説明

ストレスホルモン作用緩和剤

【課題】安全でかつ簡便に用いることができる、ヒト等の哺乳類におけるストレスホルモン(例えば、コルチゾール等)の作用を持続的に緩和する剤を提供する。さらには、該剤を利用して、ストレスホルモンが関与する種々の症状や疾病、病態等の予防、防止、改善、治療等に役立つ皮膚外用剤、経口用組成物(例えば機能剤、飲食品など)、医薬製剤等を提供する。
【解決手段】加水分解コンキオリンおよび/またはクロレラエキスからなるストレスホルモン作用緩和剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はストレスホルモンの作用を緩和する剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現代はストレス社会であるといわれ、ストレスにより心身ともにさまざまな障害が生じる。情動ストレス(精神的ストレス)により胃や十二指腸に潰瘍が形成され、鬱病や自律神経失調症を発症する。皮膚も例外ではない。ストレスが皮膚に及ぼす影響として、表皮細胞の増殖の低下、皮脂腺活性の減退化、皮膚バリアー機能の回復遅延およびそれによる皮膚免疫反応の低下等が知られている。皮膚に対するストレスは、情動ストレス(精神的ストレス)の他に、紫外線、酸化、乾燥などが挙げられる。
【0003】
ストレス刺激は、視床下部−下垂体−副腎系あるいは自律神経系を介して全身の各種臓器に伝わる。前者の系では、ストレス負荷がかかると視床下部から下垂体にストレス刺激が伝達され、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が多く分泌し、副腎皮質からコルチゾール(=ハイドロコルチゾン)、アルドステロン、コルチコステロン等に代表される副腎皮質ホルモン(ステロイド)が血中に放出され免疫力が低下する。ストレス刺激が長期に亘るとコルチコステロンの分泌量が増大し、コルチゾールの働きを活性化する。後者の自律神経系では、副腎髄質からアドレナリン、ノルアドレナリン等が血中に放出され、血管の収縮等様々な薬理作用を引き起こす。このようにストレス刺激により分泌・放出されるホルモンを一般に「ストレスホルモン」と称している。
【0004】
これらストレスホルモンの中で、特に副腎皮質ホルモン、とりわけコルチゾール(=ハイドロコルチゾン)の分泌・放出量の増加が、コラーゲンの産生を抑制することが知られている。
【0005】
このようなストレスによる皮膚機能の低下防止に、香料吸入が有効であることが報告されている。例えば非特許文献1には、バラの香料に含まれる化学物質として知られている1,3−ジメトキシ5−メチルベンゼン(DMMB)を主体とする香料の吸入が、唾液中コルチゾール濃度を下げ、ストレスによる皮膚バリアー機能回復遅延、皮膚免疫反応の低下を抑えたことが開示され、非特許文献2には、シトラルバ(citralva)、ライラル(lyral)/リリアル(lilial)等の香料が皮膚免疫機能調節機能(例えば、皮膚バリアー機能の維持、回復など)を有することが開示されている。しかしながらこれら香料の吸入という方法は、香料の揮発性、およびそれによる作用量の制御が難しいという問題がある。
【0006】
なお、後述するように、本発明は加水分解コンキオリン、クロレラエキスを利用した技術である。従来、加水分解コンキオリンを利用した技術は特許文献1〜3等に記載され、前記加水分解コンキオリンの製造方法が特許文献4〜5等に記載されている。またクロレラエキスを利用した技術は特許文献6〜7等に記載されている。しかしこれら従来技術文献には、加水分解コンキオリン、クロレラエキスそれ自体がストレスホルモンの作用を緩和する働きを有することについての記載や示唆はない。
【0007】
【非特許文献1】細井純一、外10名、「香りのストレス緩和効果の血中および唾液中コルチゾールを指標とした評価」、自律神経、日本自律神経学会、2002年6月15日、第39巻第3号、p.260−264
【非特許文献2】Junichi Hosoi, et al., "Regulation of Cutaneous Allergic Reaction by Odorant Inhalation", The Journal of Investigative Dermatology, March 2000, Vol.114, No.3, p.541-544
【特許文献1】特開平5−43444号公報
【特許文献2】特開平5−310550号公報
【特許文献3】特開2003−104834号公報
【特許文献4】特開平1−46486号公報
【特許文献5】特開平2−12921号公報
【特許文献6】特開平11−335293号公報
【特許文献7】特開2007−77104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡便かつ安定してストレスホルモンの作用を緩和することができる剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題の解決を解決するために広く種々の物質についてストレスホルモンによる作用の緩和効果について調べた結果、コルチゾール存在下において、加水分解コンキオリン、クロレラエキスが、コルチゾールによる作用を緩和してコラーゲン産生抑制作用を防止することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、加水分解コンキオリンおよび/またはクロレラエキスからなるストレスホルモン作用緩和剤が提供される。
【0011】
また本発明によれば、ストレスホルモンがコルチゾールである、上記ストレスホルモン作用緩和剤が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に用いられる加水分解コンキオリン、クロレラエキスは、ストレスホルモン作用を持続的に緩和する効果に優れるため、それを利用した皮膚外用剤、経口用組成物(例えば機能剤、飲食品など)、医薬製剤等を提供することができ、ストレスホルモンが関与する種々の症状や疾病、病態等の予防、防止、改善、治療等に役立つ。具体的適用例としては、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、鬱病、自律神経失調症皮膚のたるみ・シワ、ハリ・弾力の低下などの症状や疾病を予防、防止、改善、治療することが挙げられる。ただしこれら例示に適用が限定されるものでない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。
【0014】
本発明で用いる加水分解コンキオリン(=コンキオリン加水分解物)は、真珠母貝であるアコヤガイ(Pinctada fucata)の真珠層に含まれる硬タンパク質コンキオリンを加水分解した水溶液をいう。加水分解の方法は特に限定されるものでなく、常法により行うことができる。加水分解コンキオリンの製造方法は、特開平1−46486号公報(特許文献4)、特開平2−12921号公報(特許文献5)等に具体的に記載されているが、これらの方法に限定されることはなく、コンキオリンが加水分解物となっていて、皮膚感作成分である高分子ペプチドが除去されていればよい。加水分解コンキオリンは、例えば「真珠たん白抽出液」シリーズ(丸善製薬(株)製)等として市販もされており、これらを好適に用いることができる。ただしそれらに限定されるものでない。
【0015】
本発明で用いるクロレラエキス(Chlorella Extract)は、淡水中に生息するクロロコックム目(Chlorococcales)のクロレラ属(Chlorella)に属する単細胞緑藻類より得られる抽出エキスで、主成分として、アミノ酸、ビタミンを多く含む。細胞分裂作用、抗腫瘍作用などをもつことで知られる。クロレラエキスは常法より得ることができ、例えば、クロレラを必要により乾燥した後、抽出溶媒に一定期間浸漬するか、あるいは加熱還流している抽出溶媒と接触させ、次いで濾過し、濃縮して得ることができる。抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、クロロホルム、ジクロルエタン、四塩化炭素、アセトン、酢酸エチル等の有機溶媒を、それぞれ単独あるいは組み合わせて用いることができる。上記溶媒で抽出して得た抽出液をそのまま、あるいは濃縮したエキスを用いるか、あるいはこれらエキスを吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ポーラスポリマー(例えばアンバーライトXAD−2)のカラムにて吸着させた後、メタノールまたはエタノールで溶出し、濃縮したものも使用することができる。また分配法、例えば水/酢酸エチルで抽出した抽出物等も用いられる。クロレラエキスは、一丸ファルコス(株)、池田糖化工業(株)などから市販もされており、これらを好適に用いることができる。ただしそれらに限定されるものでない。
【0016】
上記加水分解コンキオリン、クロレラエキスは、コルチゾール(ストレスホルモンの1種)によるコラーゲン産生抑制作用を緩和するという優れた効果を有する。加水分解コンキオリン、クロレラエキスにストレスホルモン緩和作用があることはこれまで全く知られておらず、本発明者らによってこれら作用をもつことが初めて確認されたものである。
【0017】
本発明のストレスホルモン作用緩和製剤は、皮膚外用剤に配合してヒトおよび動物に用いることができる他、各種飲食品、飼料(ペットフード等)に配合して摂取させることができる。また医薬製剤としてヒトおよび動物に投与することができる。
【0018】
本発明のストレスホルモン作用緩和製剤を皮膚外用剤に配合する場合、加水分解コンキオリンを単独で配合する場合、配合量(乾燥質量)0.0001〜0.003質量%で本発明効果を奏し、またクロレラを単独配合する場合、配合量(乾燥質量)0.0001〜0.001質量%で本発明効果を奏する。配合量がそれぞれ上記下限値未満では本発明効果を十分に得ることができず、一方、上記上限値を超えて配合しても効果のさらなる増加は実質上望めないし、皮膚外用剤への配合も難しくなる傾向にある。
【0019】
本発明では加水分解コンキオリンとクロレラを併用して配合してもよく、その場合の配合量は、上記各成分の配合量から適宜調節して用いることができるが、好ましくは0.00001〜50質量%であり、より好ましくは0.00005〜5質量%である。
【0020】
本発明を皮膚外用剤に適用する場合、上記成分に加えて、さらに必要により、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば酸化防止剤、油分、紫外線防御剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0021】
さらに、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属イオン封鎖剤、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン等の防腐剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、トラネキサム酸およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0022】
またこの皮膚外用剤は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等、特に好適には化粧料に広く適用することが可能であり、その剤型も、皮膚に適用できるものであればいずれでもよく、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二層系、水−油−粉末三層系、軟膏、化粧水、ゲル、エアゾール等、任意の剤型が適用される。
【0023】
使用形態も任意であり、例えば化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料やファンデーション、口紅、アイシャドウ等のメーキャップ化粧料、芳香化粧料、浴用剤等に用いることができる。
【0024】
また、メーキャップ化粧品であれば、ファンデーション等、トイレタリー製品としてはボディーソープ、石けん等の形態に広く適用可能である。さらに、医薬部外品であれば、各種の軟膏剤等の形態に広く適用が可能である。そして、これらの剤型及び形態に、本発明のストレスホルモン作用緩和剤の採り得る形態が限定されるものではない。
【0025】
本発明のストレスホルモン作用緩和剤を飲食品や飼料等に配合する場合、加水分解コンキオリン、クロレラエキス配合量(乾燥質量)は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができ、例えば、飲食品全量中に0.00001〜50質量%程度とすることができる。特に、保健用飲食品等として利用する場合には、本発明の有効成分を所定の効果が十分発揮されるような量で含有させることが好ましい。
【0026】
飲食品や飼料の形態としては、例えば、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、または、液体状に任意に成形することができる。これらには、飲食品等に含有することが認められている公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤などの賦形剤を適宜含有させることができる。
【0027】
本発明のストレスホルモン作用緩和剤を医薬製剤として用いる場合、該製剤は経口的にあるいは非経口的(静脈投与、腹腔内投与、等)に適宜に使用される。剤型も任意で、例えば錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、または、注射剤などの非経口用液体製剤など、いずれの形態にも公知の方法により適宜調製することができる。これらの医薬製剤には、通常用いられる結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤などの賦形剤を適宜使用してもよい。
【0028】
本発明のストレスホルモン作用緩和剤を、皮膚外用剤、飲食品、飼料、医薬製剤等として用いる場合、ストレスホルモン作用緩和作用が関与する種々の症状や疾病、病態等の治療、予防、改善等に役立つ。具体的適用例としては、例えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、鬱病、自律神経失調症皮膚のたるみ・シワ、ハリ・弾力の低下などの症状や疾病を予防、防止、改善・治療等に好適に用いられる。また上記症状や疾病、病態等の治療、予防、改善等の生理機能をコンセプトとして、その旨を表示した皮膚外用剤、機能性飲食品、疾病者用食品、特定保健用食品等に応用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
1.被験物質
加水分解コンキオリン液(丸善製薬(株)製)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して濃度0.0001質量%、0.0003質量%、0.03質量%となるよう溶解して加水分解コンキオリン溶液(被験物質)とした。
【0031】
またクロレラ抽出液(一丸ファルコス(株)製)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して濃度0.0001質量%、0.001質量%、0.03質量%となるよう溶解してクロレラエキス溶液(被験物質)とした。いずれも薬剤濃度は乾燥質量を測定後、溶解して決定した。
【0032】
2.ストレスホルモン作用緩和効果測定(コラーゲン量測定)
ヒト皮膚線維芽細胞(以下、単に「細胞」と記す)を用い、コルチゾールによる細胞構築コラーゲンへ及ぼす加水分解コンキオリンとクロレラエキス作用を評価した。すなわち、細胞培養用12穴ウェルプレートに細胞を3×104細胞/穴ずつ播種した。10%牛胎児血清(以下、「FBS」と記す)を含むDMEM培地で24時間培養した後、0.25%FBSを含んだDMEM培地(以下、「0.25%FBS/DMEM」と記す)に交換し、24時間培養した。その後、1×10-7Mコルチゾールと上記1.に示す被験物質を含有する0.125mMアスコルビン酸リン酸マグネシウム塩含有0.25%FBS/DMEM培地に交換し、5日間培養した。なお比較・対照例(培地)として、1×10-7Mコルチゾールを含有するアスコルビン酸リン酸マグネシウム塩含有0.25%FBS/DMEM培地〔「コルチゾール」。被験物質の添加なし〕、およびアスコルビン酸リン酸マグネシウム塩含有0.25%FBS/DMEM培地〔コントロール。コルチゾールおよび被験物質の添加なし〕への交換も併せて行い、上記と同様に培養した。
【0033】
次いで、細胞が構築した固相マトリックスをセルスクレーパーにて剥離し、6N HCl中にて110℃で24時間酸加水分解した。反応溶液を遠心エバポレーターにてエバポレーション後、超純水に溶解し、「L−8500形高速アミノ酸分析計」((株)日立ハイテクノロジーズ社製)にてハイドロキシプロリン量を測定し、コラーゲン量に換算した。なおハイドロキシプロリンは生体内では大部分コラーゲン中に特異的に存在するアミノ酸の1種である。結果を図1(A)、(B)に示す。
【0034】
図1(A)、(B)の結果から明らかなように、コルチゾールを含有する培地での構築した固体マトリックスではコントロールと比べるとコラーゲン構築が大幅に抑制されたが、コルチゾールに被験物質を添加した培地で細胞構築した固体マトリックスでは、コルチゾール存在下にあっても、該コルチゾールによるコラーゲン構築抑制の作用が緩和され、コラーゲン構築が回復したことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(A)は実施例において加水分解コンキオリンがストレスホルモン作用を緩和する効果を有することを示すグラフであり、(B)は実施例においてクロレラエキスがストレスホルモン作用を緩和する効果を有することを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解コンキオリンおよび/またはクロレラエキスからなるストレスホルモン作用緩和剤。
【請求項2】
ストレスホルモンがコルチゾールである、請求項1記載のストレスホルモン作用緩和剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−150216(P2010−150216A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332583(P2008−332583)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】