説明

スチール・コード

【目的】心ワイヤの移動およびスチール・コードのばらけのいずれもを抑制する。
【構成】プリフォーマにおいて高低差を持って配置された複数のピンに沿わせて側ワイヤswを走行させることによって,側ワイヤswは螺旋状に型付けされる。回転応力調節装置では,撚線機において撚られるべき撚線の撚り方向と同じ方向に所定回数ねじられかつ所定回数ねじり戻されることによって,側ワイヤswに撚り方向と同じ方向の残留回転応力が付与される。心ワイヤcwおよび側ワイヤswは撚線機によって撚られることで,スチール・コードtwとなる。螺旋状型付けの型付率は70%以上100%未満とされ,残留回転応力は好ましくは2回以上4回以下とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,スチール・コード,特に,ゴム製品,合成樹脂製品等の補強部材として利用されるスチール・コードに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品または合成樹脂製品,たとえば,自動車用タイヤ,オートバイ用タイヤ等の耐久性を向上させるために,スチール・ワイヤ(スチール製のワイヤ単線)を複数本撚り合わせてつくられたスチール・コードが補強部材として用いられている。図9は自動車用タイヤの内部構造の一例を示している。自動車用タイヤ60は,カーカス層61,2つのベルト層62,63,およびトレッド層64が積層されて構成されており,ベルト層62,63のそれぞれに多数のスチール・コード65が埋設されている。
【0003】
ベルト層62,63中に埋設されるスチール・コード65は,たとえば,1本のスチール・ワイヤ心線(心ワイヤ)と,その周囲に位置する複数本のスチール・ワイヤ側線(側ワイヤ)とを撚り合わせてつくられる。
【0004】
スチール・コード65の中心を通っている心ワイヤがスチール・コード65の長手方向に動くと,スチール・コード65の先端から心ワイヤが飛び出してしまう。心ワイヤの移動は,心ワイヤが位置しなくなったスチール・コード65の部分に応力が集中してスチール・コード65が早期に破断する不具合や,飛び出した心ワイヤがベルト層から突き出し,隣接するゴム部材等の剥がれ(セパレーション)の不具合を起こすおそれがある。心ワイヤの移動を抑制することが肝要である。
【0005】
特許文献1には,心ワイヤの移動を防止するために,心ワイヤに波形の型付けを施すことが記載されている。しかしながら,心ワイヤに型付け加工を施すと,加工による心ワイヤの強度低下が避けられず,結果として,スチール・コードの単位質量当たりの切断強度が低下し,補強部材としての強度効率が下がってしまう。
【0006】
特許文献2には,心ワイヤの周囲に位置する側ワイヤの型付けの型付率を低く抑えることによって,心ワイヤの移動を抑制することが記載されている。型付率は,ワイヤ(素線)の型付けの大きさ(波高さ)の程度を表す。側ワイヤの型付率を低くすることによって側ワイヤが心ワイヤを押さえ込む力が比較的大きくなるので,心ワイヤの移動の抑制を図ることができる。しかしながら,側ワイヤの型付率を低くするとスチール・コードがばらけやすくなってしまう。特に,スチール・コードを埋設したゴム製シートをカットして上述のベルト層を形成するときに,カットされた部分(カット端)にスチール・コードのばらけが生じやすい。スチール・コードのばらけは,スチール・コードの強度低下やフレッティング摩耗の要因となる。
【特許文献1】特許第3040025号公報
【特許文献2】特許第3805007号公報
【発明の開示】
【0007】
この発明は,心ワイヤの移動,およびスチール・コードのばらけのいずれについても抑制されたスチール・コードを提供することを目的とする。
【0008】
この発明によるスチール・コードは,1本のスチール・ワイヤ心線(以下,心ワイヤという)と,上記スチール・ワイヤ心線の周囲に位置する複数本のスチール・ワイヤ側線(以下,側ワイヤという)が撚り合わされてつくられる。
【0009】
複数本の側ワイヤのそれぞれは,螺旋状に型付けられている。側ワイヤの螺旋状型付けは,心ワイヤの移動(スチール・コードの長手方向への心ワイヤの動き)を抑制する型付率を持つ。型付率とは,側ワイヤ(素線)の螺旋状型付けの大きさ(波高さ)の程度を表すもので,次式によって得られる数値を用いる。
【0010】
側ワイヤの型付率=H/D×100(%)
【0011】
ここでHは側ワイヤの螺旋状型付けの大きさ(波高さ)を,Dはスチール・コードの直径を示す。
【0012】
側ワイヤのそれぞれにはさらに,上記スチール・コードのばらけを抑制するための残留回転応力が上記スチール・コードの撚り方向と同じ方向に付与されている。側ワイヤの一端を固定して,側ワイヤの他端を開放したときの他端の回転数によって残留回転応力の大きさを表す。
【0013】
たとえば,所定位置に配置された複数のピンに沿わせて側ワイヤを走行させることによって,側ワイヤを型付けることができる。上記ピンの間隔または配置位置を調節することによって型付率は調節される。また,残留回転応力は,側ワイヤを所定方向に所定回数ねじりを入れ,かつ所定回数ねじり戻すことによって,側ワイヤに付与することができる。残留回転応力の方向はねじりを入れるときのねじり方向と同じ方向となる。側ワイヤのねじり回数(ねじるときのねじり速度)を調節することよって,残留回転応力の大きさは調節される。この残留回転応力の付与により,側ワイヤに対する型付けは螺旋状になる。
【0014】
心ワイヤと,螺旋状に型付けられかつ残留回転応力が付与された複数の側ワイヤを,側ワイヤの残留回転応力の方向と同じ方向に撚り合わせることによって,スチール・コードがつくられる。
【0015】
この発明によると,側ワイヤの螺旋状型付けの型付率を調整することによって心ワイヤの移動の抑制が図られる。そして,心ワイヤの移動を抑制するような型付率の採用に伴って生じやすくなるスチール・コードのばらけが,側ワイヤに付与されるスチール・コードの撚り方向と同じ方向の残留回転応力によって抑制される。このため,心ワイヤの移動,およびスチール・コードのばらけのいずれについても抑制が図られる。
【0016】
好ましくは,上記側ワイヤの螺旋状型付けの型付率が70%以上100%未満である。側ワイヤの螺旋状型付けの型付率を100%未満とすると,側ワイヤが心ワイヤを押さえ込む力が比較的大きくなるので,心ワイヤの移動の抑制を比較的確実に図ることができる。なお,型付率を70%以上とするのは,あまりに型付率を低くすると,残留回転応力を側ワイヤに付与してもスチール・コードのばらけを防ぐことができなくなることがあるので,これを防止するためである。
【0017】
さらに好ましくは,上記側ワイヤに付与されている残留回転応力が2回以上6回以下である。残留回転応力が2回以上であればスチール・コードのばらけが確実に抑制される。また,側ワイヤに付与されている残留回転応力が大きいと,側ワイヤの残留回転応力によってスチール・コード全体に回転応力が生じる(残存,残留する)ことがある。スチール・コード全体に回転応力が残存していると,スチール・コードを埋設したゴム製シート(このゴム製シートを切断することによって上述したベルト部材(図9)が形成される)が,スチール・コード全体の回転応力によって反ってしまい,ベルト部材の生産効率が悪くなることがある。側ワイヤに付与されている残留回転応力が6回以下であれば,側ワイヤに付与されている残留回転応力によってスチール・コード全体に回転応力が比較的残存しなくなるので,自動車タイヤ等のベルト部材の生産効率に影響を及ぼさないようにすることができる。
【0018】
より好ましくは,上記側ワイヤに付与されている残留回転応力を4回以下とする。残留回転応力が4回以下であれば,上記スチール・コード全体に回転応力が残存しなくなる確実性が増す。
【0019】
この発明はまた,スチール・コードを補強用に用いたゴムまたは合成樹脂製の複合体を提供する。
【0020】
この発明によるゴムまたは合成樹脂製の複合体は,ゴムまたは合成樹脂の中に上記のスチール・コードが埋め込まれているものである。
【0021】
上述したように,この発明によるスチール・コードは,心ワイヤの移動が抑制され,かつスチール・コードにばらけが生じにくいので,このスチール・コードをゴムまたは合成樹脂の中に埋め込むことにより,複合体の疲労強度を増大させることができる。
【実施例】
【0022】
(スチール・コード製造装置について)
図1はスチール・コードの製造装置の全体的な構成の一例を示している。図2はプリフォーマ(型付け機)の構成を,図3は回転応力調整装置の構成をそれぞれ示している。
【0023】
この実施例におけるスチール・コードの製造装置は,スチール製の1本の心ワイヤ(素線)(コア・ワイヤ)cwを中心にして,この心ワイヤcwと,心ワイヤcwの周囲に位置する5本のスチール製の側ワイヤ(素線)(シース・ワイヤ)swを撚りながら束ねるもので,いわゆる1+5構成のスチール・コード(撚線)をつくるものである。心ワイヤcwが巻回されたボビン41から心ワイヤcwが,側ワイヤswが巻回された5つのボビン42から5本の側ワイヤswが,それぞれ供給される。心ワイヤcwおよび側ワイヤswは,たとえば,100m/分程度の搬送速度でボビン41,42から繰り出される。
【0024】
ボビン41から繰り出された心ワイヤcwは直接に撚線機3に案内される。他方,5本の側ワイヤswのそれぞれは,ボビン42から繰り出された後,撚線機3に案内される前に,プリフォーマ1および回転応力調整装置2を通過する。
【0025】
図2を参照して,プリフォーマ1は,3つの回転自在の回転ピン1a〜1cが設けられた筒体10を含む。筒体10はフレーム(図示略)に固定的に設けられている。回転ピン1a〜1cは,所定の間隔をあけて配置され,回転ピン1bは,回転ピン1a,1cの間で変位自在に配置されている。これらの回転ピン1a,1b,1cのそれぞれに,側ワイヤswが掛けられている。側ワイヤswは回転ピン1a〜1c間をしごかれて通過する。さらに,後述する回転応力調整装置2によってプリフォーマ1から送り出された側ワイヤswはねじられる。これにより,側ワイヤswは螺旋状に型付けられる。
【0026】
側ワイヤswに付与される螺旋状型付けの程度は,型付率によって表すことができる。型付率は回転ピン1bの配置位置を異ならせることによって制御することができる。側ワイヤswの型付率についての詳細は後述する。
【0027】
プリフォーマ1から送り出された側ワイヤswは,回転応力調整装置2へ送られる。
【0028】
図3を参照して,回転応力調整装置2は,2つの溝(図示略)が並行にそれぞれに形成された回転自在の第1および第2のロール2a,2bが,間隔をあけて一直線上に配置された筒体20を備えている。側ワイヤswは,筒体20内において,第1のロール2aの側方を通過して第2のロール2bの第1の溝にかけられ,続いて第1のロール2aの第1の溝にかけられている。側ワイヤswは,第1のロール2aの第1の溝からさらに第2のロール2bの第2の溝,第1のロール2aの第2の溝にかけられ,第2のロール2bの側方を通過した後に,筒体20の外部に送り出される。
【0029】
回転応力調整装置2のフレーム(図示略)には,中空回転軸51が軸受52により回転自在に支持されている。中空回転軸51の一端に筒体20が固定され,回転軸51の他端にプーリ53が固定されている。プーリ53にかけられたベルト54が,モータ(図示略)によって駆動される。ベルト54を介して回転軸51および筒体20は回転する。回転応力調整装置2のそれぞれにモータを設けてモータのそれぞれを同期回転させてもよいし,1台のモータを,5台の回転応力調整装置2のそれぞれに共用してもよい。
【0030】
筒体20が回転すると,側ワイヤswは筒体20の入口側でねじられ,かつ出口側でそのねじりが戻される。筒体20を比較的高速に回転させることによって,側ワイヤswは弾性域(ねじりが完全に元に戻る程度のねじれ)を超えて塑性域(ねじりが完全に元に戻らない程度のねじれ)に達するまでねじりが入れられ,かつねじり戻される。これにより,側ワイヤswに残留回転応力が付与される。側ワイヤswの一端を固定した状態で他端を開放すると,残留回転応力によって側ワイヤswはねじりが入れられた方向に回転する。すなわち,筒体20の回転方向と,側ワイヤswに付与される残留回転応力の方向は一致する。残留回転応力の大きさは,側ワイヤswのねじり回数(筒体20の回転速度)を異ならせることによって調整することができる。なお,筒体20は,後述する撚線機3による撚り方向(フライヤの回転方向)と同一方向に回転し,したがって側ワイヤswに付与される残留回転応力の方向は,スチール・コード(撚線)の撚り方向と同一の方向となる。
【0031】
図1に戻って,プリフォーマ1および回転応力調整装置2によって螺旋状に型付けられ,かつ残留回転応力が付与された5本の側ワイヤswと,ボビン41から繰り出された心ワイヤcwとが,案内ローラ43を介して集合器44で集められる。束にされた心ワイヤcwおよび5本の側ワイヤswは,ボイス45を介して撚線機3に送られる。側ワイヤswは残留回転応力を残存させたままで撚線機3に送られる。
【0032】
撚線機3のフレーム(図示略)には,2つの中空回転軸17,18がそれぞれ軸受39,40により回転自在に支持されている。これらの中空回転軸17,18は,互いに離れて設けられており,かつ一直線上に配置されている。後述するように,中空回転軸17と18は同期して回転駆動される。
【0033】
中空回転軸17と18の内端部に,クレードル19が,その両端部において軸受24,25により回転自在に支持されている。中空回転軸17,18が回転しても,クレードル19はほぼ静止状態に保たれる。
【0034】
クレードル19には,スチール・コード(撚線)を巻取る巻取用ボビン23,スチール・コードを巻取る前にスチール・コードを安定させるためのキャプスタン21,スチール・コードをキャプスタン21からボビン23に案内する案内ローラ22,スチール・コード全体をねじり,かつねじり戻すことでスチール・コード全体の回転応力を調整するための回転応力調整装置26等が設けられている。
【0035】
中空回転軸17および18に,フライヤ取付部材13を介して弓形フライヤ11が固定されている。フライヤ11は中空回転軸17および18と一緒に回転する。フライヤ11にはスチール・コードを案内するためのガイドチップ12が複数設けられている。
【0036】
フレームにはさらに,駆動軸(通り軸)34を回転自在に支持する軸受35,および駆動モータ30が固定されている。駆動モータ30の出力軸に取付けられたプーリ31と駆動軸34に固定されたプーリ33との間にベルト32が掛けられている。駆動軸34の両端部にもプーリ36が取付けられている。さらに,回転軸17,18の外側端部にもプーリ37がそれぞれ固定され,これらのプーリ36と37との間にベルト38が掛けられている。したがって,中空回転軸17,18はモータ30によって同方向に同回転数で同期して回転し,これによりフライヤ11が回転する。フライヤ11の回転方向は,上述したように,回転応力調整装置2の回転方向と同方向である。
【0037】
束になった心ワイヤcwおよび5本の側ワイヤswは,一方の中空回転軸17内を通り,案内ローラ14,15を経て,フライヤ11のガイドチップ12に掛けられてフライヤ11に沿って案内され,案内ローラ16,中空回転軸18の内部を通り,応力調整装置26を経てキャプスタン21に巻付けられ,キャプスタン21から案内ローラ22を経て巻取用ボビン23に巻取られる。中空回転軸17,18,フライヤ11が回転することにより,心ワイヤcwおよび5本の側ワイヤswの束に撚りが加えられ,スチール・コード(撚線)twとなっていく。フライヤ11の回転方向と回転応力調整装置2の筒体20の回転方向は同方向であるので,側ワイヤswに付与されている残留回転応力の方向と,スチール・コードtwの撚り方向は一致する。なお,撚線機3に設けられている応力調整装置26は,上述のようにスチール・コードtw全体の回転応力を調整するためのもので,ここではスチール・コードtwの全体が塑性域に達するまでねじられ,かつねじり戻される。撚線機3に設けられている応力調整装置26は,上述した応力調整装置2(図3)と同様の構成を持つ。
【0038】
図4はスチール・コード製造装置によって製造される1+5構成のスチール・コードtwの斜視図を,図5はその拡大断面図をそれぞれ示している。側ワイヤswの数を変えることによって,スチール・コード製造装置は1+4構成のスチール・コード(図6(A))や1+6構成のスチール・コード(図6(B))の製造にも用いることができる。
【0039】
(評価試験について)
表1および表2は,1+5構成のスチール・コードtw(被試験体)の評価試験の結果を示すもので,表1は心ワイヤcwの直径が0.32mm,側ワイヤswの直径が0.37mmのスチール・コードtw(1×0.32+5×0.37)の評価試験の結果を,表2は,心ワイヤcwの直径が1mm,側ワイヤswの直径が0.25mmのスチール・コードtw(1+5×0.25)の評価試験の結果をそれぞれ示している。表1および表2には,それぞれ10個の被試験体(1)〜(10)についての評価試験結果が示されている。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
評価試験では,表1および表2に示すように,「側ワイヤの型付率」および「側ワイヤ残留回転応力」がそれぞれ異なるようにして,多数のスチール・コードtw(被試験体)を作製して(表1,表2では,上述のように,10個の被試験体(1)〜(10)の評価試験結果が示されている),各被試験体について側ワイヤの「ばらけ」と「心ワイヤの移動」の評価を行った。上述したように,側ワイヤswの型付率は,プリフォーマ1に設けられている回転ピン1b(図2参照)の配置位置を異ならせることによって調整され,側ワイヤswの残留回転応力は側ワイヤswのねじり回数(回転応力調整装置2の筒体20(図3参照)の回転速度)を異ならせることによって調整される。
【0043】
側ワイヤswの型付率は,次式によって算出される。
【0044】
側ワイヤswの型付率=H/D×100(%)
【0045】
ここで,Hは側ワイヤswの螺旋状型付けの大きさ(波高さ)であり,Dはスチール・コードtw(被試験体)の直径である。
【0046】
ここで,側ワイヤswの波高さHは,次のように測定した。
【0047】
作製したスチール・コードtw(被試験体)を適当な長さに切断し,側ワイヤswをほぐして素線とする。図7に示すように,投影機によって側ワイヤswを投影して側ワイヤswの投影像をスクリーン等に映し,螺旋状型付けの波の高さh1〜h4を4カ所計測する。この計測を被試験体を構成する5本の側ワイヤswのすべてについて行い,その平均値を被試験体の側ワイヤswの波高さHとする。
【0048】
スチール・コードtw(被試験体)の直径Dは,次式により得られる数値を用いた。
【0049】
スチール・コードtwの直径D=dc+2ds
【0050】
ここでdcは心ワイヤcwの直径,dsは側ワイヤswの直径である。
【0051】
側ワイヤswの残留回転応力は,次のように測定した。
【0052】
作製したスチール・コードtw(被試験体)を6mに切断し,スチール・コードtwの全体を撚り方向と逆の方向に回転させながら,残留回転応力が開放されないように注意して(側ワイヤsw自体が回転しないようにして),側ワイヤswを分離する。分離された側ワイヤswの一端を固定して,側ワイヤswの他端を開放すると,側ワイヤswは残留回転応力によって撚り方向と同じ方向に回転する。側ワイヤswの他端の回転数(静止するに至るまでの回転数)を,1/4回転単位で測定する。この測定を被試験体を構成する5本の側ワイヤswのすべてについて行い,その平均値を被試験体の側ワイヤswの残留回転応力(単位:回)とする。
【0053】
なお,評価試験では,スチール・コードtw(被試験体)の全体についても,残留回転応力を測定している。
【0054】
被試験体のそれぞれについての側ワイヤの「ばらけ」の評価および「心ワイヤの移動」の評価は,次のようにして行った。
【0055】
まず側ワイヤのばらけの評価について説明する。側ワイヤのばらけの評価では,次のようにして,A判定からD判定の4段階の評価を行った。
【0056】
スチール・コード(被試験体)を用意し,切断すべき箇所から50mm離れた部位を手でもち,切断箇所をペンチで切断する。
(1)切断時にばらけが生じない場合
切断時にばらけが生じなかった場合には,さらに切断箇所に軽い衝撃を加える(ペンチで叩く,机に打ち付ける等)。切断箇所を変えて,この切断および衝撃を3回繰り返す。
(1−1)3回連続でばらけが生じなかった場合はA判定とする。
(1−2)軽い衝撃を加えることによって3回のうちで1回でもばらけが生じた場合には,切断箇所を変えて切断のみを3回繰り返す(衝撃は加えない)。3回連続でばらけが生じなかった場合はB判定とする。
(2)切断時にばらけが生じた,または上記(1−2)で1回でもばらけが生じた場合
この場合には,切断箇所のすぐ近くを手でもち,ペンチで切断した後,切断箇所の近くを持っている手を静かに離す。切断箇所を変えてこの切断を3回繰り返す。
(2−1)3回のうち,1回でもばらけが生じなかった場合はC判定とする。
(2−2)3回連続でばらけが生じた場合はD判定とする。
【0057】
「心ワイヤの移動」の評価では,次のようにして,心ワイヤの移動「あり」,または心ワイヤの移動「なし」を評価した。
【0058】
数m程度のスチール・コードtw(被試験体)を,たとえば直径が150mm程度のコイル状にしたもの(複数回巻かれたもの)を用意する。コイル状のスチール・コードtwを両手で持ち,変形(たとえば,両手を近づけたり,離したりする)を繰り返す。
【0059】
(1)複数回の変形を加えてもスチール・コードtwの端部から心ワイヤcwが飛び出さなかった場合,心ワイヤの移動は「なし」と評価する。
【0060】
(2)スチール・コードtwの端部から心ワイヤcwが飛び出した場合,心ワイヤの移動は「あり」と評価する。
【0061】
図8は,横軸を側ワイヤの型付率,縦軸を側ワイヤの残留回転応力とした座標軸上に,表1および表2に基づく測定試験の結果をプロットしたものである。黒丸が表1の測定結果を,白丸が表2の測定結果をそれぞれ示している。また,各プロット点の近傍には,表1および表2に示す被試験体の番号((1)〜(10)の番号)を示している。
【0062】
(i) 型付率が100%を超えると,心ワイヤcwが移動が生じた(被試験体(8))。型付率が100%未満であれば,心ワイヤcwの移動が生じることがなかった。
【0063】
(ii)型付率が70%よりも小さいとばらけの評価がD判定となった(被試験体(7))。型付率が70%以上であれば,後述するように,残留回転応力が2回以上であるときに,ばらけの評価はA判定またはB判定であった。
【0064】
(iii) 側ワイヤswの残留回転応力が1回よりも小さいと,型付率が85%程度であってもばらけの評価がD判定となった(被試験体(9))。残留回転応力が2回以上であり,かつ型付率が70%以上であれば,ばらけの評価はA判定またはB判定であった。
【0065】
(iv)側ワイヤswの残留回転応力が6回より大きいとき,スチール・コードtw(被試験体)全体に回転応力が残存していることがあった(表1および表2の被試験体(10))。これは,側ワイヤswの残留回転応力が大きいために,側ワイヤswの残留回転応力がスチール・コードtw全体の回転応力に影響を及ぼしたものである。スチール・コードtw全体に回転応力が残存していると,スチール・コードtwを埋設したゴム製シートが回転応力によって反ってしまい,自動車タイヤ等に用いられるスチール・コードtwを埋設したベルト部材(図9参照)の生産効率が悪くなってしまう。
【0066】
測定試験の結果によると,側ワイヤswの型付率を70%以上100%未満とし,かつ側ワイヤswの残留回転応力を2回以上とすることによって,心ワイヤcwの移動が生じず,かつばらけについても抑制が図られる(A判定またはB判定)ことが分かった。また,側ワイヤswの残留回転応力を6回以下にすることによって,スチール・コードtw全体に回転応力がほぼ残存することがないことが分かった。
【0067】
また,測定試験の結果によると,側ワイヤswの残留回転応力を4回以下に抑えておけば,確実にスチール・コードtwの全体に回転応力が残存しないようにすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】スチール・コード製造装置の全体的な構造を示す。
【図2】プリフォーマの構造を示す。
【図3】回転応力調整装置の構造を示す。
【図4】1+5構成のスチール・コードの斜視図を示す。
【図5】1+5構成のスチール・コードの拡大断面図を示す。
【図6】(A)は1+4構成のスチール・コードの拡大断面図を,(B)は1+6構成のスチール・コードの拡大断面図を示す。
【図7】側ワイヤの波高さの測定の様子を示す。
【図8】評価試験の結果を示すグラフである。
【図9】自動車用タイヤの構造を示す。
【符号の説明】
【0069】
1 プリフォーマ
1a,1b,1c 回転ピン
2 回転応力調整装置
2a,2b ロール
3 撚線機
cw スチール・ワイヤ心線(心ワイヤ)
sw スチール・ワイヤ側線(側ワイヤ)
tw スチール・コード(撚線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本のスチール・ワイヤ心線と,上記スチール・ワイヤ心線の周囲に位置する複数本のスチール・ワイヤ側線が撚り合わされているスチール・コードにおいて,
上記スチール・ワイヤ側線のそれぞれが,上記スチール・ワイヤ心線の移動を抑制する型付率を持つように螺旋状に型付けられており,
上記スチール・ワイヤ側線のそれぞれに,上記スチール・コードのばらけを抑制するための残留回転応力が,上記スチール・コードの撚り方向と同じ方向に付与されている,
スチール・コード。
【請求項2】
上記スチール・ワイヤ側線に付与されている残留回転応力は,上記スチール・コード全体の回転応力に影響を与えない程度に抑えられている,
請求項1に記載のスチール・コード。
【請求項3】
上記スチール・ワイヤ側線の螺旋状型付けの型付率が70%以上100%未満である,
請求項1または2に記載のスチール・コード。
【請求項4】
上記スチール・ワイヤ側線に付与されている残留回転応力が2回以上6回以下である,請求項1から3のいずれか一項に記載のスチール・コード。
【請求項5】
上記スチール・ワイヤ側線に付与されている残留回転応力が4回以下である,請求項4に記載のスチール・コード。
【請求項6】
ゴムまたは合成樹脂の中に上記請求項1から5のいずれか一項に記載のスチール・コードが埋め込まれている,上記スチール・コードとゴムまたは合成樹脂の複合体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate