説明

ストレス抑制剤

【課題】 本発明は、乳酸菌FERM P−19169の新たな用途を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明によれば、乳酸菌FERM P−19169を有効成分とし、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育作用又は下痢抑制作用に基づくストレス抑制剤が提供される。本発明によれば、さらに乳酸菌FERM P−19169を有効成分とする、サイトカイン産生調節剤、感染防御剤、肥育剤及び下痢抑制剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレス抑制剤に関し、より詳しくは、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育作用又は下痢抑制作用に基づくストレス抑制剤に関する。本発明は、さらに、サイトカイン産生調節剤、感染防御剤、肥育剤及び下痢抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は発酵により糖類から乳酸を生じる菌の総称であり、代表的なものとして、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)に属するものが知られている。これらの乳酸菌は、発酵食品の製造に用いられる他、消化管内の細菌叢を改善して宿主に有益な作用をもたらすプロバイオティクスとしての用途も注目されている。
【0003】
近年、例えばもろみ濃縮液等のアルコール発酵にて副生する残渣に良好に生育し得る乳酸菌として、乳酸菌FERM P−19169が見出され、その病原菌に対する免疫増強作用が注目されている(特許文献1)。しかし、特許文献1では、マウスの死亡率による乳酸菌投与の優位性は明確になっているものの、人畜等での作用効果が実証されていないため、実用化に向けての課題が残っている。
【0004】
免疫系は、組織の障害や、ウイルスや細菌等の病原性微生物、あるいは酸化ストレスから宿主を防御するための、種々の生体防御機構を備えている。免疫系は、病原性微生物等の外部刺激に対して、様々なサイトカイン、ケモカインを産生し、食細胞の動員、貧食作用の促進、リンパ球活性化、NK細胞の活性化等の応答を起こす。このようなサイトカインとしては、インターロイキン−1(IL−1)、抗腫瘍性壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)、インターロイキン−12(IL−12)、インターロイキン−15(IL−15)、インターロイキン−18(IL−18)インターフェロン−γ(IFN−γ)等が挙げられる。
【0005】
病原性微生物に対する感染防御反応においては、感染後数時間以内に働く自然免疫と、感染後数日から働く適応免疫がある。自然免疫は、抗原非特異的な反応であり、単球、マクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞等が関与している。また、適応免疫はTリンパ球とBリンパ球によって誘導される、抗原特異的な反応で、持続性を持つ。自然免疫で、特に誘導型自然免疫と呼ばれる応答では、病原性微生物の産物の刺激により、IL−1、TNF−α、IL−6、IL−8、IL−12、IL−15、IL−18、IFN−γを始めとした、様々なサイトカイン、ケモカインが産生される。これにより、食細胞の動員、貧食作用の促進、リンパ球活性化、NK細胞の活性化等の局所的な生態防御反応が起こることが分かっている。
【0006】
これらサイトカインのうち、IL−1、TNF−α、IL−6、IL−18、IFN−γ等炎症性サイトカインとも呼ばれるサイトカインが過剰産生されることによって、急性期応答と呼ばれる炎症、発熱、潰瘍、浮腫、アレルギー、関節炎等を引き起こし、さらには全身性ショック、播種性血管内凝固症候群等の害を及ぼすことも知られている(非特許文献1)。また、これらの炎症性サイトカインは様々なストレスによっても産生されることが明らかとなっている(非特許文献2)。マウスにおいては、拘束ストレスによってIFN−γの産生が増加することも知られている(非特許文献3)。
【0007】
しかし、乳酸菌を主要成分として人や家畜への投与試験を行い、サイトカイン産生抑制効果を調べた報告はこれまで知られていない。
【0008】
【特許文献1】特開2005−21156号公報
【非特許文献1】Janeway,C.A.Jr,笹川健彦訳、「免疫生物学」(原著第5版)、2003
【非特許文献2】Maes,M.ら、「In humans,serum polyunsaturated fatty acid levels predict the response of proinflammatory cytokines to psychologic stress」、Biol.Psychiatry.、Vol.47、pp910−920(2000)
【非特許文献3】吉光仁美ら、「拘束ストレスによるアトピー性皮膚炎悪化の分子機構」、日本獣医学会第144回大会講演要旨集、pp53(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
乳酸菌FERM P−19169は、付加価値が低く廃棄物として処理されていたアルコール発酵後の蒸留残渣の有効利用に役立つことから、その用途の拡大が期待されている。そこで、本発明は、乳酸菌FERM P−19169の新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、乳酸菌FERM P−19169の新規用途について検討を重ねたところ、乳酸菌FERM P−19169が、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育作用及び下痢抑制作用を発揮し、これらに基づきストレス負荷を抑制できることを見出した。これまで、ストレス変動をモニタリングし、かつ当該モニタリング結果より、明確かつ有用なストレス抑制効果を実証した、ストレス抑制剤は、見出せていなかった。本発明者らは、多くの個体で乳酸菌FERM P−19169を投与し、経時的に炎症性サイトカインを測定することにより、群ごとのストレス変動を明確にモニタリングし、その結果、新たにストレス抑制による効果として、有用な、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育効果、下痢抑制効果を見出した。例えば、乳酸菌FERM P−19169を子豚に投与することによって、ストレス状態にある離乳期では、TNF−α、IL−6等の炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制し、また、大腸菌リポポリサッカライド(LPS)で模擬感染させた子豚において、感染防御機能を発揮すると共に、TNF−α、IFN−γ、IL−6等の炎症性サイトカインの急激な増加を抑制し、これによって過剰な炎症反応を抑制することを見出した。本発明者らはまた、乳酸菌FERM P−19169による子豚に対する肥育作用及び下痢抑制作用も見出した。本発明のストレス抑制剤は、さらに、ストレスが起因となる家畜死廃率に対する低下効果も示している。
【0011】
すなわち、本発明は、乳酸菌FERM P−19169を有効成分とし、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育作用又は下痢抑制作用に基づくストレス抑制剤を提供するものである。本発明のストレス抑制剤によれば、離乳や環境変化によるストレスがかかった場合において、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育作用又は下痢抑制作用を通じて、ストレス負荷を抑制することができる。
【0012】
本発明はまた、乳酸菌FERM P−19169を有効成分とする、サイトカイン産生調節剤、感染防御剤、肥育剤及び下痢抑制剤を提供する。
【0013】
乳酸菌FERM P−19169は、各種ストレスが負荷された場合において、サイトカインの過剰な産生を抑制する機能を有する。なお、ここのサイトカイン産生抑制効果は、乳酸菌と腸管免疫系との穏やかな相互作用によるものであり、急激な免疫抑制や病的な反応を示すものではない。本発明は、実際に生体への投与試験を行い、乳酸菌によるサイトカイン産生抑制効果を検証した初めての発明である。また、乳酸菌FERM P−19169を投与することにより、宿主の非特異的生体防御反応を高めつつ、過度なサイトカインの産生を抑制するため、病原の感染を防御するとともに、疾病等による損耗を最小限に抑えることが可能になる。また、肥育期における豚等の家畜の体重増加率を向上させることができ、発育促進作用を発揮し、これにより家畜の平均出荷日齢が短縮される。さらに、家畜の下痢発生率、及び死廃率(事故率と淘汰率との合計)を低減させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、乳酸菌FERM P−19169の新規用途が提供される。具体的には、乳酸菌FERM P−19169を有効成分とし、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育作用又は下痢抑制作用に基づくストレス抑制剤が提供される。本発明によれば、さらに乳酸菌FERM P−19169を有効成分とする、サイトカイン産生調節剤、感染防御剤、肥育剤及び下痢抑制剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明のストレス抑制剤は、乳酸菌FERM P−19169を有効成分とし、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育作用又は下痢抑制作用に基づいてストレスを抑制するものである。
【0017】
ここでストレスとは、ストレスを引き起こす外部刺激であるストレッサーにより生じた生体の非特異的反応を意味し、ストレッサーとしては、温度、圧力、浸透圧、紫外線、放射線、音、電磁波等の物理的ストレッサー、薬物、有害物質、飢餓、酸化、酸素欠乏等の化学的ストレッサー、細菌やウイルスの侵入等の生物学的ストレッサー、精神的苦痛、精神的緊張等の精神的ストレッサーが挙げられる。
【0018】
ストレス抑制とは、ストレッサーにより生じた生体の非特異的反応を抑制することを意味し、生体の非特異的反応としては、生体内のコルチゾールやC反応性蛋白質、炎症性サイトカインの上昇がみられ、症状として食欲減退、消化不良、不眠、体調不良などが表れる。特に家畜の場合は、沈静化、軟便、下痢、発育不良、肥育不良などとして表れる。そのため、結果としてストレッサー存在下では、外的刺激に対する抵抗力が落ち、感染症などが起こりやすくなる。一方、ストレスを抑制することで、これら症状を緩和することが期待できる。
【0019】
本発明におけるストレス抑制の一形態としては、例えば離乳や環境変化等の物理的又は精神的ストレッサーや、病原感染等の生物学的ストレッサーを受けた場合に起こる、TNF−α、IFN−γ、IL−6等のサイトカインの過剰な産生を抑制し、病原感染を効果的に防御すると共に、過剰な炎症反応を抑え、疾病等による損耗を最小限に抑えることによってストレスを抑制する形態が挙げられる。この形態は、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用に基づくストレス抑制に該当する。本発明におけるストレス抑制の別の形態としては、家畜等の肥育を促進することによって、物理的、化学的、生物的又は精神的ストレッサーに対する耐性を向上させ、それによりストレスを抑制する形態である。さらに他の形態では、家畜等の下痢発生率及び死廃率を低減させることによって、家畜等の健康な発育を促進し、その結果ストレッサーに対する耐性を向上させる形態である。
【0020】
乳酸菌FERM P−19169は、ラクトバチルス・パラカセイ・サブスピシズ・パラカセイ(Lactobacillus paracasei subsp.paracasei)に属し、独立行政法人産業技術総合研究所・特許生物寄託センターに、FERM P−19169として寄託されている乳酸菌である。
【0021】
乳酸菌FERM P−19169は、ラクトバチルス・パラカセイ・サブスピシズ・パラカセイの標準株であるL.paracasei subsp.paracasei NBRC 15889とは多くの糖質では類似の資化パターンを示すが、いくつかの糖質では発酵性が異なる。即ち、API50CH(Biomerieux社製)システムを用いた糖発酵性試験では、NBRC 15889は、糖基質がソルボース及びイヌリンである場合、微陽性を示し、糖基質がソルビトール及びグルコン酸塩である場合、陽性を示すことに対して、FERM P−19169は、糖基質がソルボース、ソルビトール及びイヌリンである場合陰性を示し、糖基質がグルコン酸塩である場合のみ、微陽性を示す。乳酸菌FERM P−19169は、API50CH(Biomerieux社製)システムを用いた糖発酵性試験、または抽出したゲノムDNAを用いた、16SrDNA遺伝子解析により、遺伝子配列を調べることによって、同定することができる。
【0022】
乳酸菌FERM P−19169の培養は、一般的な乳酸菌培養用培地及び条件で行われていれば特に限定されない。例えば、天然培地、合成培地又は半合成培地等を用いることができる。培地としては、窒素源および炭素源を含有するものであればよく、また、各種無機質を添加してもよい。培地のpHは4.0〜8.0が好ましく、より好ましくは5.0〜7.0である。培養温度は10.0〜45.0℃が好ましく、より好ましくは20.0〜40.0℃である。培養時間は24〜96時間程度であり、通気又は嫌気培養してもよい。具体的には、例えば、MRS培地(Difco MRS broth)を用いて、37℃にて、静置培養することができる。また、MRS培地に1.5%の寒天を添加し、ガスパック嫌気培養システム(三菱ガス化学株式会社製)を用いて、37℃で培養することもできる。凍結乾燥保存菌を使用する場合、菌に生理食塩水、またはMRS培地を加えて復元し、MRS寒天平板培地に塗抹し、37.0℃で培養した後、液体培地又は寒天培地に継代培養することによって培養することができる。
【0023】
乳酸菌FERM P−19169は、温度耐性及びアルコール耐性を有する。また、一般的な乳酸菌培養用培地の他、アルコール発酵・蒸留残液の2.5〜3.0倍濃縮液(もろみ濃縮液)に良好に生育することができる。もろみ濃縮液を使用することで、乳酸菌FERM P−19169を培養できると共に、このような残液を有効利用することもできる。このようなもろみ濃縮液として、例えば、サトウキビ窄汁液の蔗糖採取後の糖蜜をアルコール発酵させ、蒸留した後の残液の濃縮液が好ましく用いられる。また、もろみ濃縮液の2〜8倍蒸留水希釈液(希釈倍率は容積比とする)を使用することが好ましく、2倍蒸留水希釈液が特に好ましい。
【0024】
本発明のストレス抑制剤に含まれる乳酸菌FERM P−19169は、生菌であってもよく、加熱処理やUV、ホルマリン処理等により不活性化した菌であってもよく、特に生菌が好ましい。乳酸菌FERM P−19169は、乳酸菌FERM P−19169による発酵生産物とともに存在していてもよい。すなわち、本発明のストレス抑制剤は、乳酸菌FERM P−19169による発酵生産物を含有していてもよい。
【0025】
本発明のストレス抑制剤は、液剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、トローチ錠等の経口剤、直腸投与剤等の局所投与剤とすることができる。また、胃酸による影響を低減するために、腸溶剤とすることも好ましい。本発明のストレス抑制剤は、乳酸菌のみからなるものであってよく、また、薬学的に許容できる添加剤又は担体、例えば、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、矯味矯臭剤、安定化剤等を含んでよく、必要があれば、他の乳酸菌を含有してもよい。
【0026】
本発明のストレス抑制剤は、例えば、以下のように製造することができる。まず、乳酸菌FERM P−19169を適切な培地によって増殖培養し、次に、培養した乳酸菌を自然沈降又は遠心分離等によって回収する。続いて、回収した乳酸菌は、1×1010〜2×1011CFU/gとなるように培養上清で希釈、調整する。これをそのまま液状で用いる他、スキムミルク、乳糖等の保護剤を添加した後、凍結乾燥法、スプレードライ法、噴霧造粒法、または打錠法により粉状もしくは錠剤状に加工する。具体的には、等量の20%スキムミルク液と混合し、噴霧造粒法で粉状に加工することが好ましい。これを4℃にて保存する。このような方法で製造されるストレス抑制剤は、5×10CFU/g以上の生菌数を示し、4℃で保存することによって360日間、1×10CFU/g以上の生菌数を維持することができる。
【0027】
本発明のストレス抑制剤は、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育作用又は下痢抑制作用に基づくストレス抑制作用を有するため、ストレス低減を必要とする治療又は病気の予防に使用することができる。例えば、環境変化や細菌侵入、心労等に代表される物理的や、化学的、生物学的及び精神的なストレッサーを受けた場合、使用することができる。
【0028】
本発明のストレス抑制剤の投与量は、投与対象、個々の症状や年齢、体重等に応じて、適宜に決定することが好ましい。例えば、豚の場合、一日の投与量は1.0×10〜5.0×10CFU/頭であることが好ましい。本発明のストレス抑制剤を豚に投与した場合、ストレスを抑制でき、病原に感染しても過剰な炎症性サイトカインを産生することなく、病原を防御することができ、また、肥育効果、下痢抑制効果も期待できる。
【0029】
本発明のストレス抑制剤を含有させることにより、家畜用飼料添加剤が提供される。家畜用飼料添加剤は、乳酸菌FERM P−19169を有効成分とするストレス抑制剤のみからなるものであってよく、他の一般的な飼料添加剤、例えば、ミネラル、ビタミン、アミノ酸、食物繊維等を含んでもよい。この家畜用飼料添加剤は、固形、液体又はゲル等の半固形とすることができる。保存性の観点から、固形又は半固形が好ましい。
【0030】
家畜用飼料添加剤の使用量は家畜の種類(豚、牛、綿羊、山羊、鶏、鴨、ガチョウ、鶉、犬、猫等)や体重に応じて適宜決定でき、豚の場合、一日の投与量は、乳酸菌FERM P−19169の量が1.0×10〜5.0×10CFU/頭となるようにすることが好ましい。また、豚の離乳期若しくは肥育期によって、又は環境変化によって適宜に増減することが好ましい。本発明の家畜用飼料添加剤を豚用飼料に添加し、豚を飼育した場合、豚のストレスを抑制でき、病原に感染して過剰な炎症性サイトカインを産生することなく、病原防御することができ、また、肥育効果及び下痢抑制効果も期待できる。
【0031】
本発明のストレス抑制剤を含有させることにより、機能性食品や特定保健用食品をも提供できる。食品の形態としては、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、コーヒー、スポーツ飲料、牛乳、豆乳、酒類等の各種飲料や、プリン、ゼリー、ケーキ、冷菓等の菓子類、チーズ、バター等の乳製品等が挙げられる。このような食品に含まれる乳酸菌FERM P−19169の量は、ストレスを抑制することができる量であればよい。
【0032】
本発明の食品を一定の期間摂取すると、例えば、心労、肉体疲労や環境変化等の各種ストレッサーを受けた場合、病原感染しても、炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制でき、それによって病原感染を効果的に防御できると共に、過剰な炎症反応を抑えて、ストレスを抑制することができ、ストレスに強い健康な身体とすることができる。
【0033】
乳酸菌FERM P−19169を有効成分とすることで、サイトカイン産生調節剤、感染防御剤、肥育剤及び下痢抑制剤が提供される。
【0034】
サイトカイン産生調節剤は、炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制し、疾病等による損耗を最小限に抑えることができるため、特に、ストレス等、炎症性サイトカインの過剰分泌に関連する疾患に適用することができる。サイトカイン産生調節剤の投与量は、個々の症状や年齢、体重等に応じて、適宜に決定することが好ましい。例えば、豚の場合、一日の投与量は1.0×10〜5.0×10CFU/頭が好ましい。
【0035】
感染防御剤は、病原感染を効果的に防御すると共に、炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制することができるため、特に、微生物、ウイルス、寄生虫等の感染症による、発熱、下痢等の疾患に適用することができる。感染防御剤の投与量は、個々の症状や年齢、体重等に応じて、適宜に決定することが好ましい。例えば、豚の場合、一日の投与量は1.0×10〜5.0×10CFU/頭であることが好ましい。
【0036】
肥育剤は、炎症性サイトカインの過剰産生を抑制し、病原感染を効果的に防御すると共に、肥育効果を発揮するため、特に、豚、牛、綿羊、山羊、鶏、鴨、ガチョウ、鶉、犬、猫等の飼育に適用することができる。肥育剤の投与量は、必要に応じて、適宜に決定することが好ましい。例えば、豚の場合、一日の投与量は1.0×10〜5.0×10CFU/頭であることが好ましい。
【0037】
下痢抑制剤は、炎症性サイトカインの過剰産生を抑制し、病原感染を効果的に防御すると共に、下痢抑制効果を発揮するため、特に、豚、牛、綿羊、山羊、鶏、鴨、ガチョウ、鶉、犬、猫等の飼育に適用することができる。下痢抑制剤の投与量は、必要に応じて、適宜に決定することが好ましい。例えば、豚の場合、一日の投与量は1.0×10〜5.0×10CFU/頭であることが好ましい。
【0038】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
(製造例1)乳酸菌FERM P−19169粉状製剤の製造
Lactobacillus paracasei FERM P−19169をもろみ濃縮液(蒸留水希釈液)培地によって増殖培養し、培養した乳酸菌を遠心分離によって回収した。続いて、回収した乳酸菌は、1.0×1010〜1.0×1011CFU/gとなるように、培養上清で希釈した。これを等量の20%スキムミルク液と混合し、噴霧造粒法で粉状製剤に加工した。得られた乳酸菌FERM P−19169粉状製剤は、生菌として3.0×10〜3.0×10CFU/gの乳酸菌FERM P−19169を含むものであった。上記製剤を試験まで4℃にて保存し、4℃で360日間保存した場合、1.0×10〜3.0×10CFU/g以上の生菌数を維持した。
【0040】
(実施例1)乳酸菌FERM P−19169によるサイトカイン産生調節作用
哺乳期の子豚に乳酸菌FERM P−19169を投与し、乳酸菌FERM P−19169による離乳期におけるサイトカイン産生調節作用について試験した。
【0041】
実施例1〜3において、同じ母豚から1回の分娩で生まれた子豚を1腹とし、1腹が8頭以上の場合の子豚のみを供試豚として採用した。1群を3腹とし、子豚を非投与群(n=33)、強制投与群(n=27)、及び自由摂取群(n=29)に分け、分娩ごとに順次試験を行った。また、各群の子豚の品種は、非投与群ではW種(n=10)又はWLD種(n=21)、強制投与群ではW種(n=4)又はWLD種(n=22)、自由摂取群ではW種(n=12)又はLD種(n=16)であった。なお、W種は大ヨークシャー種を、L種はランドレース種を、D種はデュロック種を、LD種は二元交雑種を、そして、WLD種は三元交雑種を示す。
【0042】
試験期間は、哺乳初期(22日間)及び哺乳後期(14±2日間)の36±2日間であった。各群の子豚を4週齢(28日)まで分娩豚舎で飼育し、離乳後、母豚のみを移動させた。飼育は、哺乳初期には母乳+代用乳飼育、哺乳後期には母乳+人工乳飼育で行った。代用乳及び人工乳としては、それぞれモアアップ バースデーミルク(伊藤忠飼料株式会社製)及びモアアップ エツケ(伊藤忠飼料株式会社製)を用い、共に他の乳酸菌が添加されていないものであった。
【0043】
製造例1で得られた乳酸菌FERM P−19169製剤を、強制投与群及び自由摂取群共に、生菌として、哺乳初期に1.0×10CFU/頭/日、哺乳後期に3.0×10CFU/頭/日になるよう投与した。強制投与群に対しては、乳酸菌製剤を温湯に希釈し、哺乳初期1日1回3mLずつ、哺乳後期は1日1回9mLずつ経口投与した。自由摂取群に対しては、朝夕2回に分け、人工乳に混ぜて給与した。
【0044】
試験期間中、毎週子豚の体重を測定し、臨床症状も随時記録した。飼育期間の36±2日間中、非投与群で2頭、強制投与群で1頭、自由摂取群で1頭の事故死豚が出たため、これらは試験から除外した。なお、事故死とは、母豚による圧死、虚弱死、寒冷死、病死等による子豚や肥育豚の死を意味する。群ごとの体重変化を図1に示す。図1から、非投与群(n=31)、強制投与群(n=26)及び自由摂取群(n=28)の中、自由摂取群の体重増加が最も大きかったが、有意差は認められなかった。
【0045】
サイトカイン産生量は、子豚血漿試料を用いて、サンドイッチELISA法で測定した。TNF−αの測定には、固定化抗TNF−αモノクローナル抗体とビオチン標識抗TNF−αモノクローナル抗体を利用したSwine TNF−α ELISA Kit(Biosource社製)を使用した。IFN−γの測定には、固定化抗IFN−γモノクローナル抗体とビオチン標識抗IFN−γモノクローナル抗体を利用したSwine Interferon−gammma(swIFN−γ)ELISA Kit(Biosource社製)を使用した。IL−6の測定には、固定化抗IL−6ポリクローナル抗体とホースラディッシュパーオキシダーゼ標識抗IL−6ポリクローナル抗体を利用したQuantikine(商標)、Porcine IL−6 Immunoassay(R&D systems社製)を使用した。その後、マイクロプレートリーダー(テカン社製)で検出、測定を行った。なお、採血は、子豚離乳2日前、2日後及び9日後にそれぞれ頚静脈より行った。採取された血液をヘパリン処理し、10mLのヘパリン血を得た。ヘパリン処理血を3mLずつ3本に分けた後、うちの2本に、Carstensenら(Carstensen,L.et al.(2005).Determination of tumor necrosis factor−alpha responsiveness in piglets around weaning using an ex vivo whole blood stimulation assay. Vet. Immuno. Immunol.,Vol.105,pp59−66)の方法を参考にリポポリサッカライド(LPS;Escherichia coli 055:B5、SIGMA社製)を50μg/(mL血液)の濃度で添加した。39℃で、2時間又は20時間インキュベート後、10,000rpm、10分間遠心分離し、得られた上清をLPS刺激あり(LPS2時間又はLPS20時間)の血漿試料とした。残りの1本は、LPSを添加せず、速やかに遠心分離し、得られた上清をLPS刺激なし(LPS0時間)の試料とした。試料は全て−80℃にて保存した。
【0046】
サイトカインの分析は、まず、LPS刺激の有無及びLPSの処理時間による影響を調べるために、各群にオスとメス2頭ずつを用いて予備試験を行った。その結果、TNF−αの場合、LPS20時間よりもLPS2時間の方が高い値を示した。また、LPS0時間ではほとんどが検出限界以下であった。IL−6の場合も、LPS0時間ではほとんど検出されなかったが、LPS2時間よりもLPS20時間で10倍近く高い値を示した。IFN−γの場合、LPS刺激の有無に関わらず、ほとんどが検出限界以下であった。以上より、LPS刺激なしでは、これらのサイトカインは産生しないことが分かった。このことから、本試験では、TNF−αをLPS2時間の試料、IL−6をLPS20時間の試料を用いて分析を行ったが、IFN−γについては分析を行わなかった。
【0047】
サイトカインごとに得られた約300サンプルのデータのうち、ELISAで不具合が生じた試料、及びTNF−αとIL−6との両方で明らかに高い数値を示した試料は、解析から除外した。データの解析は独立2群に対して二標本t検定によって群間の比較を行った。F検定によりデータの分散が等分散とみなせない場合はWelch法を適用した。統計的有意差はp<0.05の場合を有意差ありとした。
【0048】
非投与群(n=26)、強制投与群(n=23)、及び自由摂取群(n=25)の解析結果を図2に示す。図2から、TNF−αは、強制投与群で離乳2日後において、自由摂取群で離乳2日後及び9日後において、非投与群に比べて有意に低い値を示した。一方、離乳9日後において、強制投与群の値が非投与群よりも高かった。また、IL−6は、いずれの試験日においても、強制投与群及び自由摂取群では非投与群に比べて有意に低い値を示し、特に自由摂取群の方が高い有意差を示した。
【0049】
非投与群では、TNF−αが試験期間を通して全体的に高い値を示した。これは、子豚が離乳ストレッサーを強く受けたためだと考えられる。一方、乳酸菌FERM P−19169の投与によって、TNF−αが有意に減少したことから、乳酸菌投与が離乳ストレッサーによるストレスを低減させたことが示唆された。
【0050】
強制投与群が離乳9日後で上昇した理由については、強制投与によるストレスや他のストレス、又は何らかの病原体の感染によるものではないかと考えられる。また、IL−6についても、非投与群で離乳2日後にIL−6が上昇せず、いずれの試験日においても高い値を示したことは、子豚には離乳によるストレス以外にも何らかのストレスがかかっていたことが考えられる。今回の試験期間は6月12日から8月17日の間であることを考えれば、暑さに弱い豚にとって高温ストレッサーを受けた可能性があった。
【0051】
非投与群の値が高く、また標準偏差が大きいのに対して、強制投与群、自由摂取群は数値が有意に低く、標準偏差も小さい値を示したことから、乳酸菌投与によって、離乳ストレス以外の何らかの環境によるストレスに対しても効果があり、試験群の子豚の健康状態を安定して維持することが示唆された。また、自由摂取群の方が強制投与群よりも効果が高く、増体も他の群より良好だったことから、自由摂取群は強制投与によるストレスを受けないため、豚への負荷が少ないことが推測された。
【0052】
(実施例2)乳酸菌FERM P−19169による感染防御作用
哺乳期の子豚に乳酸菌FERM P−19169を投与し、乳酸菌FERM P−19169による離乳期における感染防御作用について試験した。
【0053】
実施例1と同様に乳酸菌投与を行った。5週間の投与試験終了後の二元又は三元交雑種の子豚を用いて試験を行った。非投与群、強制投与群及び自由摂取群は、各2腹から、オス、メス各6頭ずつ選び、体重が均等になるように2群に分け、一方をLPS接種区、もう一方をLPS非接種区とした。
【0054】
乳酸菌投与試験が終了した5週目の子豚に対して、LPS接種前の採血を行った。その後、Nakajimaら(Nakajima,L.et al.(2000).Involvement of apoptosis in the endotoxemic lesions of the liver and kidneys of piglets. J.Vet.Med.Sci.,Vol.62,pp621−626)の方法を参考に、LPS(Escherichia coli 055:B5、SIGMA社製)2.5mgを10mLのPBSに溶解し、投与量が20μg/kgになるよう耳静脈に接種し、模擬感染を行った。非接種区にはPBSのみを接種した。その後、1.5、3、6、12、24時間後に、頚静脈から採血し、ヘパリン処理後、実施例1と同様に遠心分離し、得られた血漿試料を−20℃で保存した。
【0055】
血漿中のTNF−α、IL−6及びIFN−γについて、LPS接種による経時的な変化を、実施例1に記載の方法に従ってELISAで測定した。また、LPS接種による臨床症状についても記録した。
【0056】
試験に用いた子豚の平均体重は、非投与群、強制投与群及び自由摂取群でそれぞれ、12.4kg、9.7kg、及び11.1kgであった。試験期間中、臨床症状を示した子豚は認めなかった。サイトカインごとに得られた約220サンプルの分析を行った。そのうち、ELISAで明らかに異常な数値を示した試料は、解析から除外した。データの解析は独立2群に対して二標本t検定によって群間の比較を行った。統計的有意差はp<0.05の場合を有意差ありとした。
【0057】
解析の結果を図3に示す。図3から、LPSの接種によって、子豚血漿中のTNF−α、IL−6、及びIFN−γは急激に上昇し、1.5時間又は3時間でピークを迎えた後、6時間後には試験前の値にまで減少したことが分かった。TNF−αは、1.5時間で最大値を示し、非投与群及び強制投与群において10μg/mL以上の高い値を示したのに対し、自由投与群は、1.5時間でTNF−αの上昇が認められたものの、他群に比し有意に低い値を示した(図3の(A))。
【0058】
IL−6の産生も、LPS接種後、一過性の増加と減少を示したが、強制投与群及び自由摂取群では1.5時間でピークを迎えたのに対し、非投与群はさらに増加して、3時間でピークを示した後減少に転じ、3時間目において非投与群と自由摂取群とにおいて有意差が認められた(p<0.05)(図3の(B))。
【0059】
また、IFN−γはLPS接種によって誘導されることが確認され、3時間目において強制投与群及び自由摂取群では、非投与群に対して有意に低い値を示した(図3の(C))。
【0060】
PBSのみを接種したLPS非接種区では、これらのサイトカインの産生はほとんど認められなかった。
【0061】
以上の結果より、LPS接種による模擬感染の刺激によって、まず、TNF−αが急激に産生され、その後、IL−6、IFN−γが続けて産生され、6時間以内に免疫応答が終了することが分かった。これらのサイトカインは、炎症性サイトカインとして、感染防御に働く一方、発熱や全身性ショックといった、過剰な炎症を体内に引き起こすことが知られている。今回の試験によって、乳酸菌FERM P−19169は、これらのサイトカインの急激な産生を抑制したことから、感染防御として産生されるサイトカイン量を調節し、過剰な炎症を抑制していることが示唆された。
【0062】
(実施例3)乳酸菌FERM P−19169による肥育作用
肥育期の子豚に乳酸菌FERM P−19169を投与し、その肥育作用について試験した。
【0063】
子豚を非投与群(n=30)、強制投与群(n=33)及び自由摂取群(n=28)に分け、1群を3腹とした。メスの品種はW又はLWであり、オスの品種はD又はWであった。子豚を4週(28日)まで分娩豚舎で飼育し、離乳後、母豚のみ移動させた。
【0064】
試験期間は30kgに到達した豚に対し、出荷(110kg)までの83〜97日間であった。肥育期間を30〜50kg期(I期)、50〜90kg期(II期)、90〜110kg期(III期)の3期に分け、製造例1で得られた乳酸菌FERM P−19169製剤を、生菌として、I期では1.0×10CFU/頭/日、II期では2.0×10CFU/頭/日、III期では3.0×10CFU/頭/日、新産肉能力検定用飼料(TDN74.5%以上、CP14.5%以上、株式会社杉治商会製)に混ぜ、自由摂取させた。
【0065】
試験期間中、毎週子豚の体重を測定し、臨床症状についても随時記録した。豚の発育状況を表1及び図4の(A)に示す。肥育期間中、非投与群において、下痢を起こすブタが4頭中2頭観察され、1頭は4回下痢症状を示し、計7日間下痢治療のために複合生菌剤を投与した他、もう1頭は、下痢症状と発熱症状同時に示し、アンピシリン、スリピリンによる治療を行った。しかし、投与群ではこのような症状を示す豚は認められなかった。表1から、出荷日齢は、非投与群で159.8日、投与群で156.3日であり、また、出荷時体重は、非投与群で111.4kg、投与群で113.4kgであった。有意差はなかったものの、投与群では約3日(2.2%)早く、体重が2kg(1.8%)重く、出荷されたことが分かった。
【0066】
【表1】



【0067】
肥育期間中の1日の平均増体量を表2及び図4の(B)に示す。表2から、30kgからの1日平均体重増加(増体量)は、肥育前期及び肥育後期では共に、投与群で高い傾向が認められた。特に、肥育後期において、非投与群の1日の平均増体量が918.4gであったのに対し、投与群では1030.6gであり、投与群は非投与群に比べて12.2%多く増加したことが分かった。
【0068】
【表2】



【0069】
以上の結果から、乳酸菌FERM P−19169の投与による肥育効果があることが証明された。特に肥育後期の増体率に効果があることが明らかとなった。乳酸菌自体は、肥育を促す高カロリーな栄養成分はなく、また、今回与えた乳酸菌の添加量が餌に対して1%以下であることから、乳酸菌の投与によるストレス抑制作用が、豚の健康な発育に貢献したと考えられる。
【0070】
(実施例4)哺乳期及び離乳期の子豚への乳酸菌投与試験
乳酸菌製剤の投与による、哺乳期及び離乳期の子豚の事故率(事故死率)低減作用、下痢抑制作用、肥育作用について検討した。
【0071】
試験は、母豚約400頭の中規模養豚農家(千葉県)にて実施した。同じ母豚から1回の分娩で生まれた子豚を1腹とし、6日間以内に産まれた1腹が7頭以上の場合の子豚のみを供試豚として採用した。群構成は、哺乳期は腹ごとに、非投与群8腹(n=81)、投与群7腹(n=79)、その後、離乳期は群分けにより15頭×4部屋に分け、非投与群(n=60)、投与群(n=60)で行った。子豚の品種は全てLWD種3元交雑種であった。なお、L種はランドレース種、W種は大ヨークシャー種、D種はデュロック種を示す。
【0072】
試験期間は哺乳期後期(生後14日目から40日目までの27日間)及び離乳期(生後41日目から88日目までの48日間)に分けて行った。分娩後子豚は腹ごとに分娩舎で飼育し、離乳(28日目)後、母豚のみを移動させた。41日目に離乳舎へ移動し、15頭ずつ4部屋に体重がほぼ同じになるよう群分けを行った。生後13日目までは母乳で飼育し、14日目からは母乳と市販の人工乳PH 5(日清丸紅飼料株式会社製)、28日目から人工乳のみ、41日目からは配合飼料カスタマーL(日清丸紅飼料株式会社製)に切り替え飼育した。子豚は常に自由飲水、不断給与で飼育した。
【0073】
製造例1で得られた乳酸菌FERM P−19169製剤を、哺乳期は人工乳に1重量%添加し、離乳期は配合飼料に0.1重量%添加し、自由摂取とした。
【0074】
子豚は、分娩時、離乳時、及び肥育舎移動時の3回体重を測定した。また、臨床症状は随時記録した。哺乳期に下痢が確認された時は、その子豚のいる豚房にスタローサンF(共立製薬社製)を適量撒き、床の乾燥と汚濁防止処理をすることで飼養環境を改善した。また、離乳期に何らかの臨床症状を示した子豚には、抗生物質(アンピシリン、カナマイシン)の注射により治療とした。さらに、試験終了時に各部屋から3頭ずつ、各群12頭から採血し、実施例1と同様にサイトカイン産生量を測定した。
【0075】
試験期間中の群ごとの事故率(圧死をのぞく)は図5に示す。試験期間75日間中、圧死以外の事故率は哺乳期において、非投与群(n=75)で3.9%、投与群(n=75)で1.3%、離乳期において、非投与群(n=60)で1.7%、投与群(n=60)で0%であった。投与群では非投与群に比べて、哺乳期の事故率が1/3に減少し、離乳期においても低い傾向がみられた。圧死以外の事故死は、虚弱や病気感染によるものが多いと考えられるため、投与群の圧死以外の事故率が減少したことは、子豚が健康に発育していたことが示唆された。
【0076】
哺乳後期における腹ごとの下痢発生率は表3に示す。下痢は哺乳期のみに確認された。1回でも下痢を発生した下痢発生率は、非投与群で75.5%だったのに対し、投与群では25.3%であり、投与群の下痢発生率は非投与群の約1/3に減少した。
【0077】
【表3】



【0078】
群ごとの体重変化は図6に示す。哺乳期では、非投与群(n=75)及び投与群(n=75)の体重増加には大きな差は認められなかったが、離乳期では、投与群(n=60)は非投与群(n=60)に対して、5.0%の体重増加が認められた。
【0079】
以上の結果から、乳酸菌Lactobacillus paracasei FERM P−19169の投与により、下痢の発生を抑制し、子豚の事故率を低減させる効果があることが示唆された。また、離乳期では投与群の体重が増加したのは、下痢の発生抑制効果により、子豚が健康に成長したためと推測された。
【0080】
試験終了時のサイトカイン分析の結果は図7に示す。図7より、TNF−α、IL−6ともに、投与群で減少している傾向が認められた。このことは、実施例1と同様に、炎症性サイトカインの過剰産生を抑制することでストレスを低減し、子豚の健康状態を安定して維持していることが示唆された。
【0081】
(実施例5)肥育豚への乳酸菌投与試験
乳酸菌製剤の投与による、肥育豚の死廃率(事故率と発育不良による淘汰率との合計)低減作用について検討した。
【0082】
試験は、母豚約400頭の中規模養豚農家(千葉県)にて実施した。肥育豚は、実施例4と同様に、群分けにより14〜15頭×4部屋に分け、非投与群(n=58)、投与群(n=59)で行った。試験豚は試験開始前に体重を測定しばらつきがないことを確認した。豚の品種は全てLWD種3元交雑種であった。なお、L種はランドレース種、W種は大ヨークシャー種、D種はデュロック種を示す。
【0083】
試験期間は肥育期(30kg到達時から出荷まで)の57日間行った。試験期間中は抗生物質を含まない配合飼料で飼育し、肥育前期(30kgから70kg)はステップB(JA東日本くみあい飼料株式会社)、肥育後期(70kgから出荷まで)はIP加茂C(JA東日本くみあい飼料株式会社)を使用した。肥育豚は常に自由飲水、不断給与で飼育した。試験中、豚丹毒とオーエスキー病のワクチンを接種した。
【0084】
製造例1で得られた乳酸菌FERM P−19169製剤を、投与群の配合飼料に0.1重量%添加した。
【0085】
試験期間中、肥育豚の臨床症状は随時記録し、事故死数、及び生育不良による移動頭数(淘汰数)も記録した。さらに、試験期間中に何らかの臨床症状を示した豚には、抗生物質等により治療を行った。試験開始後すぐ、投与群及び非投与群の両群に豚胸膜肺炎の感染が認められ、全頭に抗生物質(フロロコール)を飼料添加により5日間経口投与した他、必要な場合は注射による抗生物質治療を行った。
【0086】
試験終了までの死廃率(事故率と淘汰率との合計)の結果は図8に示す。試験終了までの事故率は、非投与群で5頭(8.6%)、投与群で3頭(5.1%)であり、淘汰率は、非投与群で2頭(3.5%)、投与群で1頭(1.7%)であった。死廃率は、非投与群で12.1%、投与群で6.8%であり、投与群の死廃率は、非投与群に比べて43.8%減少したことが分かった。このことは、Lactobacillus paracasei FERM P−19169が、感染防御効果を発揮すると共に、病原感染等による炎症性サイトカインの過剰産生を抑制し、安定的に健康状態を保つことができることが示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】哺乳期の子豚に対する乳酸菌FERM P−19169の投与による、離乳期における体重増加への影響を示す図である。
【図2】哺乳期の子豚に対する乳酸菌FERM P−19169の投与による、離乳期におけるサイトカインの産生への影響を示す図である。なお、AはTNF−αの産生への影響を示す図であり、BはIL−6の産生への影響を示す図である。
【図3】哺乳期の子豚に対する乳酸菌FERM P−19169の投与による、離乳期における模擬感染した場合のサイトカインの産生への影響を示す図である。なお、AはTNF−αの産生への影響を示す図であり、BはIL−6の産生への影響を示す図であり、CはIFN−γの産生への影響を示す図である。
【図4】肥育期の子豚における乳酸菌FERM P−19169の投与による肥育状態への影響を示す図である。なお、Aは肥育期間中の発育状況を示す図であり、Bは肥育期間中の1日の平均増体量を示す図である。
【図5】哺乳期及び離乳期の子豚における乳酸菌FERM P−19169の投与による事故率(圧死をのぞく)への影響を示す図である。
【図6】哺乳期及び離乳期の子豚における乳酸菌FERM P−19169の投与による体重変化への影響を示す図である。
【図7】哺乳期及び離乳期の子豚に対する乳酸菌FERM P−19169の投与による、試験終了時のTNF−α及びIL−6の産生への影響を示す図である。
【図8】肥育期の子豚における乳酸菌FERM P−19169の投与による死廃率への影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌FERM P−19169を有効成分とし、サイトカイン産生調節作用、感染防御作用、肥育作用又は下痢抑制作用に基づくストレス抑制剤。
【請求項2】
前記サイトカイン産生調節作用は、TNF−α、IFN−γ又はIL−6の産生抑制作用である請求項1記載のストレス抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載のストレス抑制剤を含む家畜用飼料添加剤。
【請求項4】
乳酸菌FERM P−19169を有効成分とするサイトカイン産生調節剤。
【請求項5】
TNF−α、IFN−γ又はIL−6の産生抑制剤である請求項4記載のサイトカイン産生調節剤。
【請求項6】
乳酸菌FERM P−19169を有効成分とする感染防御剤。
【請求項7】
乳酸菌FERM P−19169を有効成分とする肥育剤。
【請求項8】
乳酸菌FERM P−19169を有効成分とする下痢抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−102292(P2009−102292A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115656(P2008−115656)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(506148822)日本アルコール産業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】