説明

スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcusepidermidis)に対する防御免疫応答を誘発するポリペプチド

本発明は、配列番号1に構造的に近縁のアミノ酸配列を含むポリペプチドおよびこのようなポリペプチドの使用を目的とする。配列番号1は全長スタフィロコッカス・エピデルミディス ポリペプチドの先端欠失誘導体である。この文中では天然に存在する全長ポリペプチドを全長ORF2695eとして表す。配列番号1のHisタグ付き誘導体はスタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫応答を生じることが知見された。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本願明細書に引用した参考文献は、特許請求の範囲に記載の本発明の先行技術であると是認したものではない。
【0002】
スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)は、特に免疫的に易感染性の患者に対する院内感染の病原体であることが明らかになった(Ziebuhrら,International Journal of Antimicrobial Agents 28S:S14−S20,2006)。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)、主としてスタフィロコッカス・エピデルミディスは、診断または治療の処置中に使用された異物に付随する微生物感染において最も高頻度に単離される(Heilmann and Peters,Biology and Pathogenicity of Staphylococcus epidermidis,In:Gram Positive Pathogens,Eds.Fischettiら,American Society for Microbiology,Washington D.C.2000およびThe Staphylococci in Human Disease,Crossley and Archer(eds.),Churchill Livingstone Inc.1997)。
【0003】
核酸配列情報を取得し読取枠および存在可能ポリペプチドに関する予測を得るためにS.epidermisの核酸が配列決定された(Doucette−Stammら,米国特許No.6,380,370およびDoucette−Stammら,米国特許No.7,060,458)。
【0004】
存在可能な抗原をコードする遺伝子を同定する試みにはディスプレイ技術と感染患者から採取した血清とを使用するような技術を使用できる(Meinkeら,国際公開WO 02/059148,Meinkeら,国際公開WO 04/087746)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,380,370号明細書
【特許文献2】米国特許第7,060,458号明細書
【特許文献3】国際公開第02/059148号
【特許文献4】国際公開第04/087746号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Ziebuhrら,International Journal of Antimicrobial Agents 28S:S14−S20,2006
【非特許文献2】Heilmann and Peters,Biology and Pathogenicity of Staphylococcus epidermidis,In:Gram Positive Pathogens,Eds.Fischettiら,American Society for Microbiology,Washington D.C.2000
【非特許文献3】The Staphylococci in Human Disease,Crossley and Archer(eds.),Churchill Livingstone Inc.1997
【発明の概要】
【0007】
本発明の主題は、配列番号1に構造的に近縁のアミノ酸配列を含むポリペプチドおよびこのようなポリペプチドの使用である。配列番号1は全長スタフィロコッカス・エピデルミディス ポリペプチドの先端欠失誘導体である。この文中では天然に存在する全長ポリペプチドを全長ORF2695eと表す。配列番号1のHisタグ付き誘導体がスタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫応答を誘発することが知見された。
【0008】
“防御”免疫または免疫応答という表現はスタフィロコッカス・エピデルミディス感染に対する検出可能な防御レベルを示す。“免疫原”という表現は防御免疫を与える能力を示す。
【0009】
従って第一の目的として本発明は、配列番号1に少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含み、配列番号3のアミノ酸配列を有していないポリペプチドを記述する。配列番号1に少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含むという表現は、配列番号1に近縁の領域が存在しさらに追加の領域が存在することを意味する。1つの実施態様においては、追加の領域が存在するならば、ポリペプチドは配列番号3のアミノ酸1−28によって与えられるアミノ末端を有していない。
【0010】
基準配列に対するパーセント一致(一致パーセントとも言われる)は、該当ポリペプチド配列を基準配列に位置合せし、対応する領域中の同一アミノ酸の数を測定することによって決定される。この数を基準配列(たとえば配列番号1)中のアミノ酸の総数で除算し、次いで100を乗算し、最も近い整数に丸める。
【0011】
別の目的において本発明は、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫を提供するアミノ酸配列とカルボキシル末端またはアミノ末端でアミノ酸配列に共有結合した1つ以上の追加の領域または部分とを含み、各領域または部分が独立に以下の特性、すなわち、免疫応答を増強する特性、精製を容易にする特性またはポリペプチド安定性を助長する特性の少なくとも1つを有している領域または部分から選択されている免疫原を記述する。
【0012】
“追加の領域または部分”という表現は、ORF2695e領域とは異なる領域または部分を表す。追加の領域または部分はたとえば、追加のポリペプチド領域または非ペプチド領域であり得る。
【0013】
別の目的において本発明は、患者の体内でスタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫を誘発できる組成物を記述する。組成物は医薬的に許容される担体と、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫を提供する免疫有効量の免疫原とを含む。
【0014】
免疫有効量はスタフィロコッカス・エピデルミディス感染に対する防御免疫を提供するために十分な量である。この量は、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する易感染性または重篤な感染を有意に防止するために十分でなければならない。
【0015】
別の目的において本発明は、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫を提供するポリペプチドをコードする組換え遺伝子を含む核酸を記述する。組換え遺伝子は、適正な転写およびプロセシングのための調節要素(これらは翻訳要素および翻訳後要素を含み得る)を伴ったポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する。組換え遺伝子は、宿主ゲノムから独立に存在するかまたは宿主ゲノムの一部を構成できる。
【0016】
組換え核酸はその配列および/または形態が天然に存在しない核酸である。組換え核酸の例は、精製された核酸、天然に見出されるものとは異なる核酸を形成するように結合した2つ以上の核酸領域、および、天然には互いに結合している1つ以上の核酸領域(たとえば上流領域または下流領域)の欠失を含む。
【0017】
別の目的において本発明は、組換え細胞を記述する。細胞は、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫を提供するポリペプチドをコードする組換え遺伝子を含む。好ましくは細胞がインビトロ増殖する。
【0018】
別の目的において本発明は、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫を提供するポリペプチドの製造方法を記述する。方法は、ポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する組換え細胞を増殖させる段階とポリペプチドを精製する段階とを含む。
【0019】
別の目的において本発明は、ポリペプチドをコードする組換え核酸を含有する組換え細胞を宿主体内で増殖させる段階とポリペプチドを精製する段階とを含む方法によって製造されたスタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫を提供するポリペプチドを記述する。様々な宿主を使用できる。
【0020】
別の目的において本発明は、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫応答を患者の体内で誘発する方法を記述する。方法は、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫応答を提供する免疫原を免疫有効量で患者に投与する段階を含む。
【0021】
特定の用語が相互に排他的でないならば、“または”という表現はいずれか一方または双方の可能性を示す。いずれか一方または双方の可能性を強調するためにときどきは“および/または”のような表現が使用されている。
【0022】
“含む”のような非限定用語による表現は、追加の要素または段階を許容するものである。追加の要素または段階の可能性を強調するために、非限定用語の有無にかかわりなくときどきは“1つ以上”のような表現が使用されている。
【0023】
明白な記述がないならば、単数の不定冠詞は1という数に限定されない。たとえば、“1つの細胞”は“複数の細胞”を排除しない。複数の存在が可能であることを強調するためにときどきは“1つ以上”のような表現が使用される。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は種々の実施例を含めてこの文中に提供された追加の記載から明らかである。提供された実施例は本発明の実施に役立つ様々な構成要素および方法を示す。本明細書の開示に基づいて当業者は、本発明の実施に有用な他の構成要素および方法を見極めてそれらを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は配列番号2のアミノ酸配列を示す。配列番号2は配列番号1のHisタグ付き誘導体である。配列番号1領域は太字で示されている。
【図2A】図2Aは配列番号3の全長ORF2695e(図2A)を示す。図2Aでは配列番号1領域が太字で示されている。
【図2B】図2Bは配列番号3のエンコーディング核酸(図2B)を示す。図2Bでは配列番号1のエンコーディング領域が太字で示されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
配列番号1に近縁のポリペプチドの防御免疫提供能力については後出の実施例で配列番号2を使用して説明する。配列番号2は配列番号1のHisタグ付き誘導体である。Hisタグはポリペプチドの精製および同定を容易にする。図1は、配列番号1領域を太字で示した配列番号2を表す。
【0027】
配列番号1はスタフィロコッカス・エピデルミディス ポリペプチドの全長ORF2695eの誘導体である。配列番号1はORF2695e配列(配列番号3)のアミノ酸29−261を含有する。配列番号3のアミノ酸1−28はリーダー配列であることが確認された。図2Aおよび2Bは配列番号3およびエンコーディング核酸配列を示しており、これらの図において配列番号1領域は太字で示されている。
【0028】
ORF2695e配列
ORF2695eはGen−Bank登録番号Q5HKC6に対応するアミノ酸配列を有している。Gen−Bank登録番号Q5HKC6は、Gillら,J Bacteriol.187(7):2426−243S,2005に引用されている。
【0029】
その他の天然に存在するORF2695e配列は、既知のORF2695e配列に比較して高度な配列相似または隣接アミノ酸の存在に基づいて同定できる。隣接アミノ酸は特徴的タグを提供する。種々の実施態様において、天然に存在するORF2695e配列は、少なくとも20、少なくとも30または少なくとも50の配列番号1と同じ隣接アミノ酸配列を有しておりおよび/または配列番号1に少なくとも90%の配列相似または配列一致を有しているStaphylococcus種、好ましくはスタフィロコッカス・エピデルミディスに見出される配列である。
【0030】
配列相似は、当業界で公知の種々のアルゴリズムおよび技術によって測定できる。一般的に配列相似は、一方の配列中のギャップ、付加および置換を考慮しながら最大のアミノ酸一致が得られるように2つの配列を位置合せする技術によって決定される。
【0031】
配列相似は、たとえばlalignプログラム(“sim”プログラム用にHuang and Millerによって開発されたもの、Adv.Appl.Math.12:337−357,1991)を利用する局部位置合せツールを使用して決定できる。以下のようなオプションおよび環境変数を使用する:−f# ギャップ中の第一残基に対する減点(−14デフォルト値);−g# ギャップ中の各追加残渣に対する減点(−4デフォルト値)−s str(SMATRTX)代替スコアリングマトリックスファイルのファイル名。タンパク質配列には、PAM250がデフォルト値−w#(LINLEN)output line length for sequence alignments(60)で使用される。
【0032】
配列番号1に近縁のポリペプチド
配列番号1に構造的に近縁のポリペプチドは、種々のスタフィロコッカス・エピデルミディス菌株中に存在する対応領域を含有するポリペプチドおよび天然に存在する領域の誘導体を含有するポリペプチドを含む。配列番号1に近縁のポリペプチドは配列番号1に少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含有する。“ポリペプチド”という表現は最小サイズまたは最大サイズの制限を含意しない。
【0033】
配列番号1に少なくとも90%一致するポリペプチドは配列番号1に比べて約26アミノ酸の変化を有している。各アミノ酸変化は独立にアミノ酸の置換、欠失または付加である。変化は配列番号1領域の内部に存在するかまたは配列番号1領域に付加されている。種々の実施態様において、配列番号1に近縁のポリペプチドは配列番号1に少なくとも94%または少なくとも99%一致しており、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20アミノ酸の変化だけ配列番号1から違っている。すなわち、本質的に配列番号1から構成されている。
【0034】
指示アミノ酸から“本質的に構成される”という表現は、言及したアミノ酸が存在しさらに追加のアミノ酸が存在し得ることを示す。追加のアミノ酸はカルボキシル末端またはアミノ末端に存在できる。種々の実施態様において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20の追加アミノ酸が存在する。好ましい追加アミノ酸はアミノ末端メチオニンである。
【0035】
スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫を誘発できる誘導体を得るために配列番号1を変更することができる。変更はたとえば、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する防御免疫誘発能を保持している誘導体、または、防御免疫の提供に加えて特定目的を果たす領域を有している誘導体が得られるように行われる。
【0036】
変更は、種々のORF2695e配列および既知のアミノ酸特性を考慮しながら行う。一般に、活性を保持するために種々のアミノ酸を置換する場合、同様の特性を有するアミノ酸に交換するのが好ましい。アミノ酸置換において考慮すべき要因には、アミノ酸の長さ、電荷、極性および疎水性が含まれる。アミノ酸特性に対する種々のアミノ酸R−基の効果は当業界で公知である(参照:たとえばAusubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002,Appendix 1C)。
【0037】
特定目的を果たすための変更は、ポリペプチドの産生もしくは有効性またはコードされた核酸のクローニングを促進するように設計された変更を含む。ポリペプチド産生は組換え発現に適した開始コドン(たとえばメチオニンをコードするコドン)の使用によって促進される。メチオニンは後で細胞プロセシング中に除去できる。クローニングはたとえばアミノ酸の付加または変化を伴う制限部位の導入によって促進される。
【0038】
免疫応答を誘発するポリペプチドの能力はエピトープエンハンスメントによって増強される。エピトープエンハンスメントはMHC分子に対するペプチドのアフィニティを改善するアンカー残基の変更を含む技術、T−細胞受容体に対するペプチド−MHC複合体のアフィニティを増加する技術のような種々の技術を使用して遂行できる(Berzofskyら,Nature Review 1:209−219,2001)。
【0039】
好ましくはポリペプチドが精製ポリペプチドである。“精製ポリペプチド”は、それらが天然に会合しているかおよび/または存在する総タンパク質の少なくとも約10%によって表される1つ以上の他のポリペプチドが欠如している環境中に存在する。種々の実施態様において、精製ポリペプチドはサンプルまたは調製物中の総タンパク質の少なくとも約50%、少なくとも約75%または少なくとも約95%を表す。
【0040】
1つの実施態様において、ポリペプチドは“実質的に精製されている”。実質的に精製されたポリペプチドは、ポリペプチドが天然に会合している他のポリペプチドが全くまたはほとんど存在しない環境中に存在する。たとえば、実質的に精製されたスタフィロコッカス・エピデルミディス ポリペプチドは、他のスタフィロコッカス・エピデルミディス ポリペプチドが全くまたはほとんど存在しない環境中に存在する。環境はたとえばサンプルまたは調製物である。
【0041】
“精製された”または“実質的に精製された”という表現は、ポリペプチドの何らかの精製処理が不要であることを含意し、たとえば化学合成されて精製されなかったポリペプチドを含む。
【0042】
ポリペプチドの安定性はポリペプチドのカルボキシル末端またはアミノ末端を修飾することによって強化できる。可能な修飾の例は、アセチル、プロピル、スクシニル、ベンジル、ベンジルオキシカルボニルまたはt−ブチルオキシカルボニルのようなアミノ末端保護基、および、アミド、メチルアミドおよびエチルアミドのようなカルボキシル末端保護基を含む。
【0043】
1つの実施態様において、ポリペプチド免疫原は、カルボキシル末端またはアミノ末端でポリペプチドに共有結合した1つ以上の追加領域または部分を含有している免疫原の一部である。各領域または部分は独立に、以下の特性、すなわち、免疫応答を増進する特性、精製を容易にする特性またはポリペプチドの安定性を助長する特性の少なくとも1つを有している領域または部分から選択される。ポリペプチドの安定性はたとえば、アミノ末端またはカルボキシル末端に存在し得るポリエチレングリコールのような基を使用して強化できる。
【0044】
ポリペプチド精製は、精製を容易にする基をカルボキシル末端またはアミノ末端に付加することによって増進できる。精製を容易にするために使用できる基の例は、アフィニティタグを提供するポリペプチドを含む。アフィニティタグの例は6−ヒスチジンタグ、trpE、グルタチオンおよびマルトース結合タンパク質を含む。
【0045】
ポリペプチドの免疫応答産生能は、一般的に免疫応答を増進する基を使用して強化できる。ポリペプチドの免疫応答を増進するためにポリペプチドに接合できる基の例は、IL−2のようなサイトカインを含む(Buchanら,2000.Molecular Immunology 37:545−552)。
【0046】
ポリペプチドの産生
ポリペプチドは、化学合成を含む技術およびポリペプチド産生細胞からの精製を含む技術のような標準技術を使用して産生できる。ポリペプチドの化学合成技術は当業界で公知である(参照:たとえばVincent,Peptide and Protein Drug Delivery,New York,N.Y.,Decker,1990)。組換えポリペプチドの産生および精製技術も当業界で公知である(参照:たとえばAusubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002)。
【0047】
細胞からのポリペプチドの採取は、ポリペプチドを産生するための組換え核酸技術を使用するのが容易である。ポリペプチドを産生するための組換え核酸技術は、ポリペプチドをコードする組換え遺伝子を細胞内に導入するかまたは細胞中で作製し、ポリペプチドを発現させる段階を含む。
【0048】
組換え遺伝子はポリペプチドをポリペプチド発現用調節要素と共にコードする核酸を含有している。組換え遺伝子は細胞ゲノム中に存在してもよくまたは発現ベクターの一部であってもよい。
【0049】
組換え遺伝子の部分として存在し得る調節要素は、ポリペプチドをコードする配列に天然に会合している調節要素およびポリペプチドをコードする配列に天然には会合していない外因性調節要素を含む。外因性プロモーターのような外因性調節要素は特定宿主体内で組換え遺伝子を発現させるためまたは発現レベルを向上させるために有用である。組換え遺伝子中に存在する調節要素は一般に転写プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーターおよび場合により存在するオペレーターを含む。真核細胞中の好ましいプロセシング要素はポリアデニル化シグナルである。
【0050】
細胞中の組換え遺伝子の発現は発現ベクターの使用によって促進される。好ましくは、組換え遺伝子に加えて発現ベクターも宿主細胞中で自律複製するための複製起点、選択可能マーカー、限定数の有用な制限酵素部位を有しており、潜在的な高コピー数能力を有している。発現ベクターの例は、クローニングベクター、修飾されたクローニングベクター、特別設計のプラスミドおよびウイルスである。
【0051】
遺伝コードの縮重性を理由として、1つの特定ポリペプチドをコードするために多数の異なるエンコーディング核酸配列を使用できる。遺伝コードの縮重性は、ほぼすべてのアミノ酸がヌクレオチドトリプレットすなわち“コドン”の様々な組合せによってコードされることに起因している。アミノ酸は以下のようなコドンによってコードされている:
A=Ala=アラニン:コドンGCA、GCC、GCG、GCU
C=Cys=システイン:コドンUGC、UGU
D=Asp=アスパラギン酸:コドンGAC、GAU
E=Glu=グルタミン酸:コドンGAA、GAG
F=Phe=フェニルアラニン:コドンUUC、UUU
G=Gly=グリシン:コドンGGA、GGC、GGG、GGU
H=His=ヒスチジン:コドンCAC、CAU
I=Ile=イソロイシン:コドンAUA、AUC、AUU
K=Lys=リシン:コドンAAA、AAG
L=Leu=ロイシン:コドンUUA、UUG、CUA、CUC、CUG、CUU
M=Met=メチオニン:コドンAUG
N=Asn=アスパラギン:コドンAAC、AAU
P=Pro=プロリン:コドンCCA、CCC、CCG、CCU
Q=Gln=グルタミン:コドンCAA、CAG
R=Arg=アルギニン:コドンAGA、AGG、CGA、CGC、CGG、CGU
S=Ser=セリン:コドンAGC、AGU、UCA、UCC、UCG、UCU
T=Thr=トレオニン:コドンACA、ACC、ACG、ACU
V=Val=バリン:コドンGUA、GUC、GUG、GUU
W=Trp=トリプトファン:コドンUGG
Y=Tyr=チロシン:コドンUAC、UAU。
【0052】
配列番号1に近縁のポリペプチドの組換え核酸発現に適した細胞は原核細胞および真核細胞である。原核細胞の例は、E.coli.、スタフィロコッカス・エピデルミディスのようなStaphylococcus属の構成員、L.plantarumのようなLactobacillus属の構成員、L.lactisのようなLactococcus属の構成員、B.subtilisのようなBacillus属の構成員、C.glutamicumのようなCorynebacterium属の構成員およびPs.fluorescensのようなpseudomonas属の構成員を含む。真核細胞の例は、哺乳類細胞、昆虫細胞、ならびに、Saccharomyces属の構成員(たとえばS.cerevisiae)、Pichia属の構成員(たとえばP.pastoris)、Hansenula属の構成員(たとえばH.polymorpha)、Kluyveromyces属の構成員(たとえばK.lactisまたはK.fragilis)およびSchizosaccharomyces属の構成員(たとえばS.pombe)のような酵母細胞を含む。
【0053】
組換え遺伝子の産生、細胞内導入および組換え遺伝子発現の技術は当業界で公知である。このような技術の例は、Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002、および、Sambrookら,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989のような参考文献に提供されている。
【0054】
所望の場合には、特定宿主中の発現をコドン最適化によって増進できる。コドン最適化はより好ましいコドンの使用を含む。種々の宿主中のコドン最適化技術は当業界で公知である。
【0055】
配列番号1に近縁のポリペプチドは翻訳後修飾、たとえばN−連結グリコシル化、O−連結グリコシル化またはアセチル化を含有し得る。“ポリペプチド”またはポリペプチドの“アミノ酸”配列という表現は、酵母宿主のような宿主細胞に由来の翻訳後修飾の構造を有している1つ以上のアミノ酸を含有するポリペプチドを含む。
【0056】
翻訳後修飾は化学的にまたは適当な宿主を利用して生起できる。たとえば、S.cerevisiaeにおいては末尾2番目のアミノ酸の種類がN−末端メチオニンを除去するか否かを決定すると考えられる。末尾2番目のアミノ酸の種類はさらに、N−末端アミノ酸がNα−アセチル化されるか否かを決定する(Huangら,Biochemistry 26:8242−8246,1987)。別の例は、分泌リーダー(たとえばシグナルペプチド)の存在によって分泌標的となるポリペプチドである。この場合、タンパク質はN−連結またはO−連結グリコシル化によって修飾されている(Kukuruzinskaら,Ann.Rev.Biochem.56:915−944,1987)。
【0057】
アジュバント
アジュバントは免疫原による免疫応答の発生を補助する物質である。アジュバントは以下に示すような様々なメカニズムの1つ以上によって機能できる:抗原の生物学的または免疫学的半減期を延長する;抗原提示細胞への抗原送達を改善する;抗原のプロセシングおよび抗原提示細胞による抗原の提示を改善する;免疫調節サイトカインの産生を誘発する(Vogel,Clinical Infectious Diseases 30(suppl.3):S266−270,2000)。1つの実施態様においては、1種類のアジュバントが使用される。
【0058】
免疫応答の発生を補助するために様々な異なる種類のアジュバントを使用できる。アジュバントの具体的な例は、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムまたは他のアルミニウム塩、リン酸カルシウム、DNA CpGモチーフ、モノホスホリルリピドA、コレラ毒素、E.coli熱不安定毒素、百日咳毒素、ムラミルジペプチド、フロインド不完全アジュバント、MF59、SAF、免疫刺激複合体、リポソーム、生分解性微小球、サポニン、非イオン性ブロックコポリマー、ムラミルペプチド類似体、ポリホスファゼン、合成ポリヌクレオチド、IFN−γ、IL−2、IL−12およびISCOMSを含む(Vogel Clinical Infectious Diseases 30(suppl 3):S266−270,2000,Kleinら,Journal of Pharmaceutical Sciences 89:311−321,2000,Rimmelzwaanら,Vaccine 19:1180−1187,2001,Kersten Vaccine 21:915−920,2003,O’Hagen Curr.Drug Target Infect.Disord.,1:273−286,2001)。
【0059】
防御免疫が誘発される患者
“患者”はスタフィロコッカス・エピデルミディスに感染され得る哺乳動物を表す。患者は予防的または治療的に処置され得る。予防的処置は、スタフィロコッカス・エピデルミディスに対する易感染性または重篤な感染を抑制するために十分な防御免疫を提供する。治療的処置はスタフィロコッカス・エピデルミディス感染の重篤度を低下させるために行われる。
【0060】
予防的処置は、この文中に記載の免疫原を含有するワクチンを使用して実施できる。このような処置は好ましくはヒトに対して行われる。ワクチンは全ての住民またはスタフィロコッカス・エピデルミディス感染の危険が高い人々に投与できる。
【0061】
スタフィロコッカス・エピデルミディス感染の危険が高くなっている人々としては、医療従事者、入院患者、免疫系機能の低下した患者、外科手術を受けている患者、カテーテルまたは血管デバイスのような異物インプラントが設置された患者、免疫低下につながる治療を受けている患者、異物を含む診断処置を受けている患者、および、火傷または怪我の危険が高い職業に従事する人々などがある。
【0062】
診断または治療用の処置に使用される異物は、留置カテーテルまたは埋め込みポリマーデバイスを含む。スタフィロコッカス・エピデルミディス感染に関連する異物の例はレンサ球菌血症/心内膜炎(たとえば、血管内カテーテル、人工血管、ペースメーカー誘導、除細動器システム、人工心臓弁および左心室補助デバイス);腹膜炎(たとえば、脳室腹膜脳脊髄液(CSF)シャントおよび連続的外来腹腔透析カテーテルシステム);脳室炎(たとえば、内外CSFシャント);および慢性ポリマー関連症候群(たとえば人工関節(股関節部)の弛み、シリコーンプロテーゼによる乳房再建後の線維被膜拘縮症候群および白内障手術に引き続いて人工眼内レンズを埋め込んだ後の遅発症性内眼球炎)を含む(Heilmann and Peters,Biology and Pathogenicity of Staphylococcus epidermidis,In:Gram Positive Pathogens,Eds.Fischettiら,American Society for Microbiology,Washington D.C.2000)。
【0063】
スタフィロコッカス・エピデルミディスが感染できるヒト以外の患者は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ウマ、イヌ、ネコおよびマウスを含む。ヒト以外の患者の処置は、愛玩動物および飼育動物を保護するためならびに特定処置の有効性を評価するために有用である。
【0064】
1つの実施態様において、異物を含む治療処置または医療処置を行う患者には同時に予防処置を行う。追加の実施態様において、処置の約1カ月、約2カ月または約2から6カ月前に患者を免疫感作する。
【0065】
併合ワクチン
配列番号1に近縁のポリペプチドは免疫応答を誘発するために単独で使用されるかまたは他の免疫原と併用される。存在し得る追加の免疫原は、1種以上の追加のスタフィロコッカス・エピデルミディス免疫原、S.aureus、S.haemolyticus、S.warneriまたはS.lugunensiのような1種以上の他のStaphylococcus生物を標的とする1種以上の免疫原、および/または、他の感染性生物を標的とする1種以上の免疫原を含む。
【0066】
1種以上の追加の免疫原の例は、ORP0657n近縁ポリペプチド(Andersonら,国際公開WO 05/009379);ORF0657/ORF0190ハイブリッドポリペプチド(Andersonら,国際公開WO 05/009378);sai−1近縁ポリペプチド(Andersonら,国際公開WO 05/79315);ORF0594近縁ポリペプチド(Andersonら,国際公開WO 05/086663);ORF0826近縁ポリペプチド(Andersonら,国際公開WO 05/115113);PBP4近縁ポリペプチド(Andersonら,国際公開WO 06/033918);AhpC近縁ポリペプチドおよびAhpC−AhpF組成物(Kellyら,国際公開WO 06/078680);S.aureus5型および8型の被膜多糖(Shinefieldら,N.Eng.J.Med.346:491−496,2002);コラーゲン付着因子、フィブリノーゲン結合性タンパク質および凝集性因子(Mamoら,FEMS Immunology and Medical Microbiology 10:47−54,1994,Nilssonら,J Clin.Invest.101:2640−2649,1998,Josefssonら,The Journal of Infectious Diseases 184:1572−1580,2001)および多糖細胞内付着因子およびそのフラグメント(Joyceら,Carbohydrate Research 338:903−922,2003)を含む。
【0067】
投与
免疫原はこの文中に提供した指針を当業界で公知の技術と共に使用して配合し患者に投与できる。薬剤投与の一般的な指針はたとえばVaccines Eds.Plotkin and Orenstein,W.B.Sanders Company,1999;Remington’s Pharmaceutical Sciences 20th Edition、Ed.Gennaro,Mack Publishing,2000;およびModern Pharmaceutics 2nd Edition,Eds.Banker and Rhodes,Marcel Dekker,Inc.,1990に提供されている。
【0068】
医薬的に許容される担体は、免疫原の保管および患者への免疫原の投与を容易にする。医薬的に許容される担体は、バッファ、注射用滅菌水、普通の生理食塩水またはリン酸塩緩衝生理食塩水、ショ糖、ヒスチジン、塩およびポリソルベートのような種々の成分を含有し得る。
【0069】
免疫原は、皮下、筋肉内または粘膜のような様々な経路によって投与できる。皮下および筋肉内投与はたとえば針またはジェット注射器を使用して実行できる。
【0070】
適当な投薬計画は好ましくは、患者の年齢、体重、性別および健康状態、投与経路、所望の効果、使用される特定化合物を含む当業界で公知の要因を考慮して決定される。免疫原は多回投与ワクチンフォーマットで使用できる。一回の投与量は1.0μgから1.0mgの範囲の総ポリペプチド量から成るのが望ましい。本発明の種々の実施態様において、この範囲は、5.0μgから500μg、0.01mgから1.0mgまたは0.1mgから1.0mgである。
【0071】
投与の適正時期は当業界で公知の要因に依存する。初回投与後、抗体価を維持またはブーストするために引き続いて一回以上のブースター投与を行ってもよい。投与計画の一例は、初日、1カ月後、4、6または12カ月後の三回目の投与、さらに必要な間隔を置いた追加のブースター投与であろう。
【0072】
抗体の生成
配列番号1に近縁のポリペプチドを使用してポリペプチドまたはスタフィロコッカス・エピデルミディスに結合する抗体および抗体フラグメントを生成できる。このような抗体および抗体フラグメントは、ポリペプチドの精製、スタフィロコッカス・エピデルミディスの同定、または、スタフィロコッカス・エピデルミディス感染に対する治療的もしくは予防的処置における使用を含む様々な用途を有している。
【0073】
抗体はポリクローナルでもモノクローナルでもよい。ヒト抗体を含む抗体の産生および使用技術は当業界で公知である(Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,1987−2002,Harlowら,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988,Kohlerら,Nature 256:495−497、1975,Azzazyら,Clinical Biochemistry 35:425−445,2002,Bergerら,Am.J.Med.Sci.324(1):14−40,2002)。
【0074】
抗体機能には適当なグリコシル化が必要である(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002,Liら,Nature Biotechnology 24(2):210−215,2006)。天然に存在する抗体はH鎖に付着した少なくとも1つのN−連結糖質を含有している(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002)。付加的なN−連結糖質およびO−連結糖質が存在してもよくこれらもまた抗体機能に重要であろう(同上)。
【0075】
効率的な翻訳後修飾を得るために哺乳類宿主細胞および非哺乳類細胞を含む様々な種類の宿主細胞を使用できる。哺乳類宿主細胞の例は、チャイニーズ・ハムスター卵巣(Cho)、HeLa、C6、PC12およびミエローマ細胞を含む(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002,Persicら,Gene 187:9−18,1997)。非哺乳類細胞はヒトグリコシル化を複製するように修飾できる(Liら,Nature Biotechnology 24(2):210−215,2006)。糖加工されたPichia pastorisはこのような修飾された非哺乳類細胞の一例である(Liら,Nature Biotechnology 24(2):210−215,2006)。
【0076】
核酸ワクチン
配列番号1に近縁のポリペプチドをコードする核酸は治療的投与に適したベクターを使用して患者体内に導入できる。適切なベクターは許容できない副作用を生じることなく標的細胞に核酸を送達できる。使用できるベクターの例は、プラスミドベクターおよびウイルス主体ベクターを含む(Barouch J.Pathol.208:283−289,2006,Eminiら,国際公開WO 03/031588)。
【0077】
細胞発現は、所望のポリペプチドをコードしている遺伝子発現カセットを使用して遂行される。遺伝子発現カセットは、有益な効果を与えるために十分な量の核酸を標的細胞内部で産生しプロセシングする調節要素を含有している。
【0078】
ウイルスベクターの例は、第一および第二世代のアデノベクター、ヘルパー依存性アデノベクター、アデノ関連ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アルファウイルスベクター、ベネズエラウマ脳炎ウイルスベクターおよびプラスミドベクターを含む(Hittら,Advances in Pharmacology 40:137−206,1997,Johnstonら,米国特許No.6,156,588,Johnstonら,国際公開WO 95/32733,Barouch J.Pathol.208:283−289,2006,Eminiら,国際公開WO 03/031588)。
【0079】
アデノベクターは、ヒトまたは動物の体内で見出されるような様々なアデノウイルス血清型に基づく。動物アデノウイルスベクターの例は、ウシ、ブタ、チンパンジー、ネズミ、イヌおよびトリ(CELO)を含む(Eminiら,国際公開WO 03/031588,Collocaら,国際公開WO 05/071093)。ヒトアデノウイルスは、2型(“Ad2”)、4型(“Ad4”)、5型(“Ad5”)、6型(“Ad6”)、24型(“Ad24”)、26型(“Ad26”)、34型(“Ad34”)および35型(“Ad35”)のようなグループB、C、DまたはEの血清型を含む。
【0080】
核酸ワクチンは様々な技術および投与計画を使用して投与できる(Eminiら,国際公開WO 03/031588)。たとえば1つ以上の電気パルスを伴ってまたは伴わずに注射によってワクチンを筋肉内投与できる。電気媒介移入は体液性および細胞性の双方の免疫応答を刺激することによって遺伝免疫を補助できる。投与計画の例は、プライム−ブースト法および非対応プラスム−ブースト法を含む(Eminiら,国際公開WO 03/031588)。
【実施例】
【0081】
実施例は本発明の様々な特徴を例示するために提供されている。実施例はまた本発明を実施するための有用な方法を例示する。これらの実施例は特許請求の範囲に記載された本発明を限定するものではない。
【0082】
実施例1:防御免疫原の産生、精製および配合
この実施例は、配列番号2の産生、精製および配合を記載する。配列番号2は以下に記載の実施例において配列番号1に近縁のポリペプチドの防御免疫提供能力を示すために使用した。配列番号2は配列番号1のHisタグ付き誘導体である。
【0083】
ORF2695eのクローニング、発現および修飾
ORF2695eの完全読取枠を、推定シグナル配列を同定するように設計されたプログラムSignalPを使用して解析した。aa28の後方に開裂可能部位Aが検出された。したがってPCRプライマーはaa29からタンパク質の末端までをコードするヌクレオチドを増幅するように設計した。pET−16bベクターへのクローニングを容易にするための制限部位も追加した、制限部位は、カルボキシル末端のXhoI部位およびアミノ末端のBpuI部位であった(表1)。精製を容易にするために最終発現構築物がアミノ末端にHISタグを有するように設計した。
【0084】
【表1】

【0085】
スタフィロコッカス・エピデルミディス菌RP62A株に由来のゲノムDNAを鋳型とし上記プライマーを使用したPCRによって遺伝子を作製した。PCR反応は、94℃で5分間維持し、次いで94℃で45秒、56℃で45秒、72℃で3分を30サイクル行った後、72℃で10分間維持し、4℃で停止した。PCR産物を0.8%アガロースゲルで精製し、Qiagenゲル抽出キットで洗浄し、XhoIおよびBlpIによって37℃で5.5時間切断した。
【0086】
切断フラグメントをフェノール/クロロホルム抽出し、酵素活性を除去するためにEtOH沈降させ、サンプルを濃縮した。フラグメントをEBバッファ(10mMのトリス−HCl pH8.5)に再懸濁させ、XhoI、BlpIで切断したpET−16bに連結するために使用した。連結はRoche高速連結キットを用いてモル比6:1(インサート対ベクター)で行った。連結反応物によってNovaBlueコンピテント細胞を形質転換し、カルバミシリン(50μg/ml)耐性クローンを使用してミニプレップを調製した。ミニプレッププラスミドを制限消化によってスクリーニングした。2つのクローンを選択して配列を検証し、発現を検証するためにBLR(DE3)コンピテント細胞を形質転換した。
【0087】
IPTG誘発後の発現はBLR(DE3)形質転換プレートから得られたクローナル単離物の6mlの培養物から確認した。サンプルを、非誘発、誘発、誘発可溶性画分および誘発不溶性画分として照合した。発現は極めて高度であったがすべての産生物が不溶性画分中に存在することが知見された。
【0088】
配列番号2の精製
凍結した組換えE.coli細胞ペースト(14グラム)を解凍し、2倍容の溶解バッファ(50mMのリン酸ナトリウム、pH8.0、0.15MのNaCl、2mMの塩化マグネシウム、10mMのイミダゾール、0.1%のトゥイーン−80)に再浮遊させ、Benzonase(EM #1.01697.0002)を250単位/mLで細胞浮遊液に添加し、プロテアーゼ阻害カクテルを50mlあたり1錠で細胞浮遊液に添加した(CompleteTM、EDTA−非含有、Roche #1873580)。微量流動化装置で溶菌液を調製した。溶菌液を40℃、10,000×gで45分間遠心することによって清澄化した。上清を25mmの0.2ミクロンMillipore Millexシリンジフィルターで濾過した。濾過した上清をNi−NTAアガロースクロマトグラフィー樹脂(Qiagen #30250)に添加し、スラリーを4℃で約16時間混合した。クロマトグラフィー樹脂のスラリーをクロマトグラフィーカラムに注ぎ、非結合画分をカラム出口から重力によって収集した。カラムを10カラム容量の洗浄バッファ(50mMのリン酸ナトリウム、pH8.0、0.5MのNaCl、2mMの塩化マグネシウム、0.1%のトゥイーン−80および20mMのイミダゾール)で洗浄した。カラムを6カラム容量の溶出バッファ(50mMのリン酸ナトリウム、pH8.0、2mMの塩化マグネシウム、0.1%のトゥイーン−80および0.3Mのイミダゾール)で溶出させた。
【0089】
タンパク質を含有する画分をSDS/PAGEに基づいて同定し、最大タンパク質濃度を有する画分をプールしてNi−IMAC産物を調製した。Ni−IMAC産物をSECによって分画した。生成したタンパク質を含有するSEC画分をクーマシー染色を用いたSDS/PAGEによって同定した。生成物含有SEC画分をプールしてSEC産物を調製した。濾液を滅菌濾過し、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバントに0.2mg/mlの最終濃度で吸着させた。
【0090】
実施例2:ラットの留置カテーテルモデル(多回免疫感作)
配列番号2およびラットの留置カテーテルモデルを使用して、配列番号1に近縁のポリペプチドを使用した能動免疫が埋め込みデバイスのぶどう球菌感染を阻害できるか否かを評価した。配列番号2を含有するワクチンは実施例1に記載のようにして調製した。
【0091】
3から4週齢のラットを購入し、0、14および21日にアルミニウムヒドロキシドホスフェート(“AHP”)上の免疫原のIP注射によって免疫感作するか(Kleinら,Journal of Pharmaceutical Sciences 89:311−321,2000)、または、アジュバント単独で擬似免疫感作した。35日目に手術によって動物の頚動脈に留置カテーテルを配置した。手術後約10日間は動物を安静に保ち、この時点で亜致死量のスタフィロコッカス・エピデルミディス菌RP62A株をIV(5−7×10 CFU)によって抗原投与した。抗原投与の24時間後にラットを死亡させ、カテーテルを取出した。
【0092】
マンニトール塩寒天プレート上で全カテーテルを培養することによってカテーテル上の細菌の存在を評価した。プレート上に何らかの増殖の徴候が観察されたならばカテーテルを培養陽性と判定した(表2)。擬似免疫動物では>80%のカテーテルがコロニー化していた。抗原投与した菌株によってコロニー化したカテーテルが<50%であるならば免疫原は防御性であると考えることができる。
【0093】
【表2】

【0094】
以下の特許請求の範囲内で他の実施態様が存在する。いくつかの実施態様を示して、それらを説明したが、本発明の要旨および範囲を逸脱することなく様々な変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含み、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)に対する防御免疫を提供しかつ配列番号3によって提供されるアミノ酸配列を有していないポリペプチド免疫原。
【請求項2】
前記ポリペプチドが配列番号1に少なくとも94%一致するアミノ酸配列から構成されている請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが本質的に配列番号1から構成されている請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドが配列番号1またはメチオニン−配列番号1のアミノ酸配列から構成されている請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
配列番号1に少なくとも90%一致するアミノ酸配列とカルボキシル末端またはアミノ末端で前記アミノ酸配列に共有結合した1つ以上の追加の領域または部分とを含み、各領域または部分が独立に、以下の特性、すなわち、免疫応答を増強する特性、精製を容易にする特性またはポリペプチド安定性を助長する特性の少なくとも1つを有している領域または部分から選択される免疫原。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の免疫原を免疫有効量で医薬的に許容される担体と共に含み、患者の体内で防御免疫応答を誘発できる組成物。
【請求項7】
前記組成物がさらにアジュバントを含む請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む組換え遺伝子を含む核酸。
【請求項9】
前記核酸が発現ベクターである請求項8に記載の核酸。
【請求項10】
請求項8に記載の核酸を含む組換え細胞。
【請求項11】
(a)請求項10に記載の組換え細胞をポリペプチドが発現される条件下で増殖させる段階と、
(b)前記ポリペプチドを精製する段階と、
を含む、防御免疫応答を提供するスタフィロコッカス・エピデルミディス ポリペプチドの製造方法。
【請求項12】
配列番号1に少なくとも90%一致するアミノ酸配列を含む免疫原を治療有効量で患者に投与する段階を含む、患者の体内で防御免疫応答を誘発する方法。
【請求項13】
前記患者がヒトである請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者がスタフィロコッカス・エピデルミディス感染に対して予防的に処置される請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項11に記載の方法で製造されたポリペプチドを免疫有効量で患者に投与する段階を含む、患者の体内で防御免疫応答を誘発する方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2010−521965(P2010−521965A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554536(P2009−554536)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/003389
【国際公開番号】WO2008/115415
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】