説明

ステレオコンプレックスポリ乳酸からなる繊維およびその製造方法

【課題】 本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸を含有し、耐久性、強度に優れた繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、100重量部のステレオコンプレックスポリ乳酸、0.001〜1重量部の金属重合触媒、0.001〜5重量部のリン酸系失活剤および0.001〜10重量部のフェノール系酸化防止剤からなる繊維およびその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸からなる繊維およびその製造方法に関する。また、本発明は前記繊維からなる織編物などの繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の目的から、自然環境下で分解される生分解性樹脂が注目され、世界中で研究されている。生分解性樹脂として、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸等が知られ、これらは溶融成型が可能であり、汎用性樹脂としても期待されている。
これらの中でポリ乳酸は、その原料である乳酸あるいはラクチドが、天然物から製造することが可能であり、単なる生分解性樹脂としてではなく、地球環境に配慮した汎用性樹脂としての利用も検討されつつある。
ポリ乳酸のような生分解性樹脂は、透明性が高く、強靭であるが、水の存在下では容易に加水分解され、廃棄後には環境を汚染することなく分解されので、環境への負荷が少ない。
ポリ乳酸の融点は150〜170℃の範囲にあり、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートのごときエンジニアリングプラスチックの代替として用いるには不十分であると考えられている。また、ポリ乳酸はクロロホルムなど一般的な有機溶媒に簡単に溶解するため、オイルや有機溶剤などと接触する用途に用いることは不可能である。
一方で、L−乳酸単位のみからなるポリL−乳酸(以下PLLA)とD−乳酸単位のみからなるポリD−乳酸(以下PDLA)を溶液あるいは溶融状態で混合することにより、ステレオコンプレックスポリ乳酸が形成されることが知られている(特許文献1および非特許文献1)。このステレオコンプレックスポリ乳酸は、PLLAやPDLAに比べて、高融点、高結晶性を示すことが発見されている。
【0003】
特許文献1には、等モルのポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを含む組成物を溶融紡糸したステレオコンプレックスポリ乳酸からなる0.5cN/dTex程度の強度を有する繊維が開示されている。
非特許文献2には、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との溶融ブレンドを、溶融紡糸した未延伸糸を熱処理した繊維が開示されている。この繊維は、熱処理時に繊維内部の分子配向が緩和し、繊維の強度は2.3cN/dTexである。
特許文献2には、高速紡糸で巻き取ったあと、多段延伸を行うことで、8.0cN/dTexの高強度のステレオコンプレックスポリ乳酸繊維が報告されている。この繊維におけるステレオコンプレックス化率は65%以下と低い。
【特許文献1】特開昭63−241024号公報
【特許文献2】特開2003−293220号公報
【非特許文献1】マクロモレキュルス 第24巻 1991年 5651〜 辻 秀人ら
【非特許文献2】繊維学会誌 1989年 山根ら
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高強度で、耐久性に優れた、ステレオコンプレックスポリ乳酸からなる繊維を提供することにある。また本発明の他の目的は、上記繊維からなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ステレオコンプレックスポリ乳酸中の残留触媒および自発的主鎖切断によって生じるラジカルを失活することにより、高強度で、耐久性に優れた繊維が得られることを見出し本発明を完成した。本発明は、残留触媒の失活剤としてリン酸系化合物が好適であり、ラジカルの失活剤としてフェノール系化合物が有効であることを見出したことに基づく。
すなわち本発明は、100重量部のステレオコンプレックスポリ乳酸、0.001〜1重量部の金属重合触媒、0.001〜5重量部のリン酸系失活剤および0.001〜10重量部のフェノール系酸化防止剤からなる繊維である。
また本発明は、ポリ−L−乳酸を含有する組成物(L)と、ポリ−D−乳酸を含有する組成物(D)とを溶融混合した後、紡糸することからなる繊維の製造方法であって、組成物(L)および組成物(D)の少なくとも一方は、金属重合触媒、リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤を含有し、かつ、各成分の組成物(L)および組成物(D)中の合計含有量は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対し、金属重合触媒は0.001〜1重量部、リン酸系失活剤は0.001〜5重量部、フェノール系酸化防止剤は0.001〜10重量部である繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の繊維は、高温で保持しても分子量の低下が少なく耐久性に優れる。本発明の繊維は、高い強度を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(ステレオコンプレックスポリ乳酸)
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸から形成される。ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、下記式で表されるL−乳酸単位およびD−乳酸単位から実質的になる。
【0008】
【化1】

【0009】
ポリ−L−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
ポリ−D−乳酸は、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0010】
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0011】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0012】
ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、共に重量平均分子量が、好ましくは10万〜50万、より好ましくは15万〜35万、さらに好ましくは12万〜25万である。ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、共に光学純度で100〜90%の範囲であることが好ましく、より好ましくは100〜95%である。また、特に融点が150〜180℃の間であることが好ましく、165〜180℃の間であることがより好ましい。ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、共に含まれるラクチド濃度が低いことが好ましく、5重量%以下、さらには1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下であることが好ましい。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、100モル%のL―乳酸単位からなるポリ−L−乳酸および100モル%のD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸から構成され、重量平均分子量が10万〜50万であることが好ましい。
ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0013】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応容器を単独、または並列して使用することができる。
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0014】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型反応容器、或いはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0015】
ステレオコンプレックスポリ乳酸におけるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との重量比は、90:10〜10:90である。75:25〜25:75であることが好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60である。
ステレオコンプレックスポリ乳酸の重量平均分子量は、10万〜50万である。より好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0016】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸からなりステレオコンプレックス結晶を含有する。本発明で言うステレオコンプレックスポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。
【0017】
混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
また混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。
【0018】
(金属重合触媒)
ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を製造する際の金属重合触媒は、アルカリ土類金属、希土類元素、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属の化合物である。アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。希土類元素として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどが挙げられる。第三周期の遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケルが挙げられる。
金属重合触媒は、上記金属のカルボン酸塩、アルコキシド、ハロゲン化物、酸化物、炭酸塩、エノラート塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩が好ましい。重合活性や色相を考慮した場合、オクチル酸スズ、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドが特に好ましい。
【0019】
本発明の繊維は、前記金属重合触媒の存在下で重合されたポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸から形成されるステレオコンプレックスポリ乳酸を含有する。よって、本発明の繊維は、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対して、0.001〜1重量部、好ましくは、0.005〜0.1重量部の金属重合触媒を含有する。金属重合触媒の添加量が少なすぎると重合速度が著しく長期化するため好ましくない。逆に多すぎると開重合やエステル交換反応が加速されるため、得られる繊維の熱安定性が悪化する。
【0020】
(リン酸系失活剤)
リン酸系失活剤は、金属重合触媒と塩または錯体を形成する能力を有する化合物である。リン酸系失活剤として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、これらのアルキルエステルおよびこれらのアルキルエステルアリールエステルからなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。金属重合触媒の失活能力の点から、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸がより好ましい。
リン酸系失活剤の含有量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対して0.001重量部〜5重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部である。リン酸系失活剤の含有量が、少なすぎると残留する重合触媒との反応効率が極めて悪く、重合触媒の失活にむらが生じる。また多すぎるとリン酸系失活剤による組成物の可塑化や耐加水分解性の低下が著しくなる。
【0021】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤は、下記式(1)で表わされる化合物である。
【0022】
【化2】

【0023】
式(1)中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、−O−Rまたは−S−Rを表わす。
〜Rの脂肪族炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基として、メチル基、t−ブチル基等が挙げらる。R〜Rの脂環族炭化水素基として、炭素数6〜12のシクロアルキル基が挙げられる。
基−O−RのRは、水素原子、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基を表わす。ここで脂肪族炭化水素基として炭素数1〜6のアルキル基、脂環族炭化水素基として炭素数6〜12のシクロアルキル基が挙げられる。
−S−RのRは、水素原子、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基を表わす。ここで脂肪族炭化水素基として炭素数1〜6のアルキル基、脂環族炭化水素基として炭素数6〜12のシクロアルキル基が挙げられる。
上記フェノール系酸化防止剤は、そのヒドロキシル基上の水素原子をラジカルに引き抜かせることで連鎖反応を停止させる性質を有し、それ自身は非常に安定なフェノキシラジカル或いはキノン誘導体となるため、新たな連鎖反応を開始しない。フェノール系酸化防止剤における芳香環上の置換基については、水酸基を活性化すべく、電子的、立体化学的の両面から以下の二点を満たすことが望ましい。
【0024】
1)2,4,6位のうち少なくとも一箇所が脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、或いはエーテル基で置換されている。
2)2、または6位の置換基が立体的に嵩高い。
【0025】
フェノール系酸化防止剤として、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチル−フェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,5−ジ−t−ブチルカテコール、リグニン等が挙げられる。この内、揮発性が小さく取り扱いが容易な2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチル−フェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)が好ましい。また植物由来成分であるリグニンの使用も安全性や環境負荷の低減といった観点からも好ましい例である。
【0026】
フェノール系酸化防止剤の含有量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対して好ましくは0.001〜10重量部、より好ましくは0.01〜1重量部である。含有量が少なすぎると加熱時に随時発生し続けるラジカルを効率的に失活させることが難しい。また、多すぎるとラジカルの失活は可能であるが、組成物の可塑化や生成するキノン誘導体による着色といった新たな問題が生じる。
【0027】
リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤は、開環重合法においては重合後期に反応容器内に直接添加混練することができる。チップ状に成型した後にエクストルーダーやニーダーで混練してもよい。ポリ乳酸内での均一分布を考慮するとエクストルーダーやニーダーの使用が好ましい。また、反応容器の吐出部をエクストルーダーに直結し、サイドフィーダーからリン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤を添加する方法も好ましい。一方固相重合法においては、重合終了時に得られるポリ乳酸の固体とリン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤をエクストルーダーやニーダーで混練する方法、ポリ乳酸の固体と、リン酸系失活剤、およびフェノール系酸化防止剤を含むマスターバッチとをエクストルーダーやニーダーで混練する方法等が可能である。
【0028】
<繊維の製造方法>
本発明の繊維の製造方法は、ポリ−L−乳酸を含有する組成物(L)と、ポリ−D−乳酸を含有する組成物(D)とを溶融混合し後、紡糸することからなる繊維の製造方法であって、組成物(L)および組成物(D)の少なくとも一方は、金属重合触媒、リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤を含有し、かつ、各成分の組成物(L)および組成物(D)中の合計含有量は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対し、金属重合触媒は0.001〜1重量部、リン酸系失活剤は0.001〜5重量部、フェノール系酸化防止剤は0.001〜10重量部、である繊維の製造方法である。
【0029】
本発明方法によれば、組成物(L)および組成物(D)を溶融混合することによりステレオコンプレックスポリ乳酸が形成される。溶融混合後に紡糸することにより、ステレオコンプレックス結晶の成長が促進される。
組成物(L)および組成物(D)中の金属重合触媒の合計含有量は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対し、0.001〜1重量部、好ましくは0.005〜0.1重量部である。
組成物(L)および組成物(D)中のリン酸系失活剤の合計含有量は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対し、0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部である。
組成物(L)および組成物(D)中のフェノール系酸化防止剤の合計含有量は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対し、0.001〜10重量部、好ましくは0.1〜1重量部である。
組成物(L)および組成物(D)の双方が、金属重合触媒、リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤を含有することが好ましい。即ち、組成物(L)が、100重量部のポリ−L−乳酸に対し、金属重合触媒0.001〜1重量部、リン酸系失活剤0.001〜5重量部、フェノール系酸化防止剤0.001〜10重量部を含有し、組成物(D)が、100重量部のポリ−D−乳酸に対し、金属重合触媒0.001〜1重量部、リン酸系失活剤0.001〜5重量部、フェノール系酸化防止剤0.001〜10重量部を含有することが好ましい。
【0030】
ポリ−L−乳酸は、100モル%のL―乳酸単位からなり、ポリ−D−乳酸は、100モル%のD−乳酸単位からなることが好ましい。組成物(L)中のポリ−L−乳酸と組成物(D)中のポリ−D−乳酸との重量比は、90:10〜10:90である。75:25〜25:75であることが好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60である。
繊維は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。
組成物(L)および組成物(D)の双方の、260℃、10分間における重量均分子量の低下率が15%以下であることが好ましい。
【0031】
紡糸に用いる組成物(L)および組成物(D)は、乾燥されたものが好ましい。組成物(L)および組成物(D)の双方の、水分率が200ppm以下であることが好ましい。水分率はより好ましくは0〜200ppm、さらに好ましくは0〜100ppm、さらにより好ましくは0から60ppmである。この範囲であれば加水分解を抑制して、強度に優れた繊維を得ることが出来るからである。紡糸する際の溶融温度は、好ましくは200〜280℃、より好ましくは220℃〜265℃、さらに好ましくは235〜250℃である。紡糸時の巻き取り速度は、好ましくは100〜8000m/分、より好ましくは500m/分以上、さらに好ましくは1500m/分以上である。紡糸後には、延伸、熱処理をしても良い。延伸を行う場合には、延伸温度は好ましくは60〜200℃である。熱処理は90〜210℃で行うことが好ましい。
本発明の繊維は、織物、不織布、編物、拠糸、長繊維、カットファイバー、釣り糸、ボタン糸などに加工し、各種用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を説明するが、これに限定するものではない。
【0033】
(1)重量平均分子量(Mw)の測定
重量平均分子量(Mw)は、ショーデックス製GPC−11を使用し、ポリ乳酸樹脂組成物50mgを5mlのクロロホルムに溶解させ、40℃のクロロホルムにて展開した。重量平均分子量(Mw)、はポリスチレン換算値として算出した。
(2)水分率の測定
水分率は得られたチップをカールフィッシャー水分率計(三菱化学 CA−100 気化装置つき)を用いて測定した。
(3)分子量低下率
組成物10gをコック付きパイレックス(登録商標)製試験管に入れ、内部を窒素置換したものを260℃、10分間加熱した。加熱前後の組成物の重量平均分子量(Mw)をGPCにて測定し、下記式によって分子量低下率を算出した。
分子量低下率={1−(Mw加熱後/Mw加熱前)}×100 (%)
(4)強度と伸度
強度と伸度は10N規格のロードセルを装備したオリエンテック製引っ張り試験機テンシロンにて、35mmの試験単糸を用いて測定した。引っ張り試験の条件は、チャック間距離を25mm、引っ張り速度を10mm/分とした。この測定によって得られた、縦軸を引っ張り応力、横軸を伸度とした応力−ひずみ(S−S)曲線から強度と伸度を求めた。即ち、強度は破断時応力(mN)/繊度(tex)、伸度は破断時伸度(%)である。
(5)ステレオコンプレックス結晶含有率の算出法
ステレオコンプレックス結晶含有率Xは、示差走査熱量計(DSC)において150℃以上〜190℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHと、190℃以上250℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHから下記式にて算出される。
X={ΔH/(ΔH+ΔH)}×100 (%)
【0034】
<参考例1>
(組成物(L)の製造)
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でL−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、L−ラクチドを190℃にて融解させた。L−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。重合終了後、リン酸0.02重量部、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部を原料仕込み口から添加し、15分間混錬した。最後に余剰L−ラクチドを脱揮して、反応容器の吐出口からストランド状の組成物(L)を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。
【0035】
(組成物(D)の製造)
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でD−ラクチド100重量部、およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、D−ラクチドを190℃にて融解させた。D−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部のトルエン溶液500μLを添加し、190℃で1時間重合した。重合終了後、リン酸0.02重量部、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部を原料仕込み口から添加し、15分間混錬した。最後に余剰D−ラクチドを脱揮して、反応容器の吐出口からストランド状の組成物(D)を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。
得られた組成物(L)および組成物(D)の重量平均分子量は、それぞれ210,000と220,000であった。
【0036】
<実施例1>
参考例において得られた組成物(L)と組成物(D)のペレット50重量部ずつをチップ状態でよく混合し、100℃の真空乾燥機に入れて8時間かけて乾燥し、水分率を80ppmまで下げた。
【0037】
(紡糸、延伸)
この混合物100重量部を溶融押出機に供給し、口径0.6mmφの孔数36個の紡糸口金から310m/分で吐出し、常法に従って冷却、オイリング後、485m/分で引き取り、巻き取った後、4.9倍に延伸して120dtex、36フィラメント、強度4.8cN/dtexの繊維を得た。紡糸後の重量平均分子量、分子量低下率、強度、および伸度を表1に示した。DSCにおいては219.3℃にステレオコンプレックス結晶の融点のみが見られた。即ち、得られた繊維は100%ステレオコンプレックスポリ乳酸から成る繊維であった。
【0038】
【表1】

【0039】
<実施例2>
実施例2において得た繊維を使用し、筒編み機にてメリヤス織の布を作成した。
この布は伸縮性を有し、丈夫であり、実用的に用いることができるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部のステレオコンプレックスポリ乳酸、0.001〜1重量部の金属重合触媒、0.001〜5重量部のリン酸系失活剤および0.001〜10重量部のフェノール系酸化防止剤からなる繊維。
【請求項2】
金属重合触媒が、アルカリ土類金属、希土類、第三周期の遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、アンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属の化合物である請求項1記載の繊維。
【請求項3】
ステレオコンプレックスポリ乳酸が、100モル%のL―乳酸単位からなるポリ−L−乳酸および100モル%のD−乳酸単位からなるポリ−D−乳酸から構成され、重量平均分子量が10万〜50万である請求項1記載の繊維。
【請求項4】
リン酸系失活剤が、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、これらのアルキルエステルおよびこれらのアリールエステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1記載の繊維。
【請求項5】
フェノール系酸化防止剤が、下記式(1)で表される化合物である請求項1記載の繊維。
【化1】

(但し、式(1)中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、−O−R(Rは、水素原子、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基を表わす)または−S−R(Rは、水素原子、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基を表わす)を表わす。)
【請求項6】
リン酸系失活剤がリン酸、フェノール系酸化防止剤が2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールである請求項1記載の繊維。
【請求項7】
ポリ−L−乳酸を含有する組成物(L)と、ポリ−D−乳酸を含有する組成物(D)とを溶融混合した後、紡糸することからなる繊維の製造方法であって、
組成物(L)および組成物(D)の少なくとも一方は、金属重合触媒、リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤を含有し、かつ、各成分の組成物(L)および組成物(D)中の合計含有量は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の合計100重量部に対し、金属重合触媒は0.001〜1重量部、リン酸系失活剤は0.001〜5重量部、フェノール系酸化防止剤は0.001〜10重量部、である繊維の製造方法。
【請求項8】
組成物(L)および組成物(D)の双方が、金属重合触媒、リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤を含有する請求項7記載の方法。
【請求項9】
組成物(L)および組成物(D)の双方の、260℃、10分間における重量均分子量の低下率が15%以下である請求項7記載の方法。
【請求項10】
組成物(L)および組成物(D)の双方の、水分率が200ppm以下である請求項7記載の方法。
【請求項11】
請求項1記載の繊維を含有する繊維製品。

【公開番号】特開2007−23393(P2007−23393A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203540(P2005−203540)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【出願人】(303066965)株式会社ミューチュアル (33)
【出願人】(503313454)
【Fターム(参考)】