説明

スダチポリフェノールを含有する発芽玄米

【課題】スダチポリフェノールを含有する発芽玄米の提供を課題とする。
【解決手段】スダチの搾汁残渣等の乾燥粉末に食品加工用酵素を処理して得られた反応液を使用して、玄米を浸漬して、発芽玄米とすることにより、簡便、安価にスダチポリフェノールを含有する発芽玄米製造することができるようになった。そのため、安価にスダチポリフェノールを含有する発芽玄米を供給でき、メタボリック・シンドロームの予防と改善に実用化が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタボリックシンドロームの予防及び/又は治療に有効なスダチポリフェノールを含有する発芽玄米に関するものである。
【背景技術】
【0002】
玄米は健康食品として注目されているが、パサパサとした食感が嫌われ、続けて摂食するのは難しい状況である。また、精白米と共に炊飯することが困難であり、それも玄米の摂食を難しいものにしている。そこで、これらの問題を解決するために発芽玄米が開発されている。
発芽玄米では発芽時の酵素の働きで、玄米の胚乳に元々含有されていたデンプンや蛋白質が分解され、新しく有効な成分ができ、甘みが増すようになる。そのため、炊飯に手間を要する玄米と違い白米と同じように炊くことができ、発芽玄米を白米に混ぜて炊くこともできる。発芽玄米は白米よりも栄養豊富であり、普通の玄米より消化も良く味も良く、比較的口にしやすくなっている。
【0003】
更に、香りや機能性を持たせるために、この玄米にポリフェノールを含有する食品添加物を配合することが行なわれている(特許文献1)。そして、玄米が炊飯される際の加熱による影響が検討されている。即ち、これらの食品添加物の加熱によるポリフェノールへの影響と、抗酸化活性への影響が検討されている。特許文献1では、6種類の食品添加物(グレープスキン色素、赤キャベツ色素、ビートレッド、カカオ色素、アナト一色素、ガーデニアイエロー)と2種類のポリフェノール(ヘスペリジン、ケルセチン)が使用された。
スダチには、スダチ特有のポリメトキシフラボノイド(スダチポリフェノール)が含まれており、これらのポリフェノールには、糖尿病や高脂血症と言った生活習慣病の予防と改善をもたらす効果があると報告されている(非特許文献1)。
【0004】
玄米等とポリフェノールを含む食品添加物等を配合することは、上記のように知られていたが、生活習慣病に有用なスダチポリフェノールを強化した発芽玄米については、生活習慣病の予防と改善を齎すために有効であると考えられながら、これまで試みられておらず、また、その製造方法についても、まだ知られていない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−201383号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】近畿中国四国農業研究センター研究報告第5号19〜84頁2005年「カンキツ果実の機能性成分の検索とその有効利用に関する研究」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、スダチポリフェノールを含有する発芽玄米を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、スダチの搾汁残渣からスダチポリフェノールを効率よく大量に製造する方法をこれまで鋭意検討してきた。その中で、スダチの搾汁残渣(乾燥粉末)を市販の食品加工用酵素で処理した反応溶液に、玄米を浸漬し発芽玄米を製造することによって、反応溶液中の水溶性スダチポリフェノール(配糖体を含む)を効率的に発芽玄米中に含浸できることを見出した。また、発芽玄米中に取り込まれた水溶性スダチポリフェノールは、玄米中の酵素によって配糖体の糖部分が脱離して、スダチチンとデメトキシスダチチンとして玄米中に存在することを見出した。本発明者らはこれらの知見に基き本発明を完成した。
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)スダチポリフェノールを含有する発芽玄米。
(2)乾燥発芽玄米100g中のスダチチンの含量が1611μgより多く含まれている、上記(1)に記載のスダチポリフェノールを含有する発芽玄米。
(3)乾燥発芽玄米100g中のデメトキシスダチチンの含量が578μgより多く含まれている、上記(1)または(2)に記載のスダチポリフェノールを含有する発芽玄米。
(4)スダチの搾汁残渣(乾燥粉末)を食品加工用酵素で処理した反応溶液に、玄米を浸漬しスダチポリフェノールを含有する発芽玄米を製造する方法。
(5)食品加工用酵素がプロテアーゼである、上記(4)の発芽玄米を製造する方法。
(6)食品加工用酵素がコクラーゼSS、デナプシン10P、デナチームAPから選択されるものである、上記(4)または(5)に記載の発芽玄米を製造する方法。
(7)乾燥発芽玄米100g中のスダチチンの含量が1611μgより多く含まれている、上記(4)〜(6)のいずれかに記載の発芽玄米を製造する方法。
(8)乾燥発芽玄米100g中のデメトキシスダチチンの含量が578μgより多く含まれている、上記(4)〜(7)のいずれかに記載の発芽玄米を製造する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスダチポリフェノールを含有する発芽玄米は、糖尿病疾患やメタボリック・シンドロームに対する予防または改善のためにスダチポリフェノールを用いた食材として、毎日摂食するものとして非常に有用である。しかも、製造方法は簡便であり、大量製造が可能なものとなっている。即ち、スダチの搾汁残渣またはスダチ果皮と汎用の食品加工用酵素を反応させて得られる反応液に玄米を含浸させるだけで、反応液中の水溶性スダチポリフェノール(配糖体を含む)が玄米中に浸透し、しかも配糖体の糖が外れて、スタチチンやデメトキシスダチチン等が濃縮された形で含浸されている。このように、本発明のスダチポリフェノールを含有する発芽玄米は、高含量でスダチチン等のスダチポリフェノールを含有する食材であり、毎日摂食可能な食材であるため、糖尿病疾患やメタボリック・シンドロームに対する予防または治療のために利用価値の高いものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スダチの搾汁残渣を酵素処理(デナプシン10P)して得られた反応液上清中のHPLC分析チャートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「発芽玄米」とは、玄米を約一両日、約30℃前後のお湯に浸し、1mmほどの芽が出た状態にしたものをいう。
本発明の「スダチの搾汁残渣またはスダチ果皮」とは、スダチからスダチ果汁を搾汁する時に副生する残渣であり、また、この残渣を内外果皮分離機(スライサー)で処理することで得られる外果皮のことを言う。なお、この搾汁残渣は乾燥後、粉砕して乾燥粉末のスダチパウダーとして使用することが望ましい。
本発明の「食品加工用酵素」とは、マグナックスJW−2、コクラーゼSS、デナプシン10P、グルクS、デナチームAP、グルク100、グルコチーム♯20000、セルロシンT3、セルレースナガセの中より一つ以上を選択して使用するものである。即ち、マグナックスJW−2とは、洛東化成工業製のグルコアミラーゼである。コクラーゼSSは三菱化学フーズ製の蛋白分解酵素剤であり、デナプシン10Pとはナガセケムテックス製の酸性プロテアーゼからなる蛋白分解酵素剤である。グルクS、グルク100は天野製薬製のα−アミラーゼとグルコアミラーゼからなる糖化酵素剤である。デナチームAPはナガセケムテックス製の中性プロテアーゼの蛋白分解酵素剤であり、グルコチーム♯20000はナガセケムテックス製のグルコアミラーゼの糖化酵素剤ある。セルロシンT3はエイチビイアイ製のセルラーゼからなる糖化酵素剤である。セルレースナガセは、ナガセケムテックス製のセルラーゼからなる糖化酵素剤である。
【0013】
本発明の「スダチポリフェノール」とは、スタチに含有されるポリメトキシフラボノイドおよびそれらの配糖体のことを言う。スタチに含有されるポリメトキシフラボノイドとしては、スダチチン、デメトキシスダチチン、ノビレチン、タンゲレチンなどが主なものとして挙げることができる。
本発明の「反応液」とは、反応液を静置若しくは遠心分離を行なうことにより得られる反応液上清のことを言う。反応液は、この上清を更にメンブランフィルター等で濾過されてもよい。
本発明の「含浸」とは、玄米を反応液に浸漬し、反応溶液中のスダチポリフェノールを玄米中に移行させることを言う。含浸させる温度、時間は特に限定はなく、適宜、含量の最適化を計るために選択することができる。
【実施例】
【0014】
次に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)スダチポリフェノールを含有する発芽玄米の製造
スダチ果皮乾燥粉末の水溶性成分を玄米の浸漬水として使用して吸水させ、発芽玄米を製造した。
実施例2に示すように、1.0gのスダチ粉末と20mlの各種酵素溶液(0.5%)を反応させた後、反応液を遠心分離(4060g、10分間)し、上清液をメンブランフィルター(φ1.2μm)で濾過した。この濾液5mlを50ml容バイアルビンに採り、15gの玄米を加えて良く混和して浸漬させた後、28℃で64時間放置したものを発芽玄米(生)とした。さらに70℃で22時間乾燥し、乾燥発芽玄米とした。
得られた乾燥発芽玄米をブレンダーで粉砕し、メタノール抽出を行い、デメトキシスダチチンとスダチチンを分析した。以下の表1に酵素(5種類)で処理したスダチ粉末水溶液を使用した場合、酵素処理なしのスダチ粉末水溶液を使用した場合、水ではなくエタノール溶液(酵素なし)を使用した場合の試作発芽玄米(乾燥)中のデメトキシスダチチンとスダチチンの含有量(μg/100g)を示した。
【0015】
【表1】

【0016】
なお、原料として使用したスダチ乾燥粉末1g当たりから本発明の発芽玄米に移行したデメトキシスダチチンとスダチチンの量(mg/g粉末)を示すと以下の表2のようになる。併せて試験例1に示される酵素反応溶液の水溶性スダチポリフェノールの量を記載した。
【0017】
【表2】

【0018】
また、試験例1に示される酵素反応溶液中のデメトキシスダチチンの含量(mg/g粉末)、スダチチンの含量(mg/g粉末)を対比すると、以下の表3、表4のように、酵素反応溶液中のデメトキシスダチチンとスダチチンの存在量以上の量が発芽玄米に移行吸収されたことが明らかになった。
【0019】
【表3】

【0020】
【表4】

【0021】
以上の表1〜表4の結果から、エタノールを使用した場合はアグリコンとして抽出されたデメトキシスダチチンとスダチチンが玄米に吸収され酵素的な作用を受けることなく発芽玄米に移行したのに対して、水を使用(酵素なし)した場合は水で抽出された配糖体を含むスダチポリフェノール成分が玄米に吸収され、発芽する過程で酵素反応によりデメトキシスダチチンとスダチチンが生成したものと考えられる。さらに食品加工用の酵素製剤を使用することでこれらの生成効率が上昇した結果となっている。
【0022】
(実施例2)スダチ搾汁残渣と各種食品加工用酵素との反応
スダチ搾汁残渣を乾燥後、粉砕してスダチパウダーとした。このパウダーに食品加工用酵素剤を作用させ、機能性成分の可溶化を試みた。即ち、スダチパウダー0.5gを15ml容遠心管に採り、10mlの0.5%食品加工用酵素水溶液を添加し35℃で6時間、続いて50℃で15時間反応後、沸騰温浴中で5分間処理した。これらの反応液を遠心分離後、上清をメンブランフィルター(φ0.45μm)でろ過した溶液について酵素処理による可溶化物としてポリフェノール量(配糖体を含む)を試験例1の方法により分析した。
【0023】
(試験例1)スダチポリフェノールの定量
(1)ポリフェノール測定方法
ポリフェノールの定量はFolin−Denis法により行った。すなわち1mlの試料溶液と0.5mlの1Nフェノール試薬(フォーリン・チオカルト試薬)、5mlの0.4M NaCOを試験管内で混和後、30℃で30分間反応した。反応液を室温に冷却後、660nmの吸光度を測定した。定量のための検量線の作成には没食子酸を使用し、試料中のポリフェノール量は没食子酸の相当量で表した。
(2)ポリフェノール量の測定結果
実施例1で得られた各酵素処理溶液中のポリフェノール量を表1に示した。酵素を添加せず(酵素なし)に同じ条件で処理した場合、すなわち水抽出により可溶化したスダチパウダー1g当たりのポリフェノール量は37.1mgであり、各種の酵素処理によって増加する場合と減少する場合があった。ポリフェノールの回収率の高い順に、その結果を示す。
【0024】
(3)ポリフェノール中のデメトキシスダチチンとスダチチンの定量
デメトキシスダチチンとスダチチンの定量分析には日立製高速液体クロマトグラフシステムを使用した。分析条件を以下のように設定した。
[カラム] Wakosil−II 5C18RS (4.6mmID×250mm)
[移動相] A:NaHPO(pH2.3), B:CHCN
分析開始から40分かけてA(88%)/B(12%)→A(40%)/B(60%)に直線グラジエント、40分から50分までA(40%)/B(60%)で分析する。
[カラム温度] 40℃
[流速] 1.0ml/min
[検出] 325nm
実施例1で得られた各酵素処理溶液中のデメトキシスダチチンとスダチチンの定量を行なった。その結果を併せて表5に示し、スダチポリフェノールの分析例を図1に示した。
【0025】
【表5】

【0026】
上記表1から、スダチポリフェノールを効率的に回収単離するには、マグナックスJW−2、コクラーゼSS、デナプシン10P等の酵素でスダチパウダーを反応させることが必要であることが分かった。
また、スダチポリフェノールの中で、スダチチンを効率的に回収するためには、デナプシン10Pが最もよく、酵素なしの場合と比較すると、約2.1倍の回収効率が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のスダチポリフェノールを含有する発芽玄米は、スダチポリフェノールとして、デメトキシスダチチンとスダチチンを豊富に含有したものである。それ故、本発明の発芽玄米を白米と混合して炊飯し、摂食することにより、積極的にスダチポリフェノールを摂取できるようになった。その結果、発芽玄米の利用方法として、糖尿病や生活習慣病等の疾患の予防や治療にも可能性が広がることとなった。
また、本発明のスダチポリフェノールを含有する発芽玄米の製造方法は、簡便、安価な方法であり、スダチポリフェノールを含有する発芽玄米の大量製造方法として有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スダチポリフェノールを含有する発芽玄米。
【請求項2】
乾燥発芽玄米100g中のスダチチンの含量が1611μgより多く含まれている、請求項1に記載のスダチポリフェノールを含有する発芽玄米。
【請求項3】
乾燥発芽玄米100g中のデメトキシスダチチンの含量が578μgより多く含まれている、請求項1または2に記載のスダチポリフェノールを含有する発芽玄米。
【請求項4】
スダチの搾汁残渣(乾燥粉末)を食品加工用酵素で処理した反応溶液に、玄米を浸漬しスダチポリフェノールを含有する発芽玄米を製造する方法。
【請求項5】
食品加工用酵素がプロテアーゼである、請求項4の発芽玄米を製造する方法。
【請求項6】
食品加工用酵素がコクラーゼSS、デナプシン10P、デナチームAPから選択されるものである、請求項4または5に記載の発芽玄米を製造する方法。
【請求項7】
乾燥発芽玄米100g中のスダチチンの含量が1611μgより多く含まれている、請求項4〜6のいずれかに記載の発芽玄米を製造する方法。
【請求項8】
乾燥発芽玄米100g中のデメトキシスダチチンの含量が578μgより多く含まれている、請求項4〜7のいずれかに記載の発芽玄米を製造する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−21949(P2013−21949A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158256(P2011−158256)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【出願人】(511174890)徳島製麹株式会社 (2)
【Fターム(参考)】