説明

スチレン系重合体の製造方法

【課題】分子量が30000以上で、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.01〜1.30のスチレン系重合体を工業的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】非極性又は低極性溶媒50〜95重量%と極性溶媒50〜5重量%とからなる混合溶媒中、有機カリウム化合物の存在下、−100〜−30℃の温度でスチレン系単量体をアニオン重合することにより、数平均分子量が30000以上であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.01〜1.30であるスチレン系重合体を製造する。有機カリウム化合物としては、式〔I〕:R−O〔I〕(式中、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロアリールカルボニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基又はヘテロアラルキル基を表す。)で表される化合物が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数平均分子量が30000以上のスチレン系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、数平均分子量30000未満のスチレン系単量体をアニオン重合する場合は、トルエンやヘキサン等の低極性溶媒とテトラヒドロフランなどのエーテル基含有極性溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒を用いて、分子量分布(Mw/Mn)の狭い重合体を製造することができることが知られている。
【0003】
一方、アニオン重合反応の反応系中に添加することにより、重合反応を制御することができる添加剤が知られている。例えば、非特許文献1では、テトラヒドロフラン溶媒中、−78℃にてスチレン系単量体を重合する際に、t−ブトキシカリウムを添加することによって、側鎖部分に由来する副反応を抑制できることが開示されている。非特許文献1では、数平均分子量9240〜61400の重合体を、狭分散(分子量分布:1.02〜1.06)で製造している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Monatshefte fur Chemie 2006年 第137巻 855−867頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術で、分子量が30000以上で、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.01〜1.30のスチレン系重合体を工業的に製造することは困難であった。
前述のように、非特許文献1に記載されている方法によれば、テトラヒドロフラン溶媒中で、数平均分子量が約60000までのスチレン系重合体を、狭分散で製造することができる。しかし、非特許文献1に開示されている製造方法は、小スケールで精密な重合を行う場合には、すぐれた方法であるものの、高分子量のスチレン系重合体を工業的に製造する方法としては採用し得なかった。
高分子量のスチレン系重合体をテトラヒドロフラン溶媒中で、アニオン重合により工業的に製造しようとすると問題が生じる。テトラヒドロフラン溶媒中では、重合体アニオンの安定性が低いために重合反応の途中で失活しやすい。そのため、高分子量かつ狭分散の重合体を製造することが困難であった。
【0006】
一般的に、トルエンのような低極性溶媒中では、テトラヒドロフランのような極性溶媒中よりも、重合体アニオンの安定性が向上することが知られている。
そこで、50重量%以上のトルエンを含むテトラヒドロフラン溶媒中でアニオン重合反応を行うと、重合体アニオンの安定性を向上させることができる。しかし、そのような溶媒系では、重合反応の速度が非常に遅くなってしまう。反応が完結しなかったり、反応が完結する場合も長時間かかるため、その結果、目的とする高分子量の重合体を狭分散で得ることが困難であった。
また、トルエンの含有量を50%以下にすると、重合体アニオンの安定性が不十分であるため、この場合も、目的とする高分子量かつ狭分子量分布の重合体を得ることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、非極性又は低極性溶媒を50重量%以上含む溶媒系において、特定の有機カリウム化合物が重合体アニオンの反応速度を上げる添加剤となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)非極性又は低極性溶媒50〜95重量%と極性溶媒50〜5重量%とからなる混合溶媒中、有機カリウム化合物の存在下、−100〜−30℃の温度でスチレン系単量体をアニオン重合することを特徴とする、数平均分子量が30000以上であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.01〜1.30であるスチレン系重合体の製造方法や、
(2)有機カリウム化合物が、式〔I〕
R−O〔I〕
(式中、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロアリールカルボニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基又はヘテロアラルキル基を表す。)
で表される化合物であることを特徴とする(1)に記載のスチレン系重合体の製造方法や、
(3)スチレン系単量体が式〔II〕
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はアルキル基を表し、Rは、アルキル基、アルコキシ基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニルメチル基、又はテトラヒドロピラニル基を表す。pが2以上の場合、同一又は相異なっていてもよい。pは0〜5の整数を表す。)で表される化合物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のスチレン系重合体の製造方法や、
(4)非極性又は低極性溶媒が芳香族炭化水素系溶媒であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のスチレン系重合体の製造方法や、
(5)極性溶媒がエーテル系溶媒であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のスチレン系重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の重合体の製造方法によれば、非極性又は低極性溶媒を50重量%以上含む溶媒系において、高分子量かつ狭分散のスチレン系重合体を、アニオン重合により製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本明細書において用いられる用語の意味を記載し、本発明について更に詳細に説明する。
「アルキル基」とは、C1〜C20の直鎖状又は分岐上のアルキル基を意味する。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、オクチル基等が挙げられる。
「アルコキシ基」とは、C1〜C20の直鎖状又は分岐上のアルコキシ基を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ等が挙げられる。
「アリール基」としては、例えばフェニル、ナフチル等が挙げられる。
【0011】
「ヘテロアリール基」とは、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子からなる群より、同一若しくは異なって選ばれる1若しくは2以上、好ましくは1ないし4の複素原子を含有する5員若しくは6員の単環式へテロアリール又は該単環式へテロアリールと前記アリールが縮合した、若しくは同一若しくは異なる該単環式へテロアリールが互いに縮合した縮合環式へテロアリールを意味し、例えばピロリル、フリル、チエニル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサジアゾリル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、1,2,4−トリアジニル、1,3,5−トリアジニル、インドリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾピラゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾイソチアゾリル、インダゾリル、プリニル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサニル、キナゾリニル、シンノリニル、プテリジニル、ピリド[3,2−b]ピリジル等が挙げられる。
「シクロアルキル基」とは、C3〜C8のシクロアルキル基を意味し、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が挙げられる。
「アルキルスルホニル基」とは、スルホニルに前記アルキル基が結合した基であり、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、n−プロピルスルホニル等が挙げられる。
【0012】
「アリールスルホニル基」とは、スルホニルに前記アリール基が結合した基であり、例えば、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル等が挙げられる。
「ヘテロアリールスルホニル基」とは、スルホニルに前記へテロアリール基が結合した基であり、例えば、ピロリルスルホニル、フリルスルホニル、チエニルスルホニル、イミダゾリルスルホニル等が挙げられる。
「アラルキル基」とは、前記アリールと前記アルキルが結合した基を意味し、ベンジル、1−フェニルエチル、2−フェニルエチル、1−ナフチルメチル、2−ナフチルメチル等が挙げられる。
「ヘテロアラルキル基」とは、前記へテロアリールと前記アルキルが結合した基を意味し、例えばピロリルメチル、フリルメチル、チエニルエチル、イミダゾリルエチル等が挙げられる。
「アルキルカルボニル基」とは、カルボニルに前記アルキル基が結合した基であり、例えば、アセチル、プロピオニル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル等が挙げられる。
「アリールカルボニル基」とは、カルボニルに前記アリールが結合した基であり、例えばベンゾイル、ナフチルカルボニル等が挙げられる。
「ヘテロアリールカルボニル基」とは、カルボニルに前記へテロアリール基が結合した基であり、例えば、ピロリルカルボニル、ピリジルカルボニル、チエニルカルボニル等が挙げられる。
【0013】
(スチレン系重合体の製造方法)
本発明の重合体の製造方法は、非極性又は低極性溶媒50〜95重量%と極性溶媒50〜5重量%とからなる混合溶媒中において、式〔I〕で表される有機カリウム化合物の存在下、−100〜−30℃の温度で、スチレン系単量体を重合するものである。
【0014】
本発明の非極性又は低極性溶媒とは、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒や、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒や、シクロヘキサン、シクロヘプタンなどの脂環式炭化水素系溶媒を例示することができる。これらのうち、芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、トルエンがより好ましい。また、これらの溶媒は、1種単独で、又は2種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0015】
本発明の極性溶媒とは、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサンなどのエーテル系溶媒や、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどの第3級アミンを例示することができる。これらのうち、エーテル系溶媒が好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。また、これらの溶媒は、1種単独で、又は2種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0016】
本発明では、非極性又は低極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を使用する。本発明で使用する混合溶媒は、非極性又は低極性溶媒を50〜95重量%、極性溶媒を50〜5重量%で混合した溶媒系が好ましく、非極性又は低極性溶媒を50〜80重量%、極性溶媒を50〜20重量%で混合した溶媒系がより好ましい。具体的には、トルエンとテトラヒドロフランを混合した溶媒系やヘキサンとテトラヒドロフランを混合した溶媒系を例示することができる。
【0017】
本発明に用いられる有機カリウム化合物とは、重合溶媒に可溶で、単量体の重合を開始する能力がなければ制限はない。それらの中でも、式〔I〕R−O〔I〕で表される有機カリウム化合物が好ましい。
式〔I〕中、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロアリールカルボニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアラルキル基を表し、C1〜C6アルキル基、C3〜C6シクロアルキル基、C1〜C6アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、C1〜C6アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロアリールカルボニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、ヘテロアラルキル基が好ましく、C1〜C6アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、C1〜C6アルキルカルボニル基がより好ましい。これらの基は置換基を有していてもよく、置換基としてはC1〜C6アルキル基、C1〜C6アルコキシ基等が挙げられる。
【0018】
有機カリウム化合物としては、
メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、ステアリルアルコール、シクロヘキサノールなどのC1〜C24の直鎖、分岐または環状のアルコール類のカリウム塩や、
【0019】
2−アリルフェノール、オイゲノール、イソオイゲノール、4−tert−アミルフェノール、4−n−アミルオキシフェノール、4−(1−アダマンチル)フェノール、1−(2−ピリジルアゾ)−2−ナフトール、1−(2−チアゾリルアゾ)−2−ナフトール、2−ベンジルフェノール、4−tert−ブチルフェノール、4−n−ブチルフェノール、3−ブトキシフェノール、6−tert−ブチル−m−クレゾール、4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルアニソール、6−tert−ブチル−o−クレゾール、3−tert−ブチルフェノール、2−sec−ブチルフェノール、6−tert−ブチル−2,4−キシレノール、2−tert−ブチル−p−クレゾール、4−(ベンジルオキシ)フェノール、2−(ベンジルオキシ)フェノール、4−ベンジリデンアミノフェノール、2−tert−ブチル−4−エチルフェノール、4−tert−ブトキシフェノール、2,4−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェノール、4−sec−ブチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、カルバクロール、2−(3−sec−ブチル−5−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、4−フェニルフェノール、4−α−クミルフェノール、4−シクロヘキシルフェノール、2−シクロヘキシル−5−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール、N,N−ジエチル−3−アミノフェノール、2,6−ジイソプロピルフェノール、2,6−ジメトキシフェノール、2−ジメチルアミノメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、4−tert−ブチル−2,6−ジイソプロピルフェノール、4,6−ジ−tert−ブチル−m−クレゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メトキシフェノ一ル、N,N−ジブチル−3−アミノフェノール、2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチル−7−ヒドロキシベンゾフラン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ジメチルアミノメチルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、2,4−ジ−tert−アミルフェノール、2,6−ジブロモ−p−クレゾール、2−エトキシ−5−(1−プロペニル)フェノール、4−ヒドロキシベンゾフェノン、ウンベリフェロン、5−ヒドロキシインダン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、8−キノリノール、4−ヘキシルオキシフェノール、4−ヘプチルオキシフェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(5−クロロ−2−ベンゾトリアゾリル)−6−tert−ブチル−p−クレゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(5−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリン、8−ヒドロキシジュロリジン、2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾール、1−(3−ヒドロキシベンジル)ピペリジン、4−メトキシ−1−ナフトール、p−ナフトールベンゼイン、4−n−オクチルオキシフェノール、8−ヒドロキシ−7−プロピルキノリン、2−プロピル−4−(4−ピリジルアゾ)フェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、4−トリフェニルメチルフェノール、m−クレゾールインドフェノール、チモールインドフェノール、2−フェニルフェノール、ナフトールのカリウム塩などのフェノール類のカリウム塩や、
【0020】
ピバル酸、イソ酪酸、ヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、N−ラウロイルサルコシン、1−ナフタレン酢酸、オレイン酸、リノール酸、ソルビン酸、フェノキシ酢酸、α−メトキシフェニル酢酸、3−フェノキシプロピオン酸、4−フェノキシ酪酸、N,N−ジエチルグリシン、2−ナフトエ酸、ピコリン酸、5−フェノキシ−n−吉草酸、3−(4−メトキシフェニル)プロピオン酸、3,4−メチレンジオキシフェニル酢酸、(±)−2−(6−メトキシ−2−ナフチル)プロピオン酸、2−ナフチルオキシ酢酸、2−フェノキシプロピオン酸、アントラキノン−2−カルボン酸、4−アミルオキシ安息香酸、2−アントラセンカルボン酸、4−ブチル安息香酸、4−tert−ブチル安息香酸、4−ベンゾイル安息香酸、4−ベンジルオキシ安息香酸、4−(4−tertブチルフェニル)安息香酸、3,5−ジベンジルオキシ安息香酸、4−シクロヘキシル安息香酸、4’−デシルオキシビフェニル−4−カルボン酸、2,3−ジヒドロベンゾフラン−7−カルボン酸、4−ジエチルアミノ安息香酸、3,5−ジ−tert−ブチル安息香酸、4−(ドデシルオキシ)安息香酸、3’,4’−ジメチルベンゾフェノン−2−カルボン酸、4−(ジフェニルホスフィノ)安息香酸、9,9−ジメチルフルオレン−2−カルボン酸、4−エトキシ安息香酸、2−エトキシ−1−ナフトエ酸、フルオレセイン、9−フルオレノン−2−カルボン酸、3−フルオロ−4−n−クチルオキシ安息香酸、1−フルオレンカルボン酸、4−(4−ヘプチルフェニル)安息香酸、4−(4−ヘキシルフェニル)安息香酸、4−ヘキシル安息香酸、4−イソブチル安息香酸、6−メトキシ−2−ナフトエ酸、4−(メチルチオ)安息香酸、4−n−オクチルオキシ安息香酸、4−n−オクチル安息香酸、ピペロニル酸、2−フェノキシ安息香酸、2−フェニルチオメチル安息香酸、1−ピレンカルボン酸、2−プロポキシ安息香酸、6−キノリンカルボン酸、3,4,5−トリメトキシ安息香酸、2,4,6−トリメチル安息香酸、2−(p−トリル)安息香酸、3,4,5−トリス(ベンジルオキシ)安息香酸、4−ウンデシルオキシ安息香酸、4−メトキシけい皮酸のカリウム塩などのカルボン酸類のカリウム塩や、
【0021】
2−メルカプトベンゾチアゾール、5−メルカプト−3−フェニル−1,3,4−チアジアゾール−2−チオン、s−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、2−メチル−2−ブタンチオール、イソアミルメルカプタン、2−メチル−1−ブタンチオール、3−メチル−2−ブテン−1−チオール、シクロヘキサンチオール、シクロペンタンチオール、1−ヘプタンチオール、tert−オクタンチオール、1−デカンチオール、1−ウンデカンチオール、1−ドデカンチオール、1−テトラデカンチオール、1−ヘキサデカンチオール、n−ペンタデシルメルカプタン、1−オクタデカンチオール、tert−テトラデカンチオール、2−ジメチルアミノエタンチオール、2−ジエチルアミノエタンチオール、2−ジイソプロピルアミノエタンチオール、ベンジルメルカプタン、4−メトキシベンジルメルカプタン、2−フェニルエチルメルカプタン、2−メルカプトチアゾリン、2−メルカプト−5−チアゾリドン、2−メルカプト−5−メチルチオ−1,3,4−チアジアゾール、2−メチルテトラヒドロフラン−3−チオール、(2−メルカプトエチル)ピラジン、4−ピリジンエタンチオール、トリメチルシリルメタンチオール、2−チオフェンメタンチオール、1−(4−エトキシフェニル)−5−メルカプト−1H−テトラゾールのカリウム塩などのチオアルコール類のカリウム塩や、
【0022】
チオフェノール、4−メチルチオフェノール、4−(メチルチオ)ベンゼンチオール、4−t−ブチルチオフェノール、4−イソプロピルベンゼンチオール、5−tert−ブチル−2−メチルベンゼンチオール、4−メトキシベンゼンチオール、4−クロロベンゼンチオール、2,5−ジメチルベンゼンチオール、2,4−ジメチルベンゼンチオール、3,4−ジメチルベンゼンチオール、3,4−ジメトキシベンゼンチオール、3−エトキシベンゼンチオール、2−エチルベンゼンチオール、4−エチルベンゼンチオール、2−ナフタレンチオールのカリウム塩などのチオフェノール類のカリウム塩や、
【0023】
イソプロピルキサントゲン酸カリウム、エチルキサントゲン酸カリウム、ブチルキサントゲン酸カリウム、アミルキサントゲン酸カリウム、ジベンジルジチオカルバミン酸カリウム、チオ安息香酸のカリウム塩などのチオカルボン酸類のカリウム塩や、
1−ブタンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、1−ヘプタンスルホン酸、1−オクタンスルホン酸、1−ノナンスルホン酸、1−デカンスルホン酸、1−ウンデカンスルホン酸、1−ペンタデカンスルホン酸、1−ドデカンスルホン酸、1−トリデカンスルホン酸、1−オクタデカンスルホン酸、ドデシル硫酸、1−ヘキサデカンスルホン酸、ヘプタデカフルオロ−1−オクタンスルホン酸、アントラキノン−2−スルホン酸、9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルホン酸、2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、メシチレンスルホン酸、4−n−オクチルベンゼンスルホン酸、2−モルホリノエタンスルホン酸、2−モルホリノプロパンスルホン酸、3−(トリメチルシリル)−1−プロパンスルホン酸、ダンシル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸のカリウム塩などのスルホン酸類のカリウム塩や、
【0024】
p−トルエンチオスルホン酸のカリウム塩などのチオスルホン酸類のカリウム塩や、
りん酸モノドデシル、りん酸ジフェニル、りん酸ジイソプロピル、りん酸ジブチル、りん酸ジオレイル、りん酸ジ2−エチルヘキシル、りん酸ジデシル、りん酸ジベンジルのカリウム塩などのリン酸類のカリウム塩や、
カルバゾール、インドール、フェノチアジン、フェノオキサジン、ヘキサメチルジシラザン、フタルイミド、1,2,4−トリアゾール、6−メチル−1,2,3−オキサチアジン−4(3H)−オン、2,2−ジオキサイド、チオモルホリン、モルホリンのカリウム塩などの窒素化合物類のカリウム塩や、
テトラキス(4−クロロフェニル)ほう酸、トリス(3,5−ジメチルピラゾール−1−イル)ボロヒドリドのカリウム塩などのその他類のカリウム塩を挙げることができる。
【0025】
本発明に用いられるカリウム化合物の使用量は、重合に影響しない範囲内で任意に使用できるが、具体的には開始剤に対してモル比で10モル%以上、20倍モル以下であるのが好ましく、更に好ましくは50モル%以上、5倍モル以下である。10モル%より小さい場合には、重合速度が遅くなり、重合体製造の際に分子量や分子量分布が制御された重合体を安定的に再現性よく製造できない場合があり、20倍モルより大きい場合には、重合液に相溶しなかったり、重合反応時の成長速度が著しく低下する場合がある。
有機カリウム化合物を反応系内に添加する順序は特に問わない。スチレン系単量体の重合反応中に添加してもよく、スチレン系単量体を添加する前に反応系内に添加してもよい。
有機カリウム化合物を添加することにより、通常、重合反応の速度が遅い溶媒系(非極性又は低極性溶媒が50〜80重量%以上含まれる系)においても、重合反応速度を促進することができる。その結果、重合反応が速やかに完結し、狭分散の重合体を得ることができる。
【0026】
スチレン系単量体としては、アニオン重合性不飽和結合が芳香族炭化水素に結合した化合物であれば特に制限されないが、式〔II〕
【0027】
【化2】

【0028】
で表される化合物が好ましい。スチレン系単量体は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
式〔II〕中、Rは、水素原子又はアルキル基を表し、水素原子又はC1〜C6アルキル基が好ましい。Rは、アルキル基、アルコキシ基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニルメチル基、又はテトラヒドロピラニル基を表し、C1〜C6アルキル基、C1〜6アルコキシ基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニルメチル基又はテトラヒドロピラニル基が好ましい。pは0〜5の整数を表し、pが2以上の場合、Rは同一又は相異なっていてもよい。pとしては、1〜3が好ましい。
のアルキル基、Rのアルキル基、アルコキシ基は置換基を有していてもよく、置換基としては、C1〜C6アルキル基、C1〜C6アルコキシ基、フェニル基等を挙げることができる。
【0029】
式〔II〕で表される化合物として、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、2,4,6−トリイソプロピルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシ−α−メチルスチレン、m−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシカルボニルスチレン、p−t−ブトキシカルボニルメチルスチレン、o−1−エトキシエトキシスチレン、m−1−エトキシエトキシスチレン、p−1−エトキシエトキシスチレン等を例示することができる。スチレン系単量体は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明では、アニオン重合開始剤で重合反応を開始する。アニオン重合開始剤としては、求核剤であって、アニオン重合性モノマーの重合を開始させる働きを有するものであれば特に制約はなく、例えば、アルカリ金属、有機アルカリ金属などを使用することができる。
アルカリ金属の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどが挙げられる。
有機アルカリ金属としては、上記アルカリ金属のアルキル化物、アリル化物、アリール化物などが挙げられる。具体的には、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルナトリウム、リチウムビフェニル、リチウムナフタレン、リチウムトリフェニル、ナトリウムナフタレン、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、1,4−ジリチオ−2−ブテン、1,6−ジリチオヘキサン、ポリスチリルリチウムなどを使用できる。これらのアニオン重合開始剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
アニオン重合開始剤の使用量は、用いるアニオン重合性モノマーに対して、通常0.001〜0.2当量、好ましくは0.005〜0.1当量である。この範囲のアニオン重合開始剤を用いることによって、目的とする重合体を収率よく製造することができる。
重合開始剤の使用量は、用いるスチレン系単量体に対して、通常0.0001〜0.2当量、好ましくは0.0005〜0.1当量である。この範囲の重合開始剤を用いることによって、目的とする重合体を収率よく製造することができる。
本発明における重合温度は、移動反応や停止反応などの副反応が起こらず、単量体が消費され重合が完結する温度範囲であれば特に制限されないが、−100℃〜−30℃の温度範囲で行われるのが好ましい。さらに好ましくは−60℃〜−30℃の温度範囲で行われることが好ましい。
【0032】
また、単量体の重合溶媒に対する濃度は、特に制限されないが、通常1〜40重量%の範囲であり、特に5〜25重量%の範囲が好ましい。
本発明で製造される重合体の分子量は、GPC測定による数平均分子量が30000以上であるのが好ましい。
本発明においては、非極性又は低極性溶媒50〜95重量%と極性溶媒50〜5重量%とからなる混合溶媒系においても、−100〜−30℃の温度で、重合速度をコントロールして、高分子量(分子量30000以上)かつ狭分散性(分子量分布:1.01〜1.30)を示すスチレン系重合体を製造することができる。
[実施例]
以下実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
窒素雰囲気下、テトラヒドロフラン(100g)とトルエン(200g)の混合溶媒を−40℃に冷却し、n−ブチルリチウム溶液(1.86g、4mmol)を加えた。その後、テトラヒドロフラン(30g)にp−t−ブトキシスチレン(64.07g、364mmol)を加え、ジブチルマグネシウムヘキサン溶液(0.97g、1mmol)で脱水した溶液を8分かけて滴下した。続いて、テトラヒドロフラン(20g)にピバル酸カリウム(0.14g、1mmol)を加え、ジブチルマグネシウムヘキサン溶液(0.34g、0.5mmol)で脱水した溶液を加え、30分攪拌後、メタノール(1.70g)を加えキリングした。この溶液をGPCにて測定すると、分子量(Mn)68000、分散度1.15の重合体が生成していた。また、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定すると単量体は残存していなかった。
【実施例2】
【0034】
窒素雰囲気下、テトラヒドロフラン(200g)とトルエン(400g)の混合溶媒を−40℃に冷却し、n−ブチルリチウム溶液(1.96g、5mmol)を加えた。その後、テトラヒドロフラン(50g)にp−t−ブトキシスチレン(127.13g、721mmol)を加え、ジブチルマグネシウムヘキサン溶液(1.15g、2mmol)で脱水した溶液を20分かけて滴下した。続いて、12%t−ブトキシカリウム/THF溶液(1.75g、2mmol)を加え、30分攪拌後、メタノール(1.53g)を加えキリングした。この溶液をGPCにて測定すると、分子量(Mn)47000、分散度1.07の重合体が生成していた。また、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定すると単量体は残存していなかった。
【実施例3】
【0035】
窒素雰囲気下、テトラヒドロフラン(200g)とトルエン(400g)の混合溶媒を−40℃に冷却し、n−ブチルリチウム溶液(1.75g、4mmol)を加えた。ジフェニルエチレン(0.57g、3mmol)を加え、15分間攪拌し、12%t−ブトキシカリウム/THF溶液(0.97g、1mmol)を加えた。次に、テトラヒドロフラン(50g)にp−t−ブトキシスチレン(126.98g、720mmol)を加え、ジブチルマグネシウムヘキサン溶液(1.25g、2mmol)で脱水した溶液を20分間かけて滴下し、30分間攪拌後、メタノール(1.95g)を加えキリングした。この溶液をGPCにて測定すると、分子量(Mn)121000、分散度1.25の重合体が生成していた。また、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定すると単量体は残存していなかった。
【実施例4】
【0036】
窒素雰囲気下、テトラヒドロフラン(30g)とトルエン(270g)の混合溶媒を−40℃に冷却し、n−ブチルリチウム溶液(1.61g、4mmol)を加えた。その後、テトラヒドロフラン(30g)にp−t−ブトキシスチレン(63.73g、362mmol)を加え、ジブチルマグネシウムヘキサン溶液(0.99g、1mmol)で脱水した溶液を20分間かけて滴下した。続いて、12%t−ブトキシカリウム/THF溶液(0.50g、0.5mmol)を加え、30分間攪拌後、メタノール(1.99g)を加えキリングした。この溶液をGPCにて測定すると分子量71000、分散度1.05の重合体が生成していた。また、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定すると単量体は残存していなかった。
【実施例5】
【0037】
窒素雰囲気下、テトラヒドロフラン(200g)とトルエン(400g)の混合溶媒を−40℃に冷却し、n−ブチルリチウム溶液(1.66g、4mmol)および12%t−ブトキシカリウム/THF溶液(0.86g、1mmol)を加えた。その後、テトラヒドロフラン(40g)にp−t−ブトキシスチレン(52.71g、299mmol)とスチレン(31.35g、301mmol)を加え、ジブチルマグネシウムヘキサン溶液(0.63g、1mmol)で脱水した溶液を20分間かけて滴下し、15分間攪拌した。この溶液をGPCにて測定すると分子量(Mn)67000、分散度1.11の重合体が生成していた。また、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定すると単量体は残存していなかった。
続いて、3.71%塩化リチウム/テトラヒドロフラン溶液(3.23g、3mmol)にジフェニルエチレン(0.55g、3mmol)を加え、ジエチル亜鉛ヘキサン溶液(0.35g、0.5mmol)で脱水した溶液を加え15分間攪拌し、−50℃に冷却した。次に、テトラヒドロフラン(15g)にメチルメタクリレート(16.24g、162mmol)を加え、ジエチル亜鉛ヘキサン溶液(0.50g、1mmol)で脱水した溶液を7分間かけて滴下し、滴下終了後40分間攪拌し、メタノール(1.97g)を加えキリングした。この溶液を、GPCで測定すると分子量(Mn)74000、分散度1.14の重合体が生成していた。また、この溶液をガスクロマトグラフィーで測定すると単量体は残存していなかった。
【0038】
[比較例1]
ピバル酸カリウムを加えなったこと以外、実施例1と同条件下で反応を行うと、キリング後の溶液には単量体が残存していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非極性又は低極性溶媒50〜95重量%と極性溶媒50〜5重量%とからなる混合溶媒中、有機カリウム化合物の存在下、−100〜−30℃の温度でスチレン系単量体をアニオン重合することを特徴とする、数平均分子量が30000以上であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.01〜1.30であるスチレン系重合体の製造方法。
【請求項2】
有機カリウム化合物が、式〔I〕
R−O〔I〕
(式中、Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロアリールカルボニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基又はヘテロアラルキル基を表す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のスチレン系重合体の製造方法。
【請求項3】
スチレン系単量体が式〔II〕
【化1】

(式中、Rは、水素原子又はアルキル基を表し、Rは、アルキル基、アルコキシ基、t−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニルメチル基、又はテトラヒドロピラニル基を表す。pが2以上の場合、同一又は相異なっていてもよい。pは0〜5の整数を表す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスチレン系重合体の製造方法。
【請求項4】
非極性又は低極性溶媒が芳香族炭化水素系溶媒であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系重合体の製造方法。
【請求項5】
極性溶媒がエーテル系溶媒であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスチレン系重合体の製造方法。


【公開番号】特開2011−162683(P2011−162683A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27819(P2010−27819)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】