説明

スダチ(搾汁残渣)からスダチポリフェノールを製造する方法

【課題】スダチの搾汁残渣等からスダチポリフェノールをマイクロ波装置を使用せずに、効率よく製造する方法の提供を課題とする。
【解決手段】スダチの搾汁残渣等の乾燥粉末に食品加工用酵素を添加し、酵素反応させることにより、スダチの搾汁残渣等からのスダチポリフェノールの回収単離効率を上げることができる。そのため、マイクロ波照射装置を設置しなくても所望のスダチポリフェノールを大量に製造できるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スダチの搾汁残渣から、メタボリックシンドロームの予防及び/又は治療に有効なスダチポリフェノールを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
柑橘類には、多くのポリフェノール(ポリメトキシフラボノイド)が含まれており、これらのポリフェノールには、糖尿病や高脂血症と言った生活習慣病の予防と改善をもたらす効果があることが知られている(特許文献1と2、非特許文献2)。
また、スダチにはスダチ固有でユニークな構造のスダチポリフェノール(スダチチン、デメトキシスダチチンおよびそれらの配糖体)が多量に含有されている。例えばスダチの乾燥果皮(ここでは、果実の表面を覆う皮をいう。)には、およそ0.1質量%程度のスダチチンが含まれ、これとともに、およそスダチチンの6倍量程度のスダチチン配糖体が含まれている(特許文献3)。
そこで、これまでスダチの乾燥果皮や搾汁残渣から、スダチポリフェノールを単離回収して、有効活用しようという試みが多くなされて来た。例えば、マイクロ波を照射しながら、搾汁残渣からスダチチンの抽出やスダチチン配糖体の塩酸加水分解処理を行うことで、スダチチンを効率的に抽出することが報告されている(特許文献3)。更に、スダチの乾燥果皮から抽出された、スダチチンとスダチチン配糖体の混合物に清酒酵母を加えて反応させると、スダチチン配糖体が加水分解されてスダチチンが生成することも報告されている(非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上記の方法には、マイクロ波の照射が必要であるため、スケールアップを行なって、工業的なスケールでスダチポリフェノールを単離精製することは特殊な装置も必要とし、コスト的にも大量合成が難しい状況であった。そのため、簡便で安価な大量スケールでの製造方法が求められている状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−77139号公報
【特許文献2】WO2002/087567号公報
【特許文献3】特開2008−208064号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】農林水産省食品産業グリーンプロジェクト技術実証モデル事業、平成21年度、事業成果17課題名「柑橘類果皮由来ポリフェノール分離技術の実証」
【非特許文献2】近畿中国四国農業研究センター研究報告第5号19〜84頁2005年「カンキツ果実の機能性成分の検索とその有効利用に関する研究」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、スダチの搾汁残渣からスダチポリフェノールを効率よく大量に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、スダチの搾汁残渣からスダチポリフェノールを効率よく大量に製造する方法をこれまで鋭意検討してきたが、スダチの搾汁残渣(乾燥粉末)を用いて市販の食品加工用酵素を作用させることにより、水溶性スダチポリフェノール(配糖体を含む)がより効率的に単離精製できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)スダチの搾汁残渣またはスダチ果皮からのスダチポリフェノールの製造方法であって、
食品加工用酵素である、マグナックスJW−2、コクラーゼSS、デナプシン10P、グルクS、デナチームAP、グルク100、グルコチーム♯20000、セルロシンT3の中より一つ以上を選択し、
その酵素水溶液の中に、スダチの搾汁残渣またはスダチの果皮を添加して酵素の適温で攪拌し、
更に加熱攪拌を行なった後、
反応液の上清を分離した後、上清の単離精製を行なう
ことを特徴とする、スダチポリフェノールの製造方法。
(2)上記酵素の適温が35℃である、上記(1)に記載のスダチポリフェノールの製造方法。
(3)上記加熱攪拌が、50℃である、上記(1)または(2)に記載のスダチポリフェノールの製造方法。
(4)上記食品加工用酵素が、マグナックスJW−2を含むものである、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のスダチポリフェノールの製造方法。
(5)上記搾汁残渣または果皮が乾燥粉末状となっている、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のスダチポリフェノールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスダチポリフェノールの製造方法は、スダチの搾汁残渣またはスダチ果皮に含まれるスダチポリフェノールとその配糖体をより効率的に搾汁残渣等より抽出する方法であって、従来のマイクロ波を照射するような付加的な手段を必要とせず、汎用の食品加工用酵素を添加するだけで、所期の目的を達することが可能となった。このように、本発明の製造方法は操作が簡単であり、水溶性スダチポリフェノールの工業的な大量製造が可能になった。このことにより、水溶性スダチポリフェノールを用いた糖尿病疾患やメタボリック・シンドロームを予防する食品開発あるいは治療応用ができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】スダチの搾汁残渣を酵素処理(デナプシン10P)して得られた反応液上清中のデメトキシスダチチンとスダチチンの定量を行なったHPLC分析チャートの図である。
【図2】上記図1のように酵素処理した反応液上清中の分析チャートではなく、酵素ブランクの上清液のHPLC分析チャートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「スダチの搾汁残渣またはスダチ果皮」とは、スダチからスダチ果汁を搾汁する時に副生する残渣であり、また、この残渣を内外果皮分離機(スライサー)で処理することで得られる外果皮のことを言う。なお、この搾汁残渣は乾燥後、粉砕して乾燥粉末のスダチパウダーとして使用することが望ましい。
本発明の「食品加工用酵素」とは、マグナックスJW−2、コクラーゼSS、デナプシン10P、グルクS、デナチームAP、グルク100、グルコチーム♯20000、セルロシンT3の中より一つ以上を選択して使用するものである。即ち、マグナックスJW−2とは、洛東化成工業製のグルコアミラーゼである。コクラーゼSSは三菱化学フーズ製の蛋白分解酵素剤であり、デナプシン10Pとはナガセケムテックス製の酸性プロテアーゼからなる蛋白分解酵素剤である。グルクS、グルク100は天野製薬製のα−アミラーゼとグルコアミラーゼからなる糖化酵素剤である。デナチームAPはナガセケムテックス製の中性プロテアーゼの蛋白分解酵素剤であり、グルコチーム♯20000はナガセケムテックス製のグルコアミラーゼの糖化酵素剤ある。セルロシンT3はエイチビイアイ製のセルラーゼからなる糖化酵素剤である。
【0012】
本発明の「スダチポリフェノール」とは、スタチに含有されるポリメトキシフラボノイドおよびそれらの配糖体のことを言う。スタチに含有されるポリメトキシフラボノイドとしては、スダチチン、デメトキシスダチチン、ノビレチン、タンゲレチンなどが主なものとして挙げることができる。スダチには、特許文献3に示されるように、スダチチン、デメトキシスダチチンおよびそれらの配糖体が比較的多量に含有されている。
また、水溶性スダチポリフェノールとは、水に溶解しやすいスタチに含有されるポリメトキシフラボノイドおよびそれらの配糖体のことである。
本発明の「酵素の適温」とは、使用する酵素によって適温の範囲は若干異なるが、各酵素の熱安定性を考慮して約35〜50℃の範囲が用いられる。例えば、アミラーゼ等の1.1(4)α−グルカンに関する分解酵素は、40〜50℃の範囲が用いられる。セルラーゼ等の1.3(4)β−グルカンに関する分解酵素は、35〜40℃の範囲が用いられる。プロテアーゼ等の蛋白分解酵素は、35〜45℃の範囲が用いられる。より好ましい酵素反応の適温とは、約55℃前後を挙げることができる。
酵素反応の時間は、酵素反応の進行の程度を見て、適宜調整することができ、特に限定されるものではない。
【0013】
本発明の「加熱攪拌」とは、酵素分解反応を加速し完結させるために行なわれる昇温と攪拌のことを言う。ここで、昇温とは、反応温度を更に高めることを言い、40〜50℃で攪拌することが好ましい。より好ましくは、約50℃前後の温度を挙げることができる。
過熱攪拌の時間は、搾汁残渣等より遊離してくるスダチポリフェノールの含量をチェックしながら適宜調整することができ、特に限定されるものではない。
本発明の「反応液の上清」とは、反応液を静置若しくは遠心分離を行なうことにより得られる上清のことを言う。上清は、更にメンブランフィルター等で濾過されてもよい。
本発明の「単離精製」とは、実験化学講座等の成書に記載された慣用手段を言う。例えばカラムクロマトグラフィー等の常法による単離精製方法によって単離することができる。
【実施例】
【0014】
次に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)スダチ搾汁残渣と各種食品加工用酵素との反応
スダチ搾汁残渣を乾燥後、粉砕してスダチパウダーとした。このパウダーに食品加工用酵素剤を作用させ、機能性成分の可溶化を試みた。即ち、スダチパウダー0.5gを15ml容遠心管に採り、10mlの0.5%食品加工用酵素水溶液を添加し35℃で6時間、続いて50℃で15時間反応後、沸騰温浴中で5分間処理した。これらの反応液を遠心分離後、上清をメンブランフィルター(φ0.45μm)でろ過した溶液について酵素処理による可溶化物としてポリフェノール量(配糖体を含む)を試験例1の方法により分析した。
【0015】
(試験例1)スダチポリフェノールの定量
(1)ポリフェノール測定方法
ポリフェノールの定量はFolin−Denis法により行った。すなわち1mlの試料溶液と0.5mlの1Nフェノール試薬(フォーリン・チオカルト試薬)、5mlの0.4M NaCOを試験管内で混和後、30℃で30分間反応した。反応液を室温に冷却後、660nmの吸光度を測定した。定量のための検量線の作成には没食子酸を使用し、試料中のポリフェノール量は没食子酸の相当量で表した。
(2)ポリフェノール量の測定結果
実施例1で得られた各酵素処理溶液中のポリフェノール量を表1に示した。酵素を添加せず(酵素なし)に同じ条件で処理した場合、すなわち水抽出により可溶化したスダチパウダー1g当たりのポリフェノール量は37.1mgであり、各種の酵素処理によって増加する場合と減少する場合があった。ポリフェノールの回収率の高い順に、その結果を示す。
【0016】
(3)ポリフェノール中のデメトキシスダチチンとスダチチンの定量
デメトキシスダチチンとスダチチンの定量分析には日立製高速液体クロマトグラフシステムを使用した。分析条件を以下のように設定した。
[カラム] Wakosil−II 5C18RS (4.6mmID×250mm)
[移動相] A:NaHPO(pH2.3), B:CHCN
分析開始から40分かけてA(88%)/B(12%)→A(40%)/B(60%)に直線グラジエント、40分から50分までA(40%)/B(60%)で分析する。
[カラム温度] 40℃
[流速] 1.0ml/min
[検出] 325nm
実施例1で得られた各酵素処理溶液中のデメトキシスダチチンとスダチチンの定量を行なった。その結果を併せて表1に示し、スダチポリフェノールの分析例を図1に示した。
【0017】
【表1】

【0018】
上記表1から、スダチポリフェノールを効率的に回収単離するには、マグナックスJW−2、コクラーゼSS、デナプシン10P、グルクS、デナチームAP、グルク100、グルコチーム♯20000、セルロシンT3の酵素でスダチパウダーを反応させることが必要であることが分かった。
また、スダチポリフェノールの中で、スダチチンを効率的に回収するためには、デナプシン10Pが最もよく、酵素なしの場合と比較すると、約2.1倍の回収効率が得られることが示された。また、表1に示されるように、酵素に対する感受性が、デメトキシスダチチンとスダチチンで異なることが分かった。スダチチンの場合にはデナプシン10Pが最も回収効率がよかったが、デメトキシスダチチンの場合にはグルクSであった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のスダチポリフェノールの製造方法は、マイクロ波照射装置などを設置する必要がなく、市販の食品加工用酵素を使用して反応させることにより、簡便に、より効率よくスダチポリフェノールが回収単離できる。それ故、堆肥あるいは産業廃棄物として処分されることの多かったスダチの搾汁残渣を有効活用できるようになり、糖尿病や生活習慣病等の疾患の予防や治療に使用される可能性の高い、スダチポリフェノールを大量製造できるようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スダチの搾汁残渣またはスダチ果皮からのスダチポリフェノールの製造方法であって、
食品加工用酵素である、マグナックスJW−2、コクラーゼSS、デナプシン10P、グルクS、デナチームAP、グルク100、グルコチーム♯20000、セルロシンT3の中より一つ以上を選択し、
その酵素水溶液の中に、スダチの搾汁残渣またはスダチの果皮を添加して酵素の適温で攪拌し、
更に加熱攪拌を行なった後、
反応液の上清を分離した後、上清の単離精製を行なう
ことを特徴とする、スダチポリフェノールの製造方法。
【請求項2】
上記酵素の適温が35℃である、請求項1に記載のスダチポリフェノールの製造方法。
【請求項3】
上記加熱攪拌が、50℃である、請求項1または2に記載のスダチポリフェノールの製造方法。
【請求項4】
上記食品加工用酵素が、マグナックスJW−2を含むものである、請求項1〜3のいずれかに記載のスダチポリフェノールの製造方法。
【請求項5】
上記搾汁残渣または果皮が乾燥粉末状となっている、請求項1〜4のいずれかに記載のスダチポリフェノールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−21950(P2013−21950A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158260(P2011−158260)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【出願人】(511174890)徳島製麹株式会社 (2)
【Fターム(参考)】