説明

ステップモータの制御装置

【目的】 脈動トルクを抑制して高精度にステップモータの制御を行う。
【構成】 d軸電流指令値として零が与えられ、このd軸電流指令値とd軸検出電流値との偏差(d軸偏差)に基づいてd軸電流をフィードバック制御する。一方、電気角θによる脈動トルクを防止するため、検出電気角を変数とする関数とFq(θr)と検出q軸電流iとの積が一定になるように脈動補償器50はq軸電流指令値を補償制御して、この補償q軸電流指令値に基づいてq軸電流を制御する。上述のようにして、d軸及びq軸電流を制御することによって脈動トルクを抑制してステップモータを高精度に制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はステップモータの制御装置に関し、特に、ステップモータ駆動時に生じるトルク脈動を抑制するための制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】ステップモータは電気パルスを入力としてパルス数に対応した機械角度を出力とするモータである。このステップモータには種々のものがあるが、その1つにハイブリッド形ステップモータがある。
【0003】ここで図4を参照して、ステップモータの動作について可変レラクタンス(VR)形ステップモータを例にとって説明する。
【0004】図示のステップモータは、筒状のステータ10と、このステータ10内に収容され回転軸RAの回りに回転可能なロータ20とを備えている。ステータ10は、周方向に(π/3)ラジアン(60°)の間隔をおいて配置されて半径方向内側に突出した6個のステータ歯12を有する。図示はしていないが、各ステータ歯12にはステータコイルが巻回されている。ここでは、互いに対向する対のステータ歯12の3組を、それぞれ、U1−U2、V1−V2、およびW1−W2と呼び、それらに巻回されたステータコイルを、それぞれ、U−U´相、V−V´相、およびW−W´相と呼ぶことにする。一方、ロータ20は、周方向に(π/2)ラジアン(90°)の間隔をおいて配置されて半径方向外側に突出した4個のロータ歯22を有する。
【0005】上述のステップモータにおいて、図4(1)に示す如く、U1−U2のステータ歯12がそれぞれN極およびS極となるように、ステータコイル(U−U´相)を励磁したとする。この場合、U1−U2のステータ歯12とロータ歯22とが対面する位置でロータ20が停止する(図4(1)参照)。この状態で、図4R>4(2)に示されるように、U−U´相の励磁を切り、V−V´相を励磁したとする。この場合、ロータ20が反時計方向(CCW)に(π/6)ラジアン(30°)回転する(図4(3)参照)。すなわち、このステップモータのステップ角は30°である。さらに、V−V´相からW−W´相に励磁を切り変えると再び反時計方向に30°回転する。
【0006】このように、ステップモータは、通常、ステータ歯12に巻かれたステータコイルの励磁を切り換えることにより、位置・速度検出器を持たずに歩進動作を行なう。しかしながら、このような構造を有するステップモータには以下に述べるような欠点がある。
【0007】a.励磁されたステータ歯とロータ歯との間に働く保持トルク以上の負荷がかかると、“脱調”を生じてステップモータを制御することが不可能になる。
【0008】b.励磁切り換えのみの運転では、ステップモータを正確にトルク制御することが不可能となる。
【0009】c.トルク脈動が大きい。
【0010】これらの欠点を解決するために、従来から、マイクロステップ駆動法とフィードバック制御法とが採用されている。ここで、マイクロステップ駆動法とは、ステップモータの励磁切り換えを正弦波状に切り換えることで、トルク脈動を抑制する制御方法である。一方、フィードバック制御法とは、ステップモータに位置・速度検出器を取り付け、その検出器からの検出信号をフィードバックすることで脱調等を防ぐ制御方法である。
【0011】しかしながら、上述した制御法のいずれも、ステップモータの理論的な電気回路モデルに基づいていないため、下記の問題を有する。
【0012】A.最適制御条件がわからないため、制御条件の設定があやふやとなる。
【0013】B.ステップモータの速度起電力、変圧器起電力、インピーダンス降下等の性能抑制要因が考慮されていないので、精密な制御ができない。
【0014】C.上記A、Bより、ステップモータの“中身”がわからず、ブラックボックスとして扱うため、制御設計ができない。
【0015】D.上記AとCより、制御性向上が望めず、またその限界点も把握できない。
【0016】ところで、1987年2月14日付けで社団法人電気学会から発行した「電気学会研究会資料 半導体電力変換研究会 SPC−87−14〜25」中のSPC−87−17,頁31〜40に「ステップモータによるブラシレスモータとその脈動トルクの考察」という題で、山中 広之、百目鬼 英雄、および本発明者の一人である松井 信行共著による論文が発表されている。この論文では、d−q軸モデルで電圧方程式を導出し、永久磁石型同期モータ、すなわち、ブラシレスモータと同じ形のブロック図と制御方法を提案している。しかしながら、この論文のモデル化の基本的な考えが、励磁方法とその駆動形態のみからステップモータが二相同期モータと同じとしており、論文には何故そうなるのかが理論的に説明されていない。
【0017】そこで、本発明者らは以下に詳細に説明するように、ステップモータ(特に、3相HB形ステップモータ)が一般のブラシレスDCモータと同一の形で表わされることを理論的に証明した。
【0018】図5を参照して、ステップモータの理論的な電気回路モデルについて、3相HB形ステップモータを例にとって説明する。3相HB形ステップモータは、筒状のステータ10と、このステータ10内に回転軸RAの回りに回転可能に収容されたロータ20とからなる。図示のステータ10はステータコア11を含む。ステータコア11は、周方向に60°の間隔をおいて配置されて半径方向内側に突出した6個のステータ歯12を有する。互いに対向する対のステータ歯12の3組を、それぞれ、U1−U2、V1−V2、およびW1−W2と呼ぶ。各ステータ歯12にはステータコイル13が巻回されている。
【0019】ステータコイル13には、図5(b)および(c)に示すように、U−U´相コイル、V−V´相コイル、およびW−W´相コイルの3種類のコイルがある。U−U´相コイルはステータ歯U1およびU2に巻かれており、同一方向に磁力線を発生するように直列に接続されている。同様に、V−V´相コイルはステータ歯V1およびV2に巻かれており、同一方向に磁力線を発生するように直列に接続されている。W−W´相コイルはステータ歯W1およびW2に巻かれており、同一方向に磁力線を発生するように直列に接続されている。
【0020】一方、ロータ20は、間に軸方向にN極、S極をもつ永久磁石23を介して配置された一対のロータコア21Aおよび21Bを含む。図示の如く、回転軸RAと直交する中心面CPを境にして、ロータコア21A側を区間Aと呼び、ロータコア21B側を区間Bと呼ぶことにする。ロータコア21Aおよび21Bはステータコア11と対向している。図5(b)に示すように、ロータコア21Aは、周方向に90°の間隔をおいて配置されて半径方向外側に突出した4個のロータ歯22Aを有する。同様に、図5(c)に示すように、ロータコア21Bは、周方向に90°の間隔をおいて配置されて半径方向外側に突出した4個のロータ歯22Bを有する。図5(b)および(c)から明らかなように、ロータ歯22Aとロータ歯22Bとは互いにピッチが半分ピッチ、即ち、電気角で位相がπラジアン(180°)ずれている。ここで、ステップモータの技術分野では、ロータ歯の1ピッチを360°としてこれを電気角と呼んでいる。従って、図5に示すステップモータでは、ロータ歯が4つあるので、ロータ20が機械的に1回転すると、電気角で4回転したことになる。また、電気角θrはステータ歯U1を基準として時計方向(CW)を正とする。図5(b)に示すように、4個のロータ歯22Aを、ステータ歯U1に対向したものを1とした場合に、時計方向に、それぞれ、1、2、3および4と呼ぶことにする。同様に、図5(c)に示すように、4個のロータ歯22Bを、ステータ歯U1より時計方向に、それぞれ、1´、2´、3´および4´と呼ぶことにする。
【0021】図5(b)に示すように、ステータ歯U1,U2がロータ歯1,3と一致しているとすると、ステータ歯V1,W1とロータ歯2及びステータ歯V2,W2とロータ歯4は、ロータ歯ピッチで1/3ピッチ(電気角で120°)ずれている。尚、各ステータ歯に巻かれたステータコイル13のコイル巻数は全てNsとする。
【0022】3相HB形ステップモータのロータ20とステータ歯12との間の磁気の通りやすさ、すなわち、パーミアンスPを抵抗の形で表現し、永久磁石23と各ステータコイル13を磁力線の発生源として電源の形で表現すると、3相HB形ステップモータを図4に示す電気回路(磁気回路)で表現できる。ここで、HU1はステータ歯U1に巻かれたU相コイルによる起磁力で、PU はU相のパーミアンスとする。その他の記号も同様である。ステータ歯U1とステータ歯U2、ステータ歯V1とステータ歯V2、およびステータ歯W1とステータ歯W2のパーミアンスは常に同一である。
【0023】図6の電気回路を解き、3相HB形ステップモータのモデル化を行う。図6中、パーミアンスPU ,PV ,PW ,PU',PV',およびPW'について説明する。これらは、それぞれ、ステータ歯U1,V1,W1,U2,V2,およびW2の磁力線(以下、磁束と呼ぶ)の通りやすさを示すもので、ロータ20とステータ10の位置関係が変わると、これらの値も変化する。これらは電気角θrによる周期関数で、パーミアンスPU 〜PW'は、一般に下記の数式1で与えられる。
【0024】
【数1】


【0025】ここで、Pバー(Pの上にバーが付いている)は平均パーミアンス値、Poはパーミアンスの振幅を示し、これらの値はモータの寸法及び構造によって決まる定数で、単位は[H]である。また、下記の数式2が成り立つとする。
【0026】
【数2】


【0027】ここで、iU 、iV およびiW は、それぞれ、U−U´相コイル、V−V´相コイルおよびW−W´相コイルに流れる相電流である。
【0028】ステップモータのモデル化は、図6に示す電気回路を下記の手順で解くこで実現される。
【0029】i)図6に示す電気回路をコイル鎖交磁束=パーミアンス×起磁力、すなわち、下記の数式3の形で表わす。
【0030】
【数3】


【0031】各相及びロータ、ステータ間は干渉しているので、行列形式となる。
【0032】ii)次に、電圧ベクトルV、電流ベクトルi、磁束ベクトルλを、下記の数式4で求め、図5に示すステップモータを電圧方程式の形で表現する。
【0033】
【数4】


【0034】ここで、Rはコイル抵抗行列を表わす。図6R>6に示す電気回路に、上記数式1および数式2を代入して、磁束ベクトルλを求める。その結果は、下記の数式5となる。
【0035】
【数5】


【0036】ここでは、電流iU 、iV およびiW を電流ベクトルとして解いた。尚、磁束ベクトルλは、λU (=λU1+λU2)、λV (=λV1+λV2)およびλW (=λW1+λW2)とおいた。ここで、ロータ20にはコイルがなく、永久磁石23のみなので、ロータ側の要素は存在せず、Hmによって等価的に示される。
【0037】次に、ステータコイル1個分のコイル抵抗をRsとして、コイル抵抗行列Rを作り、モータの電圧方程式を導く。その結果は、下記の数式6となる。
【0038】
【数6】


【0039】上記数式6中、PバーNs2 (パーミアンス平均値とコイル巻数の2乗)の項は、モータのインダクタンス成分を表わし、一般に対角成分(=(8/3)PバーNs2 )は自己インダクタンスLsと呼ばれ、それ以外の成分(=(−4/3)PバーNs2 )は相互インダクタンスMsと呼ばれている。
【0040】また、数式6の右辺、最終項のPoNscos θr・Mmの要素は、電気角θの変動によって発生する電圧の項であり、永久磁石形同期電動機(以後、ブラシレスDCモータと呼ぶ)の誘起電圧項と同一である。ここで、PoNsMm=MrImであり、Imはロータ側磁石の等価起磁力電流を表わし、Mrは相互インダクタンスを表わす。上記の表現を用いて、数式6を書き表わすと、下記の数式7が得られる。
【0041】
【数7】


【0042】上記数式7から、3相HB形ステップモータが、図7に示すような、一般のブラシレスDCモータと同一の形で表わされることが分かる。
【0043】周知のように、モータ制御の分野においては、3相−2相変換やd−q変換が用いられる。ここで、3相−2相変換とは、U相、V相、W相の3相からα、βの2相に変換することをいう。また、d−q変換とは、α、βの静止座標系からロータ側に同期して回転する、d、q座標系に変換することをいう。
【0044】図8に示すように、ステップモータにおいてd軸とは、ロータ歯の中心軸を意味し、q軸とはd軸から電気角でπ/2(90°)進んだところに位置する(通常のステップモータではロータ歯は複数個あるのでd軸も複数本存在することになる)。
【0045】上記数式7に、3相−2相変換およびd−q変換を施すと、下記の数式8が得られる。
【0046】
【数8】


【0047】上記数式8を状態方程式の形に表現し直すと、下記の数式9が得られる。
【0048】
【数9】


【0049】上記数式9をラプラス演算子sを用い、ラプラス変換を行った上でブロック線図を描くと、図9が得られる。ここで、ステップモータの負荷を1/(Js+D)で表現し、負荷トルクをTL で表現する。図9より、本ステップモータのトルクTeは下記の数式10で与えられる。
【0050】
【数10】


【0051】ここで、p・Mr´・Imは永久磁石による磁束であるので、一定値として扱える。したがって、q軸電流iq をコントロールすることで、ステップモータをトルク制御することができる。また、d軸電流id は、モータ出力に寄与しないので、常に零に制御すればよい。以上述べたことを纏めると、下記の数式11が得られる。
【0052】
【数11】


【0053】しかしながら、図9のブロック線図より、モータ入力電圧vd .vq からq軸電流iq へ辿る行程には干渉要素(図9の点線で囲んだ部分)が存在している。この結果、モータ入力電圧vd .vq からd軸電流id およびq軸電流iq を直接制御することはできない。これを解決するために、以下に詳細に説明する手順に従って、制御系の非干渉化を行う。
【0054】■ステップモータのインピーダンス項に入力する電圧v´d ,v´q は、図9に示すように、下記の数式12および数式13で与えられる。
【0055】
【数12】


【0056】
【数13】


【0057】■ステップモータの電気角速度ωr 、d軸電流id およびq軸電流iq はリアルタイムで検出可能な値であり、LsとMr´・Imはモータ定数で既知である。
【0058】■したがって、数式12の右辺第2項{ωr Ls・iq }と、数式13の右辺第2項{ωr (Ls・id +Mr´Im)}とは演算可能であり、以下、それぞれ、d軸干渉成分及びq軸干渉成分と呼ぶ。したがって、モータ入力端子への印加電圧vd ,vq が下記の数式14および数式15となるように制御する。
【0059】
【数14】


【0060】
【数15】


【0061】■上記数式14および数式15で表わされる電圧を印加電圧vd ,vq として与えることで、図9に示すブロック線図の干渉項は打ち消され、図10に示すように簡素化される。
【0062】■d軸干渉成分{ωr Ls・iq }と、q軸干渉成分{ωr (Ls・id +Mr´Im)}とを電圧指令値に盛り込むことは、一種のフィードフォワード制御であり、かつ予測制御となる。すなわち、過去の電気角速度ωr 、d軸電流idおよびq軸電流iq の値で、未来のd軸干渉成分{ωr Ls・iq }およびq軸干渉成分{ωr (Ls・id +Mr´Im)}の値を求めることに相当する。従って、厳密には図10に示す非干渉化が成立しない。しかしながら、信号処理のスピード、すなわち、d軸電流id およびq軸電流iq の検出と、d軸干渉成分{ωr Ls・iq }とq軸干渉成分{ωr (Ls・id +Mr´Im)}の計算等が、モータスピード(機械角速度)各ωrmの変化に対して十分(100倍以上)に速いので、図10に示す非干渉化が成り立つ。
【0063】なお、図10に示す非干渉化は、定常状態のときに成り立つもので、過渡状態のときには成り立たない。しかし、実際の制御システムでは、過渡状態の整定は、瞬時(電気的時定数の1/10以下)に行われるので、影響は少ない。
【0064】■次に、ステップモータのインピーダンス項に入力する電圧v´d ,v´q に関しては、d軸電流id およびq軸電流iq の電流値をフィードバックした電流制御器を用いる。制御系の構成は、図11に示すようになる。図11中、伝達関数Gid(s),Giq(s)で表わされる電流制御器としては、一般に、比例制御器(P制御器)や比例−積分制御器(PI制御器)が使用される。
【0065】■以上、上記■〜■で述べたことをブロック線図で表わすと、図12が得られる。
【0066】なお、本制御方法を採用する場合は、ステップモータのロータに同期して回転する座標系(=モータの磁極中心と同期して回転する座標系)である、d,q軸を用いるため、磁極位置検出装置は不可欠である。
【0067】以上の議論より得られる3相HB形ステップモータの制御装置の構成を図13に示す。図5に示したような3相HB形ステップモータ31の回転軸には速度・位置検出器32が取り付けらており、その速度・位置検出器32からの速度・位置検出信号は速度・位置信号処理器33に送出される。なお、速度・位置検出器32としては、レゾルバあるいはエンコーダが用いられる。速度・位置信号処理器33は速度・位置検出信号を処理して、電気角度検出信号θr ,電気角速度検出信号ωr 、機械角度検出信号θrmおよび機械角速度検出信号ωrmを出力する。電気角度検出信号θr は角度/正弦・余弦変換器34によって正弦関数信号sinθr および余弦関数信号cos θr に変換される。
【0068】一方、HB形ステップモータ31のステータコイル(図5の13)にはU相電圧vu 、V相電圧vv およびW相電圧vw が供給される。HB形ステップモータ31の入力側には電流検出器35が設けられ、ここでU相電流iu とV相電流iv が検出される。これらU相電流検出信号iu およびV相電流検出信号iv は3相交流/d−q座標変換器36に供給される。この3相交流/d−q座標変換器36には角度/正弦・余弦変換器34から正弦関数信号sin θr および余弦関数信号cos θr も供給される。3相交流/d−q座標変換器36は、正弦関数信号sin θr および余弦関数信号cos θr に基づいてU相電流検出信号iu およびV相電流検出信号iv をd軸電流検出信号id およびq軸電流検出信号iq に変換する。
【0069】機械角度検出信号θrmは第1の減算器37に供給され、第1の減算器37は機械角度指令信号θrmから機械角度検出信号θrmを減算してその機械角度偏差信号を位置制御器38に送出する。位置制御器38は機械角度偏差信号に基づいて機械角速度指令信号ωrmを発生する。この機械角速度指令信号ωrmは第2の減算器39に供給される。この第2の減算器39には機械角速度検出信号ωrmも供給され、第2の減算器39は機械角速度指令信号ωrmから機械角速度検出信号ωrmを減算して機械角速度偏差信号を速度制御器40に送出する。速度制御器40は機械角速度偏差信号に基づいてq軸電流指令信号iq を発生する。
【0070】3相交流/d−q座標変換器36から出力されたd軸電流検出信号id およびq軸電流検出信号iq はそれぞれ第3および第4の減算器41および42に供給される。第3の減算器41は零に等しいd軸電流指令信号id からd軸電流検出信号id を減算してd軸電流偏差信号Δid を出力する。第4の減算器42には速度制御器40からq軸電流指令信号iq が供給される。第4の減算器42はq軸電流指令信号iq からq軸電流検出信号iq を減算してq軸電流偏差信号Δiq を出力する。d軸電流偏差信号Δid およびq軸電流偏差信号Δiq は、それぞれ、第1および第2の電流制御器43および44に供給される。第1および第2の電流制御器43および44は、それぞれ、図11又は図12中の伝達関数Gid(s)およびGiq(s)で表わされる伝達特性を有する。
【0071】第1の電流制御器43はd軸電流偏差信号Δid に基づいてd軸電圧指令信号v'*d を発生する。同様に、第2の電流制御器44はq軸電流偏差信号Δiq に基づいてq軸電圧指令信号v'*q を発生する。3相交流/d−q座標変換器36から出力されたd軸電流検出信号id およびq軸電流検出信号iq は非干渉化制御器45にも供給される。非干渉化制御器45には速度・位置信号処理器33から電気角速度検出信号ωr が供給される。非干渉化制御器45は、図12に示す非干渉制御(フィードフォワード)と記したブロックの部分に対応する。非干渉化制御器45は、d軸電流検出信号id 、q軸電流検出信号iq および電気角速度検出信号ωr に基づいて、d軸干渉成分{ωr Ls・iq }とq軸干渉成分{ωr (Ls・id +Mr´Im)}とを計算する。d軸干渉成分{ωr Ls・iq }は減算器46に供給され、q軸干渉成分{ωr (Ls・id +Mr´Im)}は加算器47に供給される。減算器46には第1の電流制御器43からd軸電圧指令信号v'*d が供給され、加算器47には第2の電流制御器44からq軸電圧指令信号v'*q が供給されている。減算器46は、上記数式14に示すように、d軸電圧指令信号v'*d からd軸干渉成分{ωr Ls・iq }を減算して、非干渉化したd軸電圧指令信号vd を出力する。同様に、加算器47は、上記数式15に示すように、q軸電圧指令信号v'*q とq軸干渉成分{ωr (Ls・id +Mr´Im)}とを加算して、非干渉化したq軸電圧指令信号vq を出力する。
【0072】これら非干渉化したd軸電圧指令信号vd と非干渉化したq軸電圧指令信号vq とはd−q/3相交流座標変換器48に供給される。このd−q/3相交流座標変換器48には、角度/正弦・余弦変換器34から正弦関数信号sin θrおよび余弦関数信号cos θr も供給される。d−q/3相交流座標変換器48は、正弦関数信号sin θr および余弦関数信号cos θr に基づいて、非干渉化したd軸電圧指令信号vd および非干渉化したq軸電圧指令信号vq をU相電圧指令信号vu ,V相電圧指令信号vv ,およびW相電圧指令信号vw に変換する。これらU相、V相およびW相電圧指令信号vu ,vv ,およびvw はPWMインバータ49に供給される。PWMインバータ49は、U相、V相およびW相電圧指令信号vu ,vv ,およびvw に基づいて、それぞれ、上述したU相、V相およびW相電圧vu 、vv およびvw を3相HB形ステップモータ31に供給する。
【0073】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、3相HB形ステップモータの解析を行った結果、従来のようにマイクロステップ駆動法を用いた際には、トルク脈動の発生とマイクロステップとの整合を正確にとる必要があり、一般にこのような整合をとることは極めて難しく、この結果、トルク脈動を抑制できないという問題点がある。
【0074】本発明の目的は高精度にトルク制御を行うことのできる制御装置を提供することにある。
【0075】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、ステータと、該ステータに対向して回転可能に配置されたロータとを備え、前記ステータは周方向に間隔をおいて配置され径方向に突出した第1の個数のステータ歯を有するステータコアと、前記ステータ歯の各々に巻回されたステータコイルとを備え、前記ロータは周方向に間隔をおいて配置され前記ステータ歯と対向するように径方向に突出し、かつ前記第1の個数より少ない第2の個数のロータ歯を有するロータコアを備えるステップモータに用いられ、前記ステップモータが駆動された際、該ステップモータに関する電気角検出信号、電気角速度検出信号、及び機械角速度検出信号を出力する検出処理手段と、機械角速度指令信号に応答して該機械角速度指令信号と前記機械角速度検出信号に応じてq軸電流指令信号を出力するq軸電流指令生成手段と、該q軸電流指令信号を補償制御して補償q軸電流指令信号とする補償手段と、前記電気角検出信号を三角関数信号に変換する三角関数変換手段と、前記ステータコイルに流れる相電流を検出して相電流検出信号を出力する電流検出手段と、前記三角関数信号に基づいて前記相電流検出信号をd軸電流検出信号及びq軸電流検出信号に変換するd−q座標変換手段と、前記電気角速度検出信号に応答して前記d軸電流検出信号の干渉成分及びq軸電流検出信号の干渉成分をそれぞれd軸干渉成分及びq軸干渉成分として求める非干渉化制御手段と、予め定められたd軸指令値のd軸電流指令信号が与えられ該d軸電流指令信号と前記d軸電流検出信号とに基づいてd軸電流偏差信号を出力する第1の減算手段と、前記補償q軸電流指令信号と前記q軸電流検出信号とに基づいてq軸電流偏差信号を出力する第2の減算手段と、前記d軸電流偏差信号に応じてd軸制御電流信号を生成する第1の電流制御手段と、前記q軸電流偏差信号に応じてq軸制御電流信号を生成する第2の電流制御手段と、前記d軸制御電流信号から前記d軸干渉成分を除去してd軸非干渉電流信号を生成する第3の減算手段と、前記q軸制御電流信号から前記q軸干渉成分を除去してq軸非干渉電流信号を生成する第4の減算手段と、前記三角関数信号に応答して前記d軸非干渉電流信号及び前記q軸非干渉電流信号から相制御電流を求める相座標変換手段とを有することを特徴とするステップモータの制御装置が得られる。ここでは、予め定められたd軸指令値として零が与えられ、補償手段はq軸電流検出信号と電気角検出信号で示される電気角を変数とする関数との積が一定値となるようにq軸電流指令信号を補償制御する。
【0076】
【作用】本発明では、d軸電流指令値として零を与え、d軸に関してフィードバック制御を行い、q軸に関してはq軸電流検出信号と電気角検出信号で示される電気角を変数とする関数との積が一定値となるようにq軸電流指令信号を補償制御するしているから、トルク脈動成分を抑制することができ、高精度にステップモータの制御を行うことができる。
【0077】
【実施例】以下本発明について実施例によって説明する。
【0078】図1を参照して、この実施例では図12に示す構成要素と同一の構成要素については同一に参照番号を付し説明を省略する。図1においては、減算器37及び位置制御器38は省略されている。この実施例では速度制御器40と減算器42との間に脈動補償器50が挿入されている。
【0079】ところで、従来の制御においては数1で示すようにパーミアンスを定義したが、実際には、歯移動に伴うハーミアンス変化は数1のような正弦波関数ではなく、高調波成分を含む関数で表わされる。
【0080】従って、高調波成分を考慮すると、数1は区間A及びBにおいて数16で表わされる。一例としてパーミアンスの変化は図2で示すように変化することになる。
【0081】
【数16】


【0082】数16を用いて数7を書き改めると電圧方程式は数17で表わされる。
【0083】
【数17】


【0084】上記の数17を3相−2相変換して、モータのロータに同期して回転するd−q軸上での電圧方程式を導くと、この電圧方程式は数18で表わされる。
【0085】
【数18】


【0086】上記の数18をみると、公知の永久磁石形同期モータ(ブラシレスDCモータ)の電圧方程式と比べて右辺第2項目が異なる。通常の場合、この項(右辺第2項目)は定数になるが、数18ではθrの関数となっており、この項がトルク脈動の原因となっている。
【0087】数18に基づいてd−q軸上におけるブロック線図を描くと、図3に示すブロック線図となる。図3R>3において、ω・F(θr)及びω・F(θr)のブロックが存在するから、トルク(Te)発生は数19で与えられる。
【0088】
【数19】


【0089】数19において、F(θr)・iはd軸(磁極と同一の向きの軸)に関して発生するトルクであり、このトルクはモータを回転させるための主トルクとはならず、全てが脈動トルクとなる。
【0090】従って脈動トルクを抑制するためには、F(θr)・iを零にするようにiを制御すればよい。つまり、i=0とすればよい。また、F(θr)・iはモータ主トルクを発生する項であるが、モータ角θによって変動する部分が存在し、この部分によって脈動トルクが発生することになる。従って、Fq(θ)・iが一定になるようにiを制御すればよい。つまり、数20に示す形でiを制御すればよいことになる。
【0091】
【数20】


【0092】脈動補償器50では数20に基づいてiを制御してトルク脈動を制御している。具体的には、ステップモータを予め試験して、予め定められた間隔をおいて電気角(θr)を変数とする関数F(θr)を求めておく。つまり、電気角θr,θr,…,θrに関して関数F(θr),F(θr),…,F(θr)を求めておく。そして、これら関数F(θr),F(θr),…,F(θr)は脈動補償器50に補償量として予め設定される。脈動補償器50には電気角検出信号θが与えられるとともにq軸電流指令信号iが与えられる。脈動補償器50では電気角検出信号θから検出電気角に対応する補償量F(θr)を選択して、i・(1/F(θr))を補償q軸電流指令値として求める。
【0093】このようにして、補償q軸電流指令値に基づいてステップモータを制御することによって、電気角による脈動成分を抑制することができる。
【0094】なお、上述の実施例では3相HB形ステップモータを制御する場合について説明したが、2相HB形ステップモータ及び5相ステップモータについても同様にして制御を行うことができる(この場合には、相変換演算を行う必要があることはいうまでもない)。また、上述の実施例では所謂インナーロータ形ステップモータについて説明したが、アウターロータ形においても同様に制御することができ、加えて、ステータ側にコイル及び磁石が備えられているタイプのステップモータについても同様に制御することができる。
【0095】
【発明の効果】以上説明したように本発明では、本発明では、d軸電流指令値として零を与え、d軸に関してフィードバック制御を行い、q軸に関してはq軸電流検出信号と電気角検出信号で示される電気角を変数とする関数との積が一定値となるようにq軸電流指令信号を補償制御するしているから、トルク脈動成分を抑制することができ、高精度にステップモータの制御を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による制御装置の一実施例を説明するためのブロック図である。
【図2】ステップモータの電気角とパーミアンスとの関係を示す図である。
【図3】本発明によるステップモータ制御を説明するためのブロック線図である。
【図4】ステップモータの動作原理を説明するための図である。
【図5】本発明が適用される3相HB形ステップモータの構造を示す図であり、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A´線からみた断面図、(c)は(a)のB−B´線からみた断面図である。
【図6】3相HB形ステップモータの電気回路モデルを示す回路図である。
【図7】ブラシレスDCモータの等価回路モデルを示す回路図である。
【図8】ステップモータにおけるd−q軸を説明するための図である。
【図9】3相HBステップモータのブロック線図である。
【図10】非干渉後のブロック線図である。
【図11】d軸及びq軸電流をフィードバックした電流制御器を用いた制御系の構成を示すブロック図である。
【図12】非干渉化を行う制御システムを示すブロック図である。
【図13】従来の3相HB形ステップモータの制御装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
31 3相HB形ステップモータ
32 速度・位置検出器
33 速度・位置信号処理器
34 角度/正弦・余弦変換器
35 電流検出器
36 3相交流/d−q座標変換器
37,39,41,42,46 減算器
38 位置制御器
39 減算器
40 速度制御器
43,44 電流制御器
45 非干渉化制御器
47 加算器
48 d−q/3相交流座標変換器
49 PWMインバータ
50 脈動補償器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ステータと、該ステータに対向して回転可能に配置されたロータとを備え、前記ステータは周方向に間隔をおいて配置され径方向に突出した第1の個数のステータ歯を有するステータコアと、前記ステータ歯の各々に巻回されたステータコイルとを備え、前記ロータは周方向に間隔をおいて配置され前記ステータ歯と対向するように径方向に突出し、かつ前記第1の個数より少ない第2の個数のロータ歯を有するロータコアを備えるステップモータに用いられ、前記ステップモータが駆動された際、該ステップモータに関する電気角検出信号、電気角速度検出信号、及び機械角速度検出信号を出力する検出処理手段と、機械角速度指令信号に応答して該機械角速度指令信号と前記機械角速度検出信号に応じてq軸電流指令信号を出力するq軸電流指令生成手段と、該q軸電流指令信号を補償制御して補償q軸電流指令信号とする補償手段と、前記電気角検出信号を三角関数信号に変換する三角関数変換手段と、前記ステータコイルに流れる相電流を検出して相電流検出信号を出力する電流検出手段と、前記三角関数信号に基づいて前記相電流検出信号をd軸電流検出信号及びq軸電流検出信号に変換するd−q座標変換手段と、前記電気角速度検出信号に応答して前記d軸電流検出信号の干渉成分及びq軸電流検出信号の干渉成分をそれぞれd軸干渉成分及びq軸干渉成分として求める非干渉化制御手段と、予め定められたd軸指令値のd軸電流指令信号が与えられ該d軸電流指令信号と前記d軸電流検出信号とに基づいてd軸電流偏差信号を出力する第1の減算手段と、前記補償q軸電流指令信号と前記q軸電流検出信号とに基づいてq軸電流偏差信号を出力する第2の減算手段と、前記d軸電流偏差信号に応じてd軸制御電流信号を生成する第1の電流制御手段と、前記q軸電流偏差信号に応じてq軸制御電流信号を生成する第2の電流制御手段と、前記d軸制御電流信号から前記d軸干渉成分を除去してd軸非干渉電流信号を生成する第3の減算手段と、前記q軸制御電流信号から前記q軸干渉成分を除去してq軸非干渉電流信号を生成する第4の減算手段と、前記三角関数信号に応答して前記d軸非干渉電流信号及び前記q軸非干渉電流信号から相制御電流を求める相座標変換手段とを有することを特徴とするステップモータの制御装置。
【請求項2】 請求項1に記載されたステップモータの制御装置において、前記予め定められたd軸指令値は零であることを特徴とするステップモータの制御装置。
【請求項3】 請求項2に記載されたステップモータの制御装置において、前記補償手段は前記q軸電流検出信号と前記電気角検出信号で示される電気角をを変数とする関数との積が一定値となるように前記q軸電流指令信号を補償制御することを特徴とするステップモータの制御装置。

【図2】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開平6−225590
【公開日】平成6年(1994)8月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−12042
【出願日】平成5年(1993)1月27日
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)