説明

スチレン系難燃性樹脂組成物

【課題】 ハロゲン含有有機化合物を含有せず難燃性に優れ、成形時の離形性、流動性、耐熱性、衝撃強度の物性バランスに優れたスチレン系難燃樹性脂組成物を提供すること。

【解決手段】 ゴム状重合体100質量%中の70質量%以上が、シス−1、4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムに依存したゴム状重合体を有したゴム変性スチレン系樹脂に、特定の燐酸エステル及びタルク、並びに必要に応じてポリフェニレンエーテルを添加してスチレン系難燃性樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系難燃性樹脂組成物、及びその組成物から得られる成形体に関する。詳しくはハロゲン含有有機化合物を含有せず難燃性に優れ、成形時の離形性、流動性、耐熱性、衝撃強度の物性バランスに優れ、電子・電気機器、OA機器等に好適なスチレン系難燃性樹脂組成物及びその組成物から得られる成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂はその特性を生かし広範囲な用途に使用されている。中でも高度な難燃性を付与させた難燃性樹脂組成物はワープロ、パーソナルコンピュータ、プリンター、複写機等のOA機器、TV、VTR、オーディオ等の家電製品等を初めとする多岐の分野で使用されている。
【0003】
昨今、OA機器・家電製品等の分野では、プラスチック部品の大型化に対応するため大型成形機を使用したホットランナー成形法及びガスアシストインジェクション法等が適用される。このため使用される樹脂には、難燃性以外に優れた成形性等が要求される。
【0004】
従来から、スチレン系樹脂に難燃性を付与するために、種々の難燃剤が提案されており、中でも安価で物性バランスに優れているハロゲン含有有機化合物が多く使用されている。代表的なものとしてはテトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエタン、臭素化エポキシ、及び臭素化エポキシ樹脂のエポキシ基をトリブロモフェノールで封鎖したもの等が知られている。難燃助剤として使われるアンチモン系化合物としては三酸化アンチモンが主として使われる。
【0005】
しかしながら、ハロゲン含有有機化合物は加工時にハロゲン化水素ガスが発生し金型腐食等の不具合発生の可能性があることや、使用済み電気製品を廃棄処理する場合自然環境に悪影響を及ぼすことが考えられるので、ハロゲン系難燃剤を使用しないことが検討されている。更に近年、ハロゲン含有有機化合物を規制する動きが欧州を中心として活発に行われており、ハロゲン元素を含まない難燃樹脂、難燃樹脂組成物の需要が高まっている。
【0006】
ハロゲン含有有機化合物の代替難燃剤にリン系難燃剤が検討されている。例えばスチレン系樹脂の難燃樹脂組成物としては、スチレン系樹脂とリン系難燃剤からなる難燃性スチレン系樹脂組成物(特開2001−207012号公報)、スチレン系樹脂、リン系難燃剤、無機充填剤、ゴムからなる難燃性スチレン系樹脂組成物(特開2000−103932号公報)等を挙げることができる。また、ポリフェニレンエーテルを併用した難燃樹脂組成物も検討され、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体及びリン酸エステルより成る樹脂組成物等がある(特開平9−31321号公報)。
【0007】
しかしながら、従来のハロゲン含有有機化合物は優れた難燃性を賦与するものの、機械的性質、電気的性質及び加工時に必要な流動性を満足し得るには至っていない。また、ノンハロゲン系難燃剤のリン系難燃剤を用いた難燃性スチレン系樹脂組成物は難燃性及び耐熱性を必ずしも満足させるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−207012号公報
【特許文献2】特開2000−103932号公報
【特許文献3】特開9−31321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、この様な現状を鑑み、上記の問題点を解決し、ハロゲン含有有機化合物を含有せず難燃性に優れ、成形時の離形性、流動性、耐熱性、衝撃強度の物性バランスに優れ、電子・電気機器、OA機器等に好適なスチレン系難燃樹性脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、特定のゴム変性スチレン系樹脂に、特定の燐酸エステルとタルクと必要に応じてポリフェニレンエーテルを添加する事によって本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.(A)ゴム変性ポリスチレン系樹脂100質量部に対し、(B)式(1)で表される燐酸エステル10〜15質量部、及び(C)タルク4〜8質量部を含有したスチレン系難燃性樹脂組成物。
【化1】

但し、(A)ゴム変性ポリスチレン系樹脂は、ゴム状重合体100質量%中に、シス−1、4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムに依存するゴム状重合体を70質量%以上含有したポリスチレン系樹脂である。
2.前記1に記載のスチレン系難燃性樹脂組成物に対して、更に(D)ポリフェニレンエーテル12質量部以下(但し、0は含まず)を含有したスチレン系難燃性樹脂組成物。
3.UL94燃焼試験でV−2を有する前記1又は前記2のいずれかに記載のスチレン系難燃性樹脂組成物。
4.前記1から前記3のいずれかに記載のスチレン系難燃性樹脂組成物から得られる成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハロゲン含有有機化合物を含有せず難燃性に優れ、成形時の離形性、流動性、耐熱性、衝撃強度の物性バランスに優れた、スチレン系難燃性樹脂組成物を提供したものである。また、この難燃性樹脂組成物を射出成形して自己消炎性が要求される成形体を得ることが出来る。更にこの難燃性樹脂組成物を用いて得られる成形体は、トナーカートリッジ、プリンター、パソコン等の筐体等の電子・電気機器、OA機器等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の(A)ゴム変性スチレン系樹脂としては、芳香族ビニル重合体のマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなる重合体を言う。例えば、芳香族ビニル単量体と不活性溶媒の混合液にゴム状重合体を溶解し、攪拌して塊状重合、懸濁重合、溶液重合等を行うことにより得られる(a)重合体がある。なお、(a)重合体は重合法には限定されるものではない。更には、芳香族ビニル単量体と不活性溶媒の混合液にゴム状重合体を溶解して得られた(a)重合体に、別途得られた(b)芳香族ビニル重合体を混合した混合物であってもよい。
【0014】
マトリックス部分の分子量については特に制限ないが、還元粘度(ηsp/C)で0.50以上、好ましくは0.55〜1.00である。1.00を超えると、難燃性樹脂組成物とした際の流動性が低く過ぎて成形に支障をきたし、0.50未満だと実用的に十分な強度が発揮できない等の問題がある。また、(A)ゴム変性スチレン系樹脂としては、ゴム状重合体の含有量は3.5〜10質量%が適当である。ゴム状重合体の平均粒子径については特に制限はないが、一般的には0.4〜6.0μmが適当である。
【0015】
上記の芳香族ビニル単量体としては、主にスチレンである。o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等が挙げられるが、スチレンが最も好適である。また、これらの単量体から2種以上を併用して使用することも出来る。
【0016】
上記のゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体等であり、ポリブタジエンとしてはシス結合の含有量が高いハイシスポリブタジエン、シス結合の含有量が低いローシスポリブタジエン等が挙げられる。中でも使用されるゴム状重合体として、シス−1、4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムをゴム状重合体100質量%中70質量%以上含有するポリブタジエンが好ましく使用される。即ち、ゴム状重合体として、シス−1、4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムに依存するゴム状重合体100質量%中に70質量%以上含有することが好ましい。具体的には、ハイシスポリブタジエンゴムを単独使用して得られるゴム変性スチレン系樹脂でも、ハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを混合使用して得られるゴム変性スチレン系樹脂でも、又はハイシスポリブタジエンゴムを使用して得られたゴム変性スチレン系樹脂とローシスポリブタジエンゴムを使用して得られるゴム変性スチレン系樹脂の混合物においても、これらいずれのゴム変性スチレン系樹脂中に存在するゴム状重合体100質量%中にシス−1、4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムに依存するゴム状重合体を70質量%以上含有することが好ましい。なお、ハイシスポリブタジエンゴムとは、シス−1、4結合を90モル%以上の比率で含有するポリブタジエンゴムを意味する。また、ローシスポリブタジエンゴムとは、1,4−シス結合含量が10〜40モル%であるポリブタジエンゴムを意味する。
【0017】
難燃剤としては、下記の式(1)で表される(B)燐酸エステルを使用する。難燃剤の添加量は、(A)ゴム変性スチレン系樹脂100質量部に対して10〜15質量部、好ましくは10〜13質量部が好適である。難燃剤の添加量が(A)ゴム変性スチレン系樹脂に対して10質量部未満だと難燃性に劣るようになり、試験片厚み1.5mmでUL94燃焼試験でのV−2レベルが確保できない。15質量部を超えると衝撃強度及び耐熱性が低下するようになり、好ましくない。
【0018】
【化2】

【0019】
無機充填剤としては、(C)タルクを使用する。タルクの添加量は、(A)ゴム変性スチレン系樹脂100質量部に対して4〜8質量部、好ましくは5〜7質量部が好適である。タルクが、(A)ゴム変性スチレン系樹脂に対して4質量部未満だと難燃性が低下し、8質量部を超えると衝撃強度が低下するので好ましくない。
【0020】
更に、耐熱性をより向上させるために、(D)ポリフェニレンエーテルを配合することが好ましい。(D)ポリフェニレンエーテルの配合量は、(A)ゴム変性スチレン系樹脂100質量部に対して12質量部以下である(但し、0は含まず)。好ましくは10質量部以下が好ましい。(D)ポリフェニレンエーテルの配合量が、12質量部を超えると流動性が低下するので好ましくない。特に耐熱性と流動性の物性バランスには、3〜10質量部が好適である。
【0021】
なお、このスチレン系難燃性樹脂組成物中のゴム状重合体の含有量は、3〜8質量%が好ましい。ゴム状重合体の含有量が3質量%より少ないと衝撃強度が低下しやすくなり、8質量%を超えると耐熱性が低下しやすくなる。また、(A)ゴム変性スチレン系樹脂には、ゴム状重合体としてその70質量%以上が、シス−1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムを使用する。ゴム状重合体の70質量%以上が、シス−1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムを用いないと離型性が劣る傾向がある。
【0022】
本発明の目的を損なわない範囲で他の添加剤、例えば可塑剤、滑剤、安定剤、紫外線吸収剤、充填剤、補強剤等を添加することが出来る。
【0023】
本発明のスチレン系難燃性樹脂組成物の混合方法は、公知の混合技術を適用することが出来る。例えばミキサー型混合機、V型ブレンダー、及びタンブラー型混合機等の混合装置であらかじめ混合しておいた混合物を、更に溶融混練することで均一な難燃性樹脂組成物とすることが出来る。溶融混練にも特に制限はなく公知の溶融技術を適用出来る。好適な溶融混練装置として、バンバリー型ミキサー、ニーダー、ロール、単軸押出機、特殊単軸押出機、及び二軸押出機等がある。更に押出機等の溶融混練装置の途中から難燃剤等の添加剤を別途に添加する方法がある。
【実施例】
【0024】
以下に例を挙げて具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0025】
実施例及び比較例で使用したゴム変性スチレン系樹脂は、それぞれ以下の組成である。
ゴム変性スチレン系樹脂としては、(a1)スチレンと不活性溶媒の混合液(エチルベンゼン)にゴム状重合体を溶解して得た重合体(ゴム変性したスチレン系樹脂)と(b)スチレン樹脂を混合したものを用いた。
(A−1)ゴム変性スチレン系樹脂は、(a1)ゴム状重合体にシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムを使用し、マトリックス部分の還元粘度0.73dl/g、ゴム状重合体含有量9.4質量%、ゴム状重合体のゲル含有量22.8質量%、及び体積平均粒子径2.53μmであるゴム変性したスチレン系樹脂70質量部に、(b)還元粘度0.94dl/gのスチレン樹脂30質量部を混合したものである。
(A−2)ゴム変性スチレン系樹脂は、(a2)ゴム状重合体にローシスポリブタジエンゴムを使用し、マトリックス部分の還元粘度0.55dl/g、ゴム状重合体含有量9.3質量%、ゴム状重合体のゲル含有量28.1質量%、及び体積平均粒子径2.50μmであるゴム変性したスチレン系樹脂70質量部に、(b)還元粘度0.94dl/gのスチレン樹脂30質量部を混合したものである。ここで言う還元粘度、ゴム状重合体含有量、ゲル含有量及び体積平均粒子径は以下の方法にて測定した。
【0026】
還元粘度(ηsp/C)の測定:(a1)、(a2)ゴム変性したスチレン系樹脂1gをそれぞれ別々にメチルエチルケトン15mlとアセトン15mlの混合溶媒を加え、温度25℃で2時間振とう溶解した後、遠心分離で不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を取り出し、500mlのメタノールを加えて樹脂分を析出させ、不溶分を濾過乾燥する。同操作で得られた樹脂分をトルエンに溶解してポリマー濃度0.4%(質量/体積)の試料溶液を作成した。この試料溶液、及び純トルエンを30℃の恒温でウベローデ型粘度計により溶液流下秒数を測定して、下式にて算出した。また、(b)スチレン樹脂は上記の樹脂分と同様の測定方法で測定・算出した。
ηsp/C=(t1/t0−1)/C
t0:純トルエン流下秒数
t1:試料溶液流下秒数
C :ポリマー濃度
【0027】
ゲル含有量の測定:(a1)、(a2)ゴム変性したスチレン系樹脂をそれぞれ別々にトルエンに2.5%(質量/体積)の割合で加え、温度25℃で2時間振とう溶解した後、遠心分離(回転数10000〜14000rpm、分離時間30分)で不溶分(ゲル分)を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去してゲルを得た。次に、この膨潤ゲルを温度100℃で2時間予備乾燥した後、温度120℃の真空乾燥機で1時間乾燥した。デシケータで常温まで冷却し精秤し下式にて算出した。
ゲル分率(%)=[(m1−m0)/S]×100
m0:遠心沈降管質量
m1:乾燥ゲル+遠心沈降管質量
S:試料樹脂質量
【0028】
ゴム状重合体含有量の測定:(a1)、(a2)ゴム変性したスチレン系樹脂をそれぞれ別々にクロロホルムに溶解させ、一定量の一塩化ヨウ素/四塩化炭素溶液を加え暗所に約1時間放置後、15質量%のヨウ化カリウム溶液と純水50mlを加え、過剰の一塩化ヨウ素を0.1Nチオ硫酸ナトリウム/エタノール水溶液で滴定し、付加した一塩化ヨウ素量から算出した。
【0029】
ゴム状重合体の体積平均粒子径の測定:(a1)、(a2)ゴム変性したスチレン系樹脂をジメチルホルムアミドに完全に溶解させ、レーザー回析方式粒度分布装置にて測定した。
測定装置:コールター製レーザー回析方式粒子アナライザーLS−230型
【0030】
(B−1)式(1)に対応する燐酸エステルには、大八化学工業株式会社製の商品名PX−202を使用した。また、比較用難燃剤(B−2)燐酸エステルには、1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)である大八化学工業株式会社製の商品名PX−200を使用した。
【0031】
(C)タルクには、富士タルク社製の商品名KPタルクを使用した。
【0032】
(D)ポリフェニレンエーテルには、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製の商品名PX100Fを使用した。
【0033】
その他、共通添加剤として、脂肪酸金属塩、ミネラルオイル及び無機系着色剤を使用した。
【0034】
なお、実施例、比較例に示された各種物性値等の評価・測定は以下の方法により実施した。
【0035】
(1)衝撃強度:衝撃強度の評価尺度としたシャルピー衝撃強度は、JIS K 7111−1に基づき測定を行った。強度が8KJ/m未満だと成形品の強度が不十分なので、8KJ/m以上を満たす組成物を合格とした。
なお、シャルピー衝撃強度用試験片は、射出成形機(日本製鋼所(株)製、J100E−P)にて、JIS K 7139に記載のA型試験片(ダンベル)を成形した。そして、このダンベル片の中央部より切り出し、切削でノッチ(タイプA、r=0.25mm)を入れ、試験に用いた。
【0036】
(2)耐熱性:耐熱性の評価尺度としたビカット軟化温度は、JIS K 7206に準拠し、昇温速度50℃/hr、試験荷重50Nで試験を行った。ビカット軟化温度は、温度80℃以上が好ましい。更に好ましくは83℃以上である。80℃未満であると耐熱性が不十分となり熱変形することがある。
【0037】
(3)流動性:流動特性としてメルトマスフローレイト(MFR)を測定した。メルトマスフローレイトは、JIS K−7210に準拠し、温度200℃、49N荷重の条件で測定した。メルトマスフローレイトは、6g/min以上が好ましい。6g/min未満であると流動性が不十分となり、成形時にショートショットなどの不具合が生じることがある。
【0038】
(4)離型性:離型性の評価・測定方法は、離型抵抗金型(成形品寸法、縦×横×深さ:130×60×45mm)を射出成形機(日本製鋼所(株)製、J100E−P)に取り付け、連続成型(30ショット)した。型開−突き出し後、取り出した成形品のコーナー部位に発生する傷を目視にて観察した。評価結果は下記の様に表記した。
○ : 傷発生なし
× : 傷発生
【0039】
(5)難燃性:難燃性の測定は、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ社のサブジェクト94号(以下、UL94とも略記する)の垂直燃焼試験方法に準拠し、試験片厚さ1.5mmの燃焼性を評価した。評価結果は下記の様に表記した。
V−2:合格
NG:V−2レベルに未達
なお、評価用試験片は、射出成形機(日本製鋼所(株)製、J100E−P)にて、127×12.7×1.5mmの燃焼用試験片を成形した。
【0040】
次に、本発明のスチレン系難燃性樹脂組成物の混合方法を述べる。(A)ゴム変性スチレン系樹脂、(B)燐酸エステル、(C)タルク、(D)ポリフェニレンエーテルを表1から表4に示す配合量(質量部)にて、これら全成分をヘンシェルミキサー(三井三池化工(株)製、FM20B)にて混合し、二軸押出機(東芝機械(株)製、TEM26SS)に供給してストランドとし、水冷してからペレタイザーへ導きペレット化した。
【0041】
混合時に、ジンクステアレート、ミネラルオイル、及び無機系着色剤も同時添加した。
【0042】
各配合量とこれらの評価結果を表1から表4に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
表1から4の実施例、比較例に示したとおり、本願発明の組成及び規定量を満たすことによって難燃性、成形時の離形性、流動性、耐熱性、衝撃強度の物性バランスに優れていることがわかる。更に、ポリフェニレンエーテルを配合することによってより耐熱性が向上する。
【0048】
しかし本発明の規定を満足しない比較例で得られたスチレン系難燃性樹脂組成物では、何れかに優れることはあっても、その全てに優れていることはないことがわかる。
【0049】
例えば、難燃剤が本発明の規定量より少ないと比較例1に示すとおり難燃性に劣り、規定量より多いと比較例2に示すとおり耐衝撃性、耐熱性に劣る。また、タルク量が発明の規定量より少ないと比較例3、比較例10に示すとおり難燃性に劣り、規定量より多いと比較例4に示すとおり衝撃強度に劣る。また、実施例3、7、8と比較例5、比較例6と対比すると明らかなとおり(A)ゴム変性ポリスチレン系樹脂がシス−1、4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムをゴム状重合体100質量%中70質量%以上含有したゴム変性ポリスチレン系樹脂でないと離型性に劣る。
また、実施例1、3、5と比較例7から比較例9とを対比すると明らかなように本発明の難燃剤式(1)で表される難燃剤(PX−202)を用いたスチレン系難燃性樹脂組成物は、他の燐酸エステル系難燃剤PX−200を用いた組成物と比較して明らかに耐熱性、衝撃強度が優れている。
更に、ポリフェニレンエーテルを配合することにより耐熱性は向上するが本発明の規定量を超えると比較例11、比較例12に示すように流動性が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ゴム変性ポリスチレン系樹脂100質量部に対し、(B)式(1)で表される燐酸エステル10〜15質量部、及び(C)タルク4〜8質量部を含有したスチレン系難燃性樹脂組成物。
【化1】

但し、(A)ゴム変性ポリスチレン系樹脂は、ゴム状重合体100質量%中に、シス−1、4結合を90モル%以上有するハイシスポリブタジエンゴムに依存するゴム状重合体を70質量%以上含有したポリスチレン系樹脂である。
【請求項2】
請求項1に記載のスチレン系難燃性樹脂組成物に対して、更に(D)ポリフェニレンエーテル12質量部以下(但し、0は含まず)を含有したスチレン系難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
UL94燃焼試験でV−2を有する請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載のスチレン系難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のスチレン系難燃性樹脂組成物から得られる成形体。

【公開番号】特開2013−108032(P2013−108032A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256473(P2011−256473)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(399051593)東洋スチレン株式会社 (37)
【Fターム(参考)】