説明

ストレス性疾患のバイオマーカー

【課題】生体試料中に安定に存在した非ペプチド性の低分子量の化合物であって、過敏性腸症候群のようなストレス性疾患の病態を的確に反映でき、簡易な汎用分析機器を用い簡便な方法で迅速かつ正確に検出でき、検出条件下で分解し難く、ストレス性疾患治療薬として峻別するのに用いられるバイオマーカーを提供する。
【解決手段】本発明のストレス性疾患のバイオマーカーは、ストレス性疾患に罹患した哺乳動物から採取される尿、血液、唾液又は脳脊髄液の生体液からなる試料から検出されるストレス性疾患のバイオマーカーであって、化学式(2)
【化1】


で表されるもので例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過敏性腸症候群のようなストレス性疾患に対する治療薬物について、その薬理応答性の評価や有効性の早期予測、患者毎に有効性を示す最適なこれら治療薬物の種類やその投与量の選択を行うために用いられるストレス性疾患のバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
過敏性腸症候群(以下にIBSとも称する)は、強い緊張・不安・ストレスなどに起因して惹起される一種の消化器系ストレス性疾患である。過敏性腸症候群は、大抵は大腸、時には小腸での消化管運動機能異常症状、例えば腹部不快感や腹痛を伴う慢性的な下痢症状若しくは便秘症状、腸内でのガス過多による腹部膨満感や鈍痛を伴うガスが溜まる症状、又はそれらを交互に繰り返す症状のような通便異常を主症状とする。
【0003】
過敏性腸症候群の殆どは、レントゲン撮影診断や内視鏡診断でも腸の形態異常所見が見当たらず、血液検査・尿検査・検便でも検査項目に異常が無いにも関わらず、長期間、通便異常症状が持続するものである。このような過敏性腸症候群は、確実な検査方法が無く、症状のみから診断しなければならない厄介な疾病であり、長らくそのバイオマーカーすら知られていなかった。
【0004】
最近になって過敏性腸症候群は、脳と腸との機能的関連が病態の中心をなす消化管障害であることが分かってきた。非特許文献1には、脳と腸との双方に豊富に存在するコルチコトロピン放出ホルモン(CHR)の負荷により、下垂体からアデノコルチコトロピンホルモン(ACTH)が放出されると共に腸運動が惹起されることから、コルチコトロピン放出ホルモンやアデノコルチコトロピンホルモンが、バイオマーカーとして開示されている。
【0005】
さらに、非特許文献2には、過敏性腸症候群のバイオマーカーとして、血中サイトカインが開示されている。
【0006】
また、特許文献1に、過敏性腸症候群を治療するために有用な薬が投与されている個体中のIL−8やレプチンのようなサイトカイン等の診断マーカーの存在又は値を検出することによって、診断マーカープロファイルを決定する工程と、それに基づくアルゴリズムを用いて、過敏性腸症候群と関連するか否かを分類したり、薬の効果をモニタリングしたりする方法が開示されている。
【0007】
特許文献2に、ヒトの粘膜から放出されたクロモグラニンAのような神経ホルモンである神経内分泌消化管系成分を測定しその濃度を計算して、過敏性腸疾患のような機能性胃腸管障害などの胃腸管障害を診断する方法が、開示されている。
【0008】
特許文献3に、過敏性腸症候群を診断するために、個体から血液を採取し、その血清からβ−トリプターゼ含量を測定する方法が開示されている。
【0009】
これらの非特許文献や特許文献に記載のバイオマーカーは、比較的高分子量であって生体試料、特に尿中に排泄され難く血中に極微量しか存在せず熱に不安定なタンパクやペプチドであるため、簡易な汎用分析機器を用いた簡便な方法で迅速かつ正確に検出し難いうえ、個体差、同一個体内での日差変動・再現変動が大きく、しかも高分子量の所為で測定誤差が大きく定量性に欠け、病態を的確に反映し難いという問題点があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】グット(Gut),2004年,第53巻,p.1102−1108
【非特許文献2】ガストロエンテラロジー(Gastroenterology),2006年,第130巻,p.304〜311
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2010−506144号公報
【特許文献2】特表2010−503827号公報
【特許文献3】国際公開第2010/151699号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、生体試料中に安定に存在した非ペプチド性の低分子量の化合物であって、過敏性腸症候群のようなストレス性疾患の病態を的確に反映でき、簡易な汎用分析機器を用い簡便な方法で迅速かつ正確に検出でき、検出条件下で分解し難く、ストレス性疾患治療薬として峻別するのに用いられるバイオマーカーを提供することを目的とする。さらにこのバイオマーカーを用いて、被験薬物をストレス性疾患の治療薬の適否の観点で峻別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するためになされた本発明は、
〔1〕ストレス性疾患に罹患した哺乳動物から採取される尿、血液、唾液又は脳脊髄液の生体液からなる試料から検出されるストレス性疾患のバイオマーカーであって、
負電荷又は正電荷エレクトロイオンスプレー質量分析法におけるm/z値が、
289.1、496.7、305.1、291.1、379.2、393.2、293.1、760.3、715.2、357.1、732.2、
407.2、642.2、303.1、805.4、305.1、629.3、683.3、605.2、307.1、461.1、275.1、
291.1、263.0、261.0、632.4、312.2、255.1、363.2、277.1、294.2、331.2、409.2、
385.2、279.2、343.1、286.2、及び316.2
で示される代謝化合物及びその前駆化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物であることを特徴とするストレス性疾患のバイオマーカー;
【0014】
〔2〕下記化学式(1)並びに(2)
【化1】

で表される3−ヒドロキシ−5−メガスチグメン−9−オン類並びにその3−O−硫酸抱合化合物、それらの不飽和基又はカルボニル基が還元された化合物とその硫酸抱合化合物、及びそれらの水酸基置換化合物とその硫酸抱合化合物;
下記化学式(3)
【化2】

で表される3−ヒドロキシ−5−メガスチグメン−9−オン類のグルクロン酸抱合化合物、それの不飽和基又はカルボニル基が還元された化合物とそのグルクロン酸抱合化合物、及びそれらの水酸基置換化合物とグルクロン酸抱合化合物;
下記化学式(4)並びに(5)
【化3】

で表される2−カルボキシエチル−6−ヒドロキシクロマン類並びにそれの硫酸抱合化合物、該硫酸抱合化合物の二量体並びに該硫酸抱合化合物の位置異性体、及びそれらの前駆化合物;
3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニルグリコール類、及び下記化学式(6)
【化4】

で表される3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニルグリコール類の硫酸抱合体;
ホモバニリン酸、及び下記化学式(7)
【化5】

で表されるそれの硫酸抱合化合物;
下記化学式(8)
【化6】

(式(8)中、−CO−Rは、オクテノイル基、デカジエノイル基、イソ−デカジエノイル基、デカエノイル基及びゲラノイル基から選ばれる不飽和アシル基、又はそれらの飽和アシル基を表す。)で表されるアシル化カルニチン類;
下記化学式(9)
【化7】

で表されるプロゲスタゲン類縁体、及びそれの水酸基位置異性体;
下記化学式(10)
【化8】

(式(10)中、Rは水素原子、又はメチル基を表す。)で表されるベンゾキノン類;
の何れかであることを特徴とする前記〔1〕に記載のストレス性疾患のバイオマーカー;
【0015】
〔3〕該ストレス性疾患が、過敏性腸症候群であることを特徴とする前記〔1〕に記載のストレス性疾患のバイオマーカー;
【0016】
〔4〕下記化学式(2)
【化9】

で表される化合物;
〔5〕下記化学式(10)
【化10】

(式(10)中、Rは水素原子、又はメチル基を表す。)で表される化合物;
【0017】
〔6〕ストレス性疾患に罹患しており被験薬物が投与された哺乳動物から採取された尿、血液、唾液又は脳脊髄液の生体液からなる試料と、ストレス性疾患に罹患している哺乳動物の器官若しくは組織又はそれらの何れかから採取した細胞へ被験薬物が添加されている試料とから選ばれる生体由来試料について、前記〔1〕又は〔2〕に記載のバイオマーカーの濃度又は存否を指標とした測定を行うことにより、該被験薬物を該哺乳動物に対するストレス性疾患の治療薬として峻別する方法;
【0018】
〔7〕該バイオマーカーの濃度に応じて、該哺乳動物に対する該被験薬物の感受性と非感受性とを選別し、又は該哺乳動物に対する該被験薬物の有効投与量を推定することを特徴とする前記〔6〕に記載の方法;
【0019】
〔8〕該指標が、健常な同種の該哺乳動物での生体由来試料における該バイオマーカーの濃度と比較した増減であることを特徴とする前記〔6〕又は〔7〕に記載の方法;
【0020】
〔9〕該被験薬物が、ミトコンドリア型ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬であることを特徴とする前記〔6〕乃至〔8〕の何れかに記載の方法;
【0021】
〔10〕該ストレス性疾患が、過敏性腸症候群であることを特徴とする前記〔6〕乃至〔9〕の何れかに記載の方法;
【0022】
〔11〕該測定が、質量分析測定、液体クロマトグラフ測定、ガスクロマトグラフ測定、及び/又は核磁気共鳴スペクトル測定であることを特徴とする前記〔6〕乃至〔10〕の何れかに記載の方法;及び
【0023】
〔12〕ストレス性疾患に罹患した哺乳動物から採取された尿、血液、唾液又は脳脊髄液の生体液と、該哺乳動物から摘出した器官若しくは組織又はそれらの何れかから採取した細胞若しくは生体液成分とから選ばれる生体由来試料について、前記〔1〕又は〔2〕に記載のバイオマーカーの濃度又は存否を指標として、液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、質量分析法、核磁気共鳴スペクトル測定法、又はそれらの何れかを組み合わせた測定法により、ストレス性疾患のバイオマーカーを測定する方法;
である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のストレス性疾患のバイオマーカーは、過敏性腸症候群のようなストレス性疾患の病態、例えばストレス性疾患病態モデルである反復低温ストレス負荷非ヒト哺乳動物や過敏性腸症候群のようなストレス性疾患患者の病態を、その非ヒト哺乳動物や患者からの尿・血液、器官若しくは組織又はそれらの細胞若しくは生体液成分のような生体由来試料中の濃度又は存否によって、的確に反映できる生体代謝化合物である。
【0025】
このバイオマーカーは、生体由来試料中、とりわけ尿中に分析可能な十分な濃度で安定して存在しており、分析条件下で検出し易い非ペプチド性の低分子量の化合物である。このバイオマーカーは、簡易な汎用分析機器、特にクロマトグラフ装置、質量分析計、核磁気共鳴スペクトル測定装置等を用いた簡便な方法で、迅速かつ正確に、定性的に、また定量的に測定して検出できる。
【0026】
そのため、このバイオマーカーは、被験薬物をストレス性疾患の治療薬として適切か否かの観点から峻別するのに用いることができる。
【0027】
本発明の哺乳動物に対するストレス性疾患の治療薬として峻別する方法によれば、非ヒト哺乳動物におけるin vivoやin vitroで被験薬物の薬理応答性・薬理効果を定性的又は定量的に評価したり、非ヒト哺乳動物や個々の患者の被験薬物の感受性と非感受性とを的確に評価したり、患者毎に被験薬物の有効投与量を正確に推定したりすることができる。
【0028】
そのため、この峻別方法によれば、患者に最適な被験薬物を峻別して投与したり適切な投与量を決定して投与したり治療効果を推し量り治癒の程度を判断したりする診療に役立つ。
【0029】
また、本発明のストレス性疾患のバイオマーカーを測定する方法によれば、貴重で微量な生体由来試料から、特定のバイオマーカーを、短時間で誤認すること無く、精密に検出することができ、これによりストレス性疾患の治療効果やその被験薬物の適否の判断の際に、有用なデータを供給することができる。
【0030】
このストレス性疾患のバイオマーカーを測定する方法によれば、測定感度に優れるので、尿・血液等の採取を最小限に抑えて非ヒト哺乳動物や患者の肉体的・精神的負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明を適用するストレス性疾患のバイオマーカーの同定過程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0033】
本発明のストレス性疾患のバイオマーカーは、過敏性腸症候群などのようなストレス性疾患の患者の病態を的確に反映する実験系として、ラットのような哺乳動物を室温下と低温下とに交互に反復して曝して反復低温ストレス(以下にRCSとも称する)を負荷する動物モデル、又は拘束ストレスケージを用いて拘束ストレスを負荷する動物モデルを用いて、ミトコンドリア型ベンゾジアゼピン受容体(以下にMBRとも称する)拮抗薬を被験薬物として投与したとき、該哺乳動物の尿中で、その投与に対して特異的に増加又は減少する化合物や、反復低温ストレス又は拘束ストレスの負荷に対して特異的に増加又は減少する化合物である。該バイオマーカーは、哺乳動物、とりわけヒトの尿、血液、唾液、又は脳脊髄液のような各種生体液中に存在する。
【0034】
このようなストレス性疾患のバイオマーカーの好ましい一例は、下記化学式(1)及び(2)
【化11】

で表される3−ヒドロキシ−5−メガスチグメン−9−オン類((4-(4-hydroxy-2,6,6-trimethylcyclohex-1-en-1-yl)butan-2-one、又は3-hydroxy-5-megastigmene-9-one:以下にHMOとも称する)やその硫酸抱合化合物(3,5,5-trimethyl-4-(3-oxobutyl)cyclohex-3-en-1yl hydrogen sulfate、又は3-hydroxy-5-megastigmene-9-one 3-O-sulfate:以下にHMOSとも称する)である。化学式(1)及び(2)の化合物は、抗酸化物質であるカロテノイドの一種であるβ−カロテンに由来する代謝物であり、RCSの負荷により上昇し、MBR受容体拮抗薬投与によりそれに応答して上昇抑制する性質を有するものである。化学式(1)及び(2)の化合物は、光学活性体であってもよいがdl体であってもよい。
【0035】
化学式(1)及び(2)の化合物と同様にこの性質を有するストレス性疾患のバイオマーカーとして、それらの不飽和基の二重結合及び/又はカルボニル基が還元された還元化合物、例えばその不飽和基が単結合に還元された化合物あってジアステレオマー若しくはその混合物であってもよく、そのカルボニル基がヒドロキシ基に還元された化合物であってジアステレオマー又はその混合物であってもよい。これらの還元化合物の2、4、6、7又は8位の何れかに水酸基が導入された水酸基置換化合物であってもよい。
【0036】
また、ストレス性疾患のバイオマーカーは、下記化学式(3)
【化12】

で表されカロテノイド類に由来する代謝物である3−ヒドロキシ−5−メガスチグメン−9−オン類のグルクロン酸抱合化合物(3,5,5-trimethyl-4-(3-oxobutyl)cyclohex-3-en-1-yl hexopyranosiduronic acid、又は3-O-Glucronide 3-hydroxy-5-megastigmene-9-one)であってもよい。そのアグリコンは光学活性体であってもよいがdl体であってもよい。
【0037】
ストレス性疾患のバイオマーカーは、ビタミンE由来のもので、下記化学式(4)及び(5)
【化13】

で表される2−カルボキシエチル−6−ヒドロキシクロマン類(3-[(2S)-2,5,7,8-tetramethyl-6-(hydroxy)-3,4-dihydro-2H-chromen-2-yl]propanoic acid:以下にα−CEHCとも称する)、及びそれの硫酸抱合化合物(3-[(2S)-2,5,7,8-tetramethyl-6-(sulfooxy)-3,4-dihydro-2H-chromen-2-yl]propanoic acid:以下にα−CEHCSとも称する)であってもよい。α−CEHCやその硫酸抱合化合物α−CEHCSの位置異性体やその類縁体、例えばβ−CEHCやβ−CEHCS、γ−CEHCやγ−CEHCS、δ−CEHCやδ−CEHCS、又はそれらの何れかの混合物であってもよい。その硫酸抱合化合物α−、β−、γ−又はδ−CEHCSの二量体、若しくはそれ以外の分子イオンとの複合体となったものであってもよい。また、同じくビタミンE由来のもので、CEHCやCEHCSの前駆化合物である3,4-dihydro-6-hydroxy-α,2,5,7,8-pentamethyl-2H-1-benzopyran-2-pentanoic acid (α−CMBHC)、その異性体であるβ−、γ−又はδ−CMBHCや、それらの硫酸抱合化合物であるβ−、γ−又はδ−CMBHCSであってもよい。
【0038】
ストレス性疾患のバイオマーカーは、カテコラミンに由来のもので、3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニルグリコール(3-methoxy-4-hydroxyphenylglycol:以下にMHPGとも称する)や、その硫酸抱合体、例えば下記化学式(6)
【化14】

で表される3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニルグリコールの硫酸抱合体(2-hydroxy-1-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)ethyl hydrogen sulfate:以下にMHPGSとも称する)であってもよい。
【0039】
ストレス性疾患のバイオマーカーは、カテコラミンに由来のホモバニリン酸(以下にHVAとも称する)であってもよく、下記化学式(7)
【化15】

で表されるそれの硫酸抱合化合物([3-methoxy-4-(sulfooxy)phenyl]acetic acid:以下にHVASとも称する)であってもよい。
【0040】
ストレス性疾患のバイオマーカーは、カルニチンに由来するもので、下記化学式(8)
【化16】

例えば、−CO−Rが不飽和アシル基として、オクテノイル基であるカルニチン類(Octenolycarnitine:以下にC8:1-Carnitineとも称する)、デカジエノイル基やイソデカジエノイル基やゲラノイル基であるカルニチン類(2-trans,4-cis-Decadienoylcarnitineなど:以下にC10:2-Carnitineとも称する)であってもよく、−CO−Rが飽和アシル基としてそれらに対応する飽和アシル基、例えばデカノイル基であるカルニチン類(Decanoylcarnitineなど:以下にC10:0-Carnitineとも称する)であってもよい。
ストレス性疾患のバイオマーカーは、コレステロールに由来するプロゲスタゲン類縁体であって、下記化学式(9)
【化17】

で表される4-Pregnen-19-ol-3,20-dione(以下にC21 Progestageneとも称する)であってもよく、後述する表5に記載しているようなそれの水酸基の位置が異なる位置異性体やその構造異性体である各種Pregnen類やAndrostadien類やAndrosten類やEstren類であってもよい。
【0041】
ストレス性疾患のバイオマーカーは、下記化学式(10)
【化18】

(式(10)中、Rは水素原子、又はメチル基を表す。)で表されるベンゾキノン類であってもよい。化学式(10)の化合物は、光学活性体であってもよいが、dl体であってもよく、ジアステレオマー又はその混合物であってもよい。
【0042】
ストレス性疾患のバイオマーカーは、前記のm/zと、例えばC18修飾シリカゲル系充填剤又はポリマー系充填剤による液体カラムクロマトグラフィー保持時間Rとで特定された化合物であれば、構わない。ここで、液体カラムクロマトグラフィーは、後記するUPLC条件で行うこともできることに加え、その測定条件は適宜変更してもよい。これらバイオマーカーは、殆ど、RCSにより増加し、MBR拮抗薬投与によりそれに応答して増加抑制する性質を有するものであるが、それとは逆に、m/zが632.4で保持時間が85秒の化合物のみが、RCSの負荷により減少し、MBR拮抗薬投与によりそれに応答して減少抑制する性質を有する。
【0043】
被験薬物は、過敏性腸症候群に対するミトコンドリア型ベンゾジアゼピン受容体(別名:トランスロケータープロテイン18KDa(TSPO))拮抗薬の例を示したが、その他のストレス性疾患に対する薬物、例えば、抗不安薬(例えば、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、チエノジアゼピン系抗不安薬、非ベンゾジアゼピン系抗不安薬、セロトニン作動薬、CRF拮抗薬等)、抗うつ薬(例えば、モノアミン遊離薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、モノアミン再取込み阻害薬(SNRI、SSRI)、CRF拮抗薬、ニューロテンシン拮抗薬、三環式抗うつ薬、四環式抗うつ薬等)、抗コリン薬、消化管機能調整薬(例えば、整腸薬、CCK−A拮抗薬、ニューロテンシン拮抗薬、オピオイド作動薬、ムスカリン作動薬、5−HT作動薬等)、消化管運動促進薬(例えば、整腸薬、CCK−A拮抗薬、ニューロテンシン拮抗薬、オピオイド作動薬、ムスカリン作動薬、5−HT作動薬等)、止瀉薬(例えば、止痢薬、オピオイドμ受容体刺激薬等)、瀉下薬(例えば、膨張性下剤、塩類下剤、刺激性下剤、親和性ポリアクリル樹脂、ルビプロストン等)、粘膜麻痺薬、自律神経調節薬、カルシウム拮抗薬、ホスホジエステラーゼ阻害薬、セロトニン拮抗薬(例えば、5−HT拮抗薬、5−HT拮抗薬)、ダリフェナジン、ポリカルボフィルカルシウム、乳酸菌製剤、抗生物質(例えば、リファキシミン等)であってもよい。
【0044】
このストレス性疾患のバイオマーカーは、ストレスに起因する消化器系、中枢神経系、呼吸器系、循環器系、泌尿器系、生殖器系、婦人系、内分泌系、代謝系、眼系、耳鼻咽喉系、口腔系、歯系、皮膚系、整形外科・外科系のような各種疾患に特異的な指標成分となり得るものである。とりわけ消化器系ストレス性疾患、例えば過敏性腸症候群の患者の指標成分として有用である。
【0045】
このストレス性疾患のバイオマーカーは、生体由来試料として哺乳動物の尿から検出される例を示したが、必要に応じ哺乳動物とりわけストレス性疾患患者の血液、器官若しくは組織又はそれらの何れかから採取した細胞のような生体由来試料からも検出が可能である。反復した採尿・採血等による非ヒト哺乳動物や患者の肉体的・精神的な負担軽減や、十分量確保したり試料保存したりする観点から、生体由来試料として尿を用いることが好ましい。
【0046】
ストレス性疾患のバイオマーカーは、これらの内から選ばれる1種又は複数種であることが好ましく、検出精度や信頼性の向上のため、2種程度の複数種であると一層好ましい。この複数のバイオマーカーとして、前記式(2)の化合物、前記式(3)の化合物、ホモバニリン酸、3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニルグリコールの硫酸抱合化合物の何れかの組合せが、好ましい。
【0047】
これらのストレス性疾患のバイオマーカーは、尿、血液、唾液又は脳脊髄液、器官若しくは組織又はそれらの細胞を採取した生体試料中の存否・同定や濃度について、各種機器分析、具体的には、物理化学的理化学分析、より具体的には、
クロマトグラフ法、例えば高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)、超高速液体クロマトグラフ法(UHPLC法)、超臨界液体クロマトグラフ法(SFC法)、ガスクロマトグラフ法(GC法);
質量分析法(MS法)、例えば電子イオン化法(EI−MS法)、化学イオン化法(CI−MS法)、電解脱離法(FD−MS法)、高速原子衝突法(FAB−MS法)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI−MS法)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI−MS法)、大気圧化学イオン化法(APCI−MS法)などによる、磁場偏向型、四重極型(QMS)、三連四重極型(TQ−MS)、イオントラップ型(IT−MS)、飛行時間型(TOF−MS)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FI−ICR−MS)、タンデム型(MS/MS)での手法;
核磁気共鳴スペクトル測定法(NMR法)、例えばH−NMRや13C−NMR、より具体的には一次元H−NMR又は13C−NMR、HH−若しくはCH−COSY,NOESY,TOCSY,wetTOCSYのような二次元NMR;
又はそれらの何れかを組み合わせた測定法、例えば液体クロマトグラフ−質量分析法(LC−MS)好ましくは超高速液体クロマトグラフ−質量分析法(UPLC/MS法;UPLCは登録商標)、高速液体クロマトグラフ−質量分析法(HPLC−MS)、液体クロマトグラフ−タンデム型質量分析法(LC−MS/MS)、液体クロマトグラフ−核磁気共鳴スペクトル測定法(LC−NMR法)、液体クロマトグラフ−核磁気共鳴スペクトル/質量分析法(LC−NMR/MS)
により、正常状態の健常哺乳動物と比較して、定性的に、又は定量的に、測定して検出される。
【0048】
ストレス性疾患のバイオマーカーの他の検出方法としては、生化学的理化学分析、具体的には、抗原抗体反応を利用したEIA法(Enzyme Immunoassay:酵素免疫測定法)、とりわけELISA法(Enzyme-linked Immunosorbent Assay:酵素結合免疫溶媒測定法)、RIA法(Radio-immuno-assay:放射線免疫測定法)等を用いることもできる。
【0049】
生体試料中でのストレス性疾患のバイオマーカーの同定は、標品の質量分析スペクトルや核磁気共鳴スペクトルとの比較、標品のクロマトグラムの保持時間の比較によって行うことができ、又、バイオマーカーの濃度の算定は、それらスペクトルの強度又はクロマトグラムのピーク面積と、標品での強度又はピーク面積及び濃度の標準検量線との対比によって行うことができる。
【0050】
このようなストレス性疾患のバイオマーカーは、生体由来試料に含有された多数の成分から網羅的に分析し得られたデータを解析してマーカーとして特定の物質を選び出す以下のようなメタボローム解析により、絞り込まれて、有用マーカー成分として同定されたものである。その同定の過程を、図1を参照しながら、詳細に説明する。
【0051】
(i)先ず、ストレス性疾患に罹患していない正常な非ヒト哺乳動物を、予備飼育した。
【0052】
(ii)この哺乳動物から1回目の採尿を行い、尿から尿中代謝物を抽出し、その全成分を、超高速液体クロマトグラフ−質量分析法(UPLC/TOF−MS法)にかけて、ポジティブモードとネガティブモードとでm/zを測定し、夫々得られた1万数千成分の保持時間とm/zと相対強度との生データを基に、行列データを作成する。そのデータから、その横軸を保持時間とし縦軸をm/zとして、プロットグラフを作成する。
【0053】
(iii)また、これと同種の予備飼育した哺乳動物を日中、1時間毎に低温下と室温下とに交互に曝して数日間飼育することによって、この哺乳動物に作為的にRCS負荷をかける。このストレス負荷は、ヒトのストレス性疾患、特に過敏性腸症候群の病態と極めて近似しているので、過敏性腸症候群の動物モデルとなり得るものである。
【0054】
(iv)RCS負荷後に、何も投与しないか、若しくは媒体又は被験物質を投与した後、2回目の採尿を行い、同様にその全成分を、超高速液体クロマトグラフ−質量分析法にかけ、行列データとプロットグラフとを作成する。1回目の採尿と2回目の採尿との行列データとプロットグラフとを比較し、RCS負荷に特異的な強度の増減成分として数千成分を、一次選別する。
【0055】
(v)一方、RCSを負荷しない哺乳動物からか、若しくはRCS負荷をかけつつその哺乳動物に、媒体又は被験物質を投与し暫くしてから、3回目の採尿を行い、同様に超高速液体クロマトグラフ−質量分析法にかけ、行列データとプロットグラフとを作成する。一次選別した成分ピークの中から、RCS負荷に関わらず強度が増減する成分や、被験物質の投与によっても殆ど強度が増減しない成分や、強度の増減に再現性のない成分のような偽陽性マーカー成分を除外し、RCS負荷によって強度が増加し被験物質の投与によって強度が減少するか、又はRCS負荷によって強度が減少し被験物質の投与によって強度が増加する数百成分だけを、二次選別する。
【0056】
(vi)さらに、定量測定を確実にするために、感度不足であったり夾雑成分に影響されてしまったりする強度(シグナル値)の低い成分を除外し、被験物質を再投与して再現性の高い成分を、UPLC/MRM法(UPLCを用いたMS/MS分析(multiple reaction monitoring:MRM))を用い、定量分析することにより、三次選別して、数十成分をストレス性疾患のバイオマーカーとする。
【0057】
(vii)このストレス性疾患のバイオマーカーを、各種機器分析、例えば質量分析法、核磁気共鳴スペクトル測定法などにより、同定する。
【0058】
なお、一次〜三次選別は、適宜、主成分分析、回帰分析、クラスター解析、分散解析のような多変量解析、Welchのt検定、paired t検定、差の比較検定、又はunpaired t検定により、行われる。
【0059】
前記のように特定されたストレス性疾患のバイオマーカーは、生体由来試料中の濃度とストレス性疾患の治療効果との間に、正の相関性又は負の相関性を有するものである。例えば、ストレスモデル動物へのストレス負荷期間中の脱糞量と、尿中のバイオマーカー濃度との間に、相関傾向が認められる。そのためこのバイオマーカーの濃度に基づき、ストレス性疾患の病状レベルとして換算して数値化することができる。また、その濃度に基づき、投与した被験薬物についてストレス性疾患治療薬の有効性レベルとして換算して数値化することもできる。また、ストレス性疾患の患者に投与した被験薬物の感受性の有無又はその感受レベルとして換算して数値化し、必要に応じて被験薬物の投与の適否を判断するのに用いてもよい。また、哺乳動物、特にストレス性疾患の患者に対する被験薬物の有効投与量や最適投与量や投与可能範囲などを推定するのに用いてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明のストレス性疾患のバイオマーカーを具体的に同定した例について、詳細に説明する。
【0061】
(実施例1)
先ず、ストレス性疾患であって全人口の数%が罹患していると言われている過敏性腸症候群の病態に、極めて近似している過敏性腸症候群動物モデルを、ラットへのRCS負荷により作製し、ストレス性疾患のバイオマーカーの同定を行った。
【0062】
(1. 使用動物及びその予備飼育)
雄性Wistar系ラット(日本チャールス・リバー株式会社)を、過敏性腸症候群動物モデルの作製開始時に7週齢となるように、室温で、予備飼育し、必要に応じ検疫し、馴化させた。
【0063】
(2. 過敏性腸症候群動物モデルの作製手順、及び被験物質又は対照物質の投与手順)
ラットにRCS負荷をかけた過敏性腸症候群動物モデルの具体的作製手順は、1日目は午前9時から午後7時までの間に飼育環境温度を、1時間毎に8回、2℃と室温(24±2℃)とに交互に変化させ、その後、翌朝まで2℃の飼育環境温度で飼育し、2日目から6日目までは午前9時から午後8時までの間に飼育環境温度を、1時間毎に9回変化させ、9回目終了後から翌朝まで2℃の飼育環境温度で飼育するというものである。これによって、直腸伸展刺激に対する感受性亢進のようなヒトの過敏性腸症候群の症状に似た病態を誘発し、ストレス性疾患の動物モデルとなっている。
【0064】
2群のラットに夫々、前記のようにしてRCS負荷をかけつつ、被験物質としてMBR拮抗薬、又は対照物質として0.5w/v%メチルセルロース水溶液である媒体を投与し、夫々、被験物質投与群、媒体投与対照群とした。被験物質及び媒体の投与手順は、RCS負荷1日目から6日目までの午前中(凡そ午前9時〜11時までの間)及び午後(凡そ午後5時〜6時半の間)にそれぞれ1回ずつ、被験物質(10mg/kg)又は媒体(5mL/kg)を経口投与するというものである。なお、被験物質であるMBR選択的リガンドとして、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(European Journal of Pharmacology)、1985年、第119巻、p.153〜167に記載の(1−(2−クロロフェニル)−N−メチル−N−(1−メチルプロピル)−3−イソキノリンカルボキサミド)であるPK11195、国際公開第2004/113300号や国際公開第2006/068164号に記載の実施例の化合物の何れかを用いた。
【0065】
(3. 採尿及び分析前処理)
a)RCS負荷前日及びRCS負荷7日目に、負荷終了後、ラットを代謝ケージに入れ、7時間経過してから、無投与群、媒体投与群と被験物質投与群の各ラットから、尿を全量採取し、夫々、無投与−RCS負荷群試料、媒体投与−RCS負荷群試料、及び被験物質投与−RCS負荷群試料とした。
【0066】
b)RCS負荷前日及びRCS負荷7日目に、負荷終了後、ラットを代謝ケージに入れ、7時間経過してから、媒体投与群と被験物質投与群の各ラットから、尿を全量採取し、夫々、RCS負荷前後の媒体投与−RCS負荷群試料、被験物質投与−RCS負荷群試料とした。媒体投与を6日間行い、RCSを負荷しない群として、媒体投与−非RCS負荷群を設けた。これらについても前記と同様に各群の試料を採取した。
【0067】
各試料につき、採取した尿の容量を測定した後、室温下、12,000Gで5分間、遠心分離し、上清に1.2%のアジ化ナトリウム水溶液を1/60量(終濃度0.02%)添加後、液体窒素で凍結し、分析に供するまで−80℃で保存した。
【0068】
(4. 質量分析)
前記a)で取得した各試料を、UPLC/TOF−MS法で分析するのに供するため、前記凍結した試料を再溶解して用い、その採取した尿の50μLに、0.1容量%ギ酸含有水溶液150μLを添加して混和し、16000Gで3分間、4℃で遠心分離することにより得られた上清を、2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルタで、ろ過した。
【0069】
それを、UPLC/TOF−MS法システム機器により、ネガティブモード及びポジティブモードで質量分析した。その機器は、超高速液体クロマトグラフ装置がACQUITY Ultra Performance Liquid Chromatography system(Waters社製)であり、質量分析計が、直交加速飛行時間型のMicromass LCT Premier(Waters社製)であって、それらを組み合わせたシステムである。
【0070】
〔ネガティブモードの測定条件〕
<UPLC条件>
・カラム:ACQUITY UPLC BEH C18(1.7μm粒径 2.1mm内径×150mm長)(Waters社製)
・カラムオーブン温度:40℃
・移動相成分A:0.1重量%ギ酸水溶液
・移動相成分B:0.1重量%ギ酸アセトニトリル溶液
・移動相成分A/Bの溶出のグラジエント条件
0分 100%(A) 0%(B)
7分 0%(A) 100%(B)
14分 0%(A) 100%(B)
14.1分 100%(A) 0%(B)
21分 100%(A) 0%(B)
・流速:300μL/分
・オートサンプラー内温度:4℃
・測定サンプル注入量:4μL
<MS条件>
・極性:ネガティブ
・キャピラリー電圧:2700V
・コーン電圧:35V
・噴霧ガス温度:350℃
・イオンソース温度:120℃
・コーンガス流速:50L/h
・噴霧ガス流速:500L/h
・モード:Wモード
【0071】
〔ポジティブモードの測定条件〕
<UPLC条件>
・カラム:ACQUITY UPLC BEH C18(1.7μm粒径 2.1mm内径×150mm長)(Waters社製)
・カラムオーブン温度:40℃
・移動相成分A:0.1重量%ギ酸水溶液
・移動相成分B:0.1重量%ギ酸アセトニトリル溶液
・移動相成分A/Bの溶出のグラジエント条件
0分 100%(A) 0%(B)
7分 0%(A) 100%(B)
15分 0%(A) 100%(B)
15.1分 100%(A) 0%(B)
20分 100%(A) 0%(B)
・流速:300μL/分
・オートサンプラー内温度:4℃
・測定サンプル注入量:4μL
<MS測定条件>
・極性:ポジティブ
・キャピラリー電圧:2800V
・コーン電圧:44V
・噴霧ガス温度:350℃
・イオンソース温度:120℃
・コーンガス流速:50L/h
・噴霧ガス流速:600L/h
・モード:Wモード
【0072】
UPLC/TOF−MS法で絞り込まれたバイオマーカー候補化合物について、さらに、UPLC/MRM法で定量分析するのに供するため、前記b)で採取した尿を、10000Gで5分間、4℃で遠心分離することにより得られた上清50μLに、0.1重量%ギ酸水溶液を200μL添加し、攪拌した。
【0073】
それを、超高速液体クロマトグラフ装置としてACQUITY Ultra Performance Liquid Chromatography system(Waters社製)を用い、質量分析計として、MRM(Multiple reaction Monitoring)モードを有する三連四重極型であるAPI 4000QTRAP LC/MS/MS System(Applied Biosystems社製)を組み合わせて分析した。
【0074】
<UPLC測定条件>
・カラム:ACQUITY UPLC BEH C18(1.7μm粒径 2.1mm内径×150mm長)(Waters社製)
・カラムオーブン温度:40℃
・移動相成分A:0.1重量%ギ酸水溶液
・移動相成分B:0.1重量%アセトニトリル溶液
・移動相成分A/Bの溶出のグラジエント条件
0分 100%(A) 0%(B)
7分 0%(A) 100%(B)
14分 0%(A) 100%(B)
14.1分 100%(A) 0%(B)
21分 100%(A) 0%(B)
・流速:300μL/分
・測定サンプル注入量:4μL
<MS条件>
・スキャンタイプ:MRM
・極性:ネガティブ
・イオン化方法:ESI(エレクトロスプレーイオン)法
・ソース温度:400℃
【0075】
この条件下でのバイオマーカー候補化合物のQ1・Q3でのモニターイオンのm/z、及び分析条件は、下記表1−1及び表1−2の通りである(DP:Declustering Potential、CE:Collision Energy、CXP:Collision Cell Exit Potential)。
【0076】
【表1−1】

【0077】
【表1−2】

【0078】
<MS条件>
・スキャンタイプ:MRM
・極性:ポジティブ
・イオン化方法:ESI(エレクトロスプレーイオン)法
・ソース温度:400℃
【0079】
この条件下でのバイオマーカー候補化合物のQ1・Q3でのモニターイオンのm/z、及び分析条件は下記表2の通りである(DP:Declustering Potential、CE:Collision Energy、CXP:Collision Cell Exit Potential)。
【0080】
【表2】

【0081】
UPLC/TOF-MS法で絞り込まれたバイオマーカー候補化合物の関連化合物についても、さらに、UPLC/MRM法で定量分析するのに供するため、前記b)で採取した尿を、10000Gで5分間、4℃で遠心分離することにより得られた上清50μLに、0.1重量%ギ酸水溶液を200μL添加し、攪拌した。
【0082】
それを、超高速液体クロマトグラフ装置としてACQUITY Ultra Performance Liquid Chromatography system(Waters社製)を用い、質量分析計として、MRM(Multiple reaction Monitoring)モードを有する三連四重極型であるAPI 4000QTRAP LC/MS/MS System(Applied Biosystems社製)を組み合わせて分析した。
【0083】
<UPLC測定条件>
・カラム:ACQUITY UPLC BEH C18(1.7μm粒径 2.1mm内径×100mm長)(Waters社製)
・カラムオーブン温度:40℃
・移動相成分A:[Positive]0.1重量%ギ酸水溶液,[Negative] 6.5mM 炭酸水素アンモニウム水溶液
・移動相成分B:[Positive]0.1重量%メタノール溶液,[Negative] 6.5mM炭酸水素アンモニウム95%メタノール水溶液
・移動相成分A/Bの溶出のグラジエント条件
0分 100%(A) 0%(B)
4分 30%(A) 70%(B)
4.5分 2%(A) 98%(B)
10分 2%(A) 98%(B)
10.1分 100%(A) 0%(B)
17分 100%(A) 0%(B)
・流速:350μL/分
・測定サンプル注入量:4μL
<MS条件>
・スキャンタイプ:MRM
・極性:ネガティブ
・イオン化方法:ESI(エレクトロスプレーイオン)法
・ソース温度:400℃
【0084】
この条件下でのバイオマーカー候補化合物のQ1・Q3でのモニターイオンのm/z、及び分析条件は、下記表3の通りである(DP:Declustering Potential、CE:Collision Energy、CXP:Collision Cell Exit Potential)。
【0085】
【表3】

【0086】
<MS条件>
・スキャンタイプ:MRM
・極性:ポジティブ
・イオン化方法:ESI(エレクトロスプレーイオン)法
・ソース温度:400℃
【0087】
この条件下でのバイオマーカー候補化合物のQ1・Q3でのモニターイオンのm/z、及び分析条件は下記表4の通りである(DP:Declustering Potential、CE:Collision Energy、CXP:Collision Cell Exit Potential)。
【0088】
【表4】

【0089】
(5. メタボローム解析)
UPLC/TOF−MS分析によって得られたクロマトグラムデータを、質量分析ソフトウェアMassLynx Ver.4.1(Waters社製)を用いて、netCDFフォーマットのデータに変換した。次いで、得られたデータを、解析ソフトMZmine Ver.1.91(フリーソフトウェア:http://mzmine.sourceforge.net/download.shtmlより入手)を用いて得られた各ピークの精密質量数(ポジティブ、ネガティブ)、溶出時間(RT;Retention Time)、ピークエリア値、ピーク強度値データを、行列形式に変換した。
【0090】
この行列形式のデータを用いて、
アレイ解析ソフトExpressionist Pro Analyst Ver.5.1.4(Genedata社)、又はOffice Excel 2007(Microsoft社)により、変動比及びp値を算出した。
【0091】
先ず、(1)(i)無投与−RCS負荷群及び媒体投与−RCS負荷群の夫々、RCS負荷の前日試料と7日目試料とを用いて、Welchのt検定を行い、p値が0.2未満、両群間で1.5倍以上又は0.67倍以下のシグナル値の変動比を示し、かつ(ii)媒体投与−RCS負荷群と被験物質投与−RCS負荷群の夫々、RCS負荷後の7日目試料を用いて、Welchのt検定を行い、p値が0.3未満、両群間で1.33倍以上又は0.75倍以下の変動比を示したピークを、バイオマーカー候補として、315ピーク選別した。
【0092】
次に、(2)無投与−RCS負荷群及び媒体投与−RCS負荷群の夫々、RCS負荷7日目とRCS負荷前日との差(7日目のシグナル値−0日目のシグナル値)を比較し、Welchのt検定を用いて、p値が0.2未満、両群間で1.5倍以上又は0.67倍以下のシグナル値の変動比を示し、かつ媒体投与−RCS負荷群のRCS負荷7日目とRCS負荷前日との差のメジアン値から、被験物質投与−RCS負荷群のRCS負荷7日目とRCS負荷前日との差のメジアン値を差し引いた値が、0より大きいか、又は0未満の変動を示したピークを、バイオマーカー候補として、379ピーク選別した。
【0093】
上記(1)の手順で選別したピークと、上記(2)の手順で選別したピークでは夫々、統計学的手法が異なることから、両方の手法で重複して抽出されたピークは言うまでもなく、いずれかの手法で抽出されたピークも、バイオマーカー候補として考えられ、合計515ピーク選別した。
【0094】
上記で選別したバイオマーカー候補のうち、89ピーク(ネガティブ:62ピーク、ポジティブ:27ピーク)については、別途UPLC−MRM定量測定を実施した。測定データ処理には、Analyst Ver.1.4.2(Applied Biosystems社製)、Excel 2002(Microsoft社)を用いた。全ピークのAnalyte Peak Area(counts)値を、コントロールとしてクレアチニンのAnalyte Peak Area(counts)値により補正を行った。媒体投与−非RCS負荷群、媒体投与−RCS負荷群、及び被験物質投与−RCS負荷群の各群の試料について、RCS負荷前から負荷後の変動差の比較、各群のRCS負荷又は非負荷7日後の比較と変動比を評価した。比較解析は、unpaired t検定(両側)により行った。
【0095】
これにより、RCS負荷により増強し被験物質投与により減少するバイオマーカー、及びRCS負荷により減少し被験物質投与により増加するバイオマーカーも、選別できた(表5)。
また、同定されたバイオマーカーに関連する化合物についても、標品を購入し前記と同様にストレス性疾患のバイオマーカーとなり得るかについて評価したところ、α-CEHC、β及びγ-CEHCS、C8:1 carnitine(オクテノイルカルニチン)、C10:0 carnitine(デカノイルカルニチン)が、バイオマーカーになり得ることがわかった(表6)。
【0096】
その結果、ストレス性疾患のバイオマーカーとして、下記表5、及び表6に示す通り、合計38種類の化合物が、見出された。
【0097】
【表5】

【0098】
化合物No.2の推定構造としては、3-O-sulfated 3-Hydroxy-5,6-epoxy-5-megastigmene-9-dione、3又は6-O-sulfated 3,6-Dihydroxy-4-megastigmen-9-one、3又は7-O-sulfated 3,7-Dihydroxy-5-megastigmen-9-one、3又は11-O-sulfated 3,11-Dihydroxy-5-megastigmen-9-one、3又は6-O-sulfated 3,6-Dihydroxy-7-megastigmen-9-one、若しくは3,6-Epoxy-7-megastigmene-5,9-diol、3-(1-Hydroxyoctyl)-5-methyl-2(5H)-furanone、3-Oxo-2-pentylcyclopentaneacetic acid Me ester、5,6-Epoxy-7-megastigmene-3,9-diol、5,8-Epoxy-6-megastigmene-3,9-diol、5-(3-Ethyl-4-methyl-1-pentenyl)-4,5-dihydro-3-hydroxy-5-methyl-2(3H)furanone、5-(7-Hydroxy-6-methyloctyl)-2(5H)-furanone、6,9-Dihydroxy-4,7-megastigmadien-3-one, 7,8-Dihydro、6,9-Dihydroxy-7-megastigmen-3-one、6,9-Epoxy-4-megastigmene-3,9-diol、Durgamone、Stegobiol、又はこれらの硫酸抱合体が挙げられる。
【0099】
化合物No.3の推定構造としては、1-(3,4-Dihydroxyphenyl)-2-propen-1-ol, 3'-Me ether、4'-(2-methylpropanoyl), 1-Ac、1-O-Coumaroylglycerol, 4'-Me ether、2,3-O-isopropylidene、11-Hydroxy-12-methoxydihydrokawain, Me ether、11-Hydroxy-3,8-dioxo-1,4-eudesmadien-12-oic acid, Me ester、15-Hydroxy-1(10),4,11(13)-germacratrien-12,6-olid-14-oic acid, Me ester、3-(3,4-Dihydroxyphenyl)-2-propen-1-ol, 3'-Me ether、4'-O-(2-methylpropanoyl), 1-Ac、3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)-2-propenoic acid, 4-Methyl-3-oxopentyl ester、3-(4-Hydroxy-3-methoxyphenyl)-2-propenoic acid, 4-O-(3-Oxohexyl)、5,7-Dihydroxy-2,2-dimethyl-2H-1-benzopyran-6-propanoic acid; Di-Me ether、6,7-Epoxy-1-hydroxy-13-nor-9-eremophilene-8,11-dione, Ac、8,9-Dihydroxy-14-oxo-1(10),4,11(13)-germacratrien-12,6-olide, 9-Me ether、8-(2,3-Dihydroxy-3-methylbutyl)-7-hydroxy-2H-1-benzopyran-2-one, 3',7-Di-Me ether、8-Acetyl-5,6,7-trihydroxy-2,2-dimethyl-2H-1-benzopyran; Tri-Me ether、8-Hydroxy-1(10),4,7(11)-germacratrien-12,8-olid-15-oic acid, Me ester、8-Hydroxy-1,3,7(11)-elematrien-12,8-olid-15-oic acid; 8-OH-form, Me ester、8-Hydroxy-7(11)-eremophilene-12,8:15,6-diolide, Me ether、Cladosporin、Coriandrone A、Coriandrone B、Curvularin、Evodione、Isosecotanapartholide; 3-Epimer, Me ether、Isosecotanapartholide; Me ether、Morinin A; 3-Methoxy, 5'-hydroxy、Sericealactone、Sinapyl alcohol,1-O-(3-Methyl-2-butenoyl)、Sinapyl alcohol, 1-O-Angeloyl、10-(3,4-dimethoxy-6-methyl-2,5-benzoquinone)-9-hydroxy-4,8-dimethyl-9-hydroxy-4-decenoic acidが挙げられる。
【0100】
化合物No.6の推定構造としては、3-O-sulfated 4,7-Megastigmadiene-3,9-diol,4,5,7,8-Tetrahydro、9-O-sulfated 4,7-Megastigmadiene-3,9-diol,4,5,7,8-Tetrahydro、若しくは、5-Megastigmene-3,9-diol,5,6-dihydroxy、8-Hydroxy-5-isopropyl-8-methyl-6-nonan-2-one、9-Dodecan-1-ol, Formyl、又はこれらの硫酸抱合体が挙げられる。
【0101】
化合物No.11の推定構造としては、1,3,7,14-Tetrahydroxy-16-kaurene-12,15-dione, 16,17-Dihydro, 3-Ac、1,7,14,18,20-Pentahydroxy-16-kauren-15-one, 18-Ac、12,20-Epoxy-11,13,20-trihydroxy-3,14-clerodadien-2-one, 3,4-Epoxide, 11-Ac、12,20-Epoxy-7,11,13,20-tetrahydroxy-3,14-clerodadien-2-one, 11-Ac、15,16-Epoxy-3,4,7,12-tetrahydroxy-13(16),14-clerodadien-20-al, 7-Ac、15,16-Epoxy-6,9,13,20-tetrahydroxy-14-labden-19-oic acid, 19,6 Lactone, 20-Ac、2,19:4,18:11,16:15,16-Tetraepoxy-14-clerodene-6,19-diol, 14,15-Dihydro, 6-Ac、3,4,11-Trihydroxy-6-eudesmen-8-one, 3-(2,3-Epoxy-2-methylbutanoyl), 4-Ac、3,4,11-Trihydroxy-6-eudesmen-8-one, 11-Hydroperoxide, 3-angeloyl, 4-Ac、3,4,11-Trihydroxy-6-eudesmen-8-one, 3-(2,3-Epoxy-2-methylbutanoyl), 4-Ac、3,4-Dihydroxy-7(11)-eudesmen-8-one, 7,11-Epoxide, 3-(2,3-epoxy-2-methylbutanoyl), 4-Ac、3,5,7-Trihydroxy-p-menth-1-en-6-one, 6-Alcohol, 3,6-ditigloyl, 5-Ac、4,18:15,16-Diepoxy-13(16),14-clerodadiene-3,6,12,19-tetrol, 6-Ac、7,20-Epoxy-16-kaurene-1,6,7,11,15-pentol, 11-Ac、7,20-Epoxy-16-kaurene-1,6,7,14,15-pentol, 1-Ac、7,20-Epoxy-16-kaurene-1,6,7,15,19-pentol, 19-Ac、7,20-Epoxy-16-kaurene-6,7,11,14,15-pentol, 6-Ac、7,8,16,18-Tetrahydroxy-19-serrulatanoic acid; 18-Ac、9,13-Epoxy-3,6-dihydroxy-7-oxo-15,16-labdanolide, 3-Ac、Cinncassiol A; 19-Deoxy, 1-Ac、Dysodanthin E、Hymenoxon; 2-Tigloyloxy, 4-Et ether、Javanicin Z、Nigakilactone N; 12-Me ether、Picrasinol Dが挙げられる。
【0102】
化合物No.13の推定構造としては、3-O-sulfated 3-Hydroxy-5-megastigmene-4,9-dione、3-O-sulfated 3-Hydroxy-5-megastigmene-7,9-dione、若しくは1-Butoxy-3-phenoxy-2-propanol、10-Hydroxy-8-dodecen-11-ynoic acid, Me ester、11-Hydroxy-4-methyl-2,4,6-dodecatrienoic acid、13-Oxo-9,11-tridecadienoic acid、3,11-Dihydroxy-5-megastigmen-9-one, 11-Aldehyde、3,5-Dihydroxy-6,7-megastigmadien-9-one、5,11-Epoxy-9-hydroxy-7-megastigmen-3-one、5,13-Epoxy-7-megastigmene-3,9-dione; 7,8-Dihydro、5,6-Epoxy-7-megastigmene-3,9-diol, 9-Ketone、5,6-Epoxy-7-megastigmene-3,9-diol, 3-Ketone、5-(2-Hydroxy-2-methylpropylidene)-3-methoxy-2,4,4-trimethyl-2-cyclopenten-1-one、5-(7-Hydroxy-6-methyloctyl)-2(5H)-furanone; 7'-Ketone、6,9-Dihydroxy-4,7-megastigmadien-3-one、6-Hydroxy-7-megastigmene-3,9-dione、Guaymasol、Hyalopyrone、Jasmonic acid; Me ester、Jhanilactone、Norannuic acid、Similin A、Stegobiol; 2'-Ketone、p-Mentha-1,3,5-triene-2,3,5-triol; Tri-Me ester、又はこれらの硫酸抱合体が挙げられる。
【0103】
化合物No.14の推定構造としては、11-Hydroxy-9-tridecenoic acid、7-Hydroxy-4-dodecenoic acid, Me ether、7-Megastigmene-3,4,9-triol、7-Megastigmene-3,6,9-triol、7-Megastigmene-5,6,9-triol、8,9-Dihydroxy-5-isopropyl-8-methyl-6-nonen-2-one、8-Hydroxy-5-isopropyl-8-methyl-6-nonen-2-one, 6,7-Epoxide、9,13-Dihydroxy-3-megastigmanone、Trimethyl-2-(1-methylethyl)-6,8-dioxabicyclo[3.2.1]octane-7-methanol、又はこれらのグルクロン酸抱合体、若しくは、5,11-Epoxy-7-megastigmene-3,6,9-triol、7-Megastigmene-2,5,6,9-tetrol, 9-Ketone、9-Hydroxy-2,2,4-trimethyl-6-oxo-3-decenoic acid、又はこれらのO−グリコシドが挙げられる。
【0104】
化合物No.20の推定構造としては、11-Hydroxy-9-tridecenoic acid、7-Hydroxy-4-dodecenoic acid, Me ether、7-Megastigmene-3,4,9-triol、7-Megastigmene-3,6,9-triol、7-Megastigmene-5,6,9-triol、8,9-Dihydroxy-5-isopropyl-8-methyl-6-nonen-2-one、8-Hydroxy-5-isopropyl-8-methyl-6-nonen-2-one, 6,7-Epoxide、9,13-Dihydroxy-3-megastigmanone、Trimethyl-2-(1-methylethyl)-6,8-dioxabicyclo[3.2.1]octane-7-methanol、又はこれらの硫酸抱合体が挙げられる。
【0105】
化合物No.22の推定構造としては、2-O-sulfated 2-hydroxy-dihydroactinidiolide、3-O-sulfated 3-hydroxy-dihydroactinidiolide、4-O-sulfated 4-hydroxy-dihydroactinidiolide又はその開環体が挙げられる。
【0106】
化合物No.23の推定構造としては、3-O-sulfated 3,9-dihydroxy-5-megastigmene、9-O-sulfated 3,9-dihydroxy-5-megastigmene、3-O-sulfated 3-hydroxy-5-megastigmene-9-one, 5,6-dihydro、若しくは4,7-Megastigmadiene-3,9-diol, 7,8-Dihydro、8-Hydroxy-5-isopropyl-8-methyl-6-nonen-2-one、9-Dodecen-1-ol, Formyl又はこれらの硫酸抱合体が挙げられる。
【0107】
化合物No.32の推定構造としては、4-Pregnen-19-ol-3, 20-dioneが最も好ましく、他には4-Pregnen-6β-ol-3, 20-dione、4-Pregnen-7α-ol-3, 20-dione、4-Pregnen-7β-ol-3, 20-dione、4-Pregnen-11α-ol-3, 20-dione、4-Pregnen-11β-ol-3, 20-dione、4-Pregnen-21-ol-3, 20-dione、4-Pregnen-17-ol-3, 20-dione、4-Pregnen-12α-ol-3, 20-dione、4-Pregnen-16α-ol-3, 20-dione、4-Pregene-18-ol-3, 20-dione、4-Pregne-18-ol, 3, 20-dione (20α及び20β ols) 18, 20-hemiketal、5-Pregnen-16, 17-epoxy-3β-ol-20-one、5-Pregnen-3β-ol-7, 20-dione、5-Pregnen-3β-ol-11, 20-dione、5-Pregnen-3β-ol-16, 20-dione、16, (5α)-Pregnen-3α-ol-11, 20-dione、16, (5α)-Pregnen-3β-ol-11, 20-dione、5, 16-Androstadien-3β-ol-17β-carboxylic acid methyl ester、1, (5α)-Androsten-17β-ol-3-one acetate、2, (5α)-Androsten-3-ol-17-one acetate、2, (5α)-Androsten-11α-ol-17-one acetate、4-Androsten-3β-ol-17-one acetate、4-Androsten-17α-ol-3-one acetate、4-Androsten-17β-ol-3-one acetate、4-Androsten-3-one-17β-carboxylic acid methyl ester、5-Androsten-3, 17-dione 3-ethylenketal、5-Androsten-3β-ol-16-one acetate、5-Androsten-3α-ol-17-one acetate、5-Androsten-3β-ol-17-one acetate、4-Estren-7α-methyl-17β-ol-3-one acetate、又は4-Estren-17β-ol-3-one propionate又はこの硫酸抱合体が挙げられる。
【0108】
【表6】

【0109】
それらストレス性疾患のバイオマーカーの幾つかについて、以下のようにして同定した。
【0110】
(6. ストレス性疾患のバイオマーカーのNMRによる同定)
〔6.1 バイオマーカーのNMR分析用サンプルの分取・精製及び構造推定〕
RCS負荷有り媒体投与群試料の尿10mLを凍結乾燥したのち、水300μLに再溶解した。この再溶解したサンプルを、HPLC−MSシステム機器(Varian社製)に注入し、溶出液を20秒毎に分画して採取した。採取した分画のうち質量分析でm/zが289として検出される分画を集め、減圧下、濃縮乾固し、水50μLに再溶解した。異なる3種のカラムを用いて、同様なHPLC−MSによる分画の採取と濃縮操作を、さらに3回順次行った。4回目は所望の分画を減圧下濃縮乾固後、重メタノール180μLに溶解させ、尿精製NMR測定用サンプルを調製した。
【0111】
なお、HPLC条件、MS測定条件及びNMR測定条件は以下の通りである。
<HPLC条件>
・カラム:(1回目)Unison UK-C8 (3μm粒径 4.6mm内径×250mm長)(Imtakt社製)
(2回目)Unison UK-Phenyl(3μm粒径 6.0mm内径×250mm長)(Imtakt社製)
(3回目)Cadenza CD-C18 (3μm粒径 6.0mm内径×250mm長)(Imtakt社製)
(4回目)Unison UK-Phenyl(3μm粒径 6.0mm内径×250mm長)(Imtakt社製)
・移動相成分A:0.1重量%ギ酸水溶液
・移動相成分B:アセトニトリル
・移動相成分A/Bの溶出のグラジエント条件
時間(分)/Bの割合(%):0分/12%→33分/45%
・流速:1.0mL/分
・カラム温度:35℃
・サンプル注入量:50〜95μL
<MS測定条件>
・イオン化法:ネガティブ エレクトロスプレーイオン化法(Negative ESI)
・質量測定範囲:m/z 100〜500
<NMR測定条件>
・測定機器:600MHz核磁気共鳴分析装置 VNMRS 600(Varian社製)
・プローブ:600MHz 1H{13C/15N}5mmφ
PFG Triple Resonance 13C Enhanced Cold Probe
・化学シフト基準:CD3OD (3.3ppm)
・測定法:wet1次元H−NMR、及びwetTOCSY法
【0112】
H−NMR測定の結果を以下に示す。
δ(ppm) 4.57 (m, 1H), 2.55 (m, 2H), 2.44 (m, 1H), 2.28 (m, 1H), 2.21 (m, 1H), 2.13 (s, 3H), 2.12 (m, 1H), 1.95 (m, 1H), 1.61 (s, 3H), 1.52 (t, 1H), 1.06 (d, 6H)
【0113】
このNMRスペクトル解析により、質量分析でm/zが289の化合物(化合物No.16)の構造は、分子式がC1322Sであり分子量290であって、下記化学式(2)で示されるものであると、推定した。
【0114】
【化19】

【0115】
〔6.2 LC−NMR/MSによるバイオマーカーの同定〕
前記のm/zが289の尿精製NMR測定用サンプルを、そのままLC−NMR/MS測定用サンプルとして用いた。一方、別途合成することで得た化学式(2)の構造が特定された標品を、2mg/mLとなるように重メタノールに溶解して、LC−NMR/MS測定用標品サンプルとした。両サンプルを、それぞれHPLCに注入し、質量分析のm/z値を用いて、フラクションループに採取した。夫々、該当分画について、NMRで測定を行なった。
【0116】
<LC−NMR/MSシステム機器>
・HPLC装置:PRO STAR (Varian Technologies社製)
・NMR装置 :VNMRS 600(Varian Technologies社製)
・MS装置 :1200L (Varian Technologies社製)
<HPLC条件>
・カラム:Cadenza CD-C18(3μm粒径 4.6mm内径×250mm長)(Imtakt社製)
・移動相成分A:0.1容量%重ギ酸重水溶液
・移動相成分B:重アセトニトリル
・移動相成分A/Bの溶出のグラジエント条件
時間(分)/Bの割合(%):0分/25%→15分/40%
・流速:1.0mL/分
・カラム温度:40℃
・サンプル注入量:10〜45μL
<MS条件>
・イオン化法:ネガティブ エレクトロスプレーイオン化法(Negative ESI)
・質量測定範囲:m/z 100〜500
<NMR条件>
・プローブ:600MHz 1H{13C/15N}5mmφ
PFG Triple Resonance 13C Enhanced Cold Probe
・分画採取法:フラクションループ法
・化学シフト基準:TSP-d4 (0ppm)
・測定法:wet1次元H−NMR、及びwetTOCSY法
【0117】
NMR測定の結果を以下に示す。
・尿精製NMR測定用サンプル
δ (ppm) 4.55 (m, 1H), 2.58 (m, 2H), 2.38 (m, 1H), 2.26 (m, 1H), 2.22-2.10 (m, 5H), 1.89 (m, 1H), 1.59 (s, 3H), 1.54 (t, 1H), 1.04 (d, 6H)
・標品サンプル
δ (ppm) 4.55 (m, 1H), 2.58 (m, 2H), 2.38 (m, 1H), 2.26 (m, 1H), 2.22-2.10 (m, 5H), 1.89 (m, 1H), 1.59 (s, 3H), 1.54 (t, 1H), 1.04 (d, 6H)
【0118】
両者は、NMRスペクトルデータが完全に一致していることから、尿精製NMR測定用サンプルの化合物は、前記化学式(2)の化合物であると、同定された。
【0119】
他のバイオマーカー候補化合物については、(1)MS/MSによる同定、又は(2)m/z値を用いて、各種データベース(Human metabolome database(http://hmdb.ca/labm/jsp/mlims/MSDbParent.jsp)、MassBank.jp(http://www.massbank.jp/QuickSearch.html)及びMetabolome.jp(http://www.metabolome.jp/mass_search/))を用いて構造決定あるいは構造推定を行った。
【0120】
(7.拘束ストレスモデルにおける脱糞量とバイオマーカー量の検討)
雄性Sprague−Dawley(SD)系ラット(日本チャールスリバー、使用時7週齢)を用いて、拘束ストレスを負荷した(ジャーナル オブ ファーマコロジカル サイエンシズ(Journal of Pharmacolgical Sciences),2007年,第104巻,p.263〜273)。ラットに媒体又は被験物質を投与した2時間後、ラットを拘束ストレスゲージ(W250×L110×H190mm;KN468;夏目製作所)に入れることにより、ストレス負荷を開始した。当該拘束ストレスを負荷したラットの尿を経時的に採取し、かつラットの排便総湿重量(g/h)を測定した。採取した尿について、上記実施例で選別したバイオマーカー候補化合物について、UPLC/MRM法を用いて定量した。その結果、ストレスの一指標であるストレス負荷中脱糞量と本発明のバイオマーカー量は正の相関関係を示すものが多いことがわかった。特に、化合物No.29のバイオマーカーについては、r=0.59の正相関を示し、ストレス症状との関連性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のストレス性疾患のバイオマーカー及びそれを用いた哺乳動物に対するストレス性疾患の治療薬として被験薬物を峻別する方法並びにそのバイオマーカーの測定方法は、ストレス性疾患治療薬のスクリーニング、前臨床開発段階における動物モデルでの薬効評価・有効性評価や有効投与量の設定、臨床開発段階での薬理応答の確認、臨床現場での患者毎の最適薬物の選択、患者毎の薬効発現の有無の予測・感受性予測、有効性を示す患者の早期予測・効率的選別、治療効果の確認などの診療に、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレス性疾患に罹患した哺乳動物から採取される尿、血液、唾液又は脳脊髄液の生体液からなる試料から検出されるストレス性疾患のバイオマーカーであって、
負電荷又は正電荷エレクトロイオンスプレー質量分析法におけるm/z値が、
289.1、496.7、305.1、291.1、379.2、393.2、293.1、760.3、715.2、357.1、732.2、
407.2、642.2、303.1、805.4、305.1、629.3、683.3、605.2、307.1、461.1、275.1、
291.1、263.0、261.0、632.4、312.2、255.1、363.2、277.1、294.2、331.2、409.2、
385.2、279.2、343.1、286.2、及び316.2
で示される代謝化合物及びその前駆化合物から選ばれる少なくとも1種類の化合物であることを特徴とするストレス性疾患のバイオマーカー。
【請求項2】
下記化学式(1)並びに(2)
【化1】

で表される3−ヒドロキシ−5−メガスチグメン−9−オン類並びにその3−O−硫酸抱合化合物、それらの不飽和基又はカルボニル基が還元された化合物とその硫酸抱合化合物、及びそれらの水酸基置換化合物とその硫酸抱合化合物;
下記化学式(3)
【化2】

で表される3−ヒドロキシ−5−メガスチグメン−9−オン類のグルクロン酸抱合化合物、それの不飽和基又はカルボニル基が還元された化合物とそのグルクロン酸抱合化合物、及びそれらの水酸基置換化合物とグルクロン酸抱合化合物;
下記化学式(4)並びに(5)
【化3】

で表される2−カルボキシエチル−6−ヒドロキシクロマン類並びにそれの硫酸抱合化合物、該硫酸抱合化合物の二量体並びに該硫酸抱合化合物の位置異性体、及びそれらの前駆化合物;
3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニルグリコール類、及び下記化学式(6)
【化4】

で表される3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニルグリコール類の硫酸抱合体;
ホモバニリン酸、及び下記化学式(7)
【化5】

で表されるそれの硫酸抱合化合物;
下記化学式(8)
【化6】

(式(8)中、−CO−Rは、オクテノイル基、デカジエノイル基、イソ−デカジエノイル基、デカエノイル基及びゲラノイル基から選ばれる不飽和アシル基、又はそれらの飽和アシル基を表す。)で表されるアシル化カルニチン類;
下記化学式(9)
【化7】

で表されるプロゲスタゲン類縁体、及びそれの水酸基位置異性体;
下記化学式(10)
【化8】

(式(10)中、Rは水素原子、又はメチル基を表す。)で表されるベンゾキノン類;
の何れかであることを特徴とする請求項1に記載のストレス性疾患のバイオマーカー。
【請求項3】
該ストレス性疾患が、過敏性腸症候群であることを特徴とする請求項1に記載のバイオマーカー。
【請求項4】
下記化学式(2)
【化9】

で表される化合物。
【請求項5】
下記化学式(10)
【化10】

(式(10)中、Rは水素原子、又はメチル基を表す。)で表される化合物。
【請求項6】
ストレス性疾患に罹患しており被験薬物が投与された哺乳動物から採取された尿、血液、唾液又は脳脊髄液の生体液からなる試料と、ストレス性疾患に罹患している哺乳動物の器官若しくは組織又はそれらの何れかから採取した細胞へ被験薬物が添加されている試料とから選ばれる生体由来試料について、請求項1又は2に記載のバイオマーカーの濃度又は存否を指標とした測定を行うことにより、該被験薬物を該哺乳動物に対するストレス性疾患の治療薬として峻別する方法。
【請求項7】
該バイオマーカーの濃度に応じて、該哺乳動物に対する該被験薬物の感受性と非感受性とを選別し、又は該哺乳動物に対する該被験薬物の有効投与量を推定することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
該指標が、健常な同種の該哺乳動物の生体由来試料における該バイオマーカーの濃度と比較した増減であることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
該被験薬物が、ミトコンドリア型ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬であることを特徴とする請求項6乃至8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
該ストレス性疾患が、過敏性腸症候群であることを特徴とする請求項6乃至9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
該測定が、質量分析測定、液体クロマトグラフ測定、ガスクロマトグラフ測定、及び/又は核磁気共鳴スペクトル測定であることを特徴とする請求項6乃至10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
ストレス性疾患に罹患した哺乳動物から採取された尿、血液、唾液又は脳脊髄液の生体液と、該哺乳動物から摘出した器官若しくは組織又はそれらの何れかから採取した細胞とから選ばれる生体由来試料について、請求項1又は2に記載のバイオマーカーの濃度又は存否を指標として、液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法、質量分析法、核磁気共鳴スペクトル測定法、又はそれらの何れかを組み合わせた測定法により、ストレス性疾患のバイオマーカーを測定する方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−47735(P2012−47735A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165272(P2011−165272)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】