説明

スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子、発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子、スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子、スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体及びそれらの製造方法

【課題】従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体よりも物性の優れたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体の提供。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂を20質量部以上300質量部未満含有し、かつ、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在していることを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を核にして、スチレンを重合させることで得られるスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子、これに発泡剤を含浸させたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子、該粒子を予備発泡させて得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子、該発泡粒子を型内発泡成形して得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリスチレン系樹脂予備発泡粒子を型内に充填して加熱、発泡させて得られるポリスチレン系樹脂発泡成形体は、剛性、断熱性、軽量性、耐水性及び発泡成形性に優れていることが知られている。そのため、この発泡成形体は、緩衝材や建材用断熱材として広く用いられている。しかし、このポリスチレン系樹脂発泡成形体は、耐薬品性及び耐衝撃性に劣るといった問題があった。
一方、熱可塑性ポリウレタン樹脂は、耐磨耗性が高く、樹脂の引張り伸び率が高く、耐寒性に優れた樹脂であり、発泡体としても各種分野での使用を要望されているが、この樹脂単体では良好な発泡体を作製することができないという問題があった。
そこで、前記ポリスチレン系樹脂と熱可塑性ポリウレタン樹脂の問題点を解決するために、この熱可塑性ポリウレタン樹脂の特性をある程度有し、かつ発泡させる為に、熱可塑性ポリウレタン樹脂とポリスチレン系樹脂とを混合した発泡性重合体が提案され、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、ポリウレタンエラストマー粒子20〜80質量%、およびビニル芳香族単量体および/又はメタアクリル酸エステル80〜20質量%を水性媒質中に懸濁せしめてポリウレタンエラストマー粒子中にビニル芳香族単量体および/又はメタアクリル酸エステルが浸透して重合した重合体粒子となし、これを水性懸濁液中で、易揮発性炭化水素またはハロゲン化炭化水素からなる発泡剤を圧入して発泡性重合体粒子を得ることを特徴とする発泡性重合体粒子の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭55−80440号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した特許文献1の実施例1には、ビカット軟化点が105℃のポリウレタンエラストマーの粒子とスチレン単量体とを重合触媒存在下、重合させてポリウレタンエラストマーとポリスチレンとを含む発泡性重合体粒子を製造した場合が例示されている。しかしながら、この方法で製造された得られた発泡性重合体粒子は、ポリウレタン樹脂とポリスチレン樹脂の混合系樹脂発泡体の物性が十分に発揮できていない。
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体よりも物性の優れたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂を20質量部以上300質量部未満含有し、かつ、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在していることを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を提供する。
【0007】
また本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂を20質量部以上300質量部未満含有し、かつ、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在しているスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に発泡剤が含浸されてなることを特徴とする発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を提供する。
【0008】
また本発明は、前記発泡性スチレン系改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を予備発泡させてなるスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を提供する。
【0009】
また本発明は、前記スチレン系改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を型内に充填し発泡成形させてなり、密度が0.01〜0.2g/cmの範囲内であることを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を提供する。
【0010】
また本発明は、分散剤を含む水性懸濁液中に、ビカット軟化点80〜130℃である熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子100質量部と、スチレン系単量体20質量部以上300質量部未満と、重合開始剤とを分散させる工程と、
得られた分散液を前記スチレン系単量体が実質的に重合しない温度に加熱して前記スチレン系単量体を前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させる工程と、
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子のビカット軟化点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度で、前記スチレン系単量体の重合を行う工程とを有することを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法を提供する。
【0011】
また本発明は、分散剤を含む水性懸濁液中に、ビカット軟化点80〜130℃である熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子100質量部と、スチレン系単量体20質量部以上200質量部未満と、重合開始剤とを分散させる工程と、
得られた分散液を前記スチレン系単量体が実質的に重合しない温度に加熱して前記スチレン系単量体を前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させる工程と、
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子のビカット軟化点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度で、前記スチレン系単量体の第1の重合を行う工程と、
前記工程に続いて、スチレン系単量体と、重合開始剤とを加え、かつ前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の融点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度とすることで、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子への前記スチレン系単量体の含浸と第2の重合とを行う工程と(但し、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子100質量部に対し、第1の重合と第2の重合で使用するスチレン系単量体の合計は20質量部以上300質量部未満である)とを有することを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法を提供する。
【0012】
また本発明は、前記製造方法により得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を得ることを特徴とする発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法を提供する。
【0013】
また本発明は、前記製造方法により得られた発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を加熱し予備発泡させて発泡粒子を得ることを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子の製造方法を提供する。
【0014】
また本発明は、前記製造方法により得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、次いで型内発泡成形し、次いで成形体を成形型から離型することを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在している海島構造を有するものなので、該粒子に発泡剤を含浸させて得られた発泡性樹脂粒子を予備発泡後、この発泡粒子を成形型に充填して型内発泡成形して得られる発泡成形体は、ポリスチレン系樹脂発泡成形体と熱可塑性ポリウレタン樹脂のそれぞれの長所が生かされ、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を提供することができる。
本発明の発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、前述したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に発泡剤を含浸させてなるものなので、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適した発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を提供することができる。
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子は、前述した発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を予備発泡させてなるものなので、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を提供することができる。
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体は、前述したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を型内発泡成形したものなので、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体を提供することができる。
【0016】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法は、分散剤を含む水性懸濁液中に、ビカット軟化点80〜130℃である熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子とスチレン系単量体と重合開始剤とを分散させ、スチレン系単量体を熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させた後、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子のビカット軟化点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度で1段階又は2段階のスチレン系単量体の重合を行うことによって、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在している海島構造を有するスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を製造することができる。得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、発泡剤を含浸させて得られた発泡性樹脂粒子を予備発泡後、この発泡粒子を成形型に充填して型内発泡成形した場合に、ポリスチレン系樹脂発泡成形体と熱可塑性ポリウレタン樹脂のそれぞれの長所が生かされ、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れたものとなる。従って、本製造方法によれば、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を提供することができる。
本発明の発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法は、前述したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を製造するものなので、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適した発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を提供することができる。
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子の製造方法は、前述した発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を予備発泡してスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を製造するものなので、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を提供することができる。
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体の製造方法は、前述したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を型内発泡成形してスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を製造するものなので、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者らは、熱可塑性ウレタン樹脂に、重合触媒を含有したスチレン系単量体を添加し、重合させるにあたって、熱可塑性ウレタン樹脂のビカット軟化点と重合温度が最終的な熱可塑性ウレタン樹脂とポリスチレン樹脂の複合樹脂粒子もしくは、その発泡体の物性に大きく影響している点が分かり、その点について鋭意研究を行った。その結果、熱可塑性ポリウレタン樹脂に重合触媒を含有したスチレン系単量体を添加し、重合させる際、熱可塑性ポリウレタン樹脂のビカット軟化点以上の温度でスチレン系単量体を重合すると、粒子表面近傍では熱可塑性ポリウレタンが多くなり、粒子中心部に近づくとスチレンが多くなり、また熱可塑性ポリウレタン樹脂とスチレンが明瞭な海島構造を形成しているスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子が得られることを知見した。
【0018】
さらに、このように製造した前記海島構造を有するスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、発泡剤を含浸させて得られた発泡性樹脂粒子を予備発泡後、この発泡粒子を成形型に充填して型内発泡成形した場合に、ポリスチレン系樹脂発泡成形体と熱可塑性ポリウレタン樹脂のそれぞれの長所が生かされ、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体を製造できることを知見し、本発明を完成させた。
【0019】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂を20質量部以上300質量部未満含有し、かつ、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.05〜0.2μmのポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在していることを特徴としている。
【0020】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の樹脂材料の一つである、熱可塑性ポリウレタン樹脂としては、例えば、ハードセグメントとしてポリウレタン、ソフトセグメントとしてポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート等を持つブロック共重合体等を有する熱可塑性ポリウレタン系エラストマー、ハードセグメントとしてポリプロピレン、ソフトセグメントとしてエチレンを持つもの、これらをブレンドして得られたもの、これらに更に有機過酸化物を添加することにより部分架橋したもの、不飽和ヒドロキシ単量体、不飽和カルボン酸の誘導体でグラフト変性されたもの、その他ブチルゴムグラフトポリエチレン等を有する熱可塑性ポリオレフィン系エラストマーなどが挙げられる。
【0021】
本発明で用いられる熱可塑性ポリウレタン樹脂は、ビカット軟化点が80〜130℃の範囲のものであり、ビカット軟化点85〜125℃の範囲のものがより好ましい。熱可塑性ポリウレタン樹脂のビカット軟化点が80℃より低いと、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の耐熱性が乏しくなり、得られるスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子、及び発泡成形体の耐熱性が低くなり、使用用途が限定されて実用性に乏しくなる。また熱可塑性ポリウレタン樹脂のビカット軟化点が130℃より高いと、重合温度が高くなり、良好な重合ができなくなる。
【0022】
なお、本発明において、「ビカット軟化点」とは、JIS K7206に基づいて測定したビカット軟化点を指す。
また、本発明において、発泡成形体における「穿孔衝撃エネルギー」の測定方法は、ダイナタップ衝撃試験であるASTM D−3763に準拠して測定した(測定方法の具体的条件は、後述する)。
【0023】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の他の樹脂材料である、ポリスチレン系樹脂は、スチレン系単量体の重合体(ポリマー)である。このスチレン系単量体としては、スチレン単量体、またはスチレンを主成分とするスチレン単量体と、スチレンと共重合可能な単量体との混合物、例えば、スチレン単量体とα−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸もしくはメタクリル酸と1〜8個の炭素原子数を有するアルコールとのエステル、マレイン酸、フマル酸と1〜8個の炭素原子数を有するアルコールとのエステル、無水マレイン酸等や、さらに少量の架橋剤としてジビニルベンゼン、ブタジエン、ポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0024】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子において、前記2つの樹脂の比率は、熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂が20質量部以上300質量部未満の範囲、好ましくは、30質量部以上250質量部未満、より好ましくは50質量部以上250質量部未満とされている。ポリスチレン系樹脂が20質量部より少ないと、熱可塑性ポリウレタン樹脂の比率が高くなり、良好な発泡成形体が得られ難い。またポリスチレン系樹脂の添加量が300質量部以上であると、熱可塑性ポリウレタン樹脂の比率が少なくなり、熱可塑性ポリウレタン樹脂による樹脂物性の影響が少なく、柔軟性、穿孔衝撃エネルギーが小さく、脆性の強い樹脂粒子及び発泡成形体になる。
【0025】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子において、ポリスチレン系樹脂は、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在している。図1は、本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の断面TEM画像を示す図である。この図1から明らかなように、本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、微粒子状のポリスチレン系樹脂粒子が熱可塑性ポリウレタン樹脂中に均一に分散した海島構造をなして存在していることがわかる。一方、図2に示す比較例のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、図1において見られるような微粒子状のポリスチレン系樹脂粒子と熱可塑性ポリウレタン樹脂との海島構造が確認できない。
【0026】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在している海島構造を有するものなので、該粒子に発泡剤を含浸させて得られた発泡性樹脂粒子を予備発泡後、この発泡粒子を成形型に充填して型内発泡成形して得られる発泡成形体は、ポリスチレン系樹脂発泡成形体と熱可塑性ポリウレタン樹脂のそれぞれの長所が生かされ、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を提供することができる。
【0027】
前述した本発明に係るスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、次の(A)〜(C)の各工程、又は(A)〜(D)の各工程を備えた、本発明に係るスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法により、効率よく、また歩留まりよく製造することができる。
(A)分散剤を含む水性懸濁液中に、ビカット軟化点80〜130℃である熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子100質量部と、スチレン系単量体20質量部以上300質量部未満と、重合開始剤とを分散させる工程、
(B)次いで、得られた分散液を前記スチレン系単量体が実質的に重合しない温度に加熱して前記スチレン系単量体を前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させる工程、
(C)次いで、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子のビカット軟化点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度で、前記スチレン系単量体の第1の重合を行う工程、
(D)前記(C)工程に続いて、スチレン系単量体と、重合開始剤とを加え、かつ前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の融点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度とすることで、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子への前記スチレン系単量体の含浸と第2の重合とを行う工程(但し、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子100質量部に対し、第1の重合と第2の重合で使用するスチレン系単量体の合計は30質量部以上300質量部未満である)。
【0028】
前記(A)工程において、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、押出機を通してカットされるストランドカット、水中カット、ホットカットによるペレット、もしくは樹脂自身を粉砕機によって小粒化したペレットを用いることが望ましい。この熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の好ましい樹脂粒径は、0.5〜1.5mmの範囲内であり、0.6〜1.0mmの範囲内がより好ましい。
【0029】
また、前記スチレン系単量体としては、前述した通り、スチレン単量体、またはスチレンを主成分とするスチレン単量体と、スチレンと共重合可能な単量体との混合物が用いられる。なお、この(A)〜(D)の各工程は、スチレン系単量体を原料としてビーズ状のポリスチレン系樹脂粒子を製造するポリスチレン系樹脂の懸濁重合法又はシード重合法などの周知の重合法を実施する際に用いられるオートクレーブ重合装置などを用いて実施できるが、使用する製造装置はこれに限定されない。
【0030】
また、重合開始剤としては、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−t−ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレ−ト、t−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシブタン−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタン、t−ブチルパーベンゾエート、t−ブチルパーピバレート、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が用いられる。これらの重合開始剤は、単独で使用してもよいし、また2種以上併用してもよい。重合開始剤の添加量は、スチレン系単量体の添加量および反応温度により調整され、得られるスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の重量平均分子量が所望する値になるように決定されるが、通常は、スチレン系単量体に対して、0.03質量%〜1質量%の範囲で添加される。
【0031】
重合において使用される安定剤としては、一般に公知である安定剤を使用することができる。例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子や、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機化合物等が挙げられる。難溶性無機化合物を用いる場合には、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ等のアニオン界面活性剤を併用することが好ましい。
【0032】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子には、可塑剤、発泡セル造核剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、滑剤、着色剤等、発泡性樹脂粒子を製造する際に用いられる添加剤を、必要に応じて適宜使用してもよい。
【0033】
前記(B)工程において、(A)工程で得られた分散液を、スチレン系単量体が実質的に重合しない温度に加熱し、スチレン系単量体を熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させる際の温度は、45℃〜70℃の範囲、好ましくは50℃〜65℃の範囲とする。この含浸温度が前記範囲未満であると、スチレン系単量体の含浸が不十分となってポリスチレンの重合粉末が生成されるので、好ましくない。一方、含浸温度が前記範囲を超えると、スチレン単量体が熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に十分含浸される前に重合してしまうので、好ましくない。
【0034】
本発明の製造方法において、前記(C)工程及び(D)工程の重合温度は重要な要因であり、熱可塑性ポリウレタン樹脂のビカット軟化点以上でスチレン系単量体を重合することで、得られるスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子内は、熱可塑性ポリウレタン樹脂の海に球状のポリスチレン系樹脂粒子の島が存在する構造となる。そのような構造になることで、該樹脂粒子を用いて得られるスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体は、熱可塑性ポリウレタン樹脂の長所を発揮できる。
【0035】
前記(C)工程及び(D)工程における重合温度は、熱可塑性ポリウレタン樹脂のビカット軟化点をT℃とした時に、T〜(T+35)℃の範囲が好ましい。(C)工程及び(D)の重合工程の温度を、熱可塑性ポリウレタン樹脂のビカット軟化点T℃からT+35℃の間の温度とすることで、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子内にポリスチレン系樹脂の多数の微粒子が島状に分散した状態のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子が得られる。この重合温度がT℃より低いと、得られる樹脂粒子内に熱可塑性ポリウレタン樹脂とポリスチレン系樹脂との明瞭な海島構造が形成されないので、良好な物性を示す樹脂粒子や発泡成形体が得られない。また重合温度が(T+35)℃より高くなると、重合温度が高くなり、スチレン系単量体が熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に十分含浸される前に重合が開始してしまうので、良好な物性を示す樹脂粒子や発泡成形体が得られない。また耐熱性に優れた高価格の重合設備が必要になる。
【0036】
前記(C)工程、又は(C)工程及び(D)工程の重合を行った後、反応槽を冷却し、形成されたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を水性媒質と分離することで、熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂を20質量部以上300質量部未満含有し、かつ、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在している本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子が得られる。
【0037】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法は、分散剤を含む水性懸濁液中に、ビカット軟化点80〜130℃である熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子とスチレン系単量体と重合開始剤とを分散させ、スチレン系単量体を熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させた後、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子のビカット軟化点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度で1段階又は2段階のスチレン系単量体の重合を行うことによって、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在している海島構造を有するスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を製造することができる。得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、発泡剤を含浸させて得られた発泡性樹脂粒子を予備発泡後、この発泡粒子を成形型に充填して型内発泡成形した場合に、ポリスチレン系樹脂発泡成形体と熱可塑性ポリウレタン樹脂のそれぞれの長所が生かされ、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れたものとなる。従って、本製造方法によれば、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を提供することができる。
【0038】
本発明は、前述したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に発泡剤、好ましくは易揮発性発泡剤を含浸させて得られる、発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子とその製造方法を提供する。
【0039】
この発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させる易揮発性発泡剤としては、沸点が重合体の軟化温度以下である易揮発性を有する、例えばプロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、炭酸ガス、窒素が挙げられ、これらの発泡剤は、単独もしくは2種以上を併用して用いることができる。易揮発性発泡剤の使用量は、スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子100質量部に対して、1〜15質量部、好ましくは3〜10質量部である。また前記発泡剤の添加は、重合前、重合中、重合後の何れの点でもよいが、通常重合後期あるいは重合後に圧入して添加し、スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させる。
【0040】
本発明の発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子は、前述したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に発泡剤を含浸させてなるものなので、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適した発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を提供することができる。
【0041】
本発明は、前述した発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を加熱して予備発泡させて得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子(予備発泡粒子)とその製造方法を提供する。この予備発泡の加熱条件や予備発泡に用いる装置は、従来のポリスチレン系樹脂発泡粒子の製造の場合と同等とすることができる。
【0042】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子は、前述した発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を予備発泡させてなるものなので、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体と比べて穿孔衝撃エネルギーが高いなど、機械特性に優れた発泡成形体の製造に適したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を提供することができる。
【0043】
本発明は、前述したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、加熱して型内発泡成形して得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体とその製造方法を提供する。この型内発泡成形の加熱条件や成形装置は、従来のポリスチレン系樹脂発泡成形体の製造の場合と同等とすることができる。
【0044】
本発明のスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体は、密度が0.01〜0.2g/cmの範囲内であり、0.05〜0.1g/cmの範囲がより好ましい。該発泡成形体の密度が0.01g/cmより小さいと、発泡成形体の収縮が発生し、良好な発泡成形体が得られない。また密度が0.2g/cmより大きいと、発泡倍率が低いために、良好な発泡成形体が得られない。
以下、実施例により本発明の効果を実証する。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
熱可塑性ポリウレタン樹脂(以下、TPUと記す)(大日精化社製、商品名「レザミン2283」、ビカット軟化点89℃)を押出機に供給して溶融混練して水中カット方式により造粒して楕円球状のTPU樹脂粒子を得た。このTPU樹脂粒子の平均質量は、約0.8mgであった。
次に、ポリビニルアルコール10gを水1990gに分散させて0.5質量%の分散用媒体を得た。この分散用媒体2000質量部を反応槽に入れ、その中に前記TPU樹脂粒子100質量部を分散させて懸濁液を得た。一方、重合開始剤としてのジクミルパーオキサイド0.12質量部を予めスチレン系単量体58質量部に溶解させたものを用意した。
TPU樹脂粒子を含む水系媒体の温度を60℃に調節し、前記スチレン系単量体を30分かけて一定量で前記反応槽に添加したのち、30分間撹拌することでTPU樹脂粒子中にスチレン系単量体を含浸させた。
次に、反応槽内の温度をTPUのビカット軟化点より31℃高い120℃に昇温して2時間保持し、スチレン系単量体をTPU樹脂粒子中で重合(第1の重合)させた。
次に、第1の重合の反応液をTPUのビカット軟化点より1℃高い90℃にして、更に、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド0.19質量部とt−ブチルパーオキシベンゾエート0.10質量部をスチレン系単量体175質量部に溶解させた第2のスチレン系単量体を、1時間あたり45質量部の割合で連続的に滴下することで、第2のスチレン単量体をTPU樹脂粒子に含浸させながら重合(第2の重合)させた。
得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子中のスチレン樹脂の分散状態をTEM(32200倍)にて観察した。そのTEM画像を図1に示す。
図1の画像より、粒子の長径が約0.05〜0.2μmであるスチレン樹脂粒子が、熱可塑性ポリウレタン樹脂の海に島状に多数分散された状態で存在していることが分かる。
続いて、ピロリン酸マグネシウム1.0質量部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.04質量部を水2000gに分散させたものを槽内に入れ、これに前記スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子1500gを供給して回転させながら常温でブタン(n−ブタン:i−ブタン=7:3)150gを圧入した。そして、分散液を90℃に昇温して、5時間保持したのちに25℃まで冷却して発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を得た。得られた発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子中のスチレン樹脂の分散状態と粒子長径の大きさは、図1の画像と同様であった。
得られた発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を直ちに予備発泡機(積水工機製作所社製、商品名「SKK−70」)に供給し、0.02MPaの圧力の水蒸気を用いて予備発泡させて、嵩密度30kg/mのスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を得た。
次に、スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を室温で2日間放置した後、成形機(積水工機製作所社製、商品名「ACE−3SP」)の成形型のキャビティ内に充填した。そして、成形型内に水蒸気を供給して発泡粒子を型内発泡成形させた。冷却後、発泡成形体を離型し、縦400mm×横300mm×高さ30mmの直方体状である、密度30kg/mのスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を製造した。
【0046】
[実施例2]
第1の重合で用いたスチレン単量体を25質量部、第2の重合で用いたスチレン単量体を75質量部(合計のスチレン樹脂量が100質量部)としたこと以外は、実施例1と同様にして、スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を製造し、また該粒子に発泡剤含浸、予備発泡、型内発泡成形を順次行って、縦400mm×横300mm×高さ30mmの直方体状である、密度40kg/mのスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を製造した。
【0047】
[実施例3]
TPUを、ビカット軟化点98℃(大日精化社製、商品名「レザミン4580」)とし、且つ第2の重合の温度を120℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を製造し、また該粒子に発泡剤含浸、予備発泡、型内発泡成形を順次行って、縦400mm×横300mm×高さ30mmの直方体状である、密度30kg/mのスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を製造した。
【0048】
[実施例4]
TPUを、ビカット軟化点98℃(大日精化社製、商品名「レザミン4580」)とし、第1の重合で用いたスチレン単量体を25質量部、第2の重合で用いたスチレン単量体を75質量部(合計のスチレン樹脂量が100質量部)とし、且つ第2の重合の温度を120℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を製造し、また該粒子に発泡剤含浸、予備発泡、型内発泡成形を順次行って、縦400mm×横300mm×高さ30mmの直方体状である、密度40kg/mのスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を製造した。
【0049】
[実施例5]
重合を1段とし、その重合温度を90℃とし、この第1の重合で用いたスチレン単量体を100質量部とし、それ以外は、実施例1と同様にして、スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を製造し、また該粒子に発泡剤含浸、予備発泡、型内発泡成形を順次行って、縦400mm×横300mm×高さ30mmの直方体状である、密度40kg/mのスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を製造した。
【0050】
[比較例1]
第1の重合で用いたスチレン単量体を2.5質量部、第2の重合で用いたスチレン単量体を7.5質量部(合計のポリスチレン樹脂量が10質量部)とし、スチレン樹脂量を減らして本発明の範囲外としたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂粒子を製造した。この樹脂粒子に発泡剤含浸、予備発泡、型内発泡成形を順次行ったが、良好な発泡体が得られなかった。
【0051】
[比較例2]
第1の重合で用いたスチレン単量体を2.5質量部、第2の重合で用いたスチレン単量体を7.5質量部(合計のポリスチレン樹脂量が10質量部)とし、スチレン樹脂量を多くして本発明の範囲外としたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂粒子を製造し、また該粒子に発泡剤含浸、予備発泡、型内発泡成形を順次行って、縦400mm×横300mm×高さ30mmの直方体状である、密度40kg/mの発泡成形体を製造した。
【0052】
[比較例3]
TPUを、ビカット軟化点103℃(大日精化社製、商品名「レザミン880」)とし、且つ第1の重合の温度と第2の重合の温度とを該ビカット軟化点よりも低い90℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂粒子を製造した。
得られた樹脂粒子の断面をTEM(12800倍)にて観察した。そのTEM画像を図2に示す。
図2の画像より、図1に示す実施例1の樹脂粒子において見られた海島構造が見られないことが分かる。
この該樹脂粒子に発泡剤含浸、予備発泡、型内発泡成形を順次行って、縦400mm×横300mm×高さ30mmの直方体状である、密度30kg/mのスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体を製造した。
【0053】
前述した実施例1〜5及び比較例1〜3の製造条件を、まとめて表1に記す。
また、前述した通り製造した実施例1〜5及び比較例2〜3のそれぞれの樹脂粒子において、断面のTEM画像からスチレン樹脂粒子の粒子径(粒子長径)の範囲を調べた。さらに、実施例1〜5及び比較例2〜3で製造された発泡成形体について、以下の穿孔衝撃エネルギーの測定方法を行った。これらの結果を表2にまとめて記す。
【0054】
<穿孔衝撃エネルギーの測定方法>
穿孔衝撃エネルギーの測定方法は、ダイナタップ衝撃試験であるASTM D−3763Aに準拠して測定した。試験装置は、General Research社製のダイナタップ衝撃試験装置GRC 8250を用い、試験片は片面表皮を残した縦100mm×横100mm×高さ20mmを5つカットした。測定条件は、試験温度は−20℃、試験速度1.55m/sec、スパンは丸穴内径76mm、落下高さ59cm、試験荷重3.17kg、落錘距離13cmで、n=5測定し、その平均値を穿孔衝撃エネルギーの値とした。
【0055】
<粒子長径の測定方法>
得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子または発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を、エポキシ樹脂包埋後、ウルトラミクロトームLeica Ultracut UCT(ライカマイクロシステムズ社製)にて超薄切片を作成し、透過型電子顕微鏡H−7600(日立製作所社製)にてTEM写真撮影を行った。染色剤として四酸化ルテニウムを用いた。スチレン改質樹脂粒子の中心付近を通る断面を切り出し、この断面のポリスチレン系樹脂の分散状態をTEM写真(12800倍〜32200倍)にて観察し、分散されたスチレン系樹脂粒子の粒子長径を測定した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1、表2の結果から、本発明に係るスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体は、比較例2,3の発泡成形体と比べて、穿孔衝撃エネルギーが高くなり、物性が優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る実施例1で製造したスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の断面TEM画像を示す図である。
【図2】比較例3で作製した樹脂粒子の断面TEM画像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂を20質量部以上300質量部未満含有し、かつ、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在していることを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子。
【請求項2】
熱可塑性ポリウレタン樹脂100質量部に対して、ポリスチレン系樹脂を20質量部以上300質量部未満含有し、かつ、熱可塑性ポリウレタン樹脂中に、粒子長径が0.5μm以下のポリスチレン系樹脂粒子が分散された状態で存在しているスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に発泡剤が含浸されてなることを特徴とする発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子。
【請求項3】
請求項2記載の発泡性スチレン系改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を予備発泡させてなるスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子。
【請求項4】
請求項3に記載のスチレン系改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を型内に充填し発泡成形させてなり、密度が0.01〜0.2g/cmの範囲内であることを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体。
【請求項5】
分散剤を含む水性懸濁液中に、ビカット軟化点80〜130℃である熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子100質量部と、スチレン系単量体20質量部以上300質量部未満と、重合開始剤とを分散させる工程と、
得られた分散液を前記スチレン系単量体が実質的に重合しない温度に加熱して前記スチレン系単量体を前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させる工程と、
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子のビカット軟化点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度で、前記スチレン系単量体の重合を行う工程とを有することを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
分散剤を含む水性懸濁液中に、ビカット軟化点80〜130℃である熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子100質量部と、スチレン系単量体20質量部以上200質量部未満と、重合開始剤とを分散させる工程と、
得られた分散液を前記スチレン系単量体が実質的に重合しない温度に加熱して前記スチレン系単量体を前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に含浸させる工程と、
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子のビカット軟化点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度で、前記スチレン系単量体の第1の重合を行う工程と、
前記工程に続いて、スチレン系単量体と、重合開始剤とを加え、かつ前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の融点をT℃としたとき、(T)〜(T+35)℃の温度とすることで、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子への前記スチレン系単量体の含浸と第2の重合とを行う工程と(但し、熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子100質量部に対し、第1の重合と第2の重合で使用するスチレン系単量体の合計は20質量部以上300質量部未満である)とを有することを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の製造方法により得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子に発泡剤を含浸させて発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を得ることを特徴とする発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られた発泡性スチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂粒子を加熱し予備発泡させて発泡粒子を得ることを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により得られたスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡粒子を成形型のキャビティ内に充填し、次いで型内発泡成形し、次いで成形体を成形型から離型することを特徴とするスチレン改質熱可塑性ポリウレタン樹脂発泡成形体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−231068(P2007−231068A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52109(P2006−52109)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】