説明

ストロボ装置

【課題】発光を繰り返しても発光性の低下や発光タイミングの不安定を招くことがないストロボ装置を提供すること。
【解決手段】外周面の全周に亘ってネサコーティング6が施されたキセノン管(発光管)2と、該キセノン管2のネサコーティング6が圧接されるリフレクタ3を備え、トリガ電圧をリフレクタ3とネサコーティング6との接触部を介してキセノン管2に印加して該キセノン管2を発光させるストロボ装置1において、前記キセノン管2をその軸心回りに回転させる回転機構10を設ける。具体的には、キセノン管2の軸方向両端を金属端子7の軸受8によって回転可能に支持するとともに、キセノン管2と平行に配された回転軸11と、該回転軸11とキセノン管2の軸方向両端部外周との間に巻装された一対のゴムベルト12とで回転機構10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影のための補助光としてのストロボ光を照射対象に向けて照射するためのストロボ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、デジタルカメラ等に内蔵されるストロボ装置は、夜間や雨天時等のように周囲が暗い環境下において所定の撮影有効範囲内での撮影を可能とするためにストロボ光を照射対象である被写体に向けて照射するものである。斯かるストロボ装置においては、発光管として例えばキセノン管(Xe管)が使用され、このキセノン管の外周面にはネサコーティングと称される導電性の透明な膜が全周に亘ってコーティングされており、このネサコーティングがリフレクタ(反射笠)の内面に形成されたアルミ蒸着層に圧接されている。
【0003】
而して、リフレクタに固定されたトリガ端子に印加されるトリガ電圧がリフレクタのアルミ蒸着層とキセノン管のネサコーティングとの接触部を介してキセノン管に印加されると、該キセノン放電管内に封入されたキセノン(Xe)ガスが全体的に励起されて発光電流が流れ易い状態となり、キセノン管に発光電流が流れることによって該キセノン管が放電して発光する。
【0004】
ところで、特許文献1には、発光管を発光光軸方向に移動させることによって照射角を可変させる照射角可変ストロボ装置において、発光管とトリガ端子とを伸縮変形可能な電気的接続バネ部材によって接続することによって、発光管をリフレクタに対して自由に移動させても発光管にはトリガ電圧を常に確実に印加することができるようにした構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−273516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1において提案されたものを含む従来のストロボ装置においては、長期間発光を繰り返していくと、発光管の外周面に形成されたネサコーティングのリフレクタに接触している部分の膜が消失し、リフレクタとネサコーティング間の抵抗が増えるためにネサコーティングに印加されるトリガ電圧が低下し、発光性が低下したり、発光タイミングが不安定になるという問題が発生する。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、発光を繰り返しても発光性の低下や発光タイミングの不安定を招くことがないストロボ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、外周面の全周に亘ってネサコーティングが施された発光管と、該発光管の前記ネサコーティングが圧接されるリフレクタを備え、トリガ電圧を前記リフレクタと前記ネサコーティングとの接触部を介して発光管に印加して該発光管を発光させるストロボ装置において、前記発光管をその軸心回りに回転させる回転機構を設けたことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記発光管の軸方向両端を金属端子の軸受によって回転可能に支持するとともに、発光管と平行に配された回転軸と、該回転軸と前記発光管の軸方向両端部外周との間に巻装された一対のベルトとで前記回転機構を構成したことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記回転機構は、所定回数の発光毎に前記発光管を所定角度だけ回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、発光管のネサコーティングが発光によって消失しても、発光管をその軸心回りに回転させることによって消失していない新鮮なネサコーティングがリフレクタに接触するため、長期間発光を繰り返しても発光性が低下することがなく、又、発光タイミングが不安定になることがない。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、回転機構の回転軸を手動又は自動で回転させれば、該回転軸の回転は一対のプーリとベルトを経て発光管に伝達されて該発光管が回転するため、消失していない新鮮なネサコーティングをリフレクタに接触させることができ、長期間発光を繰り返すことによる発光性の低下を防ぐことができるとともに、発光タイミングの安定化を図ることができる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、所定回数の発光毎に発光管を所定角度だけ回転させることによって、ネサコーティングが消失する以前に新鮮なネサコーティングをリフレクタに接触させることができ、発光性の低下防止と発光タイミングの安定化及びストロボ装置の耐久性の向上を図ることができる。尚、所定回数の発光毎に発光管が所定角度だけ自動で回転するようにすれば省力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るストロボ装置を斜め前方から見た斜視図である。
【図2】本発明に係るストロボ装置を斜め後方から見た斜視図である。
【図3】図1のA部拡大詳細図である。
【図4】本発明に係るストロボ装置要部の部分側面図である。
【図5】本発明に係るストロボ装置のキセノン管の正面図である。
【図6】本発明に係るストロボ装置の電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明に係るストロボ装置を斜め前方から見た斜視図、図2は同ストロボ装置を斜め後方から見た斜視図、図3は図1のA部拡大詳細図、図4は同ストロボ装置要部の部分側面図、図5は同ストロボ装置のキセノン管の正面図、図6は同ストロボ装置の電気回路図である。
【0017】
本実施の形態に係るストロボ装置1は、デジタルカメラ等に内蔵されて夜間や雨天時等のように周囲が暗い環境下においても所定の撮影有効範囲での撮影を可能とするためにストロボ光を照射対象である不図示の被写体に照射するものであって、図1及び図2に示すように、幅方向に長い発光管であるキセノン管2と、該キセノン管2からのストロボ光を被写体に向けて反射させるリフレクタ3と、該リフレクタ3の前面(光出射面)を覆う不図示の透明なレンズを備えている。
【0018】
上記リフレクタ3は、キセノン管2の一部を背面から覆うよう配置されており、正面反射部(縦壁)3Aとその両側端に形成された側面反射部(側壁)3Bを備えている。このリフレクタ3の内面にはアルミ蒸着層が形成され、なるべく多くの光を制御することができるよう正面反射部3Aの縦断面形状には楕円若しくは楕円に近い自由曲面が採用され、左右の側面反射部3Bは前方(光出射方向)に向かって開くテーパ状に成形されている。
【0019】
又、リフレクタ3の背面にはトリガ電極4が取り付けられており、このトリガ電極4には後述のトリガコイル18(図6参照)から延びる金属端子5が接続されている。
【0020】
前記キセノン管2は、図1及び図2に示すように、その軸方向両端部がリフレクタ3の左右の側面反射面3Bを貫通してリフレクタ3の外部に突出しており、放電部のガラスチューブ2aの左右両端中心部には丸棒状の電極端子2bが挿通している。そして、キセノン管2のリフレクタ3の内部に収容されたガラスチューブ2aの外周面の所定の軸方向長さ範囲には、図5に示すように、導電性の透明な膜であるネサコーティング6が全周に亘ってコーティングされている。そして、このネサコーティング6は、図4に示すように、リフレクタ3の正面反射部3Aのアルミ蒸着層に圧接されている。
【0021】
而して、本実施の形態に係るストロボ装置1においては、キセノン管2の両端部に設けられた電極端子2bが金属端子7の先端に形成された軸受8によって支持されており(図3及び図4参照)、これによってキセノン管2がその軸心回りに回転可能にされている。そして、このキセノン管2は回転機構10によって回転されるが、この回転機構10は、図1及び図2に示すように、キセノン管2の後方にこれと平行に配された回転軸11と、該回転軸11とキセノン管2の軸方向両端部外周との間に巻装された一対のゴムベルト12とで構成されている。ここで、キセノン管2は、ゴムベルト12によって図2の矢印方向(後方)に所定の力で引っ張られており、これによってキセノン管2の外周面に形成されたネサコーティング6がリフレクタ3のアルミ蒸着層に圧接されている。尚、ゴムベルト12によってキセノン管2を引っ張る力は、ネサコーティング6がアルミ蒸着に接触する程度で十分であり、この力が大き過ぎるとネサコーティング6とアルミ蒸着との接触抵抗が大きくなってキセノン管2の回転が阻害される。
【0022】
ここで、本実施の形態に係るストロボ装置1の電気回路の構成と発光原理を図6に基づいて以下に説明する。
【0023】
ストロボ装置1は、メインコンデンサ14の放電ループにキセノン放電管2とIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )15を設けて構成される発光回路16と、キセノン管2を励起するためのトリガ用コンデンサ17とトリガコイル18を含むトリガ手段19と、不図示のCPUから発信される発光信号に基づいて前記IGBT15へのゲート電圧の印加を制御して該IGBT15をON/OFFするIGBTドライバ20を備えている。
【0024】
而して、カメラ本体に内蔵された不図示のCPUは、外光の明るさやピントが設定されている距離等をパラメータとしてキセノン管2の発光時間を設定し、IGBTドライバ20に対して発光ON信号を設定時間だけ出力する。すると、IGBTドライバ20は、ゲート電圧をIGBT15のゲート15aに印加するため、IGBT15がONされてトリガ手段19のトリガ用コンデンサ17に充電されていたトリガ電圧がトリガコイル18によって昇圧されてトリガ電極4に印加される。そして、トリガ電極4に印加されたトリガ電圧がリフレクタ3のアルミ蒸着層とキセノン管2のネサコーティング6との接触部を介してキセノン管2に印加され、該キセノン管2内に封入されたキセノン(Xe)ガスが全体的に励起されて発光電流(コレクタ電流)が流れ易い状態となる。これと同時に発光回路16が導通状態となってメインコンデンサ14からキセノン放電管2に発光電流(コレクタ電流)が流れて該キセノン管2が放電して発光する。
【0025】
上述のようにキセノン管2が発光してから所定の設定時間が経過すると、CPUからIGBTドライバ20に発光OFF信号が出力される。すると、IGBTドライバ20からIGBT15へのゲート電圧の印加がOFFされ、ゲート電圧が所定の閾値以下に下がるとIGBT15もOFFされて発光回路16が非導通状態となり、発光回路16における発光電流(コレクタ電流)の流れが遮断されてキセノン管2の発光が停止する。
【0026】
而して、ストロボ装置1において発光を繰り返していくと、キセノン管2の外周面にコーティングされたネサコーティング6のリフレクタ3のアルミ蒸着層に接触している部分の膜が消失し、リフレクタ3とネサコーティング6間の抵抗が増えるためにネサコーティング6に印加されるトリガ電圧が低下し、発光性が低下したり、発光タイミングが不安定になるという問題が発生することは前述の通りであるが、本実施の形態では、キセノン管2のネサコーティング6が発光によって消失しても、キセノン管2を回転機構10によってその軸心回りに回転させれば、消失していない新鮮なネサコーティング6がリフレクタ3のアルミ蒸着層に接触するため、連続的な発光によっても発光性が低下することがなく、又、発光タイミングが不安定になることがない。
【0027】
即ち、回転機構10の回転軸11を手動又は自動で回転させれば、該回転軸11の回転は一対のゴムベルト12を経てキセノン管2に伝達されて該キセノン管2がその軸心回りに回転するため、消失していない新鮮なネサコーティング6をリフレクタ3のアルミ蒸着層に接触させることができ、連続的な発光による発光性の低下を防ぐことができるとともに、発光タイミングの安定化を図ることができる。
【0028】
ところで、本実施の形態では、カメラ本体側でトリガ電圧印加の回数をカウントし、トリガ電圧が100回印加される毎に回転機構10が駆動されてキセノン管2が所定角度だけ回転するよう構成されている。
【0029】
ここで、キセノン管2の1回の回転角度は、当該ストロボ装置1に要求される耐久回数によって決定され、本実施の形態では次式によって求められる。
【0030】
回転角度[°]=360[°]×(100[回]÷耐久回数[回])
このように所定回数の発光毎にキセノン管2を所定角度だけ回転させることによって、ネサコーティング6が消失する以前に新鮮なネサコーティング6をリフレクタ3のアルミ蒸着層に接触させることができ、発光性の低下防止と発光タイミングの安定化及びストロボ装置1の耐久性の向上を図ることができる。そして、本実施の形態のように所定回数の発光毎にキセノン管2が所定角度だけ自動で回転するようにすれば省力化を図ることができる。
【0031】
ここで、トリガ電圧を変えながら30回発光信号を入力した際にストロボ装置1が何回発光したかをネサコーティング6がある場合と無い場合について実験した結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

低いトリガ電圧で発光した方がストロボ性能は高いことになるが、表1に示す結果によれば、ネサコーティング6がある場合はトリガ電圧が210Vで30回の発光信号に対して30回全て発光したのに対して、ネサコーティング6が消失して無くなっている場合にはトリガ電圧を230Vまで上げないと30回の発光信号に対して30回全て発光させることができないことが分かる。つまり、ネサコーティング6がある場合は無い場合よりも20V低いトリガ電圧で発光させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、外周面にネサコーティングを施した発光管を光源として使用するカメラ用ストロボ装置全般に対して適用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 ストロボ装置
2 キセノン管(発光管)
2a キセノン管のガラスチューブ
2b キセノン管の電極端子
3 リフレクタ
3A リフレクタの正面反射部(縦壁)
3B リフレクタの側面反射部(横壁)
4 トリガ電極
5 金属端子
6 ネサコーティング
7 金属端子
8 軸受
10 回転機構
11 回転軸
12 ゴムベルト(ベルト)
14 メインコンデンサ
15 IGBT
15a IGBTのゲート
16 発光回路
17 トリガ用コンデンサ
18 トリガコイル
19 トリガ手段
20 IGBTドライバ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面の全周に亘ってネサコーティングが施された発光管と、該発光管の前記ネサコーティングが圧接されるリフレクタを備え、トリガ電圧を前記リフレクタと前記ネサコーティングとの接触部を介して発光管に印加して該発光管を発光させるストロボ装置において、
前記発光管をその軸心回りに回転させる回転機構を設けたことを特徴とするストロボ装置。
【請求項2】
前記発光管の軸方向両端を金属端子の軸受によって回転可能に支持するとともに、発光管と平行に配された回転軸と、該回転軸と前記発光管の軸方向両端部外周との間に巻装された一対のベルトとで前記回転機構を構成したことを特徴とする請求項1記載のストロボ装置。
【請求項3】
前記回転機構は、所定回数の発光毎に前記発光管を所定角度だけ回転させることを特徴とする請求項1又は2記載のストロボ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−145471(P2011−145471A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5883(P2010−5883)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】