説明

ステロイド依存性の遺伝子活性化経路の異なる段階を標的とする阻害剤の組み合わせによる抗アンドロゲン活性の増強およびその使用

本発明は、ステロイド受容体の遺伝子活性化経路内の異なる段階に作用する少なくとも二種の化合物を投与することを含む、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させるための新規な方法および組成物を含むものである。好ましい方法は、ステロイド受容体の分解を誘導することができる第一の化合物を投与する工程、およびステロイド受容体経路の異なる段階で遺伝子活性化を阻害することができる第二の化合物を投与する工程を含み得る。ステロイド依存性の遺伝子活性化は、少なくとも二種の化合物を組み合わせてまたは一緒に投与すると、より大きく減少もしくは阻害、調節、または制御され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2004年1月28日に出願された、「Enhancement of Antiandrogenic Activity By Combination of Inhibitors Targeted at Different Steps of Androgen−Induced AR−Activation Pathway and Uses Thereof」という標題の、米国仮出願番号第60/539753号に対して優先権の利益を主張し、これは、その全体が参照として本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、全体として、ステロイドに関連する病状の治療のための方法および組成物に関するものである。より具体的には、本発明は、ステロイドによって誘導される遺伝子活性化経路の異なる段階を標的とすることが可能な少なくとも二種の化合物を投与することによる、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するか減少させることが可能な方法および組成物を含む。
【背景技術】
【0003】
アンドロゲン受容体(AR)は、ステロイド受容体スーパーファミリーのメンバーである。ステロイド受容体は、それらの同種のホルモンリガンドに結合すると、転写因子として作用する。ステロイド受容体は、典型的には、リガンド結合ドメイン(LBD)、ヒンジ領域およびDNA結合ドメイン(DBD)を含む。
【0004】
アンドロゲンは、標的細胞に入り、特異的なアンドロゲン受容体(AR)に結合することによって、その機能を発揮し、アンドロゲン調節遺伝子を活性化する。男性循環アンドロゲンホルモンであるテストステロンは、酵素5−アルファレダクターゼによって、末梢組織の細胞内で、主要な細胞内アンドロゲンであるジヒドロテストステロン(DHT)に変換される。製薬会社は、テストステロンのDHTへの変換を阻害するか、またはアンドロゲンとARの間の結合を妨害するかのいずれかである薬物を開発してきた。例えば、5−アルファレダクターゼ阻害剤、フィナステリド(プロスカおよびプロペシア)、ならびにアンドロゲン−AR結合阻害剤であるフルタミドおよびビカルタミド(カソデックス)は、良性の前立腺肥大症、禿頭症、前立腺癌および他のアンドロゲン障害を治療するために使用されてきた非ステロイド性の抗アンドロゲンである。しかし、これらの抗アンドロゲン薬は、治療を受けた人においてインポテンスなどの副作用を引き起こし得る。これは主に、これらのタイプの抗アンドロゲン物質がアンドロゲン活性を非差別的に阻害することに起因する。
【0005】
アンドロゲンによって誘導されるAR活性化の経路は、複数の段階からなるプロセスであり(例えば、その全体が参照により本明細書に援用される、LeeおよびChang(2003) J.Clin.Endocrinol.Metab.,88:4043−4054を参照されたい)、単にアンドロゲンとARとの結合を含むものではない。AR活性化の経路は、以下の段階に要約することができる。
【0006】
1)ARの発現:核にAR遺伝子を有するアンドロゲンの標的(アンドロゲン応答性)細胞が、AR遺伝子(DNA)をARメッセンジャーRNA(AR mRNA)に転写することによってARタンパク質を発現する。AR mRNAは、ARの合成が起こる細胞質に移動する。合成されたARタンパク質は、ARタンパク質を安定化しそれらのリガンドであるアンドロゲンに対する親和性を維持することを補助するシャペロンタンパク質(hsp70およびhsp90のような熱ショックタンパク質)と複合体を形成する。
【0007】
2)細胞内アンドロゲンの変換:循環していたテストステロンは標的細胞に入り、酵素5−アルファレダクターゼIおよびIIによって、主要な細胞内アンドロゲンであるジヒドロテストステロン(DHT)に変換される。
【0008】
3)アンドロゲン受容体の活性化、二量体化、および局在化:細胞質アンドロゲン(DHT)はARに結合し、次にARはシャペロンタンパク質から解離してアンドロゲン−AR複合体を形成し、次にこれが核に移行する。結合および移行のプロセスの間、アンドロゲン−AR複合体はプロテインキナーゼによってリン酸化され、二量体化される。
【0009】
4)ARコレギュレーターとの相互作用:二量体化したARタンパク質はまた、AR活性をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることができる他の調節タンパク質、すなわち、ARコレギュレーターまたはアンドロゲン受容体関連タンパク質(ARA)と相互作用することができる。
【0010】
5)アンドロゲン応答エレメントの結合:核内において、転写因子として機能するアンドロゲン−AR−ARA複合体は、アンドロゲンによって調節される遺伝子のプロモーター領域上のアンドロゲン応答エレメント(ARE)に結合し、アンドロゲン応答性の標的遺伝子を活性化(発現またはリプレッション)させる一般的な転写機構に関与する、他の調節タンパク質を生成させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、少なくとも二種の化合物を投与することを含む、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するか減少させるための新規な方法および組成物を含む。これらの化合物は、真核細胞などの生物学的サンプルまたはヒトなどの生物に投与することができる。第一の化合物はステロイド受容体の分解を誘導することが可能であり、第二の化合物は、ステロイド受容体による遺伝子活性化を阻害することまたは減少させることが可能である。第二の化合物は、ステロイド受容体遺伝子の活性化経路の様々な段階で作用し得る。第二の化合物は、ステロイドとステロイド受容体との間の結合、ステロイド応答エレメントへのステロイド受容体の結合、ステロイド受容体関連タンパク質またはコファクターへのステロイド受容体の結合、ステロイド受容体の核への移行、ステロイド受容体の転写、またはステロイド受容体の翻訳を阻害し得る。ステロイド依存性の遺伝子活性化は、一種の化合物が投与される場合よりも、少なくとも二種の化合物が組み合わされてまたは一緒に投与されるときに、より大きく減少し、または阻害される。
【0012】
本発明の他の様相において、ステロイド受容体の分解を誘導することが可能な第一の化合物、およびステロイド受容体による遺伝子の活性化を阻害することが可能な第二の化合物を含む組成物が開示される。第一の化合物および第二の化合物は、ステロイド受容体経路内の異なるポイントまたは段階で作用する。
【0013】
本発明の他の様相において、ステロイド受容体の分解を誘導することが可能な第一の化合物またはその薬学的に受容可能な塩、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害することが可能な第二の化合物またはその薬学的に受容可能な塩、および薬学的に受容可能な希釈剤、アジュバント、またはキャリアを含む、薬学的組成物が開示される。第一の化合物および第二の化合物は、ステロイド受容体経路の異なる段階において作用し、組み合わせた場合、治療効果のある量で用いられる。ステロイド受容体がアンドロゲン受容体である場合、利用可能な化合物の例には、クルクミン誘導体または類似体(例えば、ASCJ−9およびASCJ−15であるがこれらに限定されない)、ビカルタミド、ヒドロキシフルタミド、ドコサヘキサエン酸(DHA)、シリビニン(SB)、ケルセチン(QU)、フィナステリド、デュタステライド、またはこれらの機能的誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明の他の様相において、ヒトにおける、ステロイドによって変調する病状を予防または治療する方法が開示され、この方法は、ステロイドによって変調する病状に罹患していると疑われる個体を提供すること、およびこの個体に、開示された薬学的組成物の少なくとも一種の治療効果のある量を投与することを包含する。この薬学的組成物は、ステロイド依存性の遺伝子活性化を減少させることまたは阻害することが可能な、ステロイド受容体経路の異なる段階において作用する少なくとも二種の化合物を含む。好ましくは、少なくとも二種の化合物は、組み合わせてまたは一緒に投与すると、単独で投与する場合よりも、より高いレベルでステロイド依存性の遺伝子活性化を減少させるか阻害する。本発明が有効であろう病状の例には、座瘡、多毛症、アンドロゲン性脱毛症(男性型禿頭症)、良性の前立腺肥大症、前立腺癌、膀胱癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、および子宮頸癌が含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
本発明の他の様相において、創傷または炎症の治療のための方法および組成物が開示され、この方法は、一種またはそれ以上の開示される組成物、医薬品、または化粧品を、創傷または炎症の治療が必要な個体に局所的に投与する工程を包含し得る。
【0016】
本発明の他の様相において、開示される組成物または医薬品をヒトに投与する方法が、ステロイド依存性の遺伝子活性化に関連する病状の治療、阻害または減少のために提供される。この方法は、リポソーム中に組成物または医薬品をカプセル化すること、およびカプセル化された組成物または医薬品を目的の個体に投与する工程を包含し得る。
【0017】
図1は、ASCJ−15と呼ばれるクルクミン誘導化合物を1μM投与したときの、アンドロゲン受容体(AR)の内因性レベルの減少を実証する、クマシーブルーで染色した、溶解したヒト前立腺癌細胞であるLNCaP細胞のウェスタンブロットゲルの画像を示す。テストステロンの生成物であるジヒドロテストステロン(DHT)によるホルモン、またはコントロール溶媒を、2nMで24時間、実施例1に従って培養したLNCaP細胞に加えた。アンドロゲン受容体(AR)の相対濃度もまた、DHTまたはコントロール溶媒で示したが、これは、アクチンのシグナルでアンドロゲン受容体(AR)のシグナルを標準化することによって導き出したものである。
【0018】
図2は、1μMのクルクミン誘導化合物、特にASCJ−15と呼ばれる化合物の存在下でのアンドロゲン受容体の分解を実証する、クマシーブルーで染色した、溶解したヒト前立腺癌細胞であるLNCaP細胞のウェスタンブロットゲルの画像を示す。詳細には、レーン1、4、7および10はLNCaP培養細胞に対応し、レーン2、5、8および11は1μMのクルクミン誘導体であるASCI−15で処理した培養したLNCaP細胞に対応し、レーン3、6、9および12はネガティブコントロールであるビタミンEで処理した培養したLNCaP細胞に対応する。参照したレーンの上に記載された時間は、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドを培養物に加えた後の時間に対応する。β−アクチンをコントロールとして用い、全てのタンパク質が分解されたわけではないことを実証している。
【0019】
図3は、ヒト前立腺癌細胞であるLNCaP細胞における、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、クルクミン誘導体であるASCJ−15、およびドコサヘキサエン酸(DHA)の阻害効果についてのグラフである。アンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイは、実施例1に従って、図に示した阻害剤の濃度を用いて行った。単独のDHAおよびASCJ−15はDHTによって誘導されるトランス活性化を抑制することができたのに対して、DHAとASCJ−15を組み合わせると、DHTによって誘導されるアンドロゲン受容体(AR)活性の最大の阻害を示した。
【0020】
図4は、アンドロゲンによって誘導されるヒト前立腺癌細胞の増殖に対する、ASCJ−15およびDHTの阻害効果についてのグラフを示す。ASCJ−15およびDHAは、単独で、コントロール溶媒よりも大きくLNCaP細胞の増殖を抑制することが可能であった。しかし、LNCaP細胞の増殖の最大の抑制は、ASCJ−15およびDHAを組み合わせで投与したときに見られた。
【0021】
図5は、ヒト前立腺癌細胞であるLNCaP細胞における、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、フルタミドの代謝物であるヒドロキシフルタミド(HF)、およびドコサヘキサエン酸(DHA)の、単独でおよび組み合わせての阻害効果についてのグラフを示す。HFおよびDHAは、DHTによって誘導されるアンドロゲン受容体(AR)活性を抑制することが可能であったが、DHTによって誘導される活性の最大の抑制は、HFとDHAを組み合わせて使用したときに観察された。
【0022】
図6は、ヒト前立腺癌細胞であるLNCaP細胞における、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、ASCJ−15およびシリビニン(SB)の、単独でおよび組み合わせての阻害効果についてのグラフを示す。ASCJ−15およびSBは、DHTによって誘導されるアンドロゲン受容体(AR)活性を有意に抑制することが可能であった。一緒に投与したとき、ASCJ−15とSBは、DHTによって誘導される遺伝子活性化に対する抑制のさらなる効果を有した。
【0023】
図7は、アンドロゲンによって誘導されるLNCaP細胞の増殖に対する、ASCJ−15およびSBの阻害効果についてのグラフを示す。DHTによって誘導される細胞増殖の有意な抑制が、ASDJ−15およびSBを単独で投与したときに観察された。組み合わせて投与したとき、ASCJ−15とSBは、DHTによって誘導されるLNCaP細胞の増殖の抑制に対してさらなる効果を示した。
【0024】
図8は、ヒト前立腺癌細胞であるLNCaP細胞における、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、ASCJ−15およびケルセチン(QU)の、単独でおよび組み合わせての阻害効果についてのグラフを示す。DHTによって誘導されるアンドロゲン受容体(AR)活性の有意な抑制が、ASCJ−15およびQUを単独で投与したときに観察された。相乗作用的な関係が、ASCJ−15とQUを組み合わせて投与したときに観察された。
【0025】
図9は、野生型のアンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、フルタミドの代謝物であるヒドロキシフルタミド(HF)、およびASCJ15の、単独でおよび組み合わせての阻害効果についてのグラフを示す。ASCJ15およびHFは、野生型のDHTによって誘導されるアンドロゲン受容体(AR)活性を有意に抑制することが可能であった。一緒に投与したとき、ASCJ15とSBは、DHTによって誘導される遺伝子活性化の抑制についてさらなる効果を有した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、ステロイド依存性の遺伝子活性化を調節するための方法および組成物を含む。本発明において説明される方法および組成物は、各々がステロイド受容体と関連する効果または活性化を変化させ、阻害し、抑制し、または減少させることが可能な、少なくとも二種の化合物を使用することを含む。ステロイド受容体の遺伝子活性化の経路の異なる段階で作用する二種の化合物を利用することは、ステロイド受容体の効果または活性のさらなる調節または抑制を可能にし得る。この二種の化合物を利用すると、一種の化合物を独立して使用したか単独で投与したときと比較して、抑制、調節または変化を増加させ得る。
【0027】
I.阻害剤の組み合わせを使用して、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するか減少させる方法。
【0028】
本発明は、阻害剤の組み合わせを使用して、ステロイド受容体の効果を変化または減少させる方法を含む。アンドロゲン受容体(AR)、プロゲステロン受容体(PR)、糖質コルチコイド受容体(GR)、甲状腺受容体、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、レチノイドX受容体(RXR)、およびオーファンステロイド受容体などのステロイド受容体は、ステロイドとステロイド受容体との間の結合から始まる一連の事象によって遺伝子転写を調節し、その結果、ステロイド受容体とそれに対応するステロイド応答エレメント(SRE)との間の相互作用を介して遺伝子を活性化させる。より具体的には、ステロイド受容体遺伝子の調節または活性化の経路は、ステロイド受容体へのステロイドの結合、ステロイド受容体の二量体化(場合によってホモ二量体を形成する)、核へのステロイド受容体の移行、コファクター(ARAなど)へのステロイド受容体の結合、適切なステロイド応答エレメントへのステロイド受容体の結合、および場合によって他の転写因子の活性化を含んでもよい。ステロイド受容体経路で作用する少なくとも二種の化合物を投与することによって、本発明は、種々の状態に対して可能性のある治療的処置を提供する。好ましくは、少なくとも二種の化合物が、ステロイド受容体経路の異なる段階で作用し、その結果、一緒に投与されたときまたは協同して投与されたときに、化合物は、二つのポイントでステロイド受容体の効果を変化させることが可能である。これによりステロイド依存性の遺伝子調節をより大きく制御または抑制することができ、それゆえに、疾患またはステロイドに関連する状態の治療において、関連する利点を提供することができる。
【0029】
この方法は、アッセイの目的でインビトロ培養により増殖させた真核細胞などの単離された細胞を含む生物学的サンプルに、または無傷の生きている対象に適用してもよい。適切な対象には、研究上、農業的、または経済的な関心が持たれる哺乳動物が含まれ、これには、齧歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、およびヒト以外の霊長類が含まれる。対象には、あらゆる年齢、性別、または健康状態のヒトを含むことができる。特に関心が持たれる対象には、少なくとも部分的にステロイドまたはステロイド受容体の活性の影響を受ける疾患状態または病状を有するか、またはそれを発症する危険性があると診断されたヒトが含まれる。例には、アンドロゲンまたはアンドロゲン受容体(AR)、プロゲステロンまたはプロゲステロン受容体(PR)、エストロゲンまたはエストロゲン受容体(ER)などの影響を受ける状態が含まれるが、これらに限定されない。開示される方法または化合物で治療することができる疾患または病状には、前立腺癌、肝臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、肺癌および乳癌、およびアンドロゲン受容体活性化経路に関連する他の癌などの癌、球脊髄性筋萎縮症(ケネディ病)などの、しかしそれに限定されない神経障害および神経筋障害、脂腺のアンドロゲンによって誘導されるAR活性化によって引き起こされる座瘡などの皮膚障害、多毛症、および毛髪の損失が毛包や隣接細胞のアンドロゲン受容体によって引き起こされるアンドロゲン性脱毛症すなわち「男性型禿頭症」などの毛髪障害、ならびに創傷または炎症が含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
アンドロゲン受容体の二つのアイソフォーム(全長AR−BおよびN末端欠失AR−A)は、多くの胎児および成体のヒト組織において免疫学的に検出可能な形で発現する(WilsonおよびMcPhaul(1996))。高いARレベルが男女両方の胎児の生殖組織で見られ、また生殖器以外の胎児組織では様々なレベルで見られた。
高いARレベルはまた、成体の生殖組織(前立腺、子宮内膜、卵巣、子宮、卵管、精巣、精嚢、子宮筋層、および射精管)においても見られ、成体の胸部、結腸、肺および副腎組織においては、より低いレベルが見られた。AR経路は、雄の生殖器官ならびに生殖器以外の器官(筋肉、毛包、および脳を含む)の発生および適切な機能においてとりわけ重要である。これは、前立腺癌、男性不妊、およびケネディ病を含むいくつかの疾患または状態の病理に関与している。
【0031】
前立腺癌は、米国人男性において、発生率および有病率が最も多い悪性腫瘍である。これは米国で最も頻繁に診断される新生物であり、米国人男性の癌に関する死因で二番目に多い(Boringら;1992)。毎年180,000人を上回る男性が前立腺癌に冒され、これは女性における乳癌の数とほぼ同じである。1999年には米国人の間で31,900例の死亡を引き起こし、これは肺癌に次いで二番目である。毎年の前立腺癌の発生の増加は、米国人男性群の加齢と相関している。
【0032】
前立腺癌細胞の増殖は、アンドロゲンによって誘導されるアンドロゲン受容体(AR)の活性化に依存する。大部分の前立腺癌は、最初に診断されたときにアンドロゲン依存性であり(HeinleinおよびChang 2004)、従って、抗アンドロゲン剤で治療することができる。転移性前立腺癌のための一つの有効な治療はアンドロゲンを遮断する治療であり、これは、外科的または化学的のいずれかの去勢を行い、抗アンドロゲン治療と組み合わせて、アンドロゲンの生物学的作用を抑制するものである(Crawfordら;1989)。しかし、ステロイドの枯渇に対する腫瘍の反応期間中間値はわずか18〜36ヶ月であり、癌はほとんどの場合再発し、アンドロゲン非応答性になる。このような場合において、患者は、化学療法などの、より望ましくない治療に直面する。ある場合においては、抗アンドロゲン剤の変更が、再発した前立腺腫瘍の進行を遅延させることがあり(Dupontら、1993;Taplinら、1999)、このことは、特定の抗アンドロゲン治療で再発した前立腺腫瘍が別の抗アンドロゲン剤に応答する可能性があることを示す。
【0033】
球脊髄性筋萎縮症もしくは脊髄延髄筋萎縮症(「SBNA」)、またはケネディ症候群としても知られる(例えば、2004年4月15日にアクセスした、http://www.emedicine.com/neuro/topic421.htmでオンラインで利用可能である電子出版物、Paul E.Barkhaus(2003)、「Kennedy Disease」、を参照されたい)ケネディ病は、世界中で40,000人に1人が罹患すると見積もられている、まれなX連鎖劣性遺伝性の神経筋疾患である。ケネディ病は、AR遺伝子のN末端領域において異常に長くポリグルタミンが伸長することからなるアンドロゲン受容体の突然変異によって引き起こされると考えられている。これは進行性であり、現在では不治で治療不可能である。脊髄と延髄の両方の神経細胞が罹患し、全身にわたって、最も顕著には四肢ならびに顔面および咽頭において、筋の衰弱および萎縮を引き起こす。ケネディ病は、発語および嚥下の困難さ、主要な筋肉の痙攣、ならびに他の症候を引き起こす。これは、通常30歳から50歳の間の年齢で症候が現れる成人発症の疾患であるが、より早い発症が見られている。この遺伝子を遺伝した男性のみがこの疾患についての完全な表現型を示すのに対して、この遺伝子についてヘテロ接合である女性は一般的に無症候性のキャリアである。ある場合において、ケネディ病についてヘテロ接合性である女性は、無症状性の表現型を示す。平均寿命には一般的に影響はない。
【0034】
伸長したポリグルタミンリピートを有する突然変異ARを用いて(例えば、プラスミドp6RARQ49またはp6RARQ77で)の細胞の実験的トランスフェクションが、トランス活性化機能の減少に関与し、またある場合には、ミスフォールディングしたARタンパク質の核内封入に関与するということが示されてきた(Chamberlainら(1994)Nucleic Acid Res.,22:3181−3186、これは、その全体が本明細書に参照により援用される)。異常なARの核内蓄積は、ケネディ病のインビボでの病理と一致して、細胞傷害性であり、神経細胞の死を誘発する。
【0035】
ステロイド受容体の分解の誘導
本発明は、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害する、または減少させる方法を含み、この方法は、ステロイドまたはステロイド受容体の分解を誘導することが可能である化合物を、好ましくはステロイド受容体遺伝子の活性化経路の異なるポイントまたは段階に作用する、ステロイド受容体による遺伝子活性化を阻害するまたは減少させることが可能な第二の化合物と協同して、またはそれと一緒に投与することを包含する。化合物の組み合わせは、組み合わせて使用したときに、相乗的な、相加的な、またはより強い阻害をもたらすことができる。第二の化合物は、ステロイドのより活性した形態への変換を阻害し、ステロイドとステロイド受容体との間の結合を妨害もしくは阻害し、ステロイド受容体と対応する応答エレメントとの間の結合を妨害もしくは阻害し、ステロイド受容体とコファクターもしくはステロイド受容体関連タンパク質(ARAファミリーから選択されるものなど)との間の相互作用を妨害し、ステロイド受容体の核への移行を減少させ、もしくは妨害し、ステロイド受容体の転写を減少させ、もしくは抑制し、またはステロイド受容体の翻訳を妨害もしくは抑制することができる。
【0036】
本発明の方法がアンドロゲン依存性の遺伝子活性化の減少または阻害のために利用されるとき、好ましくは投与された化合物の少なくとも一種が、アンドロゲン受容体の分解を誘導することが可能である。アンドロゲン受容体の分解を誘導することが可能である化合物には、例えば、ASCJ−9およびASCJ−15であるがこれらに限定されない、種々のクルクミン誘導体および類似体が含まれる。本発明が包含する誘導体および類似体には、ステロイドまたはアンドロゲンの受容体の分解を生じさせることができる、異なった、より少ない、またはより多い構造的特徴を有するクルクミン化合物が含まれる。
【0037】
ASCJ−9、すなわちジメチルクルクミンは、5−ヒドロキシ−1,7−ビス−(3,4−ジメトキシフェニル)−1,4,6−ヘプタトリエン−3−オンであり、以下の構造を有する。
【化1】

【0038】
ASCJ−15は、7−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−4−[3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−アクリロイル]−5−オキソ−ヘプト−6−エン酸エチルエステルであり、以下の構造を有する。
【化2】

【0039】
図1および図2は、クルクミン誘導体ASCJ−15の投与によるアンドロゲン受容体の分解を示している。化合物ASCJ−9およびASCJ−15は同様の分解能力を有する。特定の用途に用いることができるその他のクルクミンの誘導体化合物および類似体化合物は、その全体が参照により本明細書に援用される、米国特許第6790979号明細書に記載されるものである。
【0040】
ステロイド受容体の分解の一つ以上のメカニズムが、本発明の方法または化合物によって利用または誘導され得る。好ましくは、化合物の投与によって、他の標的とされないステロイド受容体のレベルまたは活性を実質的に変化させることなく、標的とされたステロイド受容体の特異的分解が生じる。
【0041】
標的とされるステロイド受容体の分解は、標的とされる組織または細胞型によって異なる程度で誘導することが望ましい。例えば、異なる組織または細胞型の所定のステロイドに対する応答性の程度は様々であるので、一つの組織もしくは細胞型においては適切であるが別の組織もしくは細胞型においてはそうではないステロイド受容体の分解を誘導することが望ましいか、または、組織もしくは細胞型に従って、標的とされたステロイド受容体を異なる「閾値」もしくはレベルまで下げることが望ましい。ある実施態様において、この方法は、所定の組織または細胞型において標的とされたステロイド受容体を分解するために十分な量の化合物を投与し、それにより、ステロイド受容体の効果を所望のレベルまで下げる(例えば、ステロイド受容体がアンドロゲン受容体である場合、所望のアンドロゲン受容体のレベルは、循環アンドロゲンに対して実質的に非応答性であるレベルであってよい)工程を包含することができる。
【0042】
本発明の方法は、ステロイド受容体の分解を誘導するために、任意の一つ以上の適切なメカニズムを利用してもよい。これらのメカニズムには以下のものが含まれるがこれらに限定されない:ステロイド受容体の核への移行を妨害することもしくはステロイド受容体を細胞の細胞質に維持すること、プロテアーゼ活性を誘導することが可能なステロイド受容体中のモチーフを露出させること、ステロイド受容体を分解することが可能なプロテアーゼの活性を増大させること、ステロイド受容体の安定化を阻害すること、ステロイド受容体の溶解度を減少させること、ステロイド受容体を分解することが可能な経路を活性化すること、ステロイド受容体のユビキチン化を増加させること、適切なキナーゼによるステロイド受容体のリン酸化を増加させること(例えば、アンドロゲン受容体の場合、少なくとも時としてアンドロゲン受容体をリン酸化して受容体のユビキチン化およびその後のプロテオソームによる分解をもたらす、Aktキナーゼを活性化することによる。例えば、それらの全体が参照により本明細書に援用される、HeinleinおよびChang(2004)ならびにLinら (2002)EMBO J.,21:4037−4048を参照されたい。)、アポトーシスを誘導すること、またはステロイド受容体とステロイド受容体を安定化することが可能なARAなどのコファクターとの間の相互作用を減少させること。
【0043】
ある態様において、本発明の方法は、ステロイド受容体の核への移行を妨害することによってステロイド受容体の分解を誘導する工程を包含する。例えば、アンドロゲン受容体は、多くの他のステロイド受容体と同様に、細胞質から核に移行し、核内でジンクフィンガーモチーフを用いて遺伝子を調節する。移行を遮断すると、またはアンドロゲン受容体を細胞質内に維持すると、アンドロゲン受容体はタンパク質分解を受けるため、核DNAまたは調節される遺伝子に影響を与えることが不可能である。
【0044】
他の実施態様において、本発明の方法および組成物は、プロテアーゼの存在下でタンパク質分解を誘導することができる部位またはモチーフをステロイド受容体内で露出することによって、ステロイド受容体の分解を誘導する。このような露出は、ステロイド受容体内のドメインの立体構造の変化を誘導することによって、例えば、ステロイド受容体に化合物を結合させることによって、またはステロイド受容体のドメインをリン酸化することによって生じさせることができる。アンドロゲン受容体は、ユビキチン依存性のプロテオソーム経路を経由して、また別の方法として、独立したカスパーゼ−3−依存性経路によって、分解可能であると考えられている(LeeおよびChang(2003))。ユビキチン依存性のプロテオソーム経路を裏付ける証拠として、ARのヒンジ領域におけるユビキチン化の標的タンパク質であると考えられる、高度に保存されたPEST(プロリン、グルタミン、セリン、およびスレオニンに富んだ)配列の存在、ならびにプロテオソームの阻害がARレベルを上昇させることが挙げられる(Linら、(2002)EMBO J.,21:4037−4048)。ARはリンタンパク質であり、Aktによってリン酸化され得る。Aktの構成的発現はARのユビキチン化を増強し、アンドロゲンであるジヒドロテストステロン(DHT)の存在下または非存在下でARレベルを顕著に減少させる。Aktの効果は、プロテオソーム阻害剤MG132によって阻害され得る(Linら(2002))。さらに、Aktは、ユビキチンリガーゼ(E3リガーゼ)であるMdm2をリン酸化すると考えられている。Mdm2はAktおよびARと複合体を形成し、ARのためのE3リガーゼとして働き、ARのユビキチン化およびその後のプロテオソームによる分解を促進する。
【0045】
カスパーゼ−3−依存性経路(LeeおよびChang(2003))は、ユビキチン−プロテオソーム経路とは別のものであると考えられている。腫瘍サプレッサーである、ホスファターゼとテンシンのホモログ(PTEN)の発現は、LNCaP細胞の核へのARの移行を妨害し、ARタンパク質分解を促進した。PTENは、ARのDNA結合ドメインと相互作用することができ、細胞質におけるARの維持およびARの分解をもたらす。
【0046】
他の実施態様において、本発明の方法は、ステロイド受容体の安定化を妨害しまたは減少させることによって、ステロイド受容体の分解を誘導する工程を包含する。安定化の阻止または減少は、二種以上のステロイド受容体の間の相互作用を阻害することによって、またはステロイド受容体とコファクターとの間の相互作用を阻止しまたは減少させることによって行ってもよい。一つの例において、アンドロゲン受容体は、ホモ二量体を形成するそれ自体の第二のコピーと二量体化すると考えられ、これが受容体の安定性を増加する。二量体化は、受容体のアミノ末端間の相互作用によって生じてもよい。例えば、アミノ末端ドメインまたはその近傍に結合して二量体化を減少させることまたはなくすことが可能な化合物を投与して、二量体化を阻止することで、アンドロゲン受容体の分解を誘導することができ、従って、アンドロゲン受容体の活性化経路を阻害することができる。他の実施態様において、ステロイド受容体とコファクターとの間の相互作用を乱すこともでき、それによって、ステロイド受容体の分解を誘導することができる。例えば、熱ショックタンパク質(HSP)は、アンドロゲン受容体に結合し、これを安定化するコファクターである(ならびに他のタンパク質に対してはシャペロンとして働く)。HSPは、アンドロゲン受容体のアミノ末端ドメインを結合すると考えられる。例えばHSPとアミノ末端ドメインとの間の結合を特異的に遮断することができる化合物を投与して(HSPがシャペロンとして働く他のタンパク質へのHSPの結合に影響を与えることなく)コファクターの結合および安定化を特異的に減少させることにより、アンドロゲン受容体の分解を誘導することができ、従って、アンドロゲン受容体により活性化する経路を阻害することができる。これらの非限定的な例において、この化合物は、ステロイド受容体上の任意の位置における相互作用によって、二量体化またはコファクターの結合を乱すことができる。
【0047】
他の実施態様において、本発明の方法は、ステロイド受容体とコレギュレーターまたはコファクターとの間の結合を妨害または阻害することができる化合物を投与する工程を包含してもよい。アンドロゲン受容体関連(ARA)タンパク質などの補助因子は、アンドロゲン受容体などのステロイド受容体に結合し、安定化させることができ、またステロイド受容体による遺伝子活性化の特異性を決定し得る。すなわち、ARAタンパク質の結合は、ステロイド受容体によって影響される遺伝子の決定を補助し得る。複数のアンドロゲン受容体関連(ARA)タンパク質が同定されており、さらなるARAタンパク質が将来発見されることが想定される。ARAタンパク質は、アンドロゲン受容体(AR)のアミノ末端領域またはカルボキシル末端領域の近傍に結合し得る。本発明が標的とすることができるARAタンパク質の例には、ARA24、ARA54、ARA70、ARA267−α、ARA誘導体、ARA類似体などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
他の実施態様において、本発明の方法は、ステロイド受容体のドメインを不安定化することによってステロイド受容体の分解を誘導する。例えば、ある研究は、アンドロゲン受容体のAF−2ドメインが受容体の全体的な構造を安定化し、アミノ末端ドメインがコレギュレーターと相互作用することを可能にすることを示している。例えば、AF−2ドメインまたはそれ自体がAF−2ドメインと相互作用するドメインと相互作用または結合することによってAF−2を不安定化することができる化合物は、アミノ末端ドメインの安定化を減少させること、コレギュレーターとの相互作用を減少させること、およびアンドロゲン受容体の分解速度を増加させることができる。
【0049】
他の実施態様において、本発明の方法は、ステロイド受容体を分解することができる経路を活性化することによって、ステロイド受容体の分解を誘導する。例えば、カスパーゼ−3経路がアンドロゲン受容体の分解を誘導することが示されてきた。カスパーゼ−3経路の活性化は、PTENの存在によって、例えばDBDとPTENホスファターゼドメインとの間の相互作用によって、生じることができる。従って、カスパーゼ−3経路を誘導することができる化合物は、アンドロゲン受容体の分解を誘導することができる。別の例において、アンドロゲン受容体をリン酸化するAktキナーゼは、活性化されて、ユビキチン化、およびその後のプロテオソームによるアンドロゲン受容体の分解をもたらすことができる(HeinleinおよびChang 2004)。
【0050】
ステロイドのその活性型への変換の妨害
他の実施態様において、本発明は、ステロイドの活性型または別の型への変換を阻害または抑制することができる化合物と組み合わせて、ステロイド受容体の分解を誘導することができる化合物を投与する工程を包含する。例えば、テストステロンは、酵素5−アルファ−レダクターゼによってジヒドロテストステロン(DHT)に変換される。酵素5α−レダクターゼ(5AR)の活性を阻害または抑制することができる化合物を投与するとDHTの存在が減少し、それゆえにステロイド依存性の遺伝子活性化を抑制し、または減少させる。適切な阻害剤の例には、デュタステライド、フィネステリドなどが含まれる。従って、クルクミンの誘導体または類似体と組み合わせてテストステロンからDHTへの変換を阻害することができる化合物を投与することは、有効な抗アンドロゲン効果を提供し得、種々のアンドロゲン関連障害に対する有効な治療を提供し得る。
【0051】
ステロイドとステロイド受容体との間の結合の妨害
本発明はまた、ステロイドとステロイド受容体との間の結合を妨害または阻害することでステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害することができるまたは減少させることができる化合物と組み合わせて、またはそれと一緒に、ステロイド受容体を分解することができる化合物を投与する工程を包含する。
【0052】
二種の化合物が、薬学的組成物または化粧品組成物などの単一の組成物で投与されてもよく、または別々の組成物で投与されてもよい。二種の化合物が、同一の病状の治療に用いられる。
【0053】
ステロイドとステロイド受容体との間の結合を妨害することができる化合物は、ステロイド、ステロイド受容体、またはその両方に影響を与えることができる。例えば、化合物は、ステロイド受容体のステロイド結合部位に、全体的にまたは部分的に結合することができ、それによってステロイドとステロイド受容体との間の結合を阻止する。別の方法として、この化合物は、ステロイド受容体のステロイド結合部位の外側、または部分的に外側に結合してもよい。この化合物がステロイド受容体へ結合すると、ステロイド受容体の立体構造を変化させることができ、それによって、ステロイドとステロイド受容体が互いに結合する能力を減少させる。ステロイドとステロイド受容体との間の結合を妨害することのできる化合物の例には、ビカルタミド、フルタミドおよびその機能的誘導体または類似体が含まれるがこれらに限定されるものではない。
【0054】
ステロイドとステロイド受容体との間の結合の妨害は、種々のステロイド関連の障害または病状のために現在使用されている治療法である。例えば、製薬会社によって開発されたフルタミドおよびビカルタミド(Casodex)は、前立腺癌を治療するために使用されてきた非ステロイド性の抗アンドロゲン剤である。しかし、腫瘍はしばしば再発し、ホルモン不応性になる。本発明は、例えばクルクミンの誘導体または類似体であるがこれらに限定されない、アンドロゲン受容体の分解を誘導することができる化合物と組み合わせて、またはそれと一緒に、一種以上の上記の化合物を投与することを包含する。本発明は、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化をより大きく阻害することができ、フルタミドまたはビカルタミド単独よりも有効な治療を提供することができる。
【0055】
ステロイド受容体のステロイド応答エレメントへの結合の妨害
本発明はまた、アンドロゲン受容体の分解を誘導することができる化合物、およびステロイド受容体とステロイド応答エレメント(ステロイド受容体応答エレメントまたは対応する応答エレメントとも呼ばれる)との間の結合を減少させること、抑制すること、または妨害することが可能である化合物を投与することを包含する。
【0056】
ステロイド応答エレメント(SRE)は、標的遺伝子のプロモーター領域内に通常位置する内因性DNA配列であり、ステロイド受容体のDNA結合標的である。通常ジンクフィンガーモチーフを有するステロイド受容体が、対応する応答エレメントに結合すると、ステロイド受容体が転写を開始する。本発明の一つ以上の方法および組成物の標的となり得るステロイド応答エレメントの非限定的な例には、アンドロゲン応答エレメント(ARE)、プロゲステロン応答エレメント(PRE)、エストロゲン応答エレメント(ERE)、糖質コルチコイド応答エレメント(GRE)などが含まれる。
【0057】
ステロイド受容体と対応する応答エレメントとの間の結合を妨害または阻害することができる本発明の化合物には、ドコサヘキサエン酸(DHA)、DHAの機能的誘導体などが含まれるが、これらに限定されない。アンドロゲンを介する遺伝子活性化に対するDHAの効果は以前に研究されている。Chungら、Effects of docosahexaenoic acid and eicosapentaenoic acid on androgen−mediated cell growth and gene expression in LNCaP prostate cancer cells.Carcinogenesis 22:1201−1206、2001。本発明は、アンドロゲン応答エレメント(ARE)へのアンドロゲン受容体の結合を抑制するDHAの能力、およびアンドロゲン受容体の分解を誘導することができる化合物とのその組み合わせについて実証する。実施例1に開示されるアンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化方法を用いたところ、実施例3および図4にさらに開示される結果にあるように、DHAをクルクミン誘導体であるASCJ−15と組み合わせて使用したときに、インビトロにおける癌細胞の増殖の抑制において相乗効果が見られた。
【0058】
ステロイド受容体の核への移行の抑制
本発明はまた、少なくとも部分的にステロイド受容体の核への移行を阻害するまたは減少させることができる化合物と組み合わせて、またはそれと一緒に、ステロイド受容体の分解を誘導することができる化合物を用いて、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させることができる方法および組成物を包含する。
【0059】
ステロイド受容体は、細胞質から核に移行し、ここでステロイド受容体はステロイド応答エレメント(SRE)に結合することができる。それゆえに、ステロイド受容体の核への移行を減少させるまたは阻害することができる本発明の化合物および方法は、ステロイド依存性の遺伝子活性化の減少または阻害を可能にする。従って、クルクミンの誘導体または類似体などのステロイド受容体を分解することができる化合物と組み合わせて投与すると、より一層の改善が得られる。
【0060】
ステロイド受容体の核への移行を少なくとも部分的に減少させるまたは阻害することができる化合物の例は、細胞の細胞質中に存在するとき、ステロイド受容体複合体に作用することができる。化合物は、ステロイド受容体の立体構造の変化を標的とするかまたは誘導することができ、ステロイド受容体の二量体化を阻止することができ、コファクターのステロイド受容体への結合を妨害することができる。本発明に包含される化合物の具体例には、シリビニン(SB)またはその機能的誘導体が含まれるが、これらに限定されない。シリビニンは、アンドロゲン受容体の核への移行を妨害することが以前に実証されている。Zhuら、Silymarin inhibits function of the androgen receptor by reducing nuclear localization of the receptor in the human prostate cancer cell line LNCaP,Carcinogenesis 22:1399−1403、2001。実施例5および図6は、シリビニン(SB)およびクルクミン誘導体であるASCJ−15が、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化の抑制において、相加的に作用することができることを実証している。シリビニン(SB)およびASCJ−15はまた、前立腺癌細胞の増殖を相加的に抑制することが分かった。このことは、SBおよびASCJ−15が、ステロイドに関連する病状の治療において、有意な治療的有用性を有する可能性があることを示している。
【0061】
ステロイド受容体の転写または翻訳の減少または抑制
本発明はまた、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させることができる方法および組成物を包含しており、これは、ステロイド受容体の分解を誘導することができる化合物を投与する工程、およびステロイド受容体mRNAの転写を減少または抑制することができる化合物を投与する工程を包含する。
【0062】
分子生物学分野において周知であるように、DNAまたはcDNAはmRNAに転写され、これはタンパク質として翻訳されまたは発現する。従って、ステロイド受容体の発現および適切な提示は、ステロイド受容体の遺伝子配列が対応するmRNAに適切に転写されることを必要とする。ステロイド受容体遺伝子配列の転写の抑制または減少は、対応するステロイド受容体タンパク質の発現を減少させ、ステロイド依存性の遺伝子活性化の部分的阻害を可能にする。
【0063】
ステロイド受容体の転写の抑制は、分子生物学分野において公知である種々の抑制技術を利用してもよい。ケルセチン(QU)は、LNCaP細胞においてアンドロゲン受容体による遺伝子活性化を阻害することが以前に示されている。Xingら、Quercetin inhibits the expression and function of the androgen receptor in LNCaP prostate cancer cells.Carcinogenesis 22:409−414、2001。本発明に包含される技術には、プロモーター活性を抑制するまたは減少させること、ステロイド受容体の転写を抑制することができる転写因子を活性化または刺激すること、ポリメラーゼ活性を妨害すること、低分子干渉RNA(siRNA)を利用すること、アンチセンス技術を利用することなどが含まれるが、これらに限定されない。アンドロゲン受容体の転写を抑制することができる化合物の例には、ケルセチン(QU)、コハク酸ビタミンE(VES)およびその機能的誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0064】
さらに、本発明の方法および組成物には、ステロイド受容体の翻訳を減少させるまたは抑制するものが含まれる。開示される化合物および方法は、例えば、ステロイド受容体の発現に関与する制御化合物または制御配列を生じさせること、またはアンチセンス技術の利用といった、しかしこれらに限定されない、ステロイド受容体の翻訳を抑制する任意の公知の方法を利用してもよい。
【0065】
II.ステロイド依存性の遺伝子活性化の阻害または減少が可能な組成物
【0066】
本発明はまた、それぞれがステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させることができる少なくとも二種の化合物を使用した、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させることができる組成物を含む。ある実施態様において、一種の化合物はステロイド受容体の分解を誘導することができ、第二の化合物は、ステロイド受容体経路の異なるポイントまたは段階で作用することによってステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させることができる。ステロイド依存性の遺伝子活性化の抑制または阻害は、単一の化合物を投与する場合と比較して、少なくとも二種の化合物を組み合わせてまたは一緒に投与することによって増大させることができる。第二の化合物は、限定されないが、例えば以下のことによってステロイド受容体経路の一つ以上の段階を阻害し得る:ステロイドと対応するステロイド受容体との間の結合を阻害するまたは減少させること、ステロイド受容体とステロイド応答エレメントとの間の結合を阻害するまたは減少させること、ステロイド受容体とコファクターまたはステロイド受容体関連タンパク質(例えばARA)との間の相互作用を妨害すること、ステロイド受容体の核への移行を阻害するまたは減少させること、ステロイド受容体の転写を減少させるまたは阻止すること、ステロイド受容体の翻訳を減少させるまたは阻害することなど。
【0067】
アンドロゲン依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させるとき、好ましくは、組成物は、アンドロゲン受容体の分解を誘導することができる少なくとも一種の化合物を含み、より好ましくは、化合物は、ASCJ−9、ASCJ−15などのクルクミン誘導体である。テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換を阻害することができる化合物の非限定的な例には、デュタステライド、フィナステリドならびに機能的誘導体および類似体などの5−アルファ−レダクターゼ阻害剤が含まれる。アンドロゲンとアンドロゲン受容体との間の結合を阻害することができる化合物の非限定的な例には、ビカルタミド、ヒドロキシフルタミドならびに機能的誘導体および類似体などが含まれるがこれらに限定されない。アンドロゲン受容体とアンドロゲン応答エレメント(ARE)との間の結合を阻害することができる化合物の非限定的な例には、ドコサヘキサエン酸(DHA)ならびに機能的誘導体および類似体などが含まれる。アンドロゲン受容体の核への移行を阻害することができる化合物の非限定的な例には、シリビニン(SB)ならびに機能的誘導体および類似体などが含まれる。アンドロゲン受容体の転写を阻害することができる化合物の非限定的な例には、コハク酸ビタミンE(VES)、ケルセチン(QU)ならびに機能的誘導体および類似体などが含まれる。
【0068】
本発明の組成物は、ステロイド依存性の遺伝子活性化と少なくとも部分的に関連する病状を治療することができる薬学的組成物または化粧品組成物を含んでもよい。特に興味が持たれるステロイド受容体には、アンドロゲン受容体(AR)、プロゲステロン受容体(PR)、エストロゲン受容体(ER)、糖質コルチコイド受容体(GR)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、レチノイドX受容体(RXR)、およびオーファンステロイド受容体が含まれ得るが、これらに限定されない。病状には、前立腺癌、肝臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、肺癌、および乳癌などの、しかしこれらに限定されない癌、ケネディ病などの神経障害および神経筋障害、座瘡などの皮膚障害、毛髪の損失が毛包や隣接細胞のアンドロゲン受容体に対するアンドロゲンの活性によって引き起こされるアンドロゲン性脱毛症すなわち「男性型禿頭症」、多毛症、ならびに創傷および炎症が含まれるが、これに限定されない。
【0069】
本発明の組成物は、適切な担体中の二種以上の活性化合物またはその有効な類似体、変化物または誘導体を含んでもよい。もしステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させることが可能であるものならば、あらゆる適切な活性化合物を利用することができる。アンドロゲン関連の病状を対象とするとき、好ましくは少なくとも一種の化合物が、生理学的に受容可能なレベル、例えば実質的に望ましくない副作用または毒性を生じさせないレベルで、アンドロゲン受容体の分解の誘導に有効である。活性化合物は、より一層の安定性、溶解性、または送達特異性などのさらなる利点を提供する一種以上の因子を任意に含むことができる。このような因子は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、炭水化物、核酸、親油性部分、親水性部分、粒子、母剤、またはこれらの組み合わせを含むことができる。例えば、活性化合物は、親水性部分(例えばリン酸基もしくは硫酸基または炭水化物またはキレート分子)に共有結合または非共有結合して、水性緩衝液または体液中での溶解度を改善することができる。別の例において、活性化合物は、早期の分解から活性化合物を保護するペプチドもしくは他の部分に、または、所望の組織もしくは細胞型を特異的に標的として特異的な組織もしくは細胞型への活性化合物の送達を改善する抗体もしくは他の特異的結合物質に、共有結合または非共有結合することができる。別の例において、活性化合物は、安定性を改善し、または送達を改善するために、リポソーム、粒子、母剤、ゲル、ポリマーなどにカプセル化または包埋することができる。
【0070】
本発明の組成物において有用である適切な担体には、意図される投与形態に従って選択され、かつ従来の薬剤または化粧品の合成に合致する、希釈剤、賦形剤、または担体材料が含まれる。適切な担体の例には、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、生理学的に適合可能な緩衝液、生理学的に適合可能な塩で緩衝した生理食塩水、油中水型エマルジョンおよび水中油型エマルジョン、アルコール、ジメチルスルホキシド、デキストロース、マンニトール、ラクトース、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、レシチン、アルブミン、グルタミン酸ナトリウム、システイン塩酸塩など、およびこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。適切な担体はまた、従来の薬剤合成に合致するような(「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」、第20版,Gennaro(編)およびGennaro,Lippincott,Williams&Wilkins,2000)、適切な薬学的に受容可能な抗酸化剤または還元剤、防腐剤、懸濁剤、可溶化剤、安定剤、キレート剤、錯化剤、粘性調節剤、崩壊剤、結合剤、香料、着色剤、着臭剤、乳白剤、湿潤剤、pH緩衝剤、およびこれらの混合物を含むことができる。
【0071】
単離された細胞、例えば、培養で増殖した細胞およびバイオアッセイで用いる細胞において使用するために、本発明の組成物は、都合の良いように製剤化し、提供することができる。非限定的な例において、組成物は、溶解可能な固体、溶液、懸濁液、リポソーム調製物などとして製剤化し、また、手動または自動化された送達によって(例えば、ピペット、シリンジ、ポンプ、オートインジェクターまたは類似のものなどによって)細胞に供給することができる。
【0072】
ヒトの対象のような、生きている生物全体における使用のために、本発明の組成物は、意図される投与形態に適した、かつ従来の薬剤合成に合致する(「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」,第20版、Gennaro(編)およびGennaro,Lippincott,Williams&Wilkins,2000)任意の処方で製剤化および供給することができる。適切な製剤の例には、錠剤、カプセル、シロップ、エリキシル、軟膏、クリーム、ローション、スプレー、エアロゾル、吸入剤、固形物、散剤、粒子、ゲル、坐剤、濃縮剤、乳濁液、リポソーム、ミクロスフェア、可溶性母剤、滅菌溶液、懸濁液、または注射液などが含まれる。注射液は、液体溶液もしくは懸濁液、注射前の液体における溶液または懸濁液に適した濃縮物もしくは固形物、またはエマルジョンのいずれかとして、従来の形態で調製することができる。
【0073】
ヒトの対象のような、生きている生物全体における使用のために、そして治療する特定の状態に依存して、本発明の薬学的組成物は、製剤化し、全身的にまたは局所的に投与することができる。製剤化および投与のための技術は、「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」(第20版,Gennaro(編)およびGennaro,Lippincott,Williams&Wilkins,2000)中に記載されている。適切な投与経路には、経口、腸内、非経口、経粘膜、経皮、筋肉内、皮下、経皮、直腸内、髄内、髄腔内、静脈内、心室内、心房内、大動脈内、動脈内、または腹腔内の投与が含まれる。本発明の薬学的組成物は、例えば、移植可能な装置、生物分解性の移植物、パッチ、およびポンプであるがこれらに限定されない、医療装置によって対象に投与することができる。このような装置を使用するとき、組成物は、特定の時間にわたって活性化合物の放出を可能にするために、可溶性または不溶性の母剤または媒質(例えば、医療装置上または医療装置中のコーティング、膜、フィルム、含浸母剤、ポリマー、スポンジ、ゲル、または多孔性層)を含むように製剤化してもよい。
【0074】
III.ステロイドによって調節される病状を予防または治療する方法
【0075】
本発明はまた、ステロイドによって調節される状態を治療または予防する方法を含む。開示される方法を用いて治療され得る状態の例には、例えば、前立腺癌、肝臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、肺癌および乳癌、およびアンドロゲン受容体の活性化経路に関連する他の癌などの癌、ケネディ病などの、しかしそれに限定されない神経筋障害、脂腺のアンドロゲンによって誘導されるAR活性化によって引き起こされる座瘡などの皮膚障害、毛髪の損失が毛包や隣接細胞中のアンドロゲン受容体に作用するアンドロゲンによって引き起こされるアンドロゲン性脱毛症すなわち「男性型禿頭症」、多毛症などの毛髪障害、ならびに創傷または炎症が含まれるが、これらに限定されない
【0076】
ステロイドによって調節される病状を予防または治療する方法は、ステロイドによって調節される病状に罹患していることが疑われるか、またはそれを発症するリスクがある、ヒトなどの個体を提供する工程、および各々がステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害または抑制することができる少なくとも二種の化合物を場合によっては適切なキャリア中に含む薬剤の治療効果のある量を投与する工程を包含する。この薬剤は、上記に提供された方法または組成物において先に開示された任意のものであってもよい。好ましくは、少なくとも二種の化合物のうち少なくとも二種が、ステロイド受容体の遺伝子活性化経路の異なる段階またはポイントにおいて作用する。ステロイドによって調節される病状がアンドロゲンによって調節される病状であるとき、好ましくは少なくとも一種の化合物がアンドロゲン受容体の分解を誘導することができ、より好ましくは、この化合物は、例えばASCJ−9またはASCJ−15であるがこれらに限定されない、クルクミンの誘導体または類似体である。
【0077】
本発明はまた、創傷部位または炎症領域を有する個体を提供する工程、およびその部位または領域に組成物を局所的に投与する工程を包含する、創傷または炎症を治療する方法を含む。この組成物は、各々がステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害することができる少なくとも二種の化合物を含んでもよい。これらの化合物は、上記に示したように、ステロイド受容体の遺伝子活性化経路の異なるポイントで作用する。
【0078】
本発明はまた、上記に示した少なくとも一種の組成物を提供する工程、この組成物をリポソーム中にカプセル化する工程、およびこのカプセル化した組成物をヒトに投与する工程を包含する、ヒトにおけるステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させる方法を含む。
【実施例1】
【0079】
アンドロゲン受容体のトランス活性化アッセイ、MTT細胞増殖アッセイ、およびウェスタンブロット分析を使用しての、ステロイドによって誘導される遺伝子活性化の変化の検出
【0080】
この実施例は、ステロイド依存性の遺伝子活性化経路の異なる段階において影響を与えることが可能である、少なくとも二種の化合物の組み合わせを投与することの効果の代表的な研究を提供する。この実施例は、野生型アンドロゲン受容体または前立腺癌において見られる突然変異型アンドロゲン受容体の活性に対する、化合物の種々の組み合わせの効果を研究するためのアンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイ、および化合物の組み合わせが前立腺腫瘍細胞の増殖を抑制する能力を試験するためのMTT細胞増殖アッセイを含む。好ましいアッセイは、ヒト前立腺癌細胞であるLNCaP細胞を利用し、これは、アンドロゲン応答性の、臨床的に関連性のある突然変異型アンドロゲン受容体(AR)を発現するものとして、当業者に認められている。この実施例において、テストステロンの内因性ホルモン代謝物であるジヒドロテストステロン(DHT)をLNCaP細胞に投与し、アンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイにおいてアンドロゲン受容体(AR)の活性を誘導し、MTT細胞の増殖アッセイにおいて癌細胞の増殖を刺激する。組み合わせて用いた場合、開示されるアッセイは、種々のステロイド依存性の病状の、利用可能な治療を開発するための指針を提供する。
【0081】
アンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイ
ドコサヘキサエン酸(DHA)、シリビニン(SB)、ケルセチン(QU)およびヒドロキシフルタミド(HF)と組み合わせた、クルクミン誘導体であるASCJ化合物の効果を評価するための第一の手段として、アンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイを選択した。アンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子の検出を介して、アンドロゲン受容体(AR)経路の終点、つまり標的遺伝子の発現を測定する。抗アンドロゲン活性を検出する方法は以前に示されている。Ohtsuら、Synthesis and Anti−androgen Activity of New Diarylheptanoids.Bioorg Med Chem 11:5083−90,2003およびCurcumin Analogues as Novel Androgen Receptor Antagonists with Potential as Anti−prostate Cancer Agents.J Med Chem 45,5037−5042、2002。ルシフェラーゼレポーター系は以前に実証されている。Sherf,B.A.ら (1996)Dual−Luciferase reporter assay:an advanced co−reporter technology integrating firefly Renilla luciferase assays.Promega Notes 57,2。アッセイから導き出されたデータは、AR活性化経路の遮断、抑制、または阻害における、試験した化合物間の協同作用の大きさを反映する。
【0082】
アンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイは、プラスミドでトランスフェクトしたLNCaP細胞などの細胞群または細胞株を含み、このプラスミドは、プロモーターの中またはその近傍に組み込まれたアンドロゲン応答エレメントと、プロモーターの下流に位置するルシフェラーゼレポーター系とを有する。試験化合物の存在下でのルシフェラーゼの量の検出または測定の変化は、試験化合物による遺伝子発現の調節、抑制または阻害と相関する。
【0083】
より具体的には、ヒト前立腺癌細胞であるLNCaP(ATCC、マナッサス、VA)を、熱不活化した10%ウシ胎児血清(FBS)、L−グルタミン(300mg/L)、およびペニシリン−ストレプトマイシン(100単位/mLのペニシリンGナトリウム、100μg/mLの硫酸ストレプトマイシン)を補充したRPMI−1640培地中で維持した。アッセイを行うために、細胞を24ウェル組織培養プレート中に、1×105細胞/ウェルの濃度で置き、5%CO2のインキュベーターの中で37℃で培養した。二日後、細胞をSuperFectトランスフェクション試薬(Qiagen)、およびプロモーター領域中にアンドロゲン応答エレメント(ARE)を含むMMTV−ルシフェラーゼプラスミドからなるDNA混合物(0.5μg/ウェル)、およびSV40プロモーターの制御下にあるpRL Renillaプラスミド(5ng/ウェル)でトランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞に、チャコール/デキストラン処理したFBSを含有する培地を与え、実験設計に従って場合によってはジヒドロテストステロン(DHT)とともに、一種の実験化合物または二種の実験化合物の組み合わせで処理した。処理の20時間後、細胞を溶解し、溶解物中のルシフェラーゼ活性を、デュアルルシフェラーゼレポーターアッセイシステム(Promega)を使用して分析した。
【0084】
MTT細胞増殖アッセイ
MTT細胞増殖アッセイを、種々の化合物の組み合わせが癌細胞の増殖を調節、抑制、または阻害する能力を検出するために、本発明において使用する。使用する細胞は、臨床的に関連のあるLNCaP細胞である。細胞増殖を、ジヒドロテストステロン(DHT)を添加して刺激する。従って、MTT細胞増殖アッセイは、どの化合物の組み合わせが前立腺細胞の増殖の阻害または抑制に有用であり得るかということに関する指針を提供し得る。
【0085】
ミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ(すべての生きている細胞が有する)による、無色の基質から還元型テトラゾリウムへの変換に依存するMTTアッセイを、LNCaP細胞の増殖を評価するために利用した(Suら、1999)。手短に述べると、1×103細胞/ウェルのLNCaP細胞を、96ウェルマイクロテストIII組織培養プレート(Falcon、NJ)中に置いた。二日後、培地を、10%チャコール/デキストランで誘導したFBSを含むRPMIに交換した。一種以上の試験化合物を、0.1nMのDHTの存在下または非存在下で、指示された濃度で5日間加える。MTT溶液(PBS中5mg/ml)を、1/10体積で、細胞に37℃で2時間加える。プレートを遠心分離し(10分間、1000rpm)、次いで、各ウェルから上清を注意深く除去する。100μlの溶解緩衝液(50%ジメチルホルムアミド、5%ドデシル硫酸ナトリウム、0.35Mの酢酸、および50mMのHCl)を各ウェルに加えて、各ウェル中のテトラゾリウムを溶解する。各ウェルの酵素活性量に対する、生きている細胞数を測定する(595nmの波長における吸光度を、Bio−RAD BenchMarkマイクロプレートリーダーを使用して読み取る)。MTTアッセイから導き出されるデータを、実際の細胞計数および形態によっても確認する。
【0086】
正常細胞および前立腺腫瘍細胞以外の細胞もまた、増殖アッセイに使用した。ヒト内皮細胞をClonetics(MD)から入手し、ヒト上皮成長因子、ヒドロコルチゾン、ゲンタマイシン、アンフォテリシンB、および2%FBSを補充したEGM中で維持した。アッセイを開始するために、細胞を、96ウェル組織培養プレート中に5×103細胞/ウェルの密度で播種した。二十四時間後、細胞に、2%チャコール/デキストランで誘導したFBSを補充した同様の培地を与えた。TCHM抽出物を、5日間、種々の濃度(0.1〜10μg/ml)で細胞に加えた。次いで、MTT溶液を加え、先の段落に記載したように細胞増殖活性を測定した。再度、MTTアッセイから導き出されたデータを、実際の細胞計数および形態を使用して確認した。
【0087】
ウェスタンブロット分析
ウェスタンブロッティング法を、アンドロゲン受容体(AR)の発現を測定するために用いた。ウェスタンブロッティング法は、以前に公開されている(Suら、1999)。手短に述べると、細胞を、10μg/mlのベンズアミジン、10μg/mlのトリプシン阻害剤、および1mMのフッ化フェニルメチルスルホニルを加えた2×SDSローディング緩衝液またはRIPA溶解緩衝液のいずれかの中で回収した。細胞溶解物からの全タンパク質(40μg/サンプル)をSDS−PAGEゲル上で分離した。分離後、タンパク質を、標準的な手順に従って、ゲルからニトロセルロース膜に転写した。この膜を、0.1%Tween−20(PBST)を補充したリン酸緩衝生理食塩水中の10%脱脂乳とともに一晩インキュベートした。ヒトアンドロゲン受容体(AR)に特異的な一次抗体(BD−PharMingen)を、4℃で一晩、または室温で2時間、この膜に加えた。この膜をPBST緩衝液で三回、各回10分間すすぎ、次いで、室温で1時間、適切な西洋ワサビペルオキシダーゼに結合した二次抗体を加えた。再度PBSTですすいだ後、膜中のアンドロゲン受容体(AR)タンパク質のシグナルを、高感度化学発光基質(ECL、Amersham)を使用して可視化した。サンプル間で確実に等しくロードするために、製造業者の推奨に従って膜を小片化し、β−アクチンに対する特異的抗体(Sigma)とともに再インキュベートした。
【実施例2】
【0088】
クルクミン誘導体の投与によるアンドロゲン受容体の分解の誘導
【0089】
LNCaP細胞溶解物のウェスタンブロット分析を、アンドロゲン受容体(AR)の存在の減少を明らかにするために用いたが、このとき、LNCaP細胞は、ASCJ化合物と呼ばれるクルクミン誘導体の存在下で培養した。アンドロゲン受容体(AR)の存在の減少は、ASCJ化合物をLNCaP細胞中で単独で培養したとき、ASCJをアンドロゲンであるDHTとともに共培養したとき、およびASCJをタンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドとともに共培養したときに見られた。
【0090】
具体的には、LNCaP細胞は、10%CD/RPMI中で培養し、DHT(2nM)の存在下または非存在下で、24時間、クルクミン誘導体ASCJ−15(1μM)またはコントロール溶媒で処理した。各細胞サンプルのアンドロゲン受容体(AR)タンパク質の発現を、実施例1に示したように、ウェスタンブロットによって分析した。データの再現性を確実にするために、実験を四回行った。一回の実験の代表的なデータを図1に示す。相対的なアンドロゲン受容体(AR)の濃度を、β−アクチンのシグナルを用いてアンドロゲン受容体(AR)のシグナルを標準化することによって導き出し、これもまた図1に示した。
【0091】
アンドロゲン受容体(AR)の存在の減少が分解に起因し、アンドロゲン受容体(AR)の転写または翻訳の調節に起因するのではないことを実証するために、LNCaP細胞を、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドに曝露した。図2を参照すると、LNCaP細胞を、コントロール溶媒とともに10%CD/RPMI中で培養し(レーン1、4、7、10)、そしてASCJ−15(1μM、レーン2、5、8および11)またはコハク酸ビタミンE(VES)(10μM、レーン3、6、9および12)で20時間処理した。続いて、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドを、所定の時間の間(2、3および4時間)、すべての培養細胞に加えた(すべてのレーンにおいて15μg/ml)。各細胞サンプルのアンドロゲン受容体(AR)の発現を、実施例1に示したように、ウェスタンブロット分析によって分析した。データを、アンドロゲン受容体(AR)の濃度について、0時間のコントロールサンプルと比較した。一回の実験の代表的なデータを図2に示す。
【実施例3】
【0092】
単独で、またはステロイド受容体と対応するステロイド応答エレメント(SRE)との間の結合を遮断することが可能な化合物と組み合わせて、ステロイド受容体を分解することが可能な化合物を投与することによる、ステロイドによって誘導される遺伝子活性化の阻害
【0093】
アンドロゲン受容体(AR)を分解することが可能である化合物を、単独で、およびアンドロゲン受容体とアンドロゲン応答エレメント(ARE)との間の結合を遮断または妨害することが可能である化合物と組み合わせて投与した。クルクミン誘導体であるASCJは、アンドロゲン受容体(AR)の分解を誘導することができる化合物として実施例2に示した。化合物ASCJ−15は、単独で、およびアンドロゲン受容体(AR)とアンドロゲン応答エレメント(ARE)との間の結合を遮断または妨害することが可能なオメガ−3脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)と組み合わせて使用した。アンドロゲンが介在する遺伝子活性化に対するDHAの効果は以前に研究されている。Chungら、Effects of docosahexaenoic acid and eicosapentaenoic acid on androgen−mediated cell growth and gene expression in LNCaP prostate cancer cells.Carcinogenesis 22:1201−1206,2001。本実施例において、アンドロゲン受容体(AR)経路の異なるポイントにおいて作用する化合物の組み合わせを、実施例1に記載したアンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイとMTT細胞増殖アッセイの両方で試験した。
【0094】
ASCJ−15を、実施例1に記載したLNCaP細胞を使用するアンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイにおいて、0、0.5および1.0μM投与した。次善の量である0.5μMは、活性が増加するか減少するかに関わらず、ASCJ−15とDHAとの間のあらゆるアンドロゲン受容体(AR)活性の調節の検出を確実にするために設けた。DHAは、以前に報告された最小有効量である150μMを投与した。
【0095】
より詳細には、上記の実施例1に記載したアンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイを、トランスフェクトしたLNCaP細胞で用いた。細胞を、ASCJ−15またはDHAの非存在下または存在下で、1nMのDHTとともに24時間増殖させた。図3は、この実験の結果を示す。DHTインキュベーションにより上昇したMMTV−ルシフェラーゼの発現は、基底レベルの10倍を超えていた。細胞への150μMのDHAまたは1μMのASCJ−15を細胞に投与すると、DHTによって誘導されるレポーター遺伝子の発現をそれぞれ30%または45%抑制した。150μMのDHAおよび1μMのASCJ−15を共に加えると、MMTVルシフェラーゼの誘導を84%低下させた。この効果は、各々の化合物単独により得られたそれぞれの効果の合計よりも大きい。150μMのDHAと共に次善の量(0.5μM)のASCJ−15で処理すると、レポーター遺伝子発現の誘導を55%ダウンレギュレートした。この抑制は、DHA処理のみによって生じるもの(30%)よりも有意に大きい。これらのデータは、DHAとASCJ−15とを組み合わせることが、AR活性の抑制において相乗効果を生じ得ることを示唆する。
【0096】
ASCJ−15およびDHAをまた、ヒト前立腺腫瘍細胞の増殖の制御における効力について、単独でおよび組み合わせて試験した。LNCaP細胞を、実施例1に記載したMTTアッセイで用いた。結果を図4に示す。DHTはLNCaP細胞の増殖を150%有意に刺激した。150μMのDHAをDHT処理細胞に添加すると、増殖を30%弱めた。1μMのASCJ−15で細胞を処理すると、増殖の誘導を22%低下させた。ASCJ−15とDHAとを組み合わせて投与したとき、DHTにより刺激される増殖は64%抑制され、これは、ASCJ−15およびDHAによって生じるそれぞれの効果の総和にほぼ等しいか、またはそれよりも大きかった。これらの結果は、前立腺癌の増殖の抑制においてASCJ化合物とDHAを組み合わせることによる相乗効果が存在するという、アンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイのデータに合致する。
【実施例4】
【0097】
ステロイド受容体とステロイド応答エレメントとの間の結合を減少させることができる化合物と組み合わせて、ステロイドと対応するステロイド受容体との間の結合を減少させることができる化合物を投与することによる、ステロイドによって誘導される遺伝子活性化の阻害
【0098】
アンドロゲンとアンドロゲン受容体(AR)との間の結合を減少させることが可能な化合物を、単独で、およびアンドロゲン受容体とアンドロゲン応答エレメント(ARE)との間の結合を遮断または妨害することができる化合物と組み合わせて投与した。フルタミドの代謝物であるヒドロキシフルタミド(HF)は、アンドロゲンとアンドロゲン受容体との間の結合を遮断すると考えられている。オメガ−3脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)は、アンドロゲン受容体(AR)とアンドロゲン応答エレメント(ARE)との間の結合を遮断または妨害すると考えられている。これらの二種の化合物を単独で、および組み合わせて、実施例1に記載のアンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイを用いて、LNCaP細胞に投与した。
【0099】
実施例3におけるように、DHAは、アンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイにおいて、その最小有効用量150μMで使用した。HFは、0、0.5または1.0μMで用いた。DHTは1×10-9Mで用いた。結果を図5に示す。DHAとHFの両方が、単独でおよび組み合わせて、DHTによって誘導されるアンドロゲン活性を抑制することが可能であった。DHAとHFを組み合わせて使用したときに相乗的な抗アンドロゲン効果が観察され、DHTによって誘導される活性をより大きく抑制した。
【実施例5】
【0100】
ステロイド受容体の核への移行を遮断することが可能な化合物と組み合わせて、ステロイド受容体の分解を誘導することが可能な化合物を投与することによる、ステロイドによって誘導される遺伝子活性化の阻害
【0101】
アンドロゲン受容体(AR)の分解を誘導することが可能な化合物を、単独で、およびアンドロゲン受容体の核への移行を遮断または妨害することが可能な化合物と組み合わせて投与した。ASCJ−15は、実施例2において示したように、アンドロゲン受容体を分解することが可能である。広く摂取されているオオアザミに豊富なポリフェノール性フラボノイドであるシリビニン(SB)の精製型は、アンドロゲン受容体の核への移行を妨害すると考えられている。各々を、実施例1に記載したアンドロゲン受容体のトランス活性化アッセイおよびMTT細胞増殖アッセイを使用して、単独でおよび組み合わせて投与した。
【0102】
ASCJ−15を、実施例1に記載したアンドロゲン受容体のトランス活性化(AR)アッセイにおいて、0、0.5または1.0μMの濃度で投与した。Zhuらは、50μMという低い濃度を使用して、SBが転写活性を阻害できることを以前に実証している。本発明において、SBは、0または20μMで用いた。Zhuら、Silymarin inhibits function of the androgen receptor by reducing nuclear localization of the receptor in the human prostate cancer cell line LNCaP.Carcinogenesis 22:1399−1403,2001。図6を参照すると、ASCJ−15およびSBは、単独でおよび組み合わせて、LNCaP細胞中の、DHTによって誘導されるアンドロゲン受容体(AR)活性を抑制することが可能であった。組み合わせて投与したとき、ASCJ−15およびSBは、DHTによって誘導されるアンドロゲン受容体活性の70%を相加的に抑制した。単独で投与した20μMのSBおよび1μMのASCJ−15の抑制効果を合わせた場合にも、DHTによって誘導される活性の70%の抑制が算出される。
【0103】
ASCJ−15およびSBをまた、ヒト前立腺腫瘍細胞の増殖の制御における効力について、単独でおよび組み合わせて試験した。LNCaP細胞を、実施例1に記載したMTTアッセイに用いた。結果を図7に示す。ASCJ−15およびSBは、単独でおよび組み合わせて、腫瘍細胞の増殖を抑制することが可能であった。組み合わせて投与したとき、ASCJ−15およびSBは、腫瘍細胞の増殖を相加的に抑制した。
【実施例6】
【0104】
ステロイド受容体mRNAの転写を抑制することが可能な化合物と組み合わせて、ステロイド受容体の分解を誘導することが可能な化合物を投与することによる、ステロイドによって誘導される遺伝子活性化の阻害
【0105】
アンドロゲン受容体(AR)の分解を誘導することが可能な化合物を、単独で、およびアンドロゲン受容体の転写を抑制することが可能な化合物と組み合わせて投与した。ASCJ−15は、実施例2で示したように、アンドロゲン受容体を分解することが可能である。リンゴ、タマネギ、および緑茶中に見られるフラボノイドであるケルセチン(QU)の精製型は、アンドロゲン受容体mRNAの転写を抑制すると考えられている。Xingら、Quercetin inhibits the expression and function of the androgen receptor in LNCaP prostate cancer cells.Carcinogenesis 22:409−414、2001。各々を、実施例1に記載したアンドロゲン受容体のトランス活性化アッセイを用いて、単独でおよび組み合わせて投与した。
【0106】
ASCJ−15を、実施例1に記載したアンドロゲン受容体(AR)のトランス活性化アッセイにおいて、0、0.125、0.25、0.5、または1.0μMの濃度で投与した。ケルセチン(QU)を、0、5または7.5μM投与した。図8に示したように、ASCJ−15とQUの両方が、DHTによって誘導されるアンドロゲン受容体(AR)活性を抑制することが可能であった。組み合わせて投与したとき、二種の試験化合物は、DHTによって誘導される活性を相乗的に抑制した。
【実施例7】
【0107】
ステロイドのステロイド受容体への結合を阻害することが可能な化合物と組み合わせて、ステロイド受容体の分解を誘導することが可能な化合物を投与することによる、ステロイドによって誘導される遺伝子活性化の阻害
【0108】
アンドロゲン受容体(AR)の分解を誘導することが可能な化合物を、単独で、およびアンドロゲンと対応するアンドロゲン受容体(AR)との間の結合を阻害することが可能な化合物と組み合わせて投与した。ASCJ−15は、実施例2で示したように、アンドロゲン受容体(AR)を分解することが可能である。フルタミドの代謝物であるヒドロキシフルタミド(HF)は、アンドロゲンとアンドロゲン受容体(AR)との間の結合を遮断すると考えられている。HFを、実施例1に記載したアンドロゲン受容体のトランス活性化アッセイにおいて、単独で、およびASCJ15と組み合わせて試験した。各化合物を、LNCaP腫瘍細胞を使用して、野生型アンドロゲン受容体および突然変異型アンドロゲン受容体の活性を抑制する能力について試験した。HFおよびASCJ15は、単独でおよび組み合わせて、野生型アンドロゲン受容体(AR)の活性を抑制した。組み合わせて投与したときには、図9に示したように、抑制は相加的であった。
【0109】
すべての見出しは読者の便宜のためであり、そのように特定されていない限りは、見出しに続く本文の意味を限定するために使用されるべきではない。参照または引用されるすべての文書は、それらの全体が参照により援用される。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1は、ASCJ−15によるアンドロゲン受容体(AR)の内因性レベルの減少を示す、LNCaP細胞のウェスタンブロットゲルの画像を示す。
【図2】図2は、ASCJ−15の存在下でのアンドロゲン受容体の分解を示す、LNCaP細胞のウェスタンブロットゲルの画像を示す。
【図3】図3は、LNCaP細胞における、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、ASCJ−15およびドコサヘキサエン酸(DHA)の阻害効果について示したグラフである。
【図4】図4は、アンドロゲンによって誘導されるヒト前立腺癌細胞の増殖に対する、ASCJ−15およびDHTの阻害効果についてのグラフを示す。
【図5】図5は、LNCaP細胞における、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、ヒドロキシフルタミド(HF)、およびドコサヘキサエン酸(DHA)の、単独でおよび組み合わせての阻害効果についてのグラフを示す。
【図6】図6は、LNCaP細胞における、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、ASCJ−15およびシリビニン(SB)の、単独でおよび組み合わせての阻害効果についてのグラフを示す。
【図7】図7は、アンドロゲンによって誘導されるLNCaP細胞の増殖に対する、ASCJ−15およびSBの阻害効果についてのグラフを示す。
【図8】図8は、LNCaP細胞における、アンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、ASCJ−15およびケルセチン(QU)の、単独でおよび組み合わせての阻害効果についてのグラフを示す。
【図9】図9は、野生型のアンドロゲンによって誘導される遺伝子活性化に対する、フルタミドの代謝物であるヒドロキシフルタミド(HF)、およびASCJ15の、単独でおよび組み合わせての阻害効果についてのグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ステロイド受容体を含む生物学的サンプルを提供する工程、
b)前記生物学的サンプルに、前記ステロイド受容体の分解を誘導することができる第一の化合物を投与する工程、および
c)前記生物学的サンプルに、前記ステロイド受容体が遺伝子を活性化することを阻害することができる第二の化合物を投与する工程、
を包含し、
前記第一の化合物および前記第二の化合物が、前記ステロイド受容体の遺伝子活性化経路の異なる段階に作用し、
さらに、前記第一の化合物または前記第二の化合物を単独で投与する場合よりも、ステロイド依存性の遺伝子活性化がより大きく減少し、または阻害されることを特徴とする、ステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させる方法。
【請求項2】
ステロイド受容体がアンドロゲン受容体であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一の化合物がクルクミンの誘導体または類似体を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
クルクミンの誘導体がASCJ−9、ASCJ−15およびそれらの機能的誘導体からなる群より選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
第二の化合物が、ステロイド受容体へのステロイドの結合を部分的に阻害することができることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第二の化合物が、ビカルタミド、ヒドロキシフルタミドおよびそれらの機能的誘導体からなる群より選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
第二の化合物が、ステロイド応答エレメントへのステロイド受容体の結合を部分的に阻害することができることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
第二の化合物がドコサヘキサエン酸(DHA)またはその機能的誘導体であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステロイド応答エレメントがアンドロゲン応答エレメント(ARE)であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第二の化合物が、ステロイド受容体の核への移行を部分的に阻害することができることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
第二の化合物がシリビニン(SB)またはその機能的誘導体であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第二の化合物が、ステロイド受容体の転写を部分的に阻害することができることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
第二の化合物がケルセチン(QU)またはその機能的誘導体であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
第一の化合物および第二の化合物が一緒に投与されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
ステロイド受容体の分解を誘導することができる第一の化合物、および前記ステロイド受容体による遺伝子の活性化を阻害することができる第二の化合物を含む組成物であって、前記第二の化合物が前記ステロイド受容体の分解を有意に誘導しないことを特徴とする組成物。
【請求項16】
a)ステロイド受容体の分解を誘導することができる第一の化合物またはその薬学的に受容可能な塩、
b)前記ステロイド受容体による遺伝子活性化を阻害することができる第二の化合物またはその薬学的に受容可能な塩、および
c)薬学的に受容可能な希釈剤、アジュバントまたは担体、
を含み、
前記第一の化合物および前記第二の化合物が、組み合わせた場合、治療効果のある量で用いられることを特徴とする薬学的組成物。
【請求項17】
第一の化合物がクルクミンの誘導体または類似体である、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項18】
第二の化合物またはその薬学的に受容可能な塩が、ビカルタミド、ヒドロキシフルタミド、ドコサヘキサエン酸(DHA)、シリビニン(SB)、コハク酸ビタミンE(VES)、ケルセチン(QU)、フィナステリド、デュタステライド、またはそれらの機能的誘導体から選択される、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項19】
第一の化合物および前記第二の化合物がリポソーム中にカプセル化されている、請求項16に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
a)ステロイドによって変調する病状に罹患していると疑われる個体を提供する工程、および
b)前記個体に、請求項16に記載の薬学的組成物の治療効果のある量を投与する工程、
を包含する、ヒトにおける、ステロイドによって変調する病状を予防または治療する方法。
【請求項21】
ステロイドによって変調する病状が、座瘡、多毛症、アンドロゲン性脱毛症(男性型禿頭症)、前立腺癌、良性の前立腺肥大症、膀胱癌、肝臓癌、乳癌、子宮頸癌および肺癌からなる群より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
a)創傷部位または炎症部位を有する個体を提供する工程、および
b)請求項16に記載の薬学的組成物を前記創傷部位または炎症部位に局所的に投与する工程、
を包含する、創傷または炎症を治療する方法。
【請求項23】
a)請求項16に記載の薬学的組成物を提供する工程、
b)前記薬学的組成物をリポソーム中にカプセル化する工程、および
c)前記カプセル化した薬学的組成物をヒトに投与する工程、
を包含する、ヒトにおけるステロイド依存性の遺伝子活性化を阻害するまたは減少させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−526913(P2007−526913A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551615(P2006−551615)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【国際出願番号】PCT/US2005/003416
【国際公開番号】WO2005/072462
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(505212094)アンドロサイエンス コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】