説明

スチレン系樹脂押出発泡体及びその製造方法

【課題】 難燃性、断熱性および熱安定性に優れたスチレン系樹脂押出発泡体を提供する。
【解決手段】スチレン系樹脂を加熱溶融させ、発泡剤を添加し、これを押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体であって、スチレン系樹脂100重量部に対して、混合臭素系難燃剤を1〜6重量部含有し、更に、窒素含有化合物を0.1〜10重量部およびリン酸エステル系化合物を0.1〜10重量部含有し、
上記混合臭素系難燃剤が、(A)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)およびテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)からなる混合臭素系難燃剤、または、
(B)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)およびトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートからなる混合臭素系難燃剤であり、かつ、該混合臭素系難燃剤中のテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の含有率が、該混合臭素系難燃剤全体を100重量%とした場合、25重量%〜75重量%であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れ、かつ断熱性や熱安定性に優れたスチレン系樹脂発泡体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂を押出機などにて加熱溶融し、次いで発泡剤を添加し、冷却させ、これを低圧域に押出すことにより発泡体を連続的に製造する方法は既に知られており(例えば特許文献1、特許文献2)、JIS A9511記載の押出スチレンフォーム保温板の燃焼性規格を満たすために、難燃剤が添加される。
【0003】
スチレン系樹脂押出発泡体に適した該難燃剤の主な必要条件としては、まず、一般的なポリスチレンの押出加工温度である230℃付近で難燃剤が分解しないことが求められる。もし、難燃剤が分解すると、難燃性能の低下、発泡体の外観不良、成形不良、或いは発泡体セル径が制御し難いなどの悪影響を及ぼす。
スチレン系樹脂押出発泡体に適したもう一つの必要条件としては、ポリスチレンの分解前に効率良く難燃剤が分解することである。一般的にポリスチレンは300℃付近から分解することが知られており、この温度よりも低い温度で難燃剤が効率よく分解しないと、JIS A9511記載の燃焼性規格を満たさない恐れがある。若しくは、必要な難燃性能を得るために、結果として添加部数を多くしなければならず、製品コストアップや、得られる発泡体の成形性悪化等の悪影響を及ぼす傾向にある。
【0004】
これらのことから、該難燃剤として、ヘキサブロモシクロドデカン(以下、HBCDと略する)が広く用いられてきた。HBCDは、押出条件下では比較的安定であり、且つポリスチレンの分解時には効率良く分解する事が知られており、少ない添加部数で高度な難燃性能を発現することができる。
【0005】
一方、HBCDは、難分解性で生態に対して高蓄積性の化合物であることから、環境衛生上好ましいものではなく、HBCD使用量の削減、およびHBCDに代わる難燃剤の開発が望まれている。
【0006】
そこで、HBCD以外の臭素系難燃剤を用いたスチレン系樹脂押出発泡体の検討がなされている。
【0007】
近年、HBCDに代わる難燃剤として、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)が提案されている。
テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)は、HBCDとほぼ同等レベルの難燃性能を有するものの、熱安定性に問題があり、安定剤の添加が必要となるが、特許文献3に示されるように、高級脂肪酸の金属塩を安定剤として使用すると、熱安定性は改善されるものの、難燃性が低下し、本来、該難燃剤が有する高度な難燃性能が発揮できていないという問題がある。また。スチレン系樹脂への適応例として、特許文献4では、有機溶媒溶液で添加する方法が提案されているが、使用された溶媒は製品中に残らずに系外に気散しており、環境上良い方法とはいえない。
【0008】
一方、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートなども特許文献5に記載される様に、近年HBCDに変わる難燃剤として提案されているが、単独での難燃性能を得るには不十分であり、テトラブロモビスフェノール類アリルエーテルやトリブロモフェノールアリルエーテルとの併用が提案されている。しかしながら、アリルエーテル化合物は求める難燃性を発現するに必要な量を配合した際には、熱安定性が極端に悪くなり、種々の安定剤を添加しても十分には改良されない。
【0009】
また、近年、オゾン層保護の観点からフロンにかわって発泡剤としてプロパン、ブタンなどの飽和炭化水素化合物を用いるケースが多くなっている。
例えば、JIS A9511に規定される押出法ポリスチレンフォーム保温板3種のような、高度な断熱性を有する発泡体を得ようとすれば、該発泡剤をより多く残存させることが好ましく、例えば、発泡体密度にもよるが、発泡体密度が20〜40kg/m3の範囲の場合、発泡体重量に対して、プロパンであれば、4.0重量%以上、ブタン類であれば、2.5重量%以上残存させるのが好ましく、特にブタン類を3.0重量%以上残存させるのが好ましいと考えられる。しかしながら、プロパン、ブタンに代表される脂肪族炭化水素類のような燃焼性の比較的高い化合物を多く残存させた場合、JIS A9511に規定する難燃性を満足しない場合が生じる。これに対して、難燃性を向上させるためには、添加する難燃剤の増量が考えられるが、単に添加量を増すだけでは、安定した難燃性は得難い。特に、発泡体の基礎材料であるスチレン系樹脂自体は難燃化されるが、燃焼時に発泡体から揮発する炭化水素に着火し易く、燃焼を抑制し難いといった傾向は依然解決され難い。さらには、該難燃剤の増量は発泡体成形性の悪化を招き易く、満足な品質の成形品が得にくくなる傾向がある。
【0010】
このように、スチレン系押出発泡体の難燃性、熱安定性、加工安定性を満たすことのできる技術においては、未だ改善の余地を残すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭31−5393号公報
【特許文献2】特公昭42−19195号公報
【特許文献3】特公昭51−25061号公報
【特許文献4】特公平05−67654号公報
【特許文献5】特開2003−301064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、スチレン系樹脂押出発泡体が有する前記課題を解決するためになされたものであって、難燃性および熱安定性に優れるスチレン系樹脂押出発泡体および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題の解決のため鋭意研究の結果、特定の混合臭素系難燃剤を用いることで、環境適合性に優れた難燃性能が得られることを見出した。ただし、発泡体から揮発する炭化水素への着火による燃焼性の低下において、改善の余地がある。
炭化水素を発泡剤として用いるスチレン系樹脂発泡体の製造において、難燃剤として、混合臭素系難燃剤(A)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)及びテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)からなる混合臭素系難燃剤、または、
(B)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)及びトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートからなる混合臭素系難燃剤に、さらに、窒素含有化合物およびリン酸エステル系化合物を特定量併用することにより、発泡剤として飽和炭化水素を含むものを用いているにも関わらず、優れた難燃性を達成でき、特に、燃焼時に発泡体から揮発する炭化水素への着火あるいは燃焼を抑制でき、それによって、JIS A9511に規定される高度の難燃性と高い熱安定性を両立させうることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1] スチレン系樹脂を加熱溶融させ、発泡剤を添加し、これを押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体であって、
スチレン系樹脂100重量部に対して、混合臭素系難燃剤を1〜6重量部含有し、
更に、窒素含有化合物を0.1〜10重量部およびリン酸エステル系化合物を0.1〜10重量部含有し、
上記混合臭素系難燃剤が、
(A)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)およびテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)からなる混合臭素系難燃剤、または、
(B)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)および トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートからなる混合臭素系難燃剤であり、
かつ、該混合臭素系難燃剤中のテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の含有率が、該混合臭素系難燃剤全体を100重量%とした場合、25重量%〜75重量%であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体、に関する。
[2] 混合臭素系難燃剤中のテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の含有率が、該混合臭素系難燃剤全体を100重量%とした場合、35重量%〜65重量部%であることを特徴とする、[1]記載のスチレン系樹脂押出発泡体に関する。
[3] 窒素含有化合物が、イソシアヌル酸および/またはビス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレートであることを特徴とする、[1]または[2]記載のスチレン系樹脂押出発泡体に関する。
[4] リン酸エステル系化合物が、トリメチルホスフェートであることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体に関する。
[5] 発泡剤が、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれる少なくとも1種を含むものであることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡体に関する。
[6] 発泡剤が、さらに、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチルおよび塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上含むことを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡体に関する。
[7] JIS A9511に規定する燃焼測定において、3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界指示線を越えて燃焼しない、かつ酸素指数が26%以上である条件を満たす難燃性能を有することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡体に関する。
[8] JIS A9511に規定する熱伝導率測定において、0.028W/mK以下である断熱性能を有することを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡体に関する。
[9] スチレン系樹脂を加熱溶融させ、発泡剤を添加し、これを押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体の製造方法であって、
スチレン系樹脂100重量部に対して、混合臭素系難燃剤を1〜6重量部含有し、
更に、窒素含有化合物を0.1〜10重量部、リン酸エステル系化合物を0.1〜10重量部含有し、
上記混合臭素系難燃剤が、
(A)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)およびテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)からなる混合臭素系難燃剤、または、
(B)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)および トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートからなる混合臭素系難燃剤であり、
かつ、該混合臭素系難燃剤中のテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の含有率が、該混合臭素系難燃剤全体を100重量%とした場合、25重量%〜75重量%であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発泡剤として飽和炭化水素を含むものを用いている場合においても、難燃性に優れ、熱安定性、加工安定性に優れたスチレン系樹脂発泡体を安定的に製造することが可能となる。本発明のスチレン系樹脂発泡体は、その優れた性能により、特に建築用断熱材の用途に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で用いられるスチレン系樹脂は、特に限定されるものではなく、スチレン単量体のみから得られるスチレンホモポリマー;スチレン単量体とスチレンと共重合可能な単量体あるいはその誘導体から得られるランダム、ブロックあるいはグラフト共重合体;後臭素化ポリスチレン、ゴム強化ポリスチレンなどの変性ポリスチレンなどが挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0017】
スチレンと共重合可能な単量体としては、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレンなどのスチレン誘導体;ジビニルベンゼンなどの多官能性ビニル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリロニトリルなどの(メタ)アクリル酸系化合物;ブダジエンなどのジエン系化合物あるいはその誘導体;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸無水物などが挙げられる。これらは単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0018】
スチレン系樹脂では、押出発泡成形性などの面から、スチレンホモポリマー、スチレンアクリロニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸共重合ポリスチレン、無水マレイン酸変性ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレンなどが好ましい。コスト面からスチレンホモポリマーがより好ましい。
【0019】
また、本発明で使用できるスチレン系樹脂はバージン樹脂に限定されず、リサイクルされたスチレン系樹脂も使用できる。例としては、魚箱EPS、家電緩衝材、食品発泡ポリスチレントレーなどのスチレン系樹脂発泡体、または冷蔵庫内装材としてのポリスチレントレーなどである。また、これとは別に、製品の仕上げカット工程で発生したカット屑をリサイクルしたスチレン系樹脂も使用することができる。これらのスチレン系樹脂はそのまま、押出機へ投入しても良いし、押出機に投入しやすいように、減容化・ペレット化を行なっても良い。
【0020】
本発明では、難燃剤として(A):テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)及びテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)からなる混合臭素系難燃剤、または、(B):テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)及びトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートからなる混合臭素系難燃剤を含有することにより、得られるスチレン系樹脂発泡体に難燃性を付与することができる。
【0021】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体における混合臭素系難燃剤(A)または(B)に含まれるテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテルの含有率は、混合臭素系難燃剤全体を100重量%とした場合、25重量%〜75重量%であることが好ましい。
理由は定かではないが、該混合臭素系難燃剤に含まれるテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテルが25〜75重量%の範囲であると、得られる押出発泡体の難燃性能に関しては、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテルの高い難燃性能が影響するためか、混合相手であるテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)または(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートのデメリットであった低い難燃性能を打ち消し、あたかもテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル単独であるかのような高い難燃性能を発現することができる。一方、得られる押出発泡体の熱安定性に関しては、熱安定性能が低いテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテルの含有量を減少させられ、代わりに熱安定性の高いテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)または(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートを含有することができるので、熱安定性は、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテルを単独で用いるよりも高くすることができる。
【0022】
テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテルの含有率が、混合難燃剤全体を100重量%とした場合、25重量%未満では、得られる難燃性が低い傾向にあり、75重量%を超えると、熱安定性が悪化する傾向にある。
なお、スチレン系樹脂内での難燃剤の分散・バラツキを考慮して、安定的により高い難燃性およびより高い熱安定性を得ようとする際には、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテルの含有率は35〜65重量%の範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体における混合臭素系難燃剤の含有量は、JIS A9511に規定される燃焼性を得られると共に、発泡体製造時の押出機中でスチレン系樹脂の熱安定性を維持できるように、発泡剤添加量、発泡体密度、さらに場合によっては他添加剤の種類あるいは添加量などにあわせて適宜調整されるものであるが、概ね、スチレン系樹脂100重量部に対して、1〜6重量部が好ましい。
【0024】
混合臭素系難燃剤の含有量が1重量部未満では、難燃性などの発泡体としての良好な諸特性が得られがたい傾向があり、6重量部を超えると、発泡体製造時の安定性、表面性などを損なう場合がある。
【0025】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体においては、さらに、窒素含有化合物およびリン酸エステルを使用することにより、より高度な難燃性能を発現することができる。
【0026】
本発明で用いられる窒素含有化合物としては、下記一般式1および一般式2で表されるシアヌル酸、イソシアヌル酸およびこれらの誘導体から選ばれる化合物である。これら化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
【化1】

【0028】
[式中、R、R、Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、−Y−Xで表される有機基(式中、Yは炭素数1〜6のアルキレン基、フェニレン基またはシクロアルキレン基、Xはエポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、フェニル基またはリン原子を含有する1価の有機基である)、およびフェニル基から選ばれ、相互に異なっていても良い]
【0029】
【化2】

【0030】
[式中、R、R、Rは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、−Y−Xで表される有機基(式中、Yは炭素数1〜6のアルキレン基、フェニレン基またはシクロアルキレン基、Xはエポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、フェニル基またはリン原子を含有する1価の有機基である)、およびフェニル基から選ばれ、相互に異なっていても良い]
一般式1または2において、R、R、RまたはR、R、Rで表される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチルなどがあげられる。Xで表されるリン原子含有の1価の有機基としては、例えば、ホスホン酸エステル残基、リン酸エステル残基などがあげられる。また、Yで表される炭素数1〜6のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、ヘキサメチレンなどがあげられる。また、Yで表されるシクロアルキレン基としては、シクロヘキセンなどがあげられる。
【0031】
本発明で用いられる窒素含有化合物の具体例としては、シアヌル酸、メチルシアヌレートなどのモノアルキルシアヌレート、ジエチルシアヌレートなどのジアルキルシアヌレート、トリメチルシアヌレート、トリエチルシアヌレートなどのトリアルキルシアヌレート、フェニルシアヌレート、ジフェニルシアヌレート、トリフェニルシアヌレート、ジメチルフェニルシアヌレートなどのジアルキルフェニルシアヌレート、イソシアヌル酸、メチルイソシアヌレートなどのモノアルキルイソシアヌレート、ジエチルイソシアヌレートなどのジアルキルイソシアヌレート、トリメチルイソシアヌレート、トリエチルイソシアヌレートなどのトリアルキルイソシアヌレート、フェニルイソシアヌレート、ジフェニルイソシアヌレート、トリフェニルイソシアヌレート、ジメチルフェニルイソシアヌレートなどのジアルキルフェニルイソシアヌレート、モノ(2−アミノエチル)イソシアヌレートなどのモノ(アミノアルキル)イソシアヌレート、ジ(2−アミノエチル)イソシアヌレートなどのジ(アミノアルキル)イソシアヌレート、トリ(2−アミノエチル)イソシアヌレートなどのトリ(アミノアルキル)イソシアヌレート、トリ(ヒドロキシメチル)イソシアヌレート、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリ(2−ヒドロキシプロピル)イソシアヌレートなどのトリ(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレート、ジ(ヒドロキシメチル)イソシアヌレートなどのジ(ヒドロキシアルキル)イソシアヌレート、ビス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレートなどのビス(カルボキシアルキル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレートなどの1,3,5−トリス(カルボキシアルキル)イソシアヌレート、トリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0032】
前記窒素含有化合物としては、化合物自体が難燃性であると共に、270℃〜400℃において分解あるいは溶融する化合物であることが好ましい。
【0033】
さらに、前記窒素含有化合物としては、高い断熱性などを得るために、他の発泡剤として水を用いた場合には、発泡体中に前記小気泡と大気泡を共に発生させる効果を阻害しない化合物が好ましく、例えば、室温付近の温度域(10〜30℃前後)において水に難溶あるいは水への溶解度が10重量%以下の化合物が好ましい。水への溶解度が高い場合、前記の小気泡と大気泡とを共に発生させる効果を阻害する傾向にある。
【0034】
窒素含有化合物の中で特に好ましいものは、入手し易さの点から、シアヌル酸(一般式1におけるR、R、Rが水素原子であるもの)、イソシアヌル酸(一般式2におけるR、R、Rが水素原子であるもの)、ビス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレート(一般式2におけるRが水素原子であり、R、Rにおいて、Yがエチレン基、Xがカルボキシル基であるもの)である。
【0035】
本発明における窒素含有化合物の含有量は、JIS A9511に規定される難燃性および燃焼時に揮発する炭化水素の着火あるいは燃焼の抑制効果が得られるように、発泡剤添加量などにあわせて適宜調整されるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部であり、好ましくは、1〜9重量部、さらに好ましくは、1.5〜8重量部、特に好ましくは2〜7重量部である。窒素含有化合物の含有量が0.1重量部未満では、本発明の目的とする難燃性が得られにくい傾向があり、一方、10重量部を超えると、発泡体製造の際の成形性などを損なう場合がある。
【0036】
本発明で用いられるリン酸エステル系化合物としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェートなどのトリアルキルホスフェート(アルキル基としては炭素数1〜12のものが好ましい)、トリブトキシエチルホスフェートなどのトリアルコキシアルキルホスフェート(アルコキシアルキル基としては炭素数2〜12のものが好ましい)、ジアルキルホスフェート(アルキル基としては炭素数1〜12のものが好ましい)、モノイソデシルホスフェートなどのモノアルキルホスフェート(アルキル基としては炭素数1〜12のものが好ましい)、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェートなどの脂肪族系リン酸エステル類、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシリルジフェニルホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェートなどのトリアリールホスフェート(アルール基はアルキル基、フェニル基などで置換されていてもよい)、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジフェニル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェートなどのジアリールアルキルホスフェート(アリール基、アルキル基は置換されていてもよい)などの芳香族系リン酸エステル類などがあげられる。さらに、リン酸エステル基を2以上有するリン酸エステル類があげられる。これら化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
前記リン酸エステル系化合物としては、成形性の面から、その融点が150℃より低い化合物が好ましい。
【0038】
リン酸エステル系化合物の中で特に好ましいものは、コストの点から、トリフェニルホスフェートである。
【0039】
リン酸エステル系化合物の含有量は、JIS A9511に規定される難燃性および燃焼時に揮発する炭化水素の着火あるいは燃焼の抑制効果が得られるように、発泡剤添加量などにあわせて適宜調整されるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.1〜10重量部であり、好ましくは、0.3〜5重量部、さらに好ましくは、0.5〜3重量部、特に好ましくは0.8〜2重量部である。リン酸エステル系化合物の含有量が0.1重量部未満では、本発明の目的とする難燃性が得られにくい傾向があり、一方、10重量部を超えると、発泡体製造の際の成形性などを損なう場合がある。
【0040】
本発明においては、混合臭素系難燃剤および窒素含有化合物に対して、前記リン酸エステル系化合物を前述の適量の範囲で混合することにより、燃焼阻害の相乗効果が奏されるものと推察され、高い難燃性が得られ易くなる。
【0041】
すなわち、混合臭素系難燃剤および窒素含有化合物のみを併用した場合、少量添加では、必ずしも安定的に難燃性が得られない傾向がある。また、添加量を増量すると、ダイより押出された直後に発泡体がむしれたり、あるいは、ちぎれたりして、満足に発泡体が得られない傾向がある。
また、特に発泡剤として飽和炭化水素を用いた場合、発泡体の燃焼時に、発泡体から残留発泡剤が大気中に放出され、該発泡剤が燃焼することにより、該発泡剤の燃焼熱により発泡体の表面融解が生じて延焼する傾向がある。
しかしながら、これらの傾向についても、混合臭素系難燃剤および窒素含有化合物に対してリン酸エステル系化合物を併用することにより、残留発泡剤の燃焼を阻害することにより、極めて軽減させ得るか、ないしは無くすることができるという優れた効果が得られ、優れた難燃性と成形加工の安定性を有する発泡成形品が得られるようになる。
【0042】
しかも、リン酸エステル系化合物の配合量は、これを単独で難燃剤として用いる場合に比べて、混合臭素系難燃剤および窒素含有化合物と組み合わせることで、通常、スチレン系樹脂100重量部に対して、該樹脂の種類にもよるが、10〜30重量部、ないしは、それ以上必要とされていたものが、数重量部程度の極少量の配合で本発明の効果を達成し得る。
【0043】
本発明で用いられる発泡剤としては、特に限定するものではないが、炭素数3〜5の飽和炭化水素を使用することにより、優れた環境適合性を付与することができる。
本発明で用いられる炭素数3〜5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタンなどが挙げられる。これらの炭素数3〜5の飽和炭化水素のなかでは、発泡性の点から、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましい。また、発泡体の断熱性能の点から、n−ブタン、i−ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましく、特に好ましくはi−ブタンである。
【0044】
本発明では、さらに、他の発泡剤を用いることにより、発泡体製造時の可塑化効果や助発泡効果が得られ、押出圧力を低減し、安定的に発泡体の製造が可能となる。ただし、目的とする発泡倍率、難燃性等の発泡体の諸特性いかんによっては、その使用量などが制限される場合があり、押出発泡成形性などが充分でない場合がある。
【0045】
他の発泡剤としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、エチル−n−プロピルケトン、エチル−n−ブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどの炭素数1〜4の飽和アルコール類;蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステルなどのカルボン酸エステル類;塩化メチル、塩化エチルなどのハロゲン化アルキル、などの有機発泡剤、水、二酸化炭素などの無機発泡剤、アゾ化合物、テトラゾールなどの化学発泡剤などを用いることができる。これら他の発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
他の発泡剤の中では、発泡性、発泡体成形性などの点からは、炭素数1〜4の飽和アルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、塩化メチル、塩化エチルなどが好ましく、発泡剤の燃焼性、発泡体の難燃性あるいは後述する断熱性等の点からは、水、二酸化炭素が好ましい。これらの中では、可塑化効果の点からジメチルエーテルが、コスト、気泡径の制御による断熱性向上効果の点から水が特に好ましい。
【0047】
発泡剤を添加または注入する際の圧力は、特に制限するものではなく、押出機などの内圧力よりも高い圧力であればよい。
【0048】
本発明における発泡剤の使用量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、2〜20重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。発泡剤の使用量が2重量部未満では、発泡倍率が低く、樹脂発泡体としての軽量、断熱などの特性が発揮されにくい場合があり、20重量部より多いと、過剰な発泡剤量の為、発泡体中にボイドなどの不良を生じる場合がある。
【0049】
本発明においては、他の発泡剤として水やアルコール類を用いる場合には、安定して押出発泡成形を行うために、吸水性物質を添加することが好ましい。
【0050】
本発明に用いられる吸水性物質の具体例としては、例えば、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール−アクリル酸塩系共重合体、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸メチル−ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体などの吸水性高分子の他、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)[例えば、日本アエロジル(株)製AEROSILなどが市販されている]などのように表面に水酸基を有する粒子径1000nm以下の微粉末;スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩並びにこれらの有機化処理品;ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土などの多孔性物質等があげられる。
【0051】
本発明で用いられる吸水性物質の添加量は、水の添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜3重量部がより好ましい。
【0052】
本発明においては、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、流動パラフィン、オレフィン系ワックスなどの加工助剤、前記以外の難燃剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有させることができる。
【0053】
さらに、本発明においては必要に応じて、さらに、フェノール系抗酸化剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤,ラクトン系安定剤、ベンゾトリアゾール類・ヒンダートアミン系などの安定剤を含有することができる。
【0054】
具体的な安定剤としては、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4− ピペリジニル)、デカン二酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ−4−ピペリジニル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)―1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラートなどのヒンダートアミン系安定剤、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などのフェノール系安定剤、などが挙げられる。これらは、単独で使用しても良く、或いは併用して使用しても良い。特に、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4− ピペリジニル)、デカン二酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ−4−ピペリジニル)、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)―1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシラートなどのヒンダートアミン系安定剤が、発泡体の難燃性能を低下させることなく、且つ発泡体の熱安定性を向上させることから、好適に用いられる。
【0055】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法としては、スチレン系樹脂、混合臭素系難燃剤、窒素含有化合物、リン酸エステル系化合物、他の添加剤等を押出機等の加熱溶融手段に供給し、任意の段階で高圧条件下にて発泡剤をスチレン系樹脂に添加し、流動ゲルとなし、押出発泡に適する温度に冷却した後、ダイを通して該流動ゲルを低圧領域に押出発泡して、発泡体を形成することにより製造される。
【0056】
スチレン系樹脂、臭素系難燃剤、窒素含有化合物、リン酸エステル系化合物、および他の添加剤等の加熱溶融の形態としては、スチレン系樹脂に臭素系難燃剤、窒素含有化合物、リン酸エステル系化合物、および他の添加剤を混合した後、加熱溶融する;スチレン系樹脂を加熱溶融した後に臭素系難燃剤、窒素含有化合物、リン酸エステル系化合物、および他の添加剤を添加混合する;予めスチレン系樹脂に臭素系難燃剤、窒素含有化合物、リン酸エステル系化合物、安定剤、および他の添加剤を混合した後、加熱溶融した組成物を準備し、改めて押出機に供給し加熱溶融する;などが挙げられる。
【0057】
スチレン系樹脂と発泡剤などの添加剤を加熱溶融混練する際の加熱温度、溶融混練時間および溶融混練手段については特に制限するものではない。
加熱温度は、使用するスチレン系樹脂が溶融する温度以上であればよいが、難燃剤などの影響も含め、樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度、例えば150〜250℃程度が好ましい。
溶融混練時間は、単位時間当たりの押出量、溶融混練手段などによって異なるので一概には決定することができないが、スチレン系樹脂と発泡剤が均一に分散混合するのに要する時間が適宜選ばれる。
また、溶融混練手段としては、例えばスクリュー型の押出機などが挙げられるが、通常の押出発泡に用いられているものであれば特に限定はない。ただし、樹脂の分子劣化をできる限り抑えるため、スクリュー形状については、低剪断タイプのスクリューを用いる方が好ましい。
【0058】
発泡成形方法も特に制限されないが、例えば、スリットダイより圧力開放して得られた発泡体をスリットダイと密着または接して設置した成形金型および成形ロールなどを用いて、断面積の大きい板状発泡体を成形する一般的な方法を用いることができる。
【0059】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の厚さは特に制限されず、用途に応じて適宜選択される。例えば、建材などの用途に使用される断熱材の場合、好ましい断熱性、曲げ強度および圧縮強度を付与せしめるためには、通常の板状物のように厚さのあるものが好ましく、通常10〜150mm、好ましくは20〜100mmである。
【0060】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の密度については、軽量でかつ優れた断熱性および曲げ強度、圧縮強度を付与せしめるためには、15〜50kg/mであることが好ましく、25〜40kg/mであるのがさらに好ましい。
【0061】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体は、優れた難燃性、断熱性および熱安定性の点から、建材用途の断熱材として好適に用いられる。
【実施例】
【0062】
次に、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。
なお、特に断らない限り、「部」は重量部を、「%」は重量%を表す。
【0063】
実施例および比較例において使用した原料は、次の通りである。
(1)スチレン系樹脂[PSジャパン(株)製、G9401]
(2)混合臭素系難燃剤
難燃剤(A)
・テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル[第一工業製薬(株)製、ピロガードSR−130]
・テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテル[第一工業製薬(株)製、ピロガードSR−720]
難燃剤(B)
・テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル[第一工業製薬(株)製、ピロガードSR−130]
・トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート[日本化成(株)製、TAIC−6B]
(3)窒素含有化合物
・イソシアヌル酸[四国化成(株)製、商品名:ICA−P]
・ビス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレート[四国化成(株)製]
(4)リン酸エステル系化合物
・トリフェニルホスフェート[大八化学工業(株)製、商品名:TPP]
・レゾルシノール・ジクレジルホスフェート「旭電化工業(株)製、商品名:アデカスタブFP−500)]
(5)発泡剤
・イソブタン[三井化学(株)製]
・ノルマルブタン[岩谷産業(株)製]
・ジメチルエーテル[三井化学(株)製]
・水[水道水」
(6)その他添加剤
・タルク[林化成(株)製、タルカンパウダーPK−Z]
・ベントナイト[ウィルバーエリス(株)製、ゲルホワイトH]
・アエロジル[日本アエロジル(株)製、AEROSIL]
【0064】
実施例および比較例にて実施した評価方法は、次の通りである。
【0065】
(1)発泡体密度
発泡体密度は、発泡体密度(g/cm)=発泡体重量(g)/発泡体体積(cm)に基づいて求め、単位を(kg/m)に換算して示した。
【0066】
(2)平均セル径(mm)
各方向のセル径をASTM D−3576に準じて測定した。
発泡体の巾方向の断面を50〜100倍に拡大投影し、厚み方向のセル径(HD)と巾方向のセル径(TD)を測定する。次に押出方向の断面を拡大投影し、押し出し方向のセル径(MD)を測定した。
平均セル径は各方向のセル径の積を3乗根した値を以下の式より算出した。
平均セル径=(HD×TD×MD)1/3
【0067】
(3)燃焼性
JIS A9511に準じて、厚さ10mm×長さ200mm×幅25mmの試験片を用い、以下の基準で評価した。測定は、製造後、前記寸法に切削した後、7日経過した発泡体について行った。
燃焼時間
◎:消炎時間が5本すべて3秒以内となる。
○:消炎時間が5本の内、少なくとも1本が3秒を越えるが、残りの3本以上は3秒以内となる。
△:消炎時間が5本の内、少なくとも3本が3秒を越えるが、残りの1本以上は3秒以内となる。
×:消炎時間が5本すべて3秒を超える。
燃焼距離
◎:5本全てで、限界線以内に停止する。
○:5本の内、少なくとも1本は減少が限界線を越えるが、残りの3本以上は限界線以内で燃焼が停止する。
△:5本の内、少なくとも3本は燃焼が限界線を越えるが、残りの1本以上は限界線以内で燃焼が停止する。
×:5本全てで燃焼が限界線を越える。
燃焼状況
◎:発泡剤の燃焼が全く見られない。
○:発泡剤の燃焼が若干見られる。
△:発泡剤の燃焼が見られるが、全焼には至らない。
×:発泡剤の燃焼も見られ、全焼する。
【0068】
(4)酸素指数
製造後7日経過した発泡体について、JIS K7201に準じ、厚み10mm×長さ150mm×幅10mmの試験片を用いて測定した。
○:29%以上。
△:26%以上、29%未満。
×:26%未満。
【0069】
(5)熱伝導率
製造後7日経過した発泡体について、JIS A9511に準じ、測定した。
○:0.0260W/mK未満。
△:0.0260W/mK以上、0.0285W/mK未満。
×:0.0285W/mK以上。
【0070】
(6)発泡体の比粘度低下率
押出機内での熱履歴に伴う樹脂劣化の程度を評価する為に、発泡体の比粘度低下率を、以下の手順により求めた。
a)押出発泡体約1gを共栓付き試験管内で約30mLのメチルエチルケトンに溶解させ、試験管に栓をして6時間以上静置する。静置後、試験管中の上澄み液をビーカーに取り出し、エタノールを添加して樹脂分を再沈させ、70℃雰囲気のオーブン中にて溶剤を完全に揮発させる。
b)得られた樹脂分250mgをトルエン25mLに溶解させ、得られたトルエン溶液10mLに対して、ウベローデ粘度管を用いて、30℃におけるトルエンに対する比粘度を測定する。比粘度は以下の式にて算出する。
比粘度(ηsp)=(試料の通過時間)/(クロロホルムの通過時間)−1
c)使用樹脂比粘度(ηsp(resin))に対する発泡体の比粘度(ηsp(foam))低下率を、以下の式にて算出する。
発泡体の比粘度低下率=発泡体の比粘度(ηsp(foam))/使用樹脂比粘度(ηsp(resin))
得られた値に対し、以下の基準で判断した。
○:発泡体の比粘度低下率が0.85以上である。
△:発泡体の比粘度低下率が0.75以上、0.85未満である。
×:発泡体の比粘度低下率が0.75未満である。
【0071】
(7)発泡体製造時の加工安定性
スリットダイから押出された発泡体を成形金型にて成形し、板状発泡体を得る際の発泡体状態を、以下の基準により判断した。
○:発泡体表面が平滑であり、かつ光沢が認められる。
△:発泡体表面は平滑ではあるが、表面に細かいしわ、流れ模様が認められる。
×:発泡体表面に割れ、裂け、亀裂、ちぎれ、むしれが認められる。
【0072】
(実施例1)
ポリスチレン樹脂(G9401)100部に対して、混合臭素系難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル1.5重量部とテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)2.5重量部(合わせて4重量部)、窒素含有化合物としてイソシアヌル酸2重量部、リン酸エステル系化合物としてトリフェニルホスフェート2重量部、タルク0.8重量部、ベントナイト1.0重量部およびアエロジル0.1重量部からなる樹脂混合物をドライブレンドした。
得られた樹脂混合物を口径65mmの単軸押出機(第一押出機)と口径90mmの単軸押出機(第一押出機)を直列に連結したタンデム型二段押出機へ、約50kg/hrの割合で供給した。
第一押出機に供給した樹脂混合物を、樹脂温度200℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、以下に示す発泡剤を第一押出機の先端付近で樹脂中に圧入した。その後、第一押出機に連結された第二押出機中にて、樹脂温度を120℃に冷却し、第二押出機の先端に設けた厚さ2mm×幅50mmの長方形断面の口金より大気中へ押出発泡させた後、口金に密着させて設置した成形金型とその下流側に設置した成形ロールにより、厚さ50mm×幅150mmである断面形状の押出発泡板を得た。
なお、発泡剤としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、イソブタン4.5重量部、ジメチルエーテル2.5重量部および水0.5重量部を用いた。
得られた発泡体の特性を、表1に示す。
比較例1〜5と比べて、優れた性能を発現することがわかる。
【0073】
(実施例2〜5、参考例1〜3、比較例1〜5)
表1に示すように、混合臭素系難燃剤の種類および量および種類、窒素含有化合物の種類および量、リン酸エステル系化合物の種類および量、発泡剤の種類および量、その他の添加剤の種類および量を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、発泡体を得た。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例1〜5及び比較例1〜5を比較して明らかなように、スチレン系樹脂100重量部に対して、混合臭素系難燃剤の種類および量および種類、窒素含有化合物の種類および量、リン酸エステル系化合物の種類および量を特定することにより、難燃性、断熱性、熱安定性および加工安定性が改善された押出発泡体を安定して得られることが判る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂を加熱溶融させ、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれる少なくとも1種を含む発泡剤を添加し、これを押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体であって、スチレン系樹脂100重量部に対して、混合臭素系難燃剤を1〜6重量部含有し、
更に、窒素含有化合物を0.1〜10重量部およびリン酸エステル系化合物を0.1〜10重量部含有し、
上記混合臭素系難燃剤が、
(A)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)およびテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)からなる混合臭素系難燃剤、または、
(B)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)および トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートからなる混合臭素系難燃剤であり、
かつ、該混合臭素系難燃剤中のテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の含有率が、該混合臭素系難燃剤全体を100重量%とした場合、25重量%〜75重量%であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項2】
該混合臭素系難燃剤中のテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の含有率が、該混合臭素系難燃剤全体を100重量%とした場合、35重量%〜65重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項3】
難燃剤(B)の窒素含有化合物がイソシアヌル酸および/またはビス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレートであることを特徴とする、請求項1または2に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項4】
リン酸エステル系化合物が、トリメチルホスフェートであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項5】
発泡剤が、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡体。
【請求項6】
発泡剤が、さらに、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチルおよび塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡体。
【請求項7】
JIS A9511に規定する燃焼測定において、3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界指示線を越えて燃焼しない、かつ酸素指数が26%以上である条件を満たす難燃性能を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡体に関する。
【請求項8】
JIS A9511に規定する熱伝導率測定において、0.028W/mK以下である断熱性能を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のスチレン系樹脂発泡体。
【請求項9】
スチレン系樹脂を加熱溶融させ、発泡剤を添加し、これを押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体の製造方法であって、
スチレン系樹脂100重量部に対して、混合臭素系難燃剤を1〜6重量部含有し、
更に、窒素含有化合物を0.1〜10重量部、リン酸エステル系化合物を0.1〜10重量部含有し、
上記混合臭素系難燃剤が、
(A)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)およびテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)からなる混合臭素系難燃剤、または、
(B)テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)およびトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートからなる混合臭素系難燃剤であり、
かつ、該混合臭素系難燃剤中のテトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)の含有率が、該混合臭素系難燃剤全体を100重量%とした場合、25重量%〜75重量%であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。


【公開番号】特開2012−136675(P2012−136675A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291565(P2010−291565)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】