽出した。
【0114】
相を分離するために、前記混合物を室温で4,000rpmで10分間遠心分離した。水相を集め、前記フェノール抽出を更に2回反復した。つぎに前記水相を等容量のクロロホルムで10回抽出した。最終抽出の後、水相を集め、容量を測定し、半分の容量の7.5M 酢酸アンモニウムを加えた。
【0115】
前記DNAを、2容量の100% エタノールを加えることにより沈殿させ、ガラス棒に巻きつけることにより集めた。前記DNAを、4μLのジエチルピロカルボナートを含有する5.0mLのTEに4℃で一晩溶解した。前記エタノール沈殿を更に2回反復した。
【0116】
ahpC遺伝子を、二重に調製した50μL容量の反応液中、PCRにより増幅した。それぞれは250ngのゲノムDNA、125ngの各フォワードおよびリバースプライマー、1マイクロリットルの10mM dNTP、2.5単位の天然Pfuポリメラーゼならびに1×Pfuバッファー(Stratagene,La Jolla CA)を含有していた。熱サイクル条件は以下のとおりであった:94℃で5分間の1サイクル;94℃で45秒間、56℃で45秒間、72℃で1分間の30サイクル;72℃で10分間の1サイクル。増幅されたDNA配列(584bp)を適当な制限酵素で消化し、Gene Clean II(登録商標)(QBIOgene,Carlsbad,CA)を前記製造業者の説明に従い使用してゲル精製した。前記DNAを、PCRプライマー内に作製されたNdeI/Bpu1102I部位を使用してpET16bベクター内に連結し、大腸菌(E.coli)NovaBlueコンピテント細胞(EMD Biosciences)内に導入した。
【0117】
前記形質転換混合物を、imMedia(商標)Amp Agar(Invitrogen,Carlsbad,CA)を前記製造業者の説明に従い使用して調製された、それぞれ100μg/mLのアンピシリン、IPTGおよびX−galを含有する低塩レノックス(Lennox)Lブロス寒天プレート上で37℃で一晩成長させた。コロニーを選択し、50μg/mL アンピシリンを含有するルリア・ブロス(Luria Broth)(LB)内で成長させ、DNAミニプレップを作製し(Promega)、インサートの適合性を制限エンドヌクレアーゼ消化により確認した。2つのミニプレップからのプラスミドDNAを配列決定し、所望の配列からのDNA変化を含有しないクローンを選択し、pAhpC5と命名した。
【0118】
大腸菌(E.coli)BLR(DE3)コンピテント細胞(EMD Biosciences)をpAhpC5で形質転換し、アンピシリン(100μg/mL)を含有するLBプレート上で増殖させた。ahpCの発現に関して試験するために、単離されたコロニーを5mLの液体LB(アンピシリン)内に接種し、37℃、220rpmで6時間インキュベートした。前記培養物を4℃に維持し、翌日、出発OD600が0.02となるよう20.0mLのLBブロス(アンピシリン)内に接種した。前記培養物を、OD600=0.8となるまで37℃、220pmで4時間インキュベートした。発現の誘導を3つの異なる温度で比較した。45μLの100mM IPTGを3つの4.5mLの培養容量(1mMの最終IPTG濃度)に加え、すべて220rpmで振とうしながら37℃で3時間および25℃または18℃で24時間インキュベートした。ライセートの調製のために、未誘導および誘導培養からのそれぞれ1.5mLおよび1.0mLの培養容量を遠心分離により集め、300μLのBugBuster HT(EMD Sciences)および3μLのプロテイナーゼインヒビターカクテル(Sigma,St.Louis,MO)に再懸濁させた。前記混合物を氷上で5分間維持し、ついで3回(それぞれ10秒間で、各間隔に冷却を行った)超音波処理した。「可溶性」および「不溶性」画分を得るために、前記混合物を14,000rpm、4℃で5分間遠心分離した。上清を「可溶性」と命名し、ペレットを300μLのBugBuster HTおよび3μLのプロテイナーゼインヒビターカクテルに再懸濁させ、「不溶性」と命名した。BIO−RAD Protein Assay Dye Reagent系(BIO−RAD,Hercules,CA)を前記製造業者の説明に従い使用してタンパク質濃度を測定した。
【0119】
SDS−PAGEゲルのクーマシー染色によるahpC(配列番号3によりコードされているもの)の発現の分析のために、サンプルを、還元および変性条件下、1×TrisグリシンSDSバッファー(BIO−RAD)中、4〜15% 勾配Tris−HCl Criterionゲル(BIO−RAD)上の電気泳動に付した。タンパク質のサイズを推定するために、15〜250kDaの基準体(BIO−RAD)を、前記ライセートと並べて泳動させた。前記ゲルを、クーマシーG250染色であるBio−Safe Coomassie(BIO−RAD)を前記製造業者のプロトコールに従い使用して染色した。
【0120】
3つ全ての温度で誘導されたサンプルから調製されたライセートにおいて、24−kDaのタンパク質が特異的に検出された。3つ全ての温度で良好な発現が得られ、ahpCは可溶性画分および不溶性画分の両方に局在していた。25℃での誘導は、可溶性ahpCを産生させるための最適温度であった。
【0121】
配列番号2の精製
20リットルの実効容量を有する攪拌タンク発酵槽(30リットルの規模)への前記小規模法の直接的な大規模化を達成した。接種物を、50mLのルリア・ベルタニ(Luria−Bertani)(LB)培地(+アンピシリン)を含有する250mLフラスコ内で培養し、それに1mLの凍結種培養物を接種し、これを6時間培養した。1mLのこの種(シード)を使用して、500mLのLB培地(+アンピシリン)を含有する2リットルのフラスコに接種し、16時間インキュベートした。大規模発酵槽(30リットルの規模)を20リットルのLB培地(+アンピシリン)共に培養に付した。前記発酵槽の発酵パラメーターは以下のとおりであった:圧力=5psig、攪拌速度=300rpm、気流=7.5リットル/分および温度=37℃。細胞を600nmの波長で1.3の光学密度単位の光学密度(OD)になるまでインキュベートし、1mMの濃度のイソプロピル−β−K−チオガラクトシド(IPTG)で誘導した。IPTGでの誘導時間は2時間であった。細胞を、温度を15℃へ低下させることにより回収し、500KMWCO中空繊維カートリッジに通過させることにより濃縮し、8,000×g、4℃で20分間遠心分離した。上清をデカントし、前記組換え大腸菌(E.coli)湿潤細胞ペレットを−70℃で凍結させた。
【0122】
凍結組換え大腸菌(E.coli)細胞ペースト(24グラム)を解凍し、2容量の細胞溶解バッファー(50mM リン酸ナトリウム,pH8.0、0.15M NaCl、2mM 塩化マグネシウム、10mM イミダゾール、20mM 2−メルカプトエタノール、0.1% Tween−80およびプロテアーゼインヒビターカクテル(Complete(商標),EDTA非含有,Roche#1873580−50mLの細胞溶解バッファー当たり錠剤1個))に再懸濁させた。ベンゾナーゼ(EM#1.01697.0002)を125単位/mLで前記細胞懸濁液に加えた。ライセートはマイクロフルイダイザーで調製した。前記ライセートを4℃で3時間攪拌し、10,000×g、4℃で10分間の遠心分離により清澄化した。上清をガラス繊維プレフィルター ミリポア(Millipore)で濾過し、NaClを5M ストック溶液から0.5Mの最終濃度になるまで加えた。前記濾過上清をNi−NTAアガロースクロマトグラフィー樹脂(Qiagen#30250)に加え、スラリーを4℃で一晩混合した。クロマトグラフィー樹脂のスラリーをクロマトグラフィーカラム内に注ぎ、未結合画分をカラム出口から重力により集めた。前記カラムを10カラム容量の洗浄バッファー(50mM リン酸ナトリウム,pH8.0、0.5M NaCl、2mM 塩化マグネシウム、10mM イミダゾール、20mM 2−メルカプトエタノール、0.1% Tween−80およびプロテアーゼインヒビターカクテル(Complete(商標),EDTA非含有,Roche#1873580−50mLの洗浄バッファー当たり錠剤1個))で洗浄した。前記カラムを溶出バッファー(50mM リン酸ナトリウム,pH7.4、0.3M イミダゾール、2mM 塩化マグネシウム、0.1% Tween−80および20mM 2−メルカプトエタノール)で溶出した。タンパク質を含有する画分を、ポンソーS染色を伴うニトロセルロースメンブレン上のドットブロットにより特定し、最高タンパク質濃度を含有する画分をプールしてNi−IMAC産物を得た。前記Ni−IMAC産物をSECにより分画した。前記産物タンパク質を含有するSEC画分を、クーマシー染色を伴うSDS/PAGEにより特定した。産物含有SEC画分をプールしてSEC産物を得た。SEC産物を滅菌濾過し、0.2mg/mLの最終濃度でアルミニウムヒドロキシホスファートアジュバント上に吸着させた。
【0123】
スタヒロコッカス・アウレウスチャレンジの準備
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)をTSAプレート上、37℃で一晩増殖させた。5mlのPBSをプレート上に加え、無菌スプレッダーで前記細菌を穏やかに再懸濁させることにより、前記細菌をTSAプレートから洗い落とした。Sorvall RC−5B遠心機(DuPont Instruments)を使用して、前記細菌懸濁液を6000rpmで20分間遠心した。前記ペレットを16% グリセロールに再懸濁させ、アリコートを−70℃で凍結保存した。
【0124】
使用前に接種物を解凍し、適当に希釈し、感染に使用した。ナイーブマウスにおいて遅い速度論の死亡を誘発する適当な用量を決定するために、各ストックを少なくとも3回力価測定した。前記モデルの再現性が保証されるよう、前記細菌接種物の効力(80〜90%の致死性)を一貫してモニターした。各チャレンジ実験の10日前に、10匹の対照動物(アジュバントのみで免疫されたもの)の群をチャレンジし、モニターした。
【0125】
配列番号2のポリペプチドに関する防御研究
2つの独立した実験において、20匹のBALB/cマウスのそれぞれをアルミニウムヒドロキシホスファートアジュバント(450μg/注射)上の3用量の配列番号2のポリペプチド(20μg/注射)で免疫し、20匹のマウスのそれぞれにアルミニウムヒドロキシホスファートアジュバント(450μg/注射)を注射した。アルミニウムヒドロキシホスファートアジュバント(AHP)はKleinら,Joual of Pharmaceutical Sciences 89,311−321,2000に記載されている。前記物質を、第0日、7日および21日に、2回の50μlの筋肉内注射として投与した。第28日に前記マウスから採血し、それらの血清を配列番号2のポリペプチドに対する反応性に関してELISAによりスクリーニングした。
【0126】
各実験の第35日に、前記マウスを、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)(用量 7×10 CFU/ml)の静脈内注射によりチャレンジした。前記マウスを生存に関して11日間にわたってモニターした。第1実験の終了時に、AHP対照群では5匹のマウスが生存したのに対して、配列番号2ポリペプチド免疫化群では12匹のマウスが生存した。結果を図6Aに示す。第2実験においては、AHP対照群では7匹のマウスが生存したのに対して、配列番号2ポリペプチド免疫化群では11匹のマウスが生存した。結果を図6Bに示す。
【0127】
他の実施形態も特許請求の範囲内である。いくつかの実施形態が示され記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の修飾が施されうる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】図1は配列番号1および配列番号2のアミノ酸配列を示す。配列全体が配列番号2である。太字で示されている部分が配列番号1である。下線領域はアミノHisタグ領域およびカルボキシル末端の追加的アミノ酸である。
【図2】図2は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)由来のAhpC配列(配列番号(SEQ ID NO:)1)とスタヒロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)由来のAhpC配列(配列番号(SEQ ID NO:)6;GenBankアクセッション番号AE016752)との間の比較を示す。アミノ酸の相違が太字で示されている。
【図3】図3は、配列番号2をコードする核酸配列(配列番号5)を示す。追加的なHisタグおよびカルボキシルアミノ酸コード領域が太字で示されている。
【図4】図4は、配列番号3をコードするDNA配列(配列番号4)を示す。
【図5A】図5Aおよび5Bは、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)由来の異なるAhpF配列、すなわち、配列番号(SEQ ID NO:)3(GenBankアクセッション番号U92441)、9(GenBankアクセッション番号AP004823)および10(GenBankアクセッション番号BX57183)ならびにスタヒロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)由来のAhpF配列(GenBankアクセッション番号AE016752)の間の配列比較を示す。アミノ酸の相違が太字で示されている。
【図5B】図5Aおよび5Bは、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)由来の異なるAhpF配列、すなわち、配列番号(SEQ ID NO:)3(GenBankアクセッション番号U92441)、9(GenBankアクセッション番号AP004823)および10(GenBankアクセッション番号BX57183)ならびにスタヒロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)由来のAhpF配列(GenBankアクセッション番号AE016752)の間の配列比較を示す。アミノ酸の相違が太字で示されている。
【図6A】図6Aおよび6Bは、アルミニウムヒドロキシホスファートアジュバント中の配列番号2のポリペプチド(黒丸)またはアジュバントのみ(三角)のいずれかを使用した実験からの結果を示す。
【図6B】図6Aおよび6Bは、アルミニウムヒドロキシホスファートアジュバント中の配列番号2のポリペプチド(黒丸)またはアジュバントのみ(三角)のいずれかを使用した実験からの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に対して又は配列番号1の断片に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド免疫原であって、前記ポリペプチドがスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらし、ならびに前記ポリペプチド免疫原が配列番号1のポリペプチドではない、ポリペプチド免疫原。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が配列番号1のアミノ酸178−189を含む、請求項1のポリペプチド。
【請求項3】
前記アミノ酸配列が配列番号1に対して少なくとも95%同一である、請求項2のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸22−213からなる、請求項3のポリペプチド。
【請求項5】
前記ポリペプチドが実質的に精製されている、請求項3のポリペプチド。
【請求項6】
配列番号1に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列およびカルボキシル末端またはアミノ末端において前記アミノ酸配列に共有結合した1以上の追加的領域または部分とを含んでなる免疫原であって、各領域または部分が、独立して、以下の特性、すなわち、免疫応答の増強、精製の促進またはポリペプチド安定性の促進の少なくとも1つを有する領域または部分から選ばれる、免疫原。
【請求項7】
配列番号1に対して少なくとも85%同一であるポリペプチドおよび配列番号3に対して少なくとも85%同一であるポリペプチドを含んでなる精製された免疫原。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項記載の免疫原の免疫学的に有効な量と医薬上許容される担体とを含んでなる、患者において防御免疫応答を誘導しうる組成物。
【請求項9】
アジュバントを更に含む、請求項8の組成物。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え遺伝子を含んでなる核酸。
【請求項11】
発現ベクターである、請求項10の核酸。
【請求項12】
請求項1から5のいずれか一項のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え遺伝子を含んでなる組換え細胞。
【請求項13】
防御免疫をもたらすスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)ポリペプチドの製造方法であって、
(a)請求項12の組換え細胞を、前記ポリペプチドが発現される条件下で増殖させ、および
(b)前記ポリペプチドを精製する工程を含んでなる、製造方法。
【請求項14】
請求項7の免疫原に結合する可変領域を含んでなる単離された結合性タンパク質。
【請求項15】
(a)(1)前記結合性タンパク質を選択するために前記免疫原を使用し、または(a)(2)前記結合性タンパク質の産生を誘導するために前記免疫原を使用し、
(b)前記抗原結合性タンパク質を実質的に精製する工程を含む製造方法により製造される、請求項14の結合性タンパク質。
【請求項16】
前記結合性タンパク質が抗体である又は抗体フラグメントを含む、請求項15の結合性タンパク質。
【請求項17】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対して患者を治療する方法であって、
(a)配列番号1または配列番号1の断片に対して少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を含む免疫原(前記ポリペプチドはスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御免疫をもたらす)の免疫学的に有効な量、
(b)請求項1から7のいずれか一項の免疫原の免疫学的に有効な量、
(c)請求項14の結合性タンパク質の有効量
の1以上を前記患者に投与する工程を含んでなる方法。
【請求項18】
前記患者がヒトである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対して前記患者を予防的に治療する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記免疫原が請求項1から7のいずれか一項記載の免疫原である、請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2008−532483(P2008−532483A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552221(P2007−552221)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/001665
【国際公開番号】WO2006/078680
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】