説明

ストレス状態下におけるキシロース利用が改善されたザイモモナス(ZYMOMONAS)

ストレス状態における発酵中のキシロース利用およびエタノール生成が改善されたキシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株が、適応方法を使用して得られた。適応は、キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)を高濃度の糖、酢酸、アンモニア、およびエタノールを含有する培地中で連続的に成長させることを伴う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本明細書は、2008年12月22日に出願され、その全体を参照によって援用する米国仮特許出願第61/139852号明細書の優先権を主張する。
【0002】
米国政府の権利についての記述
本発明は、エネルギー省によって与えられた契約番号第04−03−CA−70224号、および米国エネルギー省と国立再生可能エネルギー研究所を管理運営するアライアンス・フォー・サステーナブル・エナジー社(Alliance for Sustainable Energy,LLC)との間の契約番号第DE−AC36−08GO28308号の下、米国政府の支援によってなされたものである。米国政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、微生物学および発酵の分野に関する。さらに具体的には、ストレス発酵条件下においてキシロース利用が改善されたザイモモナス(Zymomonas)株の開発について記載される。
【背景技術】
【0004】
微生物によるエタノールの生産は化石燃料の代替えエネルギー源を提供し、したがって最近の研究の重要な分野である。キシロースは加水分解リグノセルロース系材料中の主要な五炭糖であり、したがって豊富に入手できる低価格の炭素基質を提供し得るので、エタノールならびにその他の有用な生成物を産生する微生物は、炭素源としてキシロースを利用できることが望ましい。天然ではキシロースを利用しないザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)およびその他の細菌エタノロジェンは、以下をコードする遺伝子の導入によってキシロース利用について遺伝子改変してもよい。
1)キシロースからキシルロースへの転換を触媒するキシロースイソメラーゼ;
2)キシルロースをリン酸化してキシルロース5−ホスフェートを形成するキシルロキナーゼ;
3)トランスケトラーゼ;および
4)トランスアルドラーゼ。
【0005】
キシロース代謝のためのZ.モビリス(Z.mobilis)細胞の遺伝子操作における成功があった(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献1、非特許文献2)、ならびにザイモバクター・パルメ(Zymobacter palmae)株の遺伝子操作(非特許文献3)。 しかし典型的に、改変された株はキシロース上ではグルコース上のように成長せず、エタノールも産生しない。特許文献5、および同一譲受人の特許文献6に記載されるように、キシロース利用のために改変された株はキシロース培地上での連続継代培養によって適応されており、キシロース利用の改善された株がもたらされる。これらの改善は、キシロースイソメラーゼ遺伝子の発現を制御するpGAPプロモーターの発現を改善する、改変された配列に対する選択の結果であることが示されている。これらの配列、およびZ.モビリス(Z.mobilis)中の導入遺伝子の発現改善におけるそれらの使用法は、同一譲受人の特許文献7および8で開示される。
【0006】
生体触媒によってエタノールを生産する発酵培地のための再生可能な糖原料として、セルロース加水分解産物を使用することが所望される。前処理および糖化によって生物由来資源から生成するセルロース加水分解産物は、典型的に生体触媒成長および生産に有害な物質を含有する。例えば酢酸はセルロース加水分解産物中に存在する一般的な生成物であり、加水分解産物に慣例的に見られる濃度で、Z.モビリス(Z.mobilis)に対して阻害性であることが示されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5514583号明細書
【特許文献2】米国特許第5712133号明細書
【特許文献3】米国特許第6566107号明細書
【特許文献4】国際公開第95/28476号パンフレット
【特許文献5】米国特許出願第20030162271号明細書
【特許文献6】同時係属米国特許公開第2008/0286870−A1号明細書
【特許文献7】同時係属米国特許公開第2009/0246876−A1号明細書
【特許文献8】同時係属米国特許公開第2009/0246846−A1号明細書
【0008】
【非特許文献1】Feldmannら(1992年)Appl Microbiol Biotechnol 38:354〜361頁
【非特許文献2】Zhangら(1995年)Science 267:240〜243頁
【非特許文献3】ヤナセら(2007年)Appl.Environ.Mirobiol.73:2592〜2599頁
【非特許文献4】Ranatungaら(1997年)Applied Biochemistry and Biotechnology 67:185〜198頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
生物由来資源糖化を通じて生成する不純な糖原料によって課せられるストレスの存在下で、キシロース利用が最大化されているザイモモナス(Zymomonas)株、およびその他の細菌エタノロジェンに対する必要性がなおも残されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ストレス発酵条件下におけるキシロース利用が改善されたキシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株を得る方法、ならびにこの方法を使用して生成されるザイモモナス(Zymomonas)株を提供する。
【0011】
したがって本発明は、
a)1つ以上のキシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)細胞を提供するステップと;
b)(a)のキシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)細胞を少なくとも約50g/Lのキシロースを含んでなる補給増殖培地中で連続的に成長させ、それによってエタノールを含んでなる培養物が生成するステップと;
c)(b)の培養物に一定量のアンモニアと酢酸、または酢酸アンモニウムを添加し、それによってエタノールおよび酢酸アンモニウムを含んでなるストレス培養物が生成するステップと;
d)(c)のストレス培養物を連続的に成長させ、それによってキシロース利用が改善されたザイモモナス(Zymomonas)細胞を生じさせるステップと;
e)(d)の培養物から1つ以上の細胞を単離するステップと
を含んでなり、少なくとも1つ以上の単離された細胞が酢酸アンモニウムおよびエタノールの存在下において、(a)で提供されるキシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)細胞との比較で改善されたキシロース利用を示し、改善された細胞が株として成長する、改善されたキシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株を生成する方法を提供する。
【0012】
別の実施態様では本発明は、本明細書で開示される方法を使用して得られる、キシロース利用が改善されたザイモモナス(Zymomonas)細胞および株を提供する。
【0013】
さらなる実施態様では、本発明は、対応する非適応株が、利用可能キシロースの約5%、10%、15%、20%、25%、または最高約30%までを利用する条件下で、600nmで0.1 ODの細胞密度で開始した際に、例えばpHが5.8に調節された60g/Lのキシロース、80g/Lのグルコース、9.54g/Lのアセテートを含有する培地などの混合糖培地中の利用可能キシロースの少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%、または70%を使用する、ストレス発酵適応キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株である。
【0014】
さらなる実施態様では、本発明は、
a)改善されたストレス発酵適応キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株を提供するステップと;
b)a)の株を適切な発酵条件下で発酵培地と接触させ、エタノールを生成させるステップと;
c)任意にエタノールを単離するステップと
を含んでなる、エタノールを生成する方法を提供する。
【0015】
ストレス発酵適応細胞または株は、具体的にはエタノールおよび酢酸アンモニウムを含んでなる培地への適応に関して、本明細書中の適応処置によって提供されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ストレス発酵条件下でのキシロース利用が改善されたザイモモナス(Zymomonas)細胞(株に成長する)を生成および単離する方法について記載する。方法が適用されるザイモモナス(Zymomonas)細胞はキシロース利用細胞であり、本発明に従ってそれを酢酸アンモニウムおよびエタノールストレス条件下で連続的に成長させ、ストレス発酵適応キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株を生じさせる。本発明はまた、本方法を使用して単離され、ストレス発酵条件下において、連続成長過程前の同一株の細胞との比較で、投入キシロースをより高い百分率で利用する、ストレス発酵適応キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株も対象とする。ストレス発酵適応株は、糖を発酵させてエタノールを生成する方法で使用してもよい。本ストレス発酵適応ザイモモナス(Zymomonas)株によって生成されるエタノールは、化石燃料の代替えエネルギー源として使用してもよい。
【0017】
明細書および特許請求の範囲を解釈するために、以下の略語および定義を使用する。
【0018】
本明細書での用法では、「含んでなる(comprises)」、「含んでなる(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含有する(contains)」または「含有する(containing)」と言う用語、またはあらゆるその他のバリエーションは、非排他的包含をカバーすることが意図される。例えば要素の一覧を含んでなる、組成物、混合物、プロセス、方法、物品、または装置は、必ずしもそれらの要素だけに限定されず、明示的に列挙されないその他の要素、またはこのような組成物、混合物、プロセス、方法、物品、または装置に固有のその他の要素を含んでもよい。さらに特に断りのない限り、「または」は排他的論理和でなく包含的論理和を指す。例えば条件AまたはBは、以下のいずれか1つによって満たされる。Aが真であり(または存在し)Bが偽であり(または存在せず)、Aが偽であり(または存在せず)Bが真であり(または存在し)、AおよびBの双方が真であり(または存在する)。
【0019】
また本発明の要素または構成要素に先立つ不定冠詞「a」および「an」は、要素または構成要素の事例(すなわち発生)数に関して非制限的であることが意図される。したがって「a」または「an」は、1つまたは少なくとも1つを含むと解釈すべきであり、要素または構成要素の単数形は、数値が明らかに単数を意味する場合を除き、複数もまた含む。
【0020】
本明細書での用法では「連続的に成長させる」とは、細胞が成長し続けて生成物を生じられるように、新しい培地を投入して溶出物を流出させて成長させることを指す。
【0021】
本明細書での用法では「ストレス培養物」とは、培養中で使用される生体触媒にストレスを引き起こす物質を培地中に含む培養物を指す。生体触媒のストレスは、ストレスを引き起こす物質のない発酵で使用される生体触媒の機能と比較して、成長速度低下、生成物産生低下、炭水化物利用低下、またはその他の困難さとして認識されてもよい。特に興味深いのは、エタノール生成のための糖利用に影響を及ぼすザイモモナス(Zymomonas)株に対するストレッサーである。このようなストレッサーとしては、アセテート、アンモニア、およびエタノールの存在が挙げられる。さらなる関心対象は、このようなストレッサーがエタノール生成のためのキシロース利用に及ぼす影響である。
【0022】
本明細書での用法では「キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)細胞)」とは、遺伝子改変されて、発酵のための炭水化物源としてキシロースを利用する能力を与える酵素を発現する株の細胞を指す。
【0023】
本明細書での用法では「対応する非適応株」とは、本明細書で開示されるストレス適応過程を使用して、改善された株がそれから生じる株である、キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)原株を指す。
【0024】
本明細書での用法では「補給増殖培地」とは、連続培養容器に添加される培地を指す。
【0025】
本明細書での用法では「生物由来資源加水分解産物」および「セルロース加水分解産物」とは、典型的に前処理および糖化過程を通じて、セルロース系材料である生物由来資源から生じる生成物を指す。発酵性糖は、加水分解産物ならびにその他の生成物中に存在する。
【0026】
キシロース利用の増大
出願人らは、キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株をストレス状態下における連続的成長を伴う過程を通じて株を適応させることで、ストレス発酵条件下で増大する量のキシロースを利用するようにできることを発見した。キシロース利用の増大は、本明細書に記載される適応過程を受けていないキシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株によるキシロース利用と比較される。本明細書でザイモモナス(Zymomonas)株の適応中に使用されるストレス状態は、生物由来資源の加水分解産物を含んでなる培地中でザイモモナス(Zymomonas)株を成長させる場合に存在するのと類似した、ストレス状態を提供する。したがって本適応株は、生物由来資源の加水分解産物を含んでなる培地中で成長する際にキシロース利用が増大していてもよく、それによってより効率的な成長と生成物の形成を提供する。
【0027】
炭素源としてキシロースを利用できるあらゆるザイモモナス(Zymomonas)株が、本方法で適応のために提供される原株または出発株であってもよく、本発明に従って改善されたキシロース利用を示すストレス発酵適応キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株を調製するために使用される。キシロースからエタノールへの発酵について改変されたZ.モビリス(Z.mobilis)などのザイモモナス(Zymomonas)株が、特に有用である。内在性遺伝子は、代謝経路の一部を提供してもよく、またはキシロース代謝に有用な酵素活性があるタンパク質を提供する、あらゆる既知の遺伝的操作技術によって改変されていてもよい。例えば内在性トランスケトラーゼが、キシロース利用経路の創出において、その他の導入酵素活性を補完してもよい。参照によって本明細書に援用する米国特許第5514583号明細書に記載されるように、キシロース代謝に関与する4種の酵素の発現のために、Z.モビリス(Z.mobilis)などのザイモモナス(Zymomonas)株に典型的に4個の遺伝子を導入してもよい。これらにはキシロースからキシルロースへの転換を触媒するキシロースイソメラーゼ、およびキシルロースをリン酸化してキシルロース5−ホスフェートを形成するキシルロキナーゼをコードする遺伝子が含まれる。さらに五炭糖ホスフェート経路の2種の酵素であるトランスケトラーゼおよびトランスアルドラーゼはキシルロース5−ホスフェートを中間体に転換し、それは五炭糖代謝を解糖作用エントナー−ドウドロフ経路に連結して、キシロースからエタノールへの代謝を可能にする。これらの酵素をコードするDNA配列は、腸内細菌、そして一部の酵母および真菌などのキシロースを代謝できる多数の微生物のいずれかから得てもよい。コード領域の起源としては、キサントモナス属(Xanthomonas)、クレブシエラ(Klebsiella)、エシェリキア(Escherichia)、ロドバクター(Rhodobacter)、フラボバクテリウム(Flavobacterium)、アセトバクター(Acetobacter)、グルコノバクター(Gluconobacter)、リゾビウム(Rhizobium)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、サルモネラ(Salmonella)、シュードモナス菌(Pseudomonads)、およびザイモモナス(Zymomonas)が挙げられる。特に有用なのは、大腸菌(E.coli)のコード領域である。
【0028】
コードするDNA配列は、Z.モビリス(Z.mobilis)グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素のプロモーター(GAPプロモーター)、およびZ.モビリス(Z.mobilis)エノラーゼのプロモーター(ENOプロモーター)などのZ.モビリス(Z.mobilis)細胞中で発現されるプロモーターと作動的に連結する。コード領域はプロモーターから個々に発現されてもよく、または2つ以上のコード領域がオペロン中で連結して同一プロモーターから発現されてもよい。得られたキメラ遺伝子は、ザイモモナス(Zymomonas)に導入してプラスミド上に維持してもよく、または例えば相同的組換え、部位特異的組み込み、またはランダム組み込みを使用して、ゲノムに組み込んでもよい。特定用途があるキシロース利用株としては、ZM4(pZB5)(参照によって本明細書に援用する米国特許第5514583号明細書、米国特許第6566107号明細書、および米国特許第55712133号明細書に記載される)、8b(米国特許公開第20030162271号明細書;Mohagheghiら,(2004年)Biotechnol.Lett.25;321〜325頁)、ならびにZW658(ATTCC#PTA−7858)、ZW800、ZW801−4、ZW801−5、およびZW801−6(参照によって本明細書に援用する同一譲受人の同時係属米国特許公開第2008−0286870−A1号明細書)が挙げられる。
【0029】
天然の基質でないその他の糖を利用するようにさらに改変されたザイモモナス(Zymomonas)株もまた、本過程で使用してもよい。一例は、参照によって本明細書に援用する米国特許第5843760号明細書に記載されるアラビノース利用のために改変されたZ.モビリス(Z.mobilis)株である。
【0030】
適応方法
本方法では、ストレス発酵条件下において、キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株(上述のような出発株または原株)を、キシロースを含んでなる培地中で連続的に成長させる。培地は唯一の糖としてキシロースを含有してもよく、またはそれはキシロースと、グルコースなどのその他の糖との混合物を含有してもよい。好ましいのは、例えばそれぞれ少なくとも約50g/Lのキシロースおよびグルコースなどの培地中の高い糖濃度である。片方または双方の糖がより多量にあってもよい。
【0031】
キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)原株を最初にストレス状態なしに連続的に生育させ、エタノールを生成させる。連続培養を維持する希釈率で、補給増殖培地を添加する。典型的に培養物は安定化し、それには約9〜12日間かかるかもしれないが、培養物によっては安定化により長期間を要するかもしれない。安定化は、発酵槽からの溶出物中で測定されるOD600、糖利用、およびエタノール生成に関するものである。安定化培養物中のエタノールは、約18g/L、22g/L、40g/L以上のレベルで生成されてもよい。次に追加的構成要素を発酵培地に添加して、ザイモモナス(Zymomonas)細胞の代謝にストレス状態を引き起こす。これらの構成要素は、培養物の安定化直後に添加しても、または安定条件下で培養物がさらに長時間発酵した後に添加してもよい。ストレッサーとして添加してもよい構成要素としては、酢酸アンモニウムを含有する培地をもたらすアンモニアと酢酸、または酢酸アンモニウムが挙げられる。発酵培地中の酢酸アンモニウムおよびエタノールの存在はザイモモナス(Zymomonas)細胞にストレスを与え、それは典型的にOD600の低下、キシロース利用の低下、およびエタノール生成の低下を引き起こす。希釈率を増大または低下させて、OD600、キシロース利用、およびエタノール濃度を操作してもよい。ストレス状態下の培養物を連続的に成長させる。ストレス培養物の連続発酵中に、より多くのアンモニアと酢酸、または酢酸アンモニウムを少なくとも1回以上添加してもよい。発酵培地中の酢酸アンモニウム濃度を段階的に徐々に増大させるなど、添加は2回以上であってもよい。
【0032】
アンモニアおよび酢酸を当初は酢酸アンモニウムとして添加して、約24mMの酢酸アンモニウムまたは約48mMの酢酸アンモニウムの濃度を達成してもよい。アンモニアと酢酸、または酢酸アンモニウムを1回以上の増大で添加して、約64mM〜210mMの酢酸アンモニウム濃度を達成してもよい。典型的にアンモニアと酢酸、または酢酸アンモニウムを経時的に4段階以上で添加して、ストレス培養の発酵培地中の濃度を徐々に増大させる。ストレス培養物中のエタノールはザイモモナス(Zymomonas)細胞によって生成され、生成速度に応じて変動してもよく、典型的にエタノールは約13g/L〜54g/Lである。OD600は変動してもよく、典型的に約1.5〜約4.8である。
【0033】
約2ヶ月以上の総連続発酵期間に続いて、適応ザイモモナス(Zymomonas)株をストレス培養物から単離してもよい。サンプルを培養物から採取してプレート上に画線塗抹し、コロニーを単離してもよく、または培養物中で成長させて次にプレート上に画線塗抹し、コロニーを単離してもよい。個々のコロニーからの細胞は、高い糖濃度、アンモニアおよびアセテートを含有する培地中で、単離された細胞または細胞から成長した株がキシロースを利用し、エタノールを生成する能力について試験する。エタノールは、適応ザイモモナス(Zymomonas)細胞によって培養物中に生成される。適応前の原株または出発キシロース利用株との比較で、キシロース利用の増大およびエタノール生成の増大を示す株を試験された単離株中で同定する。当業者は、異なる単離株中で、利用されるキシロースおよび生成するエタノール量に多様性があることを十分承知している。しかしキシロース利用およびエタノール生成が増大している株は、ストレス発酵培養物からの分離株中で容易に識別可能であり、認識される。
【0034】
適応株
本明細書で開示されるのは、キシロース利用が改善された、ストレス発酵適応キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株である。これらの株は、発酵培地がエタノール、酢酸アンモニウム、および高い糖濃度を含有するストレス状態で成長した際に、対応する非適応株との比較で、少なくとも約12%のキシロース利用の増大によって特徴付けられてもよい。適応株は、少なくとも約12%、17%、20%、25%、または30%さらに多くのキシロースを利用してもよい。これらの特徴を有するキシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株は、開示される方法を使用して慣例的に単離してもよい。キシロース利用の量は、原株、発酵条件、および特定適応株それ自体をはじめとする要因に左右される。
【0035】
培地が60g/Lのキシロース、80g/Lのグルコース、9.54g/Lのアセテート、および160mMのNHOHを含有する、本明細書の実施例3に記載される一連の条件下では、600nmで0.1 ODの細胞密度で出発した場合、原株が約17%のキシロースを利用するのに対し、改善された適応株は、少なくとも約70%、80%、85%、または89%のキシロースを利用できる。様々な条件下では、適応株は、本明細書に記載されるストレス発酵によって適応されていない株による30%以下と比較して、少なくとも約40%、45%、50%、55%、60%、65%または70%のキシロースを利用してもよい。
【0036】
本発明の適応株は、糖を発酵してエタノールなどの発酵産物を生成するために使用してもよい。株は、ストレス発酵条件を提供する構成要素を含有する、生物由来資源の加水分解産物を含有する培地中での発酵に、特に有用である。リグノセルロース性生物由来資源は典型的に、発酵性糖を生成する特定方法の対象である。これらの方法は、予備加工、前処理、および糖化を含んでもよい。予備加工は、生物由来資源が前処理をより被りやすくするあらゆる措置である。前処理は、生物由来資源が糖化をより被りやすくするあらゆる処理である。糖化は、生物由来資源炭水化物を加水分解して発酵性糖にする、あらゆる処理を含む。発酵性糖は、生体触媒が発酵のために利用し得る単糖類およびオリゴ糖類を含む。生物由来資源を予備加工および前処理するために、予備加工なしおよび/または前処理なしをはじめとするあらゆる一般に知られている方法を使用してもよい。酵素加水分解および/または自己または化学加水分解をはじめとする利用のために糖を使用できるように、一般に知られている糖化技術を用いて発酵のための加水分解産物を生成してもよい。例えば同一譲受人の同時係属米国特許公開第2007/0031918−A1号明細書に記載されるように、生物由来資源を前処理して糖化してもよい。
【0037】
エタノール生成のための発酵
エタノール生成のために、キシロースをはじめとする混合糖を含有する培地に、本発明のザイモモナス(Zymomonas)株を接触させる。成長が阻害される程に混合糖濃度が高い場合、培地はソルビトール、マンニトール、またはそれらの混合物を含んでもよい。ガラクチトールまたはリビトールがソルビトールまたはマンニトールを置換してもよく、またはそれと組み合わせられてもよい。ザイモモナス(Zymomonas)は、発酵が起きてエタノールが生成される培地中で成長する。(嫌気性、微有酸素性、または微好気性発酵などの条件を含んでもよい)発酵は、空気、酸素、またはその他のガスの補給なしに少なくとも約24時間実施され、30時間以上実施されてもよい。最大のエタノール生成に達するタイミングは、発酵条件次第で変動する。典型的に、培地中に阻害物質が存在する場合、より長時間の発酵期間が必要である。発酵はpH約4.5〜約7.5において、約30℃〜約37℃の温度で実施されてもよい。
【0038】
キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)(Z.モビリス(Z.mobilis)など)は、実験室規模の発酵槽内において、および商業的量のエタノールが生産される大規模発酵内において、キシロースをはじめとする混合糖を含有する培地中で成長してもよい。エタノールの商業生産が所望される場合、本明細書に記載される適応株を使用してエタノールを生成するために、多様な培養法を応用してもよい。例えば大規模生産は、バッチおよび連続培養法の双方によって実施してもよい。古典的バッチ培養法は閉鎖系であり、培地組成は培養開始時に設定され、培養過程において人為的改変を受けない。したがって培養工程開始時に、培地に所望生物を接種して、何も添加することなく成長または代謝活動が起きるようにする。しかし典型的に「バッチ」培養物は炭素源の添加に関するバッチであり、pHおよび酸素濃度などの要素を調節することが頻繁に試みられる。バッチシステムでは、システムの代謝産物および生物由来資源組成物は、培養物の終結時まで常に変化する。バッチ培養内では、静止遅滞期から高成長対数期、最後に成長速度が低下しまたは停止する定常期を通過して細胞は弱まる。処置しなければ、定常期の細胞は最終的に死滅する。対数期の細胞は、システムによっては最終産物または中間体生成の大半に関与することが多い。その他のシステムでは、静止期または対数期後の生成も得られる。
【0039】
標準バッチシステムの変法が、流加システムである。流加培養法はまた、本株の成長にも適しており、培養の進行中に基質を増大させて添加することを除いては、典型的なバッチシステムを包含する。流加システムは、異化代謝産物抑制が細胞代謝を阻害する傾向があり、培地中に限定量の基質を有することが望ましい場合に有用である。流加システム中の実際の基質濃度の測定は困難であり、したがってpHや、COなどの廃ガスの分圧などの測定可能要素の変化に基づいて推定される。バッチおよび流加培養法は一般的であり、当該技術分野で良く知られており、例は参照によって本明細書に援用するBiotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology,Crueger,Crueger,およびBrock,第2版(1989年)Sinauer Associates,Inc.,Sunderland,MA;またはDeshpande,MukundV.,Appl.Biochem.Biotechnol.,36,227頁,(1992年)にある。
【0040】
エタノールの商業生産はまた、連続培養でも達成される。連続培養は開放系であり、規定培養液がバイオリアクターに連続的に添加され、等量の馴化培地が処理のために同時に除去される。連続培養は一般に一定の高液相密度に細胞を保ち、そこでは細胞は主として対数成長期にある。代案としては、固定化細胞を用いて連続培養を実施してもよく、そこでは炭素および栄養素が連続的に添加され、価値ある生成物、副産物または老廃物が細胞集団から連続的に除去される。細胞固定化は、当業者に知られているように、天然および/または合成材料から構成される多様な固体担体を使用して実施してもよい。
【0041】
連続または半連続培養物は、細胞成長または最終産物濃度に影響を及ぼす1つの要素またはいくつもの要素を調節できるようにする。例えば一方法では、炭素源または窒素レベルなどの制限的栄養物質を定率に保ち、その他の全てのパラメーターを調節できるようにする。他のシステムでは、培地濁度によって測定される細胞濃度を一定に保ちながら、成長に影響を及ぼすいくつかの要素を連続的に改変し得る。連続系は定常状態成長条件を維持しようと努力し、したがって培地が取り除かれることによる細胞損失は、培養中の細胞成長速度に対する平衡を保たなくてはならない。連続培養法のために栄養素および成長因子を調節する方法、ならびに生成物形成速度を最大化する技術は、工業微生物学の技術分野で良く知られており、多様な方法がBrock、前出で詳述されている。
【0042】
特にエタノール生成に適しているのは、次のような発酵計画である。所望の適応株を軌道振盪機内で約150rpmで振盪しながら約30℃〜約37℃で振盪フラスコ内の半天然培地中で成長させ、次に同様の培地を含有する10Lの種発酵槽に移す。OD600が3〜6になるまで種培養物を種発酵槽内で嫌気的に成長させ、その時点で発酵パラメーターがエタノール生成のために最適化されている生産発酵槽に移す。種タンクから生産タンクに移される典型的な接種菌液体積は、約2%〜約20%v/vの範囲である。典型的な発酵培地は、リン酸カリウム(1.0〜10.0g/l)、硫酸アンモニウム(0〜2.0g/l)、硫酸マグネシウム(0〜5.0g/l)、酵母抽出物またはダイズベース製品などの複合窒素源(0〜10g/l)などの最少培地構成要素を含有する。培地中には、最終濃度約5mMのソルビトールまたはマンニトールが存在する。最初にバッチ添加された炭素源(50〜200g/l)が枯渇したら、炭素源を提供する、キシロースとグルコース(またはスクロース)などの少なくとも1つの追加的糖とを含む混合糖を発酵容器に連続的に添加して、エタノール比率および力価を最大化する。炭素源供給速度は動的に調節し、酢酸などの有毒副産物の蓄積をもたらし得る過剰なグルコースを培養物が蓄積しないことを確実にする。利用される基質から生成するエタノール収率を最大化するために、生物由来資源成長は、最初にバッチ添加されるかまたは発酵過程において供給されるかのどちらかであるホスフェート量によって制限される。発酵は、苛性溶液(水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、または水酸化ナトリウムなど)および硫酸またはリン酸のどちらかを使用して、pH5.0〜6.0に調節される。発酵槽の温度は、30℃〜35℃に調節される。気泡を最小限にするため、必要に応じて容器に消泡剤(シリコーンベース、有機ベースなどのあらゆる種類)を添加する。それに対する抗生物質抵抗性マーカーが株中にある、カナマイシンなどの抗生物質を使用して、任意に汚染を最小化してもよい。
【0043】
上述のあらゆる条件の組、さらに当業者に良く知られているこれらの条件のバリエーションが、本発明の適応キシロース利用ザイモモナス(Zymomonas)株によるエタノール生成のための適切な条件である。
【0044】
発酵中に生成されるエタノールは、当該技術分野で知られている様々な方法を使用して回収してもよい。特定例としては、生物生産されたエタノールをABE発酵について当該技術分野で知られている技術を使用して、発酵培地から単離してもよい(例えばDurre,Appl.Microbiol.Biotechnol.49:639〜648頁(1998年);Grootら,Process.Biochem.27:61〜75頁(1992年)、およびその中の参考文献を参照されたい)。例えば遠心分離、濾過、デカンテーションなどによって、発酵培地から固形物を除去してもよい。次に蒸留、共沸性蒸留、液体−液体抽出、吸着、ガスストリッピング、膜蒸発、または浸透気化法などの方法を使用して、発酵培地からエタノールを単離してもよい。
【実施例】
【0045】
本発明を以下の実施例でさらに定義する。これらの実施例は、本発明の好ましい実施態様を示しながら、例証の目的でのみ提供されるものと理解すべきである。上の考察およびこれらの実施例から、当業者は本発明の本質的特徴を見極め得て、その範囲と精神を逸脱することなく本発明に様々な変更および修正を施して、それを様々な用途および条件に適応させ得る。
【0046】
略語の意味は次のとおり「hr」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「sec」は秒を意味し、「d」は日を意味し、「L」はリットルを意味し、「ml」はミリリットルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「ng」はナノグラムを意味し、「g/L」はリットルあたりグラム数を意味し、「mM」はミリモル濃度を意味し、「μM」はマイクロモル濃度を意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「μmol」はマイクロモルを意味し、「pmol」はピコモルを意味し、「OD600」は600nmで測定される光学濃度を意味する。
【0047】
一般方法
HPLC法
分析は、Agilent 1100シリーズHPLCおよびLC 3D用Agilent ChemStationソフトウェアを用いて実施した。カラムは、BioRad
Micro−Guard Cartridge Cation−H(125−0129)を使用した、BioRad Aminex HPX−87H(HPLC Organic Analysis Column 125−0140)であった。操作条件は次のとおりであった。
流量:0.6mL/分
溶媒:0.01N HSO
停止時間:25分
注入量:5μL
オートサンプラー:10℃または4℃で温度調節
カラム温度:55℃
検出器:屈折率(40℃)
外部標準較正曲線使用
【0048】
実施例1
ザイモモナス(Zymomonas)のストレス発酵への適応
Z.モビリス(Z.mobilis)株ZW801−4の培養物を次のようなストレス条件下で成長させた。ZW801−4は、参照によって本明細書に援用する同一譲受人の同時係属米国特許公開第2008/0286870−A1号明細書に記載されるZ.モビリス(Z.mobilis)の組み換えキシロース利用株である。株ZW801−4は株ZW800に由来し、それは株ZW658に由来し、それらは全て米国特許出願第11/862566号明細書に記載される。ZW658は、逐次遺伝子転位事象と、それに続くキシロースを含有する選択培地上での適応を通じて、キシロースイソメラーゼ、キシルロキナーゼ、トランスアルドラーゼ、およびトランスケトラーゼをコードする4つのキシロース利用遺伝子を含有するPgapxylABおよびPgaptaltktの2つのオペロンをZW1(ATCC#31821)のゲノムに組み込んで構築された。ZW658はATCC#PTA−7858として寄託された。ZW658中で、宿主媒介二重交叉相同的組換えを使用し、スペクチノマイシン抵抗性を選択可能なマーカーとして、グルコース果糖酸化還元酵素をコードする遺伝子を挿入性に不活性化して、ZW800を作り出した。loxP部位によって結合するスペクチノマイシン抵抗性マーカーをCreリコンビナーゼを使用した部位特異的遺伝子組み換えによって除去し、ZW801−4を作り出した。
【0049】
250mlの撹拌されるpHおよび温度調節発酵槽(Sixfors;Bottmingen,Switzerland)内で、ZW801−4の連続培養を実施した。成長のための基礎培地は、5g/Lの酵母抽出物、15mMのアンモニウムホスフェート、1g/Lの硫酸マグネシウム、および10mMのソルビトールであった。出発培養物の温度を33℃、pHを5.8に調節した。4種の培養を開始した。基礎培地+各50g/Lのグルコースおよびキシロースを2種(発酵槽F1CおよびF4B)、基礎培地+100g/Lのグルコースおよび80g/Lのキシロースを1種(発酵槽F2B)、および基礎培地+50g/Lのキシロース(後に80g/lキシロースに増大させた)を1種(F6)。全ての培養は、酢酸アンモニウムの添加なしに0.1のOD600で開始した。一般方法に記載されるように、下述する時点で溶出物をエタノール、キシロース、およびグルコースについてHPLCによって分析した。酢酸アンモニウムを添加した基礎培地をストレス培地として使用し、下の説明では、基礎培地中に存在する濃度を超える濃度の酢酸アンモニウムを使用する。
【0050】
F6発酵槽は、0.065h−1の希釈率で連続的に稼働させた。培養12日目に、溶出物は約18g/Lのエタノール、ほぼ完全なキシロース利用、および約3.8のOD600で安定化して、希釈率を0.9h−1に増大させながら21日目まで一定に保たれた。21日目に酢酸アンモニウムを添加して、基礎培地+キシロース供給中に24mMを与えた。キシロースの出口濃度は10g/Lに増大し、OD600は1.5に低下し、エタノール濃度は14g/Lに低下した。希釈率は0.045h−1に低下した。希釈率低下後、溶出物中のキシロースはほぼ0に低下して、エタノールは20g/Lに増大し、OD600は2.4に増大した。30日目に、酢酸アンモニウム濃度を32mMに増大させた。溶出物中のキシロースおよびエタノール濃度は一定のままであったが、OD600は1.8に低下した。35日目に培養物の酢酸アンモニウム濃度を40mMに増大させた。培養条件を50日目まで保って、キシロース濃度を80g/Lに増大させた。キシロース濃度が増大するとエタノール濃度は30g/L±4g/Lに増大し、希釈率を0.08h−1に増大させてOD600を4に保った。酢酸アンモニウム濃度を71日目および78日目に2段階の等増分で増大させて、48mMの酢酸アンモニウムを与えた。酢酸アンモニウム増大に伴う、希釈率またはキシロースおよびエタノールの出口濃度の変化はなかった。アンモニウムおよびアセテート濃度を2段階の等増分で92日目に64mMにさらに増大させた。希釈率とエタノール濃度は一定のままであったが、OD600は98日目に1.5に低下した。細胞は凝集するようになった。培養物を清潔な発酵槽に移した。OD600を3.8に上昇させた。酢酸アンモニウム濃度を2段階の等増分で104日目に80mMに増大させた。残留キシロース濃度は3g/Lに増大した。酢酸アンモニウム濃度を10段階の等増分で最終濃度160mMに増大させながら、連続培養を205日目まで実施した。pHは5.8に保った。OD600は1.4〜4のままであり、残留キシロース濃度は2〜7g/Lの間で変動した。
【0051】
F2B発酵槽は25日間にわたり調節が困難であり、約3〜8のOD600、0〜30g/Lのグルコース、20〜50g/Lのキシロース、および22〜70g/Lのエタノールの間で変動した。グルコース変動は25日目以降に減衰し、5〜6g/Lで安定化した。このグルコース濃度、および0.04h−1の希釈率を40日目まで保った。43日目に培養物を清潔な発酵槽に移したところ、グルコースの変動が8日間にわたり再発したが、その後、76日間の培養を通じて希釈率0.065h−1で4g/Lのグルコース、30g/L±3g/Lのキシロース、および60g/Lのエタノールに戻った。
【0052】
発酵槽F1Cは、培養10日目に、非常に低いグルコースおよびキシロース、40g/Lのエタノール、OD600 6、および希釈率0.07h−1で安定化した。酢酸アンモニウムを48mMで添加した。キシロース濃度は6g/Lに増大し、希釈率は0.08h−1に増大した。酢酸アンモニウムを15日目〜23日目にかけて4段階の等増分で80mMに増大させた。培養物を41日目および69日目に清潔な発酵槽に移した。酢酸アンモニウム濃度を97日目までに段階的に160mMに増大させる間、希釈率は0.08〜0.1h−1に保った。酢酸アンモニウム濃度を増大させた期間中に、OD600は3.6〜5.3、エタノール濃度は39〜45g/L、およびキシロース濃度は0〜8g/Lであった。酢酸アンモニウム含有培地への水酸化アンモニウムの添加によって、アンモニウム濃度を段階的にさらに210mMに増大させ、リン酸を添加して139日目までpHを5.8に保った。この期間中、OD600は約3.2に低下してエタノール濃度は約51g/Lに増大し、残留キシロース濃度は2.2g/Lであった。
【0053】
発酵槽F4Bもまた、基礎培地および各50g/Lのグルコースおよびキシロースで開始して、pHは5.8に保った。これは9日目に40g/Lのエタノール、希釈率0.1h−1、および非常に低いグルコースおよびキシロースで安定化した。酢酸アンモニウム濃度を12日目に48mMにした。希釈率を0.07h−1に低下させてODおよび糖利用を維持し、酢酸アンモニウムを22日目までに2段階の等増分で64mMに増大させた。希釈率は28日目まで変動し、残留キシロースも同様であった。酢酸アンモニウムを43日目までに4段階の等増分で96mMに増大させる間、希釈率は0.082で一定のままであった。この期間内に、エタノール濃度は約42g/Lにわずかに増大し、OD600は約4.8から3.5に低下した。51日目に80g/Lのグルコースおよび60g/Lのキシロースおよび96mMの酢酸アンモニウムを添加した基礎培地に、供給を変更した。エタノール濃度は日毎にいくらか変動しながら、41から51g/Lに増大した。70日目までに残留キシロースは16g/Lに増大し、希釈率は0.09h−1、OD600は約4.9で安定化した。酢酸アンモニウムを126日目までに8段階の等増分で160mMの濃度に添加した。希釈率とOD600が一定のままである間、エタノール濃度は63g/Lに増大した。
【0054】
培養槽F1Cでは、アンモニウム濃度を段階的にさらに210mMに増大させ、リン酸を添加して168日目までpHを5.8に保った。希釈率は0.08h−1に保った。この期間中、OD600は3.7〜5.6の間で変動し、エタノール濃度は約63g/Lに増大し、残留キシロース濃度は18g/Lであった。培養物をこの条件に8日間保ち、次にさらに7日間pHを5.65に保った。エタノールおよびキシロース濃度が比較的一定を保つ間、OD600は3.5に低下した。
【0055】
実施例2
適応連続培養発酵槽に由来する培養物の評価
連続適応培養からのサンプルは、最初に発酵槽F1Cから74日目に、発酵槽F4Bから69日目に、発酵槽F6から78日目に採取し、また最初の試料採取後の様々な時点で採取した。全て−80℃で保存し、試験のためにRMG5培地中で復活させた。種培養物は、基礎培地+75g/Lグルコースおよび25g/Lキシロース中で、OD600が4.5になるまで33℃で生長させた。
【0056】
試験のための基礎培地は、5g/Lの酵母抽出物、15mMのリン酸水素二アンモニウム、1g/Lの硫酸マグネシウム、10mMのソルビトール、および4g/Lの炭酸水素カリウムであった。炭素源は、80g/Lのグルコースおよび60g/Lのキシロースであった。培地は低ストレス対照のためにそのまま、または80mM、120mMまたは160mMの酢酸アンモニウムを添加して、リン酸でpHを5.8に調節して使用した。
【0057】
発酵体積は100mlであり、発酵は120rpmで振盪しながら33℃で実施した。種増殖培地から調製された細胞を0.1の出発OD600に添加にして、成長を開始した。種増殖培地からの細胞を遠心分離によって収集し、試験培地で洗浄した。600nmでのODによって成長をモニターした。エタノール、キシロース、およびグルコースは全てHPLCによってモニターした。適用培養を開始するのに使用したZW801−4株を対照として使用した。
【0058】
3種の適応培養物は全て酢酸アンモニウム非添加培地上で成長し、ZW801−4と同率でグルコースを使用した。160mMの酢酸アンモニウムでは、ZW801−4が長期にわたる誘導期後に成長したのに対し、3種の適応培養物は全て42時間以内に全部のグルコースを使用した。
【0059】
全ての培養物が酢酸アンモニウム非添加培地中の60g/Lのキシロースを同様の速度で使用した一方、3種の適応培養物は120mMの酢酸アンモニウム添加培地中のキシロースを46時間以内に全部利用したが、ZW801−4では60時間を要した。
【0060】
連続発酵槽のさらなる適応時間において、バルク試験手順を繰り返した。
【0061】
実施例3
単離された適応株の性能
グルコース含有プレート上に播種することで単一コロニーを単離し、表1に示す様々な段階の適応培養物からの純化株を成長させるのに使用した。160mMの酢酸アンモニウム中での培養物全体の試験について記載される培地および条件を使用して、単一コロニー由来株を試験した。
【0062】
種培養物は、75g/Lのグルコースおよび25g/Lのキシロースを添加した上述のDP1培地中で成長させた。種培養物を0.1の初期OD600nmに添加して、混合糖試験発酵を開始した。初期pHは5.8であった。温度は33℃で、100mlの培養物を振盪機恒温器内で120rpmで撹拌した。
【0063】
ZW801−4は、連続適応培養物から単離された異なる株を試験した各一連の発酵で、非適応培養物対照として使用した。初回試験でF4B発酵槽から単離され、高レベルの酢酸アンモニウム存在下でZW8014非適応株と比較して試験すると、繰り返しより多くのキシロースを利用してより多くのエタノールを生成する、NS1302−2と命名された第2の株を各一連の試験発酵で陽性対照として使用した。
【0064】
株は全て混合糖発酵中に全部のグルコースを44時間以内に使用したが、全て異なる残留キシロース量を有したので、発酵44時間目の残留キシロースをストレス状態に対する適応の指標として使用した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
NS1369、NS1370、NS1372、NS1373、およびNS1375株は全て、ZW801よりも少量のキシロースを残し、陽性対照、NS1302と同様に機能した。参照によって本明細書に援用する同一譲受人の同時係属米国特許公開2007/0031918−A1に全て記載されるように、希釈アンモニアおよび熱処理によって前処理され、次に25%の前処理トウモロコシ穂軸固形分、pH5.3および48℃で96時間、セルラーゼおよびヘミセルラーゼ酵素製剤の混合物によって酵素的に加水分解された粉砕トウモロコシ穂軸から生成された60体積%の加水分解産物を含有する培地中でさらに評価するために、それらを選択した。得られた加水分解産物中の主要な糖およびアセテート濃度は次のとおりであった。
グルコース:62.3g/L
キシロース:40.2g/L
アラビノース:5.7g/L
セロビオース:9.6g/L
アセテート:6.4g/L
残る40%の試験培地は、次のような最終培地濃度に調節された。
5g/Lの酵母抽出物
2g/Lのリン酸水素カリウム
1g/Lの硫酸マグネシウム
100g/Lのグルコース
80g/Lのキシロース
7g/Lのアセテート
【0067】
発酵は33℃で、KOHの添加により5.8に調節されたpHで実施した。開始接種は、上の規定培地中での試験発酵について記載されるように、75g/Lのグルコースおよび25g/Lのキシロース添加基礎培地中で生成された接種菌液のODからの計算で、0.2であった。
【0068】
ZW801−4をはじめとする全ての株は、これらの条件下で培地中の全てのグルコースを使用できる。全てのグルコースが使用された頃(43時間)の残留キシロース、その時点でのエタノール、次にキシロース利用速度が0に低下した(67時間)後の残留キシロースおよび生成エタノールに関する結果を下の表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
67時間目には、高糖、高アセテート成長条件下で、NS−1375以外の全ての単離株は、出発株ZW801−4より多くのキシロースを利用し、NS−1375およびNS−1369以外の全ての単離株はより多くのエタノールを生成した。NS−1302−2、NS−1370、NS−1372、NS−1373−1、およびNS−1373−5株は、それぞれZW801−4よりも少なくとも約10g/Lさらに多くのキシロースを利用した。NS1373−1株をZW705と改名し、同一プロトコルを使用してZW801−4を比較株として数回試験した。ZW705は一貫して、糖補給されたトウモロコシ穂軸加水分解産物から出発してより多くのエタノールを生成した。より良いエタノール生成の主な理由は、利用可能キシロースのより完全な利用であった。ZW705は一貫して99〜100%のグルコース、87〜90%の利用可能キシロースを使用して80〜85g/Lのエタノール力価を生じた。同一条件でZW801−4は、約98%のグルコース、59〜70%のキシロースを利用して、66〜70g/Lのエタノール力価を生じた。
【0071】
実施例4
ZW705適応株の評価
150mlの撹拌されるpHおよび温度調節フラスコ内で、ZW705、および対照としてのZW801−4のバッチ培養物を成長させた。出発温度は30℃であり、27℃まで変動した。pHは5.8に保った。培地は、10g/Lの酵母抽出物、2g/LのKHPO、1g/LのMgSO、1.8g/Lのソルビトールを含有するmRM3であった。表3に列挙されるように、アセテート、グルコース、およびキシロースを培地に添加した。
【0072】
65.5時間後、キシロース、グルコース、およびエタノールについて培養物を分析した。表3に示す結果は、ZW801−4原株との比較で、適応ZW705株による28%のキシロース利用の増大、および18%のエタノール生成の増大を示す。
【0073】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)細胞を備えるステップと;
b)(a)のキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)細胞をキシロースを含む流加増殖培地中で連続的に増殖させ、それによってエタノールを含む培養物を生産させるステップと;
c)(b)の培養物に一定の量のアンモニアと酢酸、または酢酸アンモニウムを添加し、それによってエタノールおよび酢酸アンモニウムを含むストレス培養物を生産させるステップと;
d)(c)のストレス培養物を連続的に増殖させ、それによって改善されたキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)細胞を生産させるステップと;
e)(d)の培養物から1つまたはそれ以上の細胞を単離するステップと
を含み、ここで少なくとも1つまたはそれ以上の単離された細胞が酢酸アンモニウムおよびエタノールの存在下において、(a)の備えたキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)細胞と比較して改善されたキシロース資化性を示し、改善された細胞が株として成長する、改善されたキシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株を生産する方法。
【請求項2】
(c)において、添加が少なくとも約24mMの酢酸アンモニウム濃度をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(d)中に酢酸アンモニウム濃度を少なくとも1回増大させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(b)の部分において、培地中のキシロースが少なくとも約50g/lの濃度である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法によって得られる、単離された改善キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株。
【請求項6】
対応する非馴化株と比較して、少なくとも約12%さらに多いキシロースが利用される、請求項5に記載の単離された改善キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株。
【請求項7】
対応する非馴化株と比較して、少なくとも約20%さらに多いキシロースが利用される、請求項6に記載の単離された改善キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株。
【請求項8】
対応する非馴化株と比較して、少なくとも約30%さらに多いキシロースが利用される、請求項7に記載の単離された改善キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株。
【請求項9】
0.1OD 600nmの細胞密度で開始した場合に、60g/Lキシロース、80g/Lグルコース、および9.54g/L酢酸を含有し、pHが5.8に調節された培地で、利用可能なキシロースの約18%の対応する非馴化株資化性と比較して、少なくとも約70%のキシロースを利用する、ストレス発酵馴化キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株。
【請求項10】
キシロース資化性が約85%である、請求項9に記載のストレス発酵馴化キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株。
【請求項11】
(b)においてエタノールが少なくとも約18g/Lである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
a)請求項5、6、7、8、9または10のいずれか一項に記載の単離された改善キシロース資化性ザイモモナス(Zymomonas)株を備えるステップと;
b)a)の株を適した発酵条件下で発酵培地と接触させ、エタノールを生産させるステップと、
c)場合によりエタノールを単離するステップと
を含む、エタノールを生産する方法。

【公表番号】特表2012−513201(P2012−513201A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542524(P2011−542524)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/068902
【国際公開番号】WO2010/075241
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【出願人】(510046505)アライアンス・フォア・サステインナブル・エナジー・エルエルシー (5)
【Fターム(参考)】