ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法
【課題】従来のインサート材挿入法と同等の作業負荷で実施できる「直接法」によって接合部の信頼性に優れたステンレス鋼材の拡散接合製品を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点を650〜950℃に持ちオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
【解決手段】ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点を650〜950℃に持ちオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート材なしにステンレス鋼材同士を拡散接合するステンレス鋼拡散接合製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼材同士の接合方法の一つに拡散接合があり、拡散接合によって組み立てられたステンレス鋼拡散接合製品は、熱交換器、機械部品、燃料電池部品、家電製品部品、プラント部品、装飾品構成部材、建材など、種々の用途に適用されている。拡散接合方法には、インサート材を接合界面に挿入し固相拡散または液相拡散により接合する「インサート材挿入法」と、双方のステンレス鋼材の表面同士を直接接触させて拡散接合する「直接法」がある。
【0003】
インサート材挿入法としては、例えば2相ステンレス鋼をインサート材に用いる方法(特許文献1)、NiとAuを数μmめっきした被接合物と同一組成の箔状インサート材を用いる液相拡散接合方法(特許文献2)、Siを11.5%以下の範囲で多量に含有するオーステナイト系ステンレス鋼をインサート材に用いる方法(特許文献3)など、従来から多くの技術が知られている。また、ニッケル系のろう材(例えばJIS:BNi−1〜7)や、銅系のろう材をインサート材として用いる「ろう付け」も液相拡散接合の1種と見ることができる。これらのインサート材挿入法は確実な拡散接合を比較的簡便に実現できる点で有利である。しかし、インサート材を用いることによりコストが増大する点や、接合部分が異種金属となることにより耐食性が低下する場合がある点で直接法よりも不利となる。
【0004】
他方、直接法はインサート材挿入法に比べ一般に十分な接合強度を得ることが難しいとされる。しかし、製造コスト低減の面で有利となる可能性を含んでいることから、直接法に関しても種々の方法が検討されてきた。例えば特許文献4には鋼中のS量を0.01%以下とし所定温度の非酸化性雰囲気中で拡散接合することで材料の変形を回避してステンレス鋼材の拡散接合性を向上させる技術が開示されている。特許文献5には酸洗処理により表面に凹凸を付与したステンレス鋼箔材を使用する方法が開示されている。特許文献6には拡散接合の阻害要因となるアルミナ皮膜が拡散接合時に生成しにくいようにAl含有量を抑制したステンレス鋼を被接合材として用いる方法が開示されている。特許文献7には冷間加工により変形を付与したステンレス鋼箔を用いて拡散を促進させることが開示されている。特許文献8には組成を適性化した直接拡散接合用のフェライト系ステンレス鋼が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−119993号公報
【特許文献2】特開平4−294884号公報
【特許文献3】特公昭57−4431号公報
【特許文献4】特開昭62−199277号公報
【特許文献5】特開平2−261548号公報
【特許文献6】特開平7−213918号公報
【特許文献7】特開平9−279310号公報
【特許文献8】特開平9−99218号公報
【特許文献9】特開2000−303150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の技術などによりステンレス鋼材の拡散接合は直接法によっても可能となった。しかし工業的には、直接法はステンレス鋼材の拡散接合方法の主流として定着するには至っていない。その主たる理由は、接合部の信頼性(接合強度や密封性)確保と、製造負荷抑制の両立が難しいことにある。従来の知見によると、直接法により接合部の信頼性を確保するためには接合温度を1100℃を超える高温としたり、ホットプレスやHIP等により高い面圧を付与したりする負荷の大きい工程を採用する必要があり、それによるコスト増大が避けられない。ステンレス鋼材の拡散接合を通常のインサート材挿入法と同等の作業負荷にて実施すると、接合部の信頼性を十分に確保することは難しいのが現状である。
【0007】
本発明は、従来のインサート材挿入法と同等の作業負荷で実施できる「直接法」によって接合部の信頼性に優れたステンレス鋼材の拡散接合製品を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らの詳細な研究の結果、拡散接合時にフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を利用すると、特別な高温加熱や高面圧を付与することなく、ステンレス鋼材同士の境界における拡散が促進することがわかった。本発明はこのような相変態に伴う結晶粒の成長(相境界の移動)を利用してインサート材を使用せずにステンレス鋼材同士を拡散接合するものである。
【0009】
すなわち本発明では、ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点を650〜950℃に持ちオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法が提供される。
【0010】
特に、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に下記(A)の化学組成を有しオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用することができる。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
【0011】
一般にステンレス鋼は常温での金属組織に基づいてオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などに分類されるが、本明細書でいう「2相系鋼」はAc1点以上の温度域でオーステナイト+フェライト2相組織となる鋼である。このような2相系鋼の中にはフェライト系ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼に分類されるステンレス鋼が含まれる。
【0012】
拡散接合に供する双方のステンレス鋼材の組み合わせについては、以下の3パターンを例示することができる。
〔パターン1〕拡散接合に供する双方のステンレス鋼材がいずれも上記(A)の化学組成を有する2相系鋼である場合。
〔パターン2〕拡散接合に供する双方のステンレス鋼材のうち一方が上記(A)の化学組成を有する2相系鋼であり、他方が下記(B)の化学組成を有する鋼である場合。
〔パターン3〕拡散接合に供する双方のステンレス鋼材のうち一方が下記(A)の化学組成を有する2相系鋼であり、他方が下記(C)の化学組成を有する鋼である場合。
【0013】
(B)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜4.0%、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:15.0〜26.0%、Mo:0〜7.0%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.1%、N:0〜0.3%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0014】
(C)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.2%、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.04%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:11.5〜32.0%、Mo:0〜2.5%、Cu:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.2%、N:0〜0.025%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0015】
ここで、(B)はオーステナイト系ステンレス鋼を含む組成範囲であり、(C)はフェライト系ステンレス鋼を含む組成範囲である。
【0016】
上記(A)の組成を有する2相系鋼において、特に下記(2)式で示されるγmaxが20〜100未満である鋼を適用すると拡散接合条件の自由度が一層拡がる。このような鋼を提供した場合には、接触面圧0.03〜0.8MPa、保持温度880〜1030℃の条件範囲で拡散接合を進行させるとよい。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−50Nb−52Al+470N+189 …(2)
【0017】
上記(1)式、(2)式の成分元素の箇所には質量%で表された当該元素の含有量の値が代入される。含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従うステンレス鋼拡散接合構造は接合強度および密封性に優れ、インサート材を使用していないので異種金属(特にCuを含む金属)との接触に起因する耐食性低下を回避するうえで有効である。また、従来の直接法によるステンレス鋼材の拡散接合と比べ低接触面圧化、低温度化が可能となり、インサート材挿入法に適用されている一般的な拡散接合設備が利用できる。このためインサート材を使用しないことによる製造コスト低減効果が作業負荷の増大によって相殺されることもない。したがって本発明は信頼性の高いステンレス鋼拡散接合製品の普及に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明対象の2相系鋼を双方の鋼材に用いて900℃での拡散接合を試みた接合界面付近の断面組織写真。
【図2】拡散接合を試みた積層体表面上の超音波厚さ計による厚さ測定点の位置を示す図。
【図3】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(本発明例)。
【図4】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図5】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(本発明例)。
【図6】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図7】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(本発明例)。
【図8】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図9】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図10】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図11】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図12】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図13】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図14】実施例2に用いた被接合材である各ステンレス鋼材の寸法形状および拡散接合製品の外形を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般的にステンレス鋼材同士を直接接触させた状態で拡散接合が完了するまでには、以下の過程を経ると考えられる。
[1]接触面の凹凸が変形して密着し、接触面積が増大する過程。
[2]接触面に存在していた双方の鋼材の表面酸化皮膜が分解および拡散消失する過程。
[3]原子の相互拡散および結晶粒の成長が生じる過程。
[4]接触面に介在するボイド内の残留ガスが金属素地との反応により消失する過程。
ステンレス鋼材の表面酸化皮膜は強固な不動態皮膜であるため、特に[2]の過程を完了させるためには高い接触面圧や高温での長時間保持が必要となる。これがステンレス鋼材の直接拡散接合法の工業的な普及を阻む要因となっている。
【0021】
発明者らは鋭意研究の結果、上記[2]の過程の完了を必要とすることなくステンレス鋼材の直接拡散接合を実現する手法を見出した。その手法の骨子は双方のステンレス鋼材の接触面近傍で生じる相変態の駆動力を利用して拡散接合を行うことにある。それによれば従来より低温、低接触面圧の条件で工業的な直接拡散接合が実施でき、接合面の信頼性も向上する。
【0022】
図1に、本発明対象の化学組成を有する2相系鋼を双方の鋼材に用いて900℃での拡散接合を試みた場合の接合界面付近の断面組織を例示する。この2相系鋼は後述表1のD−2に相当する鋼であり、拡散接合前の金属組織はフェライト相+M23C6(MはCr等の金属元素)系炭化物である。板厚1.0mmの2D仕上材を試料に用い、表面粗さRaが0.21μmである表面同士を直接接触させ、接触面圧を0.3MPaとし、真空引きにより10-3Paの圧力としたチャンバー内で、ヒーターにより試料を常温から900℃まで約1hで昇温させ、900℃に到達後その温度で保持し、所定の保持時間が経過した時点で炉から取り出して急冷し、断面組織を調査したものである。図1(a)は保持時間10min、(b)は保持時間50minの段階である。
【0023】
本明細書では、拡散接合前に双方の部材が接触していた位置を「界面位置」と呼ぶ。
図1(a)に見られるように、保持時間10minの段階で、界面位置を跨ぐ結晶粒が生じている。それらの結晶粒は昇温前のフェライト相と炭化物から変態により生成したオーステナイト相に相当するものである(写真は保持温度から急冷後に撮影したので、前記オーステナイト相はマルテンサイト相となっている)。この例では拡散接合前の金属組織がフェライト相+炭化物であるため、オーステナイト相への変態は炭化物を起点として生じる。生成したオーステナイト結晶はフェライト相中に粒界を拡げながら成長する。すなわち、フェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながらオーステナイト結晶粒が成長する。
【0024】
図1の例では双方の鋼材が同じ2相系鋼であるため、界面位置近傍に存在しているどちらかの鋼材の炭化物を起点として生成したオーステナイト相が成長する際、そのオーステナイト結晶粒が相手側鋼材の結晶の一部を取り込んで1つのオーステナイト結晶粒として成長し、拡散接合が進行していく。なお、図1(a)の段階では、界面位置には未接合部分が多く残っている。
【0025】
相手側の鋼材が拡散接合の保持温度でオーステナイト単相となる鋼やフェライト単相となる鋼であっても、2相系鋼の界面位置近傍の炭化物を起点として生成したオーステナイト結晶粒が成長する際、界面位置を跨いで相手材の結晶中へも成長することが確認されている。
【0026】
本発明の対象となる2相系鋼の金属組織は、化学組成や鋼板製造条件によってフェライト相+炭化物、フェライト相+マルテンサイト相、またはマルテンサイト単相となる。拡散接合時にフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動に伴う原子の拡散を利用するためには、拡散接合の加熱によってオーステナイトが生成し始める時点においてフェライト相が50体積%以上存在していることが望ましい。拡散接合に供する前記2相系鋼がマルテンサイト単相の金属組織を有している場合には、予め焼鈍を施してフェライト相+マルテンサイト相の組織としておくことが効果的である。その焼鈍としては例えば600℃〜Ac1点+50℃に材料を保持する条件が採用できるが、通常は拡散接合の昇温過程で焼鈍効果が得られ、フェライト相が存在する組織状態でオーステナイト相の生成開始を迎えることができる。
【0027】
オーステナイト結晶は、フェライト相+炭化物の組織を有する2相系鋼では炭化物を起点として生成し、フェライト相+マルテンサイト相の組織を有する2相系鋼ではマルテンサイト相を起点そして生成する。いずれの場合も2相系鋼中のオーステナイト結晶は周囲のフェライト相中へと粒界を移動させながら成長する。その際、双方の鋼材間の界面位置では拡散の障壁となる酸化物の完全消失を待たずに接合相手材の方へ結晶粒界が移動する。
【0028】
拡散接合が進行する温度での保持時間を十分に確保するとオーステナイト相の体積率増大は終了し、残部のフェライト結晶粒にも粒界移動が生じるようになる。そして、図1(b)のように、界面位置を乗り越えて成長したフェライト結晶粒が観察されるようになる。この段階になると、界面位置に残る未接合部分は非常に少なくなっており、双方の鋼材は拡散接合によって一体化したものとみなすことができる。後述する超音波厚さ計による測定で界面位置のほとんどの部分が接合している状態であることが確認できる。
【0029】
〔2相系鋼〕
本発明では、低温・低接触面圧下で直接法による拡散接合を実現するために、拡散接合に供する双方のステンレス鋼材のうち少なくとも一方に、拡散接合が進行する温度域でオーステナイト+フェライト2相組織となる鋼(2相系鋼)を適用する。具体的には昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点を650〜950℃に持ちオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼が好適な対象となる。ここで、Ac1点が880℃以上であれば必然的に880℃以上の範囲に2相温度域を有することとなるが、Ac1点があまり高いとそれに伴って2相温度域の下限が上昇するので、加熱温度の設定下限も高くなり、2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を利用して比較的低温でインサート材を使わずに拡散接合を行うという本発明のメリットが活かせない。種々検討の結果、Ac1点が950℃以下の範囲にある鋼を適用することが有効であり、900℃以下の鋼がより好適である。
【0030】
本発明で適用する2相系鋼は、拡散接合を進行させる温度域でオーステナイト+フェライト2相組織を呈するものであれば、いわゆる「マルテンサイト系ステンレス鋼」に分類される鋼種であっても構わない。マルテンサイト系ステンレス鋼は例えば1050℃以上といった高温のオーステナイト単相域から急冷することによってマルテンサイト組織を得る鋼種であるが、オーステナイト+フェライト2相温度域でオーステナイト相への変態に伴う結晶粒界の移動を利用した拡散接合が可能な組成を有するマルテンサイト系ステンレス鋼も存在する。したがって、そのようなマルテンサイト系ステンレス鋼も、本明細書では2相系鋼として扱っている。
【0031】
本発明で対象とする2相系鋼の具体的な成分組成としては、下記(A)を満たすものが例示できる。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
【0032】
ここで、上記X値は、オーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼において、昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点(℃)を精度良く推定することができる指標である。
【0033】
前記(A)の化学組成を有する2相系鋼として、特に下記(2)式で示されるγmaxが20〜100未満である鋼を適用することができる。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−50Nb−52Al+470N+189 …(2)
γmaxは1100℃程度に加熱保持した場合に生成するオーステナイト相の量(体積%)を表す指標である。γmaxが100以上となる場合、その鋼は高温でオーステナイト単相となる鋼種であるとみなすことができる。γmaxが20〜100未満である鋼においては、γ単相域を避ける温度設定が容易であり、より低温、低接触面圧側に適正条件の自由度が拡がる。γmaxが50〜80である鋼を適用することが一層好ましい。
【0034】
〔接合相手の鋼種〕
上記2相系鋼からなる鋼材と拡散接合により一体化させる相手材としては、上記2相系鋼を適用できる他、拡散接合の加熱温度域でオーステナイト単相となるオーステナイト系鋼種やフェライト単相となるフェライト系鋼種を適用することができる。2相系鋼以外を相手材に用いても、一方の2相系鋼内で変態により成長するオーステナイト相は界面位置から相手材の方へも成長するので、界面位置を跨ぐ結晶粒を介する健全な拡散接合部を構築することが可能である。
【0035】
上記オーステナイト系またはフェライト系の鋼種としては用途に応じて種々の既存鋼種が適用でき、拡散接合性の観点からは特に成分組成にこだわる必要はない。具体的な成分組成範囲は、オーステナイト系鋼種としては下記(B)、フェライト系鋼種としては下記(C)のものを挙げることができる。
【0036】
(B)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜4.0%、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:15.0〜26.0%、Mo:0〜7.0%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.1%、N:0〜0.3%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0037】
(C)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.2%、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.04%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:11.5〜32.0%、Mo:0〜2.5%、Cu:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.2%、N:0〜0.025%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0038】
〔拡散接合条件〕
拡散接合に供する両部材間の接触面圧は1.0MPa以下とする。接触面圧が1.0MPa以下であれば、比較的簡便な設備にてインサート材を用いない拡散接合が実施できる。適用する鋼種や加熱保持温度・保持時間に応じて拡散接合が進行するに足る接触面圧を1.0MPa以下の範囲で設定すればよい。特に上記2相系鋼としてγmaxが100未満の鋼を適用する場合には0.8MPa以下の接触面圧にて良好な結果を得やすい。一方、接触面圧が極端に低いと加熱保持時間が長くなり生産性が低下する。工業的には0.03MPa以上の接触面圧を確保することが好ましく、0.1MPa以上となるように管理してもよい。なお、拡散接合に供するステンレス鋼材の接合面となる表面は、Raが0.30μm以下に平滑であることが望ましい。表面の仕上は、酸洗、光輝焼鈍、研磨のいずれであっても構わない。
【0039】
拡散接合の加熱温度は880℃以上とする。発明者らの検討によれば、上記2相系鋼の変態による粒界移動を利用する場合、従来のように高温に保持しなくてもステンレス鋼材同士の拡散接合が可能となるが、接触面圧を1.0MPa以下の条件とする場合、880℃以上での加熱が望まれる。900℃以上とすることが拡散促進の観点からより好ましい。
【0040】
ただし、双方または一方の部材に適用する前記2相系鋼のオーステナイト+フェライト2相温度域に加熱保持する必要がある。これら2相が共存する温度域に保持することで、新たに成長するオーステナイト結晶粒が接触相手材の方へと界面位置を乗り越えて成長しやすい。そのメカニズムについては現時点で不明な点も多いが以下のようなことが考えられる。2相系鋼中にフェライト相が存在している状態でオーステナイト+フェライト2相共存温度域に加熱すると、その2相系鋼中では、まず炭化物やマルテンサイト相を起点としてオーステナイト結晶が生成する。生成したオーステナイト結晶とその周囲のフェライト結晶の間の結晶粒界は、フェライト相とオーステナイト相の比率を平衡状態に近づけようとする「変態の駆動力」によって、非常に動きやすい状態となる。この変態の駆動力を利用してオーステナイト結晶は2相系鋼中で隣接するフェライト結晶の中に粒界を移動させながら成長する。その際、接触相手材との界面位置に面して成長中のオーステナイト結晶粒は、エネルギー的により安定した存在形態となろうとして接触相手材の結晶粒内へも粒界を移動して拡がるものと考えられ、結果的に界面位置を跨ぐオーステナイト結晶粒となる。両部材の界面位置が部分的にオーステナイト結晶粒で繋がると、それらのオーステナイト結晶粒の近傍で界面位置に面して存在している両部材の結晶粒も拡散によって互いに粒界移動を生じ、拡散接合が進行していく。
【0041】
880℃以上でフェライト単相となる鋼やオーステナイト単相となる鋼を上記2相系鋼の代わりに用いた場合には、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃という低接触面圧・低温加熱での条件下では界面位置に未接合部分(欠陥)が残りやすいことが確認されている。このことから、上記2相系鋼の変態駆動力を利用することが、低接触面圧・低温加熱でのステンレス鋼材同士の拡散接合の進行を促進させるうえで極めて有利であると言える。
【0042】
上記(2)式のγmaxが100以下である化学組成を有する2相系鋼は、概ね1100℃より低い温度範囲にオーステナイト+フェライト2相組織となる温度領域がある。発明者らの検討によると、γmaxが20〜100未満に調整された2相系鋼を用いる場合、接触面圧0.03〜0.8MPa、加熱温度880〜1030℃の条件範囲で拡散接合を進行させることができ、拡散接合条件の低接触面圧化、低温度化に有利となる。特にγmaxが50〜80である2相系鋼を用いると拡散接合条件の自由度がより一層拡大し、接触面圧0.03〜0.5MPa、加熱温度880〜1000℃の範囲に適正な条件を見出すことができる。この場合、加熱温度の上限は例えば980℃以下の低温域に設定してもよい。
【0043】
拡散接合の加熱は従来一般的なインサート材を用いたステンレス鋼材同士の拡散接合の場合と同様に、真空引きにより圧力を概ね10-3Pa以下とした雰囲気中で被接合部材を加熱保持することによって行うことができる。ただし、インサート材は使用せず、接合するステンレス鋼材同士を直接接触させる。接触面圧は前述のように1.0MPa以下の範囲で設定する。加熱方法はヒーターにより炉内の部材全体を均一に加熱する方法の他、通電による抵抗加熱によって接触部近傍を所定の温度に加熱する方法を採用することもできる。加熱保持時間は30〜120minの範囲で設定すればよい。
【実施例】
【0044】
〔実施例1〕
表1に示す化学組成を有する鋼板を用意した。D−1〜D−3はγmaxが100未満の鋼、M−1〜M−2はいわゆるマルテンサイト系ステンレス鋼に分類される鋼、F−1はフェライト単相鋼、A−1はオーステナイト単相鋼である。鋼板の板厚、表面仕上、表面粗さRaも表1に記載してある。用意した各鋼板の金属組織は、D−1〜D〜3はフェライト相+炭化物、M−1、M−2はフェライト相+マルテンサイト相、M−3はマルテンサイト単相、F−1はフェライト単相、A−1はオーステナイト単相である。
【0045】
【表1】
【0046】
各鋼板から20mm×20mmの平板試験片を切り出し、以下の方法にて2枚の試験片を重ね合わせて拡散接合を試みた。
拡散接合を試みる2枚の試験片を互いの表面同士が接触するように積層した状態とし、てこの原理を利用した治具を用いてこれら2枚の試験片の接触表面に付与される面圧(接触面圧)を所定の大きさに調整した。この治具はカーボンコンポジット製の支柱にカーボンコンポジット製のアームが水平方向の固定軸周りに回転可能な状態で取付けられており、そのアームに吊り下げた錘の重力によって積層した試験片に荷重を付与するものである。すなわちこの治具は、アームの前記固定軸位置を支点、積層した試験片に荷重を付与する位置を作用点、錘を吊す位置を力点とし、支点と力点の間に作用点が位置するてこを構成しており、錘にかかる重力が増幅されて試験片の接触面に作用するようになっている。以下、積層した2枚の試験片を「鋼材1」および「鋼材2」と呼び、鋼材1と鋼材2が積層した状態のものを「積層体」と呼ぶ。
【0047】
以下の加熱処理により鋼材1と鋼材2の拡散接合を試みた。上記治具により積層体に所定の荷重を付与した状態とし、治具と積層体を真空炉に装入し、真空引きを行って圧力10-3〜10-4Paの真空度としたのち、880℃以上の範囲に設定した所定の加熱温度まで約1hで昇温し、その温度で2h保持した後、冷却室に移して冷却した。冷却は保持温度−100℃まで上記真空度を維持し、その後Arガスを導入して90kPaのArガス雰囲気中で約100℃以下まで冷却した。
【0048】
上記加熱処理を終えた積層体について、超音波厚さ計(オリンパス社製;Model35DL)を用いて、図2に示すように20mm×20mmの積層体表面上に3mmピッチで設けた49箇所の測定点において厚さ測定を行った。プローブ径は1.5mmとした。ある測定点での板厚測定値が鋼材1と鋼材2の合計板厚を示す場合には、その測定点に対応する両鋼材の界面位置では原子の拡散によって両鋼材が一体化しているとみなすことができる。一方、板厚測定値が鋼材1と鋼材2の合計板厚に満たない場合には、その測定点に対応する両鋼材の界面位置に未接合部(欠陥)が存在する。発明者らは加熱処理後の積層体の断面組織と、この測定手法により得られた測定結果との対応関係を詳細に調べたところ、測定結果が鋼材1と鋼材2の合計板厚となった測定点の数を測定総数49で除した値(これを「接合率」と呼ぶ)によって、接触面積に占める接合部分の面積率が精度良く評価できることを確認した。そこで、以下の評価基準で拡散接合性を評価した。
◎:接合率100%(拡散接合性;優秀)
○:接合率90〜99%(拡散接合性;良好)
△:接合率60〜89%(拡散接合性;やや不良)
×:接合率0〜59%(拡散接合性;不良)
種々検討の結果、○評価において拡散接合部の強度は十分に確保され、かつ両部材間のシール性(連通する欠陥を介する気体の漏れが生じない性質)も良好であることから、○評価以上を合格と判定した。
評価結果を表2に示す。
【0049】
また、上記加熱処理を終えた積層体について、厚さ方向に平行な断面内の界面位置を含む領域について光学顕微鏡で組織観察を行った。その結果、顕微鏡観察により観測される拡散接合の進行の程度(すなわち界面位置における未接合部分の消失の程度)と、上記の「接合率」の値は良好な対応関係にあることが確認された。図3〜図13に、いくつかの例について断面組織写真を例示する。ここに示した組織写真は、◎評価のものを除き、界面位置に未接合部分ができるだけ多く残存している箇所を意図的に選んで撮影したものである。これらの断面組織写真がどの試験No.に該当するかは表2中に記載してある。
【0050】
【表2】
【0051】
表2からわかるように、本発明に従う2相系鋼を双方または一方の鋼材に用いた本発明例では、接触面圧1.0MPa以下かつ加熱温度1080℃以下の条件で拡散接合を進行させることができ、健全な拡散接合部が得られた。加熱温度を1100℃以上といった高温に設定する必要がないことから結晶粒の粗大化も抑制され、拡散接合製品の機械的性質の改善にもつながる。γmaxが100以下である2相系鋼(D−1〜D−3)を採用した場合には適正な拡散接合条件範囲が接触面圧、保持温度とも低い方向に拡がる。中でもγmaxが50〜80に調整された2相系鋼(D−1、D−2)を使用すると適正条件範囲が一層拡がり、製造コストの面でも有利となる。
【0052】
これに対し、比較例No.9、17、20、22、25は加熱温度が高いために結晶粒が粗大化した(図4、図6、図8参照)。No.21、24は2相系鋼としてγmaxが100以上のマルテンサイト系ステンレス鋼を採用したものであり、2相温度域でのオーステナイト相への変態の駆動力はγmaxが100未満の鋼種より小さいものと考えられ、保持温度を1000℃まで下げると拡散接合は進行しなかった。No.27、28はオーステナイト+フェライト2相組織となる温度域が存在しないと考えられるマルテンサイト系ステンレス鋼同士を適用したことにより、適正な拡散接合条件を見出すことができなかった。No.32およびNo.33は880〜1080℃においてそれぞれフェライト単相組織およびオーステナイト単相組織となる鋼同士の拡散接合を試みたものであるが、本発明例のように低接触面圧、低加熱温度での拡散接合は実現できななかった。
【0053】
〔実施例2〕
表3に示す化学組成の鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3〜4mmの熱延板とし、焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍、酸洗を順次行う工程により板厚1.0mmの供試鋼板とした。D−11〜D−15は本発明対象の2相系鋼、F−11はフェライト単相鋼、A−11はオーステナイト単相鋼である。鋼板の板厚、表面仕上、表面粗さRaも表3に記載してある。各鋼板の金属組織は、D−11〜D〜15はフェライト相+炭化物、F−11はフェライト単相、A−11はオーステナイト単相である。
【0054】
【表3】
【0055】
鋼D−11〜D−15の各供試鋼板から切削加工により100mm角の鋼材(以下「平板材」という)を作製した。また、全ての鋼種の供試鋼板から切削加工により100mm角の板の中央をくりぬいて幅5mmの枠で構成される鋼材(以下「枠材」という)を作製した。その際、バリは除去していない。平板材と枠材には対角線上端部付近2箇所に6mmΦの穴を形成した。図14(a)の[1][5]に平板材の寸法・形状を、同[2]〜[4]に枠材の寸法・形状をそれぞれ模式的に示してある。図14に示すように3枚の枠材を重ね、その両側を平板材で蓋をするように、図14(a)に示す[1]〜[5]の積層順でこれらの鋼材を重ね合わせて積層体とし、各鋼材を連通する上記穴にAlloy600製の5mmΦのピンを差し込み、水平に置かれたこの積層体の上面に質量5kgの錘を乗せ、真空拡散接合に供した。このとき鋼材間の接触面には約0.05MPaの面圧が付与されている。
【0056】
鋼材[1]〜[5]の組み合わせは以下の2パターンとした。
パターンA;[1]〜[5]全てが本発明対象の2相系同一鋼種。
パターンB;[1][3][5]が本発明対象の2相系同一鋼種、その相手材に相当する[2][4]がオーステナイト系同一鋼種またはフェライト系同一鋼種。
【0057】
拡散接合は、上記積層体を真空炉に装入して10-3Pa以下の圧力となるまで真空引きした後、900〜1100℃の範囲に設定した加熱温度まで昇温してその温度に60min保持し、その後、炉中で放冷する手法にて行った。
【0058】
〔拡散接合部の信頼性評価〕
上記のステンレス鋼拡散接合製品(図14(b)の形状のもの)について、大気中800℃で24hの加熱試験に供した。その後、図14(b)のa−a’の位置で積層方向に切断し、内部の空洞表面(内表面)の酸化の有無を目視で調査した。拡散接合部に外部と繋がる空隙が存在していた場合や、当該加熱処理時に拡散接合部に破損が生じた場合には、内部に酸素が侵入するため加熱試験後の内表面は酸化され、当初の金属光沢が失われる。一方、拡散接合部の健全性が維持され内部が高真空の状態に保たれている場合は加熱試験後の内表面はステンレス鋼特有の金属光沢を呈する。そこで、内表面が当初の金属光沢を維持しているステンレス鋼拡散接合製品を○(拡散接合部の信頼性;良好)、それ以外を×(拡散接合部の信頼性;不良)と評価した。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4からわかるように、拡散接合部において双方の鋼材の少なくとも一方に本発明対象の2相系鋼を適用することによって、880〜1000℃という低温下で信頼性に優れる拡散接合製品が得られた。
【0061】
これに対し比較例であるNo.49、50は2相系鋼を使用しなかったものであり、1100℃でも信頼性に優れる拡散接合製品が得られなかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート材なしにステンレス鋼材同士を拡散接合するステンレス鋼拡散接合製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼材同士の接合方法の一つに拡散接合があり、拡散接合によって組み立てられたステンレス鋼拡散接合製品は、熱交換器、機械部品、燃料電池部品、家電製品部品、プラント部品、装飾品構成部材、建材など、種々の用途に適用されている。拡散接合方法には、インサート材を接合界面に挿入し固相拡散または液相拡散により接合する「インサート材挿入法」と、双方のステンレス鋼材の表面同士を直接接触させて拡散接合する「直接法」がある。
【0003】
インサート材挿入法としては、例えば2相ステンレス鋼をインサート材に用いる方法(特許文献1)、NiとAuを数μmめっきした被接合物と同一組成の箔状インサート材を用いる液相拡散接合方法(特許文献2)、Siを11.5%以下の範囲で多量に含有するオーステナイト系ステンレス鋼をインサート材に用いる方法(特許文献3)など、従来から多くの技術が知られている。また、ニッケル系のろう材(例えばJIS:BNi−1〜7)や、銅系のろう材をインサート材として用いる「ろう付け」も液相拡散接合の1種と見ることができる。これらのインサート材挿入法は確実な拡散接合を比較的簡便に実現できる点で有利である。しかし、インサート材を用いることによりコストが増大する点や、接合部分が異種金属となることにより耐食性が低下する場合がある点で直接法よりも不利となる。
【0004】
他方、直接法はインサート材挿入法に比べ一般に十分な接合強度を得ることが難しいとされる。しかし、製造コスト低減の面で有利となる可能性を含んでいることから、直接法に関しても種々の方法が検討されてきた。例えば特許文献4には鋼中のS量を0.01%以下とし所定温度の非酸化性雰囲気中で拡散接合することで材料の変形を回避してステンレス鋼材の拡散接合性を向上させる技術が開示されている。特許文献5には酸洗処理により表面に凹凸を付与したステンレス鋼箔材を使用する方法が開示されている。特許文献6には拡散接合の阻害要因となるアルミナ皮膜が拡散接合時に生成しにくいようにAl含有量を抑制したステンレス鋼を被接合材として用いる方法が開示されている。特許文献7には冷間加工により変形を付与したステンレス鋼箔を用いて拡散を促進させることが開示されている。特許文献8には組成を適性化した直接拡散接合用のフェライト系ステンレス鋼が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−119993号公報
【特許文献2】特開平4−294884号公報
【特許文献3】特公昭57−4431号公報
【特許文献4】特開昭62−199277号公報
【特許文献5】特開平2−261548号公報
【特許文献6】特開平7−213918号公報
【特許文献7】特開平9−279310号公報
【特許文献8】特開平9−99218号公報
【特許文献9】特開2000−303150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の技術などによりステンレス鋼材の拡散接合は直接法によっても可能となった。しかし工業的には、直接法はステンレス鋼材の拡散接合方法の主流として定着するには至っていない。その主たる理由は、接合部の信頼性(接合強度や密封性)確保と、製造負荷抑制の両立が難しいことにある。従来の知見によると、直接法により接合部の信頼性を確保するためには接合温度を1100℃を超える高温としたり、ホットプレスやHIP等により高い面圧を付与したりする負荷の大きい工程を採用する必要があり、それによるコスト増大が避けられない。ステンレス鋼材の拡散接合を通常のインサート材挿入法と同等の作業負荷にて実施すると、接合部の信頼性を十分に確保することは難しいのが現状である。
【0007】
本発明は、従来のインサート材挿入法と同等の作業負荷で実施できる「直接法」によって接合部の信頼性に優れたステンレス鋼材の拡散接合製品を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らの詳細な研究の結果、拡散接合時にフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を利用すると、特別な高温加熱や高面圧を付与することなく、ステンレス鋼材同士の境界における拡散が促進することがわかった。本発明はこのような相変態に伴う結晶粒の成長(相境界の移動)を利用してインサート材を使用せずにステンレス鋼材同士を拡散接合するものである。
【0009】
すなわち本発明では、ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点を650〜950℃に持ちオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法が提供される。
【0010】
特に、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に下記(A)の化学組成を有しオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用することができる。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
【0011】
一般にステンレス鋼は常温での金属組織に基づいてオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼などに分類されるが、本明細書でいう「2相系鋼」はAc1点以上の温度域でオーステナイト+フェライト2相組織となる鋼である。このような2相系鋼の中にはフェライト系ステンレス鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼に分類されるステンレス鋼が含まれる。
【0012】
拡散接合に供する双方のステンレス鋼材の組み合わせについては、以下の3パターンを例示することができる。
〔パターン1〕拡散接合に供する双方のステンレス鋼材がいずれも上記(A)の化学組成を有する2相系鋼である場合。
〔パターン2〕拡散接合に供する双方のステンレス鋼材のうち一方が上記(A)の化学組成を有する2相系鋼であり、他方が下記(B)の化学組成を有する鋼である場合。
〔パターン3〕拡散接合に供する双方のステンレス鋼材のうち一方が下記(A)の化学組成を有する2相系鋼であり、他方が下記(C)の化学組成を有する鋼である場合。
【0013】
(B)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜4.0%、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:15.0〜26.0%、Mo:0〜7.0%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.1%、N:0〜0.3%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0014】
(C)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.2%、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.04%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:11.5〜32.0%、Mo:0〜2.5%、Cu:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.2%、N:0〜0.025%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0015】
ここで、(B)はオーステナイト系ステンレス鋼を含む組成範囲であり、(C)はフェライト系ステンレス鋼を含む組成範囲である。
【0016】
上記(A)の組成を有する2相系鋼において、特に下記(2)式で示されるγmaxが20〜100未満である鋼を適用すると拡散接合条件の自由度が一層拡がる。このような鋼を提供した場合には、接触面圧0.03〜0.8MPa、保持温度880〜1030℃の条件範囲で拡散接合を進行させるとよい。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−50Nb−52Al+470N+189 …(2)
【0017】
上記(1)式、(2)式の成分元素の箇所には質量%で表された当該元素の含有量の値が代入される。含有しない元素については0(ゼロ)が代入される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従うステンレス鋼拡散接合構造は接合強度および密封性に優れ、インサート材を使用していないので異種金属(特にCuを含む金属)との接触に起因する耐食性低下を回避するうえで有効である。また、従来の直接法によるステンレス鋼材の拡散接合と比べ低接触面圧化、低温度化が可能となり、インサート材挿入法に適用されている一般的な拡散接合設備が利用できる。このためインサート材を使用しないことによる製造コスト低減効果が作業負荷の増大によって相殺されることもない。したがって本発明は信頼性の高いステンレス鋼拡散接合製品の普及に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明対象の2相系鋼を双方の鋼材に用いて900℃での拡散接合を試みた接合界面付近の断面組織写真。
【図2】拡散接合を試みた積層体表面上の超音波厚さ計による厚さ測定点の位置を示す図。
【図3】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(本発明例)。
【図4】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図5】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(本発明例)。
【図6】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図7】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(本発明例)。
【図8】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図9】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図10】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図11】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図12】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図13】拡散接合試験に供した積層体の断面組織写真(比較例)。
【図14】実施例2に用いた被接合材である各ステンレス鋼材の寸法形状および拡散接合製品の外形を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一般的にステンレス鋼材同士を直接接触させた状態で拡散接合が完了するまでには、以下の過程を経ると考えられる。
[1]接触面の凹凸が変形して密着し、接触面積が増大する過程。
[2]接触面に存在していた双方の鋼材の表面酸化皮膜が分解および拡散消失する過程。
[3]原子の相互拡散および結晶粒の成長が生じる過程。
[4]接触面に介在するボイド内の残留ガスが金属素地との反応により消失する過程。
ステンレス鋼材の表面酸化皮膜は強固な不動態皮膜であるため、特に[2]の過程を完了させるためには高い接触面圧や高温での長時間保持が必要となる。これがステンレス鋼材の直接拡散接合法の工業的な普及を阻む要因となっている。
【0021】
発明者らは鋭意研究の結果、上記[2]の過程の完了を必要とすることなくステンレス鋼材の直接拡散接合を実現する手法を見出した。その手法の骨子は双方のステンレス鋼材の接触面近傍で生じる相変態の駆動力を利用して拡散接合を行うことにある。それによれば従来より低温、低接触面圧の条件で工業的な直接拡散接合が実施でき、接合面の信頼性も向上する。
【0022】
図1に、本発明対象の化学組成を有する2相系鋼を双方の鋼材に用いて900℃での拡散接合を試みた場合の接合界面付近の断面組織を例示する。この2相系鋼は後述表1のD−2に相当する鋼であり、拡散接合前の金属組織はフェライト相+M23C6(MはCr等の金属元素)系炭化物である。板厚1.0mmの2D仕上材を試料に用い、表面粗さRaが0.21μmである表面同士を直接接触させ、接触面圧を0.3MPaとし、真空引きにより10-3Paの圧力としたチャンバー内で、ヒーターにより試料を常温から900℃まで約1hで昇温させ、900℃に到達後その温度で保持し、所定の保持時間が経過した時点で炉から取り出して急冷し、断面組織を調査したものである。図1(a)は保持時間10min、(b)は保持時間50minの段階である。
【0023】
本明細書では、拡散接合前に双方の部材が接触していた位置を「界面位置」と呼ぶ。
図1(a)に見られるように、保持時間10minの段階で、界面位置を跨ぐ結晶粒が生じている。それらの結晶粒は昇温前のフェライト相と炭化物から変態により生成したオーステナイト相に相当するものである(写真は保持温度から急冷後に撮影したので、前記オーステナイト相はマルテンサイト相となっている)。この例では拡散接合前の金属組織がフェライト相+炭化物であるため、オーステナイト相への変態は炭化物を起点として生じる。生成したオーステナイト結晶はフェライト相中に粒界を拡げながら成長する。すなわち、フェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながらオーステナイト結晶粒が成長する。
【0024】
図1の例では双方の鋼材が同じ2相系鋼であるため、界面位置近傍に存在しているどちらかの鋼材の炭化物を起点として生成したオーステナイト相が成長する際、そのオーステナイト結晶粒が相手側鋼材の結晶の一部を取り込んで1つのオーステナイト結晶粒として成長し、拡散接合が進行していく。なお、図1(a)の段階では、界面位置には未接合部分が多く残っている。
【0025】
相手側の鋼材が拡散接合の保持温度でオーステナイト単相となる鋼やフェライト単相となる鋼であっても、2相系鋼の界面位置近傍の炭化物を起点として生成したオーステナイト結晶粒が成長する際、界面位置を跨いで相手材の結晶中へも成長することが確認されている。
【0026】
本発明の対象となる2相系鋼の金属組織は、化学組成や鋼板製造条件によってフェライト相+炭化物、フェライト相+マルテンサイト相、またはマルテンサイト単相となる。拡散接合時にフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動に伴う原子の拡散を利用するためには、拡散接合の加熱によってオーステナイトが生成し始める時点においてフェライト相が50体積%以上存在していることが望ましい。拡散接合に供する前記2相系鋼がマルテンサイト単相の金属組織を有している場合には、予め焼鈍を施してフェライト相+マルテンサイト相の組織としておくことが効果的である。その焼鈍としては例えば600℃〜Ac1点+50℃に材料を保持する条件が採用できるが、通常は拡散接合の昇温過程で焼鈍効果が得られ、フェライト相が存在する組織状態でオーステナイト相の生成開始を迎えることができる。
【0027】
オーステナイト結晶は、フェライト相+炭化物の組織を有する2相系鋼では炭化物を起点として生成し、フェライト相+マルテンサイト相の組織を有する2相系鋼ではマルテンサイト相を起点そして生成する。いずれの場合も2相系鋼中のオーステナイト結晶は周囲のフェライト相中へと粒界を移動させながら成長する。その際、双方の鋼材間の界面位置では拡散の障壁となる酸化物の完全消失を待たずに接合相手材の方へ結晶粒界が移動する。
【0028】
拡散接合が進行する温度での保持時間を十分に確保するとオーステナイト相の体積率増大は終了し、残部のフェライト結晶粒にも粒界移動が生じるようになる。そして、図1(b)のように、界面位置を乗り越えて成長したフェライト結晶粒が観察されるようになる。この段階になると、界面位置に残る未接合部分は非常に少なくなっており、双方の鋼材は拡散接合によって一体化したものとみなすことができる。後述する超音波厚さ計による測定で界面位置のほとんどの部分が接合している状態であることが確認できる。
【0029】
〔2相系鋼〕
本発明では、低温・低接触面圧下で直接法による拡散接合を実現するために、拡散接合に供する双方のステンレス鋼材のうち少なくとも一方に、拡散接合が進行する温度域でオーステナイト+フェライト2相組織となる鋼(2相系鋼)を適用する。具体的には昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点を650〜950℃に持ちオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼が好適な対象となる。ここで、Ac1点が880℃以上であれば必然的に880℃以上の範囲に2相温度域を有することとなるが、Ac1点があまり高いとそれに伴って2相温度域の下限が上昇するので、加熱温度の設定下限も高くなり、2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を利用して比較的低温でインサート材を使わずに拡散接合を行うという本発明のメリットが活かせない。種々検討の結果、Ac1点が950℃以下の範囲にある鋼を適用することが有効であり、900℃以下の鋼がより好適である。
【0030】
本発明で適用する2相系鋼は、拡散接合を進行させる温度域でオーステナイト+フェライト2相組織を呈するものであれば、いわゆる「マルテンサイト系ステンレス鋼」に分類される鋼種であっても構わない。マルテンサイト系ステンレス鋼は例えば1050℃以上といった高温のオーステナイト単相域から急冷することによってマルテンサイト組織を得る鋼種であるが、オーステナイト+フェライト2相温度域でオーステナイト相への変態に伴う結晶粒界の移動を利用した拡散接合が可能な組成を有するマルテンサイト系ステンレス鋼も存在する。したがって、そのようなマルテンサイト系ステンレス鋼も、本明細書では2相系鋼として扱っている。
【0031】
本発明で対象とする2相系鋼の具体的な成分組成としては、下記(A)を満たすものが例示できる。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
【0032】
ここで、上記X値は、オーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼において、昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点(℃)を精度良く推定することができる指標である。
【0033】
前記(A)の化学組成を有する2相系鋼として、特に下記(2)式で示されるγmaxが20〜100未満である鋼を適用することができる。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−50Nb−52Al+470N+189 …(2)
γmaxは1100℃程度に加熱保持した場合に生成するオーステナイト相の量(体積%)を表す指標である。γmaxが100以上となる場合、その鋼は高温でオーステナイト単相となる鋼種であるとみなすことができる。γmaxが20〜100未満である鋼においては、γ単相域を避ける温度設定が容易であり、より低温、低接触面圧側に適正条件の自由度が拡がる。γmaxが50〜80である鋼を適用することが一層好ましい。
【0034】
〔接合相手の鋼種〕
上記2相系鋼からなる鋼材と拡散接合により一体化させる相手材としては、上記2相系鋼を適用できる他、拡散接合の加熱温度域でオーステナイト単相となるオーステナイト系鋼種やフェライト単相となるフェライト系鋼種を適用することができる。2相系鋼以外を相手材に用いても、一方の2相系鋼内で変態により成長するオーステナイト相は界面位置から相手材の方へも成長するので、界面位置を跨ぐ結晶粒を介する健全な拡散接合部を構築することが可能である。
【0035】
上記オーステナイト系またはフェライト系の鋼種としては用途に応じて種々の既存鋼種が適用でき、拡散接合性の観点からは特に成分組成にこだわる必要はない。具体的な成分組成範囲は、オーステナイト系鋼種としては下記(B)、フェライト系鋼種としては下記(C)のものを挙げることができる。
【0036】
(B)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜4.0%、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:15.0〜26.0%、Mo:0〜7.0%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.1%、N:0〜0.3%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0037】
(C)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.2%、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.04%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:11.5〜32.0%、Mo:0〜2.5%、Cu:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.2%、N:0〜0.025%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【0038】
〔拡散接合条件〕
拡散接合に供する両部材間の接触面圧は1.0MPa以下とする。接触面圧が1.0MPa以下であれば、比較的簡便な設備にてインサート材を用いない拡散接合が実施できる。適用する鋼種や加熱保持温度・保持時間に応じて拡散接合が進行するに足る接触面圧を1.0MPa以下の範囲で設定すればよい。特に上記2相系鋼としてγmaxが100未満の鋼を適用する場合には0.8MPa以下の接触面圧にて良好な結果を得やすい。一方、接触面圧が極端に低いと加熱保持時間が長くなり生産性が低下する。工業的には0.03MPa以上の接触面圧を確保することが好ましく、0.1MPa以上となるように管理してもよい。なお、拡散接合に供するステンレス鋼材の接合面となる表面は、Raが0.30μm以下に平滑であることが望ましい。表面の仕上は、酸洗、光輝焼鈍、研磨のいずれであっても構わない。
【0039】
拡散接合の加熱温度は880℃以上とする。発明者らの検討によれば、上記2相系鋼の変態による粒界移動を利用する場合、従来のように高温に保持しなくてもステンレス鋼材同士の拡散接合が可能となるが、接触面圧を1.0MPa以下の条件とする場合、880℃以上での加熱が望まれる。900℃以上とすることが拡散促進の観点からより好ましい。
【0040】
ただし、双方または一方の部材に適用する前記2相系鋼のオーステナイト+フェライト2相温度域に加熱保持する必要がある。これら2相が共存する温度域に保持することで、新たに成長するオーステナイト結晶粒が接触相手材の方へと界面位置を乗り越えて成長しやすい。そのメカニズムについては現時点で不明な点も多いが以下のようなことが考えられる。2相系鋼中にフェライト相が存在している状態でオーステナイト+フェライト2相共存温度域に加熱すると、その2相系鋼中では、まず炭化物やマルテンサイト相を起点としてオーステナイト結晶が生成する。生成したオーステナイト結晶とその周囲のフェライト結晶の間の結晶粒界は、フェライト相とオーステナイト相の比率を平衡状態に近づけようとする「変態の駆動力」によって、非常に動きやすい状態となる。この変態の駆動力を利用してオーステナイト結晶は2相系鋼中で隣接するフェライト結晶の中に粒界を移動させながら成長する。その際、接触相手材との界面位置に面して成長中のオーステナイト結晶粒は、エネルギー的により安定した存在形態となろうとして接触相手材の結晶粒内へも粒界を移動して拡がるものと考えられ、結果的に界面位置を跨ぐオーステナイト結晶粒となる。両部材の界面位置が部分的にオーステナイト結晶粒で繋がると、それらのオーステナイト結晶粒の近傍で界面位置に面して存在している両部材の結晶粒も拡散によって互いに粒界移動を生じ、拡散接合が進行していく。
【0041】
880℃以上でフェライト単相となる鋼やオーステナイト単相となる鋼を上記2相系鋼の代わりに用いた場合には、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃という低接触面圧・低温加熱での条件下では界面位置に未接合部分(欠陥)が残りやすいことが確認されている。このことから、上記2相系鋼の変態駆動力を利用することが、低接触面圧・低温加熱でのステンレス鋼材同士の拡散接合の進行を促進させるうえで極めて有利であると言える。
【0042】
上記(2)式のγmaxが100以下である化学組成を有する2相系鋼は、概ね1100℃より低い温度範囲にオーステナイト+フェライト2相組織となる温度領域がある。発明者らの検討によると、γmaxが20〜100未満に調整された2相系鋼を用いる場合、接触面圧0.03〜0.8MPa、加熱温度880〜1030℃の条件範囲で拡散接合を進行させることができ、拡散接合条件の低接触面圧化、低温度化に有利となる。特にγmaxが50〜80である2相系鋼を用いると拡散接合条件の自由度がより一層拡大し、接触面圧0.03〜0.5MPa、加熱温度880〜1000℃の範囲に適正な条件を見出すことができる。この場合、加熱温度の上限は例えば980℃以下の低温域に設定してもよい。
【0043】
拡散接合の加熱は従来一般的なインサート材を用いたステンレス鋼材同士の拡散接合の場合と同様に、真空引きにより圧力を概ね10-3Pa以下とした雰囲気中で被接合部材を加熱保持することによって行うことができる。ただし、インサート材は使用せず、接合するステンレス鋼材同士を直接接触させる。接触面圧は前述のように1.0MPa以下の範囲で設定する。加熱方法はヒーターにより炉内の部材全体を均一に加熱する方法の他、通電による抵抗加熱によって接触部近傍を所定の温度に加熱する方法を採用することもできる。加熱保持時間は30〜120minの範囲で設定すればよい。
【実施例】
【0044】
〔実施例1〕
表1に示す化学組成を有する鋼板を用意した。D−1〜D−3はγmaxが100未満の鋼、M−1〜M−2はいわゆるマルテンサイト系ステンレス鋼に分類される鋼、F−1はフェライト単相鋼、A−1はオーステナイト単相鋼である。鋼板の板厚、表面仕上、表面粗さRaも表1に記載してある。用意した各鋼板の金属組織は、D−1〜D〜3はフェライト相+炭化物、M−1、M−2はフェライト相+マルテンサイト相、M−3はマルテンサイト単相、F−1はフェライト単相、A−1はオーステナイト単相である。
【0045】
【表1】
【0046】
各鋼板から20mm×20mmの平板試験片を切り出し、以下の方法にて2枚の試験片を重ね合わせて拡散接合を試みた。
拡散接合を試みる2枚の試験片を互いの表面同士が接触するように積層した状態とし、てこの原理を利用した治具を用いてこれら2枚の試験片の接触表面に付与される面圧(接触面圧)を所定の大きさに調整した。この治具はカーボンコンポジット製の支柱にカーボンコンポジット製のアームが水平方向の固定軸周りに回転可能な状態で取付けられており、そのアームに吊り下げた錘の重力によって積層した試験片に荷重を付与するものである。すなわちこの治具は、アームの前記固定軸位置を支点、積層した試験片に荷重を付与する位置を作用点、錘を吊す位置を力点とし、支点と力点の間に作用点が位置するてこを構成しており、錘にかかる重力が増幅されて試験片の接触面に作用するようになっている。以下、積層した2枚の試験片を「鋼材1」および「鋼材2」と呼び、鋼材1と鋼材2が積層した状態のものを「積層体」と呼ぶ。
【0047】
以下の加熱処理により鋼材1と鋼材2の拡散接合を試みた。上記治具により積層体に所定の荷重を付与した状態とし、治具と積層体を真空炉に装入し、真空引きを行って圧力10-3〜10-4Paの真空度としたのち、880℃以上の範囲に設定した所定の加熱温度まで約1hで昇温し、その温度で2h保持した後、冷却室に移して冷却した。冷却は保持温度−100℃まで上記真空度を維持し、その後Arガスを導入して90kPaのArガス雰囲気中で約100℃以下まで冷却した。
【0048】
上記加熱処理を終えた積層体について、超音波厚さ計(オリンパス社製;Model35DL)を用いて、図2に示すように20mm×20mmの積層体表面上に3mmピッチで設けた49箇所の測定点において厚さ測定を行った。プローブ径は1.5mmとした。ある測定点での板厚測定値が鋼材1と鋼材2の合計板厚を示す場合には、その測定点に対応する両鋼材の界面位置では原子の拡散によって両鋼材が一体化しているとみなすことができる。一方、板厚測定値が鋼材1と鋼材2の合計板厚に満たない場合には、その測定点に対応する両鋼材の界面位置に未接合部(欠陥)が存在する。発明者らは加熱処理後の積層体の断面組織と、この測定手法により得られた測定結果との対応関係を詳細に調べたところ、測定結果が鋼材1と鋼材2の合計板厚となった測定点の数を測定総数49で除した値(これを「接合率」と呼ぶ)によって、接触面積に占める接合部分の面積率が精度良く評価できることを確認した。そこで、以下の評価基準で拡散接合性を評価した。
◎:接合率100%(拡散接合性;優秀)
○:接合率90〜99%(拡散接合性;良好)
△:接合率60〜89%(拡散接合性;やや不良)
×:接合率0〜59%(拡散接合性;不良)
種々検討の結果、○評価において拡散接合部の強度は十分に確保され、かつ両部材間のシール性(連通する欠陥を介する気体の漏れが生じない性質)も良好であることから、○評価以上を合格と判定した。
評価結果を表2に示す。
【0049】
また、上記加熱処理を終えた積層体について、厚さ方向に平行な断面内の界面位置を含む領域について光学顕微鏡で組織観察を行った。その結果、顕微鏡観察により観測される拡散接合の進行の程度(すなわち界面位置における未接合部分の消失の程度)と、上記の「接合率」の値は良好な対応関係にあることが確認された。図3〜図13に、いくつかの例について断面組織写真を例示する。ここに示した組織写真は、◎評価のものを除き、界面位置に未接合部分ができるだけ多く残存している箇所を意図的に選んで撮影したものである。これらの断面組織写真がどの試験No.に該当するかは表2中に記載してある。
【0050】
【表2】
【0051】
表2からわかるように、本発明に従う2相系鋼を双方または一方の鋼材に用いた本発明例では、接触面圧1.0MPa以下かつ加熱温度1080℃以下の条件で拡散接合を進行させることができ、健全な拡散接合部が得られた。加熱温度を1100℃以上といった高温に設定する必要がないことから結晶粒の粗大化も抑制され、拡散接合製品の機械的性質の改善にもつながる。γmaxが100以下である2相系鋼(D−1〜D−3)を採用した場合には適正な拡散接合条件範囲が接触面圧、保持温度とも低い方向に拡がる。中でもγmaxが50〜80に調整された2相系鋼(D−1、D−2)を使用すると適正条件範囲が一層拡がり、製造コストの面でも有利となる。
【0052】
これに対し、比較例No.9、17、20、22、25は加熱温度が高いために結晶粒が粗大化した(図4、図6、図8参照)。No.21、24は2相系鋼としてγmaxが100以上のマルテンサイト系ステンレス鋼を採用したものであり、2相温度域でのオーステナイト相への変態の駆動力はγmaxが100未満の鋼種より小さいものと考えられ、保持温度を1000℃まで下げると拡散接合は進行しなかった。No.27、28はオーステナイト+フェライト2相組織となる温度域が存在しないと考えられるマルテンサイト系ステンレス鋼同士を適用したことにより、適正な拡散接合条件を見出すことができなかった。No.32およびNo.33は880〜1080℃においてそれぞれフェライト単相組織およびオーステナイト単相組織となる鋼同士の拡散接合を試みたものであるが、本発明例のように低接触面圧、低加熱温度での拡散接合は実現できななかった。
【0053】
〔実施例2〕
表3に示す化学組成の鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3〜4mmの熱延板とし、焼鈍、酸洗、冷間圧延、仕上焼鈍、酸洗を順次行う工程により板厚1.0mmの供試鋼板とした。D−11〜D−15は本発明対象の2相系鋼、F−11はフェライト単相鋼、A−11はオーステナイト単相鋼である。鋼板の板厚、表面仕上、表面粗さRaも表3に記載してある。各鋼板の金属組織は、D−11〜D〜15はフェライト相+炭化物、F−11はフェライト単相、A−11はオーステナイト単相である。
【0054】
【表3】
【0055】
鋼D−11〜D−15の各供試鋼板から切削加工により100mm角の鋼材(以下「平板材」という)を作製した。また、全ての鋼種の供試鋼板から切削加工により100mm角の板の中央をくりぬいて幅5mmの枠で構成される鋼材(以下「枠材」という)を作製した。その際、バリは除去していない。平板材と枠材には対角線上端部付近2箇所に6mmΦの穴を形成した。図14(a)の[1][5]に平板材の寸法・形状を、同[2]〜[4]に枠材の寸法・形状をそれぞれ模式的に示してある。図14に示すように3枚の枠材を重ね、その両側を平板材で蓋をするように、図14(a)に示す[1]〜[5]の積層順でこれらの鋼材を重ね合わせて積層体とし、各鋼材を連通する上記穴にAlloy600製の5mmΦのピンを差し込み、水平に置かれたこの積層体の上面に質量5kgの錘を乗せ、真空拡散接合に供した。このとき鋼材間の接触面には約0.05MPaの面圧が付与されている。
【0056】
鋼材[1]〜[5]の組み合わせは以下の2パターンとした。
パターンA;[1]〜[5]全てが本発明対象の2相系同一鋼種。
パターンB;[1][3][5]が本発明対象の2相系同一鋼種、その相手材に相当する[2][4]がオーステナイト系同一鋼種またはフェライト系同一鋼種。
【0057】
拡散接合は、上記積層体を真空炉に装入して10-3Pa以下の圧力となるまで真空引きした後、900〜1100℃の範囲に設定した加熱温度まで昇温してその温度に60min保持し、その後、炉中で放冷する手法にて行った。
【0058】
〔拡散接合部の信頼性評価〕
上記のステンレス鋼拡散接合製品(図14(b)の形状のもの)について、大気中800℃で24hの加熱試験に供した。その後、図14(b)のa−a’の位置で積層方向に切断し、内部の空洞表面(内表面)の酸化の有無を目視で調査した。拡散接合部に外部と繋がる空隙が存在していた場合や、当該加熱処理時に拡散接合部に破損が生じた場合には、内部に酸素が侵入するため加熱試験後の内表面は酸化され、当初の金属光沢が失われる。一方、拡散接合部の健全性が維持され内部が高真空の状態に保たれている場合は加熱試験後の内表面はステンレス鋼特有の金属光沢を呈する。そこで、内表面が当初の金属光沢を維持しているステンレス鋼拡散接合製品を○(拡散接合部の信頼性;良好)、それ以外を×(拡散接合部の信頼性;不良)と評価した。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4からわかるように、拡散接合部において双方の鋼材の少なくとも一方に本発明対象の2相系鋼を適用することによって、880〜1000℃という低温下で信頼性に優れる拡散接合製品が得られた。
【0061】
これに対し比較例であるNo.49、50は2相系鋼を使用しなかったものであり、1100℃でも信頼性に優れる拡散接合製品が得られなかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点を650〜950℃に持ちオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
【請求項2】
ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に下記(A)の化学組成を有しオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
【請求項3】
ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の一方に下記(A)の化学組成を有しオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼、他方に下記(B)の化学組成を有するステンレス鋼をそれぞれ適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
(B)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜4.0%、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:15.0〜26.0%、Mo:0〜7.0%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.1%、N:0〜0.3%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【請求項4】
ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の一方に下記(A)の化学組成を有しオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼、他方に下記(C)の化学組成を有するステンレス鋼をそれぞれ適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
(C)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.2%、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.04%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:11.5〜32.0%、Mo:0〜2.5%、Cu:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.2%、N:0〜0.025%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【請求項5】
前記(A)の化学組成を有する2相系鋼として、下記(2)式で示されるγmaxが20〜100未満である鋼を適用する請求項2〜4のいずれかに記載のステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−50Nb−52Al+470N+189 …(2)
【請求項6】
前記(A)の化学組成を有する2相系鋼として、下記(2)式で示されるγmaxが20〜100未満である鋼を適用し、接触面圧0.03〜0.8MPa、加熱温度880〜1030℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる請求項2〜4のいずれかに記載のステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−50Nb−52Al+470N+189 …(2)
【請求項1】
ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に昇温過程でのオーステナイト変態開始温度Ac1点を650〜950℃に持ちオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
【請求項2】
ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の少なくとも一方に下記(A)の化学組成を有しオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼を適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
【請求項3】
ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の一方に下記(A)の化学組成を有しオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼、他方に下記(B)の化学組成を有するステンレス鋼をそれぞれ適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
(B)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜4.0%、Mn:0.001〜2.5%、P:0.001〜0.045%、S:0.0005〜0.03%、Ni:6.0〜28.0%、Cr:15.0〜26.0%、Mo:0〜7.0%、Cu:0〜3.5%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.1%、N:0〜0.3%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【請求項4】
ステンレス鋼材同士を直接接触させて拡散接合により一体化させるに際し、接触させる双方のステンレス鋼材の一方に下記(A)の化学組成を有しオーステナイト+フェライト2相温度域を880℃以上の範囲に持つ2相系鋼、他方に下記(C)の化学組成を有するステンレス鋼をそれぞれ適用し、接触面圧1.0MPa以下、加熱温度880〜1080℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる、ステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
(A)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.0%、Mn:0.001〜1.0%、Ni:0.05〜2.5%、Cr:13.0〜18.5%、Cu:0〜0.2%、Mo:0〜0.5%、Al:0〜0.05%、Ti:0〜0.2%、Nb:0〜0.2%、V:0〜0.2%、B:0〜0.01%、N:0.005〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、下記(1)式で示されるX値が650〜950である。
X値=35(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti+21.4Al+40.0B−7.14C−8.0N−3.28Ni−1.89Mn−0.51Cu)+310 …(1)
(C)質量%で、C:0.0001〜0.15%、Si:0.001〜1.2%、Mn:0.001〜1.2%、P:0.001〜0.04%、S:0.0005〜0.03%、Ni:0〜0.6%、Cr:11.5〜32.0%、Mo:0〜2.5%、Cu:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Al:0〜0.2%、N:0〜0.025%、B:0〜0.01%、V:0〜0.5%、W:0〜0.3%、Ca、Mg、Y、REM(希土類元素)の合計:0〜0.1%、残部Feおよび不可避的不純物からなる。
【請求項5】
前記(A)の化学組成を有する2相系鋼として、下記(2)式で示されるγmaxが20〜100未満である鋼を適用する請求項2〜4のいずれかに記載のステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−50Nb−52Al+470N+189 …(2)
【請求項6】
前記(A)の化学組成を有する2相系鋼として、下記(2)式で示されるγmaxが20〜100未満である鋼を適用し、接触面圧0.03〜0.8MPa、加熱温度880〜1030℃の条件範囲で前記2相系鋼のフェライト相がオーステナイト相へ変態するときの粒界移動を伴いながら拡散接合を進行させる請求項2〜4のいずれかに記載のステンレス鋼拡散接合製品の製造方法。
γmax=420C−11.5Si+7Mn+23Ni−11.5Cr−12Mo+9Cu−49Ti−50Nb−52Al+470N+189 …(2)
【図2】
【図14】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−103271(P2013−103271A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251157(P2011−251157)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】
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