説明

ステントグラフト

【課題】
ステントグラフトを血管内に留置するときに、ステントグラフトの血管への放出、留置の調整が容易となるステントグラフトにおいて、特に胸部大動脈から分岐した小血管にも血液の良好な流れを確保したステントグラフトを提供する。
【解決手段】前記ステントグラフト(60)を被覆する管状部材(65)に、少なくとも一個の開口部(65A)を形成し、より好ましくは、前方側部に第一開口部(65A1)を、後方側に第二開口部(65A2)、その後方側に第三開口部(65A3)を形成し、胸部大動脈から分岐した椀頭動脈、左総頸動脈、及び左鎖骨下動脈を形成する小血管にも血液の良好な流れを確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡張性疾患(動脈瘤)及び動脈の狭窄性疾患或いはその他の疾患を治療するために、当該動脈瘤等の治療に用いるステントグラフトを、患部の安全な部位に確実に留置し、かつ、患者の苦痛や負担を軽減すると共に費用を軽減した、胸部大動脈から分岐した椀頭動脈、左総頸動脈、及び左鎖骨下動脈を形成する小血管にも血液の良好な流れを確保する、ステントグラフトの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カテーテル、プッシングロッド(ダイレータともいう。)、及びシースを具備するステント留置装置であって、カテーテルの先端近傍にシースの先端を封止する例えば楕円体状をした膨大部を設け、当該膨大部にステントユニット先端に取り付けられたフックを着脱可能に係合させる切り欠き等の係合手段を設けたステントグラフト留置装置は公知である(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
また、本体部、ステントグラフト保持部及び頭部からなるダイレータ並びにダイレータを装填するシースを具備するステントグラフト留置装置であって、頭部を半楕円体状又は半球体状に形成し、かつ、シースの先端を封止するように、シースの先端から一部突出して設け、当該頭部のシース内部分に、ステントに取り付けられたフックを着脱可能に係合させる、切り欠き等の係合手段を設け、前記ダイレータ内に、1本又は複数本の造影剤導入チャネル及びガイドワイヤ誘導チャネルを設けたステントグラフト留置装置に関する提案もなされている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0004】
上記特許文献1、特許文献2に記載のステントグラフト留置装置は、以下の技術的な特徴を有するものである。
すなわち、(a)ステントグラフトを極度に屈曲した血管等の体内管状器官でも安全確実に留置でき、しかも、患者の苦痛や負担を軽減できる。(b)動脈血液等の体液がシース内に保持したステントグラフト部分に侵入してくるのを防止することができると共に、シース内に保持したステントグラフトを血管(動脈)等の体内管状体内にそれらの内壁を損傷することなく安全に導入することができる。
【0005】
(c)造影剤の吐出孔から造影剤を吐出させながらカテーテルを血管等の体内管状体内へ挿入することによってカテーテルの挿入位置を映像により把握することができ、しかも、造影剤の吐出孔から造影剤を吐出させながらカテーテルを前後させることによって血管等の体内管状体内の患部における安全な部位を映像により短時間に把握することができ、それらのために、シース内に格納したステントグラフトの血管等の体内管状体内への挿入とステントグラフトの留置位置の位置決めが安全で且つ容易となる。
【0006】
(d)ステントグラフトを血管等の体内管状体内における位置決めされた留置位置でシースより押し出して自己拡張させても、血流等の体液流の圧力によるステントグラフトの位置移動が防止される。(e)従来のステントグラフトが適用外としていた動脈瘤等に適用を拡大でき、それらのために、多くの動脈瘤等の患者にとって有益な治療法を提供できる。及び(f)屈曲したデザインのステントグラフトの方向性を確実にする等の効果を奏することができる。
さきに開示されたこれらのステントグラフト留置装置は、このような多くの優れた特徴を備えており、従来のものに比較して優れた効果を奏するものである。
【0007】
しかしながら、おしむらくは、これらのステントグラフト留置装置においては、その構造がダイレータの頭部(膨大部、固定チップ部ともいう。)とともに、一体に成形され、いわばワンピース構造となっている。本発明者らがその後に見出した知見によれば、ステントグラフトは、シース内で回転しないこと、前後に移動しないこと、かつ、シース内でステントグラフトが外れないようにすることが望ましいことがわかった。そして、一方、シースからステントグラフトを放出する際には、ステントグラフトはシースから容易に抵抗無く外れて放出されることが望ましいことがわかった。しかしながら、上記したこれらダイレータ頭部の構造では、これらの、解決することが好ましい課題を達成するのは容易ではなかった。
【0008】
さらにまた、ダイレータは、その頭部の膨大部が保持部に比較して大きく膨張した紡錘形のような形状をしているため(例えば、特許文献2:特開2000−350785号の図2参照。)、射出成型等で一体形成するには、金型の加工も容易ではなかった。したがって実際の医療現場では、手技者が一個毎に削り出し、熱加工等により、製作していたため、製作に時間がかかり、また、形状がバラツク等の問題があることも見出した。
【0009】
このように上記したステントグラフト留置装置においては、そのダイレータの当該膨大部の形状は固定されているため、シースを挿入する際に血管の形状に対して、(すなわち血管の形状に応じて)常に一定の角度で挿入できるとは限らないこと、及びステントグラフトを1ユニット毎に、拡張させて血管内に放出させるので、当該ステントグラフトの正確な位置、固定角度の微調整が困難という問題があることも見出した。
【0010】
また患者により血管のサイズ、屈曲程度が異なり、特に極端に屈曲した患者や胸部大動脈の遠位弓部に瘤のある患者には、これらのステントグラフト留置装置では、当該放出されたステントグラフトの安全な留置が必ずしも容易ではなかった。
【0011】
これは、弓部大動脈の頭頚部栄養血管分枝部より中枢(心臓)側にステントグラフトを留置する場合、脳梗塞等の合併症を防止する上で、ステントグラフト本体及びシース先端の弓部大動脈大湾側への接触を可能な限り最小限とすることが最も重要な課題となるからである。
【0012】
本発明者らは、特許文献1、2に記載のステントグラフト留置装置のごとき課題の重要性に鑑み、特に、動脈内等における搬送時の安全性と追従性及び患部での長期間の安定的留置性を顕著に向上させたステントを提供することを目的として鋭意検討を重ねた結果、以下の新規なステントグラフト留置装置を提案した(特許文献3を参照。)。
【0013】
この提案したステントグラフト留置装置は、ステントグラフト保持部を有し、固定チップ20を有するダイレータ10と、当該ダイレータ10のステントグラフト保持部に保持したステントグラフト60を装填するシース30を具備するステントグラフト留置装置1であって、当該ステントグラフト60を前記シース30から放出し留置させる際に、当該ステントグラフト60の挿入及び/又は留置位置の調整手段を有するステントグラフト留置装置1である。ステントグラフト留置装置1は、当該ステントグラフト留置装置から放出され、留置された当該ステントグラフト60留置中に、ステントグラフト60の拡張力を利用して、ステントグラフト60自体を屈曲させ、固定チップ20を血管壁より遊離させることにより、血管への障害と塞栓物質の血管壁からの遊離を低減させることができる。
【0014】
特許文献3に記載の(A)ステントグラフト留置装置のさらに具体的な特徴は、
(1)シース30からステントグラフト60を放出する際に、ワイヤ40が、放出されるステントグラフト60に張力をかけた状態となり、ステントグラフト60が完全に拡張しない半拡張の状態で、血管内において、挿入角度及び留置位置の微調整が可能である。
【0015】
(2)屈曲を強める(屈曲の大きい)方向に、張力をかけ、ステントグラフト60を短縮しながら血管内に放出することができるので、屈曲の大きい血管でも、ステントグラフト60を血管壁に追従するように留置することが可能である。
【0016】
(3)ステントグラフト60放出中に、ステントグラフト60自体の拡張力を利用してシース30先端及びステントグラフト60中枢側を血管壁から遊離させることができるため、ステントグラフト留置手技中の血管壁の損傷、塞栓物質の遊離を予防することが可能となる。
【0017】
(B)また、当該ステントグラフト留置装置に記載のダイレータ10に装着される固定チップ20は、本体21とキャップ22の二ピース構造を有しているため、フック保持溝26を三次元的に構成することができるので、次の特徴を有する。
【0018】
(1)量産可能で、形状も再現可能である。
(2)(i)(ステントグラフト60にワイヤ40で張力をかける場合)
当該固定チップにおいては、ステントグラフト60がシース30内に格納されている際には、ステントグラフト60の先端のフック66が当該固定チップから脱落することが無く、かつ、ステントグラフト60の後端部がシース30内から開放された時にはワイヤ40の張力が無くなり容易にフック66を外すことが可能である。
【0019】
(ii)(ワイヤ40を使用しない場合)
本発明の固定チップにおいては、ステントグラフト60がシース30内に格納されている際には、ステントグラフト60の先端のフック66が当該固定チップから脱落することが無く、かつステントグラフト60の先端部がシース30内から開放された時には容易にフック66を外すことが可能である。
【0020】
(3)本発明の固定チップにおいては、接着及び/又は嵌合した2つのパーツ(本体21及びキャップ22)内を管状(パイプ状)のステントグラフト保持部14が貫通しているので、これら本体21からキャップ22の脱落がおきない。
【0021】
しかしながら、おしむらくは特許文献3に記載のステントグラフト留置装置は、ステントグラフト60が完全に拡張しない半拡張の状態で、血管内において、挿入角度及び留置位置の微調整を行うので、これらの操作が必ずしも容易ではないという問題がある。
【0022】
【特許文献1】特開2000−262632号公報
【特許文献2】特開2000−350785号公報
【特許文献3】国際公開WO2005/099806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明が解決しようとする問題点は、上記した特許文献3に記載のステントグラフト留置装置は、ステントグラフト60が完全に拡張しない半拡張の状態で、血管内において、挿入角度及び留置位置の微調整を行うので、これらの操作が必ずしも容易でないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0024】
そこで本発明者は、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、次の発明に到達した。
【0025】
[1]本発明にしたがえば、ステントグラフト(60)であり、当該ステントグラフト(60)は複数の管状ユニット(61)が接続されてなるものであり、
当該ステントグラフトは(60)は、血管内において、ステントグラフト留置装置(1)のシース(30)から放出し留置させるものにおいて、
前記ステントグラフト(60)は、管状部材(65)により被覆され、当該管状部材(65)には、少なくとも一個の開口部(65A)を形成し、胸部大動脈から分岐した小血管にも血液の良好な流れを確保することを特徴とするステントグラフト(60)が提供される。
【0026】
[2]本発明にしたがえば、前記ステントグラフト(60)は、管状部材(65)により被覆され、当該管状部材(65)に、少なくとも一個の開口部(65A)を形成し、
当該開口部(65A)は、
管状部材(65)の前方側部に第一開口部(65A1)を一箇所形成し、または、
前記第一開口部(65A1)とともに当該第一開口部(65A1)の後方側に第二開口部(65A2)を形成し、または
前記第一開口部(65A1)及び第二開口部(65A2)とともに当該第二開口部(65A2)の後方側に第三開口部(65A3)を形成し、胸部大動脈から分岐した椀頭動脈、左総頸動脈、及び左鎖骨下動脈を形成する小血管にも血液の良好な流れを確保することを特徴とする請求項1に記載のステントグラフト(60)が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明は以下の効果を有する。
本発明においては、ステントグラフト60を被覆している管状部材65に少なくとも一個の開口部65Aを形成することにより、胸部大動脈から分岐した小血管(腕頭動脈、左総頚動脈、左鎖骨下動脈)にも血液を流れやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のステントグラフト留置装置の概略図である。
【図2】図1のA−A線拡大横断面図である。
【図3】図1のC−C線の拡大横断面図である。
【図4】本発明のステントグラフト留置装置の分解図である。(当該装置がダイレータ10、シース30、ステントグラフト60及びワイヤ40からなることを示している。)
【図5】本発明に使用するダイレータ10の断面図である。図において、(A)は、図1のA−A断面図付近の縦断面図、(B)は、図1のC−C断面図付近の縦断面図を示す。
【図6】本発明に使用するシース30先端の形状の実施例[(A)、(B)、(C)、(D)]を示す概略図である。
【図7】本発明に使用するステントグラフトの概略図である。
【図8】本発明に使用するステントグラフトの概略図である。図において、(A)はステントグラフト(ステントグラフト60の後方にワイヤの保持リング69を二個形成したもの)とワイヤを通したところの概略図であり、(B)は(A)の一部拡大図である。
【図9】本発明に使用するステントグラフトにおいて、(A)、(B)、(C)は、管状部材65に開口部65Aを形成したものの概略図を示す。
【図10】本発明の固定チップ20を説明する概略図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は一部拡大断面図である。
【図11】本発明の固定チップ20を説明する概略図であり、(A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図である。
【図12】本発明の固定チップ20を説明する概略図であり、A)は平面図、(B)は正面図、(C)は底面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図である。
【図13】本発明の固定チップ20エを説明する概略図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図、(C)はステントグラフト60のフック60を装着した状態を示す。]
【図14】本発明のステントグラフト留置装置の操作方法の一例を示す説明図である。
【図15】本発明のステントグラフト留置装置の操作方法の一例を示す説明図である。
【図16】本発明のステントグラフト留置装置の操作方法の一例を示す説明図である。
【図17】本発明のステントグラフト留置装置の操作方法の一例を示す説明図である。
【図18】本発明のステントグラフト留置装置の操作方法の一例を示す説明図である。
【図19】本発明のステントグラフト留置装置の操作方法の一例を示す説明図であり、(A)は操作法の概略的説明図、(B)と(C)は(A)の一部拡大図である。
【図20】本発明のステントグラフト留置装置の操作方法の一例を示す説明図である。
【図21】本発明のステントグラフト留置装置の操作方法の一例を示す説明図である。
【図22】本発明のステントグラフト留置装置の操作方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1、1エ ステントグラフト留置装置
10 ダイレータ
11 ダイレータ本体部
12 ダイレータの基端部
13 補強チューブ
13A 硬質部材
13B 軟質部材
14 ステントグラフト保持部
17 流体通路(凹部)
20、20エ 固定チップ
21、21エ 固定チップ本体
22 固定チップ用キャップ
22A キャップ胴部
23、23エ 固定チップ本体基端部
24、24エ 本体基端部内腔
25 キャップ内腔
26 フック保持溝
26エ フック装着溝
27 造影剤噴出口
28 キャップ天上部
29 キャップ係合部
30 シース
31 ハブ
32 液体充填口
37 弁付きハブキャップ
39 拡径部
40 ワイヤ
41 ワイヤ端部
42 ワイヤ端部
60 ステントグラフト
61 管状ユニット
61(1)各管状ユニット
61(2)各管状ユニット
61(3)各管状ユニット
61(4)各管状ユニット
61(5)各管状ユニット
62 屈曲部
63 連結部
64 ステント
65 管状部材(グラフト)
65A 開口部
65A1 第一開口部
65A2 第二開口部
65A3 第三開口部
66 フック部
67 フック部の保持リング
68 フック部の保持リング
69 保持リング
69A 保持リング
80 分岐管
81 ガイドワイヤの挿入口
82 ワイヤの挿入口
83 固定キャップ
100 ワイヤルーメン
101 ガイドワイヤルーメン
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。
(ステントグラフト留置装置)
本発明のステントグラフト留置装置1は、例えば図4に分解図として示したように、ステントグラフト保持部14を有するダイレータ(プッシングロッド)10と、当該ダイレータ10のステントグラフト保持部14に保持したステントグラフト60を装填するシース30を具備する留置装置であって、その基本的な特徴とするところは、当該ステントグラフト60を前記シース30から放出し留置させる際に、当該ステントグラフト60の挿入角度及び/又は留置位置の調整手段を有する点にある。
【0031】
そして本発明においては、当該ステントグラフト60の挿入角度及び/又は留置位置を調整する手段が、ダイレータ10に装着されるワイヤ40及び/又は固定チップ20により実現されるものである。
本願発明の最も特徴とするところは、当該ステントグラフト60の挿入角度及び/又は留置位置を調整する手段が、ステントグラフト60の最後列の管状ユニット61に装着(形成)された保持リング69A及び/又は造影剤を添加した固定チップ20によって実現されるものである点にある。
【0032】
本発明の留置装置の特徴は、図4のように、固定チップ20を有するダイレータ10と、当該ダイレータ10のステントグラフト保持部14に保持したステントグラフト60を装填するシース30を具備するステントグラフト留置装置1であって、後記するように、当該ステントグラフト留置装置1から放出され、留置された当該ステントグラフト60留置中に、ステントグラフト60の拡張力を利用して、ステントグラフト60自体を屈曲させ、当該定チップ20を血管壁より遊離させることにより、血管への障害と塞栓物質の血管壁からの遊離を低減させることができることである。
【0033】
「ステントグラフト60の挿入角度及び/又は留置位置の調整手段」とは、上記したように、広義には、ワイヤ40及び/又は固定チップ20であるが、より詳述すれば、具体的には、これら当該「ステントグラフト60の挿入角度及び/又は留置位置の調整手段」とは、(i)まず、固定チップ20についていえば、図4に示す、ダイレータ10の本体部11、ステントグラフト保持部14及び当該保持部14先端に装着された(造影剤を添加した)固定チップ20である。
【0034】
さらに(ii)ワイヤ40についていえば、図7及び図8に示すステントグラフト60の第一番目の管状ユニット61の先端部されたフック部66、当該フック部66に形成される保持リング67、68と、第一番目の管状ユニット61の前方部に形成された複数の保持リング69と、最後列の管状ユニット61の後方部に形成された複数の保持リング69Aと、前記保持リング67、68、69、69Aからダイレータ10とシース30の間、またはダイレータ10のワイヤルーメン100内に挿入されるワイヤ40である。ワイヤルーメン100は、ダイレータ10の断面内で、当該ダイレータ10の先端からダイレータ基端12に亘って形成される。(図2、図3参図照)
【0035】
(ダイレータ10)
ダイレータ10は、上記したように図4に例示されており、基端から先端に向かって本体部11、ステントグラフト保持部14及び固定チップ20からなるものである。ステントグラフト保持部14は、その外周にステントグラフト60を装着するため、通常本体部11より細径に形成されている。
【0036】
さらに、ダイレータ10は、後記するごとく、図2(図1のA−Aの横断面)や図3(図1のC−Cの横断面)に示すように、中心近傍にガイドワイヤGWを通すためのガイドワイヤルーメン101を有するが、当該ルーメン部の内周には、例示するような補強チューブ13(インナーチューブともいう)が装着されている。
【0037】
当該補強チューブ13は、図5[(A)は、図1のA−A断面図付近の縦断面図、(B)は、図1のC−C断面図付近の縦断面図]に示すように、先端部から基端部へ向けて、硬質材料13A、軟質材料13B、硬質材料13Aが交互に配置されている。例えば硬質材料13Aとしては金属[例えばステンンレス(SUS)製パイプ等]、軟質材料13Bとしては、軟質プラスチック(例えばポリプロピレンやポリエチレン製パイプ等)が好ましい。このように、硬質材料の間に軟質材料を配置することにより、血管追随性の向上させることができる。
【0038】
当該本体部11とステント保持部14は例えばSUSパイプ(ロッド又は棒)、又は硬質樹脂等の剛性を有する材料により形成されている。
また、固定チップ20(図10〜12)、または、20エ(図13)は、上記ステントグラフト保持部14の先端に装着される。後に詳述するが、図10〜図13図にその形態が示されており、当該チップ20、20エは、例えばポリアミド系エラストマー、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂の中で適度な硬度、柔軟性を有する材料より形成される。
【0039】
ダイレータ10は、基端部から先端部に亘って、図2と図3に例示するように、その断面にワイヤ40を通過させるワイヤルーメン100とガイドワイヤGWを通過させるガイドワイヤルーメン101が形成されている。
【0040】
さらにダイレータ10の基端部に、図1、図4に例示するように、略Y字状の分岐管80が装着され、当該分岐管80には、ガイドワイヤGWの挿入口81とワイヤ40の挿入口82が形成されている。ワイヤ40の挿入口82には、当該ワイヤ40の固定キャップ83が装着されている。
【0041】
ダイレータ10の本体部11は、基本的には、中実の棒により構成されるが、完全に中実ではなく、図2に示すように本体部11側面は、凹部に形成した流体通路17が形成されている。これら流体通路17が形成されているため、当該留置装置を体内に挿入する前に、当該液体通路17に生理食塩水を流すことによりシース30のエア抜きを行うことができる。また当該流体通路17中にワイヤ40を通過させることができる。
【0042】
(ワイヤ40の固定手段)
本発明においては、後記するように、ワイヤ40はステントグラフト60の留置位置や挿入角度の調整に使用される。
ワイヤ40の固定手段とは、ワイヤ40の一方の端部41(42)を、挟持による圧力によって固定でき、ワイヤ端部41(42)の固定を開放したいときに、当該挟持による圧力を緩めることのできる手段を意味する。
【0043】
ワイヤ固定手段の具体例として、例えば、図1、図4に示す分岐管80を示す。当該分岐管80は、ワイヤ40の挿入口82と固定キャップ83を備え、当該分岐管80のワイヤ40の挿入口82とワイヤ40の固定キャップ83で、図1、図4に例示するように、ワイヤ40の一方の端部42(41)を、これらの挿入口82とワイヤ40の固定キャップ83の間に固定することができる。
【0044】
ワイヤ40の固定手段とは、また図8(A)に例示するように、ステントグラフト60とシース30からなるものである。すなわち、ワイヤ40の一方の端部42(41)を、これらのステントグラフト60外周とシース30の内周の間に挟んで固定することができる。
【0045】
(シース30)
シース30は、図4に例示するように、前記ダイレータ10及びステントグラフト60(より正確には、ステントグラフトをステントグラフト保持部14に保持したダイレータ10)を収納しうる程度の内径を有するチューブより形成されている。
【0046】
またシース30先端は、湾曲した患者の血管に挿入しやすいように、湾曲して形成されており、例えば図6(A)、(B)、(C)、(D)に例示するような形状に湾曲して形成されている。湾曲の程度は、それぞれ湾曲の形状(型)と曲率半径Rで調整され、規定される。
例えば図6(A)はいわゆる「A型」と称するもので、湾曲部の曲率半径Rは140〜170に形成される。また図6(B)はいわゆる「J型」と称するもので、曲率半径Rは45〜90に形成されている。また図6(C)はいわゆる「LU型」と称するもので、曲率半径Rは60〜70に形成されている。また図6(D)はいわゆる「U型」と称するもので、曲率半径Rは60〜70に形成されている。「LU型」と「U型」は類似する形状(同一曲率半径R)を有しているが、その違いは、「LU型」は「U型」よりも若干先端が+α(例えば20mm)分だけ長く形成されている点である。
【0047】
またシース30基部には、ハブ31が装着され、当該ハブ31に液体充填口32が設けられている。一方、シース30先端部には拡径部39が形成され、この拡径部39内に、ステントグラフト保持部14に保持されたステントグラフト60が配置される。シース30は、可とう性を有する材料で形成される。可とう性材料としては、例えば、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリアミド系エラストマー、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂単体、これら樹脂のコンパウンド、これら樹脂の多層構造、さらにはこれら樹脂と金属線などとの複合体が使用される。
【0048】
さらに図1と図4に例示するように、ハブ31の基部には、弁付きハブキャップ37を装着し、ダイレータ10をシース30内に挿入したときに、血液の漏れがないようにしている。
【0049】
(ステント及びステントグラフト)
本発明におけるステントグラフト60とは、図7に例示するように、ステント64に合成樹脂製等の可とう性の繊維やフィルムからなる管状部材65を被覆してなるものである。ステントグラフトは、ステントと同様に、狭窄や動脈瘤等の障害受けた血管の修復のためや、中空器官の代用等人工血管等として用いられる。
【0050】
本発明に使用するステントグラフト60の骨格となるステント64としては、例えば図7に例示したものが使用される。当該図7に示されているように、ステント64は、金属製細線をジグザクに折って、ジクザグパターンからなる管状(環状)ユニット61とし、当該管状ユニット61を、ステントの中心軸を取り囲むように円周状に複数配列し、さらにそれぞれについて、当該金属製ワイヤ母材の少なくとも1箇所、溶接、ロウ止め、かしめ等の公知の手段によって接合して固定して管状ユニットを形成し、当該管状ユニットを、複数個、連結部(連結線)(連結ストラット)63を介して当該管状体の中心軸方向に接続したものである。例えば、図7においては5個の管状ユニット61(61(1)、61(2)、61(3)、61(4)、61(5))を連結している。但し、管状ユニットの数は5個に限られるものではなく任意である。
【0051】
ステントグラフト60は、当該ステント64の外周に、上記したように可とう性の管状部材65(例えばダクロン繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維、デュポン社、登録商標)やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂製フィルム製フィルムからなるもの)を被覆したものである。当該管状部材65は、ステント64の先端及び後端の各屈曲部62(すなわち、ステントを構成するジクザグパターンの折り返し部)に例えば血管縫合糸などのワイヤにより縫付けられ、固定される。
【0052】
ステント64を形成する金属製細線の母材としては、特に限定するものではなく通常使用されている、SUS316L等のステンレス鋼、Ti−Ni合金等の超弾性合金、チタン、チタン合金、タンタル、タンタル合金、プラチナ、プラチナ合金、タングステン、タングステン合金等が使用される。
【0053】
このステントグラフト60としては、本発明者らが特開2003−334255号において提案した形状のものが好適に使用可能である。すなわち、当該公開公報の技術内容は、引用により本明細書の開示内容として取り込まれる。ただし、これに限られるものではなく、それ自体公知のものがいずれも好適に使用され、少なくとも、第7図に例示した形態やステント骨格を構成できる形状、たとえばメッシュ状やスパイラル状等であれば何でも良い。
【0054】
本発明で好ましく使用されるステントグラフト60は、シース30に挿入しない状態、すなわち常態においては、挿入する血管の形状に対応させて、図7に示したように当該ステントグラフト60の長さ方向に沿って屈曲した形態を保持している(常態における屈曲形態)。これをシース30に挿入する際には、骨格であるステント64の中心軸方向に縮小し、シース30内では、シースの拡径部39、またはステントグラフト保持部14に沿ってカーブ状に格納される。そして、シース30内にこの状態で格納された状態で、シース30とともに患部に挿入して、シースより放出され、ここで放出後、当該ステントは内部より外部半径方向に拡張し、後記図18に示されるように、ステント64の長さ方向に沿って屈曲した常態における屈曲形態を保持するステント64となるのである。
【0055】
図7に示すような、このような屈曲したステントグラフト64(すなわち骨格であるステント60)は、特開2003−334255号に記載しているように各管状ユニット61間の連結部63の位置をずらすことにより、長さ方向に粗って三次元状に屈曲した状態のステントとすることができるのである。具体的には、各管状ユニットを少なくとも2つ以上の連結部(連結ストラット)で連結し、その連結部間のスペース(距離)を変えることにより屈曲の程度を調整することができる。当該連結部間のスペース(距離)が大きいほど、屈曲度も大きくなる。
【0056】
このステントグラフト60は、上記したように、それ自身バネ作用を有する屈曲性のよいステント64を骨格とし、当該骨格を繊維状やフィルム状の合成樹脂製管状部材65で被覆していることから、ステントグラフトとしても、血管の3次元的な屈曲に対し自由に追随することができる。
【0057】
また図8(A)に例示するように、ステントグラフト60(ステント64)の(患者への挿入方向から見て)第一番目(最前方)の管状ユニット61(61(1))先端外周には、複数の保持リング69と、一個のフック部66が装着され、さらにフック部66には、図8(B)に示すように、二個の保持リング67、68が装着されている。
また最後方の管状ユニット61の後方にも、複数(二個)の保持リング69Aが装着されている。
【0058】
これら保持リング67、68、69、69Aは、ワイヤ40が通過できる程度の小円形状に形成される。ここで保持リング69、69Aは、ステント64の先端の各屈曲部62(ジグザグパターンの折り返し部)を丸めて小円形状にして形成しても良いし、例えば縫合糸等のワイヤ(図示せず。)を丸めて小円形状に形成しても良い。
【0059】
一方、フック部66に装着する保持リング67、68は、金属製ワイヤなどを丸めて小円形状に形成して作製する。
フック部66は、図8に例示するように翼状(ヒレ状ともいう)に形成され、例えば金属製ワイヤにより作製することができる。
保持リング67、68、69、69Aとフック部66は、ステント64と同じ材料(線材)で形成しても良いし、異なる材料(線材)で形成しても良い。
【0060】
なお、図7、図8(A)に例示したステントグラフト60は、通常は管状部材65がステント64のほぼ全面を覆っている。ただし、後述する図18に示されているように、分枝の血管の位置にステントグラフト60の外周が当接されるような場合は、図示はしないが、ステントグラフト60の管状部材65の一部をU字状あるいはV字状等にカットして、開口部(血流の流出口)を形成し、ステント骨格を露出せしめるように作製し、当該分枝の血管を完全にふさがぬようにするのが好ましい。
【0061】
図9(A)、(B)、(C)は、このように開口部65Aを形成した管状部材65の好ましい実施例であり、管状部材65に開口部65Aを一から三箇所形成した概略図である。図中、65A1は第一開口部、65A2は第二開口部、65A3は第三開口部である。このような開口部65A(65A1、65A2、65A3)を形成することにより、図14に例示する分岐の小血管(腕頭動脈、左総頚動脈、左鎖骨下動脈)にも、当該開口部65Aを通じて、血液を流れるようにすることができる。なお開口部65Aの形状、数は、各患者の小血管の形状、状態に応じてどのようにも、調節することができる。
【0062】
(ワイヤ40)
本発明においては、ステントグラフト60の留置位置や挿入角度の調整のため、ワイヤ40を使用し、当該ワイヤ40にかかる張力を調整することにより、ステントグラフト60の留置位置や挿入角度の調整することを特徴の一つとしている。
【0063】
ワイヤ40は、基本的には図4に示しているように構成する。すなわち、一方のワイヤ40の端部41(42)から直線状のダイレータ本体部11に対応する部分は、平行に又はこれに沿わせるように直線部としてまっすぐ伸ばし、曲がりを有するステントグラフト保持部14(又はステントグラフト60)に対応する部分はその曲がりに合わせて曲がり部44とし、フック66や保持リング67、68、69、69Aに接続させる部分を曲折部45とし、折り返して、同様に曲がり部46を形成し、またダイレータ本体部11に対応させて再度直線部とし、他方の端部42(41)で終了するように構成している。
【0064】
当該一方の端部41(42)は、図2〜図3に示す、ダイレータ本体部(又は基体部)内を貫通する、ワイヤルーメン100を経てワイヤの挿入口82から外に引き出され、当該挿入口82と固定キャップ83により固定され、他方の端部42(41)は、ステントグラフト60後端部から外に引き出され、シース30をステントグラフト60の外周に装着することにより、ステントグラフト60とシース30の間に固定される。
【0065】
より詳しくはワイヤ40(の曲折部45)は、図8(A)に例示するように、ステントグラフト60の(患者への挿入方向から見て)第一番目の管状ユニット61(61(1))の先端外周に、前記保持リング69に沿って巻きつけられる。(注;ただし、リングに沿って可動又は摺動しうるようにするため、ワイヤ40は保持リング67、68、69、69Aに結んだりして完全に固定はしない。)
【0066】
このようにしてワイヤ40は、前記保持リング67、68、69、69Aに通して、ステントグラフト60の(患者への挿入方向から見て)第一番目の管状ユニット61先端外周に、略管状に巻き付けた後、図8(A)に例示するように、長軸方向に二本左右対称にステントグラフト60内を通した後、ワイヤ40の片方の端部42(41)をステントグラフト60の外周とシース30の間に固定し、ワイヤ40の片方の端部41(42)をワイヤルーメン100を経て、挿入口82から外に引き出して、ワイヤ40の挿入口82と固定キャップ83の間に固定する。
【0067】
上記いずれの固定方法によっても、ワイヤ40は挿入口82からワイヤ端部41を引抜けば容易に引き出せる構造になっている。
本発明において、ワイヤ40を構成する材質は、ある程度の強度と弾性を有する細線であれば特に限定するものではなく、ナイロン繊維やフッ素繊維などの縫合糸;ニッケル‐チタン系超弾性合金、ステンレスなどの金属製;プラスチック製や炭素製の細い部材等をいずれも使用することができる。たとえば、直径0.1〜0.3mm程度のニッケル‐チタン系超合金製ワイヤやステンレス細線を縒った0.2〜0.3mm程度のワイヤ、直径0.1〜0.2mm程度の縫合糸が好適に使用される。
【0068】
(カテーテル)
本発明のステントグラフト留置装置は、カテーテルを装着して使用することができる。カテーテルは、ポリアミド、ポリウレタン等からなるチューブ状の管であって、ガイドワイヤルーメン及び造影剤ルーメンを有し、固定チップ20の先端に接続され使用される。
ステントグラフト留置装置は、通常、予め体内に通しているルート(上腕動脈から腕頭動脈、大動脈弓、胸大動脈、腹大動脈、総腸骨動脈、外腸骨動脈を経て大体動脈に通すルート)のガイドのためのワイヤ(ガイドワイヤGW)に沿って、挿入していくのであるが、この時、カテーテルが固定チップ先端に接続されている場合、曲がった動脈を通過させる際に血管壁へ当該先端が接触することが減少するなどの利点がある。しかしながら、本発明のステントグラフト留置装置は、このようなカテーテルを装着せずとも、患部において、固定チップ20の先端を血管壁に接触することなく操作できる場合が多いのでカテーテルは、必ずしも装着しなくてもよい。
【0069】
(固定チップ)
本発明においては、固定チップ20をステントグラフト保持部14の先端に取り付け、ステントグラフト60の留置位置や挿入角度の調整することをも特徴の一つとしている。
固定チップ20は、基本的に、本体21とキャップ22の二ピースより構成される。そして、より具体的には、本体21とキャップ22を示す図10、本体21を示す図11、キャップ22を示す図12に例示するように、本体21の上部開口部とキャップ22の間には、フック保持溝26が形成されている。また、本体21の底部には造影剤噴出口27が形成されている。
なお、図10〜図12において、それぞれ、(A)は平面図、(B)は正面図(又は、縦断面図)、(C)は底面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は一部拡大断面図である。
【0070】
そしてキャップ22は、図12に示すように、胴部22Aと胴部上部を覆う天上部28より構成され、当該胴部22Aの底部には、本体21との係合部29が形成されている。また胴部22Aには、造影剤等の流路となる内腔25が形成されている。キャップ22は、当該係合部29(図12の例示では突起であるが、溝でも良い。)を本体22の係合部(図示しない。ただし、係合部29に係合できれば溝でも突起でも良い。)に係合することにより、本体21に装着される。
【0071】
本発明に使用する固定チップ20においては、本体21とキャップ22に、造影剤(例えば硫酸バリウム)を添加(配合)し、造影時に固定チップ20の位置が確認できるようにすることができる。その場合、本体21とキャップ22に添加する造影剤の添加量を調整することにより(例えば本体21に40質量%、キャップ22に10質量%添加)、造影時に本体21とキャップ22のそれぞれの映像に濃淡を形成せしめ、本体とキャップのそれぞれを区別して確認ができる。
【0072】
さらに詳述すれば、造影時に本体21とキャップ22のそれぞれのコントラストの差が明瞭となるので、フック保持溝26に係止した(ステントグラフト60の)フック66の位置が明瞭に確認しやすくなる。これにより、ステントグラフト60の固定手技(挿入角度、留置位置の調整)が容易となる。
【0073】
本発明においては、キャップを有しないものも使用できる。
図13は、キャップのない固定チップ20エの実施例で、固定チップ20エは、後述する図19から図22のようにステントグラフト60の後端を、腹腔動脈に位置合わせするときに使用する。
【0074】
図13の固定チップ20エは、図11から図12の固定チップ20と比較して、ワンピース(一体成形)で形成され、キャップ22と造影剤噴出口27がなく、本体21エの後方天上部に(ステントグラフト60の)フック66の装着溝26エを形成している点を除いて、実質的に同じ形状・構造である。
【0075】
(固定チップのステントグラフトへの固定)
固定チップ20は、その本体21の基端部23の内腔24(図11(B))とキャップ22の内腔25(図12(B))に、ステントグラフト保持部14の先端が圧入され、当該ステントグラフト保持部14の先端は、これらの内腔24と内腔25を貫通することにより、固定チップ20は、ステントグラフト保持部先端に装着されるとともに、キャップ22は固定チップの本体21から離脱しないように固定されるのである。
【0076】
本発明の固定チップ22においては、図12(B)に例示するように、フック保持溝26は、固定チップ20天面(表面)から同固定チップ20外周(円周)の接線方向に対しほぼ直角に中心方向に向かって形成されている。このような構造を有していることにより、ステントグラフト60がシース30内に格納されている際は、そのフック部66基部に収束しているため、当該ステントグラフト60が固定チップ20から脱落することがない。
また後記するように、ステントグラフト60の開放完了時には、ワイヤの張力がかからなくなり、フック66基部も一緒に拡張するので、固定チップ20からフック66を容易に外すことが可能となる。
【0077】
本発明の固定チップ20は、このように、少なくとも二つのパーツ(本体21とキャップ22)を組み合わせることにより、フック保持溝26を三次元的に構成でき、かつその形状を安定して形成できるのである。
なお、従来のワンピース構造の固定チップが、ガイドワイヤGWルーメンを有するダイレータとほぼ同じ外径のロッドを溶融加工や削り出しにより一つ一つ非成型の方式で加工していたのと比較して、射出成形により、はるかに容易に成型することができる。
【0078】
(留置装置の組み立て、ステントグラフトの装填)
次に本発明のステントグラフト留置装置の組み立て(作製)方法の一例について説明する。
(1)前記したように図8のごとく、ステントグラフト60に、ワイヤ40を通し、このワイヤ40を前記段落[0082]〜[0084]において説明したようにして固定する。
【0079】
(2)本体部11とステントグラフト保持部14を有するダイレータ10をシース30内に挿入しておく。この場合、ダイレータ10を、本体部11の基部からシース30(拡径部39)先端の開口部より挿入しても良いし、当該ダイレータを、そのステントグラフト保持部14からシース30基部より挿入しても良い。
【0080】
(3)図4に示したステントグラフト60の基部(患者への挿入方向から見て反対側)を、専用の折りたたみ治具・装置等を使用して、縮径させた後に、ねじれがおきないように注意しながら、少しずつ、シース30(拡径部39)先端からシース30内に挿入し、すでにシース内に挿入してあるステントグラフト保持部14に装着する。
【0081】
(4)このようにして、ステントグラフト60を、シース30内に挿入し終える際に、その先端のフック部66を固定チップ20のフック保持溝26にかけた後、当該固定チップ20を、シース30(拡径部39)先端(ステントグラフト保持部14の先端)で固定し装填を完了する。
【0082】
(5)このようにしてステントグラフト60、固定チップ20、及びワイヤ40を装填又は固定したステントグラフト留置装置は、適当な包装材に収納し、エチレンオキサイドガス滅菌等の滅菌法によって滅菌を加える。かくして、ステントグラフト留置装置を使用する準備は完了する。
【0083】
(ステントグラフトの挿入、留置及びワイヤの抜出し)
図14〜図19は、本発明の留置装置を、患部(血管)に挿入し、ステントグラフトを留置する一例を示す概略図である。
図14図に示すように、留置すべき患部(血管)までのガイドとしてあらかじめ挿入してあるガイドワイヤGWに沿って、ステントグラフト60を装填したシース30を目的部位まで輸送し、ここで患部(血管)に挿入する。ガイドワイヤGWは、図2、3に示すように、ダイレータの本体部11の中心を貫通する、ガイドワイヤルーメン101に挿入されている。
【0084】
ここでシース30を後方(患部と反対側)に引いて、ステントグラフトの第一番目(一個目)の管状ユニット61(61(1))を、押し出しながら患部(血管)内で拡張させる(図15)。
そしてさらに図15〜図16に示すように、シース30を後方(患部と反対側)に引いて、第二、第三番目(二個目、三個目)・・・の管状ユニット61(61(2)、61(3)、・・・)を、患部(血管)内で放出し、位置決めを行う。
【0085】
血管の屈曲部においてはステントグラフト60にかかる張力と血流及び血圧の力が加わり、当該屈曲を強める方向に調整できる。
ステントグラフト60が、シース30内に装填された状態では、ステントグラフトの留置位置や挿入角度調整用のワイヤ40には張力は、かかっていない。そして、ステントグラフト60は、シース30内で縮小、折りたたまれた状態になっている。
【0086】
ワイヤ40は、最初にステントグラフト先端の二つのフック66の保持リングのうち、一方の保持リング67に通し、続いて第一番目の管状部材61先端の保持リング69に通して巻き付け、さらにフック66の他方の保持リング68に通し、最後に最後列の管状部材61の二つ保持リング69A、69Aに通されている。したがって、上記したように、ステントグラフト60を患部に放出するに際し、図8(A)に示すように、ワイヤ40の端部はステントグラフト60とシース30間に固定されているので、シース30を後方に引くときにはワイヤ40に張力がかかった状態となる。
【0087】
さらに詳述すればシース30を後方に引くことにより、ワイヤ40は、フック部66に形成された保持リング67、68を支点として、伸びる(ピンと張る)ので、ステントグラフト60の先端の固定チップ20を小湾側(例えば図14参照。)に引っ張るとともに、シース30からステントグラフト60を患部へ放出しようとする際に、ステントグラフト60に屈曲を強める方向に張力をかけることができる。
【0088】
このため、図16に示すように、ステントグラフト60先端が完全に拡張しない状態(例えば、直径34mmのステントグラフトの場合、第一番目(1個目)の管状ユニット61(1)が20mm程度拡張した状態である。)で開いて放出され、残りの第二、第三番目(2個目、3個目)・・・の管状ユニット61(2)、61(3)・・・が血管内に放出された状態であっても、ただちに第一番目の管状ユニット61が血管内に完全に拡張、固定されることはない。したがって、ステントグラフト60の留置位置と挿入角度をシース30の位置調整とワイヤ40の張力調整で容易に行うことができる。
【0089】
さらに図17に例示するように、最後列の管状ユニット61(5)は、保持リング69Aでワイヤ40に固定されているので、当該ステントグラフト60を血管内に留置するときに、ステントグラフト60の血管への放出、留置の調整が容易となる。
ステントグラフト60の位置の確認は、造影剤の添加された固定チップ20をX線透視装置でステントグラフト60の留置位置及び挿入角度を確認し、患部に正確に挿入できる角度、留置位置を微調整しながら、3個目以降の管状ユニット61(3)・・・を放出することができる。図18はかくしてステントグラフト60の管状ユニット61(61(1)、61(2)、61(3)、61(4)、61(5))のすべてが放出された状態を示すものである。
【0090】
このようにして、全てのステントグラフトがシース30から放出されたときには、ワイヤ40に張力がかからなくなるため、第18図に示すように、固定チップ20のフック保持溝26から、ステントグラフトのフック部66が開放され、ステントグラフト60の留置が完了する。
【0091】
ステントグラフト60の留置完了後、当該留置装置の操作者が、手元のワイヤの挿入口82よりワイヤ40のワイヤ端部41(42)を引出すことにより、ワイヤ40をステントグラフト留置装置から抜出すことができる。
本発明の留置装置においては、ワイヤ40は、左右対称に保持リング67、68、69、69Aに通され、当該ワイヤ40の一端部41(42)と他方の端部42(41)は、前記段落[0082]〜[0084]で説明したように、固定しているのみであるから、このようにして、ステントグラフト60の留置が完了した後で、留置装置から容易に抜出すことができるのである。
【0092】
(胸部大動脈から分岐した腹腔動脈へのステントグラフト60の固定位置調整)
図13に示すキャップの無い固定チップ20エを用いた腹腔動脈へのステントグラフト60の固定方法の一例について図19から図22を参照して説明する。
まず図19(A)〜(C)に着目すると、図19(B)に例示するように、ステントグラフト60のフック66を、固定チップ20エに係合(固定)しないでフック装着溝26エに装着する以外は、前記と同様に、留置装置を組み立て、ステントグラフト60を装填する。
【0093】
図19(C)に例示するように、ステントグラフト60の最後列の管状部材61をシース30内に折りたたんで、収納した状態の管状部材61後端(絞り込まれて縮径した状態)の最長径をS1、シース30内に装填されるダイレータ10の本体部11先端の最長径をS2とすると、S2>S1に形成するのが良い。
【0094】
例えば、管状部材61後端を外周りからワイヤ(図示せず)等で縛ることにより絞り込んで縮径することができる。
このように形成することにより、ステントグラフト60をダイレータ本体部11先端より、押してシース30より押し出して、分岐した腹腔動脈の所定の位置に固定しやすくなる。
【0095】
図19(A)に例示するように、留置すべき患部(血管)までのガイドとしてあらかじめ挿入してあるガイドワイヤGW(図示せず)に沿って、ステントグラフト60を装填したシース30を目的部位まで輸送し、ここで患部(血管)に挿入する。
【0096】
図20に例示するように、シース30を後方(患部と反対側)に引きながら、ダイレータ本体部11の先端で、ステントグラフト60の後端部を押して、一個目の管状ユニット61(1)を、押し出しながら患部(血管)内で拡張させる。
そしてさらに図21に示すように、シース30を後方(患部と反対側)に引いて、二個目、三個目、・・・の管状ユニット61(2)、61(3)、・・・を、患部(血管)内で放出し、位置決めを行う。
【0097】
図22はこのようにして、全ての管状ユニット61(1)、61(2)、61(3)、61(4)、61(5)が、放出され、ステントグラフト60の管状部材61後端部が、腹腔動脈の位置に配置されるように、位置調整された状態を示す。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は以下の産業上の利用可能性を有する。
本発明においては、本発明においては、ステントグラフトを被覆している管状部材に少なくとも一個の開口部を形成することにより、胸部大動脈から分岐した小血管(腕頭動脈、左総頚動脈、左鎖骨下動脈)にも血液を流れやすくすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステントグラフト(60)であって、
当該ステントグラフト(60)は複数の管状ユニット(61)が接続されてなるものであり、
当該ステントグラフトは(60)は、血管内において、ステントグラフト留置装置(1)のシース(30)から放出し留置させるものにおいて、
前記ステントグラフト(60)は、管状部材(65)により被覆され、当該管状部材(65)には、少なくとも一個の開口部(65A)を形成し、胸部大動脈から分岐した小血管にも血液の良好な流れを確保することを特徴とするステントグラフト(60)。
【請求項2】
前記ステントグラフト(60)は、管状部材(65)により被覆され、当該管状部材(65)に、少なくとも一個の開口部(65A)を形成し、
当該開口部(65A)は、
管状部材(65)の前方側部に第一開口部(65A1)を一箇所形成し、または、
前記第一開口部(65A1)とともに当該第一開口部(65A1)の後方側に第二開口部(65A2)を形成し、または
前記第一開口部(65A1)及び第二開口部(65A2)とともに当該第二開口部(65A2)の後方側に第三開口部(65A3)を形成し、胸部大動脈から分岐した椀頭動脈、左総頸動脈、及び左鎖骨下動脈を形成する小血管にも血液の良好な流れを確保することを特徴とする請求項1に記載のステントグラフト(60)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−52282(P2013−52282A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−275808(P2012−275808)
【出願日】平成24年12月18日(2012.12.18)
【分割の表示】特願2009−515241(P2009−515241)の分割
【原出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【出願人】(507165224)
【Fターム(参考)】