説明

ストレッチ回復性に優れた薄地丸編地および繊維製品

【課題】薄地の丸編地であって、ストレッチ回復性に優れた薄地丸編地および繊維製品を提供する。
【解決手段】総繊度が5〜50dtexの有機繊維糸条で構成され、厚みが0.4mm以下の薄地丸編地であって、編地のニードルループ数が5000個/(2.54cm)以上であることを特徴とするストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総繊度が5〜50dtexの有機繊維糸条で構成され、厚みが0.4mm以下の薄地丸編地であって、ストレッチ回復性に優れた薄地丸編地および繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、丸編地は伸縮性、フィット性に優れるため、インナーウエアー、アウターウエアー、スポーツウエアーなど巾広い分野で使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
しかしながら、丸編地は、伸張されるとそのループ構成上組織ズレが発生しやすく、ストレッチ回復性が良くないという問題を有していた。特に厚みが薄い場合、かかる問題が顕著であった。
【0003】
【特許文献1】特開2000−207319号公報
【特許文献2】実用新案登録第2567438号公報
【特許文献3】特開2000−8252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、薄地の丸編地であって、ストレッチ回復性に優れた薄地丸編地および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、丸編地の編密度を極めて高密度にすることにより、薄地であってもストレッチ回復性が良いことを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【0006】
かくして、本発明によれば「総繊度が5〜50dtexの有機繊維糸条で構成され、厚みが0.4mm以下の薄地丸編地であって、編地のニードルループ数が5000個/(2.54cm)以上であることを特徴とするストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。」が提供される。
ただし、編地のニードルループ数とは、2.54cmあたりのコース数(コース/2.54cm)と、2.54cmあたりのウエール数(ウエール/2.54cm)とをかけ算した値である。
【0007】
その際、前記有機繊維糸条の単繊維繊度が0.1〜2.0dtexの範囲内であることが好ましい。前記有機繊維糸条としては、ポリエステル糸条であることが好ましく、ポリエステル糸条と弾性繊維糸条とで構成される複合糸でもよい。
【0008】
本発明の丸編地は単層の丸編地であることが好ましい。丸編地の編組織としては、天竺またはプレーテイング天竺またはベア天竺であることが好ましい。また、本発明の丸編地において、よこ方向のストレッチ回復性が80%以上であることが好ましい。さらには、抗スナッギング性が3級以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、前記の丸編地を用いてなる、インナーウエアー、アウターウエアー、およびスポーツウエアーからなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、薄地の丸編地であって、ストレッチ回復性に優れた薄地丸編地および繊維製品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の丸編地は、総繊度が5〜50dtexの有機繊維糸条で構成され、その厚みが0.4mm以下(好ましくは、0.1〜0.4mm)である。そして、編地のニードルループ数が5000個/(2.54cm)以上(好ましくは、6000〜20000個/(2.54cm))である。かかるニードルループ数が5000個/(2.54cm)未満では、丸編地が伸張された際に組織ズレが発生しやすくなり、十分なストレッチ回復性が得られず好ましくない。
ただし、編地のニードルループ数とは、2.54cmあたりのコース数(コース/2.54cm)と、2.54cmあたりのウエール数(ウエール/2.54cm)とをかけ算した値である。
【0012】
前記の有機繊維糸条を形成する繊維としては特に限定されず、綿、麻、絹等の天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などに代表されるポリエステル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリウレタン繊維などの合成繊維が例示される。なかでも、ポリエステル系繊維が好適である。これらの繊維は1種類でもよいし、複数の組み合わせであってもよい。例えば、ポリウレタン繊維やポリエーテルエステル系繊維などからなる弾性繊維糸条とポリエステル系繊維糸条とをインターレース空気ノズルなどにより空気混繊させた複合糸や、弾性繊維糸条のまわりにポリエステル系繊維糸条をカバリングした複合糸などでもよい。
【0013】
なお、繊維を形成するポリマーには、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0014】
前記の有機繊維糸条の繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸条)であることが好ましい。繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状が採用できる。繊維の単糸繊度、フィラメント数は特に限定されないが、風合いや生産性の点で各々0.1〜2.0dtex、30〜100本の範囲が好ましい。
【0015】
本発明の丸編地において、層数は特に限定されず2層以上の多層構造を有していてもよいが、本発明の丸編地は厚みが0.4mm以下の薄地丸編地を対象としているので、容易に製造できる点で単層が最も好ましい。編地の目付けとしては、30〜250g/mの範囲であることが好ましい。
【0016】
また、丸編地の編組織も限定されないが、図1に編組織を示す天竺や、天竺の編組織で2種の糸条で複合ループを形成したプレーテイング天竺、その際、一種の糸条を弾性繊維糸条としたベア天竺などが好適に例示される。
【0017】
本発明の丸編地は、下記の製造方法により製造することができる。
すなわち、46ゲージ以上のハイゲージの丸編機(例えば、福原精機(株)製VXAC−3S 46G30インチなど)を使用し、総繊度が5〜50dtexの前記の有機繊維糸条を用いて、厚みが0.4mm以下の丸編地を製編することにより得ることができる。
【0018】
製編された丸編地には、通常の染色仕上げ加工、アルカリ減量加工、吸水加工、撥水加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0019】
かくして得られた丸編地は、編地のニードルループ数が5000個/(2.54cm)以上と極めて高密度であるので、丸編地が伸張されても組織ズレが発生しにくいため、優れたストレッチ回復性が得られる。その際、下記の試験方法で試験したよこ方向のストレッチ回復性が80%以上であることが好ましい。
【0020】
まず、よこ方向に巾5cm、長さ20cmの試験片を2枚採集し、中央に試験長10cmのところに正確に印をつけ、試験片を調製する。次いで、自記記録装置付き引張試験機を用い初荷重196.1mN(20gf)をかけてつかみ間隔が10cmになるように試験片をつかみ、引張速度30cm/minで14.7N(1.5kgf)定荷重まで伸ばした後、直ちに同速度でもとに位置にもどし、図2のような荷重−伸長曲線を描く。試験後、直ちに試験片をチャックからとりはずし、スケールで残留伸び(0.01cmまで)を測定する。
描かれた曲線からつぎの式でストレッチ回復性(%)を求め、2回の平均値で表す。
ストレッチ回復性(%)=(OB(cm)−残留伸び(cm))/OB(cm)×100
【0021】
また、本発明の丸編地は極めて高密度であるので、抗スナッギング性にも優れている。かかる抗スナッギング性としては、JIS L 1058−1998 7.4 ICI形ピリング試験機法により測定して、3級以上であることが好ましい。
【0022】
次に、本発明の繊維製品は、前記の丸編地を用いてなる、インナーウエアー、アウターウエアー、およびスポーツウエアーからなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は、前記の丸編地を用いているので、薄地でありながら優れたストレッチ回復性を有している。
【実施例】
【0023】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0024】
(1)厚み
JIS L 1018−1998 6.5により編地の厚みを測定した。
(2)ニードルループ数
編地の2.54cmあたりのコース数(コース/2.54cm)とウエール数(ウエール/2.54cm)とをかけ算することにより算出した。
(3)試験片の調製
よこ方向に巾5cm、長さ20cmの試験片を2枚採集し、中央に試験長10cmのところに正確に印をつけ、試験片を調製した。
(4)ストレッチ回復性
自記記録装置付き引張試験機を用い初荷重196.1mN(20gf)をかけてつかみ間隔が10cmになるように試験片をつかみ、引張速度30cm/minで14.7N(1.5kgf)定荷重まで伸ばした後、直ちに同速度でもとに位置にもどし、図2のような荷重−伸長曲線を描いた。試験後、直ちに試験片をチャックからとりはずし、スケールで残留伸び(0.01cmまで)を測定した。
描かれた曲線からつぎの式でストレッチ回復性(%)を求め、2回の平均値で表した。
ストレッチ回復性(%)=(OB(cm)−残留伸び(cm))/OB(cm)×100
(5)抗スナッギング性
JIS L 1058−1998 7.4 ICI形ピリング試験機法により抗スナッギング性を評価した。
【0025】
[実施例1]
46G、30インチの丸編機(福原精機(株)製VXAC−3S)を使用し、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸(帝人ファイバー(株)製、総繊度32dtex/72fil)を用いて天竺組織の単層丸編地を編成し、得られた編地を130℃の高圧染色を行い、最終セットとして170℃の乾熱セット行った。
【0026】
得られた編地において、厚みは0.15mm、目付けは54g/m、密度は83コース/2.54cm、85ウェール/2.54cm、ニードルループ数は7055個/(2.54cm)、よこ方向のストレッチ回復性82%と、薄地の丸編地にもかかわらず、ストレッチ回復性に優れたものであった。
かかる編地を用いてTシャツ(スポーツウエアー)を縫製し、着用したところ、ストレッチ回復性に優れるため、非常に着用快適性に優れていた。
【0027】
[実施例2]
46G、30インチの丸編機(福原精機(株)製VXAC−3S)を使用し、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸(帝人ファイバー(株)製、総繊度32dtex/72fil)とポリウレタンモノフィラメント(オペロンテックス(株)製、総繊度11dtex/1fil)とを用いて、ベア天竺組織の単層丸編地を編成し、得られた編地を60℃、1分間のリラックス処理、プレセットとして170℃の乾熱セット、130℃の高圧染色を行い、最終セットとして170℃の乾熱セット行った。
【0028】
得られた編地において、厚みは0.31mm、目付けは175g/m、密度は99コース/2.54cm、106ウェール/2.54cm、ニードルループ数は10494個/(2.54cm)、よこ方向のストレッチ回復性88%と、薄地の丸編地にもかかわらず、ストレッチ回復性に優れたものであった。
【0029】
[比較例1]
実施例1において、28G、30インチの丸編機(福原精機(株)製)を使用すること以外は実施例1と同様にした。
得られた編地において、厚みは0.13mm、目付けは35g/m、密度は43コース/2.54cm、69ウェール/2.54cm、ニードルループ数は2967個/(2.54cm)、よこ方向のストレッチ回復性18%と、ストレッチ回復性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、ストレッチ回復性に優れた薄地丸編地および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の丸編地において、採用することのできる天竺組織の編組織を示す図である。
【図2】ストレッチ回復性を測定する際に描かれる荷重−伸長曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
総繊度が5〜50dtexの有機繊維糸条で構成され、厚みが0.4mm以下の薄地丸編地であって、編地のニードルループ数が5000個/(2.54cm)以上であることを特徴とするストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。
ただし、編地のニードルループ数とは、2.54cmあたりのコース数(コース/2.54cm)と、2.54cmあたりのウエール数(ウエール/2.54cm)とをかけ算した値である。
【請求項2】
前記有機繊維糸条の単繊維繊度が0.1〜2.0dtexの範囲内である、請求項1に記載のストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。
【請求項3】
前記有機繊維糸条がポリエステル糸条である、請求項1または請求項2に記載のストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。
【請求項4】
前記有機繊維糸条が、ポリエステル糸条と弾性繊維糸条とで構成される複合糸である、請求項1または請求項2に記載のストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。
【請求項5】
丸編地が単層の丸編地である、請求項1〜4のいずれかに記載のストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。
【請求項6】
丸編地の編組織が天竺またはプレーテイング天竺またはベア天竺である、請求項5に記載のストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。
【請求項7】
よこ方向のストレッチ回復性が80%以上である、請求項1〜6のいずれかに記載のストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。
【請求項8】
抗スナッギング性が3級以上である、請求項1〜7のいずれかに記載のストレッチ回復性に優れた薄地丸編地。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の丸編地を用いてなる、インナーウエアー、アウターウエアー、およびスポーツウエアーからなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−328567(P2006−328567A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150629(P2005−150629)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】