説明

ステアリングコラム装置

【課題】二次衝突時のステアリングコラムの舞い上がりを防止しつつ、ステアリングホイールの上下位置に拘わらず、このステアリングコラムと調節レバーの先端部との距離を同じとする事ができる構造を実現する。
【解決手段】調節レバー18bの基端部に設けた係止腕40の先端部を、支持板部23aに設けた係止片41の係止凹溝42に係合させる事により、調節レバー18bを回動後の位置に保持する。この係止凹溝42の形成方向は、ステアリングホイールの上下位置を上方とした時には、この係止凹溝42の上端部と係止腕40の先端部とを係合させ、同じく下方とした場合には、この係止凹溝42の下端部と係止腕40の先端部とを係合させる方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングホイールの上下位置を調節する為のステアリングコラム装置の改良に関する。具体的には、二次衝突時のステアリングコラムの舞い上がりを防止する構造に於いて、ステアリングホイールの上下位置に拘わらず、ステアリングコラムと調節レバーの先端部との距離を同じとする事ができる構造を実現するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の操舵装置は、図15に示す様に構成して、ステアリングホイール1の回転をステアリングギヤユニット2の入力軸3に伝達し、この入力軸3の回転に伴って左右1対のタイロッド4、4を押し引きして、前車輪に舵角を付与する様にしている。前記ステアリングホイール1は、ステアリングシャフト5の後端部に支持固定されており、このステアリングシャフト5は、円筒状のステアリングコラム6を軸方向に挿通した状態で、このステアリングコラム6に回転自在に支持されている。又、前記ステアリングシャフト5の前端部は、自在継手7を介して中間シャフト8の後端部に接続し、この中間シャフト8の前端部を、別の自在継手9を介して、前記入力軸3に接続している。
【0003】
この様な操舵装置で、運転者の体格や運転姿勢に応じて、前記ステアリングホイール1の上下位置を調節する為のチルト機構や、前後位置を調節する為のテレスコピック機構が、従来から広く知られている。このうちのチルト機構を構成する為に、前記ステアリングコラム6を車体10に対して、幅方向(幅方向とは、車体の幅方向を言い、左右方向と一致する。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)に設置した枢軸11を中心とする揺動変位を可能に支持している。又、前記ステアリングコラム6の後端寄り部分に固定した変位ブラケットを、前記車体10に支持した支持ブラケット12に対して、上下方向及び前後方向(前後方向とは、車体の前後方向を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)の変位を可能に支持している。このうち、前後方向の変位を可能とするテレスコピック機構を構成する為に、前記ステアリングコラム6を、アウタコラム13とインナコラム14とをテレスコープ状に伸縮自在に組み合わせた構造とし、前記ステアリングシャフト5を、アウタシャフト15とインナシャフト16とを、スプライン係合等により、トルク伝達自在に、且つ、伸縮自在に組み合わせた構造としている。
尚、図示の例は、電動モータ17を補助動力源として前記ステアリングホイール1を操作する為に要する力の低減を図る、電動式パワーステアリング装置も組み込んでいる。
【0004】
チルト機構やテレスコピック機構の場合、電動式のものを除き、調節レバーの操作に基づいて、前記ステアリングホイール1の位置を調節可能な状態としたり、調節後の位置に固定できる様にしている。例えば特許文献1には、図16〜17に示す様な、調節レバー18による調節ロッド19の回転に基づいて、カム装置20の軸方向寸法を拡縮させると同時にカム部材21を揺動変位させる構造が記載されている。又、調節レバーにより軸方向寸法を拡縮するカム装置に関しては、例えば特許文献2に記載される等により従来から広く知られている。図16〜17に示した従来構造の場合、前記カム装置20の拡縮に基づき、アウタコラム13aに固定した変位ブラケット22の、支持ブラケット12aに対する係脱を行わせる。又、前記カム部材21の揺動変位に基づき、インナコラム14aの前記アウタコラム13aに対する摺動の可否を切り換える。
【0005】
前記調節ロッド19は、前記支持ブラケット12aを構成する左右1対の支持板部23、23に形成した上下方向長孔24、24と、前記変位ブラケット22に形成した前後方向長孔25、25とを、幅方向に挿通している。アウタシャフト15aとインナシャフト16aとから成るステアリングシャフト5aの後端部に支持固定したステアリングホイール1(図15参照)の上下位置又は前後位置を調節する際には、前記調節レバー18を所定方向(一般的には下方)に揺動させて、前記カム装置20の軸方向寸法を縮めると共に、前記カム部材21を前記インナコラム14aの外周面から離隔させる。このうちのカム装置20は、上下方向長孔24、24に沿った変位、及び、自身の中心軸回りの回転を可能とした前記調節ロッド19の軸方向端部(図17の左端部)に、この調節ロッド19に対する相対回転及び軸方向変位共に阻止した状態で支持固定された駆動側カム26と、この調節ロッド19の軸方向中間部にこの調節ロッド19に対する相対回転及び軸方向変位共に可能に支持された、被駆動側カム27とを備える。或いは、図18に示した構造の様に、カム装置20aを、駆動側カム26aを、上下方向長孔24、24に沿った変位のみを可能とした(回転を阻止した)調節ロッド19aに、この調節ロッド19aに対する相対回転を可能、且つ、軸方向変位を阻止した状態で支持し、被駆動側カム27aをこの調節ロッド19aに対する相対回転を抑えた状態で、且つ、軸方向変位を可能に支持する構造とする事もできる。何れの構造に於いても、ステアリングホイール1の上下位置又は前後位置を調節する場合には、前記調節レバー18を所定方向に回動させる事により、図19の(A)に示す様に、前記駆動側カム26(26a)に設けた凸部28と、前記被駆動側カム27(27a)に設けた凹部29とを係合させ、前記カム装置20の軸方向寸法を縮める。この状態で、前記調節ロッド19(19a)が、前記両上下方向長孔24、24及び前記両前後方向長孔25、25内で変位できる範囲で、アウタコラム13aを変位させる。そして、このアウタコラム13a内に回転自在に支持されたステアリングシャフト5aの後端部に支持固定された、前記ステアリングホイール1の位置を調節する。このステアリングホイール1を所望の位置に移動させた後、前記調節レバー18を前記所定方向とは逆方向に揺動させて、図19の(B)に示す様に、前記駆動側カム26(26a)に設けた凸部28を、前記被駆動側カム27(27a)に設けた段差部30と係合させ、前記カム装置20(20a)の軸方向寸法を拡張する。又、図16〜17に示した構造の場合には、同時に、前記カム部材21により前記インナコラム14aの外周面を抑え付ける。これに対して、図18に示した構造の場合には、アウタコラム13aの内径を縮める。この結果、何れの構造の場合でも、前記ステアリングホイール1が調節後の位置に保持される。
【0006】
又、車両の衝突事故の際等に、運転者がステアリングホイールに衝突する二次衝突に伴う衝撃からこの運転者を保護する機構を備えた構造が、例えば図20に示す様に、従来から知られている。この図20に示す構造の場合、二次衝突時に、ステアリングシャフト5b及びステアリングコラム6aの全長が縮む事により、この二次衝突による衝撃を緩和する。具体的には、これら両部材5b、6aの全長が縮むと同時に、アウタコラム13aを支持する支持ブラケット12bが、車体10(図15参照)から前方に離脱して、前記ステアリングコラム6aの全長が縮む事を許容する。
【0007】
上述の図20に示した構造の場合、前記ステアリングコラム6aの中心軸に直交する仮想平面イに対する上下方向長孔24aの傾斜角度をαとした場合に、この傾斜角度αが、前後方向ロに対する前記ステアリングコラム6aの中心軸の傾斜角度(車体に対する取付角度)βよりも小さい(α<β)。
【0008】
この様に、前記両上下方向長孔24aの傾斜角度αが、前記ステアリングコラム6aの取付角度βよりも小さい場合には、前述した様な二次衝突の際に、調節ロッド19bと前記両上下方向長孔24aとの係合により、前記ステアリングコラム6aが、これら両上下方向長孔24aに沿って上方に変位する可能性がある。即ち、二次衝突に伴う衝撃荷重によって、前記ステアリングコラム6aの中心軸に直交する方向の分力が発生する。前記取付角度βが前記傾斜角度αよりも大きい場合には、この分力が大きくなって、前記調節ロッド19bとカム装置20、20a(図16〜18参照)とによる締め付け力よりも大きな力が作用した場合に、この調節ロッド19bが前記両上下方向長孔24aに沿って上方に変位し、前記ステアリングコラム6aが上方に変位する(舞い上がる)可能性がある。
【0009】
この様に、ステアリングコラム6aが上方に変位した場合には、例えば、前記ステアリングホイール1に設置したエアバッグと運転者との衝突位置が正規の位置からずれて、このエアバッグによる衝撃軽減効果が十分に得られない可能性がある。特に、小柄な運転者の場合、その頭部を前記エアバッグにより支えられない可能性がある。又、二次衝突時に作用する力が、前記ステアリングコラム6aの全長が縮む方向に効率良く伝達されず、このステアリングコラム6aの全長が縮む事による衝撃吸収を、円滑に行えなくなる可能性がある。
【0010】
二次衝突時のステアリングコラムの舞い上がりを防止する為の技術として、特許文献3には、例えば図21に示す様に、ステアリングホイール1(図15参照)の上下位置に拘わらず、ステアリングコラム6bの中心軸に直交する仮想平面イに対する上下方向長孔24bの傾斜角度αを、前後方向ロに対する前記ステアリングコラム6bの中心軸の傾斜角度βよりも大きくする(α>β)技術が記載されている。尚、図21に示す構造では、前記ステアリングコラム6bと共に昇降する部分の重量は、車体10(図15参照)に対し固定の部分である支持ブラケット12cと、前記ステアリングコラム6bの前端部に支持固定され、このステアリングコラム6bと共に揺動し、前端部に枢軸11(図15参照)を挿通する為の透孔31を設けたハウジング32との間に設置された、釣合ばね33により支承している。この為、前記ステアリングホイール1の位置の調節時にも、運転者が前記重量全部を支える必要はない。又、二次衝突時にアウタコラム13bと共に前方に変位する支持ブラケット12cと、二次衝突時にも前方に変位しない係止カプセル34との間に、エネルギ吸収部材35を設けている。この様な釣合ばね33及びエネルギ吸収部材35は、従来から広く知られており、且つ、本発明の要旨とは関係しない為、詳細な説明は省略する。
【0011】
但し、前記特許文献3に記載の構造の場合にも、次の様な問題が生じる可能性がある。即ち、前記ステアリングホイール1の上下位置又は前後位置を調節可能な状態と、同じく保持した状態とは、前述した様なカム装置20、20a(図17〜18参照)の軸方向寸法を拡縮する事により切り換える。このカム装置20、20aの駆動側カム26、26aと被駆動側カム27、27aとのうち、一方の部材は調節ロッド19bに対する相対回転可能に支持され、他方の部材は相対回転不能に支持されている。そして、何れの構造の場合も、被駆動側カム27、27aは、上下方向長孔24bに対し、この上下方向長孔24bに沿った変位のみを可能に係合している。この為、前記ステアリングホイール1の上下位置を上方とした場合{図22の(A)}には、前記図19に一点鎖線xで示す様に、前記駆動側カム26(26a)に対する被駆動側カム27(27a)の位相がずれ、前記ステアリングホイール1を調節後の位置に保持すべく、前記調節レバー18aを回動させて、前記駆動側カム26(26a)の凸部28と前記被駆動側カム27(27a)のストッパ面39とを当接させ、前記調節レバー18aがそれ以上回動しなくなるまでの回動量が少なくなり(回動可能角度が小さくなり)、この調節レバー18aの先端部と前記ステアリングコラム6bとの距離Dが大きくなる。一方、前記ステアリングホイール1の上下位置を下方とした場合{図22の(B)}には、前記図19に二点鎖線yで示す様に、前記駆動側カム26(26a)に対する被駆動側カム27(27a)の位相がずれ、前記調節レバー18aがそれ以上回動しなくなるまでの、この調節レバー18aの回動量が多くなり(回動可能角度が大きくなり)、この調節レバー18aの先端部と前記ステアリングコラム6bとの距離dが小さくなる。この様に、前記ステアリングホイール1の上下位置により、このステアリングホイール1を調節後の位置に保持する状態での、前記調節レバー18aの先端部と前記ステアリングコラム6bとの距離が変動する。この様な状態は、ステアリングコラム装置を覆うコラムカバーからの前記調節レバー18aの突出量が変わり、運転者に違和感を与える可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−322552号公報
【特許文献2】特開2002−87286号公報
【特許文献3】特開2010−52639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、二次衝突時のステアリングコラムの舞い上がりを防止しつつ、ステアリングホイールの上下位置に拘わらず、ステアリングコラムと調節レバーの先端部との距離を同じとする事ができるステアリングコラム装置の構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のステアリングコラム装置は、ステアリングコラムと、変位ブラケットと、通孔と、支持ブラケットと、1対の長孔と、杆状部材と、カム装置と、調節レバーとを備える。
このうちのステアリングコラムは、後端部にステアリングホイールを固定するステアリングシャフトを回転自在に挿通する。
又、前記変位ブラケットは、前記ステアリングコラムの軸方向中間部で、前記ステアリングシャフトと干渉しない部分、例えばこのステアリングコラムの上方、或いは下方に固設されている。
又、前記通孔は、前記変位ブラケットに幅方向に形成されている。
又、前記支持ブラケットは、1対の支持板部を備える。そして、これら両支持板部によりこの変位ブラケットを左右から挟む状態で車体に支持される。
又、前記両長孔は、前記両支持板部の一部で前記通孔に整合する部分にそれぞれ形成されている。これら両長孔は、前記ステアリングコラムの中心軸に直交する仮想平面に対し、所定の角度傾斜し、且つ、前方に向う程下方に向う方向に長い。そして、この所定の角度を前記ステアリングホイールの上下位置に拘わらず、前後方向に対する前記ステアリングコラムの中心軸の傾斜角度よりも大きくしている。
又、前記杆状部材は、前記両長孔と前記通孔とに挿通され、これら両長孔に沿って変位可能にしている。
又、前記カム装置は、被駆動側カムと駆動側カムとを備える。そして、このカム装置は、被駆動側カムに対する駆動側カムの回動に伴って軸方向寸法を拡縮させる事により、前記両支持板部同士の間隔を拡縮させる。この為に、前記両カムのうちの駆動側カムを前記杆状部材の端部に、この杆状部材の軸方向の変位を阻止した状態で支持すると共に、被駆動側カムを、前記両長孔のうちの何れかの長孔に沿った変位のみを可能に係合させる。又、この被駆動側カムを前記杆状部材の軸方向中間部に、軸方向変位を可能に支持する。又、前記駆動側カムを、前記調節レバーの操作に基づいて、回転可能とする。
【0015】
特に本発明のステアリング装置に於いては、前記調節レバーの基端部に係止腕を設け、前記両支持板部のうちの一方にストッパ用段差部を設けている。そして、これら両支持板部同士の間隔を縮める方向に前記調節レバーを回動させ、前記ステアリングホイールの上下位置を調節後の位置に保持可能とした状態で前記係止腕の先端部を前記ストッパ用段差部に突き当てる。前記ステアリングホイールの上下位置を調節する場合には、前記調節レバーを逆方向に回動させて、前記係止腕の先端部を前記ストッパ用段差部から離隔させ、前記カム装置の軸方向寸法を縮めて、前記ステアリングホイールの上下位置を調節可能な状態とする。
そして、前記両長孔の形成方向に対して、前記ストッパ用段差部の形成方向を所定の角度分、傾斜させ、前記ステアリングホイールの上下位置によって、前記ストッパ用段差部のうち、前記係止腕の先端部が突き当たる部分を異ならせる事により、前記ステアリングホイールの上下位置に拘わらず、前記両支持板部同士の間隔を縮める方向に前記調節レバーを回動させた状態での、前記ステアリングコラムとこの調節レバーの先端部との距離を同じとしている。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明のステアリングコラム装置によれば、二次衝突時のステアリングコラムの舞い上がりを防止しつつ、ステアリングホイールの上下位置に拘わらず、ステアリングコラムと調節レバーの先端部との距離を同じにする事ができる。この為、前記ステアリングホイールの上下位置に拘らず、前記調節レバーの先端部と前記ステアリングコラムとの距離が変動する事を防止して、ステアリングコラム装置を覆うコラムカバーからの前記調節レバーの突出量を同じとし、運転者に違和感を与えるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す側面図。
【図2】同じく、図1の中央部拡大図。
【図3】同じく、図1の右半部を下方から見た斜視図。
【図4】同じく、要部を下方から見た斜視図。
【図5】調節レバーを外した状態で示す側面図。
【図6】調節レバーを取り出して下方から見た斜視図。
【図7】同じく平面図。
【図8】同じく側面図。
【図9】同じく後方から見た図。
【図10】本例に組み込む、カム装置の動作を説明する為の模式図。
【図11】ステアリングホイールを、上方とした状態(A)と、同じく下方とした状態(B)とで示す側面図。
【図12】本発明の実施の形態の第2例を示す側面図。
【図13】同じく、図5と同様の図。
【図14】同じく、図13のX部拡大図。
【図15】従来から知られている、テレスコピック機構及びチルト機構を備えたステアリング装置の、部分切断略側面図。
【図16】従来構造の第2例を示す縦断側面図。
【図17】図16の拡大Y−Y断面図。
【図18】従来構造の第3例を示す、図17と同様の図。
【図19】カム装置の動作を説明する為の模式図。
【図20】従来構造の第4例を示す側面図。
【図21】同じく第5例を示す側面図。
【図22】同じく、ステアリングホイールを、上方とした状態(A)と、同じく下方とした状態(B)とで示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の第1例]
図1〜11は、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例を含めて、本発明のステアリングコラム装置の特徴は、二次衝突時のステアリングコラム6cの舞い上がりを防止する構造に於いて、ステアリングホイール1(図15参照)の上下位置に拘わらず、前記ステアリングコラム6cと調節レバー18bのレバー部36の先端部との距離Dが同じ(運転者に違和感を与えない程度の小さな差のみ存在する場合を含む。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)となる構造を実現する点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図20に示した構造を含め、従来から知られているステアリングコラム装置と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0019】
本例の場合、前記調節レバー18bのレバー部36を下方に回動させる事により、カム装置20bの軸方向寸法を縮め、調節ロッド19bが、支持ブラケット12cに形成した上下方向長孔24b、及び、アウタコラム13bに形成した前後方向長孔25a内で変位できる範囲内で、このアウタコラム13bを変位させる。そして、このアウタコラム13b内に回転自在に支持されたステアリングシャフト5bの後端部に支持固定されたステアリングホイール1(図15参照)の位置を調節する。このステアリングホイール1を所望の位置に移動させた後、前記レバー部36を上方に回動させて、前記カム装置20bの軸方向寸法を拡張する。このカム装置20bは、前記調節レバー18bのレバー部36の回動に伴って軸方向寸法を拡縮する。但し、このカム装置20b自体は、前述した従来構造のカム装置20(20a)(図19参照)とは異なり、前記調節レバー18bの回動量を規制する機能は有していない。又、前述の特許文献2に記載された構造の様に、前記調節レバー18bを、ステアリングホイール1を調節後の位置に保持できるまで回動させても、特にクリック感(節度感)を生じさせる事もない。即ち、図10の(A)に示す様に、前記調節レバー18bを上方に回動させた状態では、駆動側カム26bの駆動側凸部37が被駆動側カム27bの凹部29aに対向する事で前記カム装置20bの軸方向寸法を縮める。一方、前記調節レバー18bを下方に回動させた状態では、図10の(B)に示す様に、前記駆動側カム26bの駆動側凸部37が前記被駆動側カム27bの被駆動側凸部38に乗り上げて前記カム装置20bの軸方向寸法を拡げる。尚、前記駆動側凸部37がこの被駆動側凸部38に乗り上げる量は、この乗り上げる量が最も小さくなる(前記ステアリングホイール1を最下位置とした)場合に於いても、前記駆動側、被駆動側両凸部37、38の先端面同士が十分な面積で当接し、前記カム装置20bの軸方向寸法を拡げた状態を十分維持できる様にしている。この様に、このカム装置20bは軸方向寸法を拡縮するが、前述した従来構造のカム装置20(20a)の様に、駆動側カム26(26a)が被駆動側カム27(27a)に対し所定角度以上回動するのを防止するストッパ面39、39(図19参照)を設けていない。この為、前記調節レバー18bを十分に回動させられたか否かが解り難いだけでなく、場合によっては、この調節レバー18bを回動させ過ぎて、前記カム装置20(20a)の軸方向寸法が、再び縮まる可能性がある。更に、前記調節レバー18bの回動量が適正であっても、この調節レバー18bを操作する者に節度感を与える事はできない。
【0020】
前記調節レバー18bの回動量を適正に規制すると共に、この調節レバー18bを操作する者に節度感を与え、しかも、この調節レバー18bを、前記ステアリングホイール1を調節後の位置に保持できる位置に回動させた状態を保持する為に本例の場合は、この調節レバー18bの基端部に係止腕40を、支持ブラケット12cに設けた、前記アウタコラム13bを幅方向から狭持する1対の支持板部23aのうち、前記調節レバー18bが対向する一方の支持板部23aの外側面に係止片41を、それぞれ設けている。前記係止腕40は、前記レバー部36よりも細くする事により、前記調節レバー18bのうち、この係止腕40を除く残部よりも剛性を低くしている。又、前記係止片41は、合成樹脂の射出成形、軽合金等の金属材料の鋳造若しくは鍛造、或いは金属板を曲げ成形する事により造られたもので、前記上下方向長孔24bとほぼ同じ方向に長い、係止凹溝42を設けている。この係止凹溝42は、前記調節レバー18bを下方に回動させた状態で、前記係止腕40の先端部と係合する。そして、前記係止凹溝42の幅方向両内側面のうち、前記上下方向長孔24bと反対側の内側面の高さ寸法を大きくして、特許請求の範囲に記載したストッパ段差部としている。この様な係止凹溝42は、前記ステアリングホイール1の上下位置に拘わらず、前記調節レバー18bを下方に回動させ、この調節レバー18bの係止腕40の先端部を係合させた状態で、この調節レバー18bのレバー部36の先端部と前記ステアリングコラム6cとの距離Dが、常に同じとなる様にしている。この為に本例の場合には、前記両上下方向長孔24bに対し前記係止凹溝42を、所定角度だけ後方に傾斜した(上方に向かう程後方に向かう程度を大きくした)状態で形成している。前記ステアリングホイール1を上端位置に移動させた状態では、前記係止凹溝42の上端部と、前記係止腕40の先端部とを係合させる。即ち、前記ステアリングホイール1を上端位置とした状態では、図10の(A)に一点鎖線xで示す様に、前記被駆動側カム27bの位相がずれるが、同図の(B)に示す様に、前記駆動側カム26bの駆動側凸部37がこの被駆動側カム27bの被駆動側凸部38に乗り上げる量を多くする。一方、前記ステアリングホイール1を上端位置とした場合には、この係止凹溝42の下端部と、この係止腕40の先端部とを係合させる。即ち、前記ステアリングホイール1を下端位置に移動させた状態では、図10の(A)に二点鎖線yで示す様に、前記被駆動側カム27bの位相がずれるが、同図の(B)に示す様に、前記駆動側カム26bの駆動側凸部37がこの被駆動側カム27bの被駆動側凸部38に乗り上げる量を少なくする。この様な構成により、前記ステアリングホイール1の上下位置に拘わらず、前記両状態を切り換える為の前記調節レバー18bの回動量が変わらない為、前記ステアリングコラム6cと前記調節レバー18bのレバー部36の先端部との距離Dを同じとする事ができる。
【0021】
又、図1〜2、11に鎖点で表わす様に、前記調節レバー18bを下方に回動させた状態に於いては、前記係止腕40の先端部と、前記係止片41に設けた平坦部43とを、この係止腕40の弾力に基づいて軽く当接させる事により、前記調節レバー18bが必要以上に回動しない(下方に大きく垂れ下がらない)様にしている。又、前記係止凹溝42と前記平坦部43との間に、前記係止腕40の回動方向に傾斜した1対の傾斜面部44a、44bを備えた山形の凸部45(図4参照)を設けている。即ち、この凸部45の回動方向両側面のうち、前記係止凹溝42側の傾斜面部44aは、前記調整レバー18bを下方に回動させる際に前記係止腕40が移動する方向に向かう程前記凸部45の高さが高くなる方向に傾斜させ、同じく平坦部43側の傾斜面部44bは、前記調節レバー18bを上方に回動させる際に前記係止腕40が移動する方向に向かう程前記凸部45の高さが高くなる方向に傾斜させている。
【0022】
上述の様に構成する本例のステアリングコラム装置の場合には、前記ステアリングホイール1の上下位置に拘わらず、前記ステアリングコラム6cと前記調節レバー18bのレバー部36の先端部との距離Dを同じにする事ができる。この為、この距離Dが変動する事により、ステアリングコラム装置を覆うコラムカバー(図示省略)からの前記調節レバー18bの突出量が変わり、運転者に違和感を与えるのを防止する事ができる。
【0023】
又、前記ステアリングホイール1の上下位置を調節する為に、前記調節レバー18bを下方に回動させた状態で、この調節レバー18bの係止腕40の先端部を、前記係止片41の平坦部43に当接させるので、この調節レバー18bが必要以上に回動する事がない。この為、前記ステアリングホイール1を所望の位置に移動した後、前記調節レバー18bを上方に回動する操作を行い易くできる。
【0024】
又、前記調節レバー18bの係止腕40の先端部が対向する、前記係止凹溝42と前記平坦部43との間の凸部45の、前記レバー18bの回動方向に関する両側面のうち、この係止凹溝42側に比較的急な傾斜面部44aを設けると共に、この係止凹溝42の底部の幅寸法を、前記係止腕40の先端部の幅寸法以下としている為、前記係止腕40とこの係合凹溝42とが係合した状態で、前記調節レバー18bががたつくのを防止できる。又、この調節レバー18bが、前記ステアリングホイール1を調節後の位置に保持する状態から、不用意に回動するのを防止できる。更に、前記平坦部43側に、比較的緩やかな傾斜面部44bを設けている為、前記ステアリングホイール1を所望の位置に移動させた後、前記調節レバー18bのレバー部36を上方に操作(回動)する際に、この回動に対し適度な抵抗を付与して、前記調節レバー18bの操作感を向上させる事ができる。この調節レバー18bの回動に対する抵抗は、前記両傾斜面部44a、44bの傾斜角度を調節する事により調節可能である。従って、これら両傾斜面部44a、44bの傾斜角度の調節により、前記調節レバー18bの操作感を車両に合せてチューニングする事ができる。尚、前記両傾斜面部44a、44bを、それぞれ複数の傾斜面を組み合わせる事で形成したり、断面形状が部分円弧状の斜面としても良い。
【0025】
又、前記調節レバー18bの係止腕40の剛性を、この調節レバー18bの本体部分よりも弱くしている為、二次衝突時に運転者の膝部分がこの調節レバー18bのレバー部36の先端部に衝突する際の衝撃荷重に伴い前記係止腕40が破断する。そして、前記調節レバー18bの回動を許容し、この調節レバー18bに衝突した前記膝部分の保護を図る。この係止腕40が破断する事でこの膝部分の保護を図れるので、残部であるレバー部36の本体部分の剛性を十分に高くする事ができる。
【0026】
[実施の形態の第2例]
図12〜14は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のステアリングコラム装置は、チルト機構は備えているが、テレスコピック機構は備えていない。即ち、前後方向長孔25b(図5参照)を設けていない。この為、アウタコラム13bは、二次衝突時の衝撃荷重に伴う軸方向変位、及び上下方向長孔24cに沿った上下位置調節に伴う軸方向の少しだけの変位は可能であるが、上下位置調節に関係なく(独立して)前後位置調節を行う事はできない。本例の場合、前記両上下方向長孔24cの上半部を、図14に鎖点で表わした、透孔31に挿通した枢軸11(図15参照)を中心とした部分円弧状の長孔に対し後方に傾斜した状態で形成する事で、ステアリングコラム6cの舞い上がりを防止している。そして、前記両上下方向長孔24cの形状に合わせて、調節レバー18cの係止腕40aの形状と、係止片41aの係止凹溝42aの形状とを、上述した実施の形態の第1例の場合とは異ならせている。又、ステアリングホイール1(図15参照)の上下位置を調節すべく、前記調節レバー18cを下方に回動させた状態で、前記係止腕40aと、支持ブラケット12dの前方に、下方に折れ曲がった状態で設けられた垂下板部46の後側面とを当接させる事で、前記調節レバー18cが必要以上に回動しない様にしている。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分には同一符号を付して、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
上述した実施の形態の各例のステアリングコラム装置は、変位ブラケットをステアリングコラムの上部に設ける構造に就いて説明したが、この変位ブラケットをこのステアリングブラケットの下部に設ける構造とする事もできる。
又、ストッパ用段差部を、前記変位ブラケットを挟む状態で設けられた1対の支持板部のうち、一方の支持板部に直接設ける構造とする事もできる。
【符号の説明】
【0028】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングギヤユニット
3 入力軸
4 タイロッド
5、5a、5b ステアリングシャフト
6、6a〜6c ステアリングコラム
7 自在継手
8 中間シャフト
9 自在継手
10 車体
11 枢軸
12、12a、12b 支持ブラケット
13、13a、13b アウタコラム
14、14a インナコラム
15、15a アウタシャフト
16、16a インナシャフト
17 電動モータ
18、18a〜18c 調節レバー
19、19a、19b 調節ロッド
20、20a、20b カム装置
21 カム部材
22 変位ブラケット
23、23a 支持板部
24、24a〜24c 上下方向長孔
25、25a 前後方向長孔
26、26a、26b 駆動側カム
27、27a、27b 被駆動側カム
28 凸部
29、29a 凹部
30 段差部
31 透孔
32 ハウジング
33 釣合ばね
34 係止カプセル
35 エネルギ吸収部材
36 レバー部
37 駆動側凸部
38 被駆動側凸部
39 ストッパ面
40、40a 係止腕
41、41a 係止片
42、42a 係止凹溝
43 平坦部
44a、44b 傾斜面部
45 凸部
46 垂下板部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端部にステアリングホイールを固定するステアリングシャフトを回転自在に挿通し、車体に固定の部分に対して前端部を幅方向に設置された枢軸を中心とする揺動変位を可能に支持されたステアリングコラムと、
このステアリングコラムの軸方向中間部に固設された変位ブラケットと、
この変位ブラケットに幅方向に形成された通孔と、
1対の支持板部を備え、これら両支持板部によりこの変位ブラケットを左右から挟む状態で車体に支持される支持ブラケットと、
前記両支持板部の一部で前記通孔に整合する部分にそれぞれ、前記ステアリングコラムの中心軸に直交する仮想平面に対し、所定の角度傾斜し、且つ、前方に向かう程下方に向かう方向に長く形成されており、この所定の角度が前記ステアリングホイールの上下位置に拘わらず、前後方向に対する前記ステアリングコラムの中心軸の傾斜角度よりも大きい長孔と、
これら両長孔と前記通孔とに挿通され、これら両長孔に沿って変位可能な杆状部材と、
被駆動側カムに対する駆動側カムの回動に伴って軸方向寸法を拡縮させ、前記両支持板部同士の間隔を拡縮させるべく、前記駆動側カムを前記杆状部材の端部に、軸方向変位を抑えた状態で支持すると共に、前記被駆動側カムを、前記両長孔のうちの何れかの長孔に、当該長孔に沿った変位のみを可能に係合させ、且つ、この被駆動側カムを前記杆状部材の軸方向中間部に軸方向変位を可能に支持し、前記駆動側カムを調節レバーの操作に基づいて、回転可能としているカム装置とを備え、
前記ステアリングホイールの上下方向位置の調節が可能で、且つ、二次衝突時に前記ステアリングコラムを前方に変位させるステアリングコラム装置に於いて、
前記調節レバーの基端部に係止腕を設け、前記両支持板部のうちでこの調節レバーと対向する支持板部の外側面にストッパ用段差部を設けており、これら両支持板部同士の間隔を縮める方向に前記調節レバーを回動させ、前記ステアリングホイールの上下位置を調節後の位置に保持可能とした状態で前記係止腕の先端部を前記ストッパ用段差部に突き当て、この上下位置を調節する場合に、前記調節レバーを逆方向に回動させて、前記係止腕の先端部を前記ストッパ用段差部から離隔させるものであり、
前記両長孔の形成方向に対して、前記ストッパ用段差部の形成方向を所定の角度、傾斜させ、前記ステアリングホイールの上下位置によって、このストッパ用段差部のうち、前記係止腕の先端部が突き当たる部分を異ならせる事により、前記ステアリングホイールの上下位置に拘わらず、前記両支持板部同士の間隔を縮める方向に前記調節レバーを回動させた状態での、前記ステアリングコラムとこの調節レバーの先端部との距離を同じとしている事を特徴とするステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記ストッパ用段差部と、前記調節レバーを逆方向に回動させた状態で前記係止腕の先端部が対向する平坦部との間に土手状の凸部を設ける事により、この凸部と前記ストッパ用段差部との間を、前記係止腕の先端部が係合可能な係止凹溝とし、この凸部の、この係止腕の回動方向両側面に、この先端部がこの凸部に乗り上げ易くする為の傾斜面部を設けている、請求項1に記載のステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記調節レバーのうちの前記係止腕の剛性を、この調節レバーの本体部分となる残部よりも低くしている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載のステアリングコラム装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2013−100041(P2013−100041A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245358(P2011−245358)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】