説明

ステアリングシャフトの防振装置

【課題】ブッシュとダイナミックダンパの両方を取り付ける場合に、相互にそれぞれの特性に対して影響を及ぼすことのないステアリングシャフトの防振装置を提供する。
【解決手段】筒状からなり、ステアリングシャフトの第一軸部材2の外周面に圧入により取り付けられる内筒部材11と、筒状からなり、内筒部材11に対して径方向外方に離隔して配置され、且つ、ステアリングシャフトの第二中空軸部材3の内周面に圧入により取り付けられる第一外筒部材12と、筒状からなり、内筒部材11に対して径方向外方に離隔して配置され、且つ、第一外筒部材12に対して軸方向に離隔して配置される第二外筒部材13と、第二外筒部材13の外周面に取り付けられる質量部材14と、内筒部材11の外周面と第一外筒部材12の内周面とを弾性連結するブッシュゴム15と、内筒部材11の外周面と第二外筒部材13の内周面とを弾性連結するダンパゴム16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングシャフトの防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリングシャフトは、一端側をステアリングホイールに連結し、他端側を転舵輪(車輪)に連結している。従って、走行により転舵輪から入力される振動(ロードノイズ)が、ステアリングシャフトを介してステアリングホイールに伝達される。さらに、ステアリングシャフトを支持するフレームは、エンジンを支持するフレームでもある。従って、エンジンにより発生する振動が、フレームおよびステアリングシャフトを介して、ステアリングホイールに伝達される。さらに、ステアリングシャフトは、例えば、ユニバーサルジョイントなどの等速ジョイントを備えている。この等速ジョイントが、ステアリングシャフトが回転する際に振動の発生原因になることもある。この振動も、ステアリングホイールに伝達される。
【0003】
そこで、ステアリングホイールに伝達されるこれらの振動を低減するために、ステアリングシャフトにブッシュやダイナミックダンパを適用するものがある。例えば、ブッシュを適用したものとして、実公平7−32322号公報(特許文献1)に記載されたものがある。また、ダイナミックダンパを適用したものとして、特開平8−290776号公報(特許文献2)に記載されたものがある。
【0004】
ここで、さらなる防振効果を発揮するために、ブッシュとダイナミックダンパの両方を備えることが考えられる。例えば、プロペラシャフトにブッシュとダイナミックダンパを備えたものが、実開平2−103543号公報(特許文献3)、特開平1−174619号公報(特許文献4)および実開平2−99027号公報(特許文献5)に記載されている。
【0005】
特許文献3に記載のブッシュおよびダイナミックダンパは、何れも、シャフトに接着されている。このように、直接、シャフトに接着することは、製造設備の大型化を招来し、高コストとなる。そこで、特許文献4に記載のように、ブッシュおよびダイナミックダンパのそれぞれを、外筒部材と内筒部材に接着しておき、ブッシュの外筒部材および内筒部材を対象シャフトに圧入するとともに、ダイナミックダンパの内筒部材を対象シャフトに圧入している。ここで、このブッシュとダイナミックダンパは、軸方向に異なる位置に圧入されている。
【0006】
しかし、特許文献4に記載のように、ブッシュとダイナミックダンパをそれぞれ別々に形成し、これらをそれぞれ対象シャフトの外周面のうち軸方向に異なる位置に圧入すると、以下のような問題を生じる。まずブッシュを対象シャフトの外周面に圧入した後に、ダイナミックダンパを対象シャフトの外周面に圧入する場合を考える。この場合、最初にブッシュを圧入することで、対象シャフトの外径が僅かながら縮径する。さらに、続いてダイナミックダンパを圧入することで、対象シャフトの外径が縮径する。これにより、ブッシュが圧入されている対象シャフトの外径部分も縮径することになる。そのため、ブッシュゴムの特性が変化するおそれがある。さらに、ブッシュが対象シャフトから離脱しやすくなることもある。さらに加えて、ダイナミックダンパに対しても影響を及ぼすことになる。また、ブッシュとダイナミックダンパを逆の順序で組み付けた場合にも、ブッシュとダイナミックダンパが相互に影響を及ぼし合う。このように、ブッシュとダイナミックダンパを別体として、対象シャフトの外周面のうち軸方向に異なる位置に圧入すると、ブッシュゴムの特性変化やブッシュの離脱などのおそれが生じる。
【0007】
これに対して、特許文献5に記載のように、ブッシュを対象シャフトの外周面に圧入し、ダイナミックダンパを対象シャフトの内周面のうちブッシュが圧入される軸方向位置と同一位置に圧入することが考えられる。しかし、ブッシュを対象シャフトの外周面に圧入した後に、ダイナミックダンパを対象シャフトの内周面に圧入した場合には、ダイナミックダンパが対象シャフトに圧入されることにより、対象シャフトが拡径することになる。そのため、ブッシュゴムが圧縮され、ブッシュゴムの特性が変化するおそれがある。また、ブッシュとダイナミックダンパを逆の順序で組み付けた場合には、ダイナミックダンパゴムの特性が変化するおそれがある。つまり、この場合も、ブッシュとダイナミックダンパが相互に影響を及ぼし合うことになる。
【特許文献1】実公平7−32322号公報
【特許文献2】特開平8−290776号公報
【特許文献3】実開平2−103543号公報
【特許文献4】特開平1−174619号公報
【特許文献5】実開平2−99027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、ブッシュとダイナミックダンパの両方を取り付ける場合に、それぞれのゴム特性に影響を及ぼさないようにすることが望まれる。もちろん、ブッシュとダイナミックダンパの両方を取り付けることを考慮して、予め、ブッシュゴムおよびダイナミックダンパゴムを設計することで対応可能とも考えられる。しかし、これまで、ブッシュゴムおよびダイナミックダンパのそれぞれにおける特性評価は十分にされているが、両者を考慮した特性評価はされていない。従って、これまでの特性評価を有効に利用しつつ、ブッシュとダイナミックダンパの両方を取り付けることが望まれる。つまり、ブッシュゴム単体としての設計どおりの特性およびダイナミックダンパ単体としての設計どおりの特性を発揮できるようにすることが望まれる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ブッシュとダイナミックダンパの両方を取り付ける場合に、相互にそれぞれの特性に対して影響を及ぼすことのないステアリングシャフトの防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のステアリングシャフトの防振装置は、筒状からなり、ステアリングシャフトの第一軸部材の外周面に圧入により取り付けられる内筒部材と、筒状からなり、内筒部材に対して径方向外方に離隔して配置され、且つ、ステアリングシャフトの第二中空軸部材の内周面に圧入により取り付けられる第一外筒部材と、筒状からなり、内筒部材に対して径方向外方に離隔して配置され、且つ、第一外筒部材に対して軸方向に離隔して配置される第二外筒部材と、第二外筒部材の外周面に取り付けられる質量部材と、内筒部材の外周面と第一外筒部材の内周面とを弾性連結するブッシュゴムと、内筒部材の外周面と第二外筒部材の内周面とを弾性連結するダンパゴムと、を備えることを特徴とする。
【0011】
つまり、本発明のステアリングシャフトの防振装置によれば、ブッシュゴムとダンパゴムとが、同一の内筒部材に弾性連結されている。つまり、内筒部材を共通化することにより、ブッシュとダイナミックダンパとが一体化されている。このように内筒部材を共通化することで、本発明の防振装置を第一軸部材の外周面に圧入するには、実質的に一つの内筒部材を第一軸部材の外周面に圧入することで足りる。つまり、従来のように、それぞれ別々の内筒部材を、対象シャフトの外周面に圧入する必要がない。このように、本発明によれば、一つの内筒部材を圧入するのみであるため、ブッシュ部分とダイナミックダンパ部分が相互に影響を及ぼし合うことがない。従って、ブッシュゴムの特性およびダンパゴムの特性を、それぞれ個別に設計した設計値どおりにすることが可能となる。
【0012】
また、第一外筒部材と第二外筒部材とが、軸方向に離隔して配置されている。従って、特許文献5のように、ブッシュとダイナミックダンパを軸方向の同じ位置に配置することによる問題は生じない。さらに、内筒部材を共通化することで、組付工数を削減できる。これにより、低コスト化を図ることができる。
【0013】
また、本発明のステアリングシャフトの防振装置において、内筒部材は、第一軸部材の外周面に圧入される小径部と、小径部の内径より大きく且つ第一軸部材の外径より大きな内径からなる大径部とを備え、ブッシュゴムは、小径部の外周面に弾性連結され、ダンパゴムは、大径部の外周面に弾性連結されるようにするとよい。
【0014】
つまり、ダンパゴムが弾性連結される大径部は、第一軸部材に圧入されない部分となる。従って、内筒部材の小径部を第一軸部材に圧入することにより、ブッシュゴムには圧縮力が作用するが、ダンパゴムに圧縮力が作用することはない。つまり、内筒部材の小径部を第一軸部材に圧入したとしても、ダンパゴムは、この圧入による影響を受けない。このように、ダンパゴムは、内筒部材を第一軸部材に圧入することによる影響を考慮することなく設計することができるので、非常に設計が容易となり、設計通りのダンパゴムの特性を得ることが容易となる。さらに、内筒部材のうち小径部のみを第一軸部材の外周面に圧入しているため、圧入する軸方向長さを短くできる。従って、組付性を良好とすることができる。さらに、第一軸部材の外周面のうち加工する軸方向長さを短くできるため、低コスト化を図ることができる。
【0015】
また、本発明のステアリングシャフトの防振装置において、ブッシュゴムとダンパゴムは、一体加硫成形するとよい。ブッシュゴムとダンパゴムとを一体加硫成形することが可能となったのは、内筒部材を共通化したためである。このように内筒部材を共通化することに伴って、ブッシュゴムとダンパゴムを一体加硫成形できるようになり、さらなる製造コストの低減を図ることができる。ここで、ブッシュゴムとダンパゴムとの一体加硫成形とは、ブッシュゴムとダンパゴムとを分離するように成形する場合と、両ゴムが例えば後述する連結ゴムにより連結される場合を含む意味である。
【0016】
特に、ブッシュとゴムとダンパゴムとを一体加硫成形する場合には、以下のようにするとよい。すなわち、本発明のステアリングシャフトの防振装置は、ブッシュゴムとダンパゴムを連結し、ブッシュゴムとダンパゴムとともに一体加硫成形され、ブッシュゴムおよびダンパゴムの肉厚よりも薄く形成される連結ゴムを備えるとよい。
【0017】
これにより、ゴム成形型におけるゴム注入口を一箇所にして、ブッシュゴムおよびダンパゴムを一体加硫成形することができる。また、連結ゴムはブッシュゴムおよびダンパゴムの肉厚よりも薄く形成することで、連結ゴムが、ブッシュゴムの特性およびダンパゴムの特性に影響を及ぼすこともない。
【0018】
また、ブッシュゴムとダンパゴムとを一体加硫成形する場合には、以下のようにするとよい。すなわち、ブッシュゴムの軸方向端面のうちダンパゴム側は、第一外筒部材の軸方向端面を通る軸直角平面上に形成されるようにするか、もしくは、第一外筒部材の軸方向端面よりダンパゴム側に突出するとともに径方向内方側ほどその突出量が大きくなるように形成されるとよい。
【0019】
これにより、ブッシュゴムの軸方向端面のうちダンパゴム側を成形する際に、ブッシュゴムとダンパゴムとの軸方向の間を形成するための中子を容易に抜けるようにできる。つまり、中子の形状および中子の動作を容易にできる。特に、ブッシュゴムの軸方向端面のうちダンパゴム側が、第一外筒部材の軸方向端面よりダンパゴム側に突出するとともに径方向内方側ほどその突出量が大きくなるように形成することで、より中子を抜きやすくできる。この理由は、抜き勾配が付けられているためである。
【0020】
また、上記においては、ブッシュゴムの軸方向端面のうちダンパゴム側について説明したが、ダンパゴムの軸方向端面のうちブッシュゴム側も同様にするとよい。すなわち、ダンパゴムの軸方向端面のうちブッシュゴム側は、第二外筒部材の軸方向端面を通る軸直角平面上に形成されるか、もしくは、第二外筒部材の軸方向端面よりブッシュゴム側に突出するとともに径方向内方側ほどその突出量が大きくなるように形成されるとよい。これにより、中子の形状および中子の動作を容易にできる。また、ダンパゴムの軸方向端面のうちブッシュゴム側が、第二外筒部材の軸方向端面よりブッシュゴム側に突出するとともに径方向内方側ほどその突出量が大きくなるように形成することで、より中子を抜きやすくできる。
【0021】
また、本発明のステアリングシャフトの防振装置において、第二外筒部材および質量部材の重心と、ダンパゴムの弾性中心とが一致するように設定されるとよい。ここで、ダンパゴムの弾性中心とは、内筒部材に対して第二外筒部材が軸方向に相対移動する際のダンパゴムの軸方向中心と、内筒部材に対して第二外筒部材が径方向に相対移動する際のダンパゴムの径方向中心とが、交差する点である。ここで、第二外筒部材および質量部材の重心とダンパゴムの弾性中心がずれている場合には、質量部材の首振り動作(ピッチング)が発生するおそれがある。そうすると、適切に防振効果を発揮できないおそれがある。これに対しては、本発明のように、第二外筒部材および質量部材の重心とダンパゴムの弾性中心とが一致するように設定することで、ピッチングが発生することなく、確実に防振効果を発揮できる。なお、第二外筒部材および質量部材の重心とダンパゴムの弾性中心とを一致させるには、質量部材を第二外筒部材と別体にしておき、質量部材の第二外筒部材に対する軸方向取付位置を調整することで可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0023】
<第一実施形態>
本実施形態のステアリングシャフトの防振装置1について、図1および図2を参照して説明する。図1は、ステアリングシャフトの防振装置1の軸方向から見た図である。図2は、図1のA−A断面図である。
【0024】
図1および図2に示すように、ステアリングシャフトの防振装置1は、ステアリングシャフトの第一中空軸部材2とステアリングシャフトの第二中空軸部材3とを弾性連結している。ここで、第一中空軸部材2の一端側(図2の右側)がステアリングホイール(図示せず)に連結されている。この第一中空部材2の外周面のうち図2の左端部2aのみ、旋削加工または研削加工が施され、高精度に成形されている。この第一中空部材2の外周面のうち旋削加工などが施されている部位2aの軸方向長さは、後述する内筒部材11の小径部11aの軸方向長さより僅かに長くされている。さらに、当該旋削加工が施されている部位2aは、旋削加工が施されていない部位2bに比べて、外径が僅かに小さくなっている。第二中空軸部材3は、ユニバーサルジョイント4のヨークを構成している。この第二中空軸部材3は、例えば、ピニオン軸およびラック軸を介して転舵輪(車輪)に連結されている。そして、第二中空軸部材3の内径は、第一中空軸部材2の外径よりも大きく形成されている。
【0025】
そして、ステアリングシャフトの防振装置1は、内筒部材11と、第一外筒部材12と、第二外筒部材13と、質量部材14と、ブッシュゴム15と、ダンパゴム16と、連結ゴム17とから構成される。
【0026】
内筒部材11は、軸方向に亘って同一肉厚の鋼管により、ほぼ円筒状に形成されている。詳細には、内筒部材11は、小径部11aと、大径部11bと、連結部11cとから構成される。小径部11aは、軸方向全体に亘って内径が同一であるとともに、軸方向全体に亘って外径も同一に形成されている。この小径部11aの軸方向長さは、第一中空部材2のうち旋削加工が施されている部位2aの軸方向長さより僅かに短くされている。さらに、小径部11aの内径は、第一中空軸部材2の外周面のうち旋削加工などが施されている部位2aの外径より僅かに小さくされている。そして、この小径部11aの内側に、第一中空部材2の旋削加工が施されている部位2aを圧入することにより、内筒部材11が第一中空軸部材2に取り付けられている。
【0027】
大径部11bは、軸方向全体に亘って内径が同一であるとともに、軸方向全体に亘って外径も同一に形成されている。この大径部11bの内径は、小径部11aの内径より大きく、且つ、大径部11bの外径は、小径部11aの外径より大きく形成されている。さらに、大径部11bの内径は、第一中空部材2のうち旋削加工が施されている部位2aの外径よりも、さらには、旋削加工が施されていない部位2bの外径よりも大きく形成されている。連結部11cは、小径部11aの図2の右端と大径部11bの図2の左端とを連結する。つまり、連結部11cは、テーパ状に形成されている。
【0028】
第一外筒部材12は、薄肉鋼管により、ほぼ円筒状に形成されている。詳細には、第一外筒部材12は、円筒部12aとフランジ部12bとから構成される。円筒部12aは、円筒状からなり、その軸方向長さが、内筒部材11の小径部11aの軸方向長さより僅かに短くされている。この円筒部12aの内径は、内筒部材11の小径部11aの外径よりも大きく形成されている。そして、円筒部12aは、内筒部材11の小径部11aに対して径方向外方に離隔して、小径部11aと同軸的に配置されている。このとき、円筒部12aの図2の左端と、内筒部材11の小径部11aの図2の左端とが、同一軸方向位置となるように配置されている。また、円筒部12aの外径は、第二中空軸部材3の内径より僅かに大きくされている。そして、円筒部12aの外側に第二中空軸部材3の内周面を圧入することにより、第一外筒部材2が第二中空軸部材3に取り付けられている。フランジ部12bは、円筒部12aの図2の右端から径方向外方に約90度屈曲形成された中空円盤状からなる。このフランジ部12bの外径は、第二中空軸部材3の外径よりも小さくされている。
【0029】
第二外筒部材13は、薄肉鋼管により、円筒状に形成されている。第二外筒部材13の軸方向長さは、内筒部材11の大径部11bの軸方向長さよりも僅かに短くされている。この第二外筒部材13の内径は、内筒部材11の大径部11bの外径よりも大きく形成されている。そして、第二外筒部材13は、内筒部材11の大径部11bに対して径方向外方に離隔して、大径部11bと同軸的に配置されている。このとき、第二外筒部材13の図2の右端と、内筒部材11の大径部11bの図2の右端とが、同一軸方向位置となるように配置されている。さらに、この第二外筒部材13は、第一外筒部材12に対して、軸方向(図2の右側)に離隔して配置されている。
【0030】
質量部材14は、金属からなり、円筒状に形成されている。この質量部材14の肉厚は、内筒部材11、第一外筒部材12および第二外筒部材13の肉厚に比べて、十分に厚くされている。この質量部材14は、第二外筒部材13とともに、ダイナミックダンパの質量部材として機能するものである。そして、質量部材14の内径は、第二外筒部材13の外径よりも僅かに小さく形成されている。そして、質量部材14は、第二外筒部材13の外周面に圧入することにより、第二外筒部材13に取り付けられている。ここで、質量部材14の第二外筒部材13に対する軸方向位置は、第二外筒部材13および質量部材14の重心と、後述するダンパゴム16の弾性中心とが一致するように設定されている。
【0031】
ブッシュゴム15は、ゴムからなり、円筒状に形成されている。このブッシュゴム15は、内筒部材11の小径部11aの外周面と第一外筒部材12の円筒部12aの内周面とに加硫接着されることにより、内筒部材11と第一外筒部材12とを弾性連結している。このブッシュゴム15の軸方向端面のうち図2の右側(ダンパゴム16側)は、第一外筒部材12の図2の軸方向右端面(フランジ部12bの図2の右端面)を通る軸直角平面上に形成されている。
【0032】
ダンパゴム16は、ゴムからなり、ほぼ円筒状に形成されている。このダンパゴム16は、内筒部材11の大径部11bの外周面と第二外筒部材13の内周面とに加硫接着されることにより、内筒部材11と第二外筒部材13とを弾性連結している。このダンパゴム16の軸方向端面のうち図2の左側(ブッシュゴム15側)は、第二外筒部材13の図2の軸方向左端面を通る軸直角平面上に形成されている。また、図1に示すように、ダンパゴム16の軸方向端面のうち図2の右側から、図2の左側に向かって、すぐり16aが周方向に5箇所形成されている。このすぐり16aの形成角度、数などにより、ダンパゴム16のばね特性を調整できる。従って、本実施形態においては、すぐり16aを周方向に5箇所形成しているが、すぐり16aの形成角度をより狭くしてもよいし、逆に広くしてもよいし、さらには、すぐり16aを全く形成しなくてもよい。そして、ダンパゴム16の弾性中心は、O1である。この弾性中心O1は、内筒部材11に対して第二外筒部材13が軸方向に相対移動する際のダンパゴム16の軸方向中心Oxと、内筒部材11に対して第二外筒部材13が径方向に相対移動する際のダンパゴム16の径方向中心Oyとが、交差する点である。このダンパゴム16の弾性中心O1は、ダンパゴム16に求められるばね特性に対して一義的に決定される。そして、ダンパゴム16の弾性中心O1と、第二外筒部材13および質量部材14の重心(第二外筒部材13と質量部材14を一体とした場合における重心)とが一致するように設定される。具体的には、ダンパゴム16の弾性中心O1はその形状から一義的に決定されるので、質量部材14の第二外筒部材13に対する軸方向位置を調整することで、ダンパゴム16の弾性中心O1と第二外筒部材13および質量部材14の重心とが一致するようにする。
【0033】
連結ゴム17は、ブッシュゴム15とダンパゴム16との間であって、内筒部材11のうち主として連結部11cの外周面全周に加硫接着され、ブッシュゴム15とダンパゴム16とを連結する。この連結ゴム17は、非常に薄いゴム膜からなり、ブッシュゴム15およびダンパゴム16の肉厚よりも薄く形成されている。そして、連結ゴム17は、ブッシュゴム15とダンパゴム16とともに一体加硫成形される。
【0034】
次に、ステアリングシャフトの防振装置1の成形および組み付けについて説明する。まず、内筒部材11、第一外筒部材12および第二外筒部材13に、ブッシュゴム15、ダンパゴム16および連結ゴム17を一体加硫成形する(ゴム加硫工程)。ブッシュゴム15、ダンパゴム16および連結ゴム17の一体加硫成形を行う工程について図3を参照して説明する。図3は、ブッシュゴム15、ダンパゴム16および連結ゴム17の一体加硫成形を行う工程を示す図である。
【0035】
図3に示すように、ブッシュゴム15、ダンパゴム16および連結ゴム17を成形する際には、図2の左側が上側となるように、ゴム成形型21〜24に配置する。つまり、中央に内筒部材11を上下方向がその軸方向となるように配置する。そして、内筒部材11の径方向外方のうち上側に、第一外筒部材12を配置し、下側に第二外筒部材13を配置する。具体的には、上下方向に移動可能な上型21により、内筒部材11の上端および第一外筒部材12を位置決めする。また、上下方向に移動可能な下型22により内筒部材11の下端および第二外筒部材13を位置決めする。さらに、図3の左右方向にそれぞれ移動可能な第一中子23および第二中子24により、第一外筒部材12と第二外筒部材13の間に挿入する。
【0036】
このように、ゴム成形型21〜24を配置した後に、上型21に設けられているゴム注入口(図示せず)からキャビティ25にゴムを注入し、ブッシュゴム15、ダンパゴム16および連結ゴム17を成形する。連結ゴム17により、ブッシュゴム15とダンパゴム16とを連結することで、ゴム注入口を1箇所としても、これらを一体に成形できる。
【0037】
そして、この後、ゴム成形型21〜24を離脱させる。具体的には、上型21を図3の上方に移動させ、下型22を図3の下方へ移動させる。そして、第一中子23を図3の右側に移動させ、第二中子24を図3の左側に移動させる。
【0038】
ここで、ブッシュゴム15の軸方向端面のうち図2の右側(ダンパゴム16側)は、第一外筒部材12の図2の軸方向右端面(フランジ部12bの図2の右端面)を通る軸直角平面上に形成されている。さらに、ダンパゴム16の軸方向端面のうち図2の左側(ブッシュゴム15側)は、第二外筒部材13の図2の軸方向左端面を通る軸直角平面上に形成されている。従って、第一中子23および第二中子24は、ブッシュゴム15およびダンパゴム16に対して、アンダーカット形状にならない。従って、非常に容易に成形できる。
【0039】
続いて、ゴム加硫工程の後には、質量部材14を第二外筒部材13の外周側に圧入により取り付ける(質量部材取付工程)。このとき、第二外筒部材13および質量部材14の重心と、ダンパゴム16の弾性中心O1とが一致するように、軸方向位置を調整する。ここで、質量部材14を第二外筒部材13に対して別体としたことにより、ダンパゴム16を成形した後に、質量部材14を取り付けるようにできる。このことにより、ダンパゴム16の軸方向端面のうち図2の左側(ブッシュゴム15側)がアンダーカット形状にならないようにしつつ、質量部材14の外径の小型化を図ることができる。
【0040】
続いて、内筒部材11の小径部11aを第一中空軸部材2の外周面のうち旋削加工などが施されている部位2aに圧入により取り付ける(第一中空軸部材取付工程)。ここで、内筒部材11のうち第一中空軸部材2に圧入される部位は、内筒部材11の小径部11aのみである。つまり、内筒部材11の大径部11bは、第一中空軸部材2に圧入されることもなければ、接触することもない。従って、ダンパゴム16は、この圧入により圧縮されることはない。従って、ダンパゴム16のばね特性は、この圧入を考慮することなく設計できる。つまり、ダンパゴム16、第二外筒部材13および質量部材14により構成されるダイナミックダンパ単体としての設計どおりの特性を得ることが容易となる。
【0041】
続いて、第一外筒部材12を第二中空軸部材3の内周面に圧入により取り付ける(第二中空軸部材取付工程)。ここで、ブッシュゴム15は、内筒部材11の小径部11aを第一中空軸部材2に圧入することに加えて、第一外筒部材12を第二中空軸部材3に圧入することにより、圧縮される。ただし、従来のブッシュゴム15においても、本実施形態のような内筒部材11と第一外筒部材12に相当する部材を有しており、圧入により圧縮された状態で取り付けられていた。つまり、これまでも、ブッシュゴム15は、圧縮された状態で取り付けられており、本実施形態においても、実質的に従来と同様に圧縮された状態で取り付けられている。つまり、内筒部材11の小径部11aと第二外筒部材12とにより圧縮されることは、従来と同じ状態となる。
【0042】
ただし、本実施形態においては、内筒部材11の大径部11bおよび連結部11c、並びに、ダンパゴム16および連結ゴム17を有する。しかし、内筒部材11の大径部11bは、上述したように、第一中空軸部材2に圧入される部位ではない。また、内筒部材11の連結部11cも実質的には、第一中空軸部材2に圧入される部位ではない。従って、ブッシュゴム15のばね特性は、内筒部材11の大径部11bおよび連結部11c、並びに、ダンパゴム16および連結ゴム17が存在することによる影響を受けない。つまり、ブッシュゴム15のばね特性については、内筒部材11の小径部11aと第一外筒部材12が圧入されることのみを考慮すればよい。このように、ブッシュゴム15の設計が容易となり、ブッシュゴム15単体としての設計どおりのばね特性を得ることが容易となる。
【0043】
上述したように、本実施形態においては、ブッシュとしての機能を発揮する部分、すなわち、内筒部材11の小径部11a、第一外筒部材12およびブッシュゴム15と、ダイナミックダンパとしての機能を発揮する部分、すなわち、内筒部材11の大径部11b、第二外筒部材13、質量部材14およびダンパゴム16とを、一体に成形している。これにより、製造コストの低減および部品点数の低減を図ることができる。さらに、第一中耳空軸部材2に取り付ける際にも、内筒部材11の小径部11aを圧入するのみで、結果的に、ダイナミックダンパとしての機能を発揮する部分も取り付けることができることになる。従って、組付工数を削減でき、結果として、低コスト化を図ることができる。
【0044】
<その他の実施形態>
上記実施形態においては、ブッシュゴム15の軸方向端面のうち図2の右側(ダンパゴム16側)を、第一外筒部材12の図2の軸方向右端面(フランジ部12bの図2の右端面)を通る軸直角平面上に形成した。また、ダンパゴム16の軸方向端面のうち図2の左側(ブッシュゴム15側)を、第二外筒部材13の図2の軸方向左端面を通る軸直角平面上に形成した。
【0045】
この他に、ブッシュゴム115およびダンパゴム116の形状を図4に示すようにしてもよい。ブッシュゴム115の軸方向端面のうち図4の右側(ダンパゴム116側)は、第一外筒部材12の図4の軸方向右端面よりダンパゴム116側に突出するとともに、径方向内方側ほどその突出量が大きくなるように形成される。より詳細には、ブッシュゴム115の当該端面は、テーパ状に形成されている。つまり、ブッシュゴム115の当該端面は、第一中子23および第二中子24の抜き勾配を有している形状となる。また、ダンパゴム116の軸方向端面のうち図4の左側(ブッシュゴム115側)を、第二外筒部材13の図4の軸方向左端面よりブッシュゴム115側に突出するとともに、径方向内方側ほどその突出量が大きくなるように形成される。より詳細には、ダンパゴム116の当該端面は、テーパ状に形成されている。つまり、ダンパゴム116の当該端面は、第一中子23および第二中子24の抜き勾配を有している形状となる。このような形状とすることで、第一中子23および第二中子24をより容易に離脱することができる。
【0046】
また、上記実施形態においては、内筒部材11は、小径部11aと大径部11bと連結部11cとから構成されることとした。この他に、内筒部材11は、円筒状、すなわち、軸方向に亘って同径の内径および、軸方向に亘って同径の外径からなる形状としてもよい。ただし、この場合には、第一中空軸部材2の加工部位2aの軸方向長さを長くしなければならず、圧入する軸方向長さも長くなる。さらには、ダンパゴム16が圧入による影響を受けるため、この影響を考慮してダンパゴム16の設計を行わなければならない。
【0047】
また、上記実施形態においては、第二外筒部材13と質量部材14とは別体に成形している。この他に、両者を一体成形してもよい。ただし、上述したように、別体の方が、ダンパゴム16の成形性の観点から良好である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ステアリングシャフトの防振装置1の軸方向から見た図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】ブッシュゴム15、ダンパゴム16および連結ゴム17の一体加硫成形を行う工程を示す図である。
【図4】ステアリングシャフトの防振装置の他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1:ステアリングシャフトの防振装置、 2:第一中空軸部材、 2a:加工部位、
3:第二中空軸部材、 4:ユニバーサルジョイント、
11:内筒部材、 11a:小径部、 11b:大径部、 11c:連結部、
12:第一外筒部材、 12a:円筒部、 12b:フランジ部、
13:第二外筒部材、
14:質量部材、
15、115:ブッシュゴム、
16、116:ダンパゴム、 16a:すぐり、
17:連結ゴム、
21:上型、 22:下型、 23:第一中子、 24:第二中子、
25:キャビティ、
O1:ダンパゴム16の弾性中心、
Ox:ダンパゴム16の軸方向中心、 Oy:ダンパゴム16の径方向中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状からなり、ステアリングシャフトの第一軸部材の外周面に圧入により取り付けられる内筒部材と、
筒状からなり、前記内筒部材に対して径方向外方に離隔して配置され、且つ、ステアリングシャフトの第二中空軸部材の内周面に圧入により取り付けられる第一外筒部材と、
筒状からなり、前記内筒部材に対して径方向外方に離隔して配置され、且つ、前記第一外筒部材に対して軸方向に離隔して配置される第二外筒部材と、
前記第二外筒部材の外周面に取り付けられる質量部材と、
前記内筒部材の外周面と前記第一外筒部材の内周面とを弾性連結するブッシュゴムと、
前記内筒部材の外周面と前記第二外筒部材の内周面とを弾性連結するダンパゴムと、
を備えることを特徴とするステアリングシャフトの防振装置。
【請求項2】
前記内筒部材は、前記第一軸部材の外周面に圧入される小径部と、前記小径部の内径より大きく且つ前記第一軸部材の外径より大きな内径からなる大径部とを備え、
前記ブッシュゴムは、前記小径部の外周面に弾性連結され、
前記ダンパゴムは、前記大径部の外周面に弾性連結される請求項1に記載のステアリングシャフトの防振装置。
【請求項3】
前記ブッシュゴムと前記ダンパゴムは、一体加硫成形される請求項1に記載のステアリングシャフトの防振装置。
【請求項4】
前記ブッシュゴムと前記ダンパゴムを連結し、前記ブッシュゴムと前記ダンパゴムとともに一体加硫成形され、前記ブッシュゴムおよび前記ダンパゴムの肉厚よりも薄く形成される連結ゴムを備える請求項3に記載のステアリングシャフトの防振装置。
【請求項5】
前記ブッシュゴムの軸方向端面のうち前記ダンパゴム側は、前記第一外筒部材の軸方向端面を通る軸直角平面上に形成される請求項3または4に記載のステアリングシャフトの防振装置。
【請求項6】
前記ブッシュゴムの軸方向端面のうち前記ダンパゴム側は、前記第一外筒部材の軸方向端面より前記ダンパゴム側に突出するとともに径方向内方側ほどその突出量が大きくなるように形成される請求項3または4に記載のステアリングシャフトの防振装置。
【請求項7】
前記ダンパゴムの軸方向端面のうち前記ブッシュゴム側は、前記第二外筒部材の軸方向端面を通る軸直角平面上に形成される請求項3〜6の何れか一項に記載のステアリングシャフトの防振装置。
【請求項8】
前記ダンパゴムの軸方向端面のうち前記ブッシュゴム側は、前記第二外筒部材の軸方向端面より前記ブッシュゴム側に突出するとともに径方向内方側ほどその突出量が大きくなるように形成される請求項3〜6の何れか一項に記載のステアリングシャフトの防振装置。
【請求項9】
前記第二外筒部材および前記質量部材の重心と、前記ダンパゴムの弾性中心とが一致するように設定される請求項1〜8の何れか一項に記載のステアリングシャフトの防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−238967(P2008−238967A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82333(P2007−82333)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】