説明

ストレッチヤーンとそれを用いたカーペット

【課題】 製造容易で、表面に変化をもたせたカーペットと、そのカーペットの製造に好適に使用できるストレッチヤーンの提供。
【解決手段】 単糸1にかけられた下撚りと逆方向の上撚りをかけられた強撚糸2が、チーズ染色機4にて撚りを固定するセット加工が施された後、上撚りの撚回数よりも多い回数だけ、撚りを戻される方向に撚られることで、その撚り戻しの解除後には長手方向に伸縮性が付与されたストレッチヤーン2Aとなる。ストレッチヤーン2Aは、マイヤー染色機7にて糸染めされる。ストレッチヤーン2Aをパイル糸14として用いてカーペットを製造する。その際、ストレッチヤーン2Aからなるパイル糸14が、カーペットのパイル糸の一部として利用すれば、カーペット表面に変化をもたせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーペットのパイル糸などとして利用される新規な構成のストレッチヤーンと、このストレッチヤーンを用いて製造される各種カーペットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、糸それ自体の僅かな伸縮性を除けば、糸の長手方向に比較的大きな伸縮性を持たせたものは知られていない。比較的大きな伸縮性を持たせるには、ゴム紐とするか、或いはニットのように編み込んで製作するしかなく、撚糸として伸縮性を有するものはなかった。
【0003】
また、従来のカーペットは、パイル糸を構成する撚糸の本数と撚回数の2点を変えるだけで、カーペット用原糸を通常の範囲で製造するだけであった。よって、カーペット表面(パイルのカット面やループ面)の変化に乏しいものであった。特に、一つのカーペット中でパイルの高さを場所により変化させて、表面に凹凸をつけた立体的表面のカーペットを得るには、カーペット製織機の方を変更して製造するしかなかった。しかしながら、そのような方法では、作業能率が悪く、コスト高となるものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、カーペット表面に変化をもたせることができ、且つその製造も容易なカーペットと、そのカーペットの製造に好適に使用できるストレッチヤーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明のストレッチヤーンは、カーペットのパイル糸等として利用されるヤーンであって、長手方向に伸縮性を備えるようコイルスプリング状に、3〜6本の単糸が撚り上げられてセットされていることを特徴とする。或いは、本発明のストレッチヤーンは、撚りを固定するセット加工を施された強撚糸が、その撚り方向とは逆方向に、一時的に撚りを戻すよう撚られることで、スプリング状の伸縮性を付与されたことを特徴とする。
【0006】
若しくは、本発明のストレッチヤーンは、単糸にかけられた下撚りと逆方向の上撚りをかけられた強撚糸が、チーズ染色機にて撚りを固定するセット加工が施された後、前記上撚りの撚回数よりも多い回数だけ、撚りを戻される方向に一時的に撚られることで、その撚り戻しの解除後には長手方向に伸縮性が付与されることを特徴とする。そして、好ましくは、上記いずれかの構成に加えて、マイヤー染色機にて糸染めされることを特徴とするストレッチヤーンである。
【0007】
一方、本発明のカーペットは、上記いずれかのストレッチヤーンをパイル糸として用いて製造されたことを特徴とする。なお、好ましくは、この構成に加えて、ストレッチヤーンからなるパイル糸が、カーペットのパイル糸の一部として利用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のストレッチヤーンによれば、ゴム紐やニットではなく撚糸に、素材の持つ伸縮性を超えた比較的大きな伸縮性を付与することができる。
そして、そのストレッチヤーンを用いてカーペットを製造することで、カーペット表面に凹凸などの変化をもたせたカーペットを、容易且つ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のストレッチヤーンとそれを用いたカーペットについて、実施例に基づき更に詳細に説明する。
最初に、本発明のストレッチヤーンの一実施例について、その製造方法を時系列的に説明する。
【0010】
図1は、本実施例のストレッチヤーンの製造過程を示す図である。この図に示すように、まず、複数本(図示例では3本)の単糸1,1…を撚り合わして、強撚糸2を製造する。その際、単糸1にかけられた下撚りと逆方向の上撚りをかけて撚り合わせる。例えば、図1に示すように、単糸1がZ撚り(時計方向)の場合、その単糸1を必要本数揃えて、今度はS撚り(反時計方向)の上撚りをかける。或いは、逆に、S撚りの下撚りの単糸を必要本数揃えて、Z撚りの上撚りをかけてもよい。
【0011】
撚りは比較的強く行い、強撚糸とする。本実施例では、撚り回数としては約250〜320回/mとし、撚本数は3〜6本とされる。そして、このような撚糸2は、撚りを固定するためにセット加工される。本実施例では、撚上げられた撚糸2をコーン3に巻いて(図1)、そのコーン3をチーズ染色機4にかけてセット加工を行う(図2)。なお、セット加工は、撚りを止めて安定させるために行われる。つまり、本実施例において、チーズ染色機4は、染色のためではなく、撚りのセットのために使用される。
【0012】
図2は、コーン3に巻かれた撚糸2を、チーズ染色機4にてセット加工する状態を示す概略縦断面図であり、主要部のみを示している。この図に示すように、コーン3が装着されたキャリア5は、チーズ染色機4の染色槽6にセットされる。そして、染色槽6に水が張られ、洗剤を入れて糸が洗われる。その際、コーン3の中心から外側へ水が循環するようポンプ(不図示)が駆動される。そして、温度を上げて、全体として40〜60分間、ボイル加工し、その後、脱水、乾燥させる。なお、乾燥は、染色槽6内に熱風を循環させることで行われる。
【0013】
ところで、前記ボイル加工の際には、例えば95℃前後で約10〜15分間ボイルされる。撚りのセットには温度は高い方がよい反面、100℃以上ではキャビテーションが発生するし、撚糸の素材たるウールが弱くなるから95℃前後に設定するのが好適といえる。また、ボイル加工して脱水後に、熱風で乾燥させる工程においては、例えば約80℃、約90℃、そして約60〜70℃と順に温度を変えていき、全体として約20〜30分かけて乾燥が行われる。
【0014】
このようにして撚りを固定された撚糸2は、その撚り方向とは逆方向に、撚り戻される(図3)。つまり、撚糸2の上撚りがS撚りの場合には、Z撚りが施され、撚糸2の上撚りがZ撚りの場合には、S撚りが施される。その際、セット加工前に行った撚回数に約100〜150回/mをプラスした回数分だけ逆方向に撚るようにする。
【0015】
具体的には、例えば最初に250回/mだけS撚りで上撚りした撚糸2の場合、350〜400回/mだけZ撚りで一時的に戻す状態とする。また、例えば最初に320回/mだけZ撚りで上撚りした撚糸2の場合、420〜470回/mだけS撚りで一時的に戻す状態とする。
【0016】
このようにすることで、その撚り戻しを解除すると、再び最初にセットされた上撚りの方向の撚糸2となるが、一時的に強制的に戻されたことで、伸縮性の高い撚糸(ストレッチヤーン)2Aとなる。つまり、一度撚上げセットした状態の糸が反発することで、スプリングのような効果が得られることになる。このようにして形成された本実施例のストレッチヤーン2Aの外形は、あたかもコイルスプリングのごとき螺旋状に単糸1が巻かれたものとなり、長手方向の伸縮性が大きい。
【0017】
このようにして形成されたストレッチヤーン2Aの糸染めは、噴射式染色機ではなく、マイヤー染色機7にて行うことが望ましい。噴射式染色機は、水平に保持された棒状のアームにかせを引っ掛けて、アームを回転させることで、アームからの染料をかせに垂らして染色するものである。しかし、そのような染色方法では、かせが自重により伸びてしまい、ストレッチヤーン2Aの伸縮性やセット力が低下してしまうおそれがある。そこで、マイヤー染色機7を用いて、染色するのが好ましい。
【0018】
図4は、ストレッチヤーン2Aをマイヤー染色機7にて染色する状態を示す概略縦断面図であり、主要部のみを示している。この図に示すように、オーバーマイヤー染色機7は、保温壁8にて保温された外槽9に内槽10を配置し、その内槽10は周側壁がメッシュ状とされた二重の筒状10A,10Bとされている。そして、内槽10の内外の筒体10A,10B間に、かせ(2A)を置いて染色する。染料は、内槽10の内筒10Aから外筒10Bへと径方向外側に流れ、内槽10の下部へ流れた後、再び内槽10の内筒10Aへ循環するようポンプ(不図示)が駆動される。なお、内槽10の下部にヒータを配置するなどして、染料は所望温度に設定される。このような手法で染色することで、反発力の維持やセット力の強化を図ることができる。
【0019】
ところで、ストレッチヤーン2Aを構成する素材は、特に問わないが、例えば次のいずれかのものを使用して製造することが考えられる。
(a)ウール100%、
(b)ウール80%にナイロン20%(なおナイロンには、ナイロンメルトを例えば10%含ましてもよい(つまりその場合ウール80%にナイロン10%とナイロンメルト10%となる))、
(c)ウール80%にナイロン10%とエステルメルト10%。
【0020】
以上に説明したストレッチヤーン2Aは、撚回数の増加、撚方向の操作、撚止めのセット方法、撚上げた糸の染色方法において特有のものであり、長手方向に従来にない伸縮性が得られる。このようなストレッチヤーン2Aは、各種カーペットのパイル糸等として、好適に利用される。そこで、次に、上記ストレッチヤーン2Aを用いたカーペットの製造について述べる。
【0021】
上記実施例のストレッチヤーン2Aは、パイルを備えるカーペット、例えばウィルトンカーペット(織じゅうたん)のパイル糸として好適に使用される。つまり、ストレッチヤーン2Aは、パイル糸として、ウィルトン織機にかけられ、ウィルトンカーペットが製織される。なお、パイル高さは、特に問わないが、例えば7mmが採用される。
【0022】
例えば、二越織りの場合、図5に示すように、地組織を形成する地たて糸11と、この地たて糸11の表面側及び裏面側の各よこ糸12,13と、表面側のよこ糸12に順次絡みループを形成するパイル糸14と、これら各糸に交錯して織地を形成する一対のしめ糸15,15とから形成されている。なお、上下の各よこ糸12,13は、同一ピッチとされているが、両者は半ピッチずつずれて配置されている。
【0023】
また、パイル糸14は当初ループとされているが、図示のようなカットパイルとする場合には、製織時にパイル糸14を保持するワイヤーにナイフを設けておき、そのワイヤーを引き抜く際にナイフにて最終的に上端部を切断すればよい。
【0024】
上記実施例のストレッチヤーン2Aは、カーペットの製織時に、カーペット全体に亘って使用してもよいし、その一部においてのみ使用してもよい。例えば、カーペットに格子状のラインを付けるために、そのライン部分となる位置にだけストレッチヤーン2Aを使用することなどが考えられる。図5では、そのようにカーペットの一部にだけストレッチヤーン2Aを使用した例を示している。
【0025】
通常、カーペットの製造において、ループパイル或いはカットパイルに限らず、一度設定されたパイル長さは、最後まで変わらず同じである。パイル長さを変えるには、装置の変更によって行うしかない。ところが、本発明のストレッチヤーン2Aによれば、カーペットの製織時にパイル糸14(ストレッチヤーン2A)を保持していたワイヤーを引き抜くと、ストレッチヤーン2Aが縮むことになる。
【0026】
従って、従前からの普通糸99と本発明のストレッチヤーン2Aとを組み合わせて製織すれば、ストレッチヤーン2Aのパイル14の部分だけ、普通糸99のパイル14の部分よりも沈むことになる。例えば、パイル高さを7mmで、従前からの普通糸99と組み合わせて製織した場合、普通糸99の部分は7mmで変わらないが、ストレッチヤーン2Aの部分は縮んで3〜5mmになるので、カーペット表面に変化をつけることができる。
【0027】
また、図6では、三越織りに適用した例を示している。この場合、地組織を形成する地たて糸11と、この地たて糸11の表面側及び裏面側の各よこ糸12,13と、表面側のよこ糸12に順次絡みループを形成するパイル糸14と、これら各糸に交錯して織地を形成する一対のしめ糸15,15とから形成される。なお、三越織りの場合、表面側のよこ糸12のピッチが、裏面側のよこ糸13のピッチの半分とされており、パイル糸14は2本のよこ糸12に絡んで設けられることになる。この織り方の場合も、パイル糸14はループのままでもよいし、上端部をナイフによって切断したカットパイルとしてもよい。
【0028】
この場合も、上述した二越織りの場合と同様に、ストレッチヤーン2Aをカーペット全体に使用してもよいし、その一部にだけ使用してもよい。普通糸99と組み合わせて、ストレッチヤーン2Aを一部に使用した場合には、製織機の設定を変えることなく、カーペット表面に凹凸の付いた変化を持たせることができる。
【0029】
なお、本発明のストレッチヤーン2Aとそれを用いたカーペットは、上記実施例の構成に限らず、適宜変更可能である。
例えば、上記実施例では、一般的なウィルトンカーペットを二越織りや三越織りにて製織した例について説明したが、織り方やカーペットの種類は適宜に変更可能なことは言うまでもない。例えば、フェースカーペットやフックカーペット等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のストレッチヤーンの一実施例の製造過程を示す図であり、Z撚りの下撚り後、それを3本揃えてS撚りの上撚りをかけて、コーンに巻く状態を示している。
【図2】図1のコーンに巻かれた撚糸を、チーズ染色機にてセット加工する状態を示す概略縦断面図である。
【図3】図2のセット加工された撚糸の撚りを一時的に戻して、かせとする状態を示す概略図である。
【図4】図3のかせをマイヤー染色機にて染色する状態を示す概略縦断面図である。
【図5】本発明のストレッチヤーンを用いたカーペットの一例を示す断面図であり、二越織りカーペットを示している。
【図6】本発明のストレッチヤーンを用いたカーペットの他の例を示す断面図であり、三越織りカーペットを示している。
【符号の説明】
【0031】
1 単糸
2 撚糸
2A ストレッチヤーン
3 コーン
4 チーズ染色機
5 キャリア
6 染色槽
7 マイヤー染色機
14 パイル糸
99 普通糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーペットのパイル糸等として利用されるヤーンであって、
長手方向に伸縮性を備えるようコイルスプリング状に、3〜6本の単糸が撚り上げられてセットされていることを特徴とするストレッチヤーン。
【請求項2】
撚りを固定するセット加工を施された強撚糸が、その撚り方向とは逆方向に、一時的に撚りを戻すよう撚られることで、スプリング状の伸縮性を付与されたことを特徴とするストレッチヤーン。
【請求項3】
単糸にかけられた下撚りと逆方向の上撚りをかけられた強撚糸が、チーズ染色機にて撚りを固定するセット加工が施された後、前記上撚りの撚回数よりも多い回数だけ、撚りを戻される方向に一時的に撚られることで、その撚り戻しの解除後には長手方向に伸縮性が付与されることを特徴とするストレッチヤーン。
【請求項4】
マイヤー染色機にて糸染めされることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のストレッチヤーン。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のストレッチヤーンをパイル糸として用いて製造されたことを特徴とするカーペット。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のストレッチヤーンからなるパイル糸が、カーペットのパイル糸の一部として利用されていることを特徴とする請求項5に記載のカーペット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−214047(P2006−214047A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29641(P2005−29641)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(392036728)村上敷物株式会社 (2)
【出願人】(305000529)ヤマトボウ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】