説明

ステンレス鋼又は合金による多孔物体の熱安定性の向上

400シリーズステンレス鋼製の粉末などの金属粉末で制作されたる多孔部品を処理する方法は、酸化性雰囲気において約700と900度との間の温度まで多孔部品を予熱する段階と、多孔部品を構成する金属の融解温度を若干下回る温度で不活性又は還元性雰囲気において物体を焼結する段階とを含む。この方法により結果的に得られる部品の熱安定性が向上するため、部品は(融解温度付近など)高い温度で多孔性及び延性などの金属特性を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国エネルギー省によりUT−Battelle,LLCに与えられた契約第DE−AC05−00OR22725に基づく政府援助によって行われ、政府は本発明に対して所定の権利を持つ。
【0002】
本発明は、金属粉末から製作された部品に関し、より詳しくは、酸化時に酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの酸化物表面を形成する粉末ステンレス鋼又は合金による多孔部品の形成と処理に関連する。
【背景技術】
【0003】
粉末金属で製作される、本発明が関連する多孔部品は、一般に、部品が目的通りに作用するかどうかが部品の多孔性に左右される用途で利用される。このような部品は例えば、フィルタ、膜支持体又は基板、さらに燃料電池支持体を含み、成形、押出、鋳造、静水圧圧縮を伴うプロセスによって形成される。しかし、従来、比較的高温、つまりこのような部品を構成する材料の融解温度である200及び300度の範囲内で部品が使用されるか処理を受けると、部品が非多孔性となり(又は多孔性がなくなる、つまりもはや相互接続されなくなり)、その後は目的通りに作用しないか、処理を受け続ける。このような部品の多孔性の損失は、部品の占める比較的広い表面積が比較的高温に露出されることに、少なくとも部分的によるものである。
【0004】
一部のステンレス鋼、特に400シリーズステンレス鋼は、この種類の鋼に固有の組成に応じて、約1370℃と1530℃の間の範囲に含まれる融解温度を持つ。そのため、従来のように処理されたこの種類のステンレス鋼で形成された部品は、約1200℃と低い温度に露出された時に多孔性の損失を受けやすい。
【0005】
そのため、多孔性金属物体を構成する材料の融解温度に近い温度に露出させた時に、物体の熱安定性を向上させる多孔性金属物体を処理する方法を提供することが望ましいだろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、多孔性金属部品の融解温度である約200及び300度範囲内である温度に露出された時に部品が多孔性を失うのを防止する熱安定性を部品に付与する多孔性金属部品を処理する新規の改良方法を提供することが、本発明の目的である。
【0007】
本発明の別の目的は、融解温度に近い比較的高温で、延性など望ましい金属特性の多くを処理済み部品に保持させる方法を提供することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、ステンレス鋼、特に300シリーズ及び400シリーズのステンレス鋼、又は酸化時に酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの表面酸化物を形成する合金による多孔部品を処理するのに特に適した方法を提供することである。
【0009】
本発明のまた別の目的は、実施が複雑ではないが有効に作用する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、酸化時に酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの表面酸化物を形成するステンレス鋼粉末又は金属合金粉末で構成される多孔部品を処理する方法にある。
【0011】
この方法は、多孔部品の表面に酸化物層が形成されるように酸化性雰囲気において多孔部品を予熱する段階と、次に不活性又は還元性雰囲気において部品を焼結する段階とを含む。
【0012】
この方法の一実施態様では、予熱段階は、約700℃と900℃との間の温度まで多孔部品を予熱し、この方法の別の実施態様では、部品を構成する材料の融解温度に近い温度で焼結段階が実施される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
さて、図面をより詳細に参照し、最初に図1を検討すると、全体として20で示される多孔部品20の融解温度に近い温度で部品20を熱的に安定させるように本発明の方法の実施形態により処理された部品が図示されている。
【0014】
図示された部品20は、いくつかの方法のいずれかにより製作される400シリーズステンレス鋼材料の多孔物体から成る。例えば、最初にステンレス鋼粉末(400シリーズステンレス鋼材料の構成要素を含む)と結合剤との混合物で部品20が製作され、次に所望する部品20の形状に一致する形状を持つ物体に形成される。このような形成段階は、例えば、成形作業、押出成形プロセス、鋳造作業で、又は静水圧圧縮により実施される。粉末と結合剤との混合物が所望の形状に形成されると、主としてステンレス鋼材料から構成される物体を多孔性にするための当該技術で周知の方法で、結合剤を揮発させる。このような結合剤の揮発は、例えば空気中において低温で行われる。結合剤の揮発が終了すると、物体は本発明の方法により処理を受ける状態となる。
【0015】
そのため、物体に表面コーティングを形成するように物体が予熱される。このため、物体は、管状炉又は間接加熱炉の環境などの被制御環境に配置され、次に酸化性雰囲気において予熱される。このような酸化性雰囲気は空気であり、現在までに実施された実験では、この予熱段階の温度は約700℃と900℃との間の範囲である。
【0016】
予熱温度が高くなるほど、多孔物体の表面に蓄積する可能性のある酸化物層が厚くなることを出願人らは発見した。これを念頭に置くと、物体の表面に蓄積する酸化物層は、処理済み部品が目的通りの方法で機能しなくなるほど厚くなるべきではない。したがって、最終処理を受けた部品20がその目的の方法で作用できないほど酸化物層が厚くならないように、予熱温度を700と900℃の間の範囲の下端付近の値に制限することか、酸化性雰囲気に物体を露出する時間を制限することのいずれかにより、酸化物層の厚さを制限することが好ましい。
【0017】
予熱段階が終了すると、物体は次に、比較的高い温度(例えば約1250℃と1500℃との間の範囲)で不活性又は還元性の雰囲気内において焼結される。このため、物体が配置される被制御環境から酸化性雰囲気(例えば空気)が排出され、アルゴンなどの不活性物質又は水素又はアルゴン‐水素混合物などの還元性物質が被制御環境に導入され、粉末ステンレス鋼の接触粒子がともに結合する温度まで物体が加熱される。物体が焼結される温度は、物体を構成するステンレス鋼の融解温度に近いが、これを超えないことが好ましい。しかし、物体を構成するステンレス鋼粉末の粒子サイズ、及び予熱(つまり予酸化)段階による酸化の程度等のいくつかの要因が物体の融解温度に影響することは言うまでもないだろう。
【0018】
焼結段階の比較的高温に物体が露出されると、予熱段階中に物体の表面に形成された酸化物層は、物体の多孔性損失を防ぐのに役立つ。焼結段階が終了すると、本発明の方法は終了したと考えられるが、結果的に生じる製品つまり部品20が目的の方法に使用される前に追加処理段階を受けることが望ましい。
【0019】
本発明の方法の結果、部品20の熱安定性の向上が得られる。より詳しく述べると、この方法は部品20の熱安定性を向上させるため、部品20を構成する材料の融解温度に近い高温に部品20が露出されるか、この温度で使用又は処理される時に、部品20が多孔性を失うことがなく、多孔性が閉じたり、不連続になることもない。
【0020】
試験結果
出願人が410タイプのステンレス鋼から多孔ディスクを形成し、様々な条件、つまり以下の表1に示された条件で焼結した。
【0021】
【表1】

【0022】
ディスクが最初に約530℃から約800℃の範囲の温度で空気中に1時間保持されてから、アルゴン中で約1320℃の最終焼結温度まで上昇した。530℃で空気酸化したサンプルは多孔性が非常に低く、測定可能な透過性は見られなかった。比較により、800℃で空気酸化されたサンプルは、最終(焼結)温度での露出時間を延長しても、サンプルの性質にあまり影響を与えないことを示していた。
【0023】
上記から、酸化が可能な金属で構成される多孔物体の熱安定性を向上させるための方法について説明した。すなわち、酸化物層が多孔部品の表面に形成されるように多孔部品が酸化性雰囲気中で予熱され、次に物体が不活性又は還元性雰囲気中で焼結される。
【0024】
発明の趣旨から逸脱することなく、上述した実施形態に多数の変形例及び代替例が存在することは言うまでもないだろう。例えば、上述した実施形態は400シリーズステンレス鋼材料を含むものとして図示及び説明されたが、300シリーズステンレス鋼のような及び酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素など酸化時に表面酸化物を形成する金属合金のような他の材料で方法が実施されることが可能である。したがって、本発明の原理は様々な形で適用され、上述した実施形態は限定ではなく例示を目的とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の方法の実施形態により構成及び処理された部品の斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化時に表面酸化物を形成する粉末ステンレス鋼又は粉末金属合金で製作された多孔部品を処理する方法であって、
前記多孔部品の表面に酸化物層が形成されるように酸化性雰囲気において該多孔部品を予熱する段階と、
不活性又は還元性雰囲気において前記物体を焼結する段階と、
を含む方法。
【請求項2】
前記予熱段階が、約700℃と900℃との間の温度まで前記多孔部品を予熱する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記焼結段階が、前記部品を構成する材料の融解温度に近い温度で実施される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記焼結段階がアルゴン雰囲気において実施される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記焼結段階が水素雰囲気において実施される、求項1に記載の方法。
【請求項6】
酸化時に表面に酸化物を形成する300又は400シリーズステンレス鋼粉末又は金属合金粉末で製作された多孔部品を処理する方法であって、
前記多孔部品の表面に酸化物層が形成されるように、酸化性雰囲気において該多孔部品を約700と900度との間の温度まで予熱する段階と、
次に、前記部品を構成する材料の融解温度に近い温度で、前記物体を不活性又は還元性雰囲気において焼結する段階と、
を含む方法。
【請求項7】
前記焼結段階が被制御環境において実施される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記焼結段階がアルゴン雰囲気において実施される請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記焼結段階が水素雰囲気において実施される請求項6に記載の方法。
【請求項10】
酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの表面酸化物を酸化時に形成する300シリーズ若しくは400シリーズのステンレス鋼又は金属合金による粉末からの前記多孔物体の形成に続いて多孔金属物体を処理するプロセスを改良する方法であって、
前記多孔部品の表面に酸化物層が形成されるように酸化性雰囲気において該物体を加熱することと、
不活性又は還元性雰囲気で前記物体を焼結することと、
を含む改良方法。
【請求項11】
前記加熱段階が、700と900℃との間の範囲の温度まで前記物体を加熱する請求項10に記載の改良方法。
【請求項12】
前記焼結段階が、前記物体の融解温度に近い温度まで該物体の温度を上昇させる請求項10に記載の改良方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−520111(P2009−520111A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547300(P2008−547300)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/047229
【国際公開番号】WO2007/078671
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(301006404)ユーティバトル・エルエルシイ (5)
【Fターム(参考)】