説明

スダチ芳香成分による血糖値改善組成物

【課題】生活習慣病、特に血糖値の改善に有効な芳香組成物を提供する。
【解決手段】スダチ果皮からスダチ精油成分を濃縮分離し、このスダチ精油成分を使用して、スダチ由来の芳香成分の雰囲気下で数週間生活すると、血糖値が有意に降下することを見出した。この結果、生活習慣病、特に血糖値の改善のアロマテラピーとしてスダチ精油成分を有効成分とする芳香組成物が提供できるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスダチ芳香成分を有効成分とする血糖値改善組成物に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
近年、アロマテラピーとして、植物から抽出した精油をかいだり、塗ったりして、生理機能を整える療法がよく新聞紙上で紹介されている。また、精油には鎮静効果やストレス緩和効果などが知られている(特許文献1)。また、その精油の香りの効果は、芳香物質がきゅう覚を刺激し、交感神経系に対する活性化や副交感神経系に対する活性化によるものであるとされている(特許文献2、3)。
そして、これらの香り(香料)を利用して、肥満改善(痩身)に利用されたり(特許文献4)、脂肪蓄積抑制に使用されている(特許文献5)。更には、ホルモンバランスを改善し、エストロゲンの分泌促進の治療にも効果があると報告されている(特許文献6)。
これら以外にも皮膚免疫機能改善のためにも香料が使用されている(特許文献7)。このように植物から抽出した精油(香料)は、多くの疾患の症状改善や治療に利用されている。
しかしながら、このようなアロマテラピーにおいて、スダチ由来の精油が有効とする報告はなく、生活習慣病の症状改善や治療に有効であるとする報告も見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−172781号公報
【特許文献2】特開2002−193824号公報
【特許文献3】特開2002−265977号公報
【特許文献4】再公表2007/063648号公報
【特許文献5】特開2005−194252号公報
【特許文献6】特開2006−241044号公報
【特許文献7】特開2003−206237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、スダチ由来の精油(芳香成分)による生活習慣病の改善用芳香組成物を提供することにある。特に、スダチ由来の芳香成分による、新たな血糖値改善用芳香組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが、スダチの搾汁残渣あるいはスダチの果皮から得られた精油(芳香成分)に関する研究を進めていたところ、スダチの芳香成分が糖尿病モデルマウスの血糖値を改善あるいは降下させることを見出した。そこで、更に検討を進めたところ、スダチの芳香が消えると、改善されていた血糖値が上昇することを見出した。即ち、スダチ芳香成分には、血糖値改善(血糖値降下)作用を示す芳香成分が存在することが明らかとなった。そこで、他の柑橘類と同様に共通して含有される成分として、リナロール、p−シメンの血糖降下作用を個別に確認したが、具体的にこれらの成分に関して血糖降下作用を見出すことはできなかった。また、この血糖降下作用は、柚子の精油成分には見出すことができなかった。このことから、本発明者らは、スダチの精油成分に含まれる特有の成分(p−シメン、リナロール以外の精油成分)に、血糖降下作用があることを見出した。本発明は、これらの知見に基き完成したものである。
【0006】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)スダチ精油成分を有効成分とする、血糖値改善・血糖降下を促進するための芳香組成物。
(2)上記スダチ精油成分が、蒸留法又は溶媒抽出法で分離されたものであることを特徴とする、上記(1)に記載の芳香組成物。
(3)上記蒸留法又は溶媒抽出法がスダチ果皮をエタノール水溶液抽出するものであることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の芳香組成物。
(4)上記蒸留法又は溶媒抽出法が超音波霧化分留法であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の芳香組成物。
(5)上記芳香組成物が、上記精油成分を混入した香水や石鹸、ジャンプー、風呂の入浴剤、ローションのいずれかであることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の芳香組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の芳香組成物は、血糖値を改善し、血糖値を低下させる作用を有するため、糖尿病患者の生活環境の改善の一助として、本発明の芳香組成物を用いたアロマテラピーにより、糖尿病の治療支援を行うことが出る。この目的のために、本発明の芳香組成物は、香料として多くの製品に使用される。特に、血糖値改善(血糖値降下)の目的のために、香水や石鹸、ジャンプー、風呂の入浴剤、ローション等の製品として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】スダチの果皮より抽出されたスダチ精油成分(芳香成分)による、GK−ラットを用いた血糖降下作用の検討結果を表わした図である。
【図2】スダチ精油成分による、直接塗布ラットの血糖値降下作用と間接的な芳香感作ラットの血糖値降下作用を比較して表わした図である。
【図3】スダチ精油成分と柚子の精油成分を、GK−ラットに塗布した場合の血糖値の推移を表わした図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の「スダチ精油」とは、スダチの果皮からエタノール水溶液で抽出された油状物質のことを言い、柑橘類に特有の芳香成分を有している。しかし、柚子の精油成分とスダチの精油成分は、d−リモネンを多く含有することでは共通するが、それ以外の成分の組成は柑橘類の種類によって大きく異なっている。スダチの精油成分の組成、特に芳香成分の組成は、スダチの果皮からの抽出方法と分留方法の相違によって、揮発成分が飛散し易いために、揮発成分の含量に変動が生じ易い。そのため、本発明では、超音波霧化分留装置(松浦酒造場製)を用いて、スダチからのエタノール水溶液抽出物の濃縮、分離を行っている。なお、このスダチ精油には、抽出用のエタノールは含まれておらず、スダチの芳香成分が分離されている。そのため、本発明では「スダチ精油成分」として記載した。
【0010】
本発明の「芳香組成物」とは、柑橘類の香りを拡散させるための組成物のことを言い、公知の手段を使用できる。例えば、皮膚や衣服に付ける香水、室内に香りを放散させる香料、線香など、更にはスダチ精油が香料として含有された石鹸、シャンプー、ローション、風呂の入浴剤、化粧品等を挙げることができる。
【0011】
本発明の「蒸留法又は溶媒抽出法」とは、スダチの果皮から芳香成分(スダチ精油成分)を分離する方法のことであり、スダチ果皮からの精油成分の溶媒抽出液を蒸留すること、あるいはスダチ果皮そのものを乾留することを言う。溶媒抽出法に使用される溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、エーテル、酢酸エチル等の疎水性溶媒や、エタノール、メタノール等のアルコール系親水溶媒が使用できる。好ましい溶媒としてはヘキサンやエタノールを挙げることができる。エタノールは、更にエタノール水溶液として使用することができる。
【0012】
本発明の「エタノール水溶液」とは、エタノール濃度が3〜15%の水溶液を言う。スダチ果皮からの抽出効率がエタノール濃度3〜15%の間で最大となることから、好ましいエタノール濃度としては、約5%を挙げることができる。
【0013】
本発明の「超音波霧化分留法」とは、液体に超音波を当てると霧が発生する現象を利用し、揮発成分を取り出す方法であり、この方法を用いた装置は本家松浦酒造場(鳴門市)、ナノミストテクノロジーズ社から販売されている。
【実施例】
【0014】
次に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
(実施例1)スダチ由来の精油(芳香成分)の調製
1)エタノール抽出法:
スダチ果皮に対して、2倍量のアルコール水溶液(5%エタノール水溶液)を使用して、香気成分の抽出を行い、初期抽出液を得た。この抽出液を超音波霧化分留装置(松浦酒造製)による霧化分離を2回行うことにより、スダチ精油(回収油:100%)を分離した。分離条件は,溶液温度50℃,冷却部温度−20℃(1回目のみ−6℃)とした。1回目は、初期抽出液5000ml(回収油:0.18%)を霧化分離することで,分離液1000ml(回収油:0.74%)を得た。1回目の初期抽出液と分離液の品質比較を行い,分離液中の屈折示度および総酸が低値であることから,初期抽出液中の糖および有機酸は分離液中に移行しないことを確認した。続いて,一回目分離液の一部350mlを用いて、霧化分離することで,2回目の分離液70m(回収油:3.2%)を得た。この分離液を静置すると油水分離を生じ,上澄のスダチ精油分2mlを分離できた。上澄の精油分は水分,エタノールをほとんど含まず,無色透明でスダチの新鮮な香りを保持したスダチ精油であった。
上記スダチ精油分をガスクロマトグラフィー(ヒューレット・パッカード社、HP−5890A)で分析した。DB−WAXカラムを用い、オーブン温度を初期温度40℃3分、昇温速度5℃/分、到達温度210℃5分の条件で実施した。その結果を以下の表1(組成比)に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
(実施例2)GK−ラットを用いたスダチ芳香成分(スダチ精油)の血糖降下作用の評価
1)約10%のスダチ精油を含有した霧化分離液の効果:
上記霧化分離液に水を加えて超音波拡散させ、50倍希釈した希釈液(20000ppm)と500倍希釈液(2000ppm)を作製した。上記希釈液と水(プラセボ)を用いて、GK−ラット(30週令、雄性)の顔と手に、1日1回刷毛で塗布した。3週間の塗布試験後の結果を図1に示す。
図1に示されるように、50倍希釈した希釈液(20000ppm)の場合に、有意な血糖値降下作用が示されることが分かった。また、500倍希釈と比較し、その作用はスダチ精油の濃度依存性であった。
2)100%スダチ精油の効果:
スダチ精油分に水を加えて500倍に希釈した希釈液(20000ppm)を用いて、GK−ラット(30週令、雄性)の鼻に1日1回、3週間塗布を行った。また、対照群として上記希釈液の代わりに水を塗布した。対照群(1群5匹)とスダチ精油塗布群(1群5匹)を同じ室内の隣接箇所で飼育した。スダチ精油による芳香が飼育室内に拡散しており、そのため、スダチ精油の芳香による効果が、隣接して飼育した対照群でも評価できる。即ち、GK−ラットの鼻にスダチ精油を塗布した群における直接的なスダチの芳香効果と、対照群における室内芳香の間接的な効果が評価できることになる。なお、評価期間3週間の上記ラットの血糖値の変化を測定し、塗布終了の1週間後の血糖値を測定した。その結果を図2に示す。
図2に示されるように、500倍希釈液の場合に実施例1の場合と同様の血糖値降下の効果が得られることが明らかとなった。しかしも、スダチ塗布群だけでなく、対照群でも、図2に示されるように血糖値が有意に低下した。このことは、スダチの室内芳香によっても、血糖値降下が起こることを明らかにしたものである。更に、スダチ精油成分の塗布を中止したところ、血糖値が上昇に転じたことから、スダチ精油成分(芳香成分)による血糖値効果作用は明らかである。
【0018】
(実施例3)スダチと柚子の芳香成分の効果の相違
柚子もスダチも、香酸柑橘類の仲間であり、d−リモネンが主要な成分であることでは一致する。その主要な成分を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
主要成分のリモネンには、副交感神経刺激作用があり、肝臓強壮、腎臓刺激、消化管蠕動運動促進、血圧降下等の作用が公知である。また、副交感神経を刺激することで、膵臓からのインシュリン分泌が促進されるとの報告がある。
そこで、実施例1と同様の超音波霧化分留処理を行って得られた柚子の霧化分離液(約10%の柚子精油含量)と実施例1で得られたスダチ霧化分離液(約10%のスダチ精油含量)を使用した。各分離液を水で50倍に希釈した水溶液(20000ppm)を作製した。GK−ラット(30週令、雄性)を2群(1群5匹)に分けて、ラットの顔と手に上記水溶液を1日1回塗布した。3週間の塗布試験により、柚子とスダチの精油成分の効果の相違を検討した。その結果を図3に示す。
図3に示されるように、柚子精油成分では、血糖値は上昇傾向にあるが、スダチ精油分では僅かに血糖値が低下することが確認された。また、塗布開始から3週間後になるとスダチの方が柚子よりも有意に血糖値が低下する(p<0.05)ことが示された。
以上のことから、スダチには、柚子と異なり、血糖効果に有効な精油成分を含有することが明らかになった。
【0021】
(実施例4)スダチ精油成分のp−シメン、リナロールの効果確認
d−リモネン以外の精油主要成分に関して、血糖値降下作用の有無を検証した。まず、柚子精油成分の第2主成分リナロール(34%)とスダチの成分p−シメン(4%)について、血糖値降下作用の有無を評価した。
GK−ラット(生後約1年、雄性)を1群5匹で3群(蒸留水塗布、リナロール塗布、p−シメン塗布)に分けた。実験開始時の血糖値を測定した後、ラットの鼻に0.1%のリナロール、p−シメン水溶液(蒸留水に市販のリナロール、p−シメンを添加し、超音波で分散させた)を1日1回塗布した。1週間毎に血糖値を測定し、3週間連日塗布を行った。
その結果、3週間後の3群のいずれにおいても血糖値に有意な差は見られなかった。即ち、リナロールとp−シメンにおいては、血糖値降下作用を示さないことが分かった。

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明では、スダチの精油部分に存在する芳香成分が直接的、間接的に作用して、血糖値を降下させることが見出された。その結果、香油成分を混入した、香水や石鹸、風呂の入浴剤、ローション等の化粧品が、血糖値を改善する効果を持つことが期待され、新たなアロマテラピーの可能性が見出された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スダチ精油成分を有効成分とする、血糖値改善・血糖降下を促進するための芳香組成物。
【請求項2】
上記スダチ精油成分が、蒸留法又は溶媒抽出法で分離されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の芳香組成物。
【請求項3】
上記蒸留法又は溶媒抽出法がスダチ果皮をエタノール水溶液抽出するものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の芳香組成物。
【請求項4】
上記蒸留法又は溶媒抽出法が超音波霧化分留法であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の芳香組成物。
【請求項5】
上記芳香組成物が、上記精油成分を混入した香水や石鹸、ジャンプー、風呂の入浴剤、ローションのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−71903(P2013−71903A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211049(P2011−211049)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【Fターム(参考)】