説明

スチールワイヤの焼鈍方法及び焼鈍装置

【課題】スチールワイヤ焼鈍時の低温領域においても正確に温度を測定して、よってスチールワイヤの接合部を適切に温度調節することができるスチールワイヤの焼鈍方法を提供する。
【解決手段】スチールワイヤW1、W2の接合部bを焼鈍する方法であって、スチールワイヤW1、W2の接合部bの温度を測定しつつ加熱する。この接合部bから放射される光エネルギーをこの接合部に向けて設けた受光素子、例えばフォトダイオード6で受光し、このフォトダイオード6から出力した信号を対数変換し、この対数変換された信号に基づいて決定した温度によりスチールワイヤW1、W2の接合部bの加熱温度を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールワイヤの焼鈍方法及び焼鈍装置、より詳しくは、焼鈍中のスチールワイヤの温度を正確に測定して焼鈍温度を調節することのできる焼鈍方法及び焼鈍装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチールコードを製造する際は、あらかじめスチールワイヤ(素線)に伸線処理や熱処理等といった各種の処理を行う。このような処理前のスチールワイヤは、リールに巻き取られているので、各種の処理時には、一つのリールから巻き出したスチールワイヤの後端と、他のリールから巻き出すスチールワイヤの先端とを接合して、複数のスチールワイヤを連続的に処理する。このようにして、伸線処理ではスチールワイヤの切断、接合、伸線を繰り返し行う。
【0003】
一つのスチールワイヤの後端と他のスチールワイヤの先端との接合は、先行するスチールワイヤの後端部近傍をクランプで把持するとともに、追随するスチールワイヤの先端部近傍を別のクランプで把持した状態で、両スチールワイヤの端面同士を突き合わせ、加圧しつつ通電して抵抗加熱する、いわゆる突き合わせ抵抗溶接法により行う。
【0004】
このような突き合わせ抵抗溶接法により二つのスチールワイヤを接合した後は、スチールワイヤの接合部が急冷されて硬化しているので、この接合部に焼鈍を施して当該接合部の組織を安定化させる。この焼鈍を、一対の焼鈍用電極を備える焼鈍装置によって行い、その焼鈍用電極の中間にスチールワイヤの接合部が位置するようにスチールワイヤを当該焼鈍用電極で把持しつつ通電してスチールワイヤの接合部を抵抗加熱させることにより行う(特許文献1、特許文献2)。この焼鈍は一般に、一次焼鈍とそれに続く二次焼鈍との二回行われる。
【0005】
スチールワイヤの接合部を焼鈍する時の加熱条件は、焼鈍した接合部の靭性等の特性に影響を及ぼす。したがって、良好な焼鈍結果を得るためには、焼鈍時において、スチールコードの接合部の温度制御を行うことが重要である。この温度制御に関して、焼鈍制御部が、接合するスチールワイヤの種類によってあらかじめ設定された焼鈍電流値と通電時間となるように電流と時間を制御することによって温度制御を行う方法がある(特許文献2)。また、焼鈍時に接合部の温度を放射温度計で測定しながら温度が一定になるように電流をオンオフ制御することで温度制御を行う焼鈍装置がある(特許文献3)。
【0006】
焼鈍時におけるスチールワイヤ接合部の温度の測定が可能な放射温度測定装置に関して、温度検出素子としてフォトダイオードを用いたものがある(特許文献4)。このようなフォトダイオードを用いた温度測定装置では、測定対象から放射される光エネルギーを、フォトダイオードによって電流値に変換する。その電流値を一次関数的に電圧値に変換し、この変換された電圧値を、温度基準となる電圧値と比較して測定対象の温度を決定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−28572号公報
【特許文献2】特開2000−271779号公報
【特許文献3】特開平09−024435号公報
【特許文献4】特開2002−323381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スチールワイヤの焼鈍時における温度制御のためには、スチールワイヤの接合部における温度測定を、最高加熱温度(焼鈍温度)ばかりでなく、その最高温度に至るまでの低い温度から行う必要がある。しかしながら、焼鈍に用いる焼鈍装置の温度検出素子がフォトダイオードを用いたものである場合には、このフォトダイオードの感度が、焼鈍温度近傍の感度に比べて、焼鈍における低温に相当する温度領域での感度が低い。これは、スチールワイヤの接合部から放射される光のスペクトルはワイヤの温度に依存して大きく変動するのに対して、フォトダイオードが受光できる光の波長領域はフォトダイオードの特性によって決まっているからである。フォトダイオードの感度が、焼鈍における低温に相当する温度領域で低いことにより、フォトダイオードの電流信号を一次関数的に電圧信号に変換して増幅した後においても温度基準となる電圧値と比較して温度を正確に決定することは困難であり、よってスチールワイヤの焼鈍時における低温領域では、温度を適切に制御するのが難しかった。
【0009】
そこで本発明の目的は、スチールワイヤ焼鈍時の低温領域においても正確に温度を測定して、よってスチールワイヤの接合部を適切に温度調節することができるスチールワイヤの焼鈍方法及びこの焼鈍方法に用いる焼鈍装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のスチールワイヤの焼鈍方法は、スチールワイヤの接合部の温度を測定しつつ加熱するスチールワイヤの焼鈍方法において、接合部から放射される光エネルギーをこの接合部に向けて設けた受光素子で受光し、この受光素子から出力した信号を対数変換し、この対数変換された信号に基づいて決定した温度によりスチールワイヤの接合部の加熱温度を調節することを特徴とする。
【0011】
本発明のスチールワイヤの焼鈍方法においては、受光素子からスチールワイヤの接合部近傍までわたって延在させた受光素子ガイドにより、スチールワイヤの接合部以外から放射される光エネルギーを受光素子が受光するのを抑制するとともに、この受光素子の視野径を受光素子ガイドの内径と同じ又はそれ以下にすることが好ましい。
【0012】
本発明のスチールワイヤの焼鈍装置においては、スチールワイヤの接合部の温度を測定する温度測定ユニットと、この接合部を加熱する加熱ユニットとを備え、温度測定ユニットは、スチールワイヤの接合部に向かう受光素子と、接合部から放射される光エネルギーに基づいてこの受光素子から出力された信号を対数変換する変換回路と、を有し、加熱ユニットは、変換回路により対数変換された信号に基づいて決定された温度により加熱温度を調節することを特徴とする。
【0013】
本発明のスチールワイヤの焼鈍装置は、受光素子からスチールワイヤの接合部近傍まで延びる受光素子ガイドを備えることができ、また、受光素子がフォトダイオードであり、このフォトダイオードから出力される電流信号を電圧信号に変換する変換回路中に対数変換回路を有する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、受光素子からの信号を対数変換し、この対数変換された信号に基づいて接合部の温度が決定められることから、スチールワイヤの接合部が低温であるときにもこの接合部の温度を正確に測定することができ、この測定された正確な温度に基づいて接合部の加熱温度を調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の焼鈍装置の一実施形態の要部を示す模式図である。
【図2】本発明の焼鈍方法の一実施形態を説明するブロック図である。
【図3】ワイヤ温度と変換後の電圧信号との関係を示すグラフである。
【図4】受光素子の視野径について実施形態と従来技術とを比較して示す模式図である。
【図5】従来の焼鈍方法の一例を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のスチールワイヤの焼鈍方法及び焼鈍装置の実施形態を、図面を用いつつ具体的に説明する。
【0017】
図1に、本発明のスチールワイヤの焼鈍方法に用いて好適な焼鈍装置の一実施形態を、要部の模式図で示す。図1に示す本実施形態のスチールワイヤの焼鈍装置1は、一つのスチールW1の端部と別のスチールワイヤW2の端部とを突き合わせて溶接された接合部bを加熱して焼鈍するための装置である。焼鈍装置1の一対のクランプ2は、スチールワイヤW1の端部近傍及びスチールワイヤW2の端部近傍をそれぞれ把持する。この一対のクランプ2には電源3が接続されていて、この電源3からクランプ2を通してクランプ2間の接合部bを含むスチールワイヤW1及びスチールワイヤW2に通電することにより、この接合部bを抵抗加熱する。電源3からクランプ2に流す電流は、温度調節装置4により調節され、この電流調節により接合部bの加熱温度が調節される。本実施形態では焼鈍装置1の加熱ユニット5が、クランプ2、電源3及び温度調節装置4を含む構成となっている。
【0018】
加熱ユニット5の温度調節装置4により接合部bの加熱温度を調節する際は、その接合部bの温度を測定する。この温度測定のために、接合部bに向けて受光素子として例えばフォトダイオード6が設けられている。
【0019】
このフォトダイオード6から出力された信号は、温度決定装置7に入力され、この温度決定装置7により接合部bの温度が決定される。温度決定装置7により決定された接合部bの温度信号は、温度調節装置4に入力される。本実施形態では、焼鈍装置1の温度測定ユニット8が、フォトダイオード6及び温度決定装置7を含む構成となっている。
【0020】
温度測定ユニット8について、より具体的に説明すると、スチールワイヤW1及びW2の接合部bの焼鈍時においては、この接合部bから放射される光エネルギーを、フォトダイオード6によって、電流信号に変換し温度決定装置7に出力する。温度決定装置7は、対数変換回路を有し、入力された電流信号を対数変換して電圧信号に変換する。この対数変換回路は、フォトダイオード6からの電流信号を電圧信号に変換し増幅する回路の一部として組み込むことができる。対数変換回路の具体的構成は特に限定されない。
【0021】
焼鈍装置1の加熱ユニット5及び温度測定ユニット8を用いたスチールワイヤの焼鈍方法の一例について図2のブロック図を用いて説明する。温度測定ユニット8内の温度決定装置7において、フォトダイオード6がスチールワイヤW1とスチールワイヤW2との接合部bにおける光放射エネルギーを電流信号に変換する(ステップS1)。次いで、対数変換により電流信号を電圧信号に変換する(ステップS2)。対数変換された電圧信号は、図2では加熱ユニット5の温度調節装置4内に有している増幅器により増幅される(ステップS3)。つまり、増幅器は、温度調節装置4内に有していてもよいし、温度決定装置7内に有していてもよい。増幅された電圧信号から温度を決定するために、図2では加熱ユニット5の温度調節装置4内に有している記憶部には、増幅後の電圧と加熱温度との関係についてのデータが記憶されている。そこで、増幅器で増幅された電圧信号を、温度調節装置4の記憶部に記憶されていた増幅後の電圧と加熱温度との関係についてのデータと対比することにより、増幅後の電圧信号から加熱温度を決定する。このようにして、フォトダイオード6において検出された光エネルギーからスチールワイヤW1、W2の接合部bの温度を決定することができる。
【0022】
次に、焼鈍温度の調節の際は、温度調節装置4の記憶部に、あらかじめ焼鈍温度としての設定温度に対応する電圧情報を記憶しておき、この記憶された電圧情報を温度調節装置4の記憶部から読み出す(ステップS4)。読み出された設定電圧信号と、増幅器で増幅された電圧信号とを比較する(ステップS5)。この増幅器で増幅された電圧信号が設定電圧信号と異なる場合には、設定電圧に増幅された電圧とが一致するように温度調節装置4は電源3に加熱指令を出力する(ステップS6)。電源3は、この加熱指令に従って、所定の加熱電流をクランプ2に通電する。このようにして、温度調節をすることができる。
【0023】
比較のために従来の焼鈍方法を、図5のブロック図を用いて説明する。図5のブロック図における、図2のブロック図との相違点は、図2では、ステップS2において対数変換により電流信号を電圧信号に変換するのに対して、図5では、ステップS200において対数変換することなく電流信号を一次関数的に電圧信号に変換している点である。この相違点以外は図2と同じであるので、図5の説明において重複する説明は省略する。
【0024】
本実施形態の焼鈍装置1及びこの装置を用いた焼鈍方法では、温度決定装置7においてフォトダイオード6から入力された電流信号を電圧信号に変換する際に、対数変換することより以下の効果が得られる。
【0025】
図3(a)、(b)にフォトダイオード6により測定されるワイヤ温度と温度決定装置7により電圧信号に変換後の電圧信号との関係を示すグラフを示す。同図(a)、(b)はいずれも等分目盛のグラフであり、同図(a)は本実施形態に従い対数変換を実施した場合の例であり、同図(b)は比較のために従来の焼鈍装置及び焼鈍方法で対数変換を実施しない場合の例である。図3(a)から分かるように、本実施形態で対数変換を実施した場合はグラフが直線を示し、接合部のワイヤ温度に対する変換後の電圧信号は一次関数的である。これに対して、図3(b)に示されるように従来技術で対数変換を実施しない場合は、接合部のワイヤ温度に対する変換後の電圧信号は指数関数的である。したがって、図3(b)に示される従来技術では、焼鈍時の低温領域では温度変化に対して電圧変化が僅かであって、電圧信号を増幅しても低温領域での温度決定が困難であった。
【0026】
一方、本実施形態では対数変換を行うことから、図3(a)に示すように焼鈍時の低温領域では温度変化に対して直線状に変化するので、フォトダイオード6の感度が低い、焼鈍における低温の温度領域でもワイヤ温度の変化に対して電圧信号がリニアに応答している。このことから、焼鈍時の低温領域の温度を正確に測定することができる。更には、スチールワイヤW1、W2の接合部の焼鈍を適切に実施することができる。
【0027】
次に、本発明のスチールワイヤの焼鈍方法及びこの焼鈍方法に用いて好適な焼鈍装置の別の実施形態について説明する。本実施形態の焼鈍装置は、図1に示した焼鈍装置1において、フォトダイオード6からスチールワイヤW1、W2の接合部b近傍までにわたって受光素子ガイド9を延在させて備えている。本実施形態は、受光ガイド9は、温度測定ユニット8に含まれる構成となり、それ以外の構成は、図1を用いて既に説明した構成と同一構成になるので、ここでは重複する説明を省略する。
【0028】
本実施形態の焼鈍装置は、先に述べた実施形態と同様に対数変換を行うことから、焼鈍時の低温領域の温度を正確に測定することができ、更には、スチールワイヤW1、W2の接合部の焼鈍を適切に実施することができるという、先に述べた実施形態と同様の効果を有する他に、従来の装置と比較すると次の効果を有している。
【0029】
本実施形態は、受光素子ガイド9を、フォトダイオード6の先端部からスチールワイヤW1、W2の接合部b近傍までにわたる長さで有している。従来の焼鈍装置においてもフォトダイオード6の先端部に受光素子ガイドが取り付けられた例はあった。しかしながら、従来の焼鈍装置における受光素子ガイドは、フォトダイオード6の周囲の限られた範囲であり、本実施形態のようにフォトダイオード6先端部近傍からスチールワイヤW1、W2の接合部bまでにわたる長さではなかった。その理由は、従来の焼鈍装置が、フォトダイオード6から出力された電流信号を、電圧信号に変換する際に、対数変換をすることがなく、よってワイヤ温度と変換後の電圧信号との関係が図3(b)にグラフで示す関係になっていたことによる。
【0030】
従来の焼鈍装置はフォトダイオードの特性上、焼鈍時の低温領域では受光感度及び応答性が低く、よって接合部bの温度を決定するためには、フォトダイオード6に十分な受光量を必要していた。したがって、従来の焼鈍装置では、本実施形態のように先端部からスチールワイヤW1、W2の接合部bまでにわたる長さでガイド9を設けることができず、仮に設けた場合には、フォトダイオード6の受光量が十分でないため、焼鈍時の低温領域における温度決定が困難であった。
【0031】
このようなことから、従来の焼鈍装置におけるガイド9はフォトダイオード6の周囲の限られた範囲であり、これに起因して、フォトダイオード6はスチールワイヤW1、W2の接合部bのみならず、この接合部b周囲の光、例えばワイヤを接合する部屋の照明光をも検出していた。したがって、従来の焼鈍装置は、焼鈍の低温領域においてはワイヤの接合部のみから発せられる光のみを検出することができず、この点によっても温度の測定精度が十分でなかった。具体的には、接合作業をする部屋に照明が点灯している場合と点灯していない場合とでは、測定結果としての温度に10℃〜20℃程度の相違があった。これは、フォトダイオード6が照明光をも感知していることを意味している。
【0032】
これに対して本実施形態の焼鈍装置は、前述のとおり受光素子ガイド9を、フォトダイオード6の先端部からスチールワイヤW1、W2の接合部b近傍までにわたる長さで有していることから、受光素子ガイド9が照明光を遮蔽する役割を果たし、これによりフォトダイオード6が照明光を受光するのを防止し、よってスチールワイヤW1、W2の接合部bのみの光エネルギーを感知することができるので、より一層精度良く温度を測定することができる。フォトダイオード6及び受光素子ガイド9の先端部をスチールワイヤW1、W2の接合部bに近づけ過ぎるとフォトダイオード6に接合部bの熱が伝わってしまい、また、離し過ぎると測定精度が悪くなるので、受光素子ガイド9を近接させるスチールワイヤW1、W2の接合部bの「近傍」とは、フォトダイオード6に熱が伝わらずに測定精度が出る距離と定義される。
【0033】
また、本実施形態の焼鈍方法では、受光素子ガイド9を、フォトダイオード6の先端部からスチールワイヤW1、W2の接合部b近傍までにわたって延在させ、この受光素子ガイド9によりスチールワイヤの接合部以外から放射される光エネルギーを受光素子が受光するのを抑制する。かつ、フォトダイオード6の視野径を受光素子ガイド9の内径と同じ又はそれ以下にする。フォトダイオード6の視野径とは、フォトダイオードを用いた計測装置により調節可能な視野径のことであり、受光素子ガイド9の内径とは、筒形を有する受光素子ガイド9の接合部bに対向する端部における内径のことである。
【0034】
本実施形態の焼鈍方法は、先に述べた実施形態と同様に対数変換を行うことから、焼鈍時の低温領域の温度を正確に測定することができ、更には、スチールワイヤW1、W2の接合部の焼鈍を適切に実施することができるという、先に述べた実施形態と同様の効果を有する。また、前述のとおり受光素子ガイド9を、フォトダイオード6の先端部からスチールワイヤW1、W2の接合部b近傍までにわたって延在させていることから、受光素子ガイド9が照明光を遮蔽する役割を果たし、これによりフォトダイオード6が照明光を受光するのを防止し、よってスチールワイヤW1、W2の接合部bのみの光エネルギーを感知することができるので、より一層精度良く温度を測定することができる。更に、本実施形態の焼鈍方法は、フォトダイオード6の視野径を、筒状となっている受光素子ガイドの内径と同じ又はそれ以下にする。これにより従来の焼鈍方法と比較すると次の効果を有している。
【0035】
図4に本実施形態の方法におけるフォトダイオード6での光エネルギーの測定時の視野径d(図4(a))を、従来の焼鈍方法における視野径d100(図4(b))と比較して示す。本実施形態の方法では、視野径dを従来の視野径d100の五分の一程度まで小さくしている。図示したように本実施形態は視野径を従来よりも絞ることにより、スチールワイヤW1、W2の接合部bのみを検出することが可能となり、よって接合部bの温度を、よりいっそう正確に測定することができ、ひいては、より適切な焼鈍を行うことができる。また、スチールワイヤW1、W2のワイヤ径が従来よりも小さくなったことで、より線径の細いワイヤについて、ワイヤ接合部bの温度を正確に測定することが可能となり、その結果、より細い線径のワイヤの焼鈍温度の調節が可能となった。
【0036】
なお、視野径を小さくしない場合には、フォトダイオード6の先端部からスチールワイヤW1、W2の接合部b近傍までにわたって受光素子ガイド9を延在させていても、視野径に対する光の受光量が減ることから、低温部の測定が難しくなるという不利がある。よって、受光素子ガイド9の延在と視野径の絞り込みとの両方を実施することが好ましい。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
径:5〜6mmのスチールワイヤを突き合わせ溶接した後、焼鈍温度を873〜1273K、加熱時間を10〜30秒とする焼鈍を行った。この焼鈍の際に、図1に示す焼鈍装置を用いて、フォトダイオードからの電流信号を対数変換して電圧信号に変換することにより温度を測定しながら加熱したところ、加熱途中の873Kから温度測定が可能であった。この測定された温度を設定された加熱温度と対比して、この設定された加熱温度に一致するように温度調節を行ったところ、焼鈍を良好に実施できた。
【0038】
(実施例2)
図1に示す受光素子ガイドをフォトダイオード先端からワイヤ接合部までわたって設けた。受光素子ガイドの内径は3mmであった。これに合わせてフォトダイオードの視野径を実施例1の16mmから2〜3mmへと絞った。それ以外は実施例1と同様にして焼鈍を行った。この焼鈍では、実施例1と同様に加熱途中の873Kから温度測定が可能であった。また、加熱装置が設置された部屋の照明が点灯している場合と点灯していない場合とでは、温度測定結果としての温度の相違が0K〜10Kであり、受光素子ガイドを設けない場合と比べて僅かな相違であった。
【0039】
以上、本発明のスチールワイヤの焼鈍方法及び焼鈍方法を、実施形態を用いて具体的に説明したが、本発明はこれらの実施形態によって限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で幾多の変形が可能であることは、いうまでもない。
【符号の説明】
【0040】
1 焼鈍装置
2 クランプ
3 電源
4 温度調節装置
5 加熱ユニット
6 フォトダイオード
7 温度決定装置
8 温度測定ユニット
9 受光素子ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールワイヤの接合部の温度を測定しつつ加熱するスチールワイヤの焼鈍方法において、
前記接合部から放射される光エネルギーをこの接合部に向けて設けた受光素子で受光し、この受光素子から出力した信号を対数変換し、この対数変換された信号に基づいて決定した温度によりスチールワイヤの接合部の加熱温度を調節することを特徴とするスチールワイヤの焼鈍方法。
【請求項2】
前記受光素子からスチールワイヤの接合部近傍までわたって延在させた受光素子ガイドにより、スチールワイヤの接合部以外から放射される光エネルギーを受光素子が受光するのを抑制するとともに、この受光素子の視野径を受光素子ガイドの内径と同じ又はそれ以下にすることを特徴とする請求項1に記載のスチールワイヤの焼鈍方法。
【請求項3】
スチールワイヤの接合部の温度を測定する温度測定ユニットと、この接合部を加熱する加熱ユニットとを備え、
前記温度測定ユニットは、前記スチールワイヤの接合部に向かう受光素子と、前記接合部から放射される光エネルギーに基づいてこの受光素子から出力された信号を対数変換する変換回路と、を有し、
前記加熱ユニットは、前記変換回路により対数変換された信号に基づいて決定された温度により加熱温度を調節することを特徴とするスチールワイヤの焼鈍装置。
【請求項4】
前記受光素子からスチールワイヤの接合部近傍まで延びる受光素子ガイドを備えることを特徴とする請求項3に記載のスチールワイヤの焼鈍装置。
【請求項5】
前記受光素子がフォトダイオードであり、このフォトダイオードから出力される電流信号を電圧信号に変換する変換回路中に対数変換回路を有することを特徴とする請求項3又は4に記載のスチールワイヤの焼鈍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−196839(P2011−196839A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64285(P2010−64285)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】