説明

スチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体

【課題】 青色半導体レーザーで記録再生が可能な350nm〜530nmの波長領域に光吸収を有し、かつ、吸光係数の大きい新規なスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体を提供。
【解決手段】 一般式〔1〕で示されるスチリルピリジニウムカチオンと一般式〔2〕で示されるテトラシアノキノジメタンのラジカルアニオン及び一般式〔2〕で示される中性テトラシアノキノジメタンとからなるTCNQ錯体。
【化1】


(式中、Rはアルキル基、アルコキシカルボニル基、アルケニル基を示し、R及びRは、例えば、水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示し、R及びRは、例えば、水素原子、アルキル基、アルコキシ基を示す。)
【化2】


(式中、R、R、R及びRは、例えば、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学記録媒体用色素や非線形光学材料、光学フィルター、光導電材料、導電性付与剤として有用なTCNQ錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
TCNQ錯体は有機半導体として知られる電荷移動錯体化合物であり、電子を受け入れやすい性質を有するTCNQ(アクセプター)と、電子を与え易い性質を有する化合物(ドナー)とから構成されるTCNQ錯体は、現在までに多数合成されている。これらのTCNQ錯体の特徴的な物性は、TCNQに由来することはもちろんであるが、ドナー化合物を選択することにより変化させることができる。
【0003】
TCNQ錯体は軽量、電導の異方性、溶融性、フィルム形成性、加工及び成形の容易さ等、有機化合物のもつ特徴的性質と金属の性質を併せ持っていることから、電解コンデンサ、非線形光学材料、帯電防止剤、導電性フィルム、スイッチング素子、電池等の分野においてその利用が期待されている。
【0004】
一方、レーザー光により1回限りの情報記録が可能な光学記録媒体としてCD−Rが量産化され広く用いられているが、このCD−Rの記録再生に使用されるレーザーよりも短波長の赤色半導体レーザーで記録する高密度の有機色素系光学記録媒体(DVD−R)も開発され、実用化されている。近年、DVD−Rよりさらに短波長のレーザー、即ち青色半導体レーザー(波長350nm〜530nm)を用いたより高密度の記録再生が可能な光学記録媒体が要望されている。
【0005】
通常、光学記録媒体に使用される色素としては、アゾ色素、シアニン色素等が知られており、置換基の導入や対イオンの組合せ等により有機溶媒に対する溶解性や光及び熱に対する化学的安定性を発現させている。これらの色素とTCNQとを組み合わせた光学記録媒体用色素についても種々提案されている。
【0006】
特許文献1には、シアニン系色素骨格を有したTCNQ錯体が提案されており、半導体レーザーで記録可能な色素の記録感度がさらに向上するという効果が得られているものの、シアニン系色素骨格を有する色素は、光吸収波長が630nm〜800nmであり、350nm〜530nmの光吸収を必要とする青色半導体レーザー用の色素として適用することができない。
【0007】
特許文献2には、スチリル系色素骨格を有した光学記録媒体用色素が提案されている。該公報記載の色素は、350nm〜530nm領域に光吸収を有しているが、記録層を共蒸着法より成膜しているため、組成制御が困難であり、高真空度に保つ必要があり、装置が煩雑となる欠点があった。
【0008】
また、特許文献3には、スチリルピリジニウムカチオンを有した有機導電性化合物が提案されているが、該公報記載の色素は、スチリルピリジニウム骨格に電子供与基であるジアルキルアミノ基を有していないため、大きな吸光係数を得ることができないという解決すべき課題を有していた。
【0009】
【特許文献1】特許2736241号公報
【特許文献2】特開平11−034489号公報
【特許文献3】特公平6−84350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、青色半導体レーザーで記録再生が可能な350nm〜530nmの波長領域に光吸収を有し、かつ、吸光係数の大きい新規なスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定のスチリルピリジニウム系化合物及びTCNQまたはその誘導体とから形成されるTCNQ錯体が、350nm〜530nmの波長領域に光吸収を有し、かつ、大きな吸光係数を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、一般式〔1〕で示されるスチリルピリジニウムカチオンと一般式〔2〕で示されるテトラシアノキノジメタンのラジカルアニオン及び一般式〔2〕で示される中性テトラシアノキノジメタンとからなることを特徴とするスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体である。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルケニル基を示し、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のフッ化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基を示し(ただし、R及びRは連結してピロリジン、ピペリジン環を形成してもよい。)、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、アミド基、スルホン酸基、ハロゲン原子を示す。)
【0015】
【化2】

【0016】
(式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数1〜20のアルケニル基を示す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明のスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体は、青色半導体レーザーで記録再生可能な350nm〜530nmの波長領域に光吸収を有し、スチリルピリジニウム骨格にジアルキルアミノ基を導入することにより、従来のスチリルピリジニニウム骨格を有するTCNQ錯体に比べ、吸光係数を向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体について、以下、詳細に説明する。
【0019】
本発明のスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体は前記一般式〔1〕で示されるスチリルピリジニウムカチオンと前記一般式〔2〕で示されるテトラシアノキノジメタンのラジカルアニオン及び一般式〔2〕で示される中性テトラシアノキノジメタンとを構成成分とするスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体である。
【0020】
前記一般式〔1〕において、Rは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルケニル基を示し、直鎖、分岐鎖または環状の置換基を有していてもよい。
【0021】
上記置換基Rの炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、トリメチルペンチル、エチルペンチル、オクチル、テトラメチルオクチル、デシル、トリデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、ノナデシル基等があげられ、好ましくは炭素数3〜19のアルキル基である。
【0022】
また、炭素原子を酸素原子で置換したアルキル基でも良く、例えば、メトキシメチル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、メトキシヘキシル、メトキシオクチル、エトキシエチル、エトキシエチル、エトキシプロピル、エトキシブチル、エトキシヘキシル、エトキシオクチル、プロポキシメチル、プロポキシプロピル、プロポキシヘキシル、ブトキシエチルなどがあげられる。
【0023】
また、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、2ーメトキシエトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、ウンデシルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル、オクタデシルオキシカルボニル等があげられ、好ましくは炭素数3〜19のアルコキシカルボニル基である。
【0024】
また、炭素数1〜20のアルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、1−プロペニル、2−ペンテニル、1,3−ブタジエニル、2−オクテニル、3−ドデセニル基等があげられ、好ましくは炭素数3〜19のアルケニル基である。
【0025】
前記一般式〔1〕において、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のフッ化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基を示し(ただし、R及びRは連結してピロリジンまたはピペリジン環を形成してもよい)、直鎖、分岐鎖または環状の置換基を有していてもよい。
【0026】
上記置換基R及びRの炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、トリメチルペンチル、エチルペンチル、オクチル、テトラメチルヘキシル、デシル基等があげられ、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。
【0027】
また、炭素原子を酸素原子で置換したアルキル基でも良く、例えば、メトキシメチル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、メトキシヘキシル、メトキシオクチル、エトキシエチル、エトキシエチル、エトキシプロピル、エトキシブチル、エトキシヘキシル、エトキシオクチル、プロポキシメチル、プロポキシプロピル、プロポキシヘキシル、ブトキシエチルなどがあげられる。
【0028】
また、炭素数1〜10のフッ化アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、2,2,2−トリフルオロプロピル、3,3,3−トリフルオロプロピル、4,4,4−トリフルオロブチル、5,5,5−トリフルオロペンチル、6,6,6−トリフルオロヘキシル、8,8,8−トリフルオロオクチル、10,10,10−トリフルオロデシル、2−メチル−3,3,3−トリフルオロプロピル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロデシル基等があげられ、好ましくは炭素数1〜8のフッ化アルキル基である。
【0029】
また、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、2ーメトキシエトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル基等があげられ、好ましくは炭素数1〜8のアルコキシカルボニル基である。
【0030】
前記一般式〔1〕において、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、アミド基、スルホン酸基、ハロゲン原子を示し、直鎖、分岐鎖または環状の置換基を有していてもよい。
【0031】
上記置換基R及びRの、炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、トリメチルペンチル、エチルペンチル、オクチル、テトラメチルヘキシル、デシル基等があげられ、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基である。
【0032】
また、炭素数1〜10のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、2ーメトキシエトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ基等があげられ、好ましくは炭素数1〜8のアルコキシ基である。
【0033】
また、炭素数1〜10のフッ化アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル、2,2,2−トリフルオロプロピル、3,3,3−トリフルオロプロピル、4,4,4−トリフルオロブチル、5,5,5−トリフルオロペンチル、6,6,6−トリフルオロヘキシル、8,8,8−トリフルオロオクチル、10,10,10−トリフルオロデシル、2−メチル−3,3,3−トリフルオロプロピル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロデシル基等があげられ、好ましくは炭素数1〜8のフッ化アルキル基である。
【0034】
また、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、2ーメトキシエトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、デシルオキシカルボニル基等があげられ、好ましくは炭素数1〜8のアルコキシカルボニル基である。
【0035】
前記一般式〔2〕中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数1〜20のアルケニル基を示す。
【0036】
上記置換基R、R、R及びRの炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、トリメチルペンチル、エチルペンチル、オクチル、テトラメチルオクチル、デシル、トリデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、ノナデシル基等があげられる。
【0037】
また、炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、2ーメトキシエトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、オクタデシルオキシ基等があげられる。
【0038】
また、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、2ーメトキシエトキシカルボニル、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル、オクチルオキシカルボニル、ウンデシルオキシカルボニル、ドデシルオキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル、オクタデシルオキシカルボニル基等があげる。
【0039】
また、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基としては、例えば、メタンスルホニル、エタンスルホニル、ヘキシルスルホニル、オクタンスルホニル、ウンデカンスルホニル、オクタデカンスルホニル基等があげられる。
【0040】
また、炭素数1〜20のアルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、1−プロペニル、2−ペンテニル、1,3−ブタジエニル、2−オクテニル、3−ドデセニル基等があげられる。
【0041】
本発明のTCNQ錯体は、例えば、J.Am.Chem.Soc.84,3374(1962)、有機合成化学、第46巻638(1988)などの一般的合成法に準じて合成することができる。あるいは、ヨードイオンの還元性を利用し、スチリルピリジニウムアイオダイドと中性のTCNQを反応させる公知の方法で合成することも可能である。
【0042】
本発明のスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体は、一般式〔1〕で示されるスチリルピリジニウムカチオンと一般式〔2〕で示されるテトラシアノキノジメタンのラジカルアニオン及び一般式〔2〕で示される中性テトラシアノキノジメタンとから構成されるTCNQ錯体である。
【0043】
上記、テトラシアノキノジメタンのラジカルアニオン及び中性テトラシアノキノジメタン組成比は元素分析及び文献(A.Rembaum etc.,J.Am.Chem.Soc.,93,2532,(1971))に従った紫外−可視吸収スペクトル測定から決定することができる。なお、ラジカルアニオン1に対して中性テトラシアノキノジメタン0.6以上2.0未満が好ましく、より好ましくは0.9以上1.2未満である。
【0044】
上記条件下で合成したスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体は、350nm〜530nmの波長領域に光吸収を有し、青色半導体レーザーで記録再生可能な光学記録媒体用色素として有効であり、スチリルピリジニウム骨格にジアルキルアミノ基を導入することにより、吸光係数の大きな色素を得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施形態を、実施例に基づいて説明する。なお、本発明は実施例によりなんら限定されない。実施例中、「部」は「質量部」を表す。
【0046】
実施例1
TCNQとして7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン4.1部とアセトニトリル200部とを還流冷却器及び攪拌機付きフラスコに入れて加熱し、これにスチリルピリジニウム化合物として1−ブチル−4−(2−(4−(ジメチルアミノ)フェニル)エテニル)ピリジニウムアイオダイド4.1部を添加した。添加後、1時間加熱還流を行い、反応させた。反応終了後室温まで冷却し、結晶をろ別し、アセトンで再結晶することにより、1−ブチル−4−(2−(4−(ジメチルアミノ)フェニル)エテニル)ピリジニウム・TCNQ錯体4.8部(収率70%)を得た。
【0047】
得られたTCNQ錯体をアセトンに溶解し、紫外−可視吸収スペクトル測定((株)日立ハイテクノロジーズ製)の結果、ラジカルアニオン1に対して中性アニオンは1.01であった。また、元素分析(ヤナコ分析工業(株)製)の結果、理論値C;74.87、H;4.82、N;20.31%に対して、実測値C;74.73、H;4.80、N;20.38%であった。示差熱分析(セイコーインスツルメンツ(株)製)の結果、分解点231℃であった。また、紫外−可視吸収スペクトル測定の結果、最大吸収波長λmax;398nm、モル吸光係数ε(L・mol−1・cm−1);69780であった。結果を表1に示す。
【0048】
実施例2
TCNQとして2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン5.2部、スチリルピリジニウム化合物として1−ノニル−4−(2−(3−メトキシ−4−(ジメチルアミノ)フェニル)エテニル)ピリジニウムアイオダイド5.3部を用いた以外は実施例1と同様にしてTCNQ錯体を収率60%で得た。また、実施例1と同様にして物性評価を行った結果、ラジカルアニオン1に対して中性アニオンは0.98であった。また、元素分析の結果、理論値C;64.30、H;4.58、N;14.15%に対して、実測値C;64.79、H;4.51、N;13.88%であった。示差熱分析の結果、融点219℃、分解点228℃であった。また、紫外−可視吸収スペクトル測定の結果、387nm、モル吸光係数ε87900であった。結果を表1に示す。
【0049】
実施例3
TCNQとして2−ブトキシ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン4.8部、スチリルピリジニウム化合物として1−ペンチル−2−ニトロ−4−(2−(2,6−ジメチル−4−(ブチルメチルアミノ)フェニル)エテニル)ピリジニウムアイオダイド4.8部を用いた以外は実施例1と同様にしてTCNQ錯体を収率43%で得た。また、実施例1と同様にして物性評価を行った結果、ラジカルアニオン1に対して中性アニオンは1.05であった。また、元素分析の結果、理論値C;71.29、H;6.40、N;15.77%に対して、実測値C;70.98、H;6.53、N;15.66%であった。示差熱分析の結果、融点220℃、分解点225℃であった。また、紫外−可視吸収スペクトル測定の結果、最大吸収波長λmax;400nm、モル吸光係数ε;98760であった。結果を表1に示す。
【0050】
実施例4
TCNQとして7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン3.3部、スチリルピリジニウム化合物として1−ブチル−4−(2−(3−メトキシカルボニル−4−(ジメチルアミノ)フェニル)エテニル)ピリジニウムアイオダイド3.8部を用いた以外は実施例1と同様にしてTCNQ錯体を収率45%で得た。また、実施例1と同様にして物性評価を行った結果、ラジカルアニオン1に対して中性アニオンは1.06であった。また、元素分析の結果、理論値C;72.27、H;4.72、N;18.73%に対して、実測値C;72.55、H;4.77、N;18.69%であった。示差熱分析の結果、融点227℃、分解点238℃であった。また、紫外−可視吸収スペクトル測定の結果、最大吸収波長λmax;396nm、モル吸光係数ε;75090であった。結果を表1に示す。
【0051】
実施例5
TCNQとして7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン3.9部、スチリルピリジニウム化合物として1−テトラデシル−4−(2−(4−(ジメチルアミノ)フェニル)エテニル)ピリジニウムアイオダイド5.2部を用いた以外は実施例1と同様にしてTCNQ錯体を収率63%で得た。また、実施例1と同様にして物性評価を行った結果、ラジカルアニオン1に対して中性アニオンは0.96であった。また、元素分析の結果、理論値C;71.47、H;5.43、N;16.87%に対して、実測値C;71.65、H;5.40、N;16.84%であった。示差熱分析の結果、融点219℃、分解点236℃であった。また、紫外−可視吸収スペクトル測定の結果、最大吸収波長λmax;399nm、モル吸光係数ε;88760であった。結果を表1に示す。
【0052】
比較例
TCNQとして7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン3.9部、スチリルピリジニウム化合物として1−プロピル−4−(2−(フェニル)エテニル)ピリジニウムアイオダイド7.1部を用いた以外は実施例1と同様にしてTCNQ錯体を収率93%で得た。また、実施例1と同様にして物性評価を行った結果、ラジカルアニオン1に対して中性アニオンは1.02であった。また、元素分析の結果、理論値C;75.93、H;4.14、N;19.92%に対して、実測値C;75.81、H;4.53、N;19.66%であった。示差熱分析の結果、融点260℃、分解点273℃であった。また、紫外−可視吸収スペクトル測定の結果、最大吸収波長λmax;398nm、モル吸光係数ε;8000であった。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、本発明の実施例1〜5のスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体は、350nm〜530nmの波長領域に光吸収を有し、かつ、高い吸光係数を有しているが、比較例のスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体は、吸光係数が低い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、特定のスチリルピリジニウムカチオンとTCNQ、またはその誘導体とから形成されたスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体であり、本発明のTCNQ錯体は、350nm〜530nmの波長領域に大きな光吸収を有し、青色半導体レーザーで記録再生可能な光学記録媒体用色素として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式〔1〕で示されるスチリルピリジニウムカチオンと一般式〔2〕で示されるテトラシアノキノジメタンのラジカルアニオン及び一般式〔2〕で示される中性テトラシアノキノジメタンとからなることを特徴とするスチリルピリジニウム骨格を有するTCNQ錯体。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルケニル基を示し、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のフッ化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基を示し(ただし、R及びRは連結してピロリジン、ピペリジン環を形成してもよい。)、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数1〜10のフッ化アルキル基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、カルボキシル基、ニトロ基、アミド基、スルホン酸基、ハロゲン原子を示す。)
【化2】

(式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数1〜20のアルケニル基を示す。)



【公開番号】特開2006−28052(P2006−28052A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206837(P2004−206837)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】