説明

ステンレス鋼溶接部のスケール除去剤とスケールの除去方法

【課題】フッ素酸を使用せずに、高いスケール除去効果が得られる、新規のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤とスケールの除去方法を提供する。
【解決手段】3.5〜10質量%の硝酸、10〜20質量%のクエン酸、0.6〜1.7質量%のキトサン、及び3.0〜10質量%の両性界面活性剤を含む水溶液をスケール除去剤とした。スケール除去剤にステンレス鋼溶接部を浸漬し、40〜80℃に加温し、浸漬時間を10〜200分とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼溶接部のスケール除去剤とスケールの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼とは、クロムやニッケルを含んだ合金鋼のことであり、少量含有されているクロムが表面に不動態皮膜を形成するため錆びにくいという特徴をもつ。このため、ステンレス鋼は、耐食性に優れる衛生的な材料として、食品製造設備や厨房器具などの工業分野だけでなく、家庭分野でも広く利用されている。
【0003】
ステンレス鋼は、接合が難しく、一般には溶接にて接合される。しかしながら、ステンレス鋼は融点が高いため、溶接するためには、かなりの高温を要する。そのため、溶接部位が酸化、変色する。この変色はスケールと呼ばれる。このスケールは、直接人体や環境などに影響を及ぼすことはないが、美観が大きく低下してしまう。そこで、スケール除去剤によりスケールが除去されている。
【0004】
ステンレス鋼は、錆びないことが特徴であることから、スケールを除去することは非常に難しい。そこで、従来、フッ化水素酸と硝酸の混合溶液を主としたスケール除去剤が使用されている。その理由は、フッ化水素酸と硝酸の混合溶液は、酸に耐食性の強い物質も溶解させることができ、優れたスケールの除去能力を有するからである。
【0005】
フッ化水素酸と硝酸の混合溶液は、特許文献1に開示されているように改良が行われつつ、現在も使用されている。なお、混合溶液中、一般的には、フッ化水素酸は3%から20%程度、硝酸は10%から50%程度が含まれている。しかし、フッ化水素酸は毒性が非常に高く、作業環境上、フッ化水素酸の使用は好ましくない。
【0006】
一方、フッ化水素酸を全く使用していないスケール除去剤も特許文献2に開示されている。しかし、このスケール除去剤を用いた場合には、高いスケール除去効果が得られず、スケールを除去することにより金属光沢が失われてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−13183号公報
【特許文献2】特開2005−232585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明では上記問題点に鑑み、フッ素酸を使用せずに、高いスケール除去効果が得られる、新規のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤とスケールの除去方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため鋭意検討した結果、硝酸、クエン酸、キレート剤、及び界面活性剤を含む水溶液にステンレス鋼溶接部を浸漬することにより、スケールが除去されることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤は、硝酸、キレート剤、クエン酸、及び界面活性剤を含む水溶液であることを特徴とする。
【0011】
また、キレート剤がキトサンであることを特徴とする。
【0012】
また、界面活性剤が両性界面活性剤又は陽イオン界面活性剤であることを特徴とする。
【0013】
また、3.5〜10質量%の硝酸、10〜20質量%のクエン酸、0.6〜1.7質量%のキトサン、及び3.0〜10質量%の両性界面活性剤を含む水溶液であることを特徴とする。
【0014】
本発明のステンレス鋼溶接部のスケール除去方法は、本発明のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤にステンレス鋼溶接部を浸漬し、40〜80℃に加温することを特徴とする。
【0015】
また、浸漬時間が10〜200分であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フッ素酸を使用せずに、高いスケール除去効果で、ステンレス鋼溶接部のスケールを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1においてスケールを除去する前の試験片の表面をESCA法にて測定した結果を示すチャートである。
【図2】実施例1においてスケールを除去した後の試験片の表面をESCA法にて測定した結果を示すチャートである。
【図3】実施例3における試験片の写真である。
【図4】実施例3におけるスケール部の表面反射率のグラフである。
【図5】実施例4における試験片の写真である。
【図6】実施例4におけるスケール部の表面反射率のグラフである。
【図7】実施例4におけるスケール周辺部の表面反射率のグラフである。
【図8】実施例5における試験片の写真である。
【図9】実施例5におけるスケール部の表面反射率のグラフである。
【図10】実施例6におけるスケール除去率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤は、硝酸、クエン酸、キレート剤、及び界面活性剤を含む水溶液である。なお、これらのほかに、着色料、アルコール、アルコール系添加物、有機酸、無機弱酸、無機塩、特に硝酸塩などが含まれていてもよい。また、キレート剤、界面活性剤は、複数の種類のものが含まれていてもよい。
【0019】
本発明のスケール除去剤に含まれる硝酸の濃度については、2質量%未満ではスケールが除去されず、2質量%以上4質量%未満では一部のスケールが除去されずに残り、4質量%以上のときにスケールが十分に除去される。一方、必要以上に濃度を高くしてもスケールの除去効果は変わらず、また、必要以上に濃度を高くすると環境負荷が増加する。したがって、硝酸の濃度は、3.5〜10質量%とするのが好ましく、特に4〜6質量%とするのが好ましい。
【0020】
本発明のスケール除去剤に含まれるクエン酸の濃度については、7質量%以上であればスケールの除去効果は十分である。しかし、10質量%未満ではスケールがあった部位とスケールがなかった部位の間でステンレス鋼の色に差が出てしまい、一方、20質量%を超えるとスケールの除去効果が低下する。したがって、クエン酸の濃度は、10〜20質量%とするのが好ましい。
【0021】
本発明のスケール除去剤において、キレート剤は、ステンレス鋼から除去されたスケールがステンレス鋼に再付着することを防止するために添加される。EDTA(エチレンジアミン四酢酸、ethylenediaminetetraacetic acid)などの種々の公知のキレート剤を使用することができるが、低コストで環境負荷が小さいことから、キトサンが好適に用いられる。また、キトサンの中でも、中粘度(200〜600mPa・s)のキトサンが特に好適に用いられる。キレート剤としてキトサンを用いた場合、本発明のスケール除去剤に含まれるキトサンの濃度については、0.6質量%未満、及び1.7質量%超ではスケールがあった部位とスケールがなかった部位の間でステンレス鋼の色に差が出てしまう。また、1.7質量%超では粘度が高くなり、スケール除去剤の流動性に問題を生じる可能性がある。したがって、キトサンの濃度は、0.6〜1.7質量%とするのが好ましい。
【0022】
本発明のスケール除去剤において、界面活性剤としては、種々の公知のものを使用することができるが、スケール除去剤のスケールの除去効果の点から、両性界面活性剤又は陽イオン性界面活性剤が好適に用いられる。両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインが主成分であるアンヒトール20BS(花王株式会社製)、陽イオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドを主成分とするコータミン24P(花王株式会社製)が好適に用いられる。界面活性剤として両性界面活性剤であるアンヒトール20BSを用いた場合、本発明のスケール除去剤に含まれる両性界面活性剤の濃度については、3.0質量%未満では界面活性剤添加によるスケールの除去効果が見られず、10質量%を超えるとスケールの除去効果が大きく低下する。したがって、両性界面活性剤の濃度は、3.0〜10質量%とするのが好ましい。
【0023】
本発明のスケール除去剤において、水としては純水が好ましいが、水道水や工業用水も使用可能である。
【0024】
本発明のステンレス鋼溶接部のスケール除去方法は、本発明のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤にステンレス鋼溶接部を浸漬し、40〜80℃に加温する。本発明のスケール除去剤は、室温でも使用可能であるが、加温を行うことにより、反応速度を速めてスケール除去に要する時間を短縮することができる。なお、加温の効果が見られるのは40℃以上のときであり、40℃未満のときは加温の効果はほとんど認められない。一方、80℃を超えて加温すると、突沸のおそれがある。
【0025】
本発明のステンレス鋼溶接部のスケール除去方法において、ステンレス鋼溶接部の浸漬時間は、10〜200分である。40〜80℃に加温してスケール除去をした場合、浸漬時間が200分を超えるとステンレス鋼の溶解が進み、強度が弱くなるとともに、熱酸化に伴う黒錆が発生する。一方、浸漬時間が10分未満の場合、スケール除去が十分に行えない。
【0026】
以下、本発明のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤とスケールの除去方法の実施例について説明する。
【実施例1】
【0027】
純水に工業用クエン酸(磐田化学製)を14質量%、硝酸を5質量%、工業用キトサン(ダイキトサンM、大日精化製)を1.1質量%、両性界面活性剤(アンヒトール20BS、花王製)を3.7質量%となるように添加して、本実施例のスケール除去剤を調製した。また、2枚のステンレス鋼(SUS304、厚さ5mm、縦3cm、横5cm)の板をアーク溶接し、これを試験片とした。そして、試験片を60℃に加温したスケール除去剤200mL中に60分間浸漬した。その後、水で十分に洗浄した。
【0028】
また、比較のため、フッ化水素酸5質量%、硝酸48質量%を含む従来のスケール除去剤に、上記と同様に作製した試験片を室温で60分間浸漬した。
【0029】
その結果、目視において、本実施例のスケール除去剤を用いた場合において、従来のスケール除去剤を用いた場合と同等のスケールの除去効果があることが確認された。
【0030】
また、本実施例のスケール除去剤を用いてスケールを除去する前後の試験片の表面を、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)法にて測定した結果を図1、2に示す。なお、これらの図は、試験片の表面から深さ方向の組成の分布を示している。スケールを除去する前は、図1に示すように、試験片の表面には酸化層が見られた。一方、スケールを除去した後は、図2に示すように、試験片の表面の酸化層が完全に除去されていた。
【0031】
また、試験片をX線回折法にて測定したところ、スケールを除去する前には酸化鉄(Fe)のピークが存在したが、スケールを除去した後には酸化鉄のピークは消失していた。
【実施例2】
【0032】
試験片を実施例1のスケール除去剤に室温(20℃)で8時間浸漬した。その結果は、実施例1と同じであった。
【実施例3】
【0033】
スケール除去剤中の硝酸の濃度がスケールの除去効果に及ぼす影響について検討した。なお、試験片は実施例1で作製したものと同じものを用いた。
【0034】
表1に示す配合比にて、純水に工業用クエン酸(磐田化学製)、硝酸、工業用キトサン(ダイキトサンM、大日精化製)、両性界面活性剤(アンヒトール20BS、花王製)を添加して、スケール除去剤をそれぞれ調製した。そして、それぞれのスケール除去剤について、スケールの除去効果を検討した。
【0035】
【表1】

【0036】
試験片を60℃に加温したスケール除去剤200mL中に60分間浸漬した。その後、水で十分に洗浄した。そして、スケール部の評価を行った。
【0037】
スケール部の評価には、可視領域における分光式色差計(日本電色 NF333)を用い、溶接部分の表面反射率を8mm径のプローブを用いて測定し、目標値(電解研磨後の試験片の反射率)と比較することで、スケール除去効果を評価した。また、スケール除去効果を数値で示すために、除去率を算出した。算出式には(1)式を用いた。なお、表面反射率の測定は、それぞれの試験片について4点測定し、そのときの測定範囲は、可視光領域である400〜700nmとした。
【0038】
【数1】

【0039】
浸漬処理後の試験片の写真を図3に、それらのスケール部の表面反射率を図4に示す。
【0040】
図3より、硝酸濃度の上昇に伴ってスケール除去効果が向上していることが確認された。また、硝酸濃度0質量%、1質量%のときはスケール除去能力が不十分であり、3.5質量%のときに一部のスケールが除去されていることが確認された。さらに、硝酸濃度が5質量%、10質量%のときは十分なスケール除去効果があることが分かった。
【0041】
また、図4より、スケール部の表面反射率は硝酸濃度の上昇に伴って高くなり、硝酸濃度5質量%、10質量%のときに目標値を上回った。測定した表面反射率より算出したスケール除去率は、硝酸濃度が低いものから順に39%、55%、86%、103%、110%となった。
【0042】
以上の結果より、硝酸濃度3.5質量%のときのスケール除去効果はやや低いものの、硝酸濃度5質量%、10質量%のときのスケール除去効果はほぼ同等であった。また、環境負荷を考慮すると、硝酸濃度は可能な限り低いことが望ましい。したがって、硝酸の濃度は、3.5〜10質量%とするのが好ましく、特に4〜6質量%とするのが好ましいことがわかった。
【実施例4】
【0043】
スケール除去剤中のクエン酸の濃度がスケールの除去効果に及ぼす影響について検討した。なお、試験片は実施例1で作製したものと同じものを用いた。
【0044】
表2に示す配合比にて、純水に工業用クエン酸(磐田化学製)、硝酸、工業用キトサン(ダイキトサンM、大日精化製)、両性界面活性剤(アンヒトール20BS、花王製)を添加して、スケール除去剤をそれぞれ調製した。そして、それぞれのスケール除去剤について、スケールの除去効果を検討した。
【0045】
【表2】

【0046】
試験片を60℃に加温したスケール除去剤200mL中に60分間浸漬した。その後、水で十分に洗浄した。そして、実施例3と同様にスケール部の評価を行った。
【0047】
また、スケール除去の目的はスケールを目立たなくすることであり、スケール除去後の試験片は色が均一であることが理想的である。そこで、スケール周辺部におけるスケール除去能力についても評価した。
【0048】
スケール周辺部の評価には、スケール部の評価に用いた分光式色差計を用い、処理後の試験片のスケール周辺部の表面反射率を測定して、スケール部の表面反射率と比較して色にムラがないかを確認した。この測定により得られた表面反射率の値に大きな差がなければ、測定した試験片のスケールはスケール部、スケール周辺部ともにきれいに除去されていると考えられる。なお、測定範囲は可視光領域の400〜700nmとし、プローブは4mm径のものを使用した。
【0049】
浸漬処理後の試験片の写真を図5に、それらのスケール部の表面反射率を図6に、スケール周辺部の表面反射率を図7に示す。
【0050】
図5より、クエン酸濃度0質量%、3.5質量%のときはスケール除去能力が不十分であり、クエン酸濃度7質量%、10質量%、14質量%、17質量%のときに十分なスケール除去効果があることが確認された。また、クエン酸濃度7質量%のときにスケール部のスケールは十分に除去されるものの、スケール周辺部は金属光沢がなく色が不均一となった。一方、クエン酸濃度14質量%、17質量%のときはスケール部とスケール周辺部の両方に金属光沢があり色がほぼ均一になった。さらに、クエン酸濃度が21質量%のときはスケールの周辺部に黒い線が残ってしまったことから、クエン酸添加量の増加に伴いスケール除去能力が向上するわけではないことが確認された。
【0051】
また、図6より、スケール部の表面反射率は、クエン酸濃度7質量%、10質量%、14質量%、17質量%のときに目標値を上回った。測定した表面反射率より算出したスケール除去率は、クエン酸濃度が低いものから順に71%、82%、96%、102%、116%、109%、95%となった。
【0052】
また、図7より、スケール周辺部の表面反射率は、目視評価にて試験片全体の色が均一であると判断したクエン酸濃度14質量%、17質量%のときに、スケール部の表面反射率に近い値が得られた。
【0053】
以上の結果より、クエン酸濃度は10〜20質量%とするのが好ましいことが分かった。
【実施例5】
【0054】
スケール除去剤中のキレート剤の濃度がスケールの除去効率に及ぼす影響について検討した。なお、試験片は実施例1で作製したものと同じものを用いた。
【0055】
純水に工業用クエン酸(磐田化学製)を14質量%、硝酸を5質量%、工業用キトサン(ダイキトサンM、大日精化製)を0質量%、0.6質量%、1.1質量%、1.7質量%、又は2.2質量%、両性界面活性剤(アンヒトール20BS、花王製)を3.7質量%となるように添加して、スケール除去剤をそれぞれ調製した。そして、それぞれのスケール除去剤について、スケールの除去効果を検討した。
【0056】
試験片を60℃に加温したスケール除去剤200mL中に60分間浸漬した。その後、水で十分に洗浄した。そして、実施例3と同様にスケール部の評価を行った。
【0057】
浸漬処理後の試験片の写真を図8に、それらのスケール部の表面反射率を図9に示す。
【0058】
図8より、キトサン濃度0質量%を除き、すべての試験片においてスケールが十分に除去されたことが確認された。また、キトサン濃度0.6質量%、1.7質量%、2.2質量%のときにスケール部のスケールは十分に除去されるものの、スケール周辺部は金属光沢がなく色が不均一となった。一方、キトサン濃度1.1質量%のときはスケール部とスケール周辺部の両方に金属光沢があり色がほぼ均一になった。
【0059】
また、図9より、スケール部の表面反射率は、キトサン濃度0質量%のときを除き、目標値を上回った。測定した表面反射率より算出したスケール除去率は、キトサン濃度が低いものから順に92%、130%、127%、127%、136%となった。
【0060】
さらに、スケール除去剤の粘度を測定したところ、キトサン濃度が低いものから順に1.63mPa・s、14.1mPa・s、41.5mPa・s、169mPa・s、192mPa・sとなり、キトサン濃度が1.7質量%、2.2質量%のときに150mPa・sを超えているのに対し、キトサン濃度1.1質量%のときは41.5mPa・sであり、流動性に問題がないことが確認された。
【0061】
以上の結果より、キトサン濃度は0.6〜1.7質量%とするのが好ましいことが分かった。
【実施例6】
【0062】
スケール除去剤中の界面活性剤の種類と濃度がスケールの除去効果に及ぼす影響について検討した。なお、試験片は実施例1で作製したものと同じものを用いた。
【0063】
純水に工業用クエン酸(磐田化学製)を14質量%、硝酸を5質量%、工業用キトサン(ダイキトサンM、大日精化製)を1.1質量%となるように添加し、さらに、各種の界面活性剤を添加して、スケール除去剤をそれぞれ調製した。そして、それぞれのスケール除去剤について、スケールの除去効果を検討した。
【0064】
試験片を60℃に加温したスケール除去剤200mL中に60分間浸漬した。その後、水で十分に洗浄した。そして、実施例3と同様にスケール部の評価を行った。
【0065】
浸漬処理後のスケール除去率を表3に、界面活性剤にラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインを主成分とするアンヒトール20BS(花王製)を用いた場合の界面活性剤の含有量とスケール除去率の関係を図10に示す。なお、表3中の界面活性剤は全て花王株式会社製である。
【0066】
【表3】

【0067】
表3に示すように、特に、両性界面活性剤であるアンヒトール20BS、陽イオン性界面活性剤であるコータミン24Pを使用した場合に、スケールの除去効果が高かった。
【0068】
また、図10より、界面活性剤にアンヒトール20BSを用いた場合、スケール除去率は、界面活性剤濃度0質量%、0.7質量%、2.2質量%、14.0質量%のときは低く、界面活性剤濃度3.7質量%、7.1質量%のときに100%を上回った。
【0069】
以上の結果より、界面活性剤としては、両性界面活性剤であるアンヒトール20BSと陽性界面活性剤であるコータミン24Pが好ましく、界面活性剤にアンヒトール20BSを用いた場合、界面活性剤濃度は3.0〜10質量%とするのが好ましいことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸、クエン酸、キレート剤、及び界面活性剤を含む水溶液であることを特徴とするステンレス鋼溶接部のスケール除去剤。
【請求項2】
キレート剤がキトサンであることを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤。
【請求項3】
界面活性剤が両性界面活性剤又は陽イオン界面活性剤であることを特徴とする請求項1又は2記載のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤。
【請求項4】
3.5〜10質量%の硝酸、10〜20質量%のクエン酸、0.6〜1.7質量%のキトサン、及び3.0〜10質量%の両性界面活性剤を含む水溶液であることを特徴とするステンレス鋼溶接部のスケール除去剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のステンレス鋼溶接部のスケール除去剤にステンレス鋼溶接部を浸漬し、40〜80℃に加温することを特徴とするステンレス鋼溶接部のスケール除去方法。
【請求項6】
浸漬時間が10〜200分であることを特徴とする請求項5記載のステンレス鋼溶接部のスケール除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−117116(P2012−117116A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268420(P2010−268420)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】