説明

ステントの製造方法

【課題】ステント本体の全表面を密着して被覆するポリマー層(但し、生分解性ポリマーを除く)に薬物を担持させ、かつ皺の発生を最小限に制御したステントの製造方法を提供する。
【解決手段】拡径可能な管状のステント本体と、該ステント本体を被覆する柔軟なポリマー層12(但し、生体内分解性ポリマーを除く)とを有するステント素体を該ポリマー層を膨潤させる溶媒に可溶な薬物を溶解させた後、濾過した溶液に浸漬し、該ポリマー層が膨潤してポリマー層の皺を最小限に抑制した後、該溶液からステント素体を引き上げ、表面に付着した液滴を拭き取り、次いで長軸方向が上下となるように静置して乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近年血管内療法や外科手術、特に狭窄冠動脈、狭窄頚動脈、胆管、食道の拡張、動脈瘤の閉塞に用いられるステント(管腔内移植片)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来虚血性心疾患の治療は経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)、つまりバルーンカテーテルを血管内の管腔を通し例えば狭窄部位に運び、その後バルーンを生理食塩水のような液体により拡張させて治療する方法が一般的であった。しかしこの方法では、急性期の冠閉塞やPTCA施行部位の再度の狭窄(いわゆる再狭窄)が生じる確率が高かった。これらの問題を解決するために、ステントと呼ばれる管腔内移植片が開発され最近急激に実用化され普及している。最近のデータによるとバルーンカテーテルによる手術の75%近くはすでにステントを使用した手術に置き変わってきていることを示している。
【0003】
ステント本体は血管等の管腔内を通って運ばれ管腔の治療部位でその直径を拡張することにより、内側からの作用によって支持する管腔内移植片である。現在は主に上述した冠動脈手術に多く使われているためにここでは冠動脈手術を主体に説明するものの、ステントは胆管、食道、気管、前立腺、尿管、卵管、大動脈瘤、末梢動脈、腎動脈、頸動脈、脳血管等人体の他の管腔部位にも用いることができる。特に、ステントの利用分野は益々広がり、従って、将来的にステントは狭窄部位拡張術、動脈瘤閉塞術、ガン療法などの多くの手術で用いられ、特に脳外科の分野での利用にともない極細ステントの重要性が高まることが予想される。
【0004】
ステントを用いた手術の普及によって再狭窄は飛躍的に防止することができるようになった。しかしながら一方、金属製ステント本体は体内において異物であることから、ステント本体挿入後数週間内に血栓症が発症する。つまり金属ステント自体が血栓性を有することから血液に晒されるとアルブミンやフィブリノーゲンなどの血漿蛋白と接触し血小板の粘着から凝集が起きる。また金属製ステント本体を留置することにより血管内皮の肥厚を促しこれも再狭窄のひとつの原因になっているという指摘もある。そこで、WO2004/022150には、金属製ステント本体を、微細孔を有したセグメント化ポリウレタンなどの柔軟なポリマーフィルムで被覆することが記載されている。
【0005】
生体組織中、血管などの内表面、つまり血液と接触する部分は内皮細胞と呼ばれる細胞層に覆われている。この内皮細胞はその表面が糖で覆われることと、内皮細胞自体がプロスタグランジンのような血小板の活性化を抑える物質を分泌するために、生体組織では血栓などが起きにくい。上記WO2004/022150のステントでは、セグメント化ポリウレタンなどのポリマーフィルムで金属製ステント本体を被覆することにより、適度な細胞の内皮化を促進し血栓性を低下させることができる。
【0006】
このWO2004/022150には、ポリマー層を生体内分解性ポリマーで覆うこと、この生体内分解性ポリマーにアルガトロバン(アルガトロパンということもある)などの抗血栓剤を含有させることが記載されている。
【特許文献1】WO2004/022150
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記WO2004/022150には、次のような改良課題がある。
【0008】
(1) 上記WO2004/022150で用いられている生体内分解性ポリマーは、その分解物が生体に悪影響を及ぼす酸性物質であることが多く、炎症、血栓を惹起するおそれがある。
【0009】
(2) セグメント化ポリウレタンでカバーされたステントをWO2004/022150の手法でアルガトロバンを担持させるとした場合、膨潤したセグメント化ポリウレタンフィルムはステント本体と密着して被覆しており、一方のステント本体は複雑な骨格構造を有しており、フィルムへかかっている張力が各部分で相違するため膨潤の際は膨潤が制限される部分と開放されている部分があり、フィルムには皺が発生する。
【0010】
(3) フィルムに皺を発生させると、物理的にアルガトロバンの含有量にムラが発生する。さらに、アルガトロバンは分子量が約509の、グアニジル基を有しサルファー剤様の骨格を有する化合物であり、立体的には複雑な構造で同一分子量でリニア構造の化合物よりも大きな分子である。したがって、膨潤度合いがフィルムの各部分で異なるとアルガトロバン分子のセグメント化ポリウレタン分子間への侵入量は不均一となる。
【0011】
(4) フィルムにアルガトロバンが担持されるとフィルムのヤング率が変化する。変化量は担持量に依存する。アルガトロバンの担持量が不均質で、担持量が多い部分と少ない部分があると、ステント拡張時に伸びやすい部分と伸びにくい部分が生じてしまう。
【0012】
本発明はこのような欠点を解消し、生体内分解性ポリマーを用いることなく薬物の均質な徐放性を付与したステントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のステントの製造方法は、拡径可能な管状のステント本体と、該ステント本体を被覆する柔軟なポリマー層(但し、生体内分解性ポリマーを除く)とを有するステント素体を、該ポリマー層を膨潤させる溶媒に可溶な薬物を溶解させた後、濾過した溶液に該ステント素体を浸漬し、該ポリマー層が膨潤してポリマー層の皺が除去された後、該溶液からステント素体を引き上げ、長軸方向が上下となるように静置して乾燥することを特徴とするものである。
【0014】
請求項2のステントは、請求項1において、該ステント素体を構成する柔軟なポリマー層に、内側ポリマー層と外側ポリマー層を貫通する直径5〜500μmの複数の微細孔が略均一な間隔をおいて形成されてなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3のステントは、請求項2項において、前記微細孔は、51〜10000μmの間隔で設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4のステントは、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ポリマー層はセグメント化ポリウレタンよりなることを特徴とするものである。
【0017】
請求項5のステントは、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ポリマー層による被覆厚さが10〜100μmであることを特徴とするものである。
【0018】
請求項6のステントは、請求項1項において、前記薬物は、分子量1000以下の抗血栓剤であることを特徴とするものである。ここでいう抗血栓剤とは、血小板凝集阻害剤、抗トロンビン剤、抗凝固剤、血栓溶解剤など抗血栓作用のあるすべての薬剤を含む。
【0019】
請求項7のステントは、請求項1ないし6のいずれか1項において、前記薬物が、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、フォルマコリン、バピプロスト、プロスタモリン、プロスタキリン同族体、デキストラン、ローフェプローアルグクロロメチルケトン、デイピリダモール、グリコプロテインの血小板膜レセプタ抗体、組換え型ヒルジン、トロンビン抑制剤、脈管ペプチン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、ステロイド、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、フィッシュオイル、オメガ3ー脂肪酸、ヒスタミン、アンタゴニスト、HMG−CoAリダクテース抑制剤、セラミン、セロトニン阻止抗体、チオプロテイース抑制剤、トリマゾールピリデイミン、インターフェロン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ラパマイシン、FK506、メバロチン、フルバスタチン、シンバスタチン及びトロンボモジュリンよりなる群から選ばれたものであることを特徴とするものである。
【0020】
請求項8のステントは、請求項7において、前記薬物はアルガトロバンであることを特徴とするものである。
【0021】
請求項9のステントは、請求項1ないし8のいずれか1項において、前記溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ヘキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、ピリジン、水またはこれらの混合溶媒であることを特徴とするものである。
【0022】
請求項10のステントは、請求項1ないし9のいずれか1項において、前記溶液中の前記薬物の濃度が1mg/mL〜100mg/mLであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法で製造されたステントは、ステント本体を柔軟なポリマー層が密着して被覆しているため、金属アレルギー、金属による細胞の刺激、錆の発生の問題はない。このポリマー層が薬物溶液の浸漬及び乾燥により薬物を担持しており、生体内分解性ポリマーを用いることなく徐放性特性を有する。
【0025】
本発明の方法で製造されたステントは、ステント本体をカバーするセグメント化ポリウレタンフィルムに規則性をもって微細孔が穿孔されている。そのためアルコール中に浸漬するとセグメント化ポリウレタンが膨潤し、ステント骨格による制限を受けるが、配置した微細孔が引張り負荷がかかる部分と開放される部分との力の歪を修正するように機能する。よって、フィルムに生じる皺は最小限に抑制される。これにより、微細孔のないセグメント化ポリウレタンフィルムでカバーしたステントと比較して、アルガトロバン等の薬物担持量が均質になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0027】
本発明のステントを構成するステント本体は、長さが1〜200mm程度であり、直径が長さの1/50〜1/2程度の管状であることが好ましい。また、ステント本体の厚さ(管状部の肉厚)は好ましくは11〜2000μmであり、より好ましくは51〜500μmであり、とりわけ好ましくは101〜300μmである。このステント本体は、柔軟に拡径しうるように、メッシュ状であることが好ましく、特に図2の如く斜交格子状であり且つ格子の延在方向が螺旋方向となるものが好ましい。
【0028】
このステント本体は好ましくは生体適合性のある金属製とされる。この生体適合性のある金属としては、ステンレス、チタン、タンタル、アルミニウム、タングステン、ニッケル・チタン合金、コバルト・クロム・ニッケル・鉄合金、生分解性金属等が例示される。この金属製のステント本体は、形状記憶させるために好ましくは熱処理が施される。この熱処理により、ステント本体に自己拡張性を付与することができる。
【0029】
柔軟性ポリマー層として用いる材料としては、柔軟性の高い高分子エラストマーが好適であり、例えばポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、シリコーン系、ウレタン系、フッソ樹脂系、天然ゴム系などの各種エラストマー及びそれらの共重合体またはそれらのポリマーアロイを用いる事ができる。それらの中でもセグメント化ポリウレタン、ポリオレフィン系ポリマー、シリコーン系ポリマーが好ましく、特に、柔軟性が高くて強度も強い、セグメント化ポリウレタンが最適である。
【0030】
セグメント化ポリウレタンポリマーは、ソフトセグメントとして柔軟なポリエーテル部分と、ハードセグメントとして芳香環とウレタン結合とが豊富な部分とを有し、このソフトセグメントとハードセグメントが相分離して微細構造を作っているものである。このセグメント化ポリウレタンポリマーは、抗血栓性に優れている。また、強度、伸度等の特性に優れており、ステントが拡径される際にも破断することなく十分伸長できる。
【0031】
このセグメント化ポリウレタンポリマー等のポリマー層の被覆厚さ(後述の図1のd)は1μm〜100μm、特に5μm〜50μmの厚さを有することが好ましい。
【0032】
このポリマー層には、好ましくは複数の微細孔が設けられる。この微細孔は、略均一の間隔で穿孔される。略均一の間隔で微細孔が穿孔されるというのは、間隔が同一であるという意味ではなく、微細孔の間隔が制御された方法でほぼ一定の間隔に配置されているという意味である。従って、略均一の間隔には一見するとランダムに配置されているように見える斜め状、円状、楕円状の配置なども含まれる。微細孔というのは内皮細胞が出入りできる大きさであればどのような大きさや形状でもよい。好ましくは、直径が5〜500μm、最も好ましくは10〜100μmの円形である。楕円形、正方形、長方形などの他の形状も含まれることは言うまでもない。これらは拡張される前の状態でのことであり、ステント本体が拡張されて管腔内に留置される時点では円形は長楕円形に変形し、直径もそれにしたがって変化する。また微細孔の配置間隔としては、51〜10000μm、好ましくは101〜8000μm、より好ましくは201〜5000μmの間隔で複数の直線上に配置される。これらの複数の直線は、ステントの軸線方向に所定の一定の角度間隔で配置された例えば10〜50本の直線からなる。
【0033】
本発明では、このポリマー層に抗血小板剤、抗血栓剤、増殖促進剤、増殖阻止剤、免疫抑制剤などの治療薬を、その溶液の浸漬、乾燥により担持される。この治療薬は、徐々に体内に放出され、血栓の生成を抑制したり、平滑筋細胞の増殖を抑制して狭窄を予防したり、ガン化した細胞の増殖を抑制したり、内皮細胞の増殖を促進して早期に内皮化を得るのに有効である。この治療薬の担持処理は、後述の穿孔処理後に行う。
【0034】
この治療薬としては、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、フォルマコリン、バピプロスト、プロスタモリン、プロスタキリン同族体、デキストラン、ローフェプローアルグクロロメチルケトン、デイピリダモール、グリコプロテインの血小板膜レセプタ抗体、組換え型ヒルジン、トロンビン抑制剤、脈管ペプチン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、ステロイド、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、フィッシュオイル、オメガ3ー脂肪酸、ヒスタミン、アンタゴニスト、HMG−CoAリダクテース抑制剤、セラミン、セロトニン阻止抗体、チオプロテイース抑制剤、トリマゾールピリデイミン、インターフェロン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ラパマイシン、FK506、メバロチン、フルバスタチン、シンバスタチン及びトロンボモジュリン等の薬物が挙げられる。
【0035】
なお、ステントの外周面側のポリマー層は、人体内の細かな血管内での移動をスムースにするために、外表面を潤滑性物質によってコーティングされてもよい。そのような潤滑性物質としてはグリセリンのような低分子量親水性物質、ヒアルロン酸やゼラチンのような生体親和性物質、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどの合成親水性ポリマーなどが挙げられる。
【0036】
ステント本体の全外表面をポリマー層で密着して被覆するには、例えば次の(1)又は(2)の方法を採用することができるが、本発明に係るステント素体の製造方法は、何ら以下の(1)、(2)の方法に制限されない。
【0037】
(1) 円筒形の内孔を有する成形型をその軸心回りに回転させると共に、ポリマー溶液をこの成形型内に供給して外側ポリマー層を成形し、次いで、この成形型内にステント本体を供給した後、この成形型をその軸心回りに回転させると共に成形型内にポリマー溶液を供給して内側ポリマー層を成形し、その後、成形型から脱型する方法。
【0038】
この方法においては、まず、内周面が円筒形となっている好ましくは円筒形状の成形型を用い、この成形型をその軸心回りに回転させると共にその中に外側ポリマー層用のポリマー溶液を供給して外側ポリマー層を遠心成形する。
【0039】
このポリマー溶液は、ポリマーの溶液であってもよく、モノマー等の重合性溶液であってもよい。このポリマー溶液としては、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の有機溶剤からなるセグメント化ポリウレタンポリマー溶液を用いることができる。モノマー等の重合性溶液としては、例えば、脱アセトン型、脱アルコール型、脱オキシム型の縮合硬化系シリコンゴムなどを用いることができる。
【0040】
ポリマー溶液の供給と成形型の回転とは、いずれを先としてもよいが、回転している成形型中にポリマー溶液を供給する方が好ましい。また、ポリマー溶液の注入位置を成形型の軸心方向に沿って移動させ、成形型内の広い範囲に均一にポリマー溶液を供給することが好ましい。
【0041】
外層用ポリマー溶液の膜が成形型の内周面に形成された後、ステント本体を成形型の内部に供給し、次いで、内側ポリマー層を成形するためのポリマー溶液を成形型内に供給し、遠心成形する。その後、乾燥、紫外線照射、加熱処理などの硬化処理した後、ステント素体を成形型から脱型し、このステント素体に対し穿孔処理を施す。
【0042】
なお、外層用ポリマー溶液の膜を成形型内周面に沿って形成した後、乾燥、紫外線照射等の硬化処理を施した後にステント本体を成形型内に供給するのが好ましい。ステント本体を成形型内に供給するに際しては、ステント本体をそのまま成形型内に供給してもよく、樹脂材料液に浸漬してプレウェッチングさせてから成形型内に供給してもよい。
【0043】
上述の如く、成形型から脱型されたステント素体に対しレーザー等により微細孔を穿孔することが好ましい。潤滑性ポリマーのコーティング層の形成とレーザー加工による微細孔の穿孔は、いずれを先に行うことも可能である。
【0044】
(2) マンドリルをポリマー溶液中に浸漬した後、鉛直上方に引き上げて内側ポリマー層を形成し、次に、この内側ポリマー層を有したマンドリルに外嵌めするようにしてステント本体を装着し、このステント本体を装着したマンドリルをポリマー溶液中に浸漬した後、引き上げて外側ポリマー層を形成し、その後マンドリルを引き抜く。
【0045】
即ち、マンドリルを気泡が巻き込まれないようにポリマー溶液中にゆっくりと浸漬した後、鉛直上方に引き上げ、必要に応じ、乾燥や紫外線照射等の硬化処理施して内側ポリマー層を形成する。このポリマー溶液がポリマーの溶液であるときには、硬化処理として乾燥が好適であり、ポリマー溶液がモノマーの重合性溶液であるときには、硬化処理として紫外線照射や加熱硬化が好適である。
【0046】
次に、この内側ポリマー層を有したマンドリルに外嵌めするようにしてステント本体を装着し、このステント本体を装着したマンドリルをポリマー溶液中にゆっくりと浸漬した後、鉛直上方に引き上げて外側ポリマー層を形成する。外側ポリマー層を硬化処理した後、マンドリルを引き抜くことにより、ステント素体が製造される。なお、製造されたステント素体にあっては、内側ポリマー層及び外側ポリマー層は、通常はステント本体の両端よりも長くはみ出しているので、余分なはみ出しポリマー層を切除する。
【0047】
ポリマー層の微細孔は、前述のマンドリルの引き抜き前又は引き抜き後に、内側ポリマー層及び外側ポリマー層を貫通するように、レーザー加工等により設けることができる。
【0048】
成形されたステント素体からマンドリルを引き抜く場合、ステント表面に形成されているポリマーフィルムがかすかに膨潤する、好ましくは10%以下の体積膨張率で膨潤する有機溶媒へ浸漬することでマンドリルを容易に引き抜くことが可能となる。ポリマーフィルムの材質によって異なるが、たとえばセグメント化ポリウレタン樹脂をポリマーフィルムに使用した場合にはマンドリルを低級アルコール、好ましくはメタノール又はエタノール、特に好ましくはメタノール中に好ましくは1〜30時間、特に好ましくは5〜20時間浸漬しておくのが好ましい。これにより、マンドリルを容易に引き抜くことが可能となる。この理由は、必ずしも明らかではないが、ポリマーフィルムがかすかに膨潤してマンドリルとの密着が弱くなることと、金属及びポリマー層の双方に親和性を有し、且つ表面張力の低い液体である低級アルコールが金属製のマンドリルと内側ポリマー層との界面に浸入し、マンドリル表面とポリマー層との付着力を軽減すると同時に摺動性を向上させるためであると推察される。
【0049】
このようにして製造されるステント素体は、例えば、図1にその断面を示す如く、メッシュ状のステント本体を構成するステントストラット11の全外表面をポリマー層12が密着して被覆しており、ステントの内周面Aはポリマー層12による平滑面とされている。このようなステント素体であれば、金属製ステント本体の露出面が全くないため、金属アレルギー、金属による細胞の刺激、錆の発生の問題は解消される。また、血栓の発生も防止され、特に内周面が凹凸のない平滑面であることから、凹凸部への血栓の発生は解消される。しかも、ステントの拡張の前後でポリマー層とステント本体との位置ずれの問題もない。
【0050】
なお、前述のポリマー層の被覆厚さとは、図1にdで示すステントストラット11を直接被覆しているポリマー層12の厚さ部分を示す。
【0051】
上記治療薬をポリマー層に担持させる際に用いられる治療薬溶解用の溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールのほか、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ヘキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、ピリジン、水またはこれらの混合溶媒などを用いることができるが、治療薬の溶解性などを考慮して当業者によって適宜選択すれば良いが、特にメタノールやエタノールが好適である。治療薬の濃度は1mg/mL〜100mg/mL程度が好適である。
【0052】
浸漬時間は1〜120分程度が好適である。浸漬の際、ポリマー層に配置された微細孔の効果で、ステントの内壁側へも均質に、速やかに薬剤溶液が拡散する。乾燥は風乾のほか、温風吹き付け、真空乾燥などによって行うことができるが、菌繁殖や異物混入を防ぐためにHEPAフィルターを介した清浄空気中で乾燥させることが好ましい。
【0053】
なお、この浸漬処理を行う場合のポリマー層としてはセグメント化ポリウレタンが好適である。
【実施例】
【0054】
実施例1
ステント本体として、図2に示す直径4mm、長さ20mm、厚さ0.2mmのメッシュ状のステント本体10を採用した。
【0055】
図3は、拡張した後の金属製ステント本体10’の側面図である。この金属製ステント本体10’は、直径8mm、長さ20mm、厚さ0.2mmである。
【0056】
この金属ステント本体10の全外表面にセグメント化ポリウレタンポリマー層を被覆させてなるステント素体を製造した。具体的には、SUS316製マンドリルをポリウレタン溶液へ浸漬してポリウレタン層をマンドリルの円筒形内面にコーティングし、この上に少し拡張した金属ステント本体を強く重ね、さらにポリウレタン溶液へ浸漬させて被膜化させることで両面コートし、さらにレーザー加工した後、両端のフィルムを切り離し、エタノールへ浸漬してステント素体をマンドリルから抜き出した。
【0057】
ポリウレタン溶液は、テトラハイドロフランとジオキサンの混合溶液にCapdiomat(商標)SPU:セグメント化ポリウレタン(Kontoron CardiovascularInc.製)の10重量%溶液である。
【0058】
形成されたポリウレタンポリマー層にエキシマレーザーにより直径100μmの穴を200μmの間隔で略均一に穿けた。長軸方向に一列穴を穿けた後、ステント素体を円周方向に15°づつ回転させ全周上で24列の穴を穿けた。
【0059】
このようにして得られたステント素体の被覆厚さdは25μmであった。
【0060】
図1に示す如く、このステント素体は、ステント本体の格子状ストラット11の全外表面を、ポリウレタンポリマー層12が密着性良く被覆したものであり、ステント本体の拡張によってステント骨格が動いてもポリウレタンポリマー層はこれに追随し、ポリマー層とステント本体の位置関係が保存されることが分かる。また、血流を妨げるステントストラットの凸条突出構造がポリマーフィルムでラミネーションされて平滑になっていることが分かる。
【0061】
次に、このステント素体に対し次のようにしてアルガトロバンを担持させた。
バイオクリーンベンチ中でアルガトロバンをメタノール(関東化学、特級試薬)に溶解して濃度を25mg/mLに調整し、PTFE製の疎水性メンブランフィルターでろ過して浸漬用アルガトロバン溶液を調製した。このアルガトロバン溶液中に上記のステント素体を投入し、緩やかな攪拌下で30分間浸漬した。この間ステントストラット間に張られたポリマーフィルムが膨潤してフィルムが弛むのが確認されたが、局部的な変形、つまり皺は確認されなかった。溶液からステント素体を抜け上げ、表面に付着した余分な液滴を拭き取り、無塵乾燥機(アドバンテック社製、FA420)内で長軸方向が上下となるように静置して、30℃で10時間乾燥させた。乾燥後にステントを確認すると、ステントストラット間に張られたポリマーフィルムは弛みがなく浸漬処理前と同じ状態に戻っており、アルガトロバンがポリマーフィルムの全面に均質に担持されたことがわかる。なお、フィルム内に担持されたアルガトロバン量は、同じCapdiomat製の同じ厚みの平フィルムを使用した浸漬実験で確認すると、1cmあたり約1mgであった.
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のステント本体のポリマー層による被覆状態を示す模式的断面図である。
【図2】ステント本体の斜視図である。
【図3】拡径させたステント本体の斜視図である。
【符号の説明】
【0063】
10 ステント本体
11 ステントストラット
12 ポリマー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡径可能な管状のステント本体と、該ステント本体の全表面を密着して被覆する柔軟なポリマー層(但し、生体内分解性ポリマーを除く)とを有するステント素体を、該ポリマー層を膨潤させる溶媒に可溶な薬物を溶解させた溶液に浸漬し、該ポリマー層を膨潤させて皺を最小限に抑制した後、該溶液からステント素体を引き上げ、長軸方向が上下となるように静置乾燥して、該ポリマー層に該薬物を均質に担持することを特徴とするステントの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、該ステント素体を構成する柔軟なポリマー層に、内側ポリマー層と外側ポリマー層を貫通する直径5〜500μmの複数の微細孔を略均一な間隔をおいて設けたことを特徴とするステントの製造方法。
【請求項3】
請求項2項において、前記微細孔は、51〜10000μmの間隔で設けられていることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記ポリマー層はセグメント化ポリウレタンよりなることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記ポリマー層による被覆厚さが10〜100μmであることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項6】
請求項1項において、前記薬物は、分子量1000以下の抗血栓剤であることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、前記薬物が、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、フォルマコリン、バピプロスト、プロスタモリン、プロスタキリン同族体、デキストラン、ローフェプローアルグクロロメチルケトン、デイピリダモール、グリコプロテインの血小板膜レセプタ抗体、組換え型ヒルジン、トロンビン抑制剤、脈管ペプチン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、ステロイド、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、フィッシュオイル、オメガ3ー脂肪酸、ヒスタミン、アンタゴニスト、HMG−CoAリダクテース抑制剤、セラミン、セロトニン阻止抗体、チオプロテイース抑制剤、トリマゾールピリデイミン、インターフェロン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ラパマイシン、FK506、メバロチン、フルバスタチン、シンバスタチン及びトロンボモジュリンよりなる群から選ばれたものであることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項8】
請求項7において、前記薬物はアルガトロバンであることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、前記溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ヘキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、ピリジン、水またはこれらの混合溶媒であることを特徴とするステントの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、前記溶液中の前記薬物の濃度が1mg/mL〜100mg/mLであることを特徴とするステントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−66727(P2013−66727A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−251632(P2012−251632)
【出願日】平成24年10月30日(2012.10.30)
【分割の表示】特願2006−53142(P2006−53142)の分割
【原出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(504184721)株式会社日本ステントテクノロジー (28)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【Fターム(参考)】