説明

ストロンチウムアミド化合物の製造方法

【課題】 本発明の課題は、簡便な方法にて、高収率でストロンチウムアミド化合物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、ジハロゲノストロンチウムを還元して得られる金属ストロンチウム又はその溶液とアミノ化合物をと反応させることを特徴とするストロンチウムアミド化合物の製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストロンチウムアミド化合物の製造方法に関する。ストロンチウムアミド化合物は、例えば、金属含有薄膜形成用、触媒用、医薬、農薬用等として有用な化合物であり、触媒としては、ヒドロアミノ化用触媒としての使用が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【背景技術】
【0002】
従来、ストロンチウムアミド化合物の製造方法として、例えば、金属ストロンチウムを液体アンモニアで活性化し、ジフェニルアミンと反応させてストロンチウムジフェニルアミドを製造する方法が知られている(例えば、非特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society,131,12906(2009)
【非特許文献2】Inorganic Chemistry,46,5118(2007)
【非特許文献3】Organometallics,25,3496(2006)
【非特許文献4】Inorganic Chemistry,46,7678(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の非特許文献2〜4の方法では、30℃で11.5気圧の条件により液化される液体アンモニウム(毒性が高く、取り扱いが煩雑)を使用して金属ストロンチウムを製造しなければならず、更に、金属ストロンチウムとアミン化合物との反応に長時間(8日間))を要するという問題があった。
【0005】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、簡便な方法にて、高収率でストロンチウムアミド化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Xはハロゲン原子を示す)
で示されるジハロゲノストロンチウムを還元して得られる金属ストロンチウム又はその溶液と一般式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R及びRは同一又は異なっていても良く、オルガノシリル基、炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基又は炭素原子数6〜10のアリール基を示す。)
で示されるアミノ化合物をと反応させることを特徴とする一般式(3)
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R及びRは前記と同義である)
で示されるストロンチウムアミド化合物の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、簡便な方法にて、高収率でストロンチウムアミド化合物の製造方法を提供することができる。ストロンチウムアミド化合物は、例えば、金属含有薄膜形成用、触媒用、医薬、農薬用等に有用な化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の反応で使用する金属ストロンチウムは、前記の一般式(1)で示されるジハロゲノストロンチウムを還元して得られる(なお、通常は金属ストロンチウムの溶液として得る)。その一般式(1)において、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、好ましくはヨウ素原子である。
【0015】
本発明の金属ストロンチウムを得る方法、即ち、ジハロゲノストロンチウムを還元して金属ストロンチウムを得る方法としては、好ましくはジハロゲノストロンチウム、アルカリ金属及び芳香族化合物を混合して、必要ならば溶媒の中にて反応させることによって得る方法により行われる(溶媒を用いると、その溶媒溶液として得ることができる)。
【0016】
本発明の金属ストロンチウムの製造において使用するアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムが上げられるが、好ましくはナトリウム、カリウムである。なお、これらの金属は単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0017】
前記アルカリ金属の使用量は、ジハロゲノストロンチウム1モルに対して、好ましくは1.0〜3.0モル、更に好ましくは1.8〜2.2モルである。
【0018】
本発明の金属ストロンチウムの製造において使用する芳香族化合物としては、好ましくはナフタレン、ビフェニルが使用される。なお、これらの芳香族化合物は単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0019】
なお、前記芳香族化合物の使用量は、ジハロゲノストロンチウム1モルに対して、好ましくは0.1〜5.0モル、更に好ましくは1.0〜3.0モルである。
【0020】
本発明の金属ストロンチウムの製造は有機溶媒中で行うことが望ましく、使用される有機溶媒としては反応を阻害しないものならば特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が挙げられるが、好ましくはエーテル類、更に好ましくはテトラヒドロフランが使用される。なお、これらの有機溶媒は単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0021】
前記有機溶媒の使用量は、ジハロゲノストロンチウム1ミリモルに対して、好ましくは5〜50ml、更に好ましくは10〜30mlである。
【0022】
本発明の金属ストロンチウムを得る方法、即ち、ジハロゲノストロンチウムを還元して金属ストロンチウムを得る方法の好ましい態様としては、ジハロゲノストロンチウム、アルカリ金属、芳香族化合物及び有機溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−78〜60℃、更に好ましくは−10〜50℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0023】
前記の方法で有機溶媒を使用した場合には、金属ストロンチウムの溶液(有機溶媒溶液)として得られるが、当該金属ストロンチウムを使用してアミノ化合物と反応させる際には、前記の有機溶媒溶液をそのまま使用しても、有機溶媒を濃縮等により留去して、又は新たに有機溶媒を加えて溶液の体積を調整して使用しても良い。
【0024】
本発明の反応(金属ストロンチウムとアミノ化合物とを反応させてストロンチウムアミド化合物を製造する)においては、前記の方法で得られた金属ストロンチウム又はその溶液とアミノ化合物を反応させるが、その際に使用するアミノ化合物は前記の一般式(2)で示される。
【0025】
その一般式(2)において、R及びRは同一又は異なっていても良く、例えば、トリメチルシリル基、ジメチルエチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリブチルシリル基、ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基、ナフチルジメチルシリル基、ジメチルエチルシリル基、ジメチルエトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、トリエトキシシリル基等オルガノシリル基(好ましくは炭素原子数3〜18のオルガノシリル基);メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等の炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基;フェニル基、2−メチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2−tert−ブチルフェニル基、3−メチルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、3−tert−ブチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、2−フルオロフェニル基、2−(トリフルオロメチル)フェニル基、3−フルオロフェニル基、3−(トリフルオロメチル)フェニル基、4−フルオロフェニル基、3−(トリフルオロメチル)フェニル基、パーフルオロフェニル基、2−フルオロ−5−メチルフェニル基等の炭素原子数6〜10のアリール基を示す。なお、これらの基は各種異性体を含む。
【0026】
本発明の反応で使用するアミノ化合物の使用量は、金属ストロンチウムを合成する際に使用したジハロゲノストロンチウム1モルに対して、好ましくは1.0〜3.0モル、更に好ましくは1.8〜2.2モルである。
【0027】
本発明の反応は有機溶媒中で行うことが望ましく、その有機溶媒としては金属ストロンチウムを合成する際に使用した有機溶媒を使用しても良いし、金属ストロンチウムの合成の際に使用した有機溶媒(段落番号0020に記載)を新たに添加しても良い。
【0028】
本発明の反応は、金属ストロンチウム又はその溶液、アミノ化合物及び必要ならば新たな有機溶媒を混合して、攪拌しながら反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは−78〜60℃、更に好ましくは−10〜50℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【0029】
本発明の反応により目的物であるストロンチウムアミド化合物が得られるが、反応終了後、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法によって単離・精製される。
【0030】
なお、本発明の目的物であるストロンチウムアミド化合物、及びその製造原料である金属ストロンチウムは、大気中の水分や酸素に対して不安定な場合が多いため、無水条件下や不活性ガス条件下にて、反応自体や反応操作、反応液の後処理等を行うことが望ましい。
【0031】
本発明によって製造されるストロンチウムアミド化合物は、例えば、以下の式(4)〜(15)によって示される化合物が挙げられる。
【0032】
【化4】

【実施例】
【0033】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0034】
実施例1(ストロンチウムビス(ビス(トリメチルシリル)アミド))(化合物(4))の合成)
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積40mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、金属ナトリウム46mg(2.0mmol)、ナフタレン0.26g(2.0mmol)、無水ヨウ化ストロンチウム0.34g(1.0mmol)及びテトラヒドロフラン10mlを加え、25℃で2時間攪拌させて、テトラヒドロフランに分散された金属ストロンチウム溶液を製造した。
【0035】
次いで、前記反応液(テトラヒドロフランに分散された金属ストロンチウム溶液)に、液温を25℃付近に維持しながらテトラメチルジシラザン0.32g(2mmol)のテトラヒドロフラン溶液10mlをゆるやかに滴下し、攪拌しながら25℃で3時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮した後に、濃縮物をトルエン50mlで抽出し濾過した。濾液を濃縮した後に濃縮物を減圧下で蒸留(180℃、13Pa)し、無色液体として、ストロンチウムビス(ビス(トリメチルシリル)アミド))0.25gを得た(単離収率;61%)。当該液体は100℃以下で白色固体となった。
なお、ストロンチウムビス(ビス(トリメチルシリル)アミド))の物性値を以下に示す。
【0036】
H−NMR(テトラヒドロフラン−d,δ(ppm));−0.03(18H,s)
融点;100-102℃。
【0037】
実施例2(ストロンチウムビス(N−イソプロピルアニリド)(化合物(5))の合成)
実施例1において、アミン化合物をN−イソプロピルアニリン0.27g(2mmol)に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。その結果、白色固体として、ストロンチウムビス(N−イソプロピルアニリド)0.23gを得た(単離収率;65%)。
なお、ストロンチウムビス(N−イソプロピルアニリド)の物性値を以下に示す。
【0038】
H−NMR(テトラヒドロフラン−d,δ(ppm));6.78(4H,br)、6.21(4H,br)、5.84(2H,br)、3.54(2H,br)、1.12(12H,br)
融点;230℃以上
【0039】
実施例3(ストロンチウムビス(ジフェニルアミド)(化合物(6))の合成)
実施例1において、アミン化合物をジフェニルアミン0.34g(2mmol)に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。その結果、白色固体として、ストロンチウムビス(ジフェニルアミド))0.27gを得た(単離収率;64%)。
なお、ストロンチウムビス(ジフェニルアミド))の物性値を以下に示す。
【0040】
H−NMR(テトラヒドロフラン−d,δ(ppm));6.95(8H,m)、6.83(8H,m)、6.32(4H,m)
融点;230℃以上
【0041】
実施例4(ストロンチウムビス(ビス(4−tert−ブチル−フェニル)アミド)(化合物(9))の合成)
実施例1において、アミン化合物をビス(4−tert−ブチル−フェニル)アミン0.56g(2mmol)に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。その結果、白色固体として、ストロンチウムビス(ビス(4−tert−ブチル−フェニル)アミド)0.39gを得た(単離収率;60%)。
なお、ストロンチウムビス(ビス(4−tert−ブチル−フェニル)アミド)の物性値を以下に示す。
【0042】
H−NMR(テトラヒドロフラン−d,δ(ppm));7.01(8H,d、j=8.0Hz)、6.76(8H,d、j=8.0Hz)、1.26(36H,s)
融点;230℃以上
【0043】
実施例5(ストロンチウムビス((2−フルオロ−5−メチルフェニル)フェニルアミド)(化合物(11))の合成)
実施例1において、アミン化合物を(2−フルオロ−5−メチルフェニル)フェニルアミン0.40g(2mmol)に変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。その結果、白色固体として、ビス((2−フルオロ−5−メチルフェニル)フェニルアミド)0.30gを得た(単離収率;61%)。
なお、ビス((2−フルオロ−5−メチルフェニル)フェニルアミド)の物性値を以下に示す。
【0044】
H−NMR(テトラヒドロフラン−d,δ(ppm));7.02(2H,m)、6.94(2H,m)、6.79(1H,m)、6.65(1H,m)、6.52(1H,m)、5.81(1H,m)、2.02(3H,s)
融点;230℃以上
【0045】
比較例1(ストロンチウムビス(ビス(トリメチルシリル)アミド)(化合物(4))の合成)
市販(アルドリッチ製)の金属ストロンチウム(樹状品)を用いてストロンチウムアミド化合物の製造を行った。
攪拌装置、温度計及び滴下漏斗を備えた内容積40mlのフラスコに、アルゴン雰囲気にて、金属ストロンチウム(アルドリッチ製;アンプル入り樹状品)88mg(1.0mmol)及びテトラヒドロフラン10mlを加えた。混合液を25℃で2時間攪拌し、テトラヒドロフランに分散された金属ストロンチウム溶液を製造した。
【0046】
次いで、前記反応液(テトラヒドロフランに分散された金属ストロンチウム溶液)に、液温を25℃付近に維持しながらテトラメチルジシラザン0.32g(2mmol)のテトラヒドロフラン溶液10mlをゆるやかに滴下し、攪拌しながら25℃で2時間反応させた。反応終了後、反応液を濃縮した後に、濃縮物をトルエン50mlで抽出し濾過した。得られた濾液を濃縮したが、ストロンチウムビス(ビス(トリメチルシリル)アミド))は生成していなかった。
【0047】
比較例2(ストロンチウムビス(ジフェニルアミド)(化合物(6))の合成)
比較例1において、アミン化合物をジフェニルアミン0.34g(2mmol)に変えたこと以外は、比較例1と同様に反応を行った。反応終了後、反応液を濃縮した後に、濃縮物をトルエン50mlで抽出し濾過した。得られた濾液を濃縮し、濃縮物を減圧下で蒸留(180℃、13Pa)したが、ストロンチウムビス(ジフェニルアミド))は生成していなかった。
【0048】
比較例1及び2においてテトラヒドロフランに分散された金属ストロンチウム溶液を製造する際に、金属ストロンチウムの表面を活性化するためにヨウ素25mg(0.1mmol)、1,2−ジブロモエタン19mg(0.1mmol)及び1,2−ジヨードエタン28mg(0.1mmol)のうち、いずれか又は複数を加えて混合液を25℃で2時間攪拌するようにして分散された金属ストロンチウム溶液を製造した場合でも、目的とするストロンチウムアミド化合物は得られなかった。
【0049】
以上の結果から、本発明のジハロゲノストロンチウムを還元して得られる金属ストロンチウム又はその溶液とアミノ化合物を反応させることにより、効率良くストロンチウムアミド化合物を製造することができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、簡便な方法にて、高収率でストロンチウムアミド化合物の製造方法に関する。ストロンチウムアミド化合物は、例えば、金属含有薄膜形成用、触媒用、医薬、農薬用等に有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Xはハロゲン原子を示す)
で示されるジハロゲノストロンチウムを還元して得られる金属ストロンチウム又はその溶液と一般式(2)
【化2】

(式中、R及びRは同一又は異なっていても良く、オルガノシリル基、炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基又は炭素原子数6〜10のアリール基を示す。)
で示されるアミノ化合物をと反応させることを特徴とする一般式(3)
【化3】

(式中、R及びRは前記と同義である)
で示されるストロンチウムアミド化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)
【化4】

(式中、Xはハロゲン原子を示す)
で示されるジハロゲノストロンチウム、アルカリ金属及び芳香族化合物を反応させて金属ストロンチウム又はその溶液を得る請求項1記載のストロンチウムアミド化合物の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)
【化5】

(式中、Xはハロゲン原子を示す)
で示されるジハロゲノストロンチウム、アルカリ金属及び芳香族化合物を反応させて金属ストロンチウム又はその溶液を得た後、一般式(2)
【化6】

(式中、R及びRは同一又は異なっていても良く、オルガノシリル基、炭素原子数1〜5の直鎖状又は分岐状のアルキル基又は炭素原子数6〜10のアリール基を示す。)
で示されるアミノ化合物を更に反応させる請求項1乃至2のいずれかに記載のストロンチウムアミド化合物の製造方法。
【請求項4】
下記の式で示されるストロンチウムアミド化合物。
【化7】


【公開番号】特開2011−126816(P2011−126816A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286780(P2009−286780)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】