説明

ストリップ

【課題】イムノクロマト法などを用いる生化学試験のための、改善された感度を提供することが可能な新規のストリップを提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題は、イムノクロマト法などの生化学試験における反応を担う分子を保持する保持部として、(i)親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、(ii)親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュ、を備えることによって解決された。保持部には、生化学試験における反応を担う分子が保持される。本発明によって、アフィニティー精製を簡便に行うためのストリップもまた、提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学試験ないし目的物質の精製に使用するストリップに関する。本発明のストリップは、生化学試験における反応を担う分子、または、目的物質を特異的に結合する分子を保持する保持部として、(i)親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、(ii)親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュ、を備えることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマト法などを用いる生化学試験を簡便に行うために、ろ紙などを用いたストリップが利用されている。従来法のイムノクロマト用ストリップでは、サンプル中の標的物質を検出する抗体の溶液をテストラインとしてろ紙に塗布し、コントロール物質を検出する抗体の溶液をコントロールラインとしてろ紙に塗布し、サンプルがストリップを移動する際に、標的物質またはコントロール物質がこれら抗体と反応する。テストラインまたはコントロールラインに抗体溶液を塗布することにより保持される抗体の量は、溶液中の抗体の濃度、および、塗布する抗体溶液の量に依存する。そのため、検出感度を上げるためには、より多くの抗体溶液を塗布することが必要となる。しかしながら、塗布する抗体溶液の量を増やすと、テストラインないしコントロールラインの幅が広くなり、かえって反応が見難くなる。それゆえ、ろ紙であるストリップを用いる従来法における検出感度よりも高い検出感度を提供するために、新規のストリップが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平7−60158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、イムノクロマト法などを用いる生化学試験のための、改善された感度を提供することが可能な新規のストリップを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題は、イムノクロマト法などの生化学試験における反応を担う分子を保持する保持部として、(i)親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、(ii)親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュ、を備えることによって解決された。保持部には、生化学試験における反応を担う分子が保持される。
【0006】
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
サンプル導入部、展開部、および、保持部を備えるストリップであって、該保持部は、親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュを備え、そして、該保持部は、その表面に生化学試験のための物質を保持する、ストリップ。
(項目2)
サンプル導入部、展開部、および、保持部を備えるストリップであって、該保持部は、親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュを備え、そして、該保持部は、目的物質と特異的に結合する物質を保持する、ストリップ。
(項目3)
前記親水性表面を有する樹脂の表面が、赤外吸収スペクトルにおいて、3500/cm付近に吸収を有する項目1または2に記載のストリップ。
(項目4)
前記親水性表面を有する樹脂の表面が親水性処理されている項目1〜3のいずれか1項に記載のストリップ。
(項目5)
項目4に記載のストリップであって、
ここで、前記ストリップを公転させる場合の前記親水性処理の条件が、投入電力が0.4〜3(KW)、処理時間が1〜300(秒)、真空度が0.1〜50(Pa)であり、
ここで、基板を静止させる場合の前記親水性処理の条件が、投入電力が0.4〜3(KW)、処理時間が1/50〜60(秒)、真空度が0.1〜50(Pa)である、ストリップ。
(項目6)
前記樹脂が、ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリル樹脂、およびポリスチレンからなる群から選択される透明樹脂である項目1〜5のいずれか1項に記載のストリップ。
(項目7)
該複数の突起は、所定の高さ(H)、直径(D)、及び相互間隔を有し、該突起の高さ(H)は10〜5000μm、突起の直径(D)は10nm〜500μm、突起間の間隔は0.1μm〜1000μmである項目1〜6のいずれかの項に記載のストリップ。
(項目8)
項目1に記載のストリップであって、前記生化学試験がイムノクロマト法を用いる試験であり、前記生化学試験のための物質が抗体である、ストリップ。
(項目9)
項目1に記載のストリップであって、前記生化学試験が金属原子の検出試験であり、前記生化学試験のための物質が該金属原子と錯体を形成する物質である、ストリップ。
(項目10)
項目1に記載のストリップであって、ろ紙を含む、ストリップ。
(項目11)
項目1または2に記載のストリップであって、サンプルが移動する微小流路を含む、ストリップ。
(項目12)
項目11に記載のストリップであって、前記微小流路の表面が親水性処理された樹脂を含む、ストリップ。
(項目13)
項目11に記載のストリップであって、前記微小流路の幅が0.05〜5mmである、ストリップ。
(項目14)
項目11に記載のストリップであって、前記微小流路が、並行に配置された複数の微小流路である、ストリップ。
【0007】
また、本発明によって、アフィニティー精製を簡便に行うためのストリップもまた、提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のストリップは、(i)親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、(ii)親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュ、を備えるため、生化学試験のための任意の物質が拡散することなく、所定の位置に限定される。また、ろ紙を使用する従来法と比較して、一定の面積に、より多量の生化学試験のための任意の物質を固定化することが可能となる。その結果、拡散によって生じるシグナルの不鮮明さに起因する精度ないし感度の低下を防ぐことができる。
【0009】
本発明の微小な突起、および/または、メッシュは、その高さを調節することによって、ストリップの一定面積あたりの生化学試験のための任意の物質の密度を調節することが可能であり、それゆえ、一定面積あたりの生化学反応の量を調節することができる。その結果、本発明のストリップは、従来法と比較して、同一面積あたりの生化学反応量を増加することが可能であり、それゆえ、従来法と比較して感度を高めることが可能となる。
【0010】
さらに、本発明のストリップは、アフィニティー精製を簡便に行うためにもまた、使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のストリップ(11)の断面図である。ストリップ(11)は、導入部(21)、展開部(31)、および、保持部(41)を備える。導入部(21)と展開部(31)は、同一部材の異なる部分であってもよい。導入部に導入されたサンプルは、展開部によって、矢印Aの方向に展開される。
【図2】図2は、本発明のストリップ(12)の断面図である。ストリップ(12)は、導入部(21)、展開部(31)、保持部(41)、および、さらなる展開部(32)を備える。導入部(21)と展開部(31)は、同一部材の異なる部分であってもよい。導入部に導入されたサンプルは、展開部によって、矢印Aの方向に展開される。
【図3】図3は、本発明のストリップ(13)の断面図である。ストリップ(13)は、導入部(21)、展開部(31)、保持部(41)、および、吸収部(51)を備える。導入部(21)と展開部(31)は、同一部材の異なる部分であってもよい。導入部に導入されたサンプルは、展開部によって、矢印Aの方向に展開される。
【図4】図4は、本発明のストリップ(14)の断面図である。ストリップ(14)は、導入部(21)、展開部(31)、保持部(41)、さらなる展開部(32)、さらなる保持部(42)、および、さらなる展開部(33)を備える。導入部(21)と展開部(31)は、同一部材の異なる部分であってもよい。導入部に導入されたサンプルは、展開部によって、矢印Aの方向に展開される。
【図5】図5は、単独の微小流路を備える本発明のストリップ(12)の平面図である。ストリップ(12)は、導入部(21)、展開部(31)、保持部(41)、および、さらなる展開部(32)を備える。導入部(21)と展開部(31)は、同一部材の異なる部分であってもよい。導入部に導入されたサンプルは、展開部によって、矢印Aの方向に展開される。
【図6】図6は、複数の微小流路を備える本発明のストリップ(12)の平面図である。ストリップ(12)は、導入部(21)、展開部(31)、保持部(41)、および、さらなる展開部(32)を備える。導入部(21)と展開部(31)は、同一部材の異なる部分であってもよい。導入部に導入されたサンプルは、展開部によって、矢印Aの方向に展開される。
【図7】図7は、重力を用いてサンプルを展開する、本発明のストリップ(15)の断面図である。ストリップ(12)は、導入部(21)、展開部(31)、保持部(41)、および、さらなる展開部(32)を備える。これら各部の底面の高さは、展開方向に従って、より低くなっていく。導入部(21)と展開部(31)は、同一部材の異なる部分であってもよい。導入部に導入されたサンプルは、展開部によって、矢印Aの方向に展開される。
【図8】図8は、親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起を含む保持部の断面図である。
【図9】図9は、図8に示す保持部の要部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。
【0013】
(第1.本発明のストリップ)
本発明のストリップは、(i)親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、(ii)親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュを含む保持部を備える(41、42)。
【0014】
一つの局面において、本発明のストリップ(11)は、導入部(21)、展開部(31)、および、保持部(41)を備える(図1)。導入部(21)と展開部(31)は、同一部材の異なる部分であってもよい。導入部に導入されたサンプルは、展開部によって保持部の方向に展開され(図1の矢印Aの方向)、保持部に移動する。保持部に移動したサンプルは、保持部が保持する生化学試験における反応を担う分子と接触する。本発明のストリップ(12)は、保持部(41)に隣接して、サンプルを展開する方向にさらに展開部(32)を備えてもよい(図2)。
【0015】
本発明のストリップは、サンプルを展開する方向の端部に、展開した液相を吸収するための吸収部(51)を備えてもよい。図3は、図1のストリップ(11)の端部において、保持部(41)に隣接する吸収部(51)をさらに備えるストリップ(13)である。本発明においては、図2のストリップ(12)の端部において、展開部(32)に隣接する吸収部(51)をさらに備えてもよい。
【0016】
本発明のストリップは、2つ以上の保持部を備えてもよい。例えば、図2に示す本発明のストリップ(12)において、サンプルを展開する方向の端部にさらに、展開部(32)に隣接して、保持部(42)および展開部(33)を備えてもよい(14)(図4)。保持部(41)と保持部(42)との間の展開部(32)は省略してもよく、その場合、保持部(41)と保持部(42)とは展開部(32)を解することなく直接隣接する。また、展開部(33)は、必須ではなく、ストリップ(14)において省略することもできる。ストリップ(14、あるいは、33を欠く14)において、サンプルを展開する方向の端部に、展開した液相を吸収するための吸収部(51)を備えてもよい。
【0017】
同様にして、本発明のストリップは、3つ以上の保持部を備えてもよい。
【0018】
(1.導入部)
分析するサンプルは、導入部に導入される。導入部は、導入部に隣接する展開部と同一の部材によって構成されても、異なる部材によって構成されてもよい。導入部と、導入部に隣接する展開部は、必ずしも物理的に区別される必要はない。また、展開部の一部を導入部として利用してもよい。
【0019】
(2.展開部)
本発明のストリップが備える展開部は、サンプル溶液を展開できる任意の材料を用いることが可能である。毛細管現象を利用する場合、例えば、ろ紙、メンブレン、および/または、微小流路を用いることが可能である。
【0020】
(2.1.ろ紙またはメンブレン)
ろ紙またはメンブレンとしては、イムノクロマトグラフィーに利用可能な材料を利用することができる。例えば、メンブレンとしては、ニトロセルロースメンブレン、セルロースアセテートが挙げられるがこれらに限定されない。
【0021】
(2.2.表面を親水性処理した成形樹脂の微小流路)
毛細管現象を利用する場合、表面を親水性処理した成形樹脂の微小流路を利用することができる。樹脂としては、ポリエステル、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、アクリル樹脂、PC(ポリカーボネート)、ポリアミド、PS(ポリスチレン)などの熱可塑性樹脂、生物分解性樹脂、紫外線硬化性樹脂などを使用することができる。通常は、熱可塑性樹脂が使用される。特に、透明であり、成形性に優れた非結晶性樹脂が好ましい。特に好ましい樹脂は、PC、ABS、PMMA(アクリル)、およびPSなどの透明樹脂である。
【0022】
樹脂表面の親水性処理には、任意の方法を利用することが可能である。代表的な親水性処理は、装置内に大気ガスまたはアルゴンなどのガスを入れ、真空中でガスを活性化させ基板表面に当てることで、基板表面に水酸基を増大させる方式である。使用するガス、電源方式(RF,DCなど)、真空の程度(高真空(10の−3乗Pa程度以上)〜低真空(1〜100Pa程度))を選択することによって、親水性処理条件を調節することができる。好ましくは、親水性処理によって、基板の表面の水接触角を20°以下、または、2〜15°、または、10°以下とする。水接触角は、JIS R3257(静滴法、簡易的にθ/2法などとも呼ばれる。)に準拠して測定することが可能である。親水性処理の条件は、樹脂の種類に応じて、真空度、投入電力、処理時間を変更すればよい。
【0023】
一般には、電極と処理対象基板の距離がおよそ1〜300mmで、基板を公転して処理する場合、投入電力は0.4〜3(KW)、処理時間は1〜300(秒)、真空度は0.1〜50(Pa)である。好ましくは、投入電力は1.6〜2(KW)、処理時間は60〜120(秒)、真空度は5〜20、特に10(Pa)である。また、基板を静止させて処理することも可能であり、その場合、処理時間は公転の場合のおおむね、1/5〜1/50にすればよい。
【0024】
毛細管現象を利用するために適切な微小流路の幅は、使用するサンプルの粘性などを考慮して、当業者が適宜決定することができる。微小流路の幅は、代表的には0.05mm〜5mm、好ましくは0.1mm〜5mm、より好ましくは1mm〜3mm、最も好ましくは1mm〜2mmである。
【0025】
本発明の微小流路は、例えば、図5に示されるように、単独の流路を利用することができる。その一方で、毛細管現象を利用するために微小流路の幅が制限されることから、本発明においては、必要に応じて、図6に示すように、複数の並行の微小流路を作製することもできる。
【0026】
(2.3.遠心力による展開)
毛細管現象を用いることなく、または、毛細管現象とともに、遠心力を用いて展開をすることも可能である。遠心力の程度および時間は、当業者が適宜選択することができる。
【0027】
(2.4.重力による展開)
毛細管現象を用いることなく、または、毛細管現象とともに、重力を用いて展開をすることも可能である。例えば、図7に示されるように、サンプルを展開する方向に従って、各部の底面を低くすることによって、重力によってサンプルを展開することも可能である。底面の高さの差は、所望の展開速度を得るために当業者が適宜選択することができる。また、重力による展開を、遠心力による展開と組み合わせることも可能である。
【0028】
(2.5.液相の追加による展開)
毛細管現象を用いる際に、導入部に残存する液相の量が少ない場合、展開の速度が低下する。そのため、導入分に添加する液相(例えば、サンプル溶液)の量を制限することによって、展開の速度を低下させる、ないし、展開を一時的に中断することが可能である。そのような場合に、導入分に液相を追加することによって、展開を再開する、または、展開速度を増加することが可能である。
【0029】
(3.保持部)
本発明のストリップが備える保持部は、(i)親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、(ii)親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュから構成される。
【0030】
(3.1.親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起)
親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起に利用可能な樹脂および親水性処理、ならびに、好ましい水接触角は、上記2.2.に記載したとおりである。
【0031】
親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起においては、図8および図9に示すように、突起2は基体1表面から垂直方向に延びている。突起の高さ、直径、隣接する突起間の間隔は、樹脂の種類、基板の親水性の程度(接触角)、使用目的などに応じて設定することができるが、典型的には、突起2の高さ(H)は10〜5000μm、突起の直径(D)は10nm〜500μm、突起間の間隔は0.1μm〜1000μmが好ましい。
【0032】
本発明において、突起2の直径Dとは、突起の中間位置における相当直径である。なお、相当直径という語を用いたのは、突起の断面が必ずしも円形ではなく、楕円、多角形、非対称形などの場合があるためで、本発明ではこれらを全て包含するために相当直径を用いる。アスペクト比(H/D)としては、4以上が好ましく、8から30がより好ましい。しかし、構造的な強度の点から100以下が好ましい。突起部の形状は典型的には、略円柱形状である。突起表面に化学的又は生物学的処理をすることによって、生化学試験における反応を担う分子を保持する。化学的処理としては、例えば、N−ヒドロキシサクシンイミド(NHS)による活性エステル化、ブロモシアン(CNBr)による活性化、エポキシ活性化、SDS処理、が挙げられるがこれらに限定されない。
【0033】
(3.2.親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュ)
親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュに利用可能な樹脂および親水性処理、ならびに、好ましい水接触角は、上記2.2.に記載したとおりである。
【0034】
メッシュの網目の大きさは、使用するサンプル、および、目的とする生化学反応に基づいて、当業者が適宜決定することが可能である。メッシュの網目の大きさは、代表的には0.1μm〜1000μm、好ましくは0.5μm〜500μm、より好ましくは0.5μm〜10μm、最も好ましくは0.1μm〜1.0μmである。メッシュの厚さは、代表的には0.01mm〜10mm、好ましくは0.05mm〜5.0mm、より好ましくは0.1mm〜5.0mm、最も好ましくは1.0mm〜3.0mmである。
【0035】
(3.3.複数の保持部)
本発明のストリップは、2つ以上の保持部を備えてもよい(図4参照)。例えば、1つの保持部は、目的の分子の検出のために利用され、別の保持部をコントロールとして利用してもよい。2つ以上の保持部を備える場合、好ましくは、これら保持部は、展開部によって隔てられるが、特定の局面においては、2つ以上の保持部は隣接してもよい。
【0036】
(4.吸収部)
不要な液相を除去するため、あるいは、毛細管現象を促進するために、本発明のストリップの末端(導入部と反対側の末端)は、液相の吸収部を備えても良い(図3参照)。本発明の吸収部は、例えば、液相を吸収するろ紙または吸収パッド、隣接する展開部ないし保持部の底面よりも低い底面を有する液相リザーバ、液相の吸引装置、が挙げられるがこれらに限定されない。
【0037】
(第2.本発明のストリップの使用)
本発明のストリップは、任意の生化学試験に利用することができる。また、後述するように、本発明のストリップは、目的物質の単離・精製に利用することができる。
【0038】
(1.イムノクロマト)
本発明のストリップは、イムノクロマトに利用可能である。目的分子に対する抗体を2種類用意し、第1の抗体を、保持部(41)に固定化する。標識を付した第2の抗体を、分析対象となるサンプルと混合し、導入部(21)に導入する。展開部(31)を展開したサンプル・抗体混合物は、保持部(41)に移動する。サンプル中に目的分子が存在する場合、その目的分子は第2の抗体と複合体を形成し、そして、その複合体は、固定化された第1の抗体と結合する。その結果、保持部では、[固定化された第1の抗体]−[目的分子]−[標識された第2の抗体]という複合体が形成される。この複合体中の第2の抗体が有する標識を検出することによって、サンプル中の目的分子の存在を検出することが可能となる。(この場合、目的物質と第2の抗体が結合しても、目的物質と第1の抗体の結合は影響を受けないことが好ましい。)
必要に応じて、ストリップは、さらなる保持部を備える。さらなる保持部は、コントロールとして使用可能である。例えば、さらなる保持部に、標識を付した第2の抗体に特異的な抗体を固定化することによって、サンプルを含む混合物が適切に展開し、そして、第2の抗体に標識が適切に付されていることを確認することができる。
【0039】
目的物質が複数存在する場合には、さらなる保持部を備え、別の目的物質と特異的に結合する抗体を固定化する。
【0040】
抗体が惹起できる任意の物質が、イムノクロマトの検出対象となり得る。そのような物質の例としては、限定されることはないが、例えば、食物アレルギーのアレルゲン(例えば、グルテン、オボムコイド、オボアルブミン、大豆たんぱく、キチンなどが挙げられるがこれらに限定されない)、重金属(例えば、カドミウム、セシウム、水銀、砒素が挙げられるがこれらに限定されない)、ウイルス(例えば、ノロウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルスが挙げられるがこれらに限定されない)、マイコプラズマ、スピロヘータ、病原性原虫、細菌(大腸菌、サルモネラ、緑膿菌、ブドウ球菌、溶血性連鎖球菌、肺炎球菌、結核菌が挙げられるがこれらに限定されない)、アゴニスト、アンタゴニスト、ホルモン、サイトカイン、核酸、DNA,RNA、及びそれらの断片、ならびに、これらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
(2.精製)
本発明のストリップを、目的物質の精製に利用することができる。
【0042】
目的物質を含むサンプルを導入部(21)に導入し、展開部(31)を経て、保持部(41)に移動させる。保持部には、目的物質に特異的に結合する分子(例えば、抗体、レセプターが目的物質の場合はリガンド、リガンドが目的物質の場合はレセプター、多量体を形成する場合はモノマー、複合体を形成する場合は複合体の構成成分、あるいは、任意の結合パートナーが挙げられるがこれらに限定されない)が固定化されているため、保持部に移動したサンプル中の目的物質は、保持部で捕獲される。捕獲された目的物質は、塩濃度変化、および/または、pH変化、あるいは、固定化された分子の切断によって、保持部から遊離する。遊離した目的物質を回収することによって、目的物質の精製が可能となる。
【0043】
(3.検出)
本発明のストリップを検出に用いる場合、任意の周知の検出法を利用することができる。例えば、上記(1)に記載にようにイムノクロマトに使用する場合、第2の抗体を金コロイドで標識することによって、保持部での複合体形成を目視によって検出することが可能である。
【0044】
金コロイド以外にも、蛍光物質、ビオチン、酵素、フェニルボロン酸を用いて標識することが可能である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
メチルアクリレートのナノインプリントフィルム上で免疫反応が肉眼で確認できるか否かについて、以下の実験により観察した。
【0047】
(ナノインプリントフィルムの作製)
メチルアクリレート樹脂に、高さ(H)は30μm、直径(D)は10μm、突起間の間隔は15μmの突起を形成した。次に、樹脂を静止させて投入電力が2.0(KW)、処理時間が60(秒)、真空度が0.1(Pa)によって親水性処理を行い、メチルアクリレートのナノインプリントフィルムを作製した。このナノインプリントフィルムは、本発明の保持部に相当する。
【0048】
ナノインプリントフィルムに、平均粒径400nmの金コロイドに結合させた抗CRPマウス抗体を滴下し、均一に行き渡らせた後、室温で15〜20分間乾燥させた。次に、各種濃度の抗原であるCRPタンパク質溶液を滴下した。
【0049】
その結果、抗原が滴下された部分は同心円状に広がり、同心円に沿って紫色のリングが形成されたことから、抗原抗体反応が生じたことが確認された。
【0050】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のストリップは、(i)親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、(ii)親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュ、を備えるため、生化学試験のための任意の物質が拡散することなく、所定の位置に限定される。また、ろ紙を使用する従来法と比較して、一定の面積に、より多量の生化学試験のための任意の物質を固定化することが可能となる。その結果、拡散によって生じるシグナルの不鮮明さに起因する精度ないし感度の低下を防ぐことができる。
【0052】
本発明の微小な突起、および/または、メッシュは、その高さを調節することによって、ストリップの一定面積あたりの生化学試験のための任意の物質の密度を調節することが可能であり、それゆえ、一定面積あたりの生化学反応の量を調節することができる。その結果、本発明のストリップは、従来法と比較して、同一面積あたりの生化学反応量を増加することが可能であり、それゆえ、従来法と比較して感度を高めることが可能となる。
【0053】
さらに、本発明に従って、アフィニティー精製を簡便に行うための装置もまた、提供される。
【符号の説明】
【0054】
1 基板
2 突起
11、12、13、14、15 ストリップ
21 導入部
31、32、33 展開部
41、42 保持部
51 吸収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル導入部、展開部、および、保持部を備えるストリップであって、該保持部は、親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュを備え、そして、該保持部は、その表面に生化学試験のための物質を保持する、ストリップ。
【請求項2】
サンプル導入部、展開部、および、保持部を備えるストリップであって、該保持部は、親水性表面を有する樹脂よりなる複数の微小な突起、および/または、親水性表面を有する樹脂よりなるメッシュを備え、そして、該保持部は、目的物質と特異的に結合する物質を保持する、ストリップ。
【請求項3】
前記親水性表面を有する樹脂の表面が、赤外吸収スペクトルにおいて、3500/cm付近に吸収を有する請求項1または2に記載のストリップ。
【請求項4】
前記親水性表面を有する樹脂の表面が親水性処理されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のストリップ。
【請求項5】
請求項4に記載のストリップであって、
ここで、前記ストリップを公転させる場合の前記親水性処理の条件が、投入電力が0.4〜3(KW)、処理時間が1〜300(秒)、真空度が0.1〜50(Pa)であり、
ここで、基板を静止させる場合の前記親水性処理の条件が、投入電力が0.4〜3(KW)、処理時間が1/50〜60(秒)、真空度が0.1〜50(Pa)である、ストリップ。
【請求項6】
前記樹脂が、ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリル樹脂、およびポリスチレンからなる群から選択される透明樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載のストリップ。
【請求項7】
該複数の突起は、所定の高さ(H)、直径(D)、及び相互間隔を有し、該突起の高さ(H)は10〜5000μm、突起の直径(D)は10nm〜500μm、突起間の間隔は0.1μm〜1000μmである請求項1〜6のいずれかの項に記載のストリップ。
【請求項8】
請求項1に記載のストリップであって、前記生化学試験がイムノクロマト法を用いる試験であり、前記生化学試験のための物質が抗体である、ストリップ。
【請求項9】
請求項1に記載のストリップであって、前記生化学試験が金属原子の検出試験であり、前記生化学試験のための物質が該金属原子と錯体を形成する物質である、ストリップ。
【請求項10】
請求項1に記載のストリップであって、ろ紙を含む、ストリップ。
【請求項11】
請求項1または2に記載のストリップであって、サンプルが移動する微小流路を含む、ストリップ。
【請求項12】
請求項11に記載のストリップであって、前記微小流路の表面が親水性処理された樹脂を含む、ストリップ。
【請求項13】
請求項11に記載のストリップであって、前記微小流路の幅が0.05〜5mmである、ストリップ。
【請求項14】
請求項11に記載のストリップであって、前記微小流路が、並行に配置された複数の微小流路である、ストリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−113633(P2013−113633A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258078(P2011−258078)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000225740)南部化成株式会社 (41)
【出願人】(509127147)株式会社キコーコーポレーション (5)