説明

スチルベン誘導体の安定な濃厚水性組成物

【課題】染色現場において望まれる、低温、高温での保存安定性に優れ、硬水にて希釈したときの安定性に優れる4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の濃厚水性組成物が求められている。
【解決手段】4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸に、アルカノールアミン類と水と、任意成分としてのエチレングリコール類及び/又は尿素を添加して得られる4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の水性組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光増白剤等に使用可能な4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の濃厚水性組成物に関する。更に詳しくは、貯蔵安定性及び希釈安定性に優れる該水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光増白剤は、その使用勝手から粉体より液状品のほうが計量、添加、他の薬剤との混合において使い勝手がよく、近年市場にて入手出来る蛍光増白剤はほとんどが液状品に変わっている。しかしながら、水への溶解性、保存安定性、液状品の希釈時の安定性が低く、未だに粉体品を使用せざるを得ない蛍光増白剤もある。
【0003】
一般的に蛍光増白剤等の溶解液の安定性の不良は、製造時に副生する無機塩の存在によって低温時や高温時における安定性が低くなり、結晶等が析出してくる点であることが多い。これを防ぐために水溶液に含まれる無機塩を、半透膜を用いて削減させて溶液の安定性を高める方法が知られている。即ち、例えば、特開昭58−65760号公報、特開昭60−158266号公報には、蛍光増白剤水溶液中の塩濃度を半透膜を使用して下げることによって濃厚な水溶液を製造する方法が開示されている。
【0004】
又、半透膜を用いない方法として、例えば、特開昭58−222156号公報には、スチルベン誘導体の不溶性又は難溶性の金属塩を炭酸イオンの存在下で低級ヒドロキシアミンと反応させ、該反応混合物から不溶性物質を除去することによりスチルベン誘導体の安定で濃厚な水溶液を製造する方法が開示されている。又、特開昭57−123262号公報には、例えば、スチルベン誘導体のナトリウム塩の水溶液にテトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウム化合物を加え、ナトリウム塩をテトラアルキルアンモニウム塩とすることにより溶解性が高くなることが開示されている。更に、特開昭62−273266号公報には、特開昭57−123262号公報に開示された方法の改良方法として、スチルベン誘導体のナトリウム塩を、水酸基を有するテトラアルキルアンモニウム化合物、例えば、コリンとの塩に交換し、圧濾過装置を用いて脱塩した後、尿素等の溶解補助剤を加えてスチルベン誘導体の安定な濃厚水溶液の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−222156号公報
【特許文献2】特開昭57−123262号公報
【特許文献3】特開昭62−273266号公報
【特許文献4】特公平7−91485号公報
【特許文献5】特許4179584号公報
【特許文献6】特許4111405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸を含む水性組成物を、簡便な方法により貯蔵安定性、希釈安定性に優れる該水性組成物を得ることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。即ち、本発明は4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸を半透膜等を使用せず、特定の安定剤を加えることにより得られる安定な濃厚水性組成物に関する。本発明は、以下の1)から4)に関する。
【0008】
1)4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸に、アルカノールアミン類と水と、任意成分としてのエチレングリコール類及び/又は尿素を添加して得られる4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の水性組成物。
【0009】
2)4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸が、該化合物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩水溶液に鉱酸を加え、pH1〜3で酸析し、結晶が析出した縣濁液をろ過し水洗して得られる該化合物の結晶である前記1)に記載の4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の水性組成物。
【0010】
3)水性組成物中の4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の濃度が10〜30%、アルカノールアミン類であるエタノールアミン若しくはプロパノールアミンの濃度が5〜30%、エチレングリコール類の濃度が0〜40%、尿素の濃度が0〜30%である前記1)又は2)に記載の水性組成物。
4)水性組成物中のアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの濃度が1000ppm以下である前記1)〜3)のいずれか一項に記載の水性組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の濃厚水性組成物は、低温、高温条件での保存にも安定であり、且つ、硬度の高い水にて希釈しても安定性を有しているという、例えば、蛍光増白剤水性組成物として使用する場合に極めて有用なものであり、工業的価値も極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水性組成物につき説明する。
4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸(以下、化合物(1)と記すことがある)及びその塩はC.I.Fluorescent 90として知られており、市場に出回っている。又、公知の文献により製造することも出来る。即ち、例えば、適当なアルカリ存在下で塩化シアヌールと等モル当量のメタノールを反応させ、得られた化合物に対して同様のアルカリ存在下で等モル当量のジアミノスチルベン誘導体を反応させ、得られた化合物に対して同様のアルカリ存在下にて2モル当量のアニリンを反応させることによって化合物(1)を製造することが出来る。
【0013】
更に、本発明の水性組成物に含有される化合物(1)の結晶は、市販品又は前記の製造法により得られる該化合物の粗精製物を定法によりアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の水溶液とし、次いで後記の鉱酸を添加してpHを1〜3とすることにより化合物(1)の結晶を酸析し、生成した縣濁液をろ過して得られた結晶を水洗して製造することが出来る。
【0014】
本発明の水性組成物は、前記のようにして得られた化合物(1)に、アルカノールアミン類と水と、任意成分としてのエチレングリコール類及び/又は尿素を添加して得られる。
【0015】
アルカリ金属塩とは化合物(1)のアニオンとアルカリ金属イオン(アルカリ金属カチオン)との塩であり、アルカリ金属イオンとしてはリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
アルカリ土類金属塩とは化合物(1)のアニオンとアルカリ土類金属イオン(アルカリ土類金属カチオン)との塩であり、アルカリ土類金属イオンとしてはマグネシウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオン等が挙げられる。
鉱酸とは、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。
【0016】
本発明の水性組成物に含有されるアルカノールアミン類としては、アミノ基と水酸基の置換した脂肪族化合物であれば特に限定されず、置換位置も置換数も置換可能であれば特に限定されるものではない。該アルカノールアミン類としては、エタノールアミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、プロパノールアミン(例えば、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等)等が挙げられる。
【0017】
本発明の水性組成物に任意成分として含有されるエチレングリコール類としては、市販の商品を使用してもよく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール400等が挙げられる。
【0018】
本発明の水性組成物中の化合物(1)の濃度は10〜30%程度、アルカノールアミン類の濃度は5〜30%程度、エチレングリコール類の濃度は0〜40%程度、尿素の濃度は0〜30%程度が好ましい。又、本発明の水性組成物中のアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの濃度は総計で1000ppm以下が好ましい。
【0019】
本発明の水性組成物は、例えば、セルロース繊維材料を染色する際に使用することが出来る。例えば、紙、パルプを染色する通常の染色条件による染色や、サイズプレス法、コーテイング法を包含する表面塗工染色又は内添染色等に使用することが出来る。又、本水性組成物は、セルロース繊維材料である天然又は人造のセルロース繊維やセルロース含有繊維、例えば、木綿、レーヨン等の通常の染色条件による染色や、例えば、浸染、連続染色又は捺染法等に使用でき、日光及び洗濯に堅牢な染色物を得ることが出来る。
【0020】
本発明の水性組成物には色調を調整するため、若しくは、堅牢度、染色特性等を調整するために他の染料を混合して使用することが出来る。又、染色時に他の染料を加えて使用してもよい。同様に染料以外の顔料等を混合して使用することも出来る。更に、染色時に染色薬剤等を加えて使用してもよい。
【実施例】
【0021】
以下の実施例により本発明を詳細に説明する。実施例において部は重量部を、%は重量%、ppm(百万分率)は重量ppmをそれぞれ意味する。
【0022】
[実施例1]
化合物(1)のナトリウム塩100部に水4000部を加え、加温し90℃から95℃にて溶解させる。結晶が完全に溶解したところで、硫酸7.6部を加え化合物(1)を酸析させる。結晶をろ過し、この結晶を水にてよく洗浄して無機塩を洗い流す。水を含んだ化合物(1)の結晶105部が得られた。この結晶にジエチレングリコールを123部、尿素を100部、トリエタノールアミンを50部及び水を適量加えて化合物(1)の水性組成物480部を得た。該水性組成物中の化合物(1)の濃度は20%であった。
該水性組成物をイオンクロマトグラフィーにて分析したところ、ナトリウムイオンが450ppm、カルシウムイオンが290ppm、マグネシウムイオンが55ppmであった。
【0023】
[実施例2]
実施例1と同様の操作で得られた含水結晶105部に、ジエチレングリコールを123部、尿素を100部、ジエタノールアミンを50部及び水を適量加えて化合物(1)の水性組成物を480部得た。該水性組成物中の化合物(1)の濃度は20%であった。
【0024】
[実施例3]
実施例1と同様の操作で得られた含水結晶105部に、エチレングリコールを123部、尿素を100部、ジエタノールアミンを50部及び水を適量加えて化合物(1)の水性組成物480部を得た。該水性組成物中の化合物(1)の濃度は20%であった。
【0025】
[実施例4]
実施例1と同様の操作で得られた含水結晶105部に、ポリエチレングリコール400を123部、尿素を100部、ジエタノールアミンを50部及び水を適量加えて化合物(1)の水性組成物480部を得た。該水性組成物中の化合物(1)の濃度は20%であった。
【0026】
[実施例5〜13]
実施例1と同様の操作で得られた含水結晶に、下記の表1及び表2の記載の組成に従い各成分を添加し、水を加えて全体を100部として水性組成物を得た。数値はいずれも重量%を示す。
【0027】
[表1]

【0028】

【0029】
MEA:モノエタノールアミン
DEA:ジエアタノールアミン
TEA:トリエアタノールアミン
DIPA:ジイソプロパノールアミン
TIPA:トリイソプロパノールアミン
EG:エチレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
TEG:トリエチレングリコール
PEG4:ポリエチレングリコール400
【0030】
[比較例1]
化合物(1)のナトリウム塩100部に水4000部を加え、加温し90℃から95℃にて溶解させる。結晶が完全に溶解したところで、硫酸7.6部を加え化合物(1)を酸析させる。析出した結晶をろ過し、水を含んだ化合物(1)の結晶108部を得た。この結晶をそのまま、ジエチレングリコールを124部、尿素を101部、トリエタノールアミンを50部及び水を適量加えて化合物(1)の水性組成物485部を得た。該水性組成物中の化合物(1)の濃度は20%であった。
該水性組成物をイオンクロマトグラフィーにて分析したところ、ナトリウムイオンが2200ppm、カルシウムイオンが290ppm、マグネシウムイオンが65ppmであった。
【0031】
[比較例2]
化合物(1)のナトリウム塩100部に、ジエチレングリコールを123部、尿素を100部、トリエタノールアミンを50部及び水を110部加えて攪拌したが、完全には溶解しなかった。
【0032】
[比較例3]
実施例1にて得られた水性組成物100部に17.4%苛性ソーダ水溶液1部を加えた。
【0033】
[比較例4]
実施例1にて得られた水性組成物100部に25.5%塩化ナトリウム水溶液1部を加えた。
【0034】
[試験例1]
実施例1〜13で得られた水性組成物を−5℃と40℃にて1ヶ月保管したが、結晶等の析出もなく安定であった。比較例1、比較例3、比較例4の水性組成物を−5℃で保管したところ、いずれも1〜3日間に結晶が析出してきた。
【0035】
[試験例2]
無水塩化カルシウム0.0441gと無水塩化マグネシウム0.0339gを1000mlの純水に溶かしモデル硬水を作成した。このモデル硬水を用いて実施例1〜13、及び、比較例1、比較例3、比較例4の各水性組成物を32倍希釈し、室温における安定性を評価した。
実施例1〜13で得られた水性組成物ではいずれも結晶は析出せず安定であった。比較例1、比較例3、比較例4の水性組成物ではいずれも直後から数時間の内に結晶が析出してきて安定ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸に、アルカノールアミン類と水と、任意成分としてのエチレングリコール類及び/又は尿素を添加して得られる4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の水性組成物。
【請求項2】
4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸が、該化合物のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩水溶液に鉱酸を加え、pH1〜3で酸析し、結晶が析出した縣濁液をろ過し水洗して得られる該化合物の結晶である請求項1に記載の4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の水性組成物。
【請求項3】
水性組成物中の4,4’−ビス(2−アニリノ−4−メトキシ−1,3,5−トリアジニル−6−アミノ)スチルベン−2,2’−ジスルホン酸の濃度が10〜30%、アルカノールアミン類であるエタノールアミン若しくはプロパノールアミンの濃度が5〜30%、エチレングリコール類の濃度が0〜40%、尿素の濃度が0〜30%である請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
水性組成物中のアルカリ金属イオン及び/又はアルカリ土類金属イオンの濃度が1000ppm以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の水性組成物。