説明

ステントデリバリーシステム

【課題】再狭窄率と、遅延性のステント血栓症を発症させるリスクとを低減し得るステントデリバリーシステムを提供する。
【解決手段】中空状のシャフト部110と、シャフト部110の先端部120の外周に配置される拡張自在の第1および2バルーン150,160と、第2バルーン160の外周に配置され、第2バルーン160の拡張により拡張するステント170と、を有する。第1バルーン150は、少なくとも内皮細胞の増殖を抑制する薬剤を放出するための薬剤放出手段152を有する。ステント170は、ベアメタルステントからなり、生体内管腔に生じた狭窄部あるいは閉塞部である目的部位に留置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントデリバリーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ステントデリバリーシステムは、生体内管腔に生じた病変部(狭窄部あるいは閉塞部)の改善に使用される医療用具であり、例えば、中空状のシャフト部の先端部の外周に配置されるバルーンの拡張により拡張するステントを有する。
【0003】
現在、ステントを用いた治療は、薬剤の効果により内皮細胞の増殖を抑制して術後の病変部の再狭窄を改善する薬剤溶出ステント(DES:Drug Eluting Stent)の適用が主流である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−247506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、薬剤溶出ステントは、留置後1年以上経過して発生する遅延性のステント血栓症を発症させるリスクを有し、当該リスクを低減させる目的で、臨床的には抗血小板薬の長期投与を必要とする問題を有している。一方、金属のみで構成されるベアメタルステント(BMS:Bare Metal Stent)は、ステント血栓症を発症させるリスクが低いが、再狭窄率が薬剤溶出ステントよりも大きい問題を有している。
【0006】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、再狭窄率と、遅延性のステント血栓症を発症させるリスクとを低減し得るステントデリバリーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、中空状のシャフト部と、前記シャフト部の先端部の外周に配置される拡張自在の第1および2バルーンと、前記第2バルーンの外周に配置され、前記第2バルーンの拡張により拡張するステントと、を有するステントデリバリーシステムである。前記第1バルーンは、少なくとも内皮細胞の増殖を抑制する薬剤を放出するための薬剤放出手段を有し、前記ステントは、ベアメタルステントからなり、生体内管腔に生じた狭窄部あるいは閉塞部である目的部位に留置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1バルーンの有する薬剤放出手段から放出される薬剤は、内皮細胞の増殖を抑制するため、目的部位の再狭窄率を低減することが可能である。また、留置されるステントは、ベアメタルステントからなるため、遅延性のステント血栓症を発症させるリスクを低減することが可能である。したがって、再狭窄率と、遅延性のステント血栓症を発症させるリスクとを低減し得るステントデリバリーシステムを提供することができる。
【0009】
薬剤放出手段は、例えば、第1バルーンの外周に配置された薬剤の被覆層や、第1バルーンの外周に配置されかつシャフト部のルーメンを経由して供給される薬剤を放出自在である開口部によって構成することが可能である。
【0010】
第1バルーンは、ステントより先端側に位置することが好ましく、この場合、第1バルーンによる目的部位のプレ拡張とその後のステントの留置とを円滑に実施することが可能である。
【0011】
シャフト部の先端部の外周に配置される拡張自在の第3バルーンを有することも可能であり、この場合、留置されたステントのポスト拡張を、第3バルーンによって容易に実施することができ、ポスト拡張のためのバルーンカテーテルが不要となる。
【0012】
ステントは、第3バルーンより先端側に位置することが好ましく、この場合、ステントの留置と、その後のポスト拡張とを円滑に実施することが可能である。
【0013】
内皮細胞の増殖を抑制する薬剤は、例えば、シロリムスあるいはパクリタキセルである。
【0014】
薬剤は、内皮細胞の増殖を抑制する薬剤に加えて、目的部位を改善する薬剤(例えば、抗高脂血症薬)をさらに含ませることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係るステントデリバリーシステムを説明するための側面図である。
【図2】図1に示される第1バルーンを説明するための断面図である。
【図3】図1に示されるステントを説明するための断面図である。
【図4】ステントの拡張を説明するための平面図である。
【図5】ステントデリバリーシステムの使用方法を説明するための断面図であり、バルーン位置決めステップを示している。
【図6】図5に続く、プレ拡張ステップを説明するための断面図である。
【図7】図6に続く、バルーン収縮ステップを説明するための断面図である。
【図8】図7に続く、ステント位置決めステップを説明するための断面図である。
【図9】図8に続く、ステント拡張ステップを説明するための断面図である。
【図10】図9に続く、ステント留置ステップを説明するための断面図である。
【図11】図10に続く、後退ステップを説明するための断面図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る変形例1を説明するための側面図である。
【図13】変形例1に係るポスト拡張ステップを説明するための断面図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る変形例2を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るステントデリバリーシステムを説明するための側面図、図2および図3は、図1に示される第1バルーンおよびステントを説明するための断面図、図4は、ステントの拡張を説明するための平面図である。
【0018】
本発明の実施の形態に係るステントデリバリーシステム100は、生体内の管腔に生じた狭窄部(あるいは閉塞部)の改善に使用される。生体内の管腔は、例えば、血管、胆管、気管、食道、尿道である。狭窄部の改善の目的の1つは、経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention:PCI)後の再狭窄防止である。
【0019】
ステントデリバリーシステム100は、図1に示されるように、ラピッドエクスチェンジ(RX)タイプであり、中空状のシャフト部110と、シャフト部110の外周に配置される第1および第2バルーン150,160と、第2バルーン160の外周に配置されるステント170と、を有する。
【0020】
シャフト部110は、第1および第2バルーン150,160が配置される先端部120と、ガイドワイヤーポート126が形成される基部122と、基部122の端部に取り付けられたハブ140と、を有する。ハブ140は、第1および第2拡張ポート142,144を有する。
【0021】
また、シャフト部110は、図3に示されるように多重管からなり、外管112と、外管112の内部を延長する内管114と、内管114の内部を延長する中央管116と、を有する。
【0022】
外管112の内周と内管114の外周との間に形成される空間からなる拡張ルーメン113は、第2バルーン160および第2拡張ポート144に連通しており、第2バルーン160を拡張するための加圧流体を導入および排出するために使用される。内管114の内周と中央管116の外周との間に形成される空間からなる拡張ルーメン115(図2および図3)は、第1バルーン150および第1拡張ポート142に連通しており、第1バルーン150を拡張するための加圧流体を導入および排出するために使用される。加圧流体は、例えば、生理食塩水や血管造影剤等の液体である。
【0023】
中央管116の内部を延長するガイドワイヤールーメン117(図2)は、シャフト部110の先端部端面121およびガイドワイヤーポート126に連通しており、ガイドワイヤー128を、先端部120から突出自在である。
【0024】
第1および第2バルーン150,160に加圧流体を導入および排出するための流路は、入れ子状の多重管の内周と外周との間に形成される空間によって形成する形態に限定されない。
【0025】
外管112の構成材料は、可撓性を有することが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴムである。
【0026】
内管114および中央管116の構成材料は、外管112と同様の材料や、金属材料を適用することも可能である。金属材料は、例えば、ステンレス鋼、ステンレス延伸性合金、Ni−Ti合金である。
【0027】
ハブ140の構成材料は、例えば、ポリカーボネート、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ポリエステルなどの合成樹脂、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金である。
【0028】
なお、内管114および中央管116は、X線不透過材料で構成されるコイル状マーカー132,134を有する。マーカー132(図3)は、内管114の外周に配置され、ステント170(第2バルーン150)の両端と位置合せされている。マーカー134(図2)は、中央管116の外周に配置され、第1バルーン150の両端と位置合せされている。
【0029】
したがって、X線透視下で、マーカー132,134の鮮明な造影像が得られるため、シャフト部110の先端部120(第1バルーン150およびステント170)の位置を容易に視認(確認)することが可能である。マーカー132,134の配置数および配置位置を適宜変更したり、必要に応じて、マーカー132,134を省略することも可能である。
【0030】
マーカー132,134を構成するX線不透過材料は、例えば、プラチナ、タンタル、イリジウム、レニウム、タングステン、パラジウム、ロジウム、銀、ルテニウム、およびハフニウムからなる元素の群から選択された一種(単体)または二種以上のもの(合金)である。
【0031】
マーカー132,134は、X線像影性を有する形態に限定されず、必要に応じ、超音波造影性を有するものを適用することも可能である。内管114および中央管116に対するマーカー132および134の固定方法は、特に限定されず、例えば、かしめ、溶接、接着を適用することが可能である。
【0032】
第1バルーン150は、薬剤溶出バルーン(DEB:Drug Eluting Balloon)であり、内皮細胞の増殖を抑制するための薬剤がコーティングされた被覆層(薬剤放出手段)152が配置された外周を有し、薬剤溶出性を呈する。薬剤は、血中への溶出を抑制するという観点から、水難溶性あるいは水不溶性であることが好ましい。被覆層152の形成方法は特に限定されず、例えば、転写または、浸漬やスプレーを適用することが可能である。被覆層152には、病変部である目的部位(狭窄部あるいは閉塞部)を改善する薬剤(例えば、抗高脂血症薬)をさらに含ませることも可能である。
【0033】
第1バルーン150は、シャフト部110の先端部120の外周に軸方向Aに沿って配置されており(図2)、また、拡張ルーメン115(図2および図3)を介して、第1拡張ポート142に連通している。したがって、第1拡張ポート142から加圧流体を導入することにより、第1バルーン150を拡張させ、外周に配置された被覆層152を、外部に位置する目的部位の表面に密着させることで、被覆層152を構成する薬剤を付着させることが可能である。
【0034】
薬剤は、内皮細胞の増殖を抑制するため、目的部位の再狭窄率を低減することが可能である。また、第1バルーン150は、薬剤が付着した後において収縮し、目的部位から分離されるため、留置される薬剤溶出ステントと異なり、長期間にわたり継続的な刺激が加えられることが避けられる。
【0035】
また、第1バルーン150による薬剤の放出の際、目的部位のプレ拡張をすることが可能であり、プレ拡張のためのバルーンカテーテルが不要となる。この際、第1バルーン150は、ステント170より先端側に位置するため、第1バルーン150による目的部位のプレ拡張とその後のステント170の留置とを円滑に実施することが可能である。
【0036】
被覆層152に含まれる薬剤としては、例えば、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、インスリン抵抗性改善剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GP IIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、一酸化窒素産生促進物質が挙げられる。
【0037】
抗癌剤は、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサートである。免疫抑制剤は、例えば、シロリムス、エベロリムス、ピメクロリムス、ABT−578、AP23573、CCI−779等のシロリムス誘導体、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス、ミゾリビン、ドキソルビシンである。
【0038】
抗生物質は、例えば、マイトマイシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマーである。抗リウマチ剤は、例えば、メトトレキサート、チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリットである。抗血栓薬は、例えば、ヘパリン、アスピリン、抗トロンピン製剤、チクロピジン、ヒルジンである。
【0039】
HMG−CoA還元酵素阻害剤は、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、アトルバスタチンカルシウム、ロスバスタチン、ロスバスタチンカルシウム、ピタバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、プラバスタチンナトリウムである。
【0040】
インスリン抵抗性改善剤は、例えば、トログリタゾン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン等のチアゾリジン誘導体である。ACE阻害剤は、例えば、キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリル、シラザプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノブリル、カプトプリルである。カルシウム拮抗剤は、例えば、ニフェジピン、ニルバジピン、ジルチアゼム、ベニジピン、ニソルジピンである。
【0041】
抗高脂血症剤は、例えば、ベザフィブラート、フェノフィブラート、エゼチミブ、トルセトラピブ、パクチミブ、K−604、インプリタピド、プロブコールである。
【0042】
インテグリン阻害薬は、例えば、AJM300である。抗アレルギー剤は、例えば、トラニラストである。抗酸化剤は、例えば、α−トコフェロール、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールである。GP IIb/IIIa拮抗薬は、例えば、アブシキシマブである。レチノイドは、例えば、オールトランスレチノイン酸である。フラボノイドは、例えば、エピガロカテキン、アントシアニン、プロアントシアニジンである。カロチノイドは、例えば、β−カロチン、リコピンである。
【0043】
脂質改善薬は、例えば、エイコサペンタエン酸である。DNA合成阻害剤は、例えば、5−FUである。チロシンキナーゼ阻害剤は、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン、スタウロススポリンである。抗血小板薬は、例えば、チクロピジン、シロスタゾール、クロピドグレルである。抗炎症剤は、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドである。
【0044】
生体由来材料は、例えば、EGF(epidermal growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived growth factor)、BFGF(basic fibroblast growth factor)である。インターフェロンは、例えば、インターフェロン−γ1aである。一酸化窒素産生促進物質は、例えば、L−アルギニンである。
【0045】
なお、狭窄治療用として一般的に用いられ、かつ短時間に効率よく細胞内へ移行させることができるという観点から、パクリタキセル、ドセタキセル、シロリムス、エベロリムスが好ましく、特に、シロリムスおよびパクリタキセルが好ましい。
【0046】
第2バルーン160は、シャフト部110の先端部120の外周に軸方向Aに沿って配置され(図3)、第1バルーン150より基端側に位置しており、また、拡張ルーメン113を介して、第2拡張ポート144に連通している。したがって、第2バルーン160は、第2拡張ポート144から加圧流体を導入することにより、拡張自在であり、その外周に配置されるステント170を拡張(拡径)するように構成されている。
【0047】
第1および第2バルーン150,160の形成材料は、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンサルファイド等のポリアリレーンサルファイド、シリコーンゴム、ラテックスゴムである。ポリオレフィンは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体である。
【0048】
ステント170は、金属のみで構成されるベアメタルステントからなり、例えば、図4に示されるように、軸方向Aに間隔を置いて複数配置される波状ストラット172を有する。波状ストラット172は、直線状部174と、直線状部174の折返し部である頂部176と、を有し、ステント170の周方向Cに延長している(一周している)。波状ストラット172は、隣接する波状ストラット172に対し、頂部176が適当な間隔で(間欠的に)直接接続されており、一体として円筒状構造体を形成し、径方向に拡縮可能に構成されている。
【0049】
また、第1バルーン150上の被覆層152の長さは、ステント170の長軸方向の長さよりも、長いことが好ましい。第1バルーン150による目的部位のプレ拡張後、第1バルーン150を先端側に移動させる。その時に、第1バルーン150による薬剤放出をした部位に、ステント170を留置させることができ、効果的に目的部位の再狭窄を防止することができる。
【0050】
ステント170は、内側に位置する第2バルーン160が拡張することに伴って、拡張して塑性変形するため、目的部位の表面に密着させた後、第2バルーン160を収縮させることにより、第2バルーン160から分離される。つまり、薬剤溶出性を有しないステント170が、目的部位に留置されるため、遅延性のステント血栓症を発症させるリスクを低減することができ、ステント血栓症の予防のための薬剤投与を比較的短期間で済ませることが可能となる。また、ステント170の製造の際、例えば、ステントの片面コートなどの薬剤溶出性を持たせるための複雑な工程が不要となる。
【0051】
ステント170は、生体適合性を有する金属材料から構成される。生体適合性を有する金属材料は、例えば、ニッケル−チタン合金、コバルト−クロム合金、プラチナ−クロム合金、ステンレス鋼、鉄、チタン、アルミニウム、スズ、亜鉛−タングステン合金、マグネシウムおよびその合金である。
【0052】
なお、波状ストラット172の形成方法は、特に限定されず、例えば、波状ストラット172のパターンに基づいて、円筒状のステント素材の外周を、レーザーカットしたり、波状ストラット172のパターンに対応するマスキング材を配置してエッチングをすることによって、形成することが可能である。また、ステント170を径方向に拡縮可能にする構成は、上記態様に限定されない。
【0053】
次に、ステントデリバリーシステムの使用方法を説明する。
【0054】
図5は、バルーン位置決めステップを説明するための断面図、図6は、図5に続く、プレ拡張ステップを説明するための断面図、図7は、図6に続く、バルーン収縮ステップを説明するための断面図、図8は、図7に続く、ステント位置決めステップを説明するための断面図、図9は、図8に続く、ステント拡張ステップを説明するための断面図、図10は、図9に続く、ステント留置ステップを説明するための断面図、図11は、図10に続く、後退ステップを説明するための断面図である。
【0055】
ステントデリバリーシステム100の使用方法は、概して、バルーン位置決めステップ、プレ拡張ステップ、バルーン収縮ステップ、ステント位置決めステップ、ステント拡張ステップ、ステント留置ステップおよび後退ステップを有する。
【0056】
バルーン位置決めステップにおいては、シャフト部110の先端部120を、患者の管腔190に挿入し、先端部端面121から突出させたガイドワイヤー128を先行させながら、目的部位である狭窄部192に、第1バルーン150を位置決めする(図5)。この際、第1バルーン150の両端と位置合せされているマーカー134(図2)の位置を、X線照射により視認することにより、位置決めを正確、迅速かつ容易に実施することが可能である。
【0057】
プレ拡張ステップにおいては、拡張ルーメン115を経由し、第1拡張ポート142から加圧流体を導入することにより、第1バルーン150を拡張させる。これにより、第1バルーン150の外周に配置された被覆層152が、狭窄部192の表面に密着し、被覆層152を構成する薬剤が付着すると共に、狭窄部192が拡張(プレ拡張)される(図6)。
【0058】
バルーン収縮ステップにおいては、拡張ルーメン115を経由し、第1拡張ポート142から加圧流体を排出し、第1バルーン150を収縮させる(図7)。この際、狭窄部192は、第1バルーン150の収縮後においても、拡張した状態が保持される。
【0059】
ステント位置決めステップにおいては、シャフト部110の先端部120をさらに前進させ、狭窄部192に、ステント170を位置決めする(図8)。この際、ステント170の両端と位置合せされているマーカー132(図3)の位置を、X線照射により視認することにより、位置決めを正確、迅速かつ容易に実施することが可能である。
【0060】
ステント拡張ステップにおいては、拡張ルーメン113を経由し、第2拡張ポート144から加圧流体を導入することにより、第2バルーン160を拡張させ、外周に位置するステント170を拡張し、狭窄部192の表面に密着させる(図9)。
【0061】
ステント留置ステップにおいては、拡張ルーメン113を経由し、第2拡張ポート144から加圧流体を排出し、第2バルーン160を収縮させる(図10)。この際、ステント170は、塑性変形しているため、第2バルーン160の収縮に同伴されない。これにより、ステント170は、第2バルーン160から分離される。
【0062】
後退ステップにおいては、ステント170が分離されたシャフト部110の先端部120は、後退し(図11)、管腔190から取り除かれる。これにより、薬剤溶出性を有しないステント170が、狭窄部192に留置されることとなる。
【0063】
図12は、本発明の実施の形態に係る変形例1を説明するための側面図、図13は、変形例1に係るポスト拡張ステップを説明するための断面図である。
【0064】
ステントデリバリーシステム100は、第3バルーン180を有することも可能である。この場合、留置されたステント170のポスト拡張を、第3バルーン180によって容易に実施することができ、ポスト拡張のためのバルーンカテーテルが不要となる。
【0065】
つまり、第3バルーン180を、第2バルーン160より基端側に配置し、ハブ140に配置された第3拡張ポート146と連通自在に構成し、ステント留置ステップと後退ステップとの間において、ポスト拡張ステップを実行する。
【0066】
ポスト拡張ステップにおいては、狭窄部192に留置されたステント170の内側に、第3バルーン180を挿入し、第3拡張ポート146から加圧流体を導入することにより、第3バルーン180を拡張させる。これにより、ステント170を再度拡張(ポスト拡張)する。この際、ステント170は、第3バルーン180より先端側に位置するため、ステント170の留置と、その後のポスト拡張とを円滑に実施することが可能である。
【0067】
図14は、本発明の実施の形態に係る変形例2を説明するための断面図である。
【0068】
狭窄部192の表面に対する薬剤の付着は、薬剤がコーティングされた被覆層152を利用する形態に限定されない。例えば、第1バルーン150の外周に、拡張ルーメン115に連通する開口部(薬剤放出手段)154を配置し、薬剤を含有する加圧流体を、第1拡張ポート142から導入することも可能である。この場合、薬剤は、開口部154から放出され、狭窄部192の表面に付着することとなる。
【0069】
以上のように、本実施の形態においては、第1バルーンの有する薬剤放出手段から放出される薬剤は、内皮細胞の増殖を抑制するため、目的部位の再狭窄率を低減することが可能である。また、留置されるステントは、ベアメタルステントからなるため、遅延性のステント血栓症を発症させるリスクを低減することが可能である。したがって、再狭窄率と、遅延性のステント血栓症を発症させるリスクとを低減し得るステントデリバリーシステムを提供することができる。
【0070】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲で種々改変することができる。
【0071】
例えば、ステントデリバリーシステム100は、ラピッドエクスチェンジタイプに限定されず、オーバーザワイヤ(OTW)タイプに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0072】
100 ステントデリバリーシステム、
110 シャフト部、
112 外管、
113 拡張ルーメン、
114 内管、
115 拡張ルーメン、
116 中央管、
117 ガイドワイヤールーメン、
120 先端部、
121 先端部端面、
122 基部、
126 ガイドワイヤーポート、
128 ガイドワイヤー、
132,134 マーカー、
140 ハブ、
142 第1拡張ポート、
144 第2拡張ポート、
146 第3拡張ポート、
150 第1バルーン、
152 被覆層(薬剤放出手段)、
154 開口部(薬剤放出手段)、
160 第2バルーン、
170 ステント、
172 波状ストラット、
174 直線状部、
176 頂部、
180 第3バルーン、
190 管腔、
192 狭窄部、
A 軸方向、
C 周方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状のシャフト部と、
前記シャフト部の先端部の外周に配置される拡張自在の第1および2バルーンと、
前記第2バルーンの外周に配置され、前記第2バルーンの拡張により拡張するステントと、を有し、
前記第1バルーンは、少なくとも内皮細胞の増殖を抑制する薬剤を放出するための薬剤放出手段を有し、
前記ステントは、ベアメタルステントからなり、生体内管腔に生じた狭窄部あるいは閉塞部である目的部位に留置される
ことを特徴とするステントデリバリーシステム。
【請求項2】
前記薬剤放出手段は、前記第1バルーンの外周に配置された前記薬剤の被覆層からなることを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項3】
前記シャフト部は、前記薬剤が供給されるルーメンを有し、
前記薬剤放出手段は、前記第1バルーンの外周に配置された開口部からなり、
前記開口部は、前記ルーメンに連通している
ことを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項4】
前記第1バルーンは、前記ステントより先端側に位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項5】
前記シャフト部の先端部の外周に配置される拡張自在の第3バルーンを有することを特徴とする請求項4に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項6】
前記ステントは、前記第3バルーンより先端側に位置することを特徴とする請求項5に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項7】
前記薬剤は、シロリムスあるいはパクリタキセルを含んでいることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項8】
前記薬剤は、前記目的部位を改善する薬剤を含んでいることを特徴とする請求項7に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項9】
前記目的部位を改善する前記薬剤は、抗高脂血症薬であることを特徴とする請求項8に記載のステントデリバリーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−200368(P2012−200368A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66755(P2011−66755)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】