説明

ステアリングロック装置

【課題】耐久性及び信頼性を高めることを可能としたステアリングロック装置を提供する。
【解決手段】ステアリングロック装置1は、キーKにより回転操作される回転部材17と、ステアリングシャフトの回転を許容するアンロック位置とステアリングシャフトの回転を阻止するロック位置との間を移動するロック部材22と、回転部材17の回転操作を直線運動に変換してロック部材を移動させるスライド部材24とを収容するケース部材3とを備えている。ステアリングロック装置1は更に、スライド部材24が移動する移動空間に対向してケース部材3に形成された対向壁部3aに設けられた緩衝機構50により、スライド部材がケース部材の対向壁部に当接する際の衝撃力を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のステアリングシャフトの回転をロックするステアリングロック装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用ステアリング装置は、車両の盗難を防止するため、ステアリングシャフトの回転をロックするステアリングロック装置を備えている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この種の従来のステアリングロック装置においては、キーが挿入されたキーロータをACC位置又はON位置からLOCK位置に回転させると、ロックボディ内を進退するスライダと一緒にロックバーがステアリングシャフトに向けて移動してステアリングシャフトに係合することで、ステアリングシャフトが回転不能にロックされる。一方、キーロータを上記操作とは逆方向に回転させると、ロックバーがスライダと一緒にステアリングシャフトとは反対側のロック解除位置に向けて移動してステアリングシャフトに対するロックバーの係合を解除することで、ステアリングシャフトの回転が許容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−238950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された従来のステアリングロック装置は、ロックボディのスライダ対向壁部がロックバーを抜け止めするためのストッパ部とされており、ステアリングロック時に、ロックボディにスライダを当接させた状態でロックバーがステアリングシャフトに係合して、ステアリングシャフトが回転不能にロックされる構成となっている。
【0006】
ステアリングロック時においては、スライダとロックボディとの当接によりスライダが繰り返し荷重及び衝撃荷重を受けるので、曲げモーメントが増加する形状を有するスライダに対しては金属疲労によるスライダの亀裂や破損等を考慮する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、耐久性及び信頼性を高めることを可能としたステアリングロック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明は、キーにより回転操作される回転部材と、ステアリングシャフトの回転を許容するアンロック位置と前記ステアリングシャフトの回転を阻止するロック位置との間を移動するロック部材と、前記回転部材の回転操作を直線運動に変換して前記ロック部材を移動させるスライド部材と、前記回転部材、前記ロック部材、及び前記スライド部材を収容するケース部材と、前記スライド部材が移動する移動空間に対向して前記ケース部材に形成された対向壁部に設けられた緩衝機構とを備えており、前記緩衝機構により、前記スライド部材が前記ケース部材の対向壁部に当接する際の衝撃力を減少させることを特徴とするステアリングロック装置にある。
【0009】
[2]上記[1]記載の前記緩衝機構は、前記スライド部材に当接されるリッド部と、前記リッド部を支持する付勢部材とにより構成されており、前記リッド部が前記付勢部材を介して前記ケース部材の対向壁部から突出させた状態で前記対向壁部内に収容されたことを特徴とする。
【0010】
[3]上記[2]記載の前記リッド部は、前記スライド部材が前記リッド部に当接してから前記ケース部材の対向壁部に当接するまでの速度を減衰させる距離をもって前記対向壁部から突出されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のステアリングロック装置によれば、耐久性及び信頼性を高めることができるようになり、安全をよりいっそう高い水準で確保することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明に好適な実施の形態に係るステアリングロック装置を概略的に示す要部側面図であり、(b)は概略底面図である。
【図2】図1に示したステアリングロック装置の内部構造を概略的に示す縦断面図である。
【図3】図1に示したステアリングロック装置におけるロック部材とステアリングコラムとを概略的に示す部分断面図である。
【図4】図1に示したステアリングロック装置の緩衝機構を模式的に示す図であって、(a)はスライド部材が壁部に当接する前の動作を説明するための図であり、(b)はスライド部材が壁部に当接したときの動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0014】
(ステアリングロック装置の全体構成)
図1及び図2において、全体を示す符号1は、車両用のステアリングロック装置の全体構成を模式的に示している。なお、以下の説明においては、キーKの挿入方向(図2の右側)を後部といい、キーKの抜脱方向(図2の左側)を前部といい、キーKの鍵孔を正面からみて上下左右という。
【0015】
このステアリングロック装置1は、図1及び図2に示すように、キー部10、ステアリングロック部20、インターロックユニット30、及びイグニッションスイッチユニット40により主に構成されている。ステアリングロック装置1は、例えば亜鉛ダイカスト等の金属材料により一体に加工成形されたケース部材2を有している。
【0016】
このケース部材2の外壁部には、図1及び図2に示すように、不正なロック解除を防止するためのプロテクタ21が取り付けられている。このプロテクタ21は、磁石を用いた不正行為を防止するために磁性金属材料からなり、ステアリングロック部20のロックバー22が移動する延長線上に交差して配置されている。
【0017】
(キー部の構成)
このケース部材2の前部に形成されたキー部10の内部には、図2に示すように、キーシリンダ11が収容されている。このキーシリンダ11は、筒状のシリンダ12と、シリンダ12内に回転可能に収容された筒状のロータ13とを有している。このロータ13には、キーKを挿入する鍵孔13aが軸線方向に沿って形成されている。
【0018】
このロータ13の内部には、図2に示すように、ロータ径方向に長い複数のタンブラ14,…,14が、ロータ軸線方向に沿って移動可能に収容されている。このタンブラ14の自由端部は、キーKが挿入されていない状態で、ロータ13の外周面から突出してシリンダ12の内周面に係合する。これにより、ロータ13の回転が規制される。一方、ロータ13にキーKが挿入されると、キーKの山溝形状の端面に対応してタンブラ14のそれぞれが係合し、全てのタンブラ14がロータ13の外周面から退避する。これにより、ロータ13の回転操作が可能になる。
【0019】
このロータ13の前部側の下部には、図2に示すように、スライドピース15がロータ径方向に移動可能に配設されている。このスライドピース15の外面は、ロータ13の外周面とは同一曲率をもって湾曲して形成されている。そのロータ13とスライドピース15とは、キーシリンダ11内で一体回転するようになっている。ロータ13内にキーKを挿入した状態で、スライドピース15の端部がキーKの一部に当接することで、ロータ中心方向への移動が規制される。
【0020】
このキーシリンダ11の下側には、図2に示すように、可動部材である長尺状のアンチロックレバー16がキーシリンダ11の中心軸線と平行に配置されており、支軸16cを中心として上下方向揺動可能に支持されている。このアンチロックレバー16の鍵孔側の前端には、スライドピース15に向けて屈曲した前端部16aが形成されている。アンチロックレバー16の後端には、ステアリングロック部20と係止可能な後端部16bが屈曲形成されている。
【0021】
このアンチロックレバー16の前端部16aは、図示しないスプリング等により、スライドピース15に向かう方向(上昇する方向)に弾性力が作用している。ロータ13がLOCK位置にある状態、又はキーシリンダ11からキーKが抜かれた状態では、この弾性力が作用してアンチロックレバー16の前端部16aが上昇し、それと同時に後端部16bが下降し、アンチロック状態が解除されるステアリングロック許可状態となる。
【0022】
キーシリンダ11のロータ13の後軸13bには、図2に示すように、回転部材であるカムシャフト17が連結されている。このカムシャフト17は、小径円筒状の内筒部17aと大径円筒状の外筒部17bとを有している。この内筒部17aと外筒部17bとは、前端縁において連結一体化して内外二重筒構造とされている。
【0023】
この内筒部17aの内周面には、図2に示すように、ロータ13の後軸13bが内嵌固定されている。内筒部17aの後端部は、ケース部材2から突出してイグニッションスイッチユニット40に連結されている。ロータ13がキーKにより回転操作されると、カムシャフト17を介してイグニッションスイッチユニット40が操作される。
【0024】
このカムシャフト17の内筒部17aと外筒部17bとの間に形成された空間には、図2に示すように、トーションスプリング18が収容されている。このトーションスプリング18の一端は、外筒部17bに係止されている。キーKの回転操作によりキーシリンダ11のロータ13がON位置に達したとき、トーションスプリング18の他端がケース部材2に係止する。キーKをSTART位置側に回転操作すると、START位置からON位置に戻す方向のスプリング力がカムシャフト17に作用するようになっている。
【0025】
(ステアリングロック部の構成)
このケース部材2の後部側下部に形成されたステアリングロック部20は、図2に示すように、ロックバー22、コンプレッションスプリング23、及びスライド部材であるスライダ24を備えている。このステアリングロック部20は、キー部10のロータ回転軸線と平行に配置されており、ステアリングロック装置1が小型化されている。
【0026】
このロックバー22は、図2に示すように、剛性の高い金属材料により長尺板状に形成されたロック部材からなり、ロータ13の回転軸線に対して平行な方向に進退移動可能にケース部材である筒状のロックボディ3内に収容されている。このロックボディ3は、例えば亜鉛ダイカスト等の金属材料により一体に加工成形されている。図2においてはロックバー22の先端部は、ケース部材2内の凹状の穴部に支持されているコンプレッションスプリング23の弾力に抗してロックボディ3内に退避した状態で収容されており、キーKの回転操作によりキーシリンダ11のロータ13がON位置にある。
【0027】
このロックバー22の前側寄りの上端部には、図2に示すように、溝部22aが形成されている。この溝部22a内には、ブロック体からなるスライダ24の下端部がロータ軸線方向に往復動可能に嵌合されている。キーシリンダ11のロータ13がLOCK位置にあるとき、スライダ24の後端面が対向壁部となるロックボディ3の後部内壁3aに当接することで、ロックバー22がケース部材2から抜け止めされる。
【0028】
このスライダ24の前部下端部には、図2に示すように、ケース部材2内の凹状の穴部に係止されたコンプレッションスプリング23を収容する筒状のバネ受部24aが形成されている。コンプレッションスプリング23の付勢力により、ロックバー22がロックボディ3の後部からステアリングコラム100側へ突出するようになっている。
【0029】
このスライダ24の上部には、図2に示すように、フォロア部24bが一体形成されている。このフォロア部24bは、カムシャフト17の外筒部17bの下部に形成された図示しないカム面に接触して従動するものであり、カムシャフト17の回転運動をスライダ24の直線運動に変換する。スライダ24の前側上部には、アンチロックレバー16の後端部16bと係止可能な係止突起24cが形成されている。
【0030】
このスライダ24のフォロア部24bは、カムシャフト17がキーシリンダ11のロータ13と一緒に回転した際に、カムシャフト17のカム面を移動する。これにより、ロックバー22がスライダ24と一緒にステアリングシャフト101の回転を阻止するロック位置と、ステアリングシャフト101の回転を許容するアンロック位置とに移動する。
【0031】
(ステアリングロック装置の動作)
ここで、図3を参照すると、図3には、ステアリングロック装置1のロックバー22によりステアリングシャフト101の回転を阻止するロック状態が示されている。半円弧状のブラケット200の一端は、ケース部材2のヒンジブロック部2aにおいてヒンジ軸201を介して開閉可能に支持されている。このブラケット200を開け、ステアリングコラム100をケース部材2に挟み込み、ブラケット200を閉じた状態で、ボルト202を介してブラケット200の他端をケース部材2のボスブロック部2bに固定することで、ステアリングコラム100がステアリングロック装置1に取り付けられる。
【0032】
ロックバー22がステアリングコラム100側に進出するロック位置では、ロックバー22の先端部がステアリングシャフト101に嵌着されているスプラインボス102の凹部103内に係合することで、ステアリングシャフト101の回転が規制される。ロックバー22がスプラインボス102の凹部103内から退避するアンロック位置では、ロックバー22とスプラインボス102との係合が解除され、ステアリングシャフト101の回転が許容される。
【0033】
このステアリングロック部20の構成によると、キーKが鍵孔13aから抜かれた状態においては、スライドピース15の移動が規制されず、アンチロックレバー16の前端部16aにより押し上げられるとともに、アンチロックレバー16の後端部16bが下降する。これにより、スライダ24の係止突起24cとアンチロックレバー16の後端部16bとは係止できず、コンプレッションスプリング23の弾性伸張力によりロックバー22がロック位置に進出する。
【0034】
キーKが鍵孔13aに挿入され、ロータ13がLOCK位置からACC位置に回転する過程においては、スライドピース15の外面がロータ13の外周面と一致する位置に移動し、アンチロックレバー16の前端部16aを押し下げるとともに、アンチロックレバー16の後端部16bが上昇する。このとき、ロータ13の回転に連動してカムシャフト17が回転し、カムシャフト17のカム面に接触して従動するフォロア部24bと一緒にスライダ24の係止突起24bが前方に移動する。それと同時に、溝部22aを介してスライダ24に連結されたロックバー22がアンロック位置に退避する。
【0035】
そして、回転操作されたロータ13がACC位置に達すると、スライダ24の係止突起24bがアンチロックレバー16の後端部16bに係止することでスライダ24が保持されるとともに、ロックバー22もアンロック位置に保持される。これにより、キーKがACC位置に回転操作された後は、ステアリングロックが誤って作動しないようにアンチロックされる。
【0036】
(スライダ緩衝機構の構成)
ところで、キーシリンダ11のロータ13がLOCK位置に回転操作される度に、スライダ24の後端面とロックボディ3の後部内壁3aとの当接によりスライダ24が繰り返し荷重及び衝撃荷重を受ける。スライダ24の図2に破線で囲んで示す部位Fは、他の部位よりも強度的に弱い脆弱部であり、この脆弱部Fの金属疲労による亀裂や破損等を未然に防止することが肝要である。
【0037】
このステアリングロック装置1の主要な基本構成は、スライダ24の形状に起因するストレスを緩和し、スライダ24の負担を軽減するために機能するスライダ緩衝機構にある。従って、上記のように構成されたステアリングロック装置1の全体構成は、図示例に限定されるものではない。
【0038】
このスライダ緩衝機構50は、図2及び図4に示すように、スライダ24に当接されるリッド部51と、そのリッド部51を支持する付勢部材である圧縮コイルバネ52とにより構成されている。このリッド部51は、ロックボディ3の後部内壁3aの一部を構成するブロック形状に形成されており、ロックボディ3の後部内壁3aから突出した状態で配置されている。そのリッド部51の材質や厚みなどは、特に限定されるものではないが、例えば亜鉛ダイカスト等の金属材料などが用いられる。
【0039】
一方の圧縮コイルバネ52は、図4に示すように、大径のピッチ巻き部分の一端に小径の密着巻き部分53を有する形状に一体に形成されている。圧縮コイルバネ52の材質は、特に限定されるものではなく、例えば弾性力を発生させることができるものであればよく、各種の金属材料や樹脂材料などが利用できる。圧縮コイルバネ52としては、ロックバー22を付勢するコンプレッションスプリング23のバネ定数よりも小さいことが好適である。バネ特性の度合いを設定することで適度な緩衝機能を有することができる。
【0040】
このロックボディ3の後部内壁3aには、図4に示すように、スライダ緩衝機構50を収容する緩衝収容部3bがスライダ24の後端面に対向して配置されている。この緩衝収容部3bは、スライダ24の移動空間4に連通する開口をもち、その長手方向の内周面から内方に向かう支持面を有する段部3cをもって階段形状に形成されている。その段部3cの支持面が圧縮コイルバネ52のピッチ巻き部分を支持しており、段部3cの底面に形成された圧入溝部3dには圧縮コイルバネ52の密着巻き部分53が圧入固定されている。
【0041】
一般的に、質量Mの物体に力Fが作用時間tで作用し、速度vが変化したときの力積と運動量の変化は、Ft=Mvで表せる。この式を衝突時におけるスライダ24の動きに当て嵌めると、スライダ24に加わる衝撃の作用時間tが短くなればなるほど、スライダ24に作用する衝撃力Fが大きくなる。スライダ24が受ける衝撃力Fを小さくするためには作用時間tを長くすることが肝要である。そして、作用時間tを長くするためには衝撃の速度vを減速させることが肝要である。
【0042】
以上より、この実施の形態に係るスライダ緩衝機構50は、スライダ24がリッド部51に当接する位置からスライダ24がロックボディ3の後部内壁3aに達するまでの衝突時の作用時間を長くするとともに、衝撃速度を減衰させる距離Lをもって、圧縮コイルバネ52を介してリッド部51をロックボディ3の後部内壁3aから突出した状態で配置した構成となっている。そのリッド部51の設定厚み、コンプレッションスプリング23及び圧縮コイルバネ52のバネ特性、スライダ24及びリッド部51の設定間隔等を適切に選定することで適度な緩衝効果が得られる。
【0043】
この構成を採用することで、スライダ24がコンプレッションスプリング23の付勢力によりロックボディ3の後部内壁3aに当接する前に、圧縮コイルバネ52の弾力により衝撃速度を吸収し、スライダ24がロックボディ3の後部内壁3aに達したときには衝撃速度を限りなく零にすることで、スライダ24の移動を吸収することができる。その結果、スライダ24に加わる繰り返し荷重や衝撃荷重を緩衝してスライダ24の負担を軽減することが可能となる。
【0044】
(スライダ緩衝機構の動作)
次に、図4を参照しながら、上記のように構成されたスライダ緩衝機構50の動作を説明する。キーKが鍵孔13aに挿入されたロータ13がON位置からLOCK位置に回転する過程においては、図4(a)に示すように、コンプレッションスプリング23の弾力によりスライダ24をスライダ緩衝機構50のリッド部51に当接させる。
【0045】
続いて、図4(b)に示すように、圧縮コイルバネ52の弾力に抗してリード部51をロックボディ3の緩衝収容部3b内に押し込む。このとき、リード部51は、スライダ24がリッド部51に当接する位置からロックボディ3の後部内壁3aに達するまでの距離Lをもって配されているため、圧縮コイルバネ52の弾力により衝突時の作用時間を長くするとともに、衝撃時の速度を減衰させる。
【0046】
もし、スライダ24の後端面がロックボディ3の後部内壁3aにダイレクトに当接する構成の場合は、衝突時の作用時間が短くなり、スライダ24に作用する力が大きくなるので、スライダ24の衝撃を吸収することはできない。スライダ24の後端面やロックボディ3の後部内壁3aに弾性材を設けた構成であっても、恒久性の面で好ましくない。
【0047】
これに対し、この実施の形態にあっては、スライダ24がリッド部51に当接する位置からロックボディ3の後部内壁3aに達するまでの距離Lで、圧縮コイルバネ52の弾力により衝撃時の速度を吸収して速度を限りなく零にすることで、スライダ24の衝撃を吸収する構成が得られる。その結果、スライダ24の脆弱部Fの金属疲労による亀裂や破損等を未然に防止することができるようになる。
【0048】
(実施の形態の効果)
上記のように構成されたステアリングロック装置1によると、上記効果に加えて、繰り返し荷重及び衝撃荷重を受けるスライダ24のストレスが緩和されるので、スライダ24の脆弱部Fに起因する欠陥の発生を抑制することができる。繰り返し荷重及び衝撃荷重を受けることで曲げモーメントが増加する形状を有するスライダに効果的に用いることができる。
【0049】
ロックボディ3の後部内壁3aからの衝撃荷重に対するスライダ24の強度を確保することで、ステアリングロック装置1の耐久性及び信頼性を高めることができるようになり、安全をよりいっそう高い水準で確保することが可能になる。
【0050】
スライダ24の脆弱部Fの金属疲労による亀裂や破損等の発生を防止することができるので、車両走行中においてロックバー22が運転者の意図に反して勝手にロック状態になることを確実に防止することができる。
【0051】
[変形例]
以上の説明からも明らかなように、本発明のステアリングロック装置1を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態及び図示例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。本発明にあっては、例えば次に示すような他の変形例も可能である。
【0052】
上記実施の形態及び図示例では、ブロック形状のリッド部51と圧縮コイルバネ52とにより構成したスライダ緩衝機構50の一例を例示したが、これに限定されるものではない。スライダ緩衝機構50の構成部品の材質、大きさや形状等は、軽量であり、衝突時のエネルギを効率的に吸収する構成であればよい。スライダ緩衝機構50の設置個数や配置位置などにあっても、スライダ24の移動空間4に対向して設けられていれば、特に限定されるものではないことは勿論である。
【0053】
スライダ24又はリッド部51のいずれか一方の当接面に弾力性に富む材料を積層した構成でもよく、想定される衝撃エネルギの程度に応じて適宜に設計すればよい。この場合は、スライダ24とリッド部51とが衝突するときに発生する衝突音を軽減させることができる。
【0054】
上記実施の形態及び図示例では、ブロック形状のリッド部51を圧縮コイルバネ52により支持する一例を例示したが、これに限定されるものではなく、設置スペースを確保することが可能であれば、例えばバネに代えて、ゴム、空気や粘性体などを利用したダンパを組み込むことも可能である。
【0055】
上記実施の形態及び図示例では、スライダ24に取り付けられたコンプレッションスプリング23によりロックバー22及びスライダ24を後部側へ付勢する構成を例示したが、これに限定されるものではなく、例えばロックバー22にコンプレッションスプリング23を取り付けることで、ロックバー22及びスライダ24を後部側へ付勢する構成であってもよい。
【0056】
以上の説明からも明らかなように、上記実施の形態、変形例、及び図示例の中で説明した特徴の組合せの全てが本発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0057】
1…ステアリングロック装置、2…ケース部材、2a…ヒンジブロック部、2b…ボスブロック部、3…ロックボディ、3a…後部内壁、3b…緩衝収容部、3c…段部、3d…圧入溝部、4…移動空間、10…キー部、11…キーシリンダ、12…シリンダ、13…ロータ、13a…鍵孔、13b…後軸、14…タンブラ、15…スライドピース、16…アンチロックレバー、16a…前端部、16b…後端部、16c…支軸、17…カムシャフト、17a…内筒部、17b…外筒部、18…トーションスプリング、20…ステアリングロック部、21…プロテクタ、22…ロックバー、22a…溝部、23…コンプレッションスプリング、24…スライダ、24a…バネ受部、24b…フォロア部、24c…係止突起、30…インターロックユニット、40…イグニッションスイッチユニット、50…スライダ緩衝機構、51…リッド部、52…圧縮コイルバネ、53…密着巻き部分、100…ステアリングコラム、101…ステアリングシャフト、102…スプラインボス、103…凹部、200…ブラケット、201…ヒンジ軸、202…ボルト、K…キー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キーにより回転操作される回転部材と、
ステアリングシャフトの回転を許容するアンロック位置と前記ステアリングシャフトの回転を阻止するロック位置との間を移動するロック部材と、
前記回転部材の回転操作を直線運動に変換して前記ロック部材を移動させるスライド部材と、
前記回転部材、前記ロック部材、及び前記スライド部材を収容するケース部材と、
前記スライド部材が移動する移動空間に対向して前記ケース部材に形成された対向壁部に設けられた緩衝機構とを備えており、
前記緩衝機構により、前記スライド部材が前記ケース部材の対向壁部に当接する際の衝撃力を減少させることを特徴とするステアリングロック装置。
【請求項2】
前記スライド部材に当接されるリッド部と、前記リッド部を支持する付勢部材とにより構成されており、
前記リッド部が前記付勢部材を介して前記ケース部材の対向壁部から突出させた状態で前記対向壁部内に収容されたことを特徴とする請求項1記載のステアリングロック装置。
【請求項3】
前記リッド部は、前記スライド部材が前記リッド部に当接してから前記ケース部材の対向壁部に当接するまでの速度を減衰させる距離をもって前記対向壁部から突出されたことを特徴とする請求項2記載のステアリングロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−63726(P2013−63726A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204400(P2011−204400)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)