説明

ステロイドスルファターゼインヒビター

【発明の詳細な説明】
発明の分野 本発明は、ステロイドスルファターゼインヒビターとして用いられる新規化合物、および該化合物を含有する薬学的組成物に関する。
背景および先行技術 ステロイド核の3−位にスルフェート基を有するステロイド前駆体またはプロホルモン(本明細書中で以後ステロイドスルフェートという)は、ヒト体内におけるステロイド代謝の中間体として重要な役割を果たすことが知られている。例えば、エストロンスルフェートおよびデヒドロエピアンドロステロン(DHA)スルフェートは、体内においてエストロンおよびエストラジオールのようなエストロゲンの生成における中間体として重要な役割を果たすことが知られている。例えば、エストロンスルフェートは、特に、閉経後の女性に特有な主要な循環エストロゲン前駆体の一つの例であることが知られており、そして乳房の腫瘍におけるエストロンスルファターゼ活性は、エストロゲン形成に関わる他の酵素より100〜1000倍大きい(Jamesら,Steroids,50,269−279(1987))。
これだけでなく、エストロンおよびエストラジオールのようなエストロゲン、特にそれらの過剰生成は、乳ガンのような悪性状態に強く関係しており(Breast Cancer,Treatment and Prognosis:R.A.Stoll編,pp.156−172,Blackwell Scientific Publications(1986)を参照のこと)、そしてエストロゲン生成のコントロールは、多くの抗癌治療、例えば、化学療法および手術(例えば、卵巣摘出および副腎摘出)の特定の標的である。内分泌治療に関心が持たれる限りは、これまでの努力は、アロマターゼインヒビターに集中する傾向があった。すなわち、このアロマターゼインヒビターはアロマターゼ活性を阻害する化合物であり、この活性は、添付のエストロゲン代謝経路図(図1)に示すようにアンドロゲンの変換、例えば、アンドロステンジオンおよびテストステロンからエストロンおよびエストラジオールへのそれぞれの変換に関わっている。
最近出版された国際出願第WO91/13083号では、エストロゲン代謝経路で異なる箇所、というよりはむしろ、2つの異なる箇所を標的とすることが提案されてきた。すなわち、ステロイドスルファターゼ活性により、そしてステロイドスルファターゼインヒビターとしての3−モノアルキルチオホスホネートステロイドエステル、より詳細には、エストロン−3−モノメチルチオホスホネートを用いて、DHAスルフェートおよびエストロンスルフェートからDHAおよびエストロンへのそれぞれの変換を標的とすることが提案されてきた。
本発明の目的 本発明の第1の目的は、インビトロおよびインビボでステロイドスルファターゼ活性を阻害し得る新規化合物を提供することである。
本発明の第2の目的は、インビトロおよびインビボの両方でステロイドスルファターゼインヒビターとして改善された活性を有する新規化合物を提供することである。
本発明の第3の目的は、エステロゲン依存性腫瘍の治療において有効な薬学的組成物を提供することである。
本発明の第4の目的は、乳ガンの治療において有効な薬学的組成物を提供することである。
本発明の第5の目的は、哺乳動物、特にヒトのエステロゲン依存性腫瘍の治療をするための方法を提供することである。
本発明の第6の目的は、哺乳動物、特に女性の乳ガンの治療をするための方法を提供することである。
発明の要旨 本発明は、ステロイドスルファターゼ阻害活性を有する(いくつかの場合では非常に高い活性レベルである)新規化合物の発見に基づいている。これらの化合物は、多環式アルコールのスルフェートがステロイドスルファターゼ(EC 3.1.6.2)活性を有する酵素の基質である、多環式アルコールのスルファミン酸エステル、それらのスルファミン酸エステルのN−アルキルおよびN−アリール誘導体、ならびにそれらの薬学的に受容可能な塩である。
広く言えば、本発明の新規化合物は、式(I)の化合物である。


ここで、R1およびR2は、それぞれ独立して、H、アルキル、シクロアルキル、アルケニル(elkenyl)およびアリールから選択されるか、互いに一緒になってアルキレン鎖中に1つまたはそれ以上のヘテロ原子あるいは基を必要に応じて含有するアルキレンを表し、 −O−多環基は、多環式アルコールの残基を表し、そのスルフェートは、ステロイドスルファターゼ活性(EC 3.1.6.2)を有する酵素の基質である。
本明細書中で用いられるとき、そのスルフェートがステロイドスルファターゼ活性を有する酵素の基質である多環式アルコールとは、そのスルフェートが以下のものである多環式アルコールに言及している。すなわち、そのスルフェートは、次式の誘導体であり:

pH7.4および37℃で、ステロイドスルファターゼEC3.1.6.2とインキュベートされるときに、50μmolより小さいKm値を提供する。
図面の簡単な説明 図1は、インビボでのエストラジオールの生成に関連する、代謝経路、酵素およびステロイド中間体を示す図式化チャートである。
ステロイドスルファターゼインヒビターとしての本発明の化合物の活性は、添付の図面に示されている: 図2は、インビトロでのヒトMCF−7細胞内のステロイドスルファターゼ活性に関するエストロン−3−スルファメートの投与量依存性の阻害効果を示すヒストグラムである。
図3は、インビトロでのヒトMCF−7細胞内のステロイドスルファターゼ活性に関するエストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートの投与量依存性の阻害効果を示すヒストグラムである。
図4は、インビトロでのヒトMCF−7細胞内のステロイドスルファターゼ活性に関するエストロン−3−スルファメートおよびエストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートの投与量−反応の対数曲線を比較するグラフである。
図5は、インビトロでのヒト胎盤ミクロゾーム内のステロイドスルファターゼ活性に関するエストロン−3−スルファメートの投与量依存性の阻害効果をIC50値(50%阻害を生じるのに必要な濃度)とともに示すグラフである。
詳細な説明 1つの局面では、本発明は、新規化合物として、多環式アルコールのスルフェートが既に与えられた定義に従ってステロイドスルファターゼ活性を有する酵素の基質である、多環式アルコールのスルファミン酸エステル、ならびに、それらのN−アルキル、N−シクロアルキル、N−アルケニル、およびN−アリール誘導体を提供する。これらの化合物は、上記で示された式Iの化合物である。
好ましくは、この多環基は、最大約40個の炭素原子、より通常には約30個以下の炭素原子を含む全ての置換基を含有し得る。好ましい多環式化合物は、ステロイド環構造、すなわち、シクロペンタノフェナントレン骨格を含有する化合物である。好ましくは、このスルファミル基または置換スルファミル基がその骨格の3−位に結合された、すなわち、式IIの化合物である。


ここで、R1およびR2は、上記で定義されたものであり、そして、この環系ABCDは、置換または非置換、飽和または不飽和のステロイド核を表し、好ましくは、エストロンまたはデヒドロエピアンドロステロンを表す。
他の好適なステロイド環系は以下の通りである:置換エストロン、すなわち: 2−OH−エストロン 2−メトキシ−エストロン 4−OH−エストロン 6α−OH−エストロン 7α−OH−エストロン 16α−OH−エストロン 16β−OH−エストロンエストラジオールおよび置換エストラジオール、すなわち: 2−OH−17β−エストラジオール 2−メトキシ−17β−エストラジオール 4−OH−17β−エストラジオール 6α−OH−17β−エストラジオール 7α−OH−17β−エストラジオール 16α−OH−17β−エストラジオール 16β−OH−17α−エストラジオール 16β−OH−17α−エストラジオール 17α−エストラジオール 17β−エストラジオール 17α−エチニル−17β−エストラジオールエストリオールおよび置換エストリオール、すなわち: エストリオール 2−OH−エストリオール 2−メトキシ−エストリオール 4−OH−エストリオール 6α−OH−エストリオール 7α−OH−エストリオール置換デヒドロエピアンドロステロン、すなわち: 6α−OH−デヒドロエピアンドロステロン 7α−OH−デヒドロエピアンドロステロン 16α−OH−デヒドロエピアンドロステロン 16β−OH−デヒドロエピアンドロステロン 一般的な用語では、ステロイド環系ABCDは、種々の非妨害性置換基を含有し得る。特に、この環系ABCDは、1つまたはそれ以上の下記の置換基を含有し得る:ヒドロキシ、アルキル、特に低級(C1−C6)アルキル(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチルおよび他のペンチル異性体、ならびにn−ヘキシルおよび他のヘキシル異性体)、アルコキシ、特に低級(C1−C6)アルコキシ(例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシなど)、アルキニル(例えば、エチニル)、またはハロゲン(例えば、フルオロ)。
他の好適な非ステロイド環系は、ジエチルスチルボエストロール、スチルボエストロールおよびステロイドスルファターゼEC3.1.6.2を用いて50μmolより小さいKm値を有するスルフェートを提供する他の環系を包含する。
置換される際、本発明のN置換化合物は、好ましくは最大10個の炭素原子を含有するまたはそれぞれが含有する1つまたは2つのN−アルキル、N−アルケニル、N−シクロアルキルまたはN−アリール置換基を含有し得る。R1および/またはR2がアルキルである場合、好ましいのは、R1およびR2がそれぞれ独立して1〜5個の炭素原子を含有する低級アルキル基、すなわち、メチル、エチル、プロピルなどから選択されるものである。好ましくは、R1およびR2は、共にメチルである。R1および/またはR2がアリールである場合、典型的なのは、フェニルおよびトリル(−PhCH3;o−、m−またはp−)である。R1およびR2がシクロアルキルを表す場合、典型的なのは、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどである。互いに一緒になる場合、R1およびR2は、典型的には、必要に応じて1つまたはそれ以上のヘテロ原子または基、例えば、5−、6−または)−員複素環(例えば、モルホリノ、ピロリジノまたはピペリジノ)を形成する−O−または−NH−によって仲介(interrupt)される、4〜6個の炭素原子からなる鎖を形成するアルキレン基を表す。
アルキル、シクロアルキル、アルケニルおよびアリールの中で、当該化合物のスルファターゼ阻害活性を妨げない1つまたはそれ以上の基を置換基として含有する置換された基も包含する。非妨害性置換基としては、例えば、ヒドロキシ、アミノ、ハロ、アルコキシ、アルキルおよびアリールを包含する。
最も好ましいものは、式IIIおよびIVの化合物である:



ここで、R1およびR2は、HまたはC1〜C5アルキル、すなわち、エストロン−3−スルファメートおよびデヒドロエピアンドロステロン−3−スルファメート、およびそれらのN−(C1〜C5)アルキル誘導体、特にジメチル誘導体(R1=R2=CH3)である。
本発明のスルファミン酸エステルは、多環式アルコール(例えば、エストロンまたはデヒドロエピアンドロステロン)を塩化スルファモイルR1R2NSO2Clと反応させることにより、すなわち、反応スキームIにより調製される:

反応スキームIを行うための条件は、以下の通りである: 水素化ナトリウムおよび塩化スルファモイルを、0℃の攪拌したエストロンの無水ジメチルホルムアミド溶液に添加する。次に、反応物を室温まで加温し、さらに24時間攪拌し続ける。反応混合物を炭酸水素(bicarbonate)ナトリウムの冷した飽和溶液に注入し、得られる水性相をジクロロメタンで抽出する。併せた有機抽出物を無水MgSO4上で乾燥する。濾過の後、真空下で溶媒を蒸発させ、トルエンと共蒸発させて粗残査を得、それをさらにフラッシュクロマトグラフィーにより精製する。
必要に応じて、多環式アルコール(ステロール)内の官能基は、公知の方法で保護され得、そしてその保護基または保護基群は反応終了時に除去され得る。
本発明のステロイドスルファターゼインヒビターは、薬剤として投与するために、従来の薬学的製剤技術および薬学的担体、賦形剤、希釈剤などを用いて、通常、非経口投与に適切ないかなる方法でも製剤化され得る。有効なおよその投与量は、当該化合物のそれぞれの活性に依存して、平均体重(70kg)の患者に対して、100〜800mg/日の範囲内である。好適でより活性な化合物に対するより通常の投与量は、200〜800mg/日、さらに好ましくは、200〜500mg/日、最も好ましくは、200〜250mg/日の範囲内である。それらは、1回投与レジメ、分割投与レジメおよび/または数日間にわたる多回投与レジメで投与され得る。経口投与には、それらは、単位投与量当たり100〜500mgの化合物を含有する、錠剤、カプセル、溶液または懸濁液として製剤化され得る。あるいは、そして好ましくは、これらの化合物は、適切な非経口投与可能な担体内に非経口投与用に製剤化され、そして1日投与量を200〜800mg、好ましくは200〜500mg、より好ましくは200〜250mgの範囲内で提供するために製剤化される。しかしながら、そのような有効な1日投与量は、活性成分の固有の活性および被検体の体重に依存して変化し、そのような変化は、医者の技術と判断の範囲内にある。
特定の用途としては、本発明のステロイドスルファターゼインヒビターは、別のスルファターゼインヒビターと、または、例えば、4−ヒドロキシアンドロステンジオン(4−OHA)のようなアロマターゼインヒビターとの組合せのいずれかとの併用治療に用いられ得る。
以下の調製の実施例および試験データにより本発明を例示する。
実施例1エストロン−3−スルファメートの調製 水素化ナトリウム(60%分散体、2当量)および塩化スルファモイル(2当量)を、0℃の攪拌したエストロン(1当量)の無水ジメチルホルムアミド溶液に添加した。次に、反応物を室温まで加温し、さらに24時間攪拌し続けた。
反応混合物を炭酸水素ナトリウムの冷たい飽和溶液に注入し、得られる水性相をジクロロメタンで抽出した。併せた有機抽出物を無水MgSO4上で乾燥した。濾過後、真空下で溶媒を蒸発させ、トルエンと共蒸発させて粗残査を得、それをさらにフラッシュクロマトグラフィーにより精製する。
分析を行って以下のデータを得た:δ1H(270MHz;CD3OD):0.91(s,3H,C18−Me),1.40−2.55(一連のm,13H),2.90−2.92(m,2H),7.04(br d,2H,J=10.44Hz),7.33(br d,1H,J=8.42Hz).
δ13C(67.8MHz;CD3OD):14.53(q,C18−Me),22.80(t),27.24(t),27.73(t),30.68(t),33.05(t),37.01(t),39.76(d),45.73(s,C18),51.86(d),120.76(d),123.54(d),127.89(d),139.83(s),150.27(s),223.87(s,C=0).
m/z(%):349(9)(m+),270(100),213(26),185(43),172(31),159(21),146(36),91(33),69(37),57(73),43(56),29(24).
微量分析: C H N 期待値: 61.87% 6.63% 4.01%実測値: 61.90% 6.58% 3.95%実施例2エストロン−3−N−メチルスルファメートの調製 塩化スルファモイルを等量のN−メチルスルファモイルクロリドにかえる以外は実施例1の方法を繰り返した。
分析を行って以下のデータを得た:δ1H(270MHz;CDCl3):0.91(s,3H,C18−Me),1.28−1.68(m,6H),1.93−2.60(一連のm,7H),2.90−2.95(m,2H),2.94(d,3H,J=5.13Hz,MeN−),4.68−4.71(br m,交換可能,1H,−NH),7.02−7.07(m,2H),7.26−7.32(m,1H).
m/z(%):364[M+H]実施例3エストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートの調製 塩化スルファモイルを等量の塩化N,N−ジメチルスルファモイルにかえる以外は実施例1の方法を繰り返した。
分析を行って以下のデータを得た:δ1H(270MHz;CDCl3):0.92(s,3H,C18−Me),1.39−1.75(m,5H),1.95−2.60(一連のm,6H),2.82(s,3H,MeN−),2.96−3.00(m,4H),2.98(s,3H,MeN−),7.O4(br d,2H,J=7.69Hz),7.29(br d,1H,J=7.88Hz).
m/z(%):377[M]微量分析: C H N 期待値: 63.63% 7.21% 3.71%実測値: 63.50% 7.23% 3.60%実施例4エストロン−3−スルファメートによるMCF−7細胞内のステロイドスルファターゼ活性の阻害 ステロイドスルファターゼは、ステリルスルファターゼEC3.1.6.2として定義される。
ステロイドスルファターゼ活性は、無傷のMCF−7ヒト乳ガン細胞を用いてインビトロで測定した。このホルモン依存性細胞セルラインを広範に用いて、ヒト乳ガン細胞成長を制御する研究を行う。それは重要なステロイドスルファターゼ活性(MacIndoe et al.Endocrinology,123,1281−1287(1988);Purohit & Reed,Int.J.Cancer,50,901−905(1992))を有し、米国では、American Type Culture Collection(ATCC)から、そして英国では、例えば、Imperial Cancer Research Fundから入手可能である。細胞は、20mM HEPES、5%ウシ胎仔血清、2mΜグルタミン、可欠アミノ酸および0.075%炭酸水素ナトリウムを含有する最小必要培地(MEM)(Flow Laboratories,Irvine,スコットランド)中で保持される。上記培地を用いて、30個までの25cm2のレプリケート組織培養フラスコに、約1×105細胞/フラスコを接種した。細胞を80%集密まで成長させ、培地を3日毎に交換した。
25cm2のトリプリケート組織培養フラスコをアール平衡塩溶液(Earle's Balanced Salt Solution)(ICN Flow,High Wycombe,U.K.からのEBSS)で洗浄し、無血清MEM(2.5ml)中の、5pmol(7×105dpm)の[6,73−H]エストロン−3−スルフェート(New England Nuclear,ボストン,Mass.,USA)からの比活性60Ci/mmol)をエストロン−3−スルファメート(11種の濃度:0、1fM、0.01pM、0.1pM、1pM、0.01nM、0.1nM、1nM、0.01μM、0.1μM、1μM)とともに37℃で3〜4時間インキュベートした。インキュベートした後、各フラスコを冷却し、[14C]エストロン(7×103dpm)(Amersham International Radiochemical Centre,Amersham,U.K.からの比活性97Ci/mmol)を入れた分離管に、培地(1ml)をピペットで移した。混合物を、トルエン(5ml)とともに30秒間十分に振とうした。90%より多い[14C]エストロンおよび0.1%未満の[3H]エストロン−3−スルフェートが、この処理によって水性相から除去されたことが、実験によって示された。有機相の一部(2ml)を除去し、蒸発させ、シンチレーション分光測定によって残査の3Hおよび14C含有量を測定した。加水分解されたエストロン−3−スルフェートの質量を、得られた3H総数(用いた培地および有機相の容積、ならびに添加した[14C]エストロンの回収について補正した)および基質の比活性から計算した。実験の各バッチは、スルファターゼ陽性ヒト胎盤(陽性コントロール)から調製されたミクロゾームおよび細胞を含まないフラスコ(基質の見掛けの非酵素的加水分解を評価する)のインキュベーションを含む。細胞の単層をザポニン(Zaponin)で処理した後、コールターカウンターを用いて、1フラスコあたりの細胞核の数を測定した。各バッチで1つのフラスコを用い、トリパン・ブルー・エクスクルージョン法(Trypan Blue exclusion method)(Phillips,H.J.(1973):Tissue culture and application,[Kruse,D.F.& Patterson,M.K.編];pp.406−408;Academic Press、ニューヨークに記載)を用いて細胞膜の状態および生存度を評価した。
エストロン−3−スルファメートについてのデータを表1ならびに図2および図4に示す。ステロイドスルファターゼ活性についての結果を、106個の細胞について計算したインキュベーション期間(20時間)中に形成された全生成物(エストロン+エストラジオール)の平均±1S.D.として表し、統計的有意を示す値についての結果を、エストロン−3−スルファメートを含有しないインキュベーションに対する(阻害)減少パーセントとして表している。対応のないスチューデントのt−検定を用いて結果の統計的有意を調べた。


実施例5エストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートによるMCF−7細胞内のステロイドスルファターゼ活性の阻害 インキュベーションに、エストロン−3−スルファメートのかわりにエストロン−3−N,N−ジメチルスルファメート(5種の濃度:0、0.001μM、0.01μM、0.1μM、1μM)を含む以外は、実施例4に記載のものと同じ実験プロトコールを用いてエストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートについての結果を得た。
エストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートについての結果を、表IIおよび図3に示し、それぞれ表Iおよび図2と同じ方法で表している。また、その投与量−反応の対数曲線を図4のエストロン−3−スルファメートと比較している。


実施例6エストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートおよびエストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートでの前処理によるMCF−7細胞内のステロイドスルファターゼ活性の阻害 実施例4に記載したものと同様の実験プロトコールを用いて、エストロン−3−スルファメートおよびエストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートそれぞれによって前処理したMCF−7細胞への影響を測定した。
初めに、0.1μMのエストロン−3−スルファメート、エストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートまたは培地のみ(コントロール)を用いて、無傷の単層を37℃で2時間インキュベートした。次に、細胞を浸す培地を吸引によって除去し、その度に細胞を5mlの培地で連続して3回洗浄した。得られた「洗浄した」細胞を再懸濁し、5pmol(7×105dpm)の[6,7−3H]エストロン−3−スルフェメートを含有する培地中、37℃で3〜4時間インキュベートした。他のすべての態様は、実施例3および4に記載したものと同じであった。
エストロン−3−スルファメートおよびエストロン−3−N,N−ジメチルスルファメートについての結果を表IIIに示し、表Iと同様の方法で表している。


実施例7エストロン−3−スルファメートによる胎盤ミクロゾーム内のステロイドスルファターゼ活性の阻害 正常妊娠期のスルファターゼ陽性ヒト胎盤(産婦人科病棟、St.Mary'S病院、ロンドン)をハサミで細かく切り刻み、冷したリン酸緩衝液(pH7.4、50mM)で1回洗浄し、そして冷したリン酸緩衝液中に再懸濁させた(5ml/gの組織)。氷中での2分間の冷却期間によって分離された3つの10秒バーストを用いて、Ultra−Turraxホモジナイザーによって均質化を行った。2000gで30分間遠心分離(4℃)することにより、核および細胞デブリを除去し、上清の一部(2ml)を−20℃で保存した。この上清のタンパク質濃度を、Bradfordの方法(Anal.Biochem.,72,248−254(1976))によって測定した。
タンパク質濃度100μg/ml、基質濃度20μMの[6,7−3H]エストロン−3−スルファメート(New England Nuclear,ボストン,Mass.,U.S.A.)からの比活性60Ci/mmol)および37℃で20秒間のインキュベーション時間を用いて、インキュベーション(1ml)を行った。8種の濃度のエストロン−3−スルファメートを用いた:0μΜ(すなわちコントロール)、0.05μΜ、0.1μΜ、0.2μΜ、0.4μΜ、0.6μΜ、0.8μΜ、1.0μΜ。インキュベートした後、各サンプルを冷却し、[14C]エストロン(7×103dpm)(Amersham International Radiochemical Centre,Amersham,U.K.からの比活性97Ci/mmol)を入れた分離管に、培地(1ml)をピペットで移した。混合物を、トルエン(5ml)とともに30秒間十分に振とうした。90%より多い[14C]エストロンおよび0.1%未満の[3H]エストロン−3−スルフェートが、この処理によって水性相から除去されたことが、実験によって示された。有機相の一部(2ml)を除去し、蒸発させ、シンチレーション分光測定によって残査の3Hおよび14C含有量を測定した。加水分解されたエストロン−3−スルフェートの質量を、得られた3H数(用いた培地および有機相の容積、ならびに添加した[14C]エストロンの回収について補正した)および基質の比活性から計算した。
エストロン−3−スルファメートについての結果を、表IVおよび図5に示す。ステロイドスルファターゼ活性についての結果を、インキュベーション期間(時間)中に形成された全生成物(エストロン+エストラジオール)、およびコントロールとして機能するエストロン−3−スルファメートを含有しないインキュベーションに対する(阻害)減少パーセントとして、表IVを表す。ステロイドスルファターゼ活性についての結果を、エストロン−3−スルファメートの濃度に対するコントロールからの(阻害)減少パーセントについて図4に表し、0.07μΜの計算されたIC50値(すなわち、コントロールに対して50%阻害を生じるエストロン−3−スルファメートの濃度)を含む。


実施例8皮下エストロン−3−スルファメート処理したラット由来の肝ミクロゾーム調製物内のステロイドスルファターゼ活性の阻害 3匹の雌ウィスターラット(体重80〜110g)から構成される4群に、以下のものをそれぞれ100μl皮下注射した(1日1回で7日間、基剤:プロピレングリコール): プロピレングリコール(コントロール基剤)
エストロン−3−スルファメート(10mg/kg/日)
エストロン−3−スルフェート(10mg/kg/日)(コントロール基質)
エストロン−3−スルフェート(10mg/kg/日)+エストロン−3−スルファメート(10mg/kg/日)
8日目にすべてのラットを犠牲にし、解剖して肝臓を取り出した。組織源がラット肝臓であり、分離基質として[6,7−3H]エストロン−3−スルフェートおよび[7−3H]デヒドロエピアンドロステロン−3−スルフェートを用いてステロイドスルファターゼ活性を測定する重複実験を行った以外は実施例6に記載したものと同じプロトコールによって、肝ミクロゾーム調製物を調製した。
ステロイドスルファターゼ活性についての結果を、表Vに示し、インキュベーション期間中に形成された全生成物を平均±1S.D.の形態で表す。エストロン−3−スルファメートで処理したラットの群から得られた組織のインキュベーションについての結果もまた、それぞれコントロールと比較した、ステロイドスルファターゼ活性の(阻害)減少パーセントとして表す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】化合物を含有する、ステロイドスルファターゼ活性を阻害する薬剤を製造するための方法であって、該方法は、以下の工程:該化合物と薬学的に受容可能な担体とを混合する工程であって、ここで該化合物は、環および下式のスルファメート基を含む環系化合物であり、

ここで、R1およびR2の各々は、独立して、H、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、およびアリールから選択されるか、互いに一緒になってアルキレン鎖中に、1つまたはそれ以上のヘテロ原子あるいは基を必要に応じて含有するアルキレンを表す;およびここで、該化合物は、ステロイドスルファターゼ活性を有する酵素(E.C.3.1.6.2)のインヒビターである;およびここで、該化合物のスルファメート基が、スルフェート化合物を形成するためにスルフェート基と置換され、そしてpH7.4および37℃にてステロイドスルファターゼ酵素(E.C.3.1.6.2)とインキュベートされた場合、50μM未満のKm値を提供する、工程を包含する、方法。
【請求項2】前記化合物が下式の化合物である、請求項1に記載の方法;


ここでR1およびR2は請求項1で定義される。
【請求項3】前記多環基が多環式アルコールの残基である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】前記多環基がステロールの残基を表す、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】前記ステロールが3−ステロールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】前記ステロールが、エストロン、デヒドロエピアンドロステロン、置換エストロン、および置換デヒドロエピアンドロステロンからなる群より選択される、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】前記R1およびR2が、HまたはC1−C10アルキルから独立して選択される、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】前記R1およびR2が、HまたはC1−C5アルキルから独立して選択される、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】前記R1およびR2が、Hまたはメチルから独立して選択される、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】前記化合物がエストロン−3−スルファメート、エストロン−3−N,N−ジメチルスルファメート、またはエストロン−3−N−モノメチルスルファメートのいずれか1つである前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】前記R1およびR2の少なくとも1つがHである、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】前記環が前記スルファメート基に結合している、前記請求項のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】化合物を含有する、ステロイドスルファターゼ活性を阻害する薬剤を製造するための方法であって、該方法は、以下の工程:該化合物と薬学的に受容可能な担体とを混合する工程、を包含し、ここで該化合物は、多環式アルコールのスルファミン酸エステル、またはそのようなエステルのN−アルキル、N−アルケニル、N−シクロアルキル、またはN−アリール誘導体、もしくは任意のそのようなエステルまたはN−置換エステルの薬学的に受容可能な塩であり、該エステルのアルコール部分は多環式アルコールのアルコール部分であり、それらのスルフェートはステロイドスルファターゼ活性を有する酵素(E.C.3.1.6.2)によって加水分解可能である、方法。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第5図】
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【特許番号】特許第3219408号(P3219408)
【登録日】平成13年8月10日(2001.8.10)
【発行日】平成13年10月15日(2001.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−505032
【出願日】平成4年8月28日(1992.8.28)
【公表番号】特表平7−501515
【公表日】平成7年2月16日(1995.2.16)
【国際出願番号】PCT/GB92/01587
【国際公開番号】WO93/05064
【国際公開日】平成5年3月18日(1993.3.18)
【審査請求日】平成10年8月4日(1998.8.4)
【早期審査対象出願】早期審査対象出願
【出願人】(999999999)ステリックス リミテッド
【参考文献】
【文献】英国特許1398026(GB,B)