説明

ストッパー及びストッパーセット

【課題】フランジ部がシャンク部に突設されたドリルの刃部の直径の大きさに拘わらず、ドリルの刃先側から挿入して取り付けるだけで、ドリルの刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さを簡単且つ確実に規制することができるストッパーを提供する。
【解決手段】フランジ部Xaがシャンク部Xbに突設されたドリルXの刃部Xcの刃先側から挿入して取り付けられるストッパーYを、その全体を筒状に構成すると共に、ドリルXの刃部Xcを挿通する貫通穴を有し、ドリルXの刃部Xcが欠如歯部の顎骨内に侵入する深さを規制する高さを持つドリル刃侵入深さ規制部Yaと、ドリル刃侵入深さ規制部Yaと反対側の端部から軸方向に沿って複数のスリットYbaが形成されていて、ドリルXのフランジ部Xaに弾性により着脱可能に係合してドリルXを保持するドリル保持部Ybとから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠如歯部の顎骨内に歯科用インプラントフィクスチャー埋入用孔を穿設する際に、フランジ部がシャンク部に突設されたドリルに取り付けられて、欠如歯部の顎骨内に侵入するドリルの刃部の深さを規制して穿設する歯科用インプラントフィクスチャー埋入用孔の深さを制御するストッパーと、そのセットとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科補綴治療の一つとして、欠如歯部の口腔機能を回復するために歯科用インプラント治療が行われている。この歯科用インプラント治療は、欠如歯部の顎骨内に歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔を穿設し、その歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔に生体親和性に優れたチタン又はチタン合金製の歯科用インプラントフィクスチャーを埋入して植立した後に、その歯科用インプラントフィクスチャーにアバットメントを介して歯科用補綴物を取り付けることによって行われる。
【0003】
このように行われる歯科用インプラント治療において、欠如歯部の顎骨内に歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔を穿設する作業は、通常ドリルが装着された歯科用ハンドピース等の歯科用駆動装置を用いて欠如歯部の顎骨を穿孔することによって行われる。
【0004】
しかしながら、顎骨の形態や神経及び血管の位置は患者毎に異なることから、歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔が所望の位置で穿設されなかった場合には、顎骨が損傷したり、神経や血管が傷ついてしまう虞がある。また、歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔が所望の深さで穿設されなかった場合には、歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔内に埋入された歯科用インプラントフィクスチャーを強固に植立できなかったり、植立された歯科用インプラントフィクスチャーに歯科用補綴物を安定して固定することができなかったりする事態が生じてしまう虞がある。したがって、正確な位置及び正確な深さで歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔を穿設することが極めて重要となる。
【0005】
そこで近年では、術前に歯科用CTを用いて、患者の顎骨の種々の断層面を撮影し、その撮影した画像データを取り込んで、顎骨の形態や神経及び血管の位置を把握した上で歯科用インプラントフィクスチャーの埋入位置と方向を決めて、歯科用インプラントフィクスチャーを含む補綴装置の完成状態のシミュレーションを行っている。
【0006】
そして、シミュレーションを行ったデータに基づいてサージカルガイドを作製する。サージカルガイドは、口腔内に装着されて歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔の位置や方向の決定を補助する道具であり、シミュレーションを行ったデータに基づいて決められた歯科用インプラントフィクスチャーの埋入方向と対応する箇所にドリルの進行方向を誘導するガイド孔が形成されている。したがって、シミュレーションを行ったデータに基づいて作製されたサージカルガイドを口腔内に装着し、そのサージカルガイドに形成されたガイド孔の方向に従って欠如歯部の顎骨内に穿孔することによって、所望の位置及び方向で歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔を穿設することができる。
【0007】
一方、所望の深さで歯科用インプラントフィクスチャー埋入孔を穿設するためには、ドリルの刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さを規制するストッパーをドリルに取り付けることが従来から行われている。このストッパーとしては、ネジ等を用いて取り付けるものが使われてきたが、ネジ等を用いていることから、取り付けたり、取り外したりするのに手間が掛かり、また取り付け作業が確実に行われていないとストッパーが移動してしまうという問題があった。
【0008】
また、ドリルの刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さを規制するフランジ部をドリルの軸部と一体に突設したドリルも存在している。このドリルを用いれば、その刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さをフランジ部で確実に規制することができる。しかしながら、フランジ部がドリルの軸部と一体に突設されていることから、ドリルの刃部の形状が同一形状であっても、フランジの軸方向の位置(ドリルの刃先からフランジまでの長さ)のみが異なった多種類のドリルを用意しなければならないという問題があった。この問題に対して、軸部にフランジ部が突設されたドリルの刃部の刃先側から挿入し、そのフランジ部の刃先側の部分と係合して固定されて、ドリルの刃部の欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制するリングが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。このリングを用いれば、ドリルの刃部の形状が同一形状である場合に、フランジの軸方向の位置のみが異なる多種類のドリルを用意する必要がない。しかしながら、リングをドリルのフランジ部の刃先側の部分に係合して固定するため、リングの内径がドリルのフランジ部の刃先側の部分の直径よりも小さく設定されていることから、埋入する歯科用インプラントフィクスチャーの直径に対応してドリルのフランジ部の刃先側の部分の直径が変化すると、その直径に合わせて、内径のみが異なった多種類のリングを用意しなければならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−518834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、フランジ部がシャンク部に突設されたドリルの刃部の直径の大きさに拘わらず、ドリルの刃先側から挿入して取り付けるだけで、ドリルの刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さを簡単且つ確実に規制することができるストッパーとストッパーセットとを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究の結果、フランジ部がシャンク部に突設されたドリルに取り付けられるストッパーを、その全体を筒状に構成すると共に、ドリルの刃部を挿通する貫通穴を有し、ドリルの刃部の欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制する高さを持つドリル刃侵入深さ規制部と、このドリル刃侵入深さ規制部と反対側の端部から軸方向に沿って複数のスリットが形成されていて、ドリルのフランジ部に弾性により着脱可能に係合してドリルを保持するドリル保持部とから構成すれば、このストッパーは、その全体が筒状に構成されていることから、ドリルの刃部の刃先側から挿入することができ、ドリル刃侵入深さ規制部と反対側の端部から軸方向に沿って形成された複数のスリットを有するドリル保持部がドリルのフランジ部に弾性により着脱可能に係合してドリルを保持することから、ドリルのフランジ部の直径を統一することにより、ドリルの刃部の直径の大きさに拘わらずドリルに着脱可能に取り付けることができ、更にドリルに取り付けられた際には、ドリル刃侵入深さ規制部がドリルの刃部の欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制することから、ドリルの刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さを簡単且つ確実に規制することができることを究明して本発明を完成したのである。
【0012】
即ち本発明は、欠如歯部の顎骨内に歯科用インプラントフィクスチャー埋入用孔を穿設するためのフランジ部がシャンク部に突設されたドリルに、該ドリルの刃部の刃先側から挿入して着脱可能に取り付けられ、該ドリルの刃部の欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制するための筒状のストッパーであって、該ドリルの刃部を挿通する貫通穴を有し、該ドリルの刃部の欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制する高さを持つドリル刃侵入深さ規制部と、該ドリル刃侵入深さ規制部と反対側の端部から軸方向に沿って複数のスリットが形成されていて、該ドリルのフランジ部に弾性により着脱可能に係合して該ドリルを保持するドリル保持部とから成ることを特徴とするストッパーである。
【0013】
そして、このような構成を有するストッパーは、ドリルの刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さ毎に規制することができるように、ドリル刃侵入深さ規制部の高さが異なるものをワンセットとして用意することが好ましいことも究明したのである。
【発明の効果】
【0014】
このような本発明に係るフランジ部がシャンク部に突設されたドリルに取り付けられるストッパーは、その全体が筒状に構成されていることから、ドリルの刃部の刃先側から挿入できるのである。また、ドリルの刃部を挿通する貫通穴を有し、ドリルの刃部の欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制する高さを持つドリル刃侵入深さ規制部と、ドリル刃侵入深さ規制部と反対側の端部から軸方向に沿って複数のスリットが形成されていて、ドリルのフランジ部に弾性により着脱可能に係合してドリルを保持するドリル保持部とから構成されているから、ドリル刃侵入深さ規制部と反対側の端部から軸方向に沿って形成された複数のスリットを有するドリル保持部がドリルのフランジ部に弾性により着脱可能に係合してドリルを保持するため、ドリルのフランジ部の直径を統一することにより、ドリルの刃部の直径の大きさに拘わらずドリルに着脱可能に取り付けられることができるのである。更にドリルに取り付けられた際には、ドリル刃侵入深さ規制部がドリルの刃部の欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制するため、ドリルの刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さを簡単且つ確実に規制することができるのである。
【0015】
そして、このような構成を有するストッパーは、ドリル刃侵入深さ規制部の高さが異なるものをワンセットとして用意することにより、ドリルの刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さ毎に規制することができて好ましいのである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るストッパーの一例を示す斜視図である。
【図2】フランジ部がシャンク部に突設されたドリルの一例を示す斜視図である。
【図3】図1で示したストッパーが図2で示したドリルに取り付けられている状態を示す斜視図である。
【図4】図1で示したストッパーが図2で示したドリルに取り付けられる過程を説明する部分断面図である。
【図5】ドリル刃侵入深さ規制部の高さが異なる複数種類の図1で示したストッパーから成るストッパーセットの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面中、Xは歯科用ハンドピース等の歯科用駆動装置に装着されて、欠如歯部の顎骨内に歯科用インプラントフィクスチャー埋入用孔を穿設するドリルであり、フランジ部Xaが突設されていて歯科用ハンドピース等の歯科用駆動装置に装着されるシャンク部Xbと、顎骨を穿孔する刃部Xcとから構成されている。尚、図2及び図3で示されているように、このドリルXのシャンク部Xbの刃先側と反対側の端部には、歯科用ハンドピース等の歯科用駆動装置からの回転力を伝達される回転伝達部Xbaaと、歯科用ハンドピース等の歯科用駆動装置からの脱落を防止する脱落防止溝Xbabとから成る歯科用駆動装置装着部Xbaが設けられている。
【0018】
Yは本発明に係るストッパーであり、ドリルXの刃部Xcの刃先側から挿入することができるように、その全体が筒状で構成されていて、ドリルXの刃部Xcの欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制するドリル刃侵入深さ規制部Yaと、ドリルXのフランジ部Xaと弾性により係合してドリルXを保持するドリル保持部Ybとから構成されている。尚、このストッパーYは、例えばステンレス鋼等の滅菌可能な硬質材料から作製される。
【0019】
ドリル刃侵入深さ規制部Yaは、ドリルXの刃部Xcが欠如歯部の顎骨内に侵入する深さを規制する部位であり、ドリルXの刃部Xcの欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制する高さを持っている。そして、図4(a)〜(c)で示されている過程を経てストッパーYがドリルXに取り付けられた際には、ドリル刃侵入深さ規制部Yaの内周面がドリルXの刃部Xcに接触していない状態で、ドリル刃侵入深さ規制部YaがドリルXの刃部Xcの欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制することができるように、貫通穴Yaaの径がドリルXの刃部Xcの直径よりも大きく形成されていて、その貫通穴YaaにドリルXの刃部Xcが挿通されている。尚、後述するように、ドリル保持部YbがドリルXのフランジ部Xaに弾性により着脱可能に係合してドリルXを保持することによって、ストッパーYがドリルXに取り付けられるため、貫通穴Yaaの径はドリルXのフランジ部Xaの直径やドリル保持部Ybの内径より小さくなっている。
【0020】
ドリル保持部Ybは、ドリルXのフランジ部Xaに弾性により着脱可能に係合してドリルXを保持する部位であり、弾性により着脱を行うことができるように、ドリル刃侵入深さ規制部Yaと反対側の端部から軸方向に沿って複数のスリットYbaが形成されている。ここで、「弾性により着脱可能に係合」とは、ネジ等の締結用又は固定用部品を用いることなく、ドリル保持部Ybの弾性変形を利用して着脱可能に係合している状態を意味し、例えば図4(a)〜(c)で示されているように、ドリル刃侵入深さ規制部Yaと反対側の端部近傍の内周面側に突出片Ybbが設けられたドリル保持部Ybが、一度拡がってから弾性変形により元の状態に戻ることによって、ドリル保持部Ybの突出片Ybbと段部YbcとでドリルXのフランジ部Xaを挟持している状態が挙げられる。
【0021】
このような構成を有するストッパーYは、その全体が筒状に構成されているため、ドリルXの刃部Xcの刃先側から挿入することができるのである。また、ドリル刃侵入深さ規制部Yaと反対側の端部から軸方向に沿って形成された複数のスリットYbaを有するドリル保持部Ybが、ドリルXのフランジ部Xaに弾性により着脱可能に係合してドリルXを保持することによって、ストッパーYがドリルXに着脱可能に取り付けられている。そして、ストッパーYがドリルXに取り付けられた際には、ドリルXの刃部Xcがドリル刃侵入深さ規制部Yaの内周面に接触することなく貫通穴Yaaを挿通している。したがって、ドリルXのフランジ部Xaの直径を統一することにより、ドリルXの刃部Xcの直径の大きさに拘わらず、ドリルXに着脱可能に取り付けられることができるのである。更に、ストッパーYがドリルXに取り付けられると、ドリル刃侵入深さ規制部YaがドリルXの刃部Xcの欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制するように配置されるため、ドリルXの刃部Xcが欠如歯部の顎骨内に侵入する深さを簡単且つ確実に規制することができるのである。
【0022】
そして、図5(A)〜(C)で示されているように、ドリルの刃部が欠如歯部の顎骨内に侵入する深さ毎に規制するためには、ドリルXの刃部Xcの欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制する役割を果たすドリル刃侵入深さ規制部Yaの高さが異なる複数種類のストッパーYをワンセットとして用意することが好ましい。この場合、ドリル刃侵入深さ規制部Yaの高さは、ドリル刃侵入深さ規制部Yaの外周面にストッパーYの軸方向と平行に設けた溝の数でその高さが簡単に認識できるように形成されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0023】
X ドリル
Xa フランジ部
Xb シャンク部
Xba 歯科用駆動装置装着部
Xbaa 回転伝達部
Xbab 脱落防止溝
Xc 刃部
Y ストッパー
Ya ドリル刃侵入深さ規制部
Yaa 貫通穴
Yb ドリル保持部
Yba スリット
Ybb 突出片
Ybc 段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
欠如歯部の顎骨内に歯科用インプラントフィクスチャー埋入用孔を穿設するためのフランジ部(Xa)がシャンク部(Xb)に突設されたドリル(X)に、該ドリル(X)の刃部(Xc)の刃先側から挿入して着脱可能に取り付けられ、該ドリル(X)の刃部(Xc)の欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制するための筒状のストッパー(Y)であって、該ドリル(X)の刃部(Xc)を挿通する貫通穴(Yaa)を有し、該ドリル(X)の刃部(Xc)の欠如歯部の顎骨内への侵入深さを規制する高さを持つドリル刃侵入深さ規制部(Ya)と、該ドリル刃侵入深さ規制部(Ya)と反対側の端部から軸方向に沿って複数のスリット(Yba)が形成されていて、該ドリル(X)のフランジ部(Xa)に弾性により着脱可能に係合して該ドリル(X)を保持するドリル保持部(Yb)とから成ることを特徴とするストッパー(Y)。
【請求項2】
ドリル刃侵入深さ規制部(Ya)の高さが異なる複数種類の請求項1のストッパー(Y)から成ることを特徴とするストッパーセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−66665(P2013−66665A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209171(P2011−209171)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】