説明

ステレオコンプレックスポリ乳酸を含有する組成物

【課題】 本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸を含有し、熱安定性、機械強度および色相に優れた組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸、金属重合触媒、リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤からなる組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸を含有する組成物に関する。さらに詳しくは、熱安定性、機械強度、色相に優れ、長期保存が可能な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの多くは軽く強靭であり耐久性に優れ、容易且つ任意に成型することが可能であるので、量産されて我々の生活を多岐にわたって支えてきた。しかし、プラスチックは、環境中に廃棄された場合、容易に分解されずに蓄積する。また、焼却の際には大量の二酸化炭素を放出し、地球温暖化に拍車を掛けている。
かかる現状に鑑み、微生物によって分解される生分解性プラスチックが盛んに研究されるようになってきた。生分解プラスチックは、脂肪族カルボン酸エステル単位を有し微生物により分解され易い。その反面、熱安定性に乏しく、溶融紡糸、射出成型、溶融製膜などの高温に晒される工程において分子量が低下したり、色相が悪化し易い欠点がある。
【0003】
ポリ乳酸は生分解性プラスチックの中にあっては耐熱性に優れ、色相、機械強度のバランスが取れたプラスチックであるが、ポリエチレンテレフタレートやポリアミドに代表される石油系樹脂と比較すると、熱安定性に関しては未だ雲泥の差が見られる。このような現状を打開すべく、ポリ乳酸の熱安定性向上について種々検討がなされてきた。例えば、特許文献1〜3には、ポリ乳酸に触媒失活剤として酸性リン酸エステル類またはキレート剤を添加し、ポリ乳酸の熱安定性を向上させることが提案されてる。
しかしポリ乳酸の熱安定性は、重合触媒の関与のみならず自発的主鎖切断による影響を受けることが知られている(非特許文献1および2参照)。自発的主鎖切断はホモリティックに進行し、炭素ラジカル、アシルラジカル、オキソラジカル、或いはカルボキシルラジカルを生じ、開重合によるラクチド生成を引き起こすばかりでなく、再結合や不均化反応によりピルビン酸誘導体の如き着色成分の増加を惹起する。
これまで残留重合触媒による開重合と、自発的主鎖切断によって生じるラジカルの双方を抑制した、熱安定性と耐加水分解性に優れるポリ乳酸組成物は提案されていない。
【特許文献1】特許第3487388号公報
【特許文献2】特開平10−36651号公報
【特許文献3】特許第2862071号公報
【非特許文献1】ポリマーデグラデーション アンド スタビリティ、1985年、第11巻、p309〜326 アイ、シー、マクネイルら
【非特許文献2】ジャーナル オブ アナリティカル アンド アプライド パイロリシス、1997年、第40−41巻、p43〜53 エフ、ディー、コピンケら
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸を含有し、熱安定性、機械強度、色相に優れ、長期保存が可能な組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ステレオコンプレックスポリ乳酸中の残留触媒および自発的主鎖切断によって生じるラジカルを失活することにより、熱安定性と耐加水分解性の双方に優れた組成物が得られることを見出し本発明を完成した。本発明は、残留触媒の失活剤としてリン酸系化合物が好適であり、ラジカルの失活剤としてフェノール系化合物が有効であることを見出したことに基づく。
即ち本発明は、ステレオコンプレックスポリ乳酸、金属重合触媒、リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤からなる組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の組成物は、熱安定性に優れ、加熱時に分子量が低下し難く、また着色し難い。即ち、本発明の組成物は、溶融紡糸、溶融製膜、射出成型といった180℃以上の加熱を要する工程において、ラクチド、環状オリゴマー、鎖状低分子が生成し難く、分子量低下や色相悪化が少ない。また本発明の組成物は、耐加水分解性に優れ、長期保存が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(ステレオコンプレックスポリ乳酸)
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸から形成される。ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、下記式で表されるL−乳酸単位およびD−乳酸単位から実質的になる。
【0008】
【化1】

【0009】
ポリ−L−乳酸は、好ましくは90〜100モル%、より好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のL−乳酸単位から構成される。他の単位としては、D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。D−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、好ましくは0〜10モル%、より好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
ポリ−D−乳酸は、90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、さらに好ましくは98〜100モル%のD−乳酸単位から構成される。他の単位としては、L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位が挙げられる。L−乳酸単位、乳酸以外の共重合成分単位は、0〜10モル%、好ましくは0〜5モル%、さらに好ましくは0〜2モル%である。
【0010】
共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位が例示される。
【0011】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸の混合物であり、ステレオコンプレックス結晶を形成している。ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、共に重量平均分子量が、好ましくは10万〜50万、より好ましくは15万〜35万である。
【0012】
ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属重合触媒の存在下、加熱し開環重合させ製造することができる。また、金属重合触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または不活性ガス気流下で加熱し固相重合させ製造することができる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0013】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用攪拌翼を備えた縦型反応容器を単独、または並列して使用することができる。
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノールなどを好適に用いることができる。
【0014】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた、比較的低分子量の乳酸ポリエステルをプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲にて予め結晶化させることが、融着防止の面から好ましい形態と言える。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型反応容器、或いはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇温させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0015】
ステレオコンプレックスポリ乳酸におけるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との重量比は、90:10〜10:90である。75:25〜25:75であることが好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60である。
ステレオコンプレックスポリ乳酸の重量平均分子量は、10万〜50万である。より好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量は溶離液にクロロホルムを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量値である。
【0016】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸からなりステレオコンプレックス結晶を含有する。ステレオコンプレックス結晶の含有率は、好ましくは80〜100%、より好ましくは95〜100%である。本発明で言うステレオコンプレックスポリ乳酸は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。融点は、195〜250℃の範囲、より好ましくは200〜220℃の範囲である。融解エンタルピーは、20J/g以上、好ましくは30J/g以上である。具体的には、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークのうち、195℃以上の融解ピークの割合が90%以上であり、融点が195〜250℃の範囲にあり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましい。
【0017】
ステレオコンプレックスポリ乳酸は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを所定の重量比で共存させ混合することにより製造することができる。
混合は、溶媒の存在下で行うことができる。溶媒は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、フェノール、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ブチロラクトン、トリオキサン、ヘキサフルオロイソプロパノール等の単独あるいは2種以上混合したものが好ましい。
また混合は、溶媒の非存在下で行うことができる。即ち、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを所定量混合した後に溶融混練する方法、いずれか一方を溶融させた後に残る一方を加えて混練する方法を採用することができる。
【0018】
(金属重合触媒)
ポリ−L−乳酸またはポリ−D−乳酸を製造する際の金属重合触媒は、アルカリ土類金属、希土類元素、第三周期の遷移金属、アルミニウム、ゲルマニウム、スズおよびアンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属の化合物である。アルカリ土類金属として、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムなどが挙げられる。希土類元素として、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどが挙げられる。第三周期の遷移金属として、鉄、コバルト、ニッケルが挙げられる。
金属重合触媒は、上記金属のカルボン酸塩、アルコキシド、ハロゲン化物、酸化物、炭酸塩、エノラート塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩が好ましい。重合活性や色相を考慮した場合、オクチル酸スズ、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシドが特に好ましい。
【0019】
本発明の組成物は、前記金属重合触媒の存在下で重合されたポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸から形成されるステレオコンプレックスポリ乳酸を含有する。よって、本発明の組成物は、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対して、0.001〜1重量部、好ましくは、0.005〜0.1重量部の金属重合触媒を含有する。金属重合触媒の添加量が少なすぎると重合速度が著しく長期化するため好ましくない。逆に多すぎると開重合やエステル交換反応が加速されるため、得られる組成物の熱安定性が悪化する。
【0020】
(リン酸系失活剤)
リン酸系失活剤は、金属重合触媒と塩または錯体を形成する能力を有する化合物である。リン酸系失活剤として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、これらのアルキルエステルおよびこれらのアルキルエステルアリールエステルからなる群から選らばれる少なくとも一種が好ましい。金属重合触媒の失活能力の点から、リン酸、亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸がより好ましい。
リン酸系失活剤の含有量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対して0.001重量部〜5重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部である。リン酸系失活剤の含有量が、少なすぎると残留する重合触媒との反応効率が極めて悪く、重合触媒の失活にむらが生じる。また多すぎるとリン酸系失活剤による組成物の可塑化や耐加水分解性の低下が著しくなる。
【0021】
(フェノール系酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤は、下記式(1)で表わされる化合物である。
【0022】
【化2】

【0023】
式(1)中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、−O−Rまたは−S−Rを表わす。
〜Rの脂肪族炭化水素基として、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基として、メチル基、t−ブチル基等が挙げらる。R〜Rの脂環族炭化水素基として、炭素数6〜12のシクロアルキル基が挙げられる。
基−O−RのRは、水素原子、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基を表わす。ここで脂肪族炭化水素基として炭素数1〜6のアルキル基、脂環族炭化水素基として炭素数6〜12のシクロアルキル基が挙げられる。
−S−RのRは、水素原子、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基を表わす。ここで脂肪族炭化水素基として炭素数1〜6のアルキル基、脂環族炭化水素基として炭素数6〜12のシクロアルキル基が挙げられる。
【0024】
上記フェノール系酸化防止剤は、そのヒドロキシル基上の水素原子をラジカルに引き抜かせることで連鎖反応を停止させる性質を有し、それ自身は非常に安定なフェノキシラジカル或いはキノン誘導体となるため、新たな連鎖反応を開始しない。フェノール系酸化防止剤における芳香環上の置換基については、水酸基を活性化すべく、電子的、立体化学的の両面から以下の二点を満たすことが望ましい。
【0025】
1)2,4,6位のうち少なくとも一箇所が脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、或いはエーテル基で置換されている。
2)2、または6位の置換基が立体的に嵩高い。
【0026】
フェノール系酸化防止剤として、2,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチル−フェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,5−ジ−t−ブチルカテコール、リグニン等が挙げられる。この内揮発性が小さく取り扱いが容易な2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチル−フェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)が好ましい。また植物由来成分であるリグニンの使用も安全性や環境負荷の低減といった観点からも好ましい例である。
【0027】
フェノール系酸化防止剤の含有量は、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対して好ましくは0.001〜10重量部、より好ましくは0.1〜1重量部である。含有量が少なすぎると加熱時に随時発生し続けるラジカルを効率的に失活させることが難しい。また、多すぎるとラジカルの失活は可能であるが、組成物の可塑化や生成するキノン誘導体による着色といった新たな問題が生じる。
【0028】
リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤は、開環重合法においては重合後期に反応容器内に直接添加混練することができる。チップ状に成型した後にエクストルーダーやニーダーで混練してもよい。ポリ乳酸内での均一分布を考慮するとエクストルーダーやニーダーの使用が好ましい。また、反応容器の吐出部をエクストルーダーに直結し、サイドフィーダーからリン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤を添加する方法も好ましい。一方固相重合法においては、重合終了時に得られるポリ乳酸の固体とリン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤をエクストルーダーやニーダーで混練する方法、ポリ乳酸の固体と、リン酸系失活剤、およびフェノール系酸化防止剤を含むマスターバッチとをエクストルーダーやニーダーで混練する方法等が可能である。
このようにして得られた組成物は、重量平均分子量(Mw)が10万〜50万で、色相と熱安定性に優れたものであり、溶融紡糸、溶融製膜、射出成型に好適に用いることが可能である。
【実施例】
【0029】
以下、参考例および実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。各物性の評価は以下の方法で行なった。
【0030】
(1)熱安定性
組成物10gをコック付きパイレックス(登録商標)製試験管に入れ、内部を窒素置換したものを260℃、10分間保持して熱安定性を評価した。試験前後の組成物の重量平均分子量(Mw)をGPCにて測定し、それらの比較によって熱安定性を評価した。
(2)重量平均分子量(Mw)
重量平均分子量(Mw)は、ショーデックス製GPC−11を使用し、組成物50mgを5mlのクロロホルムに溶解させ、40℃のクロロホルムにて展開した。重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン換算値として算出した。
(3)組成物中のラクチド含有量
組成物中のラクチド含有量は、重クロロホルム中、日本電子製核磁気共鳴装置JNM−EX270スペクトルメーターを使用し、ポリ乳酸由来の四重線ピーク面積比(5.10〜5.20ppm)に対するラクチド由来の四重線ピーク面積比(4.98〜5.05ppm)として算出した。
(4)ステレオコンプレックス結晶含有率の算出法
ステレオコンプレックス結晶含有率Xは、示差走査熱量計(DSC)において150℃以上〜190℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHと、190℃以上250℃未満に現れる結晶融点の融解エンタルピーΔHから下記式にて算出される。
X={ΔH/(ΔH+ΔH)}×100 (%)
【0031】
<実施例1>
(ポリ−L−乳酸組成物の製造)
冷却留出管を備えた重合反応容器の原料仕込み口から、窒素気流下でL−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込んだ。続いて反応容器内を5回窒素置換し、L−ラクチドを190℃にて融解させた。L−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。重合終了後、リン酸0.02重量部、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部を原料仕込み口から添加し、15分間混錬した。最後に余剰L−ラクチドを脱揮して、反応容器内からポリ−L−乳酸組成物を取り出した。
【0032】
(ポリ−D−乳酸組成物の製造)
次に、同様の操作にてポリ−D−乳酸組成物の調製を行った。即ち、D−ラクチド100重量部およびステアリルアルコール0.15重量部を仕込み、続いて反応容器内を5回窒素置換し、D−ラクチドを190℃にて融解させた。D−ラクチドが完全に融解した時点で、原料仕込み口から2−エチルヘキサン酸スズ0.05重量部をトルエン500μLと共に添加し、190℃で1時間重合した。重合終了後、リン酸0.02重量部、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.1重量部を原料仕込み口から添加し、15分間混錬した。最後に余剰D−ラクチドを脱揮し、反応容器の吐出口からストランド状のポリ−D−乳酸組成物を吐出し、冷却しながらペレット状に裁断した。
【0033】
(ステレオコンプレックスの形成)
上記ポリ−L−乳酸組成物のペレット50重量部とポリ−D−乳酸樹脂組成物のペレット50重量部を良く混合させた後、東洋製機社製ニーダーラボプラストミル50C150を使用し、窒素ガス気流下230℃で10分間混練した。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶含有率は98.7%であった。
【0034】
(熱安定性試験)
得られた組成物は、粉砕機を使用して粒状にし、その10gをコック付きパイレックス(登録商標)製試験管に入れた。次にパイレックス(登録商標)製試験管内部を窒素置換し、260℃、10分間で維持し熱安定性試験を実施した。試験終了後、組成物を取り出し、Mwおよびラクチド含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0035】
<実施例2>
リン酸系失活剤として亜リン酸0.02重量部、フェノール系酸化防止剤として2,4,6−トリ−t−ブチル−フェノールを0.12重量部使用した以外は実施例1と同様の操作で組成物を製造した。得られた組成物の熱安定性試験前後のMwとラクチド含有量を表1に示す。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶含有率は97.2%であった。
【0036】
<実施例3>
リン酸系失活剤としてピロリン酸0.036重量部、フェノール系酸化防止剤として2,4,6−トリ−t−ブチル−フェノールを0.12重量部使用した以外は実施例1と同様の操作で組成物を製造した。得られた組成物の熱安定性試験前後のMwとラクチド含有量を表1に記載する。得られたステレオコンプレックスポリ乳酸のステレオコンプレックス結晶含有率は98.9%であった。
【0037】
<比較例1>
リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤を添加しない以外は、実施例1と同様の方法でポリ−L−乳酸を調製した。このポリ−L−乳酸について熱安定性試験を行ったところ、熱安定性試験後のポリ−L−乳酸は脆く、試験で使用したパイレックス(登録商標)製試験管に、分解生成物であるラクチドの結晶が付着していた。熱安定性試験後のMwとラクチド含有量を表1に示す。
【0038】
<比較例2>
実施例1と同様の方法でフェノール系酸化防止剤を含まないポリ−L−乳酸組成物を調製した。このポリ−L−乳酸組成物ついて熱安定性試験を行ったところ、組成物に着色は見られなかったが、Mwが若干低下した。熱安定性試験後のMwとラクチド含有量を表1に示す。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の組成物は、繊維、フィルム、成形品の原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオコンプレックスポリ乳酸、金属重合触媒、リン酸系失活剤およびフェノール系酸化防止剤からなる組成物。
【請求項2】
ステレオコンプレックスポリ乳酸が、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸の混合物であり、ステレオコンプレックス結晶を形成している請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
金属重合触媒が、アルカリ土類金属、希土類、第三周期の遷移金属類、アルミニウム、ゲルマニウム、スズ、アンチモンからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属の化合物である請求項1記載の組成物。
【請求項4】
金属重合触媒の含有量が、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対して0.001〜1重量部である請求項1記載の組成物。
【請求項5】
リン酸系失活剤が、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、これらのアルキルエステルおよびこれらのアリールエステルからなる群より選ばれ少なくとも一種である請求項1記載の組成物。
【請求項6】
リン酸系失活剤の含有量が、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対して0.001〜5重量部である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
フェノール系酸化防止剤が、下記式(1)で表される化合物である請求項1記載の組成物。
【化1】

(但し、式(1)中、R〜Rは同一または異なり、水素原子、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、−O−R(Rは、水素原子、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基を表わす)または−S−R(Rは、水素原子、脂肪族炭化水素基または脂環族炭化水素基を表わす)を表わす。)
【請求項8】
リン酸系失活剤が、リン酸、フェノール系酸化防止剤が2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールである請求項1記載の組成物。
【請求項9】
フェノール系酸化防止剤の含有量が、ステレオコンプレックスポリ乳酸100重量部に対して0.001〜10重量部である請求項1記載の組成物。

【公開番号】特開2007−23083(P2007−23083A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203541(P2005−203541)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(390022301)株式会社武蔵野化学研究所 (63)
【出願人】(303066965)株式会社ミューチュアル (33)
【出願人】(503313454)
【Fターム(参考)】