説明

スチレン類の製造方法

【課題】 スチレン類の効率的で簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】 一般式
C=CHMgY(1)
(式中、Yは塩素原子または臭素原子を示す。)
で表されるビニルマグネシウム試薬と一般式
Ar−Cl(2)
(式中、Arは置換されていてもよいフェニル基を示す。)
で表される塩化ベンゼン類から一般式
ArCH=CH(3)
(式中、Arは前記と同じである。)
で表されるスチレン類を製造する方法において、一般式(4)
【化1】


(式中、Rは水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。Arは置換されていてもよいフェニル基を示す。Xはメチレン基、ジメチルメチレン基または置換されていてもよい窒素原子を示す。)
で表されるジホスフィン類とニッケル化合物からなる触媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン類の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン類は、機能性高分子、医農薬等の原料として非常に有用な工業製品である。例えば、超LSI用のレジスト原料(例えば、特許文献1および2参照)、機能性高分子の中間原料(例えば、特許文献3参照)、抗菌性天然物の合成原料(例えば、非特許文献1参照)、神経伝達物質のレセプター類似化合物(例えば、非特許文献2参照)の原料となる。
【0003】
このようなスチレン類の製造方法として、ニッケル触媒を用い、ビニルマグネシウム試薬と臭化ベンゼン類の反応による製造方法が開示されている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、この方法は収率が低く、また塩化ベンゼン類を用いた反応は例示されていない。さらに、当該非特許文献に記載されているトリフェニルホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスファニル)エタン,1,3−ビス(ジフェニルホスファニル)プロパン、1,1’−ビス(ジフェニルホスファニル)フェロセンを用いて塩化ベンゼン類とビニルマグネシウム試薬との反応を試みたところ、収率はいずれも低いものであった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−43523号公報
【特許文献2】特開平3−277608号公報
【特許文献3】特開平2−160739号公報
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry,65巻,7990ページ,2000年.
【非特許文献2】Organic Letters,9巻,1987ページ,2007年.
【非特許文献3】Bulletine of Chemical Society of Japan,49巻,1958ページ,1976年.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ビニルマグネシウム試薬と塩化ベンゼン類を原料とするスチレン類の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ビス(ジアリールホスファニル)キサンテン類とニッケル化合物からなる触媒を用いることにより、ビニルマグネシウム試薬と塩化ベンゼン類から効率良くスチレン類が製造できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は、一般式
C=CHMgY (1)
(式中、Yは塩素原子または臭素原子を示す。)
で表されるビニルマグネシウム試薬と一般式
Ar−Cl (2)
(式中、Arは置換されていてもよいフェニル基を示す。)
で表される塩化ベンゼン類から一般式
ArCH=CH (3)
(式中、Arは前記と同じである。)
で表されるスチレン類を製造する方法において、一般式(4)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。Arは置換されていてもよいフェニル基を示す。Xはメチレン基、ジメチルメチレン基または置換されていてもよい窒素原子を示す。)
で表されるジホスフィン類とニッケル化合物からなる触媒を用いることを特徴とするスチレン類の製造方法に関するものである。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
ビニルマグネシウム試薬(1)のYは、塩素原子または臭素原子を示す。原料入手が容易な点および効率が良い点で塩素原子が好ましい。
【0011】
Arで表されるフェニル基は、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基または炭素数1〜4のハロアルコキシ基等で置換されていてもよい。
【0012】
ハロゲン原子としては、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を例示することができる。
【0013】
炭素数1〜4のアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロプロピルメチルオキシ基等を例示することができる。
【0014】
炭素数1〜4のハロアルコキシ基としては、具体的には、クロロメトキシ基、2−クロロエトキシ基、3−クロロプロポキシ基、4−クロロブトキシ基、3−ブロモプロポキシ基、4−ブロモブトキシ基、ジフルオロメトキシ基、3−フルオロプロポキシ基、トリフルオロメトキシ基、2−フルオロエトキシ基、2,2,2−トリフルオロエトキシ基、2,2,2−トリクロロエトキシ基等を例示することができる。
【0015】
一般式(4)で表されるジホスフィン類のArで表される置換されていても良いフェニル基としては、具体的には、フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−ジメチルアミノフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、4−(2−トリメチルシリル)エチルフェニル基、4−パーフルオロヘキシルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基等を例示することができる。
【0016】
一般式(4)で表されるジホスフィン類のRで表される炭素数1〜8のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基等を例示することができる。
【0017】
一般式(4)で表されるジホスフィン類としては、具体的には、ビス(4,5−ジフェニルホスフィノ)−9H−キサンテン、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2,8−ジ−tert−ブチル−9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2,8−ジヘキシル−9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2,8−ビス(3,3−ジメチルブチル)−9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2,8−ジブチル−9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2,8−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、9,9−ジメチル−4,5−ビス[ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィノ]キサンテン、9,9−ジメチル−4,5−ビス[ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ホスフィノ]キサンテン、9,9−ジメチル−4,5−ビス[ビス(4−フルオロフェニル)ホスフィノ]キサンテン、9,9−ジメチル−4,5−ビス[ビス(4−クロロフェニル)ホスフィノ]キサンテン、9,9−ジメチル−4,5−ビス[ビス(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ]キサンテン、9,9−ジメチル−4,5−ビス{ビス[4−(2−トリメチルシリル)エチルフェニル]ホスフィノ}キサンテン、9,9−ジメチル−4,5−ビス[ビス(4−パーフルオロヘキシルフェニル)ホスフィノ]キサンテン、4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)−10H−フェノキサジン、10−ベンジル−4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン、10−(3−ブテニル)−4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン、10−(1−プロペニル)−4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン、10−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン、10−カルバモイル−4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン等を例示することができる。反応における収率が良い点で、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジンを用いることが好ましい。
【0018】
本発明で用いることのできるニッケル化合物としては、例えば、ニッケル黒等の金属ニッケル、フッ化ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸ニッケル、酸化ニッケル、硫酸ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、ステアリン酸ニッケル、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ニッケル等のニッケル塩、ジブロモ(ジメトキシエタン)ニッケル、アリル(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(N,N’−ジエチルエチレンジアミン)ニッケル二チオシアネート、(シクロペンタジエニル)(カルボニル)ニッケルダイマー、ヘキサアンミンニッケル二塩化物塩、カリウムヘキサフルオロニッケレート、テトラエチルアンモニウムテトラクロロニッケレート、トリス(エチレンジアミン)ニッケル二塩化物塩、ビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナト)ニッケル等のニッケル錯体を挙げることができる。反応における収率が良い点で、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、ジブロモ(ジメトキシエタン)ニッケルを用いることが好ましい。
【0019】
ニッケル化合物とジホスフィン類(4)とのモル比は、1:0.1〜1:10が好ましく、反応における収率が良い点で1:0.5〜1:5がさらに好ましい。
【0020】
また、ジホスフィン類(4)が配位したニッケル錯体を触媒として用いることもできる。ジホスフィン類(4)が配位したニッケル錯体としては、例えば、ジブロモ[4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)−9H−キサンテン]ニッケル、ジブロモ[9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン]ニッケル等の二価ニッケル錯体、シクロオクタジエン[9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン]ニッケル、シクロオクタジエン(5−ジフェニルホスフィノ−9,9−ジメチルキサンテン−4−イル)ジフェニルホスフィンニッケル等の0価ニッケル錯体を例示することができる。
【0021】
反応における収率が良い点で、ジブロモ[9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン]ニッケルが好ましい。この錯体は、ジブロモ(ジメトキシエタン)ニッケルと9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテンを原料として得ることができる(例えば、非特許文献4参照)。
【0022】
【非特許文献4】Inorganic Chemistry,46巻,10365ページ,2007年. 次に、本発明の製造方法について詳しく述べる。
【0023】
ジホスフィン類とニッケル化合物からなる触媒とビニルマグネシウム試薬(1)とのモル比は、1:0.1〜1:10000が好ましく、反応における収率が良い点で1:1〜1:300がさらに好ましい。
【0024】
塩化ベンゼン類(2)とビニルマグネシウム試薬(1)とのモル比は、1:0.5〜1:5が好ましく、反応における収率が良い点で1:0.75〜1:2がさらに好ましい。
【0025】
本発明で用いることのできる溶媒は、反応を阻害しない溶媒であれば良く、具体的には、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等を挙げることができ、適宜これらを組み合わせて用いても良い。反応における収率が良い点で、テトラヒドロフランが好ましい。
【0026】
本発明においては、金属、水素化金属、有機金属等を還元剤として加えても良い。金属としてはマグネシウム、亜鉛等、水素化金属としては水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、水素化イソブチルアルミニウム、水素化ホウ素ナトリウム等、有機金属としては臭化(メチル)マグネシウム、臭化(フェニル)マグネシウム、臭化(2−メシチル)マグネシウム、ブチルリチウム、トリメチルアルミニウム、ジメチル亜鉛、トリエチルホウ素等を例示することができる。反応における収率が良い点で、有機金属が好ましく、臭化(2−メシチル)マグネシウムがさらに好ましい。
【0027】
還元剤を加える場合、触媒と還元剤とのモル比は、1:0.5〜1:10が好ましく、反応における収率が良い点で、1:1〜1:5がさらに好ましい。
【0028】
反応温度は、−20〜100℃の範囲から適宜選ばれた温度で行うことができる。反応における収率が良い点で、10〜80℃が好ましい。
【0029】
反応時間は、反応温度にもよるが、1分〜72時間が好ましく、反応における収率が良い点で、10分〜36時間が好ましい。さらに好ましくは30分〜24時間である。
【0030】
反応を密閉系で行う場合、大気圧(0.1MPa)〜1.0MPaの範囲から適宜選ばれた圧力で行うことができるが、大気圧でも反応は充分に進行する。また、反応の際の雰囲気は、アルゴン、窒素等の不活性ガス下で行うことが好ましい。
【0031】
反応後、生成物であるスチレン類(3)を単離する方法に特に限定はないが、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、分取薄層クロマトグラフィー、分取液体クロマトグラフィー、再結晶、蒸留、昇華等の汎用的な方法で目的物を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の製造方法を用いることにより、機能性高分子や医農薬等の原料として有用なスチレン類を簡便かつ高収率で得ることができる。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例および比較例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
H−NMR、13C−NMR測定は、各々Bruker DRX−250およびDRX−500を用いて測定した。ガスクロマトグラフィーは、島津製作所 GC−14B(検出器 FID、カラム ULBON HR−1 0.25mm×50m)を用いて測定した。
【0035】
実施例1
【0036】
【化2】

【0037】
シュレンク管に、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル0.0193g(0.075mmol)および9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン 0.0434g(0.075mmol)を加え、容器内をアルゴンで置換した。アルゴン気流中で、テトラヒドロフラン2.0mL、4−クロロアニソール 0.183mL(1.5mmol)、臭化(2−メシチル)マグネシウムの1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液0.3mLを加えた。70℃で攪拌しながら、塩化ビニルマグネシウムの1.38mol/Lテトラヒドロフラン溶液1.30mLを4時間20分かけて加え、その後さらに30分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液2mLを加え、ヘキサン4mLを加えて分液した。さらに、水相をヘキサン6mL、酢酸エチル6mLで抽出し、得られた有機層を合わせて濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液 ヘキサン:酢酸エチル=100:0〜100:1)に通すことにより4−メトキシスチレンを無色液体として得た(0.137g、収率 68%)。
【0038】
H−NMR(CDCl):δ7.30(d,2H,J=8.4Hz),6.81(d,2H,J=8.4Hz),6.63(dd,1H,J=17.6Hz,10.9Hz),5.58(d,1H,J=17.6Hz),5.09(d,1H,J=10.9Hz),3.72(s,3H).
13C−NMR(CDCl):δ159.5,136.4,130.6,127.6,114.1,111.6,55.3.
実施例2
シュレンク管に、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル0.0193g(0.075mmol)および4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン 0.0414g(0.075mmol)を加え、容器内をアルゴンで置換した。アルゴン気流中で、テトラヒドロフラン2.0mL、4−クロロアニソール 0.183mL(1.5mmol)、臭化(2−メシチル)マグネシウムの1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液0.3mLを加えた。70℃で攪拌しながら、塩化ビニルマグネシウムの1.38mol/Lテトラヒドロフラン溶液1.30mLを4時間20分かけて加え、その後さらに30分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液2mLを加え、ヘキサン4mLを加えて分液した。有機相をガスクロマトグラフィーにより分析し、4−メトキシスチレンが48%(GC収率)生成していることを確認した。
【0039】
比較例1
ジ(アセチルアセトナト)ニッケルおよび4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジンに代えて、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル0.0491g(0.075mmol)を用いた以外は、全て実施例2と同様の操作を行った。4−メトキシスチレンの生成は3%(GC収率)に留まった。
【0040】
比較例2
ジ(アセチルアセトナト)ニッケルおよび4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジンに代えて、ジクロロ[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]ニッケル 0.0396g(0.075mmol)を用いた以外は、全て実施例2と同様の操作を行った。4−メトキシスチレンの生成は1%(GC収率)に留まった。
【0041】
比較例3
ジ(アセチルアセトナト)ニッケルおよび4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジンに代えて、ジクロロ[1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン]ニッケル 0.0407g(0.075mmol)を用いた以外は、全て実施例2と同様の操作を行った。4−メトキシスチレンの生成は1%(GC収率)に留まった。
【0042】
比較例4
ジ(アセチルアセトナト)ニッケルおよび4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジンに代えて、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ニッケル 0.0407g(0.075mmol)を用いた以外は、全て実施例2と同様の操作を行った。4−メトキシスチレンの生成は1%(GC収率)に留まった。
【0043】
実施例3
シュレンク管に、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル0.0193g(0.075mmol)および9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン 0.0434g(0.075mmol)を加え、容器内をアルゴンで置換した。アルゴン気流中で、テトラヒドロフラン2.0mL、4−クロロアニソール 0.183mL(1.5mmol)を加えた。70℃で攪拌しながら、塩化ビニルマグネシウムの1.38mol/Lテトラヒドロフラン溶液1.30mLを2時間かけて加え、その後さらに30分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液2mL、ヘキサン4mL、内部標準としてトリデカンを加えて分液した。有機相をガスクロマトグラフィーにより分析し、4−メトキシスチレンが42%(GC収率)生成していることを確認した。
【0044】
実施例4
シュレンク管に、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル0.0193g(0.075mmol)および4,6−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン 0.0414g(0.075mmol)を加え、容器内をアルゴンで置換した。アルゴン気流中で、テトラヒドロフラン2.0mL、4−クロロアニソール 0.183mL(1.5mmol)、臭化(2−メシチル)マグネシウムの1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液0.3mLを加えた。70℃で攪拌しながら、塩化ビニルマグネシウムの1.38mol/Lテトラヒドロフラン溶液1.30mLを2時間かけて加え、その後さらに30分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液2mLを加え、ヘキサン4mLを加えて分液した。有機相をガスクロマトグラフィーにより分析し、4−メトキシスチレンが39%(GC収率)生成していることを確認した。
【0045】
実施例5
10mLのスクリューキャップ付試験管に、ジブロモ[9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン]ニッケル 0.0598g(0.075mmol)を加え、容器内をアルゴンで置換した。アルゴン気流中で、テトラヒドロフラン2.0mL、4−クロロアニソール 0.181mL(1.5mmol)、臭化(2−メシチル)マグネシウムの1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液0.3mLを加えた。70℃で攪拌しながら、塩化ビニルマグネシウムの1.38mol/Lテトラヒドロフラン溶液1.3mLを4時間20分かけて加え、その後さらに30分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液2mLを加え、ヘキサン4mLを加えて分液した。有機相をガスクロマトグラフィーにより分析し、4−メトキシスチレンが43%(GC収率)生成していることを確認した。
【0046】
実施例6
10mLのスクリューキャップ付試験管に、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル 0.0206g(0.075mmol)および9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン 0.0434g(0.075mmol)を加え、容器内をアルゴンで置換した。アルゴン気流中で、テトラヒドロフラン2.0mL、4−クロロアニソール 0.181mL(1.5mmol)を加えた。70℃で攪拌しながら、塩化ビニルマグネシウムの1.38mol/Lテトラヒドロフラン溶液1.3mLを4時間20分かけて加え、その後さらに30分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液2mLを加え、ヘキサン4mLを加えて分液した。有機相をガスクロマトグラフィーにより分析し、4−メトキシスチレンが46%(GC収率)生成していることを確認した。
【0047】
実施例7
【0048】
【化3】

【0049】
シュレンク管に、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル0.0193g(0.075mmol)および9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン 0.0434g(0.075mmol)を加え、容器内をアルゴンで置換した。アルゴン気流中で、テトラヒドロフラン2.0mL、クロロベンゼン0.152mL(1.5mmol)、臭化(2−メシチル)マグネシウムの1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液0.225mLを加えた。70℃で攪拌しながら、塩化ビニルマグネシウムの1.44mol/Lテトラヒドロフラン溶液1.25mLを4時間10分かけて加え、その後さらに30分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液2mLを加え、ヘキサン4mLを加えて分液した。有機相をガスクロマトグラフィーにより分析し、スチレンが72%(GC収率)生成していることを確認した。
【0050】
実施例8
【0051】
【化4】

【0052】
シュレンク管に、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル0.0193g(0.075mmol)および9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン 0.0434g(0.075mmol)を加え、容器内をアルゴンで置換した。アルゴン気流中で、テトラヒドロフラン2.0mL、4−クロロフルオロベンゼン 0.159mL(1.5mmol)、臭化(2−メシチル)マグネシウムの1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液0.225mLを加えた。70℃で攪拌しながら、塩化ビニルマグネシウムの1.44mol/Lテトラヒドロフラン溶液1.25mLを4時間10分かけて加え、その後さらに30分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液2mLを加え、ヘキサン4mLを加えて分液した。さらに、水相をヘキサン6mL、酢酸エチル6mLで抽出し、得られた有機層を合わせて濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液 ヘキサン:酢酸エチル=100:0〜100:1)に通すことにより4−フルオロスチレンを無色液体として得た(0.131g、収率 71%)。
【0053】
H−NMR(CDCl):δ7.35−7.32(m,2H),7.00−6.96(m,2H),6.65(dd,1H,J=17.6Hz,10.9Hz),5.63(d,1H,J=17.6Hz),5.19(d,1H,J=10.9Hz).
13C−NMR(CDCl):δ162.5(d,J=247.2Hz),135.7,133.8(d,J=3.3Hz),127.7(d,J=7.9Hz),115.4(d,J=86.0Hz),113.4(d,J=8.0Hz).
19F−NMR(CDCl):δ114.6.
実施例9
【0054】
【化5】

【0055】
シュレンク管に、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル0.0193g(0.075mmol)および9,9−ジメチル4,5−ビス(ジフェニルホスファニル)キサンテン 0.0434g(0.075mmol)を加え、容器内をアルゴンで置換した。アルゴン気流中で、テトラヒドロフラン1.5mL、4−(4−クロロブチルオキシ)クロロベンゼン 330mg(1.5mmol)、臭化(2−メシチル)マグネシウムの1.0mol/Lテトラヒドロフラン溶液0.3mLを加えた。70℃で攪拌しながら、塩化ビニルマグネシウムの1.48mol/Lテトラヒドロフラン溶液1.22mLを4時間かけて加え、その後さらに30分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液2mL、ヘキサン4mL、内部標準としてトリデカンを加えて分液した。さらに、水相をヘキサン6mL、酢酸エチル6mLで抽出し、得られた有機層を合わせて濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液 ヘキサン:酢酸エチル=100:0〜100:1)に通すことにより4−(4−クロロブチルオキシ)スチレンを無色液体として得た(収率 42%)。
【0056】
H−NMR(CDCl):δ7.32(d,2H,J=8.7Hz),6.83(d,2H,J=8.7Hz),6.64(dd,1H,J=17.6Hz,10.9Hz),5.59(dd,1H,J=17.6Hz,0.6Hz),5.11(dd,1H,J=10.9Hz,0.6Hz),3.97(t,2H,J=5.8Hz),3.59(t,2H,J=6.2Hz),1.90−1.97(m,4H).
13C−NMR(CDCl):δ158.6,136.2,130.4,127.3,114.4,111.5,66.9,44.7,29.3,26.6.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
C=CHMgY (1)
(式中、Yは塩素原子または臭素原子を示す。)
で表されるビニルマグネシウム試薬と一般式
Ar−Cl (2)
(式中、Arは置換されていてもよいフェニル基を示す。)
で表される塩化ベンゼン類から一般式
ArCH=CH (3)
(式中、Arは前記と同じである。)
で表されるスチレン類を製造する方法において、一般式(4)
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を示す。Arは置換されていてもよいフェニル基を示す。Xはメチレン基、ジメチルメチレン基または置換されていてもよい窒素原子を示す。)
で表されるジホスフィン類とニッケル化合物からなる触媒を用いることを特徴とするスチレン類の製造方法。
【請求項2】
Arがフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載のスチレン類の製造方法。
【請求項3】
Rが水素原子であることを特徴とする請求項1〜2に記載のスチレン類の製造方法。
【請求項4】
ニッケル化合物が、ジ(アセチルアセトナト)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルまたはジブロモ(ジメトキシエタン)ニッケルであることを特徴とする請求項1〜3に記載のスチレン類の製造方法。
【請求項5】
ジホスフィン類とニッケル化合物からなる触媒が、ジブロモ[9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン]ニッケルであることを特徴とする請求項1〜3に記載のスチレン類の製造方法。

【公開番号】特開2010−111644(P2010−111644A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287067(P2008−287067)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】