説明

ステレオブロック共重合体組成物、ステレオコンプレックス共重合体組成物、及びステレオブロック共重合体組成物の合成方法

【課題】諸物性に優れたステレオタイプの組成物(とりわけ、ステレオブロック共重合体組成物、及びステレオコンプレックス共重合体組成物)を提供する。
【解決手段】(A)シロキサン構造単位と、(B)L体からなるポリエステル構造単位と、(C)D体からなるポリエステル構造単位とを分子構造内に含むステレオブロック共重合体組成物とする。また、(D)シロキサン構造単位、及びL体からなるポリエステル構造単位を分子構造内に含むL型共重合体と、(E)シロキサン構造単位、及びD体からなるポリエステル構造単位を分子構造内に含むD型共重合体とを混合してなるステレオコンプレックス共重合体組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサンとポリエステルとを含むブロック共重合体組成物、及びコンプレックス共重合体組成物に関し、より詳細には、シロキサンとポリ乳酸とを含むブロック共重合体組成物、及びコンプレックス共重合体組成物に関する。また、本発明は、シロキサンとポリ乳酸とを含むブロック共重合体組成物の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりから、バイオ原料より合成されるポリエステル(バイオベースポリエステル)が注目されている。バイオベースポリエステルは、微生物等により分解され易いこと(生分解性)、及び二酸化炭素を吸収する植物由来の素材である(カーボンニュートラル)という特性から、様々な分野において需要が増加しつつある。バイオベースポリエステルの一つであるポリ乳酸は、例えば、ジャガイモ、サトウキビ、トウモロコシ等の穀物由来のデンプンから合成される。ポリ乳酸は、引張強度、引張弾性率等の物理的特性において、従来の石油系樹脂(ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等)と同等又は優れていることから、例えば、各種電化製品の筐体等に使用されている。一方、ポリ乳酸は、延伸性、透明性等の特性では劣っており、ポリ乳酸の適用分野を拡大するためには、これらの特性を向上させることが望まれている。
【0003】
ポリ乳酸の諸物性を向上させる手段の一つとして、ポリ乳酸を他の材料と分子レベルで混合するハイブリッド化が挙げられる。ハイブリッド化の一例として、従来、ポリ乳酸とシリコーン系樹脂であるポリジメチルシロキサン(PDMS)とを混合して得られる変性ポリエステル組成物が開発されている(例えば、特許文献1を参照)。
特許文献1によれば、ポリ乳酸の原材料となるラクチドを、水酸基を有するPDMSの存在下で開環重合させることにより、変性ポリエステル組成物を合成している。
【0004】
また、ポリ乳酸系樹脂に有機ポリシロキサンを添加することにより、ポリ乳酸系樹脂の物性を向上させることが試みられている(例えば、特許文献2を参照)。
特許文献2によれば、ポリ乳酸系樹脂としてポリ乳酸ブロック等を含む共重合体が開示され、有機ポリシロキサンとしてシリコーンオイルが開示されている。これらの材料から合成されたポリ乳酸系樹脂成形体は、耐熱性及び耐衝撃性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−157422号公報
【特許文献2】特開平11−116786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリ乳酸の原材料となるラクチドや乳酸には、L体、D体、及びDL体の3つの光学異性体が存在することが知られている。従って、ラクチドの開環重合、又は乳酸の重縮合により得られるポリ乳酸にも、L型ポリ乳酸、D型ポリ乳酸、及びDL型ポリ乳酸の3種類が存在する。これらのうち、現在、工業的に利用されているのは、主にL型ポリ乳酸である。上記の特許文献1や特許文献2において使用されているポリ乳酸も、当時の技術水準等を参酌すると、L型ポリ乳酸であると推測される。
【0007】
一方、最近の本発明者らの研究により、L型ポリ乳酸とD型ポリ乳酸とを組み合わせたステレオタイプの組成物が優れた諸物性を示すことが分かってきた。これは、二つの異なる光学異性体を同一材料中に存在させることにより、両者の相互作用によって、今までとは全く異なる新規な機能を発現し得るためと考えられる。しかしながら、現状においては、そのようなステレオタイプの組成物の分子構造は十分に明らかにされておらず、また、ステレオタイプの組成物の合成方法も確立されていない。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、諸物性に優れたステレオタイプの組成物(とりわけ、ステレオブロック共重合体組成物、及びステレオコンプレックス共重合体組成物)を提供することを目的とする。また、ステレオブロック共重合体組成物の合成方法を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るステレオブロック共重合体組成物の特徴構成は、(A)シロキサン構造単位と、(B)L体からなるポリエステル構造単位と、(C)D体からなるポリエステル構造単位と、を分子構造内に含むことにある。
【0010】
本構成のステレオブロック共重合体組成物によれば、シロキサン構造単位とともに、二つの異なる光学異性体であるL体からなるポリエステル構造単位とD体からなるポリエステル構造単位とを共通の分子構造内に含んだ全く新規なステレオタイプの組成物とすることができる。この新規なステレオブロック共重合体組成物は、分子構造や分子の配列順序を制御することにより、種々の物性向上が期待できる。例えば、分子内でステレオ結晶を誘起し易い分子配列に設計すると、単独のポリエステルと比較して熱分解温度(Td)、及び融点(Tm)が上昇することから、耐熱性に優れるとともに、従来のポリエステルには見られない優れた延伸性、耐衝撃性、弾性等を示す。また、単独のポリエステルと比較して結晶構造が微細化し易いため、透明性(光透過性)が向上するとともに、表面の撥水性が向上するなどの優れた諸物性を示す。
【0011】
本発明に係るステレオブロック共重合体組成物において、前記(A)、前記(B)、及び前記(C)を夫々複数単位有するマルチブロックタイプとして構成されることが好ましい。
【0012】
本構成のステレオブロック共重合体組成物によれば、シロキサン構造単位、L体からなるポリエステル構造単位、及びD体からなるポリエステル構造単位を夫々複数単位有するマルチブロックタイプとしているため、より優れた諸物性を示すことが可能となる。
【0013】
本発明に係るステレオブロック共重合体組成物において、前記ポリエステル構造単位は、ポリ乳酸構造単位であることが好ましい。
【0014】
本構成のステレオブロック共重合体組成物によれば、ポリエステル構造単位として、ポリ乳酸構造単位を採用することにより、上記諸物性に優れた素材を好適に実現することができる。また、カーボンニュートラルな特性を有する乳酸ベースの共重合体組成物であるため、環境性能にも優れている。
【0015】
本発明に係るステレオコンプレックス共重合体組成物の特徴構成は、(D)シロキサン構造単位、及びL体からなるポリエステル構造単位を分子構造内に含むL型共重合体と、(E)シロキサン構造単位、及びD体からなるポリエステル構造単位を分子構造内に含むD型共重合体と、を混合してなることにある。
【0016】
本構成のステレオコンプレックス共重合体組成物によれば、L型共重合体とD型共重合体とを混合して得られた全く新規なステレオタイプの組成物とすることができる。この新規なステレオコンプレックス共重合体組成物は、単独のポリエステルと比較して熱分解温度(Td)、及び融点(Tm)が上昇することから、耐熱性に優れるとともに、従来のポリエステルには見られない優れた延伸性、耐衝撃性、弾性等を示す。また、単独のポリエステルと比較して結晶構造が微細化し易いため、透明性(光透過性)が向上するとともに、表面の撥水性が向上するなどの優れた諸物性を示す。
【0017】
本発明に係るステレオコンプレックス共重合体組成物において、前記(D)は、シロキサン構造単位、及びL体からなるポリエステル構造単位を夫々複数単位有するマルチブロックタイプのL型共重合体として構成され、前記(E)は、シロキサン構造単位、及びD体からなるポリエステル構造単位を夫々複数単位有するマルチブロックタイプのD型共重合体として構成されていることが好ましい。
【0018】
本構成のステレオコンプレックス共重合体組成物によれば、L型共重合体、及びD型共重合体を夫々マルチブロックタイプとしているため、より優れた諸物性を示すことが可能となる。
【0019】
本発明に係るステレオコンプレックス共重合体組成物において、前記ポリエステル構造単位は、ポリ乳酸構造単位であることが好ましい。
【0020】
本構成のステレオコンプレックス共重合体組成物によれば、ポリエステル構造単位として、ポリ乳酸構造単位を採用することにより、上記諸物性に優れた素材を好適に実現することができる。また、カーボンニュートラルな特性を有する乳酸ベースのステレオブロック共重合体組成物であるため、環境性能にも優れている。
【0021】
本発明に係るステレオブロック共重合体組成物の合成方法の特徴構成は、少なくとも1つの反応末端基を有するシロキサンに、少なくとも第1型の乳酸系モノマー及び重合開始剤を混合して重合反応を進行させる重合工程と、前記重合工程で得られた重合物に、少なくとも前記第1型の乳酸系モノマーとは異なる立体配置を有する第2型の乳酸系モノマー及び重合開始剤を混合して共重合反応を進行させる共重合工程と、を包含することにある。
【0022】
本構成のステレオブロック共重合体組成物の合成方法によれば、シロキサン構造単位とともに、二つの異なる光学異性体であるL体からなる乳酸系モノマー(ポリエステル構造単位)とD体からなる乳酸系モノマー(ポリエステル構造単位)とを共通の分子構造内に含んだ全く新規なステレオタイプの組成物を、簡単且つ確実に合成することができる。
【0023】
本発明に係るステレオブロック共重合体組成物の合成方法の特徴構成は、少なくとも1つの反応末端基を有するシロキサンに、少なくとも第1型の乳酸系モノマー及び重合開始剤を混合して重合反応を進行させる第1重合工程と、少なくとも1つの反応末端基を有するシロキサンに、少なくとも前記第1型の乳酸系モノマーとは異なる立体配置を有する第2型の乳酸系モノマー及び重合開始剤を混合して重合反応を進行させる第2重合工程と、前記第1重合工程で得られた第1重合物と、前記第2重合工程で得られた第2重合物とを反応させる完成工程と、を包含することにある。
【0024】
本構成のステレオブロック共重合体組成物の合成方法によれば、シロキサン構造単位とともに、二つの異なる光学異性体であるL体からなる乳酸系モノマー(ポリエステル構造単位)とD体からなる乳酸系モノマー(ポリエステル構造単位)とを共通の分子構造内に含んだ全く新規なマルチブロックタイプのステレオタイプの組成物を、簡単且つ確実に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明で用いる原材料の分子構造式を示す図
【図2】ステレオブロック共重合体、ステレオコンプレックス共重合体、及びそれらの前駆体の構造を示す模式図
【図3】マルチブロックタイプのステレオブロック共重合体、ステレオコンプレックス共重合体、及びそれらの前駆体の構造を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図1〜図3を参照して説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図せず、それらと均等な構成も含む。
【0027】
本発明のステレオブロック共重合体組成物において、当該組成物を構成する基本構造単位は、(A)シロキサン構造単位、(B)L体からなるポリエステル構造単位、及び(C)D体からなるポリエステル構造単位である。本発明のステレオコンプレックス共重合体組成物は、後述の(D)L型共重合体と、(E)D型共重合体とを混合したものであるが、基本構造単位は、ステレオブロック共重合体組成物の基本構造単位と実質同様とみなすことができる。
【0028】
ここで、(A)シロキサン構造単位は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)由来の構造単位とすることができる。本発明では、シロキサン構造単位を形成するために、分子鎖の一方の端部に反応基を有する片末端モノカルビノールPDMS、片末端ジカルビノールPDMS、又は分子鎖の両方の端部に反応基を有する両末端カルビノールPDMSを使用する。片末端モノカルビノールPDMSとしては、例えば、チッソ株式会社より市販されている「製品名:片末端サイラプレーン(登録商標)、品名:FM−0421(平均分子量:5,000)及びFM−0425(平均分子量:10,000)」等が好適であり、片末端ジカルビノールPDMSとしては、例えば、チッソ株式会社より市販されている「製品名:片末端サイラプレーン(登録商標)、品名:FM−DA41(平均分子量:5,000)」が好適である。両末端カルビノールPDMSとしては、例えば、チッソ株式会社より市販されている「製品名:両末端サイラプレーン(登録商標)、品名:FM−4421(平均分子量:5,000)及びFM−4425(平均分子量:10,000)」等が好適である。一例として、図1に本発明で使用したPDMSの構造式を「カルビノール」として示した。
【0029】
(B)L体からなるポリエステル構造単位は、例えば、L−ラクチドの開環重合により得られるL−ポリ乳酸構造単位とすることができる。同様に、(C)D体からなるポリエステル構造単位は、例えば、D−ラクチドの開環重合により得られるD−ポリ乳酸構造単位とすることができる。L−ポリ乳酸構造単位とD−ポリ乳酸構造単位とは、互いに立体配置が異なる光学異性体である。図1に、L−ポリ乳酸構造単位又はD−ポリ乳酸構造単位を構成するための原材料となるラクチドの一般的構造式を「ラクチド」として示した。
【0030】
ステレオブロック共重合体組成物においては、(A)シロキサン構造単位、(B)L体からなるポリエステル構造単位、及び(C)D体からなるポリエステル構造単位は、共通の分子構造内に存在し、ステレオブロック共重合体を構成する。ここで、ステレオブロック共重合体の分子構造や分子の配列順序を制御することにより、種々の物性向上が期待できる。例えば、分子内でステレオ結晶を誘起し易い分子配列に設計すると、単独のポリエステルと比較して熱分解温度(Td)、及び融点(Tm)が上昇することから(50℃程度上昇する)、耐熱性に優れるとともに、従来のポリエステルには見られない優れた延伸性、耐衝撃性、弾性等を示す。また、単独のポリエステルと比較して結晶構造が微細化し易いため、透明性(光透過性)が向上するとともに、表面の撥水性が向上するなどの優れた諸物性を示す。
【0031】
ステレオブロック共重合体組成物は、前記の(A)、(B)、及び(C)が分子構造内に夫々複数単位で存在するマルチブロックタイプであっても構わない。また、ジブロックタイプ、トリブロックタイプやグラフトタイプなども有り得る。ここで、グラフトタイプはブロックタイプの一種であり、広義にはグラフトタイプもブロックタイプに含まれる。これらの場合、より優れた諸物性を示すことが可能となる。
【0032】
ステレオコンプレックス共重合体組成物においては、(D)シロキサン構造単位、及びL体からなるポリエステル構造単位を分子構造内に含むL型共重合体と、(E)シロキサン構造単位、及びD体からなるポリエステル構造単位を分子構造内に含むD型共重合体とが混合された状態となっている。つまり、ステレオコンプレックス共重合体組成物は、ステレオブロック共重合体組成物のような(B)L体からなるポリエステル構造単位と(C)D体からなるポリエステル構造単位とが分子結合した状態ではないが、L型共重合体とD型共重合体とが共通の材料中において十分に接近した状態となっているため、ステレオブロック共重合体組成物と同様の優れた諸物性を発現することができる。すなわち、ステレオコンプレックス共重合体組成物は、単独のポリエステルと比較して熱分解温度(Td)、及び融点(Tm)が上昇することから(50℃程度上昇する)、耐熱性に優れるとともに、従来のポリエステルには見られない優れた延伸性、耐衝撃性、弾性等を示す。また、単独のポリエステルと比較して結晶構造が微細化し易いため、透明性(光透過性)が向上する。さらに、結晶の加水分解速度が減少するとともに、表面の撥水性が向上するなどの優れた諸物性を示す。
【0033】
ステレオコンプレックス共重合体組成物は、前記の(D)がシロキサン構造単位、及びL体からなるポリエステル構造単位を夫々複数単位有するマルチブロックタイプのL型共重合体として構成され、前記の(E)がシロキサン構造単位、及びD体からなるポリエステル構造単位を夫々複数単位有するマルチブロックタイプのD型共重合体として構成されていても構わない。また、ジブロックタイプやトリブロックタイプなども有り得る。これらの場合、より優れた諸物性を示すことが可能となる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の各実施例では、「ステレオブロック共重合体」及び「ステレオコンプレックス共重合体」の合成方法として説明するが、これらの共重合体は本発明において規定する「ステレオブロック共重合体組成物」及び「ステレオコンプレックス共重合体組成物」に当然に含まれる。
【0035】
また、得られた共重合体の諸物性は、下記測定法によって行った。
(1)可視紫外分光光度計(UV−VIS)測定
日本分光株式会社製V−530UV/VIS Spectrometerを用い、紫外−可視光透過率測定を行い、光透過性を評価した。測定は膜厚80〜100μmのフィルムを用い、波長領域200〜800nm、分解能1nm、スキャン速度400nm/minにて行った。得られたスペクトルを膜厚100μmに換算した後、波長600nmにおける光透過率を求めサンプルの透明性評価に用いた。
【0036】
(2)接触角測定
協和界面科学株式会社製DM300を用い、接触角試験を行った。測定は1μlの蒸留水をフィルム表面上に滴下した際の接触角をθ/2法により求めた。測定は10点で行い、平均値を接触角とした。
【0037】
(3)示差熱天秤(TG−DTA)測定
SEIKO Instruments, Inc.製TG−DTA6300を用い、TG−DTA測定を行った。測定は試料(約5mg〜10mg)をプラチナパンに入れ、温度範囲25℃〜800℃、昇温速度10℃/min、空気気流下(200ml/min)にて行った。得られたTG曲線より、5wt%重量減少温度(Td)を求めた。
【0038】
(4)示差走査熱量(DSC)測定
SEIKO, Instruments, Inc.製DSC220Cを用い、DSC測定を行った。測定は試料(約5mg)をアルミパンに入れ、温度範囲−150℃〜240℃、昇温速度10℃/min、窒素気流下(200ml/min)にて行った。得られたDSC曲線より、ガラス転移温度、結晶化度、融点、溶融エンタルピーを算出した。
【0039】
(5)引張試験測定
機械的特性は、JTトーシ社製卓上型引張試験機リトルセンスター(LSC−05/30)を用い、引張試験を行った。測定は4×50mmの短冊状にサンプル試験片を切り出し、引張試験用フォルダに固定し、チャック間距離200mm、引張速度5mm/minで行った。得られた応力−歪曲線よりヤング率、引張強度、破断伸長を求めた。
【0040】
(6)気体透過測定
気体輸送特性は、定容法により76cmHg(1atm)、25℃で行った。透過気体にはOを用いた。まず透過セルにサンプルをセットした後、系内を真空に保ち十分に乾燥させた。その後、高圧側に測定気体を導入し、サンプルを介して低圧側に透過してきた気体の圧力の変化を記録した。定常状態に達した後の圧力−時間直線の傾きから透過速度dp/dt(cmHg/sec)を求め、その結果から以下の式(1)、(2)、および(3)を用い透過係数P(cmSTPcm/cmsec.cmHg)、拡散係数D(cm/sec)および溶解度係数S(cmSTP/cmpolymcmHg)を算出した。
【0041】
【数1】

ここで、Tは測定温度(K)、Aは透過面積(cm)、Vは低圧側体積(cm)、Lは膜厚(cm)、pは高圧側圧力(cmHg)、θは定常状態に達するまでの遅れ時間(sec)である。
【0042】
(7)水蒸気透過測定
水蒸気透過特性は、定容法により76cmHg(1atm)、25℃で行った。まず、透過セルにサンプルをセットした後、系内を湿度8%以下まで乾燥させた。その後、サンプルを介して透過してきた水蒸気量を湿度の変化から算出した。標準サンプルとしてPETフィルムを用いて水蒸気透過量(WVTR:g/m/day)を測定したところ、100μm厚で6.9g/m/dayであった。
【0043】
(8)吸水率測定
キャストフィルムから1cm×3cmの試験片を切り出し、質量(W)を測定した。イオン交換水20mlに対して試験片1枚を浸し、23.0℃で24時間静置した。イオン交換水から試験片を取り出し、試験片表面に付着した水滴を除去した後、試験片の質量(W)を測定した。その結果から(4)式を用いて吸水率を測定した。
【0044】
【数2】

【0045】
(9)生分解性測定
キャストフィルムから1cm×3cmの試験片を切り出し、質量(W)を測定した。Tris−HCl buffer(25mM,pH8.6)にproteinase Kが50μg/mlとなるよう溶解させた後、酵素溶液5mlに対して試験片1枚を浸した。その後、37.0℃で1週間撹拌を行った。1週間後の試験片はエタノールで洗浄後、40℃で24時間真空乾燥させ、重量(W)を測定した。その結果から(5)式を用いて分解率を算出した。
【0046】
【数3】

【0047】
〔実施例1〕
本実施例では、片末端モノカルビノール型ステレオブロック共重合体、及び片末端モノカルビノール型ステレオコンプレックス共重合体の合成例を説明する。片末端モノカルビノール型ステレオブロック共重合体の模式的構造を図2(a)に示す。本実施例では、片末端モノカルビノール型ステレオブロック共重合体、及び片末端モノカルビノール型ステレオコンプレックス共重合体の合成に先立ち、図2(b)に示す前駆体となる片末端モノカルビノール型共重合体を合成しておく。当該前駆体から最終生成物を得る。
【0048】
〔1−1〕:片末端モノカルビノール型共重合体(前駆体)の合成
撹拌子を備えた試験管の中にラクチド(L−ラクチド又はD−ラクチド)、シロキサン(片末端モノカルビノールPDMS)を夫々適宜入れた後、70℃で3時間真空乾燥させた。その後、蒸留済みの重合開始剤(オクチル酸スズ:モノマーの1/5000mol%)を添加し、さらに1時間真空乾燥させた。窒素置換後、140℃のオイルバスの中に浸し、撹拌子により撹拌を行いながら加熱した。加熱開始1時間後に室温まで放冷し塩化メチレンを加えて溶解させ、溶液をメタノール中に滴下することで精製した。吸引濾過により回収した沈殿物を、80℃で8時間真空乾燥させた。得られたポリマーをアセトン−HCL(1N)混合溶液(4:1)に浸し、室温で20分間撹拌した後、吸引濾過により回収し、アセトンでさらに洗浄後、得られたポリマーを80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、50℃の真空オーブン中で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、片末端モノカルビノール型共重合体のフィルムを得た。
【0049】
結果
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
〔1−2〕:片末端モノカルビノール型ステレオブロック共重合体の合成
撹拌子を備えた試験管の中にD−ラクチド(又はL−ラクチド)、及び上記〔1−1〕の片末端モノカルビノール型共重合体(前駆体)として合成したL−共重合体(又はD−共重合体)を夫々適宜入れた後、70℃で3時間真空乾燥させた。その後、蒸留済みの重合開始剤(オクチル酸スズ:マクロモノマーの1/5000mol%)を添加し、さらに1時間真空乾燥させた。窒素置換後、190℃のオイルバスの中に浸し、撹拌子により撹拌を行いながら加熱した。加熱開始1時間後に室温まで放冷し塩化メチレン−HFIP(4:1)混合溶液を加えて溶解させ、溶液をメタノール中に滴下することで精製した。吸引濾過により回収した沈殿物を、80℃で8時間真空乾燥させた。得られたポリマーをアセトン−HCL(1N)混合溶液(4:1)に浸し、室温で20分間撹拌した後、吸引濾過により回収し、アセトンでさらに洗浄後、得られたポリマーを80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン−HFIP(4:1)混合溶液15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、片末端モノカルビノール型ステレオブロック共重合体のフィルムを得た。
【0056】
〔1−3〕:片末端モノカルビノール型ステレオコンプレックス共重合体の合成
上記〔1−1〕の片末端モノカルビノール型共重合体(前駆体)として合成したL−共重合体、及びD−共重合体を等量ずつ秤とり、塩化メチレン15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間放置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、片末端モノカルビノール型ステレオコンプレックス共重合体のフィルムを得た。
【0057】
結果
【0058】
【表6】

【0059】
【表7】

【0060】
【表8】

【0061】
【表9】

【0062】
〔実施例2〕
本実施例では、両末端カルビノール型ステレオブロック共重合体、及び両末端カルビノール型ステレオコンプレックス共重合体の合成例を説明する。両末端カルビノール型ステレオブロック共重合体の模式的構造を図2(c)に示す。本実施例では、両末端カルビノール型ステレオブロック共重合体、及び両末端カルビノール型ステレオコンプレックス共重合体の合成に先立ち、図2(d)に示す前駆体となる両末端カルビノール型共重合体を合成しておく。当該前駆体から最終生成物を得る。
【0063】
〔2−1〕:両末端カルビノール型共重合体(前駆体)の合成
撹拌子を備えた試験管の中にラクチド(L−ラクチド又はD−ラクチド)、シロキサン(両末端カルビノールPDMS)を夫々適宜入れた後、70℃で3時間真空乾燥させた。その後、蒸留済みの重合開始剤(オクチル酸スズ:モノマーの1/5000mol%)を添加し、さらに1時間真空乾燥させた。窒素置換後、140℃のオイルバスの中に浸し、撹拌子により撹拌を行いながら加熱した。加熱開始1時間後に室温まで放冷し塩化メチレンを加えて溶解させ、溶液をメタノール中に滴下することで精製した。吸引濾過により回収した沈殿物を、80℃で8時間真空乾燥させた。得られたポリマーをアセトン−HCL(1N)混合溶液(4:1)に浸し、室温で20分間撹拌した後、吸引濾過により回収し、アセトンでさらに洗浄後、得られたポリマーを80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、両末端カルビノール型共重合体のフィルムを得た。
【0064】
結果
【0065】
【表10】

【0066】
【表11】

【0067】
【表12】

【0068】
【表13】

【0069】
【表14】

【0070】
〔2−2〕:両末端カルビノール型ステレオブロック共重合体の合成
撹拌子を備えた試験管の中にD−ラクチド(又はL−ラクチド)、及び上記〔2−1〕の両末端カルビノール型共重合体(前駆体)として合成したL−共重合体(又はD−共重合体)を夫々適宜入れた後、70℃で3時間真空乾燥させた。その後、蒸留済みの重合開始剤(オクチル酸スズ:マクロモノマーの1/5000mol%)を添加し、さらに1時間真空乾燥させた。窒素置換後、190℃のオイルバスの中に浸し、撹拌子により撹拌を行いながら加熱した。加熱開始1時間後に室温まで放冷し塩化メチレン−HFIP(4:1)混合溶液を加えて溶解させ、溶液をメタノール中に滴下することで精製した。吸引濾過により回収した沈殿物を、80℃で8時間真空乾燥させた。得られたポリマーをアセトン−HCL(1N)混合溶液(4:1)に浸し、室温で20分間撹拌した後、吸引濾過により回収し、アセトンでさらに洗浄後、得られたポリマーを80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン−HFIP(4:1)混合溶液15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、両末端カルビノール型ステレオブロック共重合体のフィルムを得た。
【0071】
〔2−3〕:両末端カルビノール型ステレオコンプレックス共重合体の合成
上記〔2−1〕の両末端カルビノール型共重合体(前駆体)として合成したL−共重合体、及びD−共重合体を等量ずつ秤とり、塩化メチレン15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間放置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、両末端カルビノール型ステレオコンプレックス共重合体のフィルムを得た。
【0072】
結果
【0073】
【表15】

【0074】
【表16】

【0075】
【表17】

【0076】
【表18】

【0077】
〔実施例3〕
本実施例では、片末端ジカルビノール型ステレオブロック共重合体、及び片末端ジカルビノール型ステレオコンプレックス共重合体の合成例を説明する。片末端ジカルビノール型ステレオブロック共重合体の模式的構造を図2(e)に示す。本実施例では、片末端ジカルビノール型ステレオブロック共重合体、及び片末端ジカルビノール型ステレオコンプレックス共重合体の合成に先立ち、図2(f)に示す前駆体となる片末端ジカルビノール型共重合体を合成しておく。当該前駆体から最終生成物を得る。
【0078】
〔3−1〕:片末端ジカルビノール型共重合体(前駆体)の合成
撹拌子を備えた試験管の中にラクチド(L−ラクチド又はD−ラクチド)、シロキサン(片末端ジカルビノールPDMS)を夫々適宜入れた後、70℃で3時間真空乾燥させた。その後、蒸留済みの重合開始剤(オクチル酸スズ:モノマーの1/5000mol%)を添加し、さらに1時間真空乾燥させた。窒素置換後、140℃のオイルバスの中に浸し、撹拌子により撹拌を行いながら加熱した。加熱開始1時間後に室温まで放冷し塩化メチレンを加えて溶解させ、溶液をメタノール中に滴下することで精製した。吸引濾過により回収した沈殿物を、80℃で8時間真空乾燥させた。得られたポリマーをアセトン−HCL(1N)混合溶液(4:1)に浸し、室温で20分間撹拌した後、吸引濾過により回収し、アセトンでさらに洗浄後、得られたポリマーを80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、片末端ジカルビノール型共重合体のフィルムを得た。
【0079】
結果
【0080】
【表19】

【0081】
【表20】

【0082】
【表21】

【0083】
【表22】

【0084】
〔3−2〕:片末端ジカルビノール型ステレオブロック共重合体の合成
撹拌子を備えた試験管の中にD−ラクチド(又はL−ラクチド)、及び上記〔3−1〕の片末端ジカルビノール型共重合体(前駆体)として合成したL−共重合体(又はD−共重合体)を夫々適宜入れた後、70℃で3時間真空乾燥させた。その後、蒸留済みの重合開始剤(オクチル酸スズ:マクロモノマーの1/5000mol%)を添加し、さらに1時間真空乾燥させた。窒素置換後、190℃のオイルバスの中に浸し、撹拌子により撹拌を行いながら加熱した。加熱開始1時間後に室温まで放冷し塩化メチレン−HFIP(4:1)混合溶液を加えて溶解させ、溶液をメタノール中に滴下することで精製した。吸引濾過により回収した沈殿物を、80℃で8時間真空乾燥させた。得られたポリマーをアセトン−HCL(1N)混合溶液(4:1)に浸し、室温で20分間撹拌した後、吸引濾過により回収し、アセトンでさらに洗浄後、得られたポリマーを80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン−HFIP(4:1)混合溶液15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、片末端ジカルビノール型ステレオブロック共重合体のフィルムを得た。
【0085】
〔3−3〕:片末端ジカルビノール型ステレオコンプレックス共重合体の合成
上記〔3−1〕の片末端ジカルビノール型共重合体(前駆体)として合成したL−共重合体、及びD−共重合体を等量ずつ秤とり、塩化メチレン15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間放置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、片末端ジカルビノール型ステレオコンプレックス共重合体のフィルムを得た。
【0086】
〔実施例4〕
本実施例では、マルチブロックタイプのステレオブロック共重合体、及びステレオコンプレックス共重合体の合成例を説明する。マルチブロックタイプのステレオブロック共重合体の模式的構造を図3(a)及び(b)に示す。
【0087】
〔4−1〕:マルチブロックタイプの共重合体(前駆体)の合成
撹拌子を備えた試験管の中にラクチド(L−ラクチド又はD−ラクチド)、1,12−ドデカンジオールを夫々適宜入れた後、70℃で3時間真空乾燥させた。その後、蒸留済みの重合開始剤(オクチル酸スズ:モノマーの1/5000mol%)を添加し、さらに1時間真空乾燥させた。窒素置換後、140℃に予め熱しておいたオイルバスの中に浸し、撹拌子により撹拌を行いながら加熱した。加熱開始1時間後に室温まで放冷し塩化メチレンを加えて溶解させ、溶液をメタノール中に滴下することで精製した。吸引濾過により回収した沈殿物を、80℃で8時間真空乾燥させた(ここまでを、「第1ステップ」とする)。なお、この第1ステップでは、1,12−ドデカンジオールは必要に応じて使用すればよく、第1ステップからシロキサン(両末端カルビノールPDMS)を使用しても構わない。両末端カルボン酸のPDMSと塩化チオニルを混合し、両末端酸クロライドPDMSを調製した。塩化メチレンに溶解させた両末端アルコールPLLA(又はPDLA)中に両末端酸クロライドPDMSを添加し撹拌した後、溶液をメタノール中に滴下することで精製を行った。吸引濾過により回収した沈殿物を80℃で真空乾燥を8時間行った。得られたポリマーをアセトン−HCL(1N)混合溶液(4:1)に浸し、室温で20分間撹拌した後、吸引濾過により回収し、アセトンでさらに洗浄後、得られたポリマーを80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、マルチブロックタイプの共重合体のフィルムを得た。
【0088】
〔4−2〕:マルチブロックタイプのステレオブロック共重合体の合成
上記〔4−1〕のマルチブロックタイプの共重合体(前駆体)の第1ステップで合成した両末端アルコールPLLA及び両末端アルコールPDLAを等量塩化メチレン−HFIP(4:1)に溶解させた後、両末端酸クロライドPDMSを添加し撹拌し、溶液をメタノール中に滴下することで精製を行った。吸引濾過により回収した沈殿物を80℃で真空乾燥を8時間行った。得られたポリマーをアセトン−HCL(1N)混合溶液(4:1)に浸し、室温で20分間撹拌した後、吸引濾過により回収し、アセトンでさらに洗浄後、得られたポリマーを80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン−HFIP(4:1)15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、マルチブロックタイプのステレオブロック共重合体のフィルムを得た。
【0089】
〔4−3〕:マルチブロックタイプのステレオコンプレックス共重合体の合成
上記〔4−1〕のマルチブロックタイプの共重合体(前駆体)として合成したL−共重合体、及びD−共重合体を等量ずつ秤とり、塩化メチレンに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間放置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、マルチブロックタイプのステレオコンプレックス共重合体のフィルムを得た。
【0090】
〔実施例5〕
本実施例では、上記実施例4とは異なる別のマルチブロックタイプ(以下、第2マルチブロックタイプと称する)のステレオブロック共重合体、及びステレオコンプレックス共重合体の合成例を説明する。本実施例における第2マルチブロックタイプのステレオブロック共重合体の模式的構造、及びステレオコンプレックス共重合体の模式的構造を図3(c)及び(d)に示す。本実施例では、第2マルチブロックタイプのステレオブロック共重合体、及びステレオコンプレックス共重合体の合成に先立ち、図2(d)及び(f)に示す前駆体となるブロックタイプの共重合体を合成しておく。当該前駆体から最終生成物を得る。
【0091】
〔5−1〕:第2マルチブロックタイプの共重合体(前駆体)の合成
上記〔2−1〕の両末端カルビノール型共重合体(前駆体)、又は、上記[3−1]の片末端ジカルビノール型共重合体(前駆体)で合成したPLLA共重合体(又はPDLA共重合体)を塩化メチレンに溶解後、種々の両末端官能基を持った化合物(結合剤:例えば、ジアミン、ジイソシアネート、ジカルボン酸、ジエポキシ等)を添加し撹拌後、溶液をメタノール中に滴下することで精製を行った。吸引濾過により回収した沈殿物を、80℃で8時間真空乾燥させた。得られたポリマーをアセトンで洗浄後、80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、第2マルチブロックタイプの共重合体のフィルムを得た。
【0092】
〔5−2〕:第2マルチブロックタイプのステレオブロック共重合体の合成
上記〔2−1〕の両末端カルビノール型共重合体(前駆体)、又は、上記[3−1]の片末端ジカルビノール型共重合体(前駆体)で合成したPLLA共重合体及びPDLA共重合体を等量ずつ塩化メチレンに溶解させた後、種々の両末端官能基を持った化合物(結合剤:例えば、ジアミン、ジイソシアネート、ジカルボン酸、ジエポキシ等)を添加し撹拌後、溶液をメタノール中に滴下することで精製を行った。吸引濾過により回収した沈殿物を、80℃で8時間真空乾燥させた。得られたポリマーをアセトンで洗浄後、80℃で8時間真空乾燥させた。乾燥後の粉黛を0.5g秤とり、塩化メチレン−HFIP(4:1)15gに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間静置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、第2マルチブロックタイプのステレオブロック共重合体のフィルムを得た。
【0093】
〔5−3〕:第2マルチブロックタイプのステレオコンプレックス共重合体の合成
上記〔5−1〕の第2マルチブロックタイプの共重合体(前駆体)として合成したL−共重合体及びD−共重合体を等量ずつ秤とり、塩化メチレンに溶解させた後、ガラスシャーレ上にキャストし室温で6時間放置した後、真空オーブン中50℃で3時間、さらに100℃で4時間、加熱乾燥し、第2マルチブロックタイプのステレオコンプレックス共重合体のフィルムを得た。
【0094】
〔別実施形態〕
上記実施形態及び実施例においては、ポリエステル構造単位としてのポリ乳酸構造単位を、ラクチドの開環重合によって合成する例を説明した。しかし、上記ポリ乳酸構造単位は、例えば、乳酸を重縮合法によりポリマー化することで得ることも可能である。すなわち、本発明では、モノマーとして、ラクチドや乳酸などの乳酸系モノマーを使用することが可能である。また、シロキサン構造を有さないジオール化合物等の他の化合物を合成反応に使用することも可能である。
【0095】
〔比較例〕
市販ポリ(L−乳酸)(PLLA:武蔵野化学研究所)の諸物性を下記に示す。
【0096】
【表23】

【0097】
【表24】

【0098】
【表25】

【0099】
【表26】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のステレオブロック共重合体組成物、及びステレオコンプレックス共重合体組成物は、従来の石油系樹脂(ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等)と代替することができるため、例えば、各種電化製品の筐体、包装材料、梱包材料、医療材料等に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シロキサン構造単位と、
(B)L体からなるポリエステル構造単位と、
(C)D体からなるポリエステル構造単位と、
を分子構造内に含むステレオブロック共重合体組成物。
【請求項2】
前記(A)、前記(B)、及び前記(C)を夫々複数単位有するマルチブロックタイプとして構成された請求項1に記載のステレオブロック共重合体組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル構造単位は、ポリ乳酸構造単位である請求項1又は2に記載のステレオブロック共重合体組成物。
【請求項4】
(D)シロキサン構造単位、及びL体からなるポリエステル構造単位を分子構造内に含むL型共重合体と、
(E)シロキサン構造単位、及びD体からなるポリエステル構造単位を分子構造内に含むD型共重合体と、
を混合してなるステレオコンプレックス共重合体組成物。
【請求項5】
前記(D)は、シロキサン構造単位、及びL体からなるポリエステル構造単位を夫々複数単位有するマルチブロックタイプのL型共重合体として構成され、
前記(E)は、シロキサン構造単位、及びD体からなるポリエステル構造単位を夫々複数単位有するマルチブロックタイプのD型共重合体として構成されている、
請求項4に記載のステレオコンプレックス共重合体組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル構造単位は、ポリ乳酸構造単位である請求項4又は5に記載のステレオコンプレックス共重合体組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの反応末端基を有するシロキサンに、少なくとも第1型の乳酸系モノマー及び重合開始剤を混合して重合反応を進行させる重合工程と、
前記重合工程で得られた重合物に、少なくとも前記第1型の乳酸系モノマーとは異なる立体配置を有する第2型の乳酸系モノマー及び重合開始剤を混合して共重合反応を進行させる共重合工程と、
を包含するステレオブロック共重合体組成物の合成方法。
【請求項8】
少なくとも1つの反応末端基を有するシロキサンに、少なくとも第1型の乳酸系モノマー及び重合開始剤を混合して重合反応を進行させる第1重合工程と、
少なくとも1つの反応末端基を有するシロキサンに、少なくとも前記第1型の乳酸系モノマーとは異なる立体配置を有する第2型の乳酸系モノマー及び重合開始剤を混合して重合反応を進行させる第2重合工程と、
前記第1重合工程で得られた第1重合物と、前記第2重合工程で得られた第2重合物とを反応させる完成工程と、
を包含するマルチブロックタイプのステレオブロック共重合体組成物の合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−149021(P2011−149021A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288094(P2010−288094)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、平成21年度、文部科学省、「地域科学技術振興事業委託事業(京都環境ナノクラスター)」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】