説明

スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法及びスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体

【課題】 容易に高発泡倍率のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得ることが出来、且つスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の発泡剤逸散後に型内発泡成形をおこなっても表面性に優れるスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を得ることが出来る、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】 耐圧容器中に、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を水系分散媒に、可塑剤存在下にて分散させ、前記耐圧容器内に発泡剤を入れて加熱し、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、該耐圧容器の一端を開放してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子と水系分散媒を含んでなる混合物を耐圧容器内よりも低圧域に放出するスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法に関する。更には、表面性の優れたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂の発泡成形体は、一般に弾性が高く、繰り返しの応力に対しても歪みの回復力が大きいという特徴のほかに、耐油性、耐割性に優れることから、包装資材として広く利用されている。しかし、剛性が低く、型内発泡成形後の発泡成形体の収縮が起こりやすく、圧縮強度が低いという短所を有している。
【0003】
このような欠点を改良する方法として、ポリエチレン系樹脂にスチレン系単量体を含浸させて重合を行って得られるスチレン改質ポリエチレン系樹脂からなる発泡成形体が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、ポリエチレン系樹脂にスチレン系単量体を含浸させて重合を行うことで得られる改質熱可塑性樹脂粒子において、耐候性を向上させる目的で、ポリエチレン粒子にスチレン単量体を添加、重合及び架橋させる際に重合触媒としてベンゼン環を有しない有機過酸化物の10時間半減期温度が60℃〜105℃の開始剤を使用し、かつポリエチレン架橋剤としてベンゼン環を有しない有機化酸化物の10時間半減期温度が100℃〜125℃の開始剤を使用し、重合・架橋反応を行っている。更に、重合・架橋反応終了後に上記で得られた樹脂粒子に発泡剤を含浸させて予備発泡粒子を得る手法を開示している。
【0005】
しかし、上記方法によって得られるスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子においては、予備発泡粒子の良好な成形性を得ること、及び予備発泡粒子を成型してなる成形体が高い耐割れ性を有することを両立することが困難であり、様々な試みが成されてきた。
【0006】
例えば、特許文献2には、耐割れ性、成形加工性を両立するためのゲル量、分子量範囲に関する記載があり、優れた成形加工性を有する予備発泡粒子が得られている。しかし、特許文献2の予備発泡粒子の評価は、予備発泡後1日室温で養生させた予備発泡粒子を成形・表面性を評価しているに留まっている。
【0007】
以上のように、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子からなるスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体において表面性向上の検討は数多くなされてきた。
【0008】
他方で、ビーズ法型内発泡成形体は、予備発泡粒子を金型に充填して加熱発泡させることにより製造される。この予備発泡粒子の製造方法として、樹脂粒子と発泡剤を耐圧密閉容器内で水等の分散媒に分散させ、加熱して発泡剤を樹脂粒子に含浸させた後、容器内より低圧の雰囲気下に放出して発泡させる方法、いわゆる除圧発泡法が知られている。
【0009】
スチレン改質ポリエチレン系樹脂から予備発泡粒子を製造する場合、除圧発泡法を適用することができる。しかし、除圧発泡法では、高倍率の予備発泡粒子を得るためには、より高い発泡圧力が必要となる。
【0010】
そのため、高い発泡倍率のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を容易に得ることが出来る製造方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−126726号公報
【特許文献2】特開2006−298956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のような状況に鑑み、本発明は、容易に高発泡倍率のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得ることが出来、且つスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の発泡剤逸散後に型内発泡成形をおこなっても表面性に優れるスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を得ることが出来る、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題を解決すべく鋭意検討したところ、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を耐圧容器中に分散剤とともに水系分散媒に分散させ、前記耐圧容器内に発泡剤を入れて加熱し、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、該耐圧容器の一端を開放してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子と水系分散媒を含んでなる混合物を耐圧容器内よりも低圧域に放出する、といういわゆる除圧発泡法において、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を水系分散媒に可塑剤存在下にて分散させた場合に、高発泡率のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得られることを見出し、更に、このようにして得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、日を経た発泡剤逸散後であっても表面性が良好なスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を製造することが出来ることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下の構成よりなる。
〔1〕 耐圧容器中に、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を水系分散媒に、可塑剤存在下にて分散させ、前記耐圧容器内に発泡剤を入れて加熱し、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、該耐圧容器の一端を開放してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子と水系分散媒を含んでなる混合物を耐圧容器内よりも低圧域に放出するスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法。
〔2〕 前記可塑剤が不揮発性の可塑剤である〔1〕に記載のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法。
〔3〕 前記可塑剤の使用量が、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下である〔1〕または〔2〕に記載のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法。
〔4〕 前記可塑剤がセバシン酸ジブチルである〔1〕〜〔3〕何れかに記載のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法。
〔5〕 〔1〕〜〔4〕何れかに記載の製造方法によって得られるスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子。
〔6〕 〔5〕記載のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡成形してなるスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法によれば、除圧発泡法において、耐圧容器内の発泡圧力を高くせずとも高い発泡倍率のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得ることが出来る。また、得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の発泡剤逸散後であっても表面性が良好なスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法は、ポリエチレン系樹脂粒子にスチレン系単量体を含浸、重合させてスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子と成し、耐圧容器中に、該スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を水系分散媒に、可塑剤存在下にて分散させ、前記耐圧容器内に発泡剤を入れて加熱し、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、該耐圧容器の一端を開放してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子と水系分散媒を含んでなる混合物を耐圧容器内よりも低圧域に放出して発泡させることを特徴とする。
【0017】
本発明において、可塑剤存在下にて分散を行うと言うことは、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子と水系分散媒を含んでなる混合物を耐圧容器内より放出する時点においてスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子中に可塑剤が含まれる状態となればよく、したがって、耐圧容器内にスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子や他の原料をいれる際に可塑剤を添加してもよいし、予め可塑剤を含浸させた樹脂粒子を耐圧容器内に導入しても良い。
【0018】
耐圧容器内にスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子や他の原料をいれる際に可塑剤を添加する場合は、例えば、予め水系分散媒に分散させておく方法や、耐圧容器を密閉した後に混合物に滴下する方法で添加することができる。
【0019】
例えば、耐圧容器中に、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子、可塑剤、発泡剤、水系分散媒、必要に応じて分散剤、分散助剤を仕込み、撹拌しながら所定温度(以下、「発泡温度」という場合がある。)まで昇温し、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させ、必要に応じて発泡剤を追加添加して、耐圧容器内を一定圧力(以下、「発泡圧力」という場合がある。)に保持した後、耐圧容器下部からスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子と水系分散媒を含んでなる混合物を、耐圧容器内圧より低圧域に放出することが好ましい。
【0020】
使用する耐圧容器に特に限定は無く、予備発泡粒子製造時における容器圧力、容器内温度に耐えられるものであれば良いが、例えば、オートクレーブ型の耐圧容器が挙げられる。
【0021】
本発明に用いる可塑剤は、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)等のフタル酸エステル類;アジピン酸ジオクチル(DOA)、アジピン酸ジブチル(DBA)、セバシン酸ジブチル(DBS)等の脂肪族二塩基酸エステル類;リシノール酸、グリセリン等のアセチル化物;エポキシ化大豆油、ヤシ油、パーム油等のグリセリン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0022】
時間が経過しても予備発泡粒子中に残り、良好な型内発泡成形性を得られることから、特に不揮発性の可塑剤が好ましい。不揮発性の可塑剤としては、予備発泡時・型内発泡成形時及び長期保存下で殆ど揮発しないものであり、通常の予備発泡温度・型内発泡成形温度を考慮すると、具体的には200℃以上の沸点を持つものが好ましい。具体的には、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)等のフタル酸エステル類;アジピン酸ジオクチル(DOA)、アジピン酸ジブチル(DBA)、セバシン酸ジブチル(DBS)等の脂肪族二塩基酸エステル類;リシノール酸、グリセリン等のアセチル化物;エポキシ化大豆油、ヤシ油等のグリセリン脂肪酸エステル類が挙げられる。これらの中で、特にセバシン酸ジブチルが好ましい。
【0023】
可塑剤の使用量は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対して、0.1重量部以上5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.3重量部以上2重量部以下である。0.1重量部より少ないと有意な発泡倍率、型内発泡成形性の改善効果が得られない場合がある。また、5重量部より多いと、得られるスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の耐熱性が低下し、型内発泡成形して得られるスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体が大きく収縮する傾向がある。
【0024】
本発明における水系分散媒としては、樹脂粒子を溶解させないものであれば特に限定はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、グリセリン、エチレングリコール等が挙げられ、これらを併用しても良い。とりわけ水を使用することが好ましい。水系分散媒の使用量は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対して、50重量部以上1000重量部以下であることが好ましい。
【0025】
本発明において使用しうる分散剤としては、公知のもので良く、例えば、第3リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム、カオリン等の難水溶性無機塩が挙げられ、これらを好適に使用することができる。
【0026】
また、本発明においては、少ない分散剤の使用量でスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を効率よく分散させるために分散助剤を使用してもよい。
【0027】
分散助剤としては、例えば、界面活性剤が挙げられ、具体的には、ドデシルベンゼンスルフォン酸ソーダ、高級アルコール硫酸ソーダ、n−パラフィンスルホン酸ソーダ、アルキルナフタレンスルフォン酸ソーダ等のアニオン系界面活性剤、塩化ベンザルコニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等のカチオン性界面活性剤、等が挙げられる。特に、アニオン系界面活性剤が好適である。
【0028】
これらの分散剤及び分散助剤の使用量としては、それらの種類や、スチレン改質ポリエチレン系樹脂の種類、量、発泡剤の種類などによって異なるが、通常、水系分散媒100重量部に対して、分散剤0.05重量部以上3重量部以下、分散助剤0.0001重量部以上0.2重量部以下であることが好ましい。
【0029】
また、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子に付着する分散剤量を低減する目的で、前記水系分散媒に酸を混合して、水系分散媒を酸性にする場合もある。
【0030】
前記のようにして耐圧容器内に調製されたスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子と水系分散媒の含んでなる混合物は、撹拌下、好ましくは120℃以上170℃以下、より好ましくは130℃以上150℃以下の所定の発泡温度まで昇温され、一定時間、通常5分以上180分以下、好ましくは10分以上60分以下の時間、その温度で保持されると共に、耐圧容器内の圧力が上昇し、発泡剤がスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子に含浸される。この後、必要に応じて、所定の発泡圧力になるまで発泡剤が追加供給され、一定時間、通常5分以上180分以下、好ましくは10分以上60分以下の時間、そのまま保持されることもある。こうして発泡温度、発泡圧力で保持されたスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を、耐圧容器の一端、一般的には耐圧容器の下部に設けられたバルブを開放して耐圧容器内よりも低圧域(通常は大気圧下)に放出することにより、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得ることが出来る。
【0031】
スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を低圧域に放出する際、流量調整、倍率バラつき低減などの目的で、1〜10mmφの開口オリフィスを通して放出することも出来る。また、発泡倍率を高くする目的で、前記低圧域を飽和水蒸気で満たす場合もある。
【0032】
本発明のスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子は、ポリエチレン系樹脂粒子に対して、スチレン系単量体を好ましくは150重量部以上400重量部以下、更に好ましくは180重量部以上300重量部を含浸、重合させて得られたものである。当該範囲内であれば型内発泡成形性が良好であり、得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体の耐割れ性が良好であるスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子となる傾向がある。
【0033】
本発明で使用するポリエチレン系樹脂粒子を構成するポリエチレン系樹脂は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のエチレンの単独重合体、ポリエチレンと、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等のα−オレフィンや酢酸ビニル、アクリル酸エステル、塩化ビニル等との共重合体があげられる。これらの中でもエチレンと酢酸ビニルの共重合体が好ましい。更には、メルトフローレート(以下、MFRと表記する場合がある)が1.5g/10分以下で酢酸ビニル含有量が10重量%以下であるエチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。MFRが1.5g/10分を超えては耐割れ性の発現が難しくなる傾向がある。酢酸ビニルが10重量%を超えては、融点が低いため、重合時に樹脂変形を起こしやすい傾向がある。なお、MFRはJIS K 6924に準拠して測定した値である。
【0034】
前記ポリエチレン系樹脂は、あらかじめ、例えば押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて溶融することによりポリエチレン系樹脂粒子とする。形状はパウダー、ペレット状等の粒子状態であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂粒子の平均粒重量は0.1mg/粒以上3mg/粒以下が好適な範囲である。0.1mg/粒より小さい場合は発泡剤の逸散が激しく高倍率化させにくくなる場合があり、3mg/粒より大きい場合は型内発泡成形時の金型への充填性が悪くなる恐れがある。この際に可塑剤を添加してもよいし、必要に応じて、気泡調整剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0035】
本発明に使用するスチレン系単量体としては、スチレン、およびα−メチルスチレン、パラメチルスチレン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン等のスチレン系誘導体を主成分として使用することができる。また、スチレン系誘導体と共重合が可能な成分、例えば、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のアクリル酸およびメタクリル酸のエステル、あるいはアクリロニトリル、ジメチルフマレート、エチルフマレート等が挙げられ、これら各種単量体を1種または2種以上併用してもよい。更に、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート等の多官能性単量体を使用することもできる。
【0036】
ポリエチレン系樹脂粒子に、スチレン系単量体を重合させるに際し、重合開始剤を使用することが好ましい。使用しうる重合開始剤としては、一般に熱可塑性重合体の製造に用いられるラジカル発生型重合開始剤を用いることができ、代表的なものとしては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーピバレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどの有機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物が挙げられる。これらの重合開始剤は単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。重量平均分子量は重合開始剤の量と反応温度により調整できる。
【0037】
これら重合開始剤の使用量は、スチレン系単量体100重量部に対して0.05重量部以上1.0重量部以下であることが好ましく、さらには0.1重量部以上0.5重量部以下であることが好ましい。
【0038】
本発明においてスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を重合させる方法としては、攪拌機を具備した容器内に仕込んだポリエチレン系樹脂粒子を含む水性懸濁液に、スチレン系単量体を連続的にまたは断続的に添加することにより、ポリエチレン系樹脂粒子にスチレン系単量体を含浸させ、重合させる。重合において、添加するスチレン系単量体の添加速度を任意に選択することで、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の重量平均分子量に調整することが可能である。重合温度は70℃以上90℃以下であると、所望の重量平均分子量であるスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子が得られるため、好ましい。
【0039】
本発明においては、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子がキシレンに不溶なゲルを含んでなることが好ましく、キシレンに不溶なゲルを生成させるために架橋剤を使用することが好ましい。具体的には、10時間半減期温度が100℃以上125℃以下のラジカル種発生型架橋剤を用いることが好ましい。このようなラジカル種発生型架橋剤としては、ジ−t−ブチルパーオキサイド(10時間半減期温度:123℃)、ジクミルパーオキサイド(10時間半減期温度:116℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(10時間半減期温度:104℃)、t−ブチルパーオキシアセテート(10時間半減期温度:102℃)、2,2−ビスーt−ブチルパーオキシブタン(10時間半減期温度:103℃)等が挙げられる。これら架橋剤は、スチレン系単量体の添加前あるいはスチレン系単量体と共に重合系に添加することが出来る。架橋反応は、重合時に行っても、除圧発泡時に行ってもよい。本発明においては、キシレンに不溶なゲル分の総量の50重量%以上を、除圧発泡時に生成させることが好ましい。このようにゲル生成のタイミングの調整は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂の重合温度、予備発泡時の耐圧容器内の温度、架橋剤の10時間半減期温度、架橋剤の添加方法等を調整することにより、行うことが出来る。
【0040】
本発明において使用することが出来る発泡剤としては、公知のものが挙げられ、例えば、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン、ネオペンタン等の脂肪族炭化水素類、ジフルオロエタン、テトラフルオロエタン等のオゾン破壊係数がゼロであるハイドロフルオロカーボン類等の揮発性発泡剤、窒素、炭酸ガス等の無機ガス等があげられる。これらの発泡剤は併用しても何ら差し支えない。
【0041】
また、前記発泡剤の使用量は、使用するスチレン改質ポリエチレン系樹脂の種類、基材樹脂の組成、発泡剤の種類、目的とする発泡倍率等により異なり、一概には規定できないが、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対して10重量部以上60重量部以下であることが好ましく、さらに好ましくは15重量部以上30重量部以下である。10重量部未満では十分な発泡倍率を得ることができない上に、型内発泡成形性の良好なスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得ることが難しい場合がある。60重量部を超えると発泡剤含浸時の樹脂粒子の分散状態が不安定となり、樹脂同士が凝集を起こしやすい傾向がある。また、水系分散媒に含まれている水を発泡剤として利用する方法を用いる場合もある。
【0042】
以上のようにして得られた、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、キシレンに不溶なゲルを含むことが好ましい。キシレンに不溶なゲル量は、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子中、10重量%以上50重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは15重量%以上40重量%以下である。当該範囲内であると、型内発泡成形を行う場合、高圧あるいは長時間の蒸気加熱を必要とせず、高倍率化しやすく、耐割れ性が良好なスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体が得られる傾向にある。
【0043】
なお、キシレンに不溶なゲル量は以下のようにして測定する。200メッシュの金網袋中に0.4gの予備発泡樹脂粒子を入れ、大気圧下で沸騰させたキシレン450ml中に2時間浸漬して冷却後に一旦、取り出し、更に新たな沸騰させたキシレン中に樹脂を1時間浸漬して冷却後にキシレンから取り出す。その後、同様に2時間、1時間の浸漬、溶出を繰り返し、その後、常温下で1晩液切りした後に150℃のオーブン中で1時間乾燥させ、常温まで自然冷却させ、冷却後の残留分をゲル成分とし、初期の予備発泡粒子量に対するゲル成分の量の重量比率をゲル量としている。
【0044】
また、本発明の製造方法によって得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、テトラヒドロフランに可溶な成分の重量平均分子量が15万以上35万以下であることが好ましい。当該範囲内であると、型内発泡成形を行う場合、高圧あるいは長時間の蒸気加熱を必要とせず、高倍率化しやすく、耐割れ性が良好なスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体が得られる傾向にある。
【0045】
ここでテトラヒドロフランに可溶分の重量平均分子量とは、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子0.02gを常温のテトラヒドロフラン20mlに24時間浸漬させることで抽出される成分を0.2μmのフィルターでろ過したものをゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーGPC(東ソーHLC−8220GPC、検出器:RI8020、カラム:TSKgel−GMHHR×2本)により標準ポリスチレン試料を基準に求めた値である。
【0046】
このようにして得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、一般的な型内発泡成形法によって型内発泡成形され、スチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体とすることが出来る。具体的には、閉鎖し得るが密閉しえない金型内に充填し、加熱融着せしめてスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体とされる。得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体は、優れた融着性を示す。
【0047】
また、本発明のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、製造後、日を経て、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子中の発泡剤が1重量%以下となる、発泡剤逸散時であっても、良好な型内発泡成形性を示し、得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体は良好な表面性を示す。
【実施例】
【0048】
以下に実施例及び比較例をあげて説明を行うが、これによって本発明は制限されるものではない。尚、測定評価については以下の通り実施した。
【0049】
<発泡力>
発泡圧力2.3MPaで発泡した時の嵩倍率を発泡力として定義し、30倍以上を合格とした。得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を容積3000mLの容器にすり切れ一杯採取して、その樹脂重量を測定し、下式に基づいて嵩倍率とした。
嵩倍率(倍) = 3000(mL)÷樹脂重量(g)×樹脂比重(g/mL)
【0050】
<発泡成形体の表面状態>
得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を脱水・乾燥した後に、室温で2日間養生させた予備発泡粒子(直後)、および約35℃の乾燥室で残存発泡剤量が予備発泡粒子に対して1重量%以下となるまで乾燥した予備発泡粒子(経日)を用いて、型内発泡成形を行い、型内発泡成形後に約35℃の乾燥室に1日保管した発泡成形体について目視観察にて評価した。数値が大きい方が粒子同士の隙間が少ない表面状態であり、5点満点で表現した3以上を合格とした。
5:隙間が見当たらない
4:部分的に隙間があるがほとんどわからない
3:所々隙間があるが全体としては許容レベル
2:隙間が目立つ
1:隙間が多い
【0051】
<ゲル量の測定>
200メッシュの金網袋中に0.4gの予備発泡粒子を入れ、大気圧下で沸騰させたキシレン450ml中に2時間浸漬して冷却後に一旦取り出し、更に新たに沸騰させたキシレン中に樹脂を1時間浸漬して冷却後にキシレンから取り出す。その後、同様に2時間、1時間の浸漬、溶出を繰り返し、その後、常温下で1晩液切りをした後に150℃のオーブン中で1時間乾燥させ、常温まで自然冷却させ、冷却後の残留分をゲル成分とし、初期の予備発泡粒子に対するゲル成分の量の重量比率をゲル成分とした。
【0052】
<テトラヒドロフラン可溶分の重量平均分子量>
スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子0.02gを常温のテトラヒドロフラン20mlに24時間浸漬させることで抽出された成分を、0.2μmのフィルターでろ過したものを、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC:東ソーHCL−8220GPC、検出器:RI8020、カラム:TSKgel−GMHHR×2本)により標準ポリスチレン試料を基準に求めた。
【0053】
(スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子の製造)
ポリエチレン系樹脂として住友化学株式会社製「エバテートF1103−1」を使用し、ポリエチレン系樹脂100重量部に対してタルク0.2重量部を混合し押出機内で溶融混合して造粒し、水中に押出した直後にカッティングすることで粒重量約1mg/粒の球状のポリエチレン系樹脂粒子を作製した。
【0054】
続いて6Lオートクレーブに水150重量部、第3リン酸カルシウム1重量部、α−オレフィンスルフォン酸ソーダ0.024重量部、ポリエチレン系樹脂粒子30重量部を懸濁させ、スチレン15重量部に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.26重量部(10時間半減期温度:74℃)、ラジカル種発生型架橋剤として、t−ブチルパーオキシベンゾエート(10時間半減期温度:104℃)0.60重量部を溶解させた溶液を添加した。その後、この水系懸濁液を70℃まで昇温し、30分間維持することでポリエチレン系樹脂粒子にスチレン単量体溶液を含浸させた。更に、85℃まで昇温し、スチレン単量体55重量部を3時間40分かけて反応系中に滴下し重合を行い、更に125℃昇温して30分保持し、冷却後、洗浄・脱水・乾燥することによりスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を得た。
【0055】
(実施例1)
10Lオートクレーブに水300重量部、セバシン酸ジブチル0.5重量部、第3リン酸カルシウム2.0重量部、n−パラフィンスルホン酸ソーダ0.02重量部、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子100重量部を仕込んだ。発泡剤としてノルマルリッチブタン(ノルマルブタン/イソブタン=70/30)22重量部をオートクレーブに添加した後、140℃に昇温し50分保持することで発泡剤の含浸と架橋反応を進行させた。その後、2.30MPa(ゲージ圧)の発泡圧力で、オートクレーブより開口径5mmのオリフィスを通して水系分散媒と共にスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を大気圧下に放出し、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得た。大気圧下に放出している間、高圧窒素を導入することでオートクレーブ内の圧力が一定に保持されるように調整した(以下、発泡工程と呼ぶこともある)。
【0056】
得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を脱水・乾燥した後に、室温で2日間養生させた予備発泡粒子、および約35℃の乾燥室で残存発泡剤量が予備発泡粒子に対して1重量%以下となるまで乾燥した予備発泡粒子、の2種類を作製し、圧力0.10MPa(ゲージ圧)の水蒸気で加熱して、300×450×25(t)mmサイズの金型にて型内発泡成形を行い、スチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体を得、評価した。評価結果を表1に示す。なお、予備発泡粒子中の残存発泡剤量は、約2gの予備発泡粒子を精秤し、150℃のオーブンで30分熱処理を行った後に室温まで冷却してから再度計量を行い、逸散分の重量%を求めることにより算出した。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例2)
10Lオートクレーブでの発泡工程にて、セバシン酸ジブチルを1.0重量部とした以外は実施例1と同様にし、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得た。得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、実施例1と同様に型内発泡成形して評価した。
【0059】
(実施例3)
10Lオートクレーブでの発泡工程にて、セバシン酸ジブチルを5.0重量部とした以外は実施例1と同様にし、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得た。得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、実施例1と同様に型内発泡成形して評価した。
【0060】
(実施例4)
10Lオートクレーブでの発泡工程にて、セバシン酸ジブチルの替わりにトルエンを5重量部とした以外は実施例1と同様にし、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得た。得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、実施例1と同様に型内発泡成形して評価した。
【0061】
(実施例5)
10Lオートクレーブでの発泡工程にて、セバシン酸ジブチルの替わりにシクロヘキサンを5重量部とした以外は実施例1と同様にし、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得た。得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、実施例1と同様に型内発泡成形して評価した。
【0062】
(比較例1)
10Lオートクレーブでの発泡工程にて、セバシン酸ジブチルを0重量部とした以外は実施例1と同様にし、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を得た。得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、実施例1と同様に型内発泡成形して評価した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法によって得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子は、予備発泡直後でなくとも型内発泡成形性に優れている。また、スチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子から得られたスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体は、耐割れ性に優れているため、とりわけ自動車部材、緩衝材に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧容器中に、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子を水系分散媒に、可塑剤存在下にて分散させ、前記耐圧容器内に発泡剤を入れて加熱し、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、該耐圧容器の一端を開放してスチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子と水系分散媒を含んでなる混合物を耐圧容器内よりも低圧域に放出するスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法。
【請求項2】
前記可塑剤が不揮発性の可塑剤である請求項1に記載のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法。
【請求項3】
前記可塑剤の使用量が、スチレン改質ポリエチレン系樹脂粒子100重量部に対して0.1重量部以上5重量部以下である請求項1または2に記載のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法。
【請求項4】
前記可塑剤がセバシン酸ジブチルである請求項1〜3何れか一項に記載のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4何れか一項に記載の製造方法によって得られるスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子。
【請求項6】
請求項5記載のスチレン改質ポリエチレン系樹脂予備発泡粒子を型内発泡成形してなるスチレン改質ポリエチレン系樹脂発泡成形体。

【公開番号】特開2010−229325(P2010−229325A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79572(P2009−79572)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】