説明

ステータコア、その製造方法及びその製造方法に用いるマスキング治具

【課題】塗膜によって巻線との絶縁性を適切に確保するとともに、所定の取付部位への取付を容易に行うことができるステータコア、その製造方法及びその製造方法に用いるマスキング治具を提供すること。
【解決手段】ステータコア2は、複数の電磁鋼板20を軸方向Lに積層してなるとともに、円環状のヨーク部21の内周側に複数のティース部22とスロット23とを交互に放射状に形成してなる。ステータコア2は、複数のスロット23における一対の周方向側面231及び外周側底面232と、ヨーク部21における所定の径方向中間位置Pよりも内周側に位置する軸方向両端面201とに、塗膜3を形成してなる。ステータコア2は、ヨーク部21における径方向中間位置Pよりも外周側に位置する軸方向両端面201の全体と、ティース部22における内周側端面221とを露出させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用のステータコア、その製造方法及びその製造方法に用いるマスキング治具に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機に用いられるステータ(固定子)は、電磁鋼板を積層してなるステータコアを形成し、このステータコアに設けた複数のスロットに対して巻線を配置して形成している。この際には、ステータコアと巻線との絶縁性を確保するために、スロット内に絶縁紙を配置することが行われている。これに対し、ステータコアに対して粉体塗装を行って、巻線との絶縁性を確保する方法もある。
【0003】
例えば、特許文献1の粉体塗装装置および回転電機の固定子の製造方法においては、回転保持機構に保持して回転させる塗装対象物の塗装部位に向けて、粉体ノズルから樹脂粉体を噴射して、粉体塗装を行うことが開示されている。そして、塗装対象物の非塗装部位に対してマスキング治具を配置し、マスキング治具と塗装対象物との間に形成された隙間から圧縮空気を噴出させることによって、非塗装部位にマスキング不良が発生することを防止し、必要箇所に対して良好な粉体塗装を行っている。
また、特許文献2の静電作用を利用した塗装方法においては、被塗装物の塗装不要部に樹脂製のマスキング材を配置した後、被塗装物を接地し、被塗装物に対して帯電した塗料粒子を吹き付けることが開示されている。そして、マスキング材と塗料粒子との静電反発を利用して、マスキング材及びその周囲に塗料粒子が付着しないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−138048号公報
【特許文献2】特開2009−183810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、ステータコアの外周側の筒状部について、塗装が不要な部位のマスキングを行って粉体塗装を行う装置及び方法が開示されているのみである。つまり、内周側から放射状に複数のスロットを形成し、インナーロータと組み合わせて使用するステータコアの軸方向端面に対して、粉体塗装を行う部位と行わない部位とを適切に分けることについては何ら開示されていない。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、塗膜によって巻線との絶縁性を適切に確保するとともに、所定の取付部位への取付を容易に行うことができるステータコア、その製造方法及びその製造方法に用いるマスキング治具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、複数の電磁鋼板を軸方向に積層してなるとともに、円環状のヨーク部の内周側に複数のティース部とスロットとを交互に放射状に形成してなるステータコアにおいて、
上記複数のスロットにおける一対の周方向側面及び外周側底面と、上記ヨーク部における所定の径方向中間位置よりも内周側に位置する軸方向両端面とに、塗膜を形成してなり、
上記ヨーク部における上記径方向中間位置よりも外周側に位置する軸方向両端面の全体と、上記ティース部における内周側端面とを露出させてなることを特徴とするステータコアにある(請求項1)。
【0008】
第2の発明は、上記ステータコアを製造する方法であって、上記ヨーク部における上記径方向中間位置よりも外周側に位置する軸方向端面の全体に対して、金属製リングと該金属製リングの軸方向外端面及び内周面を覆う樹脂製カバーとを備えたマスキング治具を対面させて、該マスキング治具を用いて上記ステータコアを締め付ける治具取付工程と、
帯電させた粉体塗料を上記ステータコアへ吹き付けて、上記複数のスロットにおける一対の周方向側面及び外周側底面と、上記ヨーク部における上記径方向中間位置よりも内周側に位置する軸方向両端面とに、粉体塗料層を形成する粉体塗料層形成工程と、
上記ティース部における内周側端面に付着した粉体塗料を除去する除去工程と、
上記金属製リングによる上記ステータコアの締め付けを維持したまま、上記樹脂製カバーを取り外すリング取外工程と、
上記金属製リングによって締め付けた上記ステータコアを加熱し、上記粉体塗料層を硬化させて塗膜を形成する加熱硬化工程とを含むことを特徴とするステータコアの製造方法にある(請求項2)。
【0009】
第3の発明は、上記ステータコアの製造方法に用いるマスキング治具であって、上記ヨーク部における上記径方向中間位置よりも外周側に位置する軸方向端面の全体に取り付ける金属製リングと、該金属製リングの軸方向外端面及び内周面を覆う樹脂製カバーとを備えており、
該樹脂製カバーは、上記金属製リングに対して樹脂製固定具によって取り付けるよう構成してあり、
上記金属製リングを上記ステータコアの軸方向両端面にそれぞれ配置し、該一対の金属製リングに掛け渡すボルトを、該ステータコアの外周面から突出させた複数の取付突出部における取付穴に挿通させて締め付けることにより、上記ステータコアを締め付けるよう構成してあることを特徴とするステータコアの製造方法に用いるマスキング治具にある(請求項3)。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明のステータコアは、インナーロータと組み合わせて用いるものであり、ステータコアと、ステータコアのスロットに配置する巻線との絶縁性を確保するための塗膜を形成する部位に工夫を行っている。
具体的には、本発明のステータコアにおいては、複数のスロットにおける一対の周方向側面及び外周側底面と、ヨーク部における所定の径方向中間位置よりも内周側に位置する軸方向両端面とに、塗膜を形成している。一方、ヨーク部における径方向中間位置よりも外周側に位置する軸方向両端面の全体と、ティース部における内周側端面とには、塗膜を形成していない。
【0011】
ステータコアを用いて構成した回転電機を所定の取付位置に固定する際には、ステータコアの取付突出部の取付穴に対してボルト等の固定具を挿通させ、この固定具によってステータコアを固定する。このとき、複数の取付突出部の軸方向一端面及びヨーク部における径方向中間位置よりも外周側の軸方向一端面を取付部位に対面させ、複数の取付突出部の軸方向他端面にボルト等の固定具の頭部を対面させることができる。そして、これらの対面部分には、塗膜が形成されていない。そのため、ステータコアを所定の取付部位に取り付ける際に、不要な塗膜を削る等の処理をする必要がなく、その取付が容易である。
また、塗膜により、ステータコアと、ステータコアのスロットに配置する巻線との絶縁性を適切に確保することができる。
【0012】
それ故、第1の発明のステータコアによれば、塗膜によって巻線との絶縁性を適切に確保するとともに、所定の取付部位への取付を容易に行うことができる。
【0013】
第2の発明のステータコアの製造方法においては、粉体塗料層形成工程において、一対のマスキング治具における金属製リングに対して樹脂製カバーを取り付けておくことにより、一対のマスキング治具に粉体塗料が付着することを効果的に抑制し、かつ、加熱硬化工程において、樹脂製カバーを外すことにより、樹脂製カバーには、耐熱性を考慮しない安価な材質のものを用いることができる。また、加熱を行う際には、金属製リングのみを用いることにより、一対のマスキング治具の耐熱性を確保することができる。
それ故、第2の発明のステータコアの製造方法によれば、上記優れた作用効果を奏するステータコアを容易に製造することができる。
【0014】
第3の発明のステータコアの製造方法に用いるマスキング治具によれば、金属製リング及び樹脂製カバーを備えたマスキング治具の構造が適切であり、ステータコアの製造方法による作用効果を顕著に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例にかかる、塗膜を形成したステータコアを示す斜視図。
【図2】実施例にかかる、塗膜を形成したステータコアを軸方向から見た状態で示す平面図。
【図3】実施例にかかる、塗膜を形成したステータコアの一部を軸方向から見た状態で示す平面図。
【図4】実施例にかかる、塗膜を形成した他のステータコアの一部を軸方向から見た状態で示す平面図。
【図5】実施例にかかる、ステータコアに取り付けるマスキング治具を示す斜視図。
【図6】実施例にかかる、マスキング治具を取り付けたステータコアを、図2におけるA−A線断面方向から見た状態で示す断面図。
【図7】実施例にかかる、マスキング治具を構成する金属製リングを示す斜視図。
【図8】実施例にかかる、マスキング治具を構成する樹脂製カバーを示す斜視図。
【図9】実施例にかかる、金属製リングを取り付けたステータコアを示す斜視図。
【図10】実施例にかかる、マスキング治具を取り付けたステータコアを示す斜視図。
【図11】実施例にかかる、マスキング治具を取り付けたステータコアに対して粉体塗料を吹き付ける状態を示す斜視図。
【図12】実施例にかかる、粉体塗装を行う際に回転装置を用いる場合について示す斜視図。
【図13】実施例にかかる、粉体塗装を行う際に粉体塗料槽を用いる場合について示す説明図。
【図14】実施例にかかる、粉体塗装を行う際に粉体塗料槽及び回転装置を用いる場合について示す説明図。
【図15】実施例にかかる、他のマスキング治具をステータコアに取り付けた場合について示す斜視図。
【図16】実施例にかかる、他のマスキング治具を取り付けたステータコアを、回転軸によって回転させる場合について示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のステータコア、その製造方法及びその製造方法に用いるマスキング治具にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
本例のステータコア2は、図1〜図3に示すごとく、回転電機用のステータ1を形成するものであり、インナーロータ11を回転可能に内周側に配置するための円環形状を有している。ステータコア2は、複数の電磁鋼板20を軸方向Lに積層してなるとともに、円環状のヨーク部21の内周側に複数のティース部22とスロット23とを交互に放射状に形成してなる。ステータコア2は、複数のスロット23における一対の周方向側面231及び外周側底面232と、ヨーク部21における所定の径方向中間位置Pよりも内周側に位置する軸方向両端面201とに、塗膜3を形成してなる。ステータコア2は、ヨーク部21における径方向中間位置Pよりも外周側に位置する軸方向両端面201の全体と、ティース部22における内周側端面221とを露出させてなる。
【0017】
以下に、本例のステータコア2、その製造方法及びその製造方法に用いるマスキング治具4につき、図1〜図16を参照して説明する。
図3に示すごとく、本例のステータコア2は、これに巻線12を配置してステータ1を形成した際に、その内周側を回転するインナーロータ11と組み合わせて用いるものである。本例のステータコア2を用いて形成した回転電機は、エンジン等に取り付けて使用することができる。
ステータコア2に形成する塗膜3は、帯電させた粉体塗料(樹脂粉体)311をステータコア2に付着させ、加熱・硬化させて形成することができる。塗膜3を形成するための粉体塗料311には、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0018】
図1に示すごとく、本例のステータコア2は、その軸方向両端面201の一部に塗膜3が形成されないようにマスキングする(遮蔽する)マスキング治具4を用いて、必要な部位に塗膜3を形成してなるものである。本例のステータコア2は、その外周面202から複数(本例では3つ)の取付突出部24を、周方向Cに等間隔に径方向外周側に突出させてなり、取付突出部24には、軸方向Lに貫通する取付穴241を形成してなる。
ステータコア2のティース部22の形状は、図3に示すごとく、内周側端面221の周方向Cの両側に突起を有しないオープンスロット形状にすることができ、図4に示すごとく、内周側端面221の周方向Cの両側に突起222を有するセミオープンスロット形状にすることもできる。
【0019】
図5〜図8に示すごとく、ステータコア2に対して塗膜3を形成する際には、次の金属製リング5と樹脂製カバー6とを備えた一対のマスキング治具4を用いる。
金属製リング5は、円環形状に形成してあり、ヨーク部21における所定の径方向中間位置Pよりも外周側に位置する軸方向端面201の全体に対面させて取り付けるよう構成してある。金属製リング5は、複数の取付突出部24の軸方向端面201にも対面して配置される。
図6に示すごとく、一方の金属製リング5Aには、ステータコア2の取付突出部24の取付穴241に対向して形成したザグリ穴51と、樹脂製カバー6を取り付けるためのねじ穴52とが形成してある。他方の金属製リング5Bには、ステータコア2の取付突出部24の取付穴241に対向して形成したねじ穴53と、樹脂製カバー6を取り付けるためのねじ穴52とが形成してある。図5〜図7において、各金属性リング5に付ける符号は、一方を5(A)によって示し、他方を5(B)によって示す。
【0020】
図8に示すごとく、樹脂製カバー6は、円環形状に形成してあり、金属製リング5の軸方向外端面501を覆う円環盤部分61と、この円環盤部分61の内周側において円環状の金属製リング5の内周面の全体を覆うよう軸方向Lの内方に突出させた内周側突出部分62とを有している。
図6に示すごとく、樹脂製カバー6には、樹脂製固定具としての樹脂製のねじ65を挿通させるための挿通穴611が複数形成してある。樹脂製カバー6は、複数の挿通穴611に挿通させた樹脂製のねじ65を、金属製リング5に形成したねじ穴52にそれぞれ螺合することによって、金属製リング5に固定される。
金属製リング5は、鉄、アルミ等の低コストの金属から構成し、樹脂製カバー6は、MCナイロン等の低コストの樹脂から構成することができる。
【0021】
図5に示すごとく、マスキング治具4は、ステータコア2の軸方向Lの一端側に装着する一方の金属製リング5A及び樹脂製カバー6のセットと、ステータコア2の軸方向Lの他端側に装着する他方の金属製リング5B及び樹脂製カバー6のセットとを対にして構成される。そして、マスキング治具4は、金属製リング5をステータコア2の軸方向両端面201にそれぞれ配置し、一対の金属製リング5に掛け渡すボルト41を、ステータコア2の複数の取付突出部24における取付穴241に挿通させて締め付けることにより、ステータコア2を締め付けるよう構成してある。
【0022】
また、一対の金属製リング5によってステータコア2を締め付ける際には、一方の金属製リング5Aにおけるザグリ穴51にボルト41の頭部411が収容され、他方の金属製リング5Bにおけるねじ穴53にボルト41の先端部412が螺合される。
樹脂製カバー6は、樹脂製のねじ65の締付け、緩めを行うことにより、ボルト41を掛け渡した一対の金属製リング5がステータコア2を締め付けた状態を維持して、金属製リング5に対して着脱可能である。
【0023】
図3に示すごとく、ヨーク部21において塗膜3が形成される境界位置としての所定の径方向中間位置Pは、スロット23の外周側底面232からステータコア2の外周面202までの幅をWとし、スロット23の外周側底面232からの境界位置までの幅をW1としたとき、W>W1を満たすよう決定することができる。
本例のマスキング治具4においては、金属製リング5の外周面を露出させている。これに対し、樹脂製カバー6には、円環盤部分61の外周側において円環状の金属製リング5の外周面を覆うよう軸方向Lの内方に突出させた外周側突出部分(図示略)を設けることができる。
【0024】
本例においては、次の各工程を行って、ステータコア2に対して、巻線12との絶縁性を確保するための塗膜3を形成する。
まず、図5、図9に示すごとく、治具取付工程として、ヨーク部21における所定の径方向中間位置Pよりも外周側に位置する軸方向端面201の全体に対し、金属製リング5を対面させて配置する。また、金属製リング5は、ステータコア2の軸方向両端面201に対して配置する。
【0025】
そして、同各図に示すごとく、一方の金属製リング5Aの各ザグリ穴51及びステータコア2の各取付突出部24における取付穴241にボルト41をそれぞれ挿通し、各ボルト41を他方の金属製リング5Bのねじ穴53に螺合する。これにより、複数のボルト41によって、一対の金属製リング5の間に挟み込んだ複数の電磁鋼板20(ステータコア2)を軸方向Lに締め付ける。このとき、複数の電磁鋼板20をその積層方向(軸方向L)へ圧縮するように力が加えられる。
次いで、図5、図10に示すごとく、樹脂製カバー6を、樹脂製のねじ65によって各金属製リング5の軸方向外端面501に取り付ける。このとき、樹脂製カバー6の円環盤部分61が金属製リング5の軸方向外端面501を覆い、樹脂製カバー6の内周側突出部分62が金属製リング5の内周面を覆う。
【0026】
次いで、図11に示すごとく、粉体塗料層形成工程として、金属製リング5を介してステータコア2を接地(同図において、符号Gで示す。)し、正電位に帯電させた粉体塗料311をステータコア2へ吹き付ける。このとき、粉体塗料311は、ステータコア2の内周側へ吹き付ける。そして、帯電した粉体塗料311は、グラウンド電位にあるステータコア2に引き寄せられ、樹脂製カバー6よりも内周側に位置するステータコア2の部分に吸着される。また、金属製リング5の表面を樹脂製カバー6が覆っているため、金属製リング5及び樹脂製カバー6には、粉体塗料311がほとんど吸着されない。
こうして、ステータコア2において、複数のスロット23における一対の周方向側面231及び外周側底面232と、ヨーク部21における径方向中間位置Pよりも内周側の軸方向両端面201とに、粉体塗料311が蓄積して粉体塗料層31が形成される(図1参照)。
【0027】
次いで、除去工程として、ステータコア2における各ティース部22における内周側端面221に付着した粉体塗料311を除去する(図1参照)。
次いで、リング取外工程として、一対の金属製リング5によるステータコア2(複数の電磁鋼板20)の締め付けを維持したまま、樹脂製のねじ65を緩めて各樹脂製カバー6を取り外す。
【0028】
次いで、加熱硬化工程として、金属製リング5によって締め付けたステータコア2(複数の電磁鋼板20)を誘導加熱等によって加熱し、粉体塗料層31を硬化させて焼き付ける。その後、冷却工程として、ステータコア2を冷却させて、ステータコア2の複数のスロット23における一対の周方向側面231及び外周側底面232と、ヨーク部21における所定の径方向中間位置Pよりも内周側に位置する軸方向両端面201(ティース部22の軸方向端面201及びヨーク部21の内周側の軸方向端面201)とに、塗膜3を形成する(図1参照)。
【0029】
このように、本例の製造方法においては、粉体塗料層形成工程において、一対のマスキング治具4における金属製リング5に対して樹脂製カバー6を取り付けておくことにより、一対のマスキング治具4に粉体塗料311が付着することを効果的に抑制し、かつ、加熱硬化工程において、樹脂製カバー6を外すことにより、樹脂製カバー6には、耐熱性を考慮しない安価な材質のものを用いることができる。また、加熱を行う際には、金属製リング5のみを用いることにより、一対のマスキング治具4の耐熱性を確保することができる。
【0030】
また、粉体塗料層形成工程において粉体塗装を行う際には、図12に示すごとく、回転装置71を用いて、マスキング治具4を取り付けたステータコア2を回転させることができる。回転装置71は、一対の金属製のローラ711によって構成し、金属製リング5の外周面を一対の金属製のローラ711に接触させて、マスキング治具4を取り付けたステータコア2を回転させることができる。また、金属製のローラ711を接地しておき、金属製のローラ711及び金属製リング5を介してステータコア2を接地(符号Gで示す。)することができる。また、粉体塗料311は、コロナ帯電又は摩擦帯電させたものを吹付ノズル712から吹き付けることができる。
【0031】
また、粉体塗料層形成工程において粉体塗装を行う際には、静電流動浸漬法を行うために、図13に示すごとく、貯蓄する粉体塗料311を吹き上がらせるよう構成した粉体塗料槽72を用いることができる。粉体塗料槽72には、底側から空気流入空間721、電極層722、多孔質板723、粉体塗料流動層724を設ける。粉体塗料槽72の上方に、マスキング治具4を取り付けたステータコア2を配置し、マスキング治具4における金属製リング5をグラウンド電位Gに接地しておく。そして、電極層722によって粉体塗料流動層724における粉体塗料311を帯電させるとともに、空気流入空間721に導入した空気Aを電極層722の隙間及び多孔質板723を通過させ、この空気Aによって粉体塗料流動層724における粉体塗料311を吹き上がらせ、粉体塗料311を、接地したステータコア2に付着させることができる。
【0032】
また、上記静電流動浸漬法を行う際には、図14に示すごとく、マスキング治具4を取り付けたステータコア2を、粉体塗料槽72の横に設置した回転装置71に載置し、回転装置71によってステータコア2を回転させながら、このステータコア2に向けて粉体塗料311を吹き付けることもできる。回転装置71の構成は、上記回転装置71(図12)と同様にすることができる。
【0033】
また、マスキング治具4を取り付けたステータコア2は、次の方法によって回転させることもできる。すなわち、図15、図16に示すごとく、金属製リング5の外周面には、マスキング治具4を取り付けたステータコア2を回転させるための歯面54を形成し、この歯面54に噛合する歯面731を有する回転軸73を回転させてステータコア2を回転させることもできる。
【0034】
図1に示したように、本例のステータコア2においては、複数のスロット23における一対の周方向側面231及び外周側底面232と、ヨーク部21における所定の径方向中間位置Pよりも内周側に位置する軸方向両端面201とに、塗膜3を形成している。一方、ヨーク部21における径方向中間位置Pよりも外周側に位置する軸方向両端面201の全体と、ティース部22における内周側端面221とには、塗膜3を形成していない。
【0035】
ステータコア2を用いて構成した回転電機を所定の取付位置に固定する際には、ステータコア2の取付突出部24の取付穴241に対してボルト41等の固定具を挿通させ、この固定具によってステータコア2を固定する。このとき、複数の取付突出部24の軸方向一端面201及びヨーク部21における径方向中間位置Pよりも外周側の軸方向一端面201を取付部位に対面させ、複数の取付突出部24の軸方向他端面201にボルト41等の固定具の頭部411を対面させることができる。そして、これらの対面部分には、塗膜3が形成されていない。そのため、ステータコア2を所定の取付部位に取り付ける際に、不要な塗膜3を削る等の処理をする必要がなく、その取付が容易である。
また、塗膜3により、ステータコア2と、ステータコア2のスロット23に配置する巻線12との絶縁性を適切に確保することができる。
【0036】
それ故、本例のステータコア2によれば、塗膜3によって巻線12との絶縁性を適切に確保するとともに、所定の取付部位への取付を容易に行うことができる。また、本例のステータコア2の製造方法及びマスキング治具4によれば、この優れた作用効果を奏するステータコア2を容易に製造することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 ステータ
2 ステータコア
20 電磁鋼板
201 軸方向端面
21 ヨーク部
22 ティース部
221 内周側端面
23 スロット
231 一対の周方向側面
232 外周側底面
24 取付突出部
241 取付穴
3 塗膜
31 粉体塗料層
311 粉体塗料
4 マスキング治具
41 ボルト
5 金属製リング
51 ザグリ穴
52、53 ねじ穴
6 樹脂製カバー
65 樹脂製のねじ
P 径方向中間位置
C 周方向
L 軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電磁鋼板を軸方向に積層してなるとともに、円環状のヨーク部の内周側に複数のティース部とスロットとを交互に放射状に形成してなるステータコアにおいて、
上記複数のスロットにおける一対の周方向側面及び外周側底面と、上記ヨーク部における所定の径方向中間位置よりも内周側に位置する軸方向両端面とに、塗膜を形成してなり、
上記ヨーク部における上記径方向中間位置よりも外周側に位置する軸方向両端面の全体と、上記ティース部における内周側端面とを露出させてなることを特徴とするステータコア。
【請求項2】
請求項1に記載のステータコアを製造する方法であって、上記ヨーク部における上記径方向中間位置よりも外周側に位置する軸方向端面の全体に対して、金属製リングと該金属製リングの軸方向外端面及び内周面を覆う樹脂製カバーとを備えたマスキング治具を対面させて、該マスキング治具を用いて上記ステータコアを締め付ける治具取付工程と、
帯電させた粉体塗料を上記ステータコアへ吹き付けて、上記複数のスロットにおける一対の周方向側面及び外周側底面と、上記ヨーク部における上記径方向中間位置よりも内周側に位置する軸方向両端面とに、粉体塗料層を形成する粉体塗料層形成工程と、
上記ティース部における内周側端面に付着した粉体塗料を除去する除去工程と、
上記金属製リングによる上記ステータコアの締め付けを維持したまま、上記樹脂製カバーを取り外すリング取外工程と、
上記金属製リングによって締め付けた上記ステータコアを加熱し、上記粉体塗料層を硬化させて塗膜を形成する加熱硬化工程とを含むことを特徴とするステータコアの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のステータコアの製造方法に用いるマスキング治具であって、上記ヨーク部における上記径方向中間位置よりも外周側に位置する軸方向端面の全体に取り付ける金属製リングと、該金属製リングの軸方向外端面及び内周面を覆う樹脂製カバーとを備えており、
該樹脂製カバーは、上記金属製リングに対して樹脂製固定具によって取り付けるよう構成してあり、
上記金属製リングを上記ステータコアの軸方向両端面にそれぞれ配置し、該一対の金属製リングに掛け渡すボルトを、該ステータコアの外周面から突出させた複数の取付突出部における取付穴に挿通させて締め付けることにより、上記ステータコアを締め付けるよう構成してあることを特徴とするステータコアの製造方法に用いるマスキング治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−110190(P2012−110190A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258863(P2010−258863)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】