説明

ステロイド剤投与回数の低減方法

【課題】非ヒト動物、特にイヌ、ネコ等のコンパニオンアニマルのアトピー性皮膚炎疾患の治療に使われるステロイド剤の投与回数を低減させる方法を提供する。
【解決手段】1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する酸性キシロオリゴ糖を含有する組成物を、アトピー性皮膚炎に罹患し、かつ、ステロイド剤による治療を受けているもしくは受けようとしている非ヒト動物に経口投与することにより、動物のアトピー性皮膚炎治療におけるステロイド剤の投与回数を低減する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物、特にイヌ、ネコ等のコンパニオンアニマルの皮膚疾患の治療に使われるステロイド剤の投与回数を低減させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年イヌやネコ等のコンパニオンアニマルにおいてアレルギー疾患、特にアトピー性皮膚炎が問題となっている。アトピー性皮膚炎の獣医診療における発症頻度は約10%と言われている(非特許文献1参照)。アトピー性皮膚炎の病態は、アレルギー、バリア障害及び炎症の側面から説明されている。アトピー性皮膚炎では、アレルギー反応に関与するリンパ球であるTh2細胞の活性化と高IgE血症を伴うことが多い。また、多くの症例において血中IL-4、IL-5、IL-13等のTh2サイトカインの高値が見られることからも、アレルギー性炎症としての側面を持つことを示している。また、アトピー性皮膚炎の湿疹部位では、皮膚のバリア機能の維持に重要なセラミドが減少している。痒みにより皮膚を掻破することは、バリア機能の更なる崩壊を引き起こす。このようにアレルギーやバリア機能の崩壊によって皮膚に慢性の炎症が生じる。実際に皮膚炎患部では白血球の浸潤が観察される(非特許文献2参照)。特にイヌなどのコンパニオンアニマルにおけるアトピー性皮膚炎においては前述の因子の他に、持続性の膿皮症、マラセチア皮膚炎、外耳炎および脂漏症など、多くの合併症が発現する。
【0003】
上記のようにアトピー性皮膚炎が多因子性の疾患である為、対症療法による症状緩和が唯一の治療手段である。代表的な薬物治療としては、ステロイド剤内服薬の投与、抗アレルギー内服薬の投与、シクロスポリンの投与が挙げられる。コンパニオンアニマルの場合、耳介等にステロイド外用剤を使用する場合もある。ステロイド剤の副作用としては、細菌や真菌感染に対する抵抗力の低下、副腎機能の低下などが挙げられ、継続して投与を続ける事が難しい薬剤である。更には、長期間使用後のリバウンド現象を避ける為に、急激な使用の中止を避ける必要がある等、使用における制約が多い。
【0004】
薬物治療によって症状が寛解することはあるものの、完治させることは困難である。従って、アトピー性皮膚炎治療の補助的療法として、寛解状態を維持しつつ、副作用のあるステロイド剤の投与回数を減らす方法が望まれている。その方法としては、シャンプーの実施などによるスキンケアや、皮膚の健康に良いとされるサプリメント等を単独もしくは複数使用することが挙げられる。
【0005】
コンパニオンアニマルのアトピー性皮膚炎において使用でき、ある程度の治療補助効果が期待される物質としては、γ-リノレン酸等のω-3系多価不飽和脂肪酸が挙げられる(非特許文献3参照)。しかし、これらの脂肪酸類は、不安定で酸化されやすく、風味も独特であるため、配合するペットフード、サプリメント、医薬品の形態によっては、嗜好性に問題が生じることが考えられる。また、ステロイド剤の投与回数を軽減できるという根拠にも乏しい。
【0006】
ところで、リグノセルロースから酵素処理及びNF膜濃縮により製造される酸性キシロオリゴ糖(特許文献1及び2参照)は、内服及び外用におけるアトピー性皮膚炎改善剤(特許文献3、4および5参照)、アトピー性皮膚炎改善効果のあるペットフード(特許文献6参照)としての提案がなされている。しかしながら、本酸性キシロオリゴ糖を用い、コンパニオンアニマルのアトピー性皮膚炎治療におけるステロイド剤の投与回数を低減させる方法に関する提案はなされていない。
【0007】
【非特許文献1】Hillier A, et al.: Vet Immunol Immunopathol, 81: 147-51 (2001)
【非特許文献2】新しい診断と治療のABC(16) アトピー性皮膚炎、竹原和彦編(最新医学社)
【非特許文献3】Mueller R. S., et al.: Journal of Small Animal Practice, 45: 293-97 (2004)
【特許文献1】特許第2643368号
【特許文献2】特開2000-333692
【特許文献3】特開2004-210664
【特許文献4】特開2004-210666
【特許文献5】特開2007-045812
【特許文献6】特開2007-300849
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、非ヒト動物、特にイヌ、ネコ等のコンパニオンアニマルの皮膚疾患の治療に使われるステロイド剤の投与回数を低減させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決する為、鋭意研究した結果、ウロン酸残基が付加した酸性キシロオリゴ糖を含有する組成物を経口投与することで、動物のアトピー性皮膚炎治療におけるステロイド剤の投与回数を低減する方法を見出し、本発明を完成させるに到った。
【0010】
なお、本出願人は、酸性キシロオリゴ糖の製造方法(特許文献1、2)については既に報告している。
【0011】
本発明においては、上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。
すなわち、本発明は、第1の態様において、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する酸性キシロオリゴ糖を含有する組成物を、アトピー性皮膚炎に罹患し、かつ、ステロイド剤による治療を受けているもしくは受けようとしている非ヒト動物に経口投与することにより、動物のアトピー性皮膚炎治療におけるステロイド剤の投与回数を低減する方法である。
【0012】
本発明の実施形態において、上記酸性キシロオリゴ糖が、キシロース平均重合度2〜20の範囲のものであることを特徴とする。
【0013】
本発明の別の実施形態において、上記動物が、イヌ、ネコなどのコンパニオンアニマルであることを特徴とする。
【0014】
本発明の別の実施形態において、上記組成物が、動物用のサプリメント、フードまたは医薬品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、動物、特にイヌ、ネコ等のコンパニオンアニマルの皮膚疾患の治療に使われる副作用の強いステロイド剤(特に経口製剤)の投与回数を有意に低減させることができること、治療成績の向上や症状の軽減も相乗的に達成しうること、などの格別の作用効果が付与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の構成(特徴)について詳述する。
1. 酸性キシロオリゴ糖
キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体をいう。酸性キシロオリゴ糖とは、キシロオリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有するものを言う。ウロン酸は、天然では、ペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。
【0017】
本発明の酸性キシロオリゴ糖のウロン酸残基としては、特に限定されないが、グルクロン酸または4−O−メチル−グルクロン酸が好ましい。1分子中のウロン酸側鎖の個数は、平均1〜5個が好ましく、平均1〜2個がより好ましい。
【0018】
本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖におけるキシロースの重合度は、単一重合度であれば、重合度1〜30が好ましく、重合度2〜20がより好ましい。また、様々な重合度の組成物であれば、重合度分布にもよるが、平均キシロース重合度が2〜20が好ましく、3〜13がさらに好ましい。多分散度は1〜2が好ましく、1〜1.6がより好ましい。尚、分子中のウロン酸の結合位置は特に限定されない。結合の種類も特に限定されないが、キシロースの2位とウロン酸の1位が結合したα−1,2結合が好ましい。
【0019】
2. 酸性キシロオリゴ糖の製造方法
本発明に使用される酸性キシロオリゴ糖の製造方法としては、様々な方法を用いることが可能であり、特に限定はされない。
【0020】
キシロオリゴ糖の製造方法としては、(1)加圧加熱、爆砕又はアルカリ処理等の糖化処理を行ない、直接キシロオリゴ糖液を製造する方法、(2)加圧加熱、アルカリ加熱処理や抽出、精製したキシランを出発原料とし、これに酵素を作用させて糖化処理してキシロオリゴ糖液を製造する方法、(3)植物体の原料を細片化し、アルカリ加熱処理後、直接酵素を作用させて糖化処理してから固液分離し、キシロオリゴ糖液を製造する方法、(4)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖成分とリグニン成分の複合体を得たのち、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、キシロオリゴ糖と1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する酸性キシロオリゴ糖を分離する方法などが挙げられる(例えば特許文献1及び2参照)。本発明で使用する酸性キシロオリゴ糖の製造方法については、特に限定するものではないが、(4)の製造方法が、大量かつ安価に製造することが可能である点で好ましい。以下にその概要を示す。
【0021】
酸性キシロオリゴ糖は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のオリゴ糖や低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙などを用いたろ過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0022】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去され、着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析などでも可能である。こうして得られた糖液中には酸性キシロオリゴ糖と中性キシロオリゴ糖が溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から酸性キシロオリゴ糖のみを取り出すことができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。ついで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行っている。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、酸性キシロオリゴ糖を樹脂に吸着させる。
【0023】
樹脂に吸着した酸性オリゴ糖を、低濃度の塩(NaCl、CaCl2、KCl、MgCl2など)によって溶出させることにより、夾雑物を含まない酸性キシロオリゴ糖溶液を得ることができる。この溶液から、スプレードライや凍結乾燥処理等により、白色の酸性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0024】
化学パルプ由来のリグノセルロースを原料とし、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体とした酸性キシロオリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性と平均キシロース重合度の比較的高い酸性キシロオリゴ糖組成物が容易に得られる点にある。平均キシロース重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって調節することが可能である。また、弱陰イオン交換樹脂溶出時に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子あたりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性キシロオリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0025】
3. 酸性キシロオリゴ糖含有組成物
本発明で使用可能な酸性キシロオリゴ糖含有組成物は、動物用のサプリメント(栄養補助剤)、フード(食品)、医薬品などの形態をとることができる。
【0026】
組成物の形態は、以下のものに限定されないが、例えば粉末、顆粒、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、ペースト、ゲル、スティック、等の任意の形状をとることができる。
【0027】
組成物は、酸性キシロオリゴ糖のみを有効成分として含有させてもよいし、或いは、酸性キシロオリゴ糖とステロイド剤を有効成分として含有させてもよい。酸性キシロオリゴ糖の用量は、好ましくは0.1g/kg体重以上、例えば0.2から1.5g/kg体重であるが、この用量に限定されない。また、ステロイド剤を含有させる場合には、それが単独で使用されるときよりも少ない用量、例えば0.5mg/kg/日未満、好ましくは0.1mg/kg/日未満とすることができる。
【0028】
ステロイド剤は、副腎皮質ステロイド経口製剤であり、例えばプレドニゾロンなどを挙げることができる。
【0029】
組成物は、有効成分のほかに、賦形剤、種々の添加剤、食品成分、栄養成分などを含有させることができる。
【0030】
賦形剤には、以下のものに限定されないが、デキストリン、澱粉、乳糖、ブドウ糖、微結晶セルロース、滅菌水、エタノール、グリセロール、等の固体、液体物質が包含される。
【0031】
添加剤は、以下のものに限定されないが、例えば結合剤(澱粉、乳糖、アラビアゴム、セルロース、エチルセルロースなど)、ゲル化剤(ゼラチン、こんにゃく粉、アルギン酸塩など)、崩壊剤(カルボキシメチルセルロースなど)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素、タルク、シリカ、ワックスなど)、流動化剤(タルク、二酸化ケイ素など)、増量剤(澱粉、セルロース、リン酸カルシウム、ソルビトールなど)、着色剤(人工色素、天然色素など)、乳化剤(界面活性剤など)、甘味剤(果糖、麦芽糖、ソルビトール、アスパルテーム、ステビアなど)、等が包含される。これらの添加剤は、医薬や獣医用医薬分野で通常使用されるものから選択されうる。
【0032】
食品成分及び栄養成分は、以下のものに限定されないが、例えばオリゴ糖類、糖類、澱粉、セルロース、油脂類、脂肪酸類、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル類、動物・植物由来天然物、海産物、肉類、蛋白質、等が包含される。
【0033】
4. 投与方法
本発明で使用される上記組成物は、非ヒト動物、例えばイヌ、ネコ等のコンパニオンアニマルに対して、経口投与又は経口摂取して使用することができる。動物に対して、該組成物を単独で与えてもよいが、餌に混ぜて与えることもできる。
【0034】
このような動物は、アトピー性皮膚炎に罹患した動物であり、獣医師のもとでステロイド剤治療を受けている又は受けようとしている動物である。より好ましい動物は、ステロイド剤治療下にあって、治療効能を高めるために1日あたりのステロイド剤の用量が増大しつつある動物である。このような動物は、用量が増大すると、ステロイド剤による細菌や真菌感染に対する抵抗力の低下、副腎機能の低下などの副作用が懸念されるため、ステロイド剤の用量が必然的に制限されねばならない動物である。
【0035】
本発明における組成物は、ステロイド剤治療を受ける前に経口投与又は経口摂取し、その後にステロイド剤を併用する場合であっても、或いは、ステロイド剤治療をすでに受けており、その後に上記組成物を併用する場合のいずれであっても、ステロイド剤の投与回数を低減することができる。
【0036】
本発明の組成物とステロイド剤は、同時に或いは別々に(連続的に、又は、時間をずらして)動物に投与又は摂取しうる。
【0037】
本発明の効果については、図2、図3及び図4に示されるように、CADESIスコアの改善、ステロイド剤(経口用粉末包剤)の投与回数の低減、及び痒みスコアの改善の結果から総合的に判断すると、ステロイド剤治療と本発明の組成物とを併用することによって、ステロイド剤の投与回数を有意に低減することができるとともに、相乗的なアトピー性皮膚炎改善効果が認められる。本発明のこの効果は、ステロイド剤の副作用を大幅に抑制することができるという点で、画期的である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、実施例により限定されるものではない。
【0039】
<分析法の概要>
酸性キシロオリゴ糖の物理化学的性質の分析法を以下に示した。
【0040】
(1)全糖量の定量
全糖量は検量線をD-キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法 第2版、学会出版センター発行:ISBN 4-7622-0102-2)にて定量した。
【0041】
(2)還元糖量の定量
還元糖量は検量線をD-キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法 第2版、学会出版センター発行:ISBN 4-7622-0102-2)にて定量した。
【0042】
(3)ウロン酸量の定量
ウロン酸は検量線をD-グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、カルバゾール硫酸法の変法(Anal. Biochem., 54, 484-489(1991)参照)にて定量した。酸性キシロオリゴ糖の1分子当たりのウロン酸個数は、下式によって求めた。
1分子当たりのウロン酸個数=ウロン酸濃度÷還元糖濃度
【0043】
(4)平均キシロース重合度の決定法
糖液の全糖濃度と還元糖濃度を測定し、下式によって平均キシロース重合度を求めた。
平均キシロース重合度=全糖濃度÷還元糖濃度
【0044】
(5)酸性キシロオリゴ糖の分子量分布分析法
酸性キシロオリゴ糖の分子量分布は、ゲル濾過クロマトグラフィー法によって分析した。Waters製Alliance (2695 Separations Module)を使用し、カラムはSHODEX製Ohpak SB-803 HQ(8.0×300mm)とOhpak SB-802.5 HQ(8.0×300mm)を直列に接続して用いた。カラムオーブンは50℃に設定した。溶離液には0.2M NaCl溶液を用い、流速は0.5ml/minとした。検出は示差屈折系(2414 RI Detector)を用いた。分子量分布の標準曲線の作成には、プルランの標準品(Shodex製STANDARD P-82)を用いた。尚、低分子のオリゴ糖画分の標準品としてはグルコース(M.W.180)およびマルトトリオース(M.W.504)、マルトヘプタオース(M.W.1152)を用いた。得られた酸性キシロオリゴ糖のクロマトグラフィーと、分子量標準曲線から、酸性キシロオリゴ糖の分子量分布(プルラン換算)および多分散度を求めた。
【0045】
(6)酵素力価の定義
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法 第2版、学会出版センター発行:ISBN 4-7622-0102-2)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニット(U)とした。
【0046】
<調製例>
10%広葉樹クラフトパルプスラリーのpHを硫酸を用いて6.0とした後、Tricoderma reesei由来の市販のキシラナーゼを5000U/Lとなるように添加した。攪拌混合しながら50℃、45分間インキュベートした。固液分離によってパルプを除去し、糖濃度0.2%の糖液をRO膜を用いて50倍に濃縮後、糖濃度10%の糖液を1000L得た。この糖液を硫酸を用いてpH3.0に調整した。次いで120℃、1気圧で100分間加熱処理を行い、リグニンを会合、沈殿させた。次いで、活性炭によって脱色後、糖液を強カチオン交換樹脂(オルガノ製200CT)、弱アニオン樹脂(オルガノ製IRA96SB)、強カチオン交換樹脂(オルガノ製200CT)、弱アニオン樹脂(オルガノ製IRA96SB)の順に通液する操作を行った。弱アニオン樹脂に50mM NaCl溶液を通液して得られた画分について濃縮・噴霧乾燥を行い、酸性キシロオリゴ糖を15.4kg得た。得られた酸性キシロオリゴ糖(UX10)の平均キシロース重合度は10.1、多分散度は1.28であった。オリゴ糖1分子中のウロン酸個数は1.4個であった。
【0047】
前述した方法によって得られた10kgのUX10と5kgのデキストリンを粉末造粒装置に入れ、水を噴霧(噴霧速度15ml/分)しながら装置内を80℃で保ち、混合した。水の噴霧を停止後、水分が1%以下になるまで乾燥し、造粒した。得られた顆粒1.5gまたは3.0gをアルミ袋1包に充填し、包装した(1包当たり、UX10を1g、または2g配合した)。この酸性キシロオリゴ糖とデキストリンの混合物を試験食とした。
【0048】
<アトピー性皮膚炎のイヌに対する有効性判定試験>
(1)試験方法
1.1 診断基準
獣医師によって下記の方法でアトピー性皮膚炎と診断されたイヌ55症例を用いた。以下に診断基準を示す。
【0049】
(診断基準)
臨床診断基準:以下の大項目3つ以上、小項目3項目以上に当てはまること
大項目
・痒み
・顔面あるいは四肢端の罹患
・手根関節屈曲面あるいは足根関節伸展面の苔癬化
・慢性あるいは慢性再発性の皮膚炎
・アトピーの家族歴
・好発犬種
【0050】
小項目
・初発が3歳齢未満
・再発性表層性ブドウ球菌性膿皮症
・再発性マラセチア感染
・再発性両側性外耳炎
・再発性両側性結膜炎
・耳介の紅斑、炎症
・吸入性抗原に対する皮内反応陽性
・血清中抗原特異的IgEの上昇
・顔面の紅斑と口唇炎
【0051】
除外基準
・外部寄生虫症(毛包虫症・疥癬・ノミ寄生・シラミ寄生)
・皮膚感染症(細菌、真菌、原虫)
・ノミアレルギー性皮膚炎
・接触性皮膚炎
・他に重篤な疾患がある
・妊娠ないし妊娠の可能性がある
尚、原則として現行の治療にて症状をコントロールできている症例を試験に参加させた。
【0052】
1.2 試験食の投与方法
有効成分であるUX10が約0.2g/kg/dayとなるように試験食を投与した。イヌの体重と試験食の一日あたりの投与量を表1に示した。試験食はフードに振りかけて与えた。原則として一回の食事で一日の投与量を与えたが、投与量が多い症例の場合は二回以上に分けて与えても良いこととした。
【0053】
【表1】

【0054】
1.3 試験スケジュール
スケジュールの詳細を図1に示した。試験開始日を-7日目とし、7日間の前観察期間を設け、試験食の投与開始日を1日目とした。投与開始日から56日間毎日試験食を投与した。オーナーは14日ごとに来院し、獣医師は診察記録を作成した。また、試験期間中は現行の治療を継続し、症状の改善、悪化などでステロイドなどの薬剤の投薬量を増減する必要があるときは、獣医師の判断によって薬剤を処方した。
【0055】
1.4 評価項目
投与-7日目、投与開始日、投与14日目、投与28日目、投与42日目、投与56日目に、獣医師による皮膚炎スコア(CADESIスコア;Olivry, T.ら, J. Dermatol. Treat., 8:243-247 (1997))を記録した。また、イヌの飼い主は、ステロイド剤投与回数、痒みスコア(5段階評価)を毎日記録した。
【0056】
1.5 解析方法
a) CADESIスコア
投与前、投与開始日、14、28、42、56日目のCADESIスコアについて、対応のある一元配置分散分析を行い、各時系列間の有意差の有無を判定した。有意水準は5%とした。
b) 平均ステロイド投与回数
投与開始前の7日間、投与開始日から14日ごとのステロイド剤(経口用粉末包剤)の投与回数の平均値を算出した。各時系列間の有意差の有無は対応のある一元配置分散分析によって判定した。有意水準は5%とした。
c) 平均痒みスコア
投与開始前の7日間(前観察期間)、投与開始日から14日ごとの痒みスコアの平均値を算出した。各時系列間の有意差の有無は対応のある一元配置分散分析によって判定した。有意水準は5%とした。
【0057】
(2)試験結果
2.1 CADESIスコアの推移
CADESIスコアの推移を図2に示した。CADESIスコアは、試験食を投与していない期間(投与前および投与開始日)においては有意な差は見られなかったが、投与を開始して14、28、42、56日目において、投与前及び投与開始日に対して有意に低下した。
【0058】
投与前のCADESIスコアと比較して、投与開始から56日目のCADESIスコアが5ポイント以上低下した症例は、55症例中24症例であった。一方、投与開始から56日目のCADESIスコアが5ポイント以上増加した症例は6例であった。
【0059】
2.2 平均ステロイド投与回数
試験期間中一度でもステロイドを使用した症例は、55症例中35症例であった。平均ステロイド投与回数の推移を図3に示した。前観察期間(投与開始-7日〜投与開始1日目)の平均ステロイド投与回数に対して試験食投与期間中のステロイド投与回数は徐々に減少していき、29〜42日目および43〜56日目において、前観察期間よりも有意に減少した。
【0060】
2.3 平均痒みスコアの推移
平均痒みスコアの推移を図4に示した。平均痒みスコアは前観察期間に対し、試験食を投与している期間(1〜14日目、15〜28日目、29〜42日目、43〜56日目)において、有意に低下した。
【0061】
以上の結果から、通常の治療を継続しながら酸性キシロオリゴ糖を投与することで、皮膚炎症状を寛解に導くか、症状を維持しつつ、痒みを抑制し、更にはステロイドの投与回数を低減させることができた。特に、副作用が強く使用方法が難しいステロイドの投与回数を低減させられたことは、アトピー性皮膚炎治療の補助療法として酸性キシロオリゴ糖の経口投与が有効であることを示している。
【0062】
<安全性試験>
酸性キシロオリゴ糖の投与がイヌの健康に対して及ぼす影響を調べる為、以下の試験を行った。
【0063】
(1)試験方法
5〜6ヶ月齢のビーグル犬雌雄各9頭を1週間順化し、前述の試験食を1日1回9週間投与した。尚、安全性試験の各群における被験物質の投与量は表2に示した通り、雌雄各3頭ずつを、非投与群、低用量群(0.4g/kg)、高用量群(1.2g/kg)に割り当てた。
【0064】
【表2】

【0065】
(2)評価項目
一般状態(食欲、元気、便の排泄(軟便、下痢等)、衰弱および肥満等の有無の観察)、尿検査(pH、タンパク、糖、ケトン体、ビリルビン、ウロビリノーゲン、潜血、比重)、血液学検査(赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値、平均赤血球容積(MCV) 、平均赤血球血色素量(MCH)、均赤血球血色素濃度(MCHC)、血小板数、白血球数、網状赤血球数、白血球百分率)、血液生化学検査(LDH、AST、ALT、ALP、中性脂肪、総コレステロール、総蛋白、アルブミン、グロブリン、A/G比、尿素窒素、クレアチニン、総ビリルビン、血糖、カルシウム、無機リン、コリンエステラーゼ、ナトリウム、カリウム、クロール)、臓器重量(肝臓、腎臓、心臓、脾臓、副腎および甲状腺)、病理組織学検査(重量を測定した臓器の他、骨髄(胸骨)、上皮小体、胃、十二指腸、空腸、回腸、結腸、膵臓について実施)について評価し、非投与群と比較して有意差のある項目について、試験食の関与の有無を考察した。
【0066】
(3)試験結果
1.2g/kgの投与3〜8日の間に雌雄とも2頭、投与45〜55日の間に雌の3頭とも軽度な軟便が認められた。体重増加、尿検査所見、血液学検査所見、血液生化学検査所見、剖検および器官重量には被験物質の投与に起因すると思われる変化は認められなかった。
【0067】
したがって、酸性キシロオリゴ糖はイヌへの使用において、安全性上問題はないものと結論された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明により、非ヒト動物、特にイヌ、ネコ等のコンパニオンアニマルの皮膚疾患の治療に使われるステロイド剤の投与回数を低減させる方法が提供され、これは産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】アトピー性皮膚炎のイヌに対する有効性判定試験のスケジュール。
【図2】CADESIスコアの推移。
【図3】平均ステロイド投与回数の推移。
【図4】平均痒みスコアの推移。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有する酸性キシロオリゴ糖を含有する組成物を、アトピー性皮膚炎に罹患し、かつ、ステロイド剤による治療を受けているもしくは受けようとしている非ヒト動物に経口投与することにより、動物のアトピー性皮膚炎治療におけるステロイド剤の投与回数を低減する方法。
【請求項2】
酸性キシロオリゴ糖が、キシロース平均重合度2〜20の範囲のものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
動物が、イヌ、ネコなどのコンパニオンアニマルであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
酸性キシロオリゴ糖を含有する組成物が、動物用のサプリメント、フードまたは医薬品であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−13379(P2010−13379A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173250(P2008−173250)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】