説明

ステアリングギヤボックス中立点検出治具

【課題】ステアリングギヤボックスの中立点を容易に検出することが可能なステアリングギヤボックス中立点検出治具を提供する。
【解決手段】ステアリングホイール4に装着され、ステアリングギヤボックス3の中立点を検出するためのステアリングギヤボックス中立点検出治具10であって、ステアリングギヤボックス中立点検出治具10がステアリングホイール4に装着された状態で、ステアリングホイール4の回動軸と同一軸線上に配置され、当該軸線回りに回動可能なダイヤルゲージ14と、ステアリングホイール4に形成された一対の装着穴4a・4aにそれぞれ挿入されることにより当該ステアリングホイール4に係合することが可能な一対のピン12・12と、一対のピン12・12の間の距離を変更することが可能な間隔調整機構13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングギヤボックスの中立位置(中立点)を検出するためのステアリングギヤボックス中立点検出治具の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図8に示すように、車両1の組立工程の途中で、当該車両1をハンガー5によって吊り上げた場合、タイヤ(特に前輪2・2)がフリー状態になり、当該車両1をコンベア6上に着地させた際に前輪2・2が動き、ステアリングギヤボックス3の中立位置(中立点)がずれてしまう、すなわち、ステアリングギヤボックス3のラックギヤ3aに対するピニオンギヤ3bの相対位置が中立点からずれてしまうことがあった。
【0003】
図9(a)に示すように、ステアリングギヤボックス3の中立点がずれた状態でステアリングホイール4を取り付けると、車両1が走行した際(図9(b)参照)に、タイヤ(前輪2・2)に直進性復元力が生じ、当該前輪2・2が真っ直ぐ前を向くため、ステアリングホイール4は前輪2・2の動きに連動して傾いてしまう。
【0004】
このようにステアリングギヤボックス3の中立点を確実に把握しない状態でステアリングホイール4を取り付け、車両1を走行させたり設備(アライメントテスター)へ搬入したりすると、前輪2・2の向きを把握し難いため、当該車両1の操縦性が悪くなるおそれがある。
【0005】
また、ステアリングギヤボックス3の中立点を知らない第三者が当該車両1を移動させる場合、ステアリングホイール4の操作(すなわち、車両1の操向操作)を誤るおそれがある。
【0006】
そこで、ステアリングギヤボックスの中立点を検出する技術が公知となっている。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0007】
特許文献1に記載の技術は、ステアリングギヤボックスを試験用治具によって回転させて中立位置を求め、この中立位置を崩さぬようにしてステアリングギヤボックスへステアリングホイールを連接するものである。
【0008】
しかし、特許文献1に記載の技術では、ステアリングギヤボックスに治具を装着させる必要があるので、作業性が悪い点で不利であった。また、試験用油圧装置が必要であり、当該試験用油圧装置撤去時にピニオンギヤが回転してステアリングギヤボックスの中立点が移動する(ずれる)おそれがある点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平01−114571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、ステアリングギヤボックスの中立点を容易に検出することが可能なステアリングギヤボックス中立点検出治具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0012】
即ち、請求項1においては、ステアリングホイールに装着され、ステアリングギヤボックスの中立点を検出するためのステアリングギヤボックス中立点検出治具であって、前記ステアリングギヤボックス中立点検出治具が前記ステアリングホイールに装着された状態で、前記ステアリングホイールの回動軸と同一軸線上に配置され、当該軸線回りに回動可能なダイヤルゲージを備えるものである。
【0013】
また、請求項2においては、前記ステアリングギヤボックス中立点検出治具は、前記ステアリングホイールに形成された一対の穴にそれぞれ挿入されることにより当該ステアリングホイールに係合することが可能な一対のピンと、前記一対のピンの間の距離を変更することが可能な間隔調整機構とを備え、前記間隔調整機構により前記一対のピンの間の距離を調整しつつ、前記一対のピンを前記ステアリングホイールの一対の穴に係合させることで、前記ステアリングホイールに装着されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
本発明によれば、ステアリングギヤボックスの中立点を容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ステアリングギヤボックス中立点検出治具を示す図、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図。
【図2】ステアリングギヤボックス中立点検出治具を示す図、(a)は背面図、(b)はステアリングギヤボックスの内部構造を示す背面図。
【図3】ステアリングホイールを示す正面図、(a)はステアリングギヤボックス中立点検出治具を装着する前の図、(b)はステアリングギヤボックス中立点検出治具を装着した状態の図。
【図4】ステアリングギヤボックス中立点検出治具のピンの間隔を調整する様子を示す図。
【図5】ステアリングギヤボックス中立点検出治具の様子を示す図、(a)はステアリングホイールをロックするまで回した状態を示す図、(b)はダイヤルゲージの目盛りを調整した状態を示す図。
【図6】ダイヤルゲージの目盛りが所定の位置にくるまでステアリングホイールを回した状態を示す図。
【図7】ステアリングホイールを水平な状態にして差し替えた状態を示す図。
【図8】従来の車両の組立工程において、ステアリングギヤボックスの中立点がずれる様子を示した図。
【図9】ステアリングギヤボックスの中立点がずれた状態でステアリングホイールを取り付けた場合を示した図、(a)はステアリングホイールを取り付けた直後を示した図、(b)は車両を前進させて前輪が前を向いた状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図1及び図2を用いて、本発明の一実施形態に係るステアリングギヤボックス中立点検出治具10(以下では、単に「中立点検出治具10」と記す)について説明する。
なお、図2(b)においては、後述する本体部11の一部の図示を省略している。
【0018】
図1及び図2に示す中立点検出治具10は、ステアリングギヤボックス3(図8及び図9参照)の中立点を検出するためのものである。中立点検出治具10は、主として本体部11、ピン12・12、間隔調整機構13及びダイヤルゲージ14等を具備する。
【0019】
本体部11は、複数の板状部材を組み合わせるなどして形成される略直方体箱状の部材である。本体部11には、ガイド孔11a・11aが形成される。
【0020】
ガイド孔11a・11aは、本体部11の背面に、当該本体部11の長手方向に沿って並べて形成される。ガイド孔11a・11aは長孔となるように形成され、当該ガイド孔11a・11aの長手方向は、本体部11の長手方向と同一方向に向けられる。
【0021】
ピン12・12は、略円柱形状の部材である。ピン12・12は、本体部11のガイド孔11a・11aにそれぞれ挿通され、当該ガイド孔11a・11aを介して本体部11の背面から突出するように配置される。
【0022】
間隔調整機構13は、一対のピン12・12の間の距離を変更するためのものである。間隔調整機構13は、主としてピン支持部13a・13a、ガイド軸13b・13b、押圧部13c・13c及びスプリング13d・13dを具備する。
【0023】
図2(b)に示すピン支持部13a・13aは、一対のピン12・12をそれぞれ支持するものであり、略直方体箱状の部材である。ピン支持部13a・13aは、本体部11内において、それぞれ本体部11の長手方向両端部に配置される。ピン支持部13a・13aには、それぞれピン支持穴13e・13eが形成される。
【0024】
ピン支持穴13e・13eは、ピン12・12の直径と略同一の直径を有するように、ピン支持部13a・13aの背面に形成される。当該ピン支持穴13e・13eに、それぞれピン12・12が挿通されることにより、当該ピン12・12がピン支持部13a・13aに支持されることになる。
【0025】
ガイド軸13b・13bは、略円柱形状の部材である。ガイド軸13b・13bは、本体部11内において、当該本体部11の長手方向と平行になるように配置される。当該ガイド軸13b・13bには、ピン支持部13a・13aが摺動可能となるように支持される。これによって、ピン支持部13a・13aは、ガイド軸13b・13bの長手方向(すなわち、本体部11の長手方向)に沿って摺動可能となる。
【0026】
図1及び図2に示す押圧部13c・13cは、それぞれ本体部11の側面を貫通するように配置され、当該押圧部13c・13cの一端部は本体部11の側面から突出するように配置される。押圧部13c・13cの他端部は、本体部11内においてピン支持部13a・13aにそれぞれ固定される。
【0027】
図2(b)に示すスプリング13d・13dは、それぞれ本体部11内において、ピン支持部13a・13aの内側に配置され、当該ピン支持部13a・13aを外側(本体部11の側面側)に向かって常時付勢する。
【0028】
図1及び図2に示すダイヤルゲージ14は、本体部11の正面中央に配置される。本実施形態に係るダイヤルゲージ14には、複数の数字(本実施形態においては「0」から「15」までの数字(目盛り))が等間隔に刻まれている。ダイヤルゲージ14は、本体部11に対して回転可能に構成されている。
【0029】
以下では、図3から図7までを用いて、中立点検出治具10を用いたステアリングギヤボックス3の中立点の検出方法について説明する。
【0030】
図3(a)に示すように、ステアリングホイール4の中央部には、当該ステアリングホイール4の回動軸(ステアリングメインシャフト(不図示))を挟むように一対の装着穴4a・4a(特殊工具用の穴)が形成されている。
【0031】
まず、ステアリングホイール4の装着穴4a・4aに、中立点検出治具10のピン12・12をそれぞれ挿入して係合させることで、当該ステアリングホイール4に中立点検出治具10を装着する(図3(b)参照)。
【0032】
この際、図4に示すように、中立点検出治具10の押圧部13c・13cを外側から内側へと押し込むことで、一対のピン12・12の間の距離(間隔)を狭めることができる。このようにして、当該一対のピン12・12の間隔を、ステアリングホイール4の装着穴4a・4aの間隔と同一となるように調整しつつ、一対のピン12・12をステアリングホイール4の一対の装着穴4a・4aに係合させることで、中立点検出治具10をステアリングホイール4へと装着することが可能となる。
中立点検出治具10をステアリングホイール4に装着した際には、当該ステアリングホイール4の回動軸(ステアリングメインシャフト)の軸線と同一軸線上にダイヤルゲージ14の回動軸が位置することになる。
【0033】
次に、ステアリングホイール4を反時計回り(時計回りでも良いが、目盛りの振り方が反対になる)に回し、当該ステアリングホイール4がロックしたところ(回動しなくなったところ)で保持する(図5(a)参照)。
【0034】
次に、中立点検出治具10のダイヤルゲージ14を回し、ダイヤルゲージ14に刻まれている「0」の数字が真上に位置するように調整する(図5(b)参照)。
【0035】
次に、ステアリングホイール4を時計回りに1回転半ほど回し(ステアリングギヤボックス3が中立点付近にある状態となるまで回し)、あらかじめ設定した値の数字(本実施形態においては、「10」)が真上に位置するようにステアリングホイール4の回動位置を調整する(図6参照)。このように、あらかじめ設定した値の数字が真上に位置するようにステアリングホイール4の回動位置を調整することで、ステアリングギヤボックス3が中立点にある状態となる。
【0036】
この時点で、ステアリングホイール4が左右どちらかに傾いている場合(図6においては、左(反時計回り)に傾いている)、当該ステアリングホイール4をステアリングメインシャフト(不図示)から抜き、ステアリングホイール4を水平な状態にして、当該ステアリングメインシャフトに差し替える(図7参照)。
【0037】
このようにして、ステアリングギヤボックス3が中立点にある状態で、ステアリングホイール4を水平に取り付けることができる。すなわち、ステアリングギヤボックス3の中立点を検出することができる。
【0038】
なお、本実施形態においては、あらかじめ設定した値の数字を「10」としたが、この値は各車種の切角規格値などを参考に決められるものである。
つまり、前記「あらかじめ設定した値の数字」としては、反時計回りに回り切るまで回したステアリングホイール4に装着されたダイヤルゲージ14を「0」の数字が真上に位置するように調整した後に、ステアリングホイール4をステアリングギヤボックス3が中立点にある状態となるまで時計回りに回した際に、真上に位置することとなるダイヤルゲージ14の数字があらかじめ設定される。
【0039】
以上の如く、本実施形態に係る中立点検出治具10は、ステアリングホイール4に装着され、ステアリングギヤボックス3の中立点を検出するためのステアリングギヤボックス中立点検出治具10であって、ステアリングギヤボックス中立点検出治具10がステアリングホイール4に装着された状態で、ステアリングホイール4の回動軸と同一軸線上に配置され、当該軸線回りに回動可能なダイヤルゲージ14を備えるものである。
【0040】
また、中立点検出治具10は、ステアリングホイール4に形成された一対の装着穴4a・4a(穴)にそれぞれ挿入されることにより当該ステアリングホイール4に係合することが可能な一対のピン12・12と、一対のピン12・12の間の距離を変更することが可能な間隔調整機構13と、を備え、間隔調整機構13により一対のピン12・12の間の距離を調整しつつ、一対のピン12・12をステアリングホイール4の一対の装着穴4a・4aに係合させることで、ステアリングホイール4に装着されるものである。
【0041】
このように構成することにより、ステアリングギヤボックス3の中立点を容易に検出することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 車両
3 ステアリングギヤボックス
4 ステアリングホイール
10 ステアリングギヤボックス中立点検出治具
12 ピン
13 間隔調整機構
14 ダイヤルゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールに装着され、ステアリングギヤボックスの中立点を検出するためのステアリングギヤボックス中立点検出治具であって、
前記ステアリングギヤボックス中立点検出治具が前記ステアリングホイールに装着された状態で、前記ステアリングホイールの回動軸と同一軸線上に配置され、当該軸線回りに回動可能なダイヤルゲージを備える、
ステアリングギヤボックス中立点検出治具。
【請求項2】
前記ステアリングギヤボックス中立点検出治具は、
前記ステアリングホイールに形成された一対の穴にそれぞれ挿入されることにより当該ステアリングホイールに係合することが可能な一対のピンと、
前記一対のピンの間の距離を変更することが可能な間隔調整機構と、を備え、
前記間隔調整機構により前記一対のピンの間の距離を調整しつつ、前記一対のピンを前記ステアリングホイールの一対の穴に係合させることで、前記ステアリングホイールに装着される、
請求項1に記載のステアリングギヤボックス中立点検出治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−113586(P2013−113586A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256868(P2011−256868)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】