説明

スチレンガス検知方法及びその装置、並びに検知シート及び検知管

【課題】 スチレンを簡易的に検知すること。
【解決手段】 ガス検知剤10aと試料ガスとの接触により生ずる該ガス検知剤の呈色反応によって、該試料ガス中に含まれるスチレンを検知する。該ガス検知剤は、ゼオライトを含有し、該ゼオライトは、ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライトのいずれかである。また、試料ガスと接触させたガス検知剤を、水に浸漬した後、さらに、これを乾燥すると、この呈色性は鮮明になり、スチレンの検知が容易になる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、大気及び排気ガス中に含まれるスチレンガスの検出方法及びその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】スチレンガスの検出方法としては、検知管による方法が一般的に知られている。この方法は白煙硫酸とスチレンが反応し縮重合することによって生じる黄色の発色を利用している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、前記検知管による検知方法はスチレン以外のアルコール、ケトン、エステル、アルデヒドなどのガスにもある程度発色反応を示してしまい正確な検出を示さなくなる。これにより、共存ガスによっては検出された値が本当にスチレンの値を示しているか分からなくなっている。
【0004】また、スチレンは、有機化学工業において主要材料のひとつであるが、昨今騒がれている環境ホルモンの起因物質のひとつでもあり、不快な臭気を有しないため、人体に吸引されやすい。このため、スチレンを原因するトラブルが、今後、増えるものと思われる。
【0005】本発明は、かかる事情に鑑み創作されたもので、その目的は、気相中からスチレンを簡易的に検知することが可能である、新たな、スチレンガス検知方法及びその装置並びに検知シート及び検知管を提供すること、にある。
【0006】
【課題を解決するための手段】発明者らは、本発明の創作に先立ち、排ガスを通気させた脱硝装置のゼオライト(アルミノケイ酸塩の一種)触媒の表面が蛍光桃色に着色してしまう原因を調べた結果、当該ガス中に含まれるスチレンが作用していることを発見し、さらに、この反応はスチレンに対し特異的なものであることも確認した。そこで、発明者らは、このようなゼオライトとスチレンとの特異的な呈色反応性を利用し、ガス中に含まれるスチレンの検知方法及びその装置並びに検知シートを発案した。
【0007】すなわち、本発明に係るスチレンを検知する方法は、請求項1に記載のごとく、ガス検知剤と試料ガスとの接触により生ずる該ガス検知剤の呈色反応によって、該試料ガス中に含まれるスチレンを検知する方法であって、該ガス検知剤は、ゼオライトを含有し、該ゼオライトは、ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライトまたはY型ゼオライトのいずれかであることを特徴としている。
【0008】該ガス検知剤は、前記ゼオライトに、ゼオライト成形体の作製にあたって一般的に用いられている無機または有機の各種バインダや粘土等の成形剤の少なくとも一種類を混合し、任意の形状に成形加工した後に500〜800℃で焼成して得ることが好ましく、ガスとゼオライトとの接触面積をできるだけ多く確保するためには、例えば多孔質体またはハニカム状に形成するとよい。
【0009】該ガス検出剤は、試料ガスに曝されると、蛍光桃色を呈する。この発色反応はスチレンに特異的なものであり、他の有機物、例えばキシレン、トルエン、メチルエチルケトン、ジエチルトリアミン、フェノールワニス、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、イソプロピルアルコールなどに対しは発色反応を呈しない。また、スチレンと他の有機物とを含有したガスに対しては発色反応を呈するので、当該発明によって、スチレンガスの存在を簡易的に判断することが可能となる。また、当該ガス検出剤は、空気中で200℃以上望ましくは300℃以上に加熱することで発色が消え再生させるので、再利用が可能となる。
【0010】尚、試料ガスと接触させた検知剤は、請求項2に記載したように、水に浸漬した後に、これを乾燥するとよい。検知剤の発色が、より鮮明となるからである。
【0011】また、当該ガス検知剤は、従来のガス検知管に変わる新たな充填剤になり得る。
【0012】請求項3記載の発明は、この検出剤をガス検出管における充填剤としたもので、当該発明は、ゼオライトを含有する検知剤を充填したスチレンガス検知管であって、該ゼオライトは、ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライトまたはY型ゼオライトのいずれかであること、を特徴としている。
【0013】さらに、請求項4記載の発明は、ゼオライトを含有するガス検知剤をシート状部材に塗布して成るスチレンガス検知シートであって、該ゼオライトは、ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライトまたはY型ゼオライトのいずれかであること、を特徴としている。
【0014】当該発明によれば、本検出試料をX線のフィルムバッチのように作業者が検出試料を持ち歩くことにより、作業者がスチレンに曝露されている量が許容範囲内におさまっているか判断することができる。さらに、有機溶剤乾燥用に乾燥機内に設置することで、装置洗浄後内部にスチレンが残存していないか把握することができる。
【0015】また、請求項5記載の発明は、試料ガスが供給される透明なカラムと、該カラム内に設置されるガス検知剤と、から成るスチレンガス検知装置であって、該スチレンガス検知剤は、ゼオライトと成形剤とを混合し成形した後に焼成して成るスチレンガス検知部材であること、該ゼオライトは、ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライトまたはY型ゼオライトのいずれかであること、を特徴としている。
【0016】当該発明によれば、例えば、強制排気装置に設置された吸着剤を通過した後に本検出試料を配置することで、吸着剤の寿命を判断することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(実施形態1)スチレンガスの検出方法図1は、本発明に係るスチレンガス検出方法の一実施形態を示した概略断面図である。
【0018】本発明に係るスチレンガスの検出方法は、ゼオライトを含有するガス検知剤と試料ガスとの接触により生ずる該ガス検知剤の呈色(蛍光桃色)反応によって、試料ガス中に含まれるスチレンを検知するものである。
【0019】前記ガス検知剤は、キシレン、トルエン、メチルエチルケトン、ジエチルエチルトリアミン、フェノールワニス、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、イソプロピルアルコールなど他の有機ガスに暴しても呈色反応を示さないが、スチレンガスがこれらの有機ガスと共存する場合は呈色反応を示すことが確認された。
【0020】このスチレンガス検知剤は、ゼオライト例えばZSM−5に、ゼオライト成形体の作製にあたって一般的に用いられている無機または有機の各種バインダや粘土等の成形剤の少なくとも一種類を混合し、任意の形状に成形加工した後に500〜800℃で焼成して得ることが好ましい。
【0021】そして、この素焼き成形体を、図1中のガス検知剤10aのように、カラム10内において、あるガス雰囲気下に曝して、該成形体の表面が蛍光桃色を呈すると、そのガス雰囲気はスチレンを含んでいることが判断される。
【0022】尚、前記ゼオライトは、ZSM−5に限らず、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライトまたはY型ゼオライトのいずれかでも、スチレンに対し特異的な呈色反応を示すことも確認されている。
【0023】また、前記成形体は、試料ガスとゼオライトとの接触面積をできるだけ確保するために、例えば、多孔質またはハニカム状に形成するとよい。これにより、スチレンガス検知剤と試料ガスとの接触効率が高まり、スチレンガス検知剤の使用量を大幅に削減することが可能となる。
【0024】さらに、前記ガス雰囲気に暴したガス検知剤を水に浸漬した後に更に高温槽で乾燥させると、発色がより鮮明となることが確認された。これは内部に取り込まれたスチレンが水分と共に表面に移動して、検出され易くなったものと考えられる。
【0025】また、本発明に係るガス検知剤は再利用が可能である。すなわち、スチレンと反応して発色した後のガス検知剤は、空気中で200℃以上、好ましくは300℃以上で焼成したところ、発色がなくり、さらに、この試料を用いて、再度スチレンと反応させたところ、再び発色することがが確認されている。
(実施形態2)スチレンガス検知管図2は、本発明に係るスチレンガス検知管の一実施形態を示した概略断面図である。
【0026】本実施形態においては、スチレンガス検知剤を、ガス検出管における充填剤として利用している。尚、当該ガス検知管は、ある場所、その瞬間での、ある特定のガス成分すなわちスチレンの概濃度を定量するためのものであり、精密な定量を行うためのものではない。
【0027】本発明に係るスチレンガス検知管20は、図2において、透明なガラス管20bに一定量のスチレンガス検知剤20aを充填し、かつ検知剤20aが緩まないように栓をあてがい、さらにこのガラス管20bの両端を密閉することで構成される。尚、管20bの表面には濃度目盛等が印刷されているものもある。また、充填剤としてのスチレンガス検知剤20aは、ガス検知管において一般に使用されている顆粒状に形成される。
【0028】そして、測定の際には、当該ガス検知管20の両端を切断して、該検知管20を既知のガス採取器22の検知管取付口21に差し込んで支持した後に、このガス採取器22の内部を減圧状態にして検知管20内に所定量(例えば、100ml)の試料ガスを通気すると、検知管20内の検知剤20aと被測定ガスとの反応により、変色層を形成するので、その変色層の先端の位置を目盛りから読み取り、測定値が得られる。
(実施形態3)スチレンガス検知シート図3は、本発明に係るスチレンガス検知シートの一実施形態の概略図である。
【0029】本実施形態においては、スチレンガス検知剤を、ガス検出シートに塗布されるガス検知剤として利用している。例えば、家庭用の防虫シートのように、シート状部材に塗布された色素の色変化で防虫シートの交換時期を表示するシートがあるが、本実施形態に係るガス検知シートも同様に、シート状部材30にスチレンガス検知剤を適当に塗布して構成される。シート状部材としてはシート状に形成したセラミック材等があり、これにスチレンガス検知剤が例えば「スチレンガス感知」というように塗布される(図3)。
【0030】そして、このスチレンガス検知シートは、有機溶剤としてスチレンを使用する作業場に配置することで、人体に有害なスチレンがどの程度滞留しているか(作業環境が許容範囲)を判断するための指標となる。
【0031】例えば、X線被曝量検出用フィルムバッチのように、作業者が前記スチレンガス検知シートを身に付けて持ち歩くことで、当該作業者はスチレンの曝露量が許容範囲内であるかを把握することが可能となる。
【0032】また、このスチレンガス検知シートを、ポスターあるいは壁掛けの絵画のように、作業場内の壁面に固定してもよい。これにより当該作業場内におけるスチレンガスの滞留確認が可能となる。
【0033】尚、スチレンガス検知剤は、700℃まで耐熱性を示し結晶構造も変化しないため、先の実施形態におけるハニカム状検出剤のように、バインダーを添加した後にシート状に焼成してもかまわない。また、耐熱性シート等の担体に塗布した後に焼成してもよい。さらに、他の有機溶剤(接着剤)等の影響がないのあれば、焼き付けることなくこの検出剤をそのまま塗布してもよい。前述のように、スチレンガス検知剤は再生が可能であるので、かかる構成のスチレンガス検知シートは長期的に使用することができる。
(実施形態4)スチレンガス検知装置本実施形態に係るスチレンガス検出装置は、図1において、ガスが送り込める構造の、透明な、カラム10に、顆粒状のスチレンガス検知剤10aを充填して構成される。そして、このカラム10に、エアポンプやファンを用いて、試料ガスを強制的に供給し、検知剤10aによる呈色反応の有無を確認している。
【0034】実施形態3に係る検知シートと比べると、強制的に試料ガスを送っている本実施形態に係る検知装置の方が発色し易いものと考えられ、精度よくスチレンを検出することができる。
【0035】また、スチレンガス検知剤10aは、強制的に送るガス中に含まれるスチレン濃度によって発色の程度も変わってくるため、予めスチレン濃度と発色領域との関係を定めておき、これに基づいた警告目印(例えば、人体に有害なレベル(規制値に相当)、やスチレンガス除去フィルターの交換時期等)をカラム10表面に施すとよい。
【0036】さらに、当該スチレンガス検知装置は、強制排気装置に設置された吸着手段(スチレン等の有機ガス吸着剤を備えている)の二次側に具備することで、前記吸着手段における吸着剤の寿命の判断が可能となる。
【0037】ここで、強制排気装置とは、ドラフトチャンバー等のことをいい、該スチレンガス検知装置は、この排気装置の排気ラインに設置されいる前記吸着手段を通過したガスを試料ガスとしている。このとき、前記吸着手段通過後のガスは完全にスチレンを除去できるわけではないので、吸着手段の性能低下とともに、検出装置内の検知剤10aは徐々に蛍光桃色へと変色していく。これにより、該吸着手段における吸着剤の寿命の判断が可能となる。そのために、ここでも、前述のような、「吸着剤の交換要」といった警告目印を予めカラム10に施すとよい。
【0038】また、当該スチレンガス検知装置も、実施形態3と同様に、前記作業場内に設置してもよく、設置場所は実際に人が作業する人目につきやすい場所なら、特に指定されるものではない。尚、操作温度は室温でも問題はない。
【0039】さらに、有機溶剤乾燥用に乾燥機内に設置することで、装置洗浄後内部にスチレンが残存していないか把握することができる。ここでは、スチレンを含む有機溶媒の乾燥用に乾燥機を使用している最中には、多量のスチレンガスが発生するため、すぐに発色してしまい、スチレンガス検知剤の寿命は短くなってしまう。したがって、この場合、実施形態4に係るスチレンガス検知シートよりも、本実施形態に係るスチレンガス検知装置を用いた方がよい。
【0040】但し、このとき、通常ガスを引いていては、検出剤の寿命が短くなってしまうため、乾燥機を使用した後に(ガス等で乾燥機内部を洗浄した後に)、本実施形態に係るスチレンガス検知装置を用いて、強制的に、内部のガスを検知剤10aに触れさせ検出することになる。尚、この際、室温では脱離しなかったスチレンが高温で脱離することも考えられるので、室温から実際に使用する温度域まで当該検出装置で監視する必要がある。
【0041】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によって以下の効果が得られる。
【0042】スチレンに特異的な呈色反応を示すので、スチレンガスの存在を簡易的に判断することができる。
【0043】また、請求項1から5記載のスチレンガス検知剤は、高温処理すれば、再生されるので、再利用が可能である。このことは、分析コストの面からも有効な効果となる。
【0044】さらに、前記スチレンガス検知剤は、ガス検知用充填剤として使用できるので、スチレンの概濃度を簡易的に検出することが可能となる。これにより、スチレンに起因するトラブルの回避が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るスチレンガス検出方法の一実施形態を示した概略断面図。
【図2】本発明に係るスチレンガス検知管の一実施形態を示した概略断面図。
【図3】本発明に係るスチレンガス検知シートの一実施形態を示した概略図。
【符号の説明】
10…カラム
10a…成形された若しくは顆粒状のスチレンガス検知剤
20…ガス検知管
20a…スチレンガス検知剤
21…ガス検知管取付口
22…ガス採取器
30…シート状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガス検知剤と試料ガスとの接触により生ずる該ガス検知剤の呈色反応によって、該試料ガス中に含まれるスチレンを検知する方法であって、該ガス検知剤は、ゼオライトを含有し、該ゼオライトは、ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライトまたはY型ゼオライトのいずれかであること、を特徴とするスチレンガス検知方法。
【請求項2】 試料ガスと接触させたガス検知剤を、水に浸漬した後に、これを乾燥すること、を特徴とする請求項1記載のスチレンガス検知方法。
【請求項3】 ゼオライトを含有するガス検知剤を充填したスチレンガス検知管であって、該ゼオライトは、ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライトまたはY型ゼオライトのいずれかであること、を特徴とするスチレンガス検知管。
【請求項4】 ゼオライトを含有したガス検知剤をシート状部材に塗布して成るスチレンガス検知シートであって、該ゼオライトは、ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライトまたはY型ゼオライトのいずれかであること、を特徴とするスチレンガス検知シート。
【請求項5】 試料ガスが供給される透明なカラムと、該カラム内に設置されるガス検知剤と、から成るスチレンガス検知装置であって、該ガス検知剤は、ゼオライトと成形剤とを混合し成形した後に焼成して成るスチレンガス検知剤であること、該ゼオライトは、ZSM−5、モルデナイト、フェリエライト、X型ゼオライトまたはY型ゼオライトのいずれかであること、を特徴とするスチレンガス検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2002−156372(P2002−156372A)
【公開日】平成14年5月31日(2002.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−352147(P2000−352147)
【出願日】平成12年11月20日(2000.11.20)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】