説明

ストリップ、その製造方法および空気入りタイヤの製造方法

【課題】リボン状のストリップに耳部を形成することでインナーライナーの厚さを均一にする。
【解決手段】円筒ドラム上で螺旋状に巻回させることによるタイヤ用インナーライナーを形成するためのストリップ10であって、(A)スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体に、有機化処理粘土鉱物を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる第1層と、(B)スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体、スチレン−イソブチレンジブロック共重合体のいずれかを含む熱可塑性エラストマー組成物からなる第2層の積層体で構成されており、前記ストリップはストリップ本体10Aとその両側に配置される耳部10Bを有し、前記ストリップ本体の厚さT1は0.05mm〜1.0mmであり、前記耳部の厚さT2は前記ストリップ本体の厚さより薄く、耳部の幅W2は0.5mm〜5.0mmであるインナーライナー形成用のストリップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤに使用されるインナーライナー用のストリップ、該ストリップの製造方法、さらにそのストリップを用いた空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の低燃費化に対する強い社会的要請から、タイヤの軽量化が図られており、タイヤ部材のなかでも、タイヤの内部に配され、空気入りタイヤ内部から外部への空気の漏れの量を低減する機能を有するインナーライナーにおいても、軽量化などが行われるようになってきた。
【0003】
特許文献1(特開2007−291256号公報)には、空気圧低下の抑制、耐久性の向上および燃費の向上を同時に実現することが可能な空気入りタイヤとして、天然ゴムおよび/または合成ゴムからなるゴム成分の100質量部に対して、エチレン−ビニルアルコール共重合体が15〜30質量部の範囲内で少なくとも含有されたインナーライナー用ゴム組成物をインナーライナー層に用いてなる空気入りタイヤが提案されている。しかし、特許文献1の技術においては、該ゴム組成物を用いたゴムシートの厚みは1mmであり、タイヤの軽量化という点で改善の余地がある。
【0004】
特許文献2(特開平9−165469号公報)には、空気透過率の低いナイロンを用いてインナーライナー層を形成し、ゴム組成物であるタイヤ内面またはカーカス層との接着性を向上させることが提案されている。しかし、特許文献2の技術においては、ナイロンフィルム層を形成するために、ナイロンフィルムをRFL処理した後、ゴム組成物から成るゴム糊を接着する必要があり、工程が複雑化するという問題がある。さらに、加硫工程において、未加硫タイヤの内側からブラダーが膨張されるが、インナーライナー層のナイロンが加熱状態でブラダーと接触することになり、インナーライナーがブラダーに粘着、接着して破損する問題がある。
【0005】
またタイヤの軽量化を図るために、熱可塑性樹脂を含む材料からなるフィルムが提案されている。しかし薄い熱可塑性樹脂のインナーライナーを用いてタイヤを製造すると、加硫工程の圧力で部分的に薄くなりすぎてタイヤ製品のインナーライナーの仕上がりゲージが設計より薄くなってしまう。仕上がりが薄いインナーライナーはその箇所ではカーカスコードが浮き出て見える現象(オープンスレッド)でユーザーには内観が悪いという印象を与えてしまうほかに、インナーライナーが薄いと、部分的にガスバリア性が悪くなってしまい、タイヤ内圧が低下し、最悪な場合にはタイヤがバーストしてしまう虞がある。
【0006】
またインナーライナーはタイヤ走行時にショルダー部近傍に大きなせん断歪が作用する。熱可塑性樹脂を含む材料をインナーライナーとして使用した場合、このせん断歪みによって、インナーライナーとカーカスプライの接着界面で剥離が発生しやすくなり、タイヤの空気漏れが発生するという問題があった。
【0007】
特許文献3(国際公開2008−029781号公報)は、熱可塑性樹脂と熱可塑性エラストマーをブレンドしたフィルム積層体のストリップでタイヤを製造している。積層体にすることで、ガスバリア性、接着性を改善することができ、リボン状のストリップ間の接合を可能にしている。しかし、この技術はフィルム積層体の未加硫生カバーでのゲージは一定であり、ゲージを薄くするとバットレス部などで加硫後のタイヤ仕上がりが薄くなってしまう可能性がある。
【0008】
特許文献4(特開2009−220460号公報)は、熱可塑性樹脂が海成分、ゴムが島成分である熱可塑性エラストマー組成物を押出口金からシート状に押出成形して、口金スリットの断面形状を、該スリットのセンター部からスリット両端部の間に厚肉押出部を有するとともに、スリット長さ方向の厚み変化部分長さΔlに対する厚み増加分Δtの比率(%)を0.01〜10%とした押出口金を用いて押出成形するインナーライナー材料の製造方法が開示されている。かかる構成によって、空気漏れ防止効果が大きく、剥がれにくい特性を意図したものである。
【0009】
しかし、押出ダイは寸法の変更が難しく、製造するタイヤサイズが限定されてしまう。
押出ダイを数種準備しても、サイズ変更時の段替えに時間がかかり、生産性が低下してしまう。
【0010】
特許文献5(特開2000−254980号公報)は、リボン状の未加硫のゴムストリップを円筒ドラム上で順次巻き付けることによって、所望の仕上げ断面形状に近い輪郭形状でゴム部材を形成することを開示している。
【0011】
従来、空気入りタイヤに用いられるインナーライナーは、一般にゴム押出機等から所定の仕上げ断面形状で連続して押し出し成形されており、その仕上げ断面形状は、ゴム押出機のヘッド部に設ける口金により決定されている。仕上げ断面形状で押出し成形する従来の方法では、ゴム部材の断面サイズが大きいため、使用するゴム押出機も大型のものが必要となり、その結果、生産ラインを小型化できない。またタイヤの種類等に応じて多種類の口金を用意しなければならず、しかも製造するタイヤの種類替えの都度、前記口金の交換や調整作業等が要求されるなど、多品種少量生産の低下の問題などを解決するためである。
【0012】
しかし、タイヤ部材をリボン状のゴムストリップで形成する場合に、ゴム組成物相互の粘着性に起因して加工性に問題があり、またゴムストリップで形成したゴム部材の形状が保管中に型崩れを生じる問題があった。
【0013】
特許文献6(特開2010−058437号公報)は、溶融した樹脂をダイからシート状に押し出し、押し出した樹脂シートに対して、少なくとも一方に凸形状が形成された型ローラおよびニップローラで挟み凸形状を転写し切断溝を形成し冷却固化することによりシートを成形する方法を開示している。
【0014】
特許文献7(特開平9−19987号公報)には、インナーライナー層とゴム層の接着性を改善するための積層体が開示されている。これはインナーライナー層の両側に接着層を設けることで、インナーライナー層の重ね合わせ部において接着層同士が接触するようになり、加熱によって強固に接着されるので、空気圧保持性を向上させている。しかし、このインナーライナー層の重ね合わせのための接着層は、加硫工程においてブラダーと加熱状態で接触することになり、ブラダーに粘着するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2007−291256号公報
【特許文献2】特開平9−165469号公報
【特許文献3】国際公開第2008/029781号
【特許文献4】特開2009−220460号公報
【特許文献5】特開2000−254980号公報
【特許文献6】特開2010−058437号公報
【特許文献7】特開平9−19987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はインナーライナーに用いられるリボン状のストリップ及びその製造方法を提供する。ストリップは、一般に、偏平な矩形断面形状を有している。そのため、所定幅のリボン状のストリップを重ねて、より幅の広いシートを作製する際に、ストリップの両端部の重複部分において肉厚になり仕上がりシートの表面に凹凸が形成される。そこで本発明の第1の目的はリボン状のストリップに耳部を形成することでインナーライナーの厚さを均一にすることである。
【0017】
また本発明の第2の目的は、熱可塑性エラストマーに有機化処理粘土鉱物を混合したストリップを用いることによって軽量化により転がり抵抗を軽減し、さらに加硫工程時にブラダーの熱と圧力でインナーライナーが破壊または変形するのを防止し、表面に傷や内部にエアー残りなどの発生をなくすることである。
【0018】
また本発明の第3の目的は、熱可塑性エラストマーに有機化処理粘土鉱物を混合したストリップを用いることによってインナーライナーとカーカスプライの接着性を改善し、タイヤ走行時の繰り返し屈曲変形にともない亀裂成長を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、円筒ドラム上で螺旋状に巻回させることにより仕上げ断面形状に近い形状のタイヤ用インナーライナーを形成するための熱可塑性エラストマー組成物のストリップであって、該ストリップは、(A)スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体100質量部に対し、有機化処理粘土鉱物0.1〜50質量部を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる第1層と、(B)スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを含む熱可塑性エラストマー組成物からなる第2層の積層体で構成されており、前記ストリップはストリップ本体とその両側に配置される耳部を有し、前記ストリップ本体の厚さ(T1)は0.05mm〜1.0mmであり、前記耳部の厚さ(T2)は前記ストリップ本体の厚さ(T1)より薄く、耳部の幅(W2)は0.5mm〜5.0mmであるインナーライナー形成用のストリップに関する。
【0020】
本発明において前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体は、重量平均分子量が5万〜40万であり、スチレン成分含有量が10〜30質量%であることが望ましい。また、前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体は、重量平均分子量が10万〜29万であり、スチレン成分含有量が10〜30質量%であることが望ましい。さらに前記スチレン−イソブチレンジブロック共重合体は、重量平均分子量が4万〜12万であり、スチレン成分含有量が10〜35質量%であることが望ましい。
【0021】
本発明において前記ストリップの幅(W0)は、5mm〜40mmであり、前記ストリップの耳部の厚さは、0.02mm〜0.5mmであることが望ましい。さらに前記第1層の厚さは0.05mm〜0.6mmであり、第2層の厚さは0.01mm〜0.3mmであることが望ましい。
【0022】
本発明の他の実施形態は、前記熱可塑性エラストマー組成物よりなるストリップの製造方法であって、
(a)押出機本体と押出ヘッドを備えた押出装置により、熱可塑性エラストマーを押し出して横長矩形断面形状のシートを形成する押出工程と、
(b)該シートを、一対の型ローラに通して、前記シートに型ローラの形状を転写してストリップ端部に耳部を備えたストリップ形成工程と、
(c)前記ストリップを型ローラから剥離する剥離工程と、
を含むストリップの製造方法に関する。
【0023】
本発明のさらに他の実施形態は、前記ストリップを円筒ドラム上で螺旋状に巻回させてインナーライナーを形成し、該インナーライナーを生タイヤの内面に配置した後、加硫することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明は有機化粘土鉱物を混合した熱可塑性エラストマー組成物を用い、両端に耳部を有するストリップをインナーライナーに用いたため、タイヤの配置部分に応じて厚さを調整した未加硫生カバーの設計が可能となる。例えば、バットレス部のみを肉厚に設計できるので、ガスバリア性、タイヤ耐久性を向上することができる。またリボン状のストリップであるため、タイヤのサイズに関係なく適用することができる。特に第1層の熱可塑性エラストマー組成物に有機化処理粘土鉱物を混合し、それをSIS及び/またはSIBよりなる第2層と貼り合わせた積層体を用いたため、空気遮断性を維持して、全体の厚みを薄くでき軽量化が達成でき、転がり抵抗の軽減を図ることができる。さらに隣接するカーカスプライとの接着性を高め、屈曲亀裂成長を軽減することができる。
【0025】
しかも、本発明のインナーライナーを用いたタイヤを製造することで、タイヤ円周方向およびタイヤのビート間におけるインナーライナーの厚さを均一化できるため、タイヤのユニフォミティ(RFV)を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の空気入りタイヤの右半分の概略断面図である。
【図2】本発明のストリップを製造する装置の概略図である。
【図3】図2に示す製造装置において型ロールとニップロールの間隔を示す断面図である。
【図4】(a)〜(d)は本発明のストリップの概略断面図である。
【図5】本発明のストリップを用いてインナーライナーを製造する方法を示す概略図である。
【図6】(a)〜(d)はインナーライナーの配置状態を示す概略断面図である。
【図7】従来のストリップを用いてインナーライナーを製造する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<タイヤの構造>
本発明は空気入りタイヤの内側に配置されるインナーライナー用のストリップ、該ストリップの製造方法、さらに該ストリップを備えた空気入りタイヤの製造方法に関する。前記インナーライナーは、円筒ドラム上で、両端に耳部を有するリボン状のストリップを螺旋状に巻回させることによって製造される。ここでリボン状のストリップは、仕上げの断面形状に近い状態で押出成形する。
【0028】
前記ストリップは、少なくとも2層の積層体で形成される。第1層はスチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)からなり、第2層はスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)の少なくともいずれかを含む。ここで第1層は、厚さが0.05mm〜0.6mmの範囲、第2層は厚さが0.01mm〜0.3mmの範囲が好ましい。そして前記第2層はカーカスプライのゴム層と接するように配置されている。
【0029】
本発明で製造される空気入りタイヤの実施形態を図に基づき説明する。図1は空気入りタイヤの右半分の概略断面図である。図において空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、該トレッド部両端からトロイド形状を形成するようにサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部に亘って設けられ、両端をビードコア5のまわりに巻き返して係止されるカーカスプライ6と、該カーカスプライ6のクラウン部外側には、少なくとも2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。
【0030】
前記ベルト層7は、通常、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなるプライの2枚をタイヤ周方向に対して、コードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。なおベルト層の両端外側にはトッピングゴム層を設け、ベルト層両端の剥離を軽減することができる。またカーカスプライはポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維コードがタイヤ周方向にほぼ90°に配列されており、カーカスプライとその折り返し部に囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス8が配置される。また前記カーカスプライ6のタイヤ半径方向内側には一方のビード部4から他方のビード部4に亘るインナーライナー9が配置されている。
【0031】
<ストリップ>
図4において(a)〜(d)にストリップ10の実施形態の断面図を示す。ストリップ10は、ストリップ本体10Aの厚さ(T1)が0.05mm〜1.0mmである。
前記ストリップ本体10Aの厚さ(T1)が、0.05mm未満では、押出成形が困難となり、所定厚さのインナーライナーを形成するために回数を不必要に増加し、また1.0mmを超えるとインナーライナーの屈曲耐久性の低下、軽量化が望めないことになる。前記ストリップの厚さ(T1)は、好ましくは、0.1mm〜0.6mmの範囲である。そしてストリップ全体の幅(W0)は、5mm〜40mmの範囲で調整され、好ましくは10〜30mmの範囲である。
【0032】
前記ストリップ本体10Aの両側部に形成される耳部10Bの厚さ(T2)は、ストリップ本体の厚さ(T1)より薄く形成され、0.02mm〜0.5mmの範囲であり、より好ましくは0.05mm〜0.3mmの範囲である。耳部の厚さ(T2)が、0.02mmより薄いと押出寸法精度が低下する可能性があり、一方、耳部の厚さ(T2)が、0.5mmより厚いと、隣接するストリップで形成される表面の凹凸が大きくなる可能性がある。ここで、耳部の厚さ(T2)は、ストリップの幅方向に変化する場合は、幅方向の平均厚さとして定義される。
【0033】
そして耳部10Bの幅(W2)は、ドラム上で巻回しの表面に形成される凹凸を滑らかにするために0.5mm〜5.0mmの範囲が好ましく、より好ましくは、0.8mm〜3.0mmの範囲に調整され、そして(W2×2)の値は、(W0×0.5)の値以下であることが好ましい。耳部の幅(W2)が、0.5mm〜5.0mmの範囲を外れる場合は、ストリップが接合して形成されたインナーライナーの断面の肉厚寸法が不均一となる可能性がある。ここで、ストリップの耳部10Bは、ストリップ本体の左右の端部で対称形状が好ましいが、非対称とすることもできる。
【0034】
図4(a)は、ストリップの断面が略平行四辺形を有している。左側の耳部10Bは、下方向に厚さが漸減する形状で、右側の耳部10Bは上方向に厚さが漸減する形状を有している。
【0035】
図4(b)は、ストリップ本体10Aの左端方向および右端方向で、ストリップの下面方向に厚さを漸減した耳部10Bが形成されている。このストリップ形状ではドラム上でストリップを接合する際に、隣接するストリップが相互に接合する端部において段差が形成されることになるが、その表面凹凸形状を小さくしたインナーライナーシートを得ることができる。
【0036】
図4(c)は、左側の耳部は下面に一定の厚さを有して形成され、右側の耳部は上面に一定の厚さを有して形成されている。かかる形状とすることで、ドラム上でストリップを巻き返してインナーライナーを形成する際に隣接するストリップの耳部は、ストリップ端部で形成される段差を緩和し、凹凸の小さい接合が可能となる。なお前記ストリップ本体10Aは、その厚さ(T1)が、長さ方向に一定の横長偏平の矩形状をなしている。
【0037】
図4(d)は、ストリップ本体10Aの左端および右端において段差が形成され厚みを薄くした耳部10bが形成され、ストリップの下面に一定の厚さを有している。この場合、ドラム上でストリップを接合する際に、隣接するストリップの端部において段差が形成されることになるが、その凹凸を小さくすることができる。
【0038】
本発明のストリップを上述の形状とすることで、ドラム上でストリップを巻き返してインナーライナーを形成する際に隣接するストリップの耳部が、適切に嵌合して厚さむらのない接合部が形成できる。なお前記ストリップ本体10Aの厚さ(T1)は、長さ方向に一定の横長偏平の矩形状をなしている。なお、本発明の耳部は、これらの形状に限らず各種変形例が採用できる。
【0039】
<積層体>
本発明において、インナーライナーはリボン状のストリップをドラム上に巻き返して製造され、前記ストリップは積層体が用いられる。ここで積層体はスチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)を含む第1層と、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)の少なくともいずれかを含む第2層とからなる。
【0040】
かかる積層体の幅方向の両側に耳部を形成したストリップを製造してインナーライナーに採用することによって、表面の凹凸を小さくし滑らかにすることができ、凹凸の大きいことによる空気溜まりなどの従来の問題を解決することができる。
【0041】
<第1層>
前記第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIBS」ともいう。)100質量部に対し、有機化処理粘土鉱物0.1〜50質量部を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる。
【0042】
SIBSのイソブチレンブロック由来により、SIBSからなるポリマーフィルムは優れた耐空気透過性を有する。したがって、SIBSからなるポリマーをインナーライナーに用いた場合、耐空気透過性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0043】
さらに、SIBSは芳香族以外の分子構造が完全飽和であることにより、劣化硬化が抑制され、優れた耐久性を有する。したがって、SIBSからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0044】
SIBSからなるポリマーフィルムをインナーライナーに適用して空気入りタイヤを製造した場合には、耐空気透過性を確保できる。したがってハロゲン化ブチルゴム等の、従来耐空気透過性を付与するために使用されてきた高比重のハロゲン化ゴムを使用する必要がなく、使用する場合にも使用量の低減が可能である。これによってタイヤの軽量化が可能であり、燃費の向上効果が得られる。
【0045】
SIBSの分子量は特に制限はないが、流動性、成形化工程、ゴム弾性などの観点から、GPC測定による重量平均分子量が50,000〜400,000であることが好ましい。重量平均分子量が50,000未満であると引張強度、引張伸びが低下するおそれがあり、400,000を超えると押出加工性が悪くなる虞れがある。SIBSは耐空気透過性と耐久性をより良好にする観点から、SIBS中のスチレン成分の含有量は10〜30質量%、好ましくは14〜23質量%であることが好ましい。
【0046】
該SIBSは、その共重合体において、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱い(重合度が10,000未満では液状になる)の点からイソブチレンでは10,000〜150,000程度、またスチレンでは5,000〜30,000程度であることが好ましい。
【0047】
SIBSは、一般的なビニル系化合物のリビングカチオン重合法により得ることができ。例えば、特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル化合物にイソブチレンと他の化合物を用いることでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。
【0048】
SIBSは分子内に芳香族以外の二重結合を有していないために、分子内に二重結合を有している重合体、例えばポリブタジエンに比べて紫外線に対する安定性が高く、従って耐候性が良好である。
【0049】
<有機化処理粘土鉱物>
積層体の第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体100質量部に対し、有機化処理粘土鉱物0.1〜50質量部を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる。
【0050】
前記有機化処理粘土鉱物とは、有機化合物をインターカレートした層状粘土鉱物である。有機化合物が層状粘土鉱物の層間にインターカレートすることにより、層間が広がり、ポリマーへの分散性が向上する。
【0051】
層状粘土鉱物は、層状珪酸塩鉱物の一種で、結晶構造は珪酸四面体層−アルミナ八面体層−珪酸四面体層の3層が積み重なっており、その単位層は厚さ約10Å(1nm)、広がり0.1〜1μmという極めて薄い板状になっている。
【0052】
層状粘土鉱物の代表としてモンモリロナイトが挙げられる。モンモリロナイトは結晶構造中のアルミナ八面体層の中心原子であるAlの一部がMgに置換されることで陽電荷不足となり、各結晶層自体は負に帯電しているが、結晶層間にNa+・K+・Ca2+・Mg2+などの陽イオンを挟むことで電荷不足を中和し、安定状態となる。そのため、モンモリロナイトは結晶層が何層も重なり合った状態で存在している。
【0053】
モンモリロナイトの板状結晶層表面に水が接触すると、層間の交換性陽イオンに水分子が水和し、層間が膨張する。また、モンモリロナイトの陽イオン交換性を利用して層間に有機化合物をインターカレートすることで、層間が広がり、有機溶媒やポリマーへの分散性が向上する。
【0054】
層状粘土鉱物としては、例えば、モンモリロナイト(特にナトリウムモンモリロナイト、マグネシウムモンモリロナイトおよびカルシウムモンモリロナイト)、ベントナイト、カオリナイト、ノンライト、バイデライト、ボルコンスコイト、ヘクトライト、サポナイト、サウコナイト、ソボカイト、スティブンサイト、スビンフォルダイト、バーミキュライトなどのスメクタイト系粘土などといったフィロシリケート類、イライトおよびイライト/スメクタイトの混合物(レクトライト、タロソバイト、レディカイトおよび前記粘土化合物とイライトとの混合物)などの雲母鉱物類またはアタパルジャイトおよびセピオライトハイドロタルサイト系層状化合物などが挙げられる。なかでもスメクタイト系粘土が好ましく、特にモンモリロナイト系粘土が好ましい。また、スメクタイト系粘土鉱物を含むベントナイトを用いても良い。これら層状粘土鉱物は一般には天然鉱物を採取して所定の精製操作を経て得られる。これらの合成粘土は区別なく使用できる。
【0055】
インターカラントとして使用できる有機化合物としては、イオン化しやすい極性基を分子内に有する有機化合物が挙げられる。極性基を有する有機化合物は、スメクタイト系粘土鉱物の酸素イオンなど負イオンで覆われた層の表面との間で強い相互作用を起こし、層状粘土鉱物の層間へ入り込み(インターカレート)、層間を押し広げて膨張させるものと考えられている。
【0056】
有機化合物は、炭素原子を6個以上有するアルキル基を有し、末端にイオン化する極性基を有するものが好ましい。たとえば、ヒドロキシル基またはカルボキシル基を有するものや、アルデヒド類、アミン類、アミド類または4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0057】
ヒドロキシル基を有する有機化合物としては、オクチルアルコール、ノニルアルコールなどの脂肪族アルコール、アルキル基が置換した芳香族アルコールなどのアルコール類のほか、フェノール類などが挙げられる。
【0058】
カルボキシル基を有する有機化合物は、ステアリン酸、パルチミン酸、ラウリン酸などの直鎖状脂肪族、オレイン酸などの直鎖状アルケン酸、リノールエライジン酸などのジエン酸、トリエン酸などのポリ不飽和脂肪族酸などが挙げられる。
【0059】
アルデヒド類としてはヘキシルアルデヒドなどが挙げられる。アミン類またはアミド類としては、1以上のアミンまたはアミドを有する極性有機化合物、たとえばアルキルアミン、アミノシクロアルカンおよびアミノシクロアルカン置換体、環状脂肪族ジアミン、脂肪族アミン、アルキル芳香族アミン、アルキルジアリールアミン、脂肪族アミドなどが挙げられ、一級、二級、および/または三級アミンまたはアミドが含まれる。中でも、アルキルアミン、脂肪族アミン、アルキル芳香族アミン、アルキルジアリールアミンが好ましい。上記有機化合物は単独または2種以上を混合して使用できる。
【0060】
好ましいアミン類としては、1−ヘキシルアミン、1−ヘプチルアミン、1−オクチルアミン、1−ノミルアミン、1−ドデシルアミン、1−ヘキサデシルアミン、1−オクタデシルアミン、オレイルアミンなどの一級アミン、ジ−n−ドデシルアミン、ジ−n−ヘキサデシルアミン、ジ−n−オクタデシルアミンなどの二級アミン、ジメチル−n−オクチルアミン、ジメチル−n−デシルアミン、ジメチル−n−テトラデシルアミン、ジメチル−n−ヘキサデシルアミン、ジメチル−n−オクタデシルアミン、ジメチルオレイルアミンなどの三級アミン、ジ−n−デシルメチルアミンジココアルキルメチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−n−デシルアミン、トリ−n−ヘキサデシルアミンなどの脂肪族アミンが挙げられる。
【0061】
好ましいアミド類としては、ヘキシルアミド、ヘプチルアミド、オクチルアミド、ノニルアミド、ラウラミド、ミリスタミド、パルミタミド、ステラミド、パルミアミド、オレアミド、リノレアミドなどが挙げられる。
【0062】
また、極性基を有する有機化合物としてニトリル基またはラクタム基を有するもの、ピリジン類、エステル類、界面活性剤類、エーテル類などを使用することもできる。
【0063】
4級アンモニウム塩としては、たとえばジメチルジステアリルアンモニウム塩、トリメチルステアリルアンモニウム塩、ジメチルジオクタデシルアンモニウム、ジメチルベンジルオクタデシルアンモニウム、トリメチルオクタデシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0064】
層状粘土鉱物に有機化合物をインターカレートする方法としては、公知の方法を採用することができる。たとえばモンモリロナイト系粘土鉱物と有機化合物とを接触させるために、予め層状粘土鉱物にその質量の10質量%から20倍程度の水を含ませて、その後有機化合物とモンモリロナイト系粘土鉱物とを接触させ、有機化処理粘土鉱物を得る方法がある。
【0065】
有機化処理粘土鉱物中の有機化合物の陽イオン交換量は、50〜200meg/100gが好ましい。
【0066】
有機化処理粘土鉱物の配合量は、ポリマー混合物100質量部に対して0.1〜50質量%であり、さらに0.5〜30質量%が好ましい。有機化処理粘土鉱物の配合量が0.1質量%未満であると、ポリマー組成物の空気透過性、高温時の引張特性が低下する。また、有機化処理粘土鉱物の配合量が50質量%を超えると、ポリマー組成物の硬度が大きくなりすぎて屈曲疲労性が低下する。
【0067】
<その他の配合剤>
本発明の一実施の形態におけるポリマー組成物には、その他の補強剤、加硫剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、カップリング剤などの一般のゴム組成物に配合される各種配合剤および添加剤を配合することができる。また、これらの配合剤、添加剤の含有量も一般的な量とすることができる。
【0068】
<第1層の厚さ>
SIBSからなる第1層の厚さは、0.05〜0.6mmが好ましい。第1層の厚さが0.05mm未満であると、積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第1層がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じる恐れがある。一方、第1層の厚さが0.6mmを超えるとタイヤ重量が増加し、低燃費性能が低下する。第1層の厚さは、さらに0.05〜0.4mmであることが好ましい。第1層は、SIBSを押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0069】
<第2層>
前記第2層はスチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう。)からなるSIS層およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(以下、「SIB」ともいう。)からなるSIB層の少なくともいずれかを含む。
【0070】
スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)のイソプレンブロックはソフトセグメントであるため、SISからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SISからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスプライのゴム層との接着性に優れているため、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0071】
前記SISの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が100,000〜290,000であることが好ましい。重量平均分子量が100,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、290,000を超えると押出加工性が悪くなるため好ましくない。SIS中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性を維持するため10〜30質量%が好ましい。
【0072】
本発明において、SISにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソプレンでは500〜5,000程度、またスチレンでは50〜1,500程度であることが好ましい。
【0073】
前記SISは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができ、例えば、リビングカチオン重合法により得ることができる。SIS層は、SISを押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0074】
スチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)のイソブチレンブロックはソフトセグメントであるため、SIBからなるポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SIBからなるポリマーフィルムをインナーライナーに用いた場合、該インナーライナーは、たとえばカーカスやインスレーションを形成する隣接ゴムとの接着性に優れているため、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0075】
SIBとしては、直鎖状のものを用いることがゴム弾性および接着性の観点から好ましい。SIBの分子量は特に制限はないが、ゴム弾性および成形性の観点から、GPC測定による重量平均分子量が40,000〜120,000であることが好ましい。重量平均分子量が40,000未満であると引張強度が低下するおそれがあり、120,000を超えると押出加工性が悪くなるおそれがあるため好ましくない。
【0076】
SIB中のスチレン成分の含有量は、粘着性、接着性およびゴム弾性を維持するため10〜35質量%であることが好ましい。
【0077】
本発明において、SIBにおける、各ブロックの重合度は、ゴム弾性と取り扱いの観点からイソブチレンでは300〜3,000程度、またスチレンでは10〜1,500程度であることが好ましい。
【0078】
前記SIBは、一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができ、例えば、リビングカチオン重合法により得ることができる。たとえば、国際公開第2005/033035号には、攪拌機にメチルシクロヘキサン、n−ブチルクロライド、クミルクロライドを加え、−70℃に冷却した後、2時間反応させ、その後に大量のメタノールを添加して反応を停止させ、60℃で真空乾燥してSIBを得るという製造方法が開示されている。
【0079】
SIB層は、SIBを押出成形、カレンダー成形といった熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法によってフィルム化して得ることができる。
【0080】
第2層の厚さT2は、0.4mm以下、好ましくは0.01mm〜0.3mmである。ここで第2層の厚さとは、第2層がSIS層のみからなる場合は該SIS層の厚さを、第2層がSIB層のみからなる場合は該SIB層の厚さを、第2層がSIS層およびSIB層の2層からなる場合は、該SIS層および該SIB層の合計の厚さを意味する。第2層の厚さが0.01mm未満であると、積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第2層がプレス圧力で破れて加硫接着力が低下する恐れがある。一方、第2層の厚さが0.4mmを超えるとタイヤ重量が増加し低燃費性能が低下する。第2層の厚さは、さらに0.01〜0.3mmであることが好ましい。
【0081】
<ストリップの製造方法>
図2においてストリップ10を製造する製造方法を説明する。ストリップの製造装置11は、横長矩形断面の熱可塑性エラストマーのシート12を押出形成する押出装置13と
、その押出口16の近傍に配される一対の型ローラ14とから構成される。
【0082】
前記押出装置13は、スクリュ軸15を有する押出機本体13Aと、この押出機本体13Aから吐出される熱可塑性エラストマーのシートを形成して押出口16から押出す押出ヘッド13Bとを具える。押出機本体13Aは、投入される熱可塑性エラストマーを、減速機能を備えた電動機により駆動される前記スクリュ軸15によって混練、溶融する。
【0083】
また前記押出ヘッド13Bは、前記押出機本体13Aの先端に取付き前記押出口16を構成する押出成形用の口金17を具えている。
【0084】
次に、一対の型ローラ14は、上、下のロール14A、14Bを有する構成をなし、押出口16からの押出し方向に対して直交する横向きで保持される。そして、上、下の型ロール14A、14Bは、互いに同速度でかつ同期しながら回転可能に駆動制御される。
【0085】
そして、この上、下の型ロール14A、14B間の間隙部の形状は図3に示すように、前記ストリップ10の断面形状に近似している。ここで「近似している」とは、ストリップ10の断面形状と実質的に相似形であり、膨張を考慮して相似比は通常0.50〜0.90の範囲で間隙部K1、K2の方が小である。
【0086】
すなわち、上、下の型ロール14A、14Bの一方または双方は、直円筒状のロール本体の周囲表面に、前記ストリップ本体10Aに相当する凹み部分14a,14bを凹設している。従って、型ロール14A、14B間での間隙部分K1によって耳部10Bが成形され、前記凹み部分14a、14bがなす隙間部分K2によってストリップ本体10Aが成形される。
【0087】
このように、製造装置11では、まず押出装置13を用いて、横長矩形のシート12を形成し、型ロール成形における発熱が生じない条件で、型ロールの形状をシート転写する。そして、耳部が形成されたストリップ12Aはフリーローラ18によって型ローラ14Bから剥離され最終形状に加工される。したがって寸法の精度および安定性が高まり、通常、カレンダー成形において必要とされていた幅調整のためのナイフカット作業が不必要となるなど製造効率を向上できる。しかも耳部10Bにおける厚さT2のバラツキを軽減することができ、高い品質のストリップ10を製造できる。
【0088】
なお、そのためには、押出ヘッド13Bにおける前記押出口16の開口高さHA1を、前記ストリップの厚さT1の2〜7倍、かつ前記押出口16の開口幅WA1を前記ストリップの幅W0の0.7〜1.0倍とすることが好ましい。
【0089】
前記開口高さHA1がT1の7倍を超えると、及び開口幅WA1がWOの0.7倍より小さいときには、型ロール成形での加工率が過大となりストリップ10の品質及び精度が低下する。特に幅の精度が不安定となり、ナイフカットによる幅精度の維持が必要となってくる。また前記開口高さHA1がT1の2倍より小さいとき、1.0mm以下のストリップ10を得るには、押出し時のシート厚さが薄くなることから、押出圧力が高くなってしまい、寸法が不安定となってしまう。一方開口幅WA1がW0の1倍を超えると、逆に加工率が過小となり、ストリップ10が切断する問題があり寸法安定性も低下する。
【0090】
なお、前記成形工程、剥離工程に用いられる型ロールおよびフリーロールは、離型処理をしていることが望ましい。離型処理は、例えば、ロール表面を窒化(ラジカル窒化、カナック処理)して、Cr−Nコーティング(硬度Hv:200〜800、膜厚:25〜500μm)とする方法、あるいは硬質クロムにテフロン(登録商標)を含浸させためっき(硬度Hv:800〜1000、膜厚:25〜1000μm)、ダイアモンド・ライク・
カーボン(DLC)コーティング(硬度Hv:2000〜7000、膜厚:0.2〜3.0μm)、テフロン(登録商標)コーティング(硬度Hv:100〜500、膜厚:0.1〜0.5μm)等の従来の技術が採用できる。
【0091】
<インナーライナーの製造>
本発明のインナーライナーは、リボン状のストリップ10を、ストリップ本体10Aが相互に重複するように巻回して形成する。図5(a)に示すように、円筒ドラムD上で隣接するストリップ10は、そのストリップ本体10Aが、例えば3mm〜38mmの範囲で相互に重複するように巻回して螺旋状に順次巻き付けながらインナーライナーを形成する。ここでストリップ10は、巻回に際し、図5(b)に端部を拡大して示すように、隣接するストリップ間で段差を形成するが、その耳部によって凹凸段差dは緩和されることになる。一方、図7に示すように、従来の断面が長方形のストリップで耳部を有しないものを用いた場合の凹凸段差d0は、耳部を有するストリップの場合の凹凸に比べ約2倍となっている。
【0092】
このように、耳部を有するストリップを用いた場合には、インナーライナーに要求される仕上げ断面形状に近似させることを容易にする。しかも滑らかな輪郭形状が得られ、加硫後の表面傷の発生を防止できる。一方、従来の同じ厚さのストリップと略同程度の巻き付け回数によってインナーライナーを形成することができ、生産能率の低下やエアー残りの発生を抑制しうる。
【0093】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤは、一般的な製造方法を用いることができる。図6において積層体PLを用いてストリップを製造し、前述の方法でインナンーライナーを製造する。空気入りタイヤ1の生タイヤに前記インナーライナーを適用して他の部材とともに加硫成形することによって製造することができる。積層体PLを生タイヤに配置する際は、積層体PLの第2層であるSIS層PL2またはSIB層PL3が、カーカスプライCに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置する。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、SIS層PL2またはSIB層PL3とカーカスプライCとの接着強度を高めることができる。得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライCのゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有する。
【0094】
<インナーライナーの配置状態>
本発明の加硫タイヤにおいて、積層体で形成されるインナーライナーの配置状態を図6に示す。図6(a)において、積層体PLは、第1層としてのSIBS層PL1および第2層としてのSIS層PL2から構成される。該積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIS層PL2がカーカスプライCに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIS層PL2とカーカスプライCとの接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライCのゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0095】
図6(b)において、積層体PLは、第1層としてのSIBS層PL1および第2層としてのSIB層PL3から構成される。該積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIB層PL3の面を、カーカスプライCに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIB層PL3とカーカス61との接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライCのゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0096】
図6(c)において、積層体PLは、第1層としてのSIBS層PL1、第2層としてのSIS層PL2およびSIB層PL3が前記の順に積層されて構成される。該積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIB層PL3の面を、カーカスプライCに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIB層PL3とカーカスプライCとの接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライCのゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0097】
図6(d)において、積層体PLは、第1層としてのSIBS層PL1、第2層としてのSIB層PL3およびSIS層PL2が前記の順に積層されて構成される。該積層体PLを空気入りタイヤのインナーライナーに適用する場合、SIS層PL2の面を、カーカスプライCに接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置すると、タイヤの加硫工程において、SIS層PL2とカーカスプライCとの接着強度を高めることができる。したがってインナーライナーとカーカスプライCのゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【実施例】
【0098】
<ストリップの材料>
本発明のストリップの製造に用いた熱可塑性エラストマー(SIBおよびSIBS)は以下のとおりである。
【0099】
[SIBS]
カネカ(株)社製のシブスターSIBSTAR 102T(ショアA硬度25、スチレン成分含有量25質量%、重量平均分子量:100,000)を用いた。
【0100】
[SIBSと有機化処理粘土鉱物の混合物]
前記SIBS(シブスターSIBSTAR 102T)を、表1に示す配合処方ににしたがって、有機化処理粘土鉱物または無機粘土鉱物とを2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)にてペレット化した。
【0101】
ここで有機化処理粘土鉱物は、レオックス社(Pheoxs社)製のベントン34(BENRONE34)を用いた。ここで層状粘土鉱物はヘクトライト粘土鉱物、有機化合物はジメチルジステアリルアンモニウム塩、有機化合物の陽イオン交換量は100meg/100gである。なお無機粘土鉱物は、クリミネ工業(株)のクニピアFを用いた。
【0102】
[SIS]
クレイトンポリマー社製のD1161JP(スチレン成分含有量15質量%、重量平均分子量:150,000)を用いて、2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220℃)にてペレット化した。
【0103】
<インナーライナーの製造方法>
上記SIBSおよびSISは、市販のペレットを以下の配合処方で混合した。これを図2及び図3に示す押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイギャップ幅:40mm、シリンダ温度:220℃)を用いて、スクリュ回転数80RPM、押出速度は約9m/分で、リボン状のシート(厚さ:0.3mm)を押出した。
【0104】
これを、型ロール14A、14Bに通して、両端に所定の形状の耳部を形成したストリップ12Aを製造した。なお、前記リボン状のシート12は、前記押出機を用いて、第1層と第2層の熱可塑性エラストマーを共押出することで積層体としている。その後、フリーローラ19を介して、前記ストリップを前記型ローラから剥離して、図4に示す断面構造のストリップ12Aを得た。ここで、ストリップ10の幅W0、厚さT1、耳部10Bの幅W2、耳部厚さT2は、表1、表2に示すとおりである。
【0105】
<ストリップ(第1層、第2層の基本配合>
熱可塑性エラストマー(注1) 100質量部
有機化処理粘土鉱物 変量
ステアリン酸(注2) 3質量部
酸化亜鉛(注3) 5質量部
老化防止剤(注4) 1質量部
加硫促進剤(注5) 1質量部
硫黄(注6) 0.5質量部
(注1)熱可塑性エラストマーは、前記SIBSおよびSISを用いた。
(注2)ステアリン酸:花王(株)社製の「ステアリン酸ルナックS30」。
(注3)酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)社製の「亜鉛華1号」。
(注4)老化防止剤:大内新興化学(株)社製の「ノクラック6C」(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)。
(注5)加硫促進剤:大内新興化学(株)社製の「ノクセラーDM」(ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド)。
(注6)硫黄:鶴見化学工業(株)社製の「粉末硫黄」。
【0106】
<タイヤの製造>
上記ストリップを、図5に示すようにドラム上でストリップを巻き回し、隣接するストリップが、相互に重複するように幅広のシート状に成形しインナーライナー用のシートを製造した。ここで、ストリップの重複幅は、3mm以上で38mm以下である。
【0107】
表1、表2の仕様に基づくストリップをドラム上でインナーライナーに成形したものを用いてタイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤを試作した。なお加硫は、170℃で20分間プレスを行い、加硫金型から取り外すことなく100℃で3分間冷却した後、加硫金型から取り出した。
【0108】
なお、実施例はストリップに耳部を形成したものであり、比較例はストリップに耳部を有しないもの、あるいは第1層に有機化処理粘土鉱物を配合しないものである。
【0109】
【表1】

【0110】
【表2】

【0111】
<タイヤの性能評価方法>
表1の実施例および比較例の空気入りタイヤの性能評価は、以下の方法で実施した。
【0112】
<エアーイン性能>
加硫後のタイヤ内側を外観で検査し、その評価を以下のとおりとした。
【0113】
A: 外観上、タイヤ1本当たり、直径5mm以下のエアーインの数が0個、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個の場合。
【0114】
B: 外観上、タイヤ1本当たり、直径5mm以下のエアーインの数が1〜3個、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が0個の場合。
【0115】
C: 外観上、タイヤ1本当たり、直径5mm以下のエアーインの数が4個以上、かつ直径5mmを超えるエアーインの数が1個以上の場合。
【0116】
<屈曲亀裂成長試験>
屈曲亀裂成長試験は、インナーライナーが割れたり剥がれたりするかどうかで評価した。試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、タイヤ内圧は150KPaで通常よりも低内圧に設定し、荷重は600kg、速度100km/h、走行距離20,000kmでタイヤの内部を観察し、亀裂、剥離の数を測定した。比較例1を基準にして各実施例、比較例の亀裂成長性を、以下の式に基づき指数で表示した。数字が大きいほど屈曲亀裂成長が小さいことを示す。
【0117】
屈曲亀裂成長指数=(比較例1の亀裂の数)/(各実施例の亀裂の数)×100
<転がり抵抗指数>
(株)神戸製鋼所製の転がり抵抗試験機を用いて、試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、荷重3.4kN、空気圧230kPa、速度80km/hの条件で、室温(30℃)にて走行させて転がり抵抗を測定した。そして、下記の計算式に基づき比較例1を基準100として、実施例の転がり抵抗変化率(%)を指数で表示した。転がり抵抗変化率が大きいほど、転がり抵抗が低減されていることを示す。
【0118】
転がり抵抗指数=(比較例1の転がり抵抗/実施例の転がり抵抗)×100
<静的空気圧低下率試験>
試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、初期空気圧300kPaを封入し、90日間室温で放置し空気圧の低下率を1カ月で計算した。数値が小さいほど空気圧が減りにくく好ましい。
【0119】
<タイヤユニフォミティの評価>
タイヤユニフォミティ試験機を用い、JASO C607:2000の「自動車用タイヤのユニフォミティ試験方法」に準拠して、ラジアルフォースバリエーション(RFV)を測定し、比較例1を100として相対値を指数で評価している。数値が大きいほど、ユニフォミティが良好であることを示す。測定条件は、リム(8.0×17)、タイヤ回転速度(60rpm)、空気圧(200kPa)、縦荷重(4000kN)とした。
【0120】
<タイヤの評価結果>
表1において、実施例1〜4は、第1層の有機化処理粘土鉱物は0.5質量部の事例、実施例5〜8は第1層の有機化処理粘土鉱物は25質量部の事例、実施例9は第1層の有機化処理粘土鉱物は0.1質量部の事例、実施例10は第1層の有機化処理粘土鉱物は50質量部の事例である。さらに上記実施例1〜10はストリップの断面形状を変更している。
【0121】
表2において、比較例1はストリップに耳部を形成していない例、比較例2〜5は耳部を形成しているが、第1層に無機粘土鉱物を混合した事例、比較例6、7は、耳部を形成し第1層の有機化処理粘土鉱物を0.05質量部配合し所定範囲から外れる事例である。比較例8、9は、耳部を形成し第1層の有機化処理粘土鉱物を70質量部配合し所定範囲から外れる事例である。
【0122】
表1、表2の評価結果から、本発明の実施例は、エアーイン、屈曲亀裂成長試験、転がり抵抗指数、静的空気圧低下率およびユニフォミティの結果において、いずれも比較例1よりも総合的に優れていることが認められる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用空気入りタイヤのほか、トラック・バス用、重機用等の空気入りタイヤとして用いることができる。
【符号の説明】
【0124】
1 空気入りタイヤ、2 トレッド部、3 サイドウォール部、4 ビード部、5 ビードコア、6,C カーカスプライ、7 ベルト層、8 ビードエーペックス、9 インナーライナー、10 ストリップ、11 ストリップの製造装置、12 シート、13 押出装置、14A,14B 型ローラ、15 スクリュ軸、16 押出口、17 口金、18 フリーローラ、PL 積層体、PL1 SIBS層、PL2 SIS層、PL3 SIB層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒ドラム上で螺旋状に巻回させることにより仕上げ断面形状に近い形状のタイヤ用インナーライナーを形成するための熱可塑性エラストマー組成物のストリップであって、
該ストリップは、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体100質量部に対し、有機化処理粘土鉱物0.1〜50質量部を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる第1層と、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンジブロック共重合体の少なくともいずれかを含む熱可塑性エラストマー組成物からなる第2層の積層体で構成されており、
前記ストリップはストリップ本体とその両側に配置される耳部を有し、前記ストリップ本体の厚さ(T1)は0.05mm〜1.0mmであり、前記耳部の厚さ(T2)は前記ストリップ本体の厚さ(T1)より薄く、耳部の幅(W2)は0.5mm〜5.0mmであるインナーライナー形成用のストリップ。
【請求項2】
前記スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体は、重量平均分子量が5万〜40万であり、スチレン成分含有量が10〜30質量%である請求項1記載のストリップ。
【請求項3】
前記スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体は、重量平均分子量が10万〜29万であり、スチレン成分含有量が10〜30質量%である請求項1または2に記載のストリップ。
【請求項4】
前記スチレン−イソブチレンジブロック共重合体は、重量平均分子量が4万〜12万であり、スチレン成分含有量が10〜35質量%である請求項1〜3のいずれかに記載のストリップ。
【請求項5】
前記ストリップの幅(W0)は、5mm〜40mmである請求項1〜4のいずれかに記載のストリップ。
【請求項6】
前記ストリップの耳部の厚さ(T2)は、0.02mm〜0.5mmである請求項1〜5のいずれかに記載のストリップ。
【請求項7】
前記第1層の厚さは0.05mm〜0.6mmであり、第2層の厚さは0.01mm〜0.3mmである請求項1記載のストリップ。
【請求項8】
請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなるストリップの製造方法であって、
(a)押出機本体と押出ヘッドを備えた押出装置により、熱可塑性エラストマーを押し出して横長矩形断面形状のシートを形成する押出工程と、
(b)該シートを、一対の型ローラに通して、前記シートに型ローラの形状を転写してストリップ端部に耳部を備えたストリップ形成工程と、
(c)前記ストリップを型ローラから剥離する剥離工程と、
を含むストリップの製造方法。
【請求項9】
請求項1のストリップを円筒ドラム上で螺旋状に巻回させてインナーライナーを形成し、該インナーライナーを生タイヤの内面に配置した後、加硫することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−63568(P2013−63568A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203217(P2011−203217)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】