説明

スチレン系樹脂多層シート

【課題】実質的にスチレン−ジエンブロック共重合樹脂のみのからなり、透明性や柔軟性が優れていて、且つ多量の滑剤やブロッキング防止材を添加しなくても製膜時にブロッキングが起こらないシートを提供する。
【解決手段】スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂からなり、該ブロック共重合体の質量平均分子量(Mw)が100,000〜250,000の範囲であり、個々の平均厚み5〜30μmである層を、10〜50層積層したスチレン系樹脂多層シート。
製膜時のブロッキングは、滑剤の添加量が0.05質量部以下で防止効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂を用いたブロッキングの抑制された10層以上の多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂を含有する透明なポリスチレン系樹脂シートは、その透明性が良好であり、熱成形性は両国であるという特徴から、食品包装容器用のシートや、キャリアテープ用のシートが提案されている(例えば特許文献1および2)。これらのシートは、熱成形により容器形状として用いる場合が多いので、一定レベル以上の容器の腰強度が要求されるため、通常スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂を単独で用いるのではなく、ポリスチレン樹脂(GPPS)やゴム変性のポリスチレン樹脂(HIPS)との混合物で用いることが多い。これらのシートにおいても、例えばシートそのものを包装フィルムや封筒窓張りフィルム等に使用する場合があり、静電気の発生防止のために帯電防止処理をすることもあって、使用する際にシートのブロッキングが問題となることがある(例えば特許文献3参照)。
【0003】
一方で、シュリンクフィルムやシュリンクラベルの用途においては、透明性に加えて柔軟性や延伸されたフィルムの均一な熱収縮特性が求められるので、単層であれ多層であれ、少なくとも表面層としては、樹脂成分としては実質的にスチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂のみの層を有するシートが多く、このようなシュリンクフィルムを用いて容器をシュリンク包装した際に、フィルム同士がブロッキングを起こすことが問題となることがある。このブロッキングの問題は、一方でこのシートを製膜する際に、シートをロール状に巻き取り放置しておくと、シートに残っている熱と巻き締まりの力によって、そのロール内でシート同士がブロッキングを起こすことが問題となる。そのようなブロッキング防止のために、シートに滑剤や界面活性剤を多量に添加する方法や、シートに非相容性の樹脂をブレンドする方法、ブロッキング防止材としてシリカ、タルク等の無機微粒子や架橋アクリル系、架橋ポリエステル系、架橋ポリスチレン系、シリコン系等の有機微粒子を添加すること、またエンボス加工する方法等によって、シートの表面の粗さを調整することが行われている(例えば特許文献4)。
しかしなら、これらの方法では、本来この樹脂が有する優れた透明性が損なわれることがあり、また樹脂に添加する前記の物質のシート表面への染み出しや、分散不良によるブツの発生により、シートの外観が損なわれる危険性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−055526号公報
【特許文献2】特開2002−332392号公報
【特許文献3】特開2001−171052号公報
【特許文献4】特開2002−046231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、実質的にスチレン−ジエンブロック共重合樹脂のみのからなり、透明性や柔軟性が優れていて、且つ多量の滑剤やブロッキング防止材を添加しなくても製膜時にブロッキングが起こらないシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の樹脂組成の層を10層以上の多層構成としたシートにすると、最低限度の滑剤しか含有していない樹脂を用いても、シート製膜時のブロッキングが発生しないことを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
(1)スチレン−共役ジエンブロック共重合体からなり、その質量平均分子量(Mw)が、100,000〜250,000の範囲であり、個々の平均厚み5〜30μmである層を、10〜50層積層したスチレン系樹脂多層シートである。
(2)スチレン−共役ジエンブロック共重合体の100質量%中のジエンブロックの割合が10〜25質量%である(1)のスチレン系樹脂多層シートである
(3)スチレン−共役ジエンブロック共重合体に対して滑剤の添加量が0.5%以下である(1)または(2)のスチレン系樹脂多層シートである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、実質的にスチレン−ジエンブロック共重合樹脂のみのからなり、透明性や柔軟性が優れていて、且つ多量の滑剤やブロッキング防止材を添加しなくても製膜時にブロッキングが起こらないシートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を詳細に説明する。

本発明で用いるスチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂とは、その構造中にスチレン系単量体を主体とする重合体ブロックと共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックを含有する重合体である。スチレン系単量体としてはスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等がある。本発明においてはスチレンが主体であるが、前記の他の成分を微量成分として1種以上含むものであっても良い。
【0009】
共役ジエン単量体とはその構造中に共役二重結合を有する化合物であり、例えば1,3−ブタジエン(ブタジエン)、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチルペンタジエン等があり、なかでもブタジエン、イソプレンは好適である。共役ジエン単量体は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。スチレン系単量体を主体とする重合体ブロックとはスチレン系単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロック、スチレン系単量体に由来する構造を50質量%以上含有する重合体ブロックのいずれをも意味する。共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックとは共役ジエン単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロック、共役ジエン単量体に由来する構造を50質量%以上含有する重合体ブロックのいずれをも意味する。
【0010】
共役ジエン含有量とは共役ジエン単量体に由来する構造の全共重合体中に占める質量の割合を意味する。スチレン−共役ジエンブロック共重合体は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。本発明において、スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂とは、例えば共役ジエンがブタジエンである場合、スチレン−ブタジエン(SB)の二元共重合体およびスチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)の三元共重合体(SBS)のいずれであっても良く、スチレンブロックが3つ以上でブタジエンブロックが2つ以上の複数のブロックで構成される樹脂であっても良い。更に、各ブロック間のスチレンとブタジエンの組成比が連続的に変化するようないわゆるテーパーブロック構造を有するものであっても良い。また、スチレン−共役ジエンブロック共重合体は市販のものをそのまま用いることもできる。
【0011】
本発明で用いるスチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂のブタジエン比率は、そのシートの用途によって調整されるべきもので特に限定はされないが、一般的にシートとして用いるためには、樹脂100質量%に対して。10〜30質量%の範囲が好ましい。
【0012】
本発明に使用するスチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂は、後述するようにスチレン換算の質量平均分子量(Mw)が100,000〜250,000の範囲である。
前記Mwが100,000未満であると、シートとしての実用的な機械特性が得られず、250,000を超えると、後述するように10層以上の層構成の多層シートの製膜自体が極めて難しい。
【0013】
スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂には、シートに製膜する際の熱劣化を防止のために一般的にフェノール系の酸化防止剤およびリン系加工安定剤が用いられ、安定した製膜性や巻き取ったシートのブロッキングを防止する目的で、各種の滑剤が添加される。本発明のシートにおいては、酸化防止剤については一般的なシートと同様に製膜の状態に応じて、樹脂成分100質量部に対して0.01〜0.5質量部添加する必要があるが、滑剤については、得られたシートのブロッキング防止のために多量に添加する必要はなく、製膜性を確保するだけの量で十分であり、通常樹脂成分100質量部に対して0.05質量部までの範囲で十分である。滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪アルコール系、脂肪酸アミド系、エステル系、金属石鹸系等を用いることができる。
【0014】
本発明のシートは、前記のスチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂に添加剤を配合した樹脂組成物の5〜30μmの厚みの個々の層を10〜50層積層した多層シートである。1層あたりの厚みを5μm未満では、フィードブロックやスタチックミキサー中での流動抵抗が大きく製膜が困難であり、30μmを超えると、本発明の課題である巻き取ったシートのブロッキングを防止する効果が得られない。それらのことから、本発明の多層シートの積層数は、10層〜50層が適切である。
【0015】
本発明の多層シートを製造する方法について述べる。基本的には、スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂に、前記の酸化防止剤等や滑剤を配合し、押出機に供給して溶融混練し、フィードブロックを通して多層化して押出成形する。この多層シートを積層する方法は、一般的な積層シートの製造方法と同様の方法を用いることができる。
【0016】
本発明のシートは同一組成の個々の層を10〜50層積層した構成であるので、基本的には前記樹脂を1台の押出機で溶融押出しすることでも可能である。例えば、溶融流動が層流に近いものの場合には、押出機とダイの間に特定のエレメント数のスタティックミキサーを挿入することによって多層化することができる。
【0017】
一方で一般的には、例えば特開2007−307893号公報に記載されているように2 台の押出機からスチレン系樹脂が供給され、それぞれの流路からの溶融樹脂を、公知の積層装置であるマルチマニホールドタイプのフィードブロックとスクエアミキサーを用いる方法、もしくは、コームタイプのフィードブロックのみを用いることにより10〜50層に多層化することができる。スクエアミキサーとは、ポリマー流路を断面積が四角状の流路に2分割し、さらに、分岐されたポリマーを、再度、厚み方向上下に積層されるように合わさる合流部を備えた公知の筒体である。又、1台の押出機から押出した溶融樹脂の流路を公知の手段で2つに分離し、それぞれ個別の流路でフィードブロックに供給すれば、前記の2台の押出機を用いた場合と同様の方法で多層化できる。
【実施例】
【0018】

(実施例1)
複数の層を形成するためのフィードブロックおよびとスクエアミキサーと、Tダイを備えた多層シート製膜装置を用いて、下記の方法で多層シートを製膜した。
スチレン−共役ジエンブロック共重合体(質量平均分子量(Mw):150000,スチレン/ブタジエン比率=75/25(質量比))に滑剤としてステアリン酸を0.03質量部、フエノール系酸化防止剤を0.2質量部配合した混合物を、φ65mm単軸押出機に供給して溶融混練し、溶融した同一樹脂を流路内でフィードブロックとスクエアミキサーを用いて34層積層し、Tダイを用いてシート状に押し広げた後、60℃に温調したロールで冷却固化させることで多層シートを製膜した。得られたシートの総厚みは300μm(計算によって求められる各層の平均厚み:8.8μm)であった。
【0019】
(実施例2および実施例3)
シートの積層数をそれぞれ10層および46層とし、1層当たりの平均厚みを、表1に記載したようにそれぞれ30および6.5μmに変更した以外は、実施例1と同様にして多層シートを製膜した。
【0020】
(実施例4)
シートの積層数を34層とし、1層当たりの平均厚みを表1に記載したように5.3μmに変更した以外は、実施例1と同様にして多層シートを製膜した。
【0021】
(実施例5、6および比較例3、4)
スチレン−共役ジエンブロック共重合体の分子量が表1および表2に記載した共重合体に変更した以外は、実施例1と同様にして多層シートを製膜した。
【0022】

(比較例1および比較例2)
基材層の積層数をそれぞれ7層および60層とし、1層当たりの平均厚みを、表2に記載したように変更した以外は、実施例1と同様にして多層シートを製膜した。
【0023】
各実施例の評価結果を表1に、比較例の評価結果を表2に纏めて示した。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
<評価方法>
(原料樹脂の質量平均分子量(Mw)の評価)
本発明で用いるスチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂の分子量を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて常法にて標準ポリスチレン換算の質量平均分子量(Mw)を求めた。GPCの測定は以下の条件で行った。
カラム温度:40℃
検出方法:示差屈折法
移動相:テトラヒドロフラン
サンプル濃度:2重量%
検量線:標準ポリスチレン(Polymer Laboratories社製)を用いた。(多層シートのブロッキング性評価)
シートを10×10cmに切り出し、巻き内面と巻き外面を重ねた。その上に、5×5cmの金属片、10kgの重りを順に乗せて、23℃×50%の環境下で3日間放置した。3日後、重りと金属片を取り除く。サンプル同士を引き剥がし、ブロッキングの有無を確認した。抵抗なくサンプルを引き剥がすことが可能な場合を○、少し抵抗を感じるが引き剥がすことが可能な場合を△、引き剥がすことが不可能な場合を×と、3段階でシートブロッキング性を評価した。尚、この評価方法で評価した結果は、シートを製膜して長期間放置した後の、ロールのブロッキング状態と、良く対応していることを確認している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂からなり、該ブロック共重合体の質量平均分子量(Mw)が100,000〜250,000の範囲であり、個々の平均厚み5〜30μmである層を、10〜50層積層したスチレン系樹脂多層シート。
【請求項2】
スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂100質量%中のジエンブロックの割合が10〜25質量%である請求項1に記載のスチレン系樹脂多層シート。
【請求項3】
スチレン−共役ジエンブロック共重合樹脂100質量部に対する滑剤の添加量が0.05質量部以下である請求項1または請求項2に記載のスチレン系樹脂多層シート。

【公開番号】特開2013−22937(P2013−22937A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162930(P2011−162930)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】