説明

スチールコードと不織布とを備えた防刃インサート

防護テキスタイル用の防刃インサート(10)は、金属ワイヤまたは金属コード(12)による布の少なくとも1つの金属層と、少なくとも1つの繊維層(14、16)とを備えている。繊維層は金属層と接触し且つ接続されている。繊維層は、不織布材料(14、16)を含んでいる。この防刃インサートは、高水準の防刃性と格段の心地良さとを兼ね備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防護テキスタイル用の防刃インサートに関する。防刃インサートは、少なくとも1つの金属層と少なくとも1つの繊維層とを備える。本発明は、そのような防刃インサートを備える防護テキスタイルにさらに関する。
【背景技術】
【0002】
防護テキスタイルは、暴力行為が増加しているとともに、短刀を用いて人を攻撃したりナイフで手荷物を切って窃盗したりといった形で暴力行為がよく起こるために、ますます重要になってきている。
【0003】
アラミド繊維や高密度高分子量ポリエチレン繊維などの合成繊維は、防弾性に適していることが証明されている。しかし、ナイフや短刀などの突き刺しに関しては、これらの繊維は性能不足である。この原因は、横抵抗に対して、これらの合成繊維の固有の脆弱性にある(この性質は全ての合成繊維に当てはまる)。金属、特にスチールは、半径方向の圧縮に対してより大きな抵抗を有する。
【0004】
この金属およびスチールの特性は、先行技術において既に認識されている。欧州特許出願公開第0769671号明細書には、非金属製の支持布に固定される1組の金属ストランドを備えた防刃材料が開示されている。これらの金属ストランドは一方向性である。米国特許第5883018号明細書には、金属ストランドを防刃材料に使用するための最適化について開示されている。突き刺さるナイフを静止する可能性を増加させるために、2以上の異なる角度で撚ったスチールコードが使用されている。国際公開第98/45516号パンフレットには、スチールコードで格子を形成している、すなわち横糸および縦糸の両方がスチールコードで形成されている防刃材料が開示されている。独国実用新案第20007820号明細書には、防刃材料と弾道材料の組み合わせが開示されている。この防刃材料は、鎖かたびらによって形成されている。そのような鎖かたびらは極めて柔軟性に富むという長所を有するが、形状安定性がないという短所を有する。防刃材料に形状安定性を付与するために、鎖かたびらをそれら縁部分で不織布材料に固定または接着する。弾が飛んできた状況において、もし銃弾が鎖かたびらの鎖を粉々に砕いても、これら破片を不織布が捕らえて、破片が身体内へ貫通するのを防止する。
【0005】
防護衣や防護テキスタイルには、矛盾する複数の要件が常に課される。一方では、心地良さに関する要件が、デザイナーに使用する材料をより少なくするように促す。他方では、安全性の基準が、衝撃吸収性や防刃性の材料の量を増やす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、先行技術のこれら欠点を回避することである。本発明のまた別の目的は、防護テキスタイルのために心地良さ及び安全性の両方を提供する材料を提供することである。本発明のまた別の目的は、金属と繊維との相互作用および相乗作用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、防護テキスタイル用の防刃インサートを提供することができる。このインサートは、金属コードまたは金属ワイヤによる布の少なくとも1つの金属層と、少なくとも1つの繊維層とを備えている。繊維層は、金属層と接触しており且つ接続されている。繊維層は、不織布材料を含んでいる。
【0008】
「不織布材料」とは、乾式法、湿式法、またはエアレイ法、ニードルパンチ法、スパンボンドプロセス、水流絡合などの方法によって製造された繊維状の構造物を含むものをいう。「不織布材料」には、織構造、ニット構造、およびタフテッド構造は含まれない。「不織布」とは、それらの繊維が機械的に交絡しているか、または相互に化学的に接着している布を指す。
【0009】
金属層に接続している不織布材料の使用は、防刃性を導く。
【0010】
金属層の金属ワイヤもしくは金属コードは、通常、普通炭素鋼またはステンレス鋼である。炭素鋼の場合、ワイヤおよびコードは、亜鉛または亜鉛合金(例えば亜鉛−アルミニウム合金)などの耐食性コーティング材で好ましくは被覆される。
【0011】
金属層の布では、金属コードまたは金属ワイヤを平行に並べてよい。2本の隣接する金属コード間もしくは金属ワイヤ間の距離は、0.40mmから3.20mm、例えば0.50mmから3.0mmの範囲である。
【0012】
防刃性の向上という長所の次に、金属層に不織布の繊維層を接触かつ接着することの追加の長所は、金属繊維複合体が防刃インサートを形成するために裁断された場合に、布形態のワイヤまたはコードがほどけるのをこの不織布の繊維層で防止できることである。
【0013】
本発明の第1実施形態では、金属ワイヤまたは金属コードが、1つの単一の金属層内で一方向に向かっており、すなわち細長い金属要素が相互に交差しない。金属要素は、細長い金属要素が相互に向かって移動する可能性を減少させるために、不織布材料に対し接着剤によって又は熱可塑性フィルムによって接着されている。この第1実施形態では、好ましくは2つ以上の金属層が提供される。複数の金属層の場合、細長い金属要素が少なくとも2つの異なる方向に向かうように、各金属層の細長い金属要素を配置する。ナイフが第1金属層へ貫通してしまった場合に、第2もしくはその次の金属層が第1層の方向とは異なる方向を有していれば、第2もしくはその次の金属層において停止する可能性が増加する。同様に、ナイフが停止する可能性は、金属層の数が増加すれば増加する。しかし、金属層の数は重量および剛性の理由によって制限される。一方向の金属層が6つまで可能である。一方向の層は2つ、3つおよび4つが好ましい。
【0014】
本発明の第2実施形態では、例えば二方向などの複数方向の金属層を少なくとも1つ備える。これは、1つの単一の金属層内で細長い金属要素が相互に交差することを意味する。これは横糸および縦糸の細長い金属要素を溶接するステップまたは編むステップによって実現できる。好ましくは、横糸および縦糸の細長い要素を編む。好ましくは、横糸および縦糸の細長い要素を相互に直角(90°)に形成する。不織布材料は、接着剤、熱可塑性フィルムまたはステッチングのいずれかによって、金属層に接着する。この第2実施形態の金属層は、第1実施形態で作られる単一の金属層(一方向性)よりも、幾分か剛性であるという欠点を有するが、最終的なインサートの形態としては、同じ防刃性を得るために必要な金属層の層数が少なくて済むという長所を有する。1層または2層の複数方向の金属層が好ましい。この第2実施形態における金属層の層数の低下は、第1実施形態と比較して柔軟性をより高くまたは重量をより軽くすることができる。
【0015】
第1および第2の実施形態の両方において、本発明者らは、不織布材料の一部分が金属層の細長い要素の間に貫通していれば有益であることを経験した。これは、繊維が不織布材料の平面においてもはや二次元にのみ方向付けられているのではなく、一部の繊維が不織布材料の平面に対して垂直な平面にも方向付けられているように、例えば、不織布材料をニードルフェルトすることによって、実現することができる。このようにして、一部の繊維を、不織布材料の平面から突出させて、細長い要素の間に貫通させる。この貫通は、細長い要素が相互に向かって移動する可能性を減少させる。接着剤またはステッチングの存在は、この作用を際立たせる。
【0016】
不織布材料は、合成繊維を含むことが好ましい。不織布材料は、衝撃吸収作用を有することが知られている合成繊維を含むことが最も好ましい。このような合成繊維として、例えば、アラミド繊維、パラアラミド繊維、高密度高分子量ポリエチレン繊維、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)繊維(PBO繊維)、ポリベンズイミダゾール繊維(PBI繊維)またはそれらの組み合わせなどがある。
【0017】
防刃インサートにおいて、各金属層がその両面で2つの繊維層と1つずつ接触且つ接続するようにしてもよい。
【0018】
本発明は、上述したように、防刃インサートを備えた防護テキスタイルにさらに関する。防護テキスタイルは、通常は防弾インサートをさらに備える。防弾インサートは通常は身体に近い側に配置され、防刃インサートは通常は外装部品として形成される。
【0019】
以下、添付の図面を参照して本発明についてより詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明に係る防刃インサート10の部分的な断面図である。防刃インサート10は、複数のスチールコード12が互いに平行に並んだ単一の一方向の層を有する。スチールコード12は、この実施例では3×3×0.18のタイプのスチールコードである。スチールコード12は、織構造の縦糸を形成する。横糸(図示省略)は、含浸ナイロンで形成される。横糸は、アラミド繊維または高密度高分子量ポリエチレン繊維によって形成されてもよい。スチールコード間の距離は2.2mmである。一般に、この間隔は0.4mmから3.2mm、例えば0.5mmから3.0mmの範囲で変動してよい。この間隔は、コード間、すなわちコードの軸間のピッチとして測定される。スチールコード12の層の上には不織布14があり、そしてスチールコード12の層の下にも不織布16がある。不織布は、ポリアクリレート繊維、パラアラミド繊維および酸化ポリアクリロニトリル繊維で構成されるニードルフェルトである。これは約2.30mm(±0.30mm)の厚さおよび約80g/m2(±8%)の重量を有する。不織布14および16はどちらも、例えばポリアミドなどの薄い熱可塑性フィルムによってスチールコード12の層に接着している。例えばアクリルレート系接着剤またはポリウレタン系接着剤などの接着剤も使用できる。不織布のニードルフェルトの性質のために、一部の繊維19は第3の方向に、すなわち不織布の平面に対して垂直な方向に方向付けられ、スチールコード12間の開口内を貫通する。
【0021】
図2は、本発明の第1実施形態を示している。この防刃インサートは、4つの異なる部分10、20、30および40を備えている。これら部分10、20、30および40はそれぞれ図1aおよび図1bの構造と同様である。すなわち各部分10、20、30および40は、2つの不織布の間に挟まれているスチールコード12、22、32および42の各層を備えている。個々のスチールコード間の距離は、0.5mmから3.0mmの範囲で変動する。各部分10、20、30および40の典型的な形状は、男性の背中に対応する。この典型的な形状は、レーザー切断によって得ることができる。本発明に係る不織布を使用する追加の長所は、レーザー切断の前または後のいずれかでスチールコードがほどけるのを不織布により防止できることである。つまり、不織布はインサートの完全性にとって好都合である。接着剤の存在は、この長所を際立たせる。
【0022】
図2の第1実施形態に係る防刃要素としてのインサートは、高密度高分子量ポリエチレン繊維(市場ではDYNEEMA(登録商標)繊維として知られている)の多数の層を有する防弾要素と組み合わせることで成功が得られることが証明されている。防刃インサートの存在は、必要とされるDYNEEMA(登録商標)繊維の層数を減少させる。その理由は、外側部分が防刃インサートによって形成され、この防刃インサートが既に銃弾を停止させるか又は少なくとも銃弾の速度を減速させることにある。
【0023】
図3は、本発明の第2実施形態を示している。防刃インサート50は、互いに交差するスチールコード52および53を有する金属層を備える。この金属層は、横糸および縦糸の両方がスチールコードである織構造によって形成してもよい。横糸のスチールコード52間の距離は、0.5mmから3.0mmの範囲内である。縦糸のスチールコード54間の距離は、0.5mmから3.0mmの範囲内である。金属織構造の上には不織布54があり、金属織構造の下にも不織布がある(図示省略)。不織布は、接着剤またはステッチングによって金属層と接着している。防刃インサート50の典型的な形状は、女性の正面に対応する。この場合も、レーザー切断によって形状が実現される。この第2実施形態は、防弾要素としてのパラアラミド繊維もしくはアラミド繊維の層の積み重ねと組み合わせると防刃要素として特に成功が得られることが証明されている。
【0024】
本発明は、特定タイプの細長い金属要素には限定されない。金属ワイヤもしくは金属糸が適当である。しかし、安全性の理由と結び付けられた柔軟性の理由のために、相当に細いフィラメント、すなわち0.03mmから0.25mmの範囲の直径のフィラメントを用いた金属製マルチストランド金属コードが好ましい。マルチストランド金属コードは、通常はm×nタイプ(mはストランド数で、nは1本のストランド内のフィラメント数である)である。マルチストランドコードの例は、
3×3、
7×3、
7×4、
4×7、
3+5×7、
7×7である。
これは他のコードタイプを除外するものではない。他のコードタイプとしては、次の一般構造のタイプであってよい。
l+m(+n):l本のコアフィラメント、m本のフィラメントの層、および任意のn本のフィラメントの層。
n×1:n本のフィラメントが一緒に撚られている。
m+n:m本のフィラメントが平行にあり、その周囲をn本のフィラメントが囲み、n本のフィラメントが互いにかつm本のフィラメントの周りで撚られている。
1×nCC:n本のフィラメントが全て同一の撚り方向で同一の撚りステップを用いて撚られている圧縮コード。
【0025】
本発明は、金属層において金属コード上に特定タイプのコーティングに限定されない。しかし、防刃インサートが、洗浄もしくは洗濯する必要がある防護テキスタイルに使用される場合は、ステンレススチールから作製された金属コードか、または亜鉛もしくは亜鉛アルミニウム合金(2%から9%のアルミニウム)などの耐食性コーティング材を用いて被覆されたスチールコードが好ましい。本発明は、1500MPaから約3500MPa以上の引張強度を有する全ての一般的で入手可能な最終製品に適している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1a】本発明に係る防刃インサートの部分的な断面図である。
【図1b】図1aの拡大図である。
【図2】本発明の第1実施形態を示す模式図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属コードまたは金属ワイヤによる布の少なくとも1つの金属層と、
前記金属層と接触し且つ接続されている少なくとも1つの繊維層と
を備えた防護テキスタイル用の防刃インサートであって、
前記繊維層が不織布材料を含んでいることを特徴とする防刃インサート。
【請求項2】
前記布が平行に並んだ複数の金属コードまたは金属ワイヤを備えており、これら金属コード間または金属ワイヤ間の距離が0.04mmから3.2mmの範囲である請求項1に記載の防刃インサート。
【請求項3】
前記複数の細長い金属要素が前記金属層内で一方向になっており、前記細長い金属要素が接着剤または熱可塑性フィルムによって前記不織布材料に接着されている請求項2に記載の防刃インサート。
【請求項4】
前記インサートが2つ以上の金属層を備える請求項3に記載の防刃インサート。
【請求項5】
前記2つ以上の金属層で、前記細長い金属要素の方向が異なっている請求項4に記載の防刃インサート。
【請求項6】
前記少なくとも1つの金属層内で複数方向になっている請求項2に記載の防刃インサート。
【請求項7】
前記不織布材料が、接着剤、熱可塑性フィルム、またはステッチングによって前記金属層と接着している請求項6に記載の防刃インサート。
【請求項8】
前記不織布材料の一部分が、前記金属層内の細長い金属要素の移動の可能性を減少するために、前記細長い金属要素の間を貫通している請求項2〜7のいずれか一項に記載の防刃インサート。
【請求項9】
前記不織布材料が合成繊維を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の防刃インサート。
【請求項10】
前記合成繊維の30%を超える部分が、アラミド繊維、高密度高分子量ポリエチレン繊維、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、またはそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される請求項9に記載の防刃インサート。
【請求項11】
各金属層がその両面で繊維層に接触し且つ接続している請求項1〜10のいずれか一項に記載の防刃インサート。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の防刃インサートを備えた防護テキスタイル製品。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−512975(P2007−512975A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538833(P2006−538833)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052419
【国際公開番号】WO2005/050127
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(592014377)ナムローゼ・フェンノートシャップ・ベーカート・ソシエテ・アノニム (81)
【氏名又は名称原語表記】N V BEKAERT SOCIETE ANONYME
【Fターム(参考)】