説明

ストロンチウムラネレートおよびその水和物の新規な合成法

【課題】抗骨粗鬆症特性を有し、骨疾患の処置に有用なストロンチウムラネレート[式(1)]およびその水和物の新規な合成法の提供。
【解決手段】式(1)の前駆体であるテトラエステル体を、水中または水と有機溶媒との混合物中、0〜100℃の温度で水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムと反応させ、Na塩またはK塩を得て、これを水と有機溶媒との混合物中、0〜100℃の温度で塩化ストロンチウムと反応させ単離した後、ストロンチウムラネレートまたはその水和物を得る合成法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I):
【0002】
【化5】

【0003】
で示されるストロンチウムラネレート(strontium ranelate)、または5−[ビス(カルボキシルメチル)アミノ]−3−カルボキシメチル−4−シアノ―2−チオフェンカルボン酸の二ストロンチウム塩、およびその水和物を合成する方法に関するものである。
【0004】
ストロンチウムラネレートは、非常に価値のある薬理学および治療上の特性、特に傑出した抗骨粗鬆症特性を有していて、そのために骨疾患の処置に役立つ。
【0005】
ストロンチウムラネレート、その製造およびその治療上の用途は、欧州特許出願公開第0 415 850号公報(EP 0 415 850)に記載されている。
【0006】
欧州特許出願公開第0 415 850号公報は、ストロンチウムラネレートの合成のための3方法を記載している。記載された方法の第二のものは、式(IIa):
【0007】
【化6】

【0008】
のエチルテトラエステルを、水性アルコール溶媒中で水酸化ナトリウムとともに還流にて加熱し、次いで、エタノールおよびほとんどの水を留去して、沈澱によって式(IIIa)の四ナトリウム塩を単離することからなる:
【0009】
【化7】

【0010】
そうして、式(IIIa)の化合物を、水中で塩化ストロンチウムと反応させて、ストロンチウムラネレートを得て、これを濾過によって単離する。
【0011】
しかしながら、この第二の方法のために記載された条件下で操作すると、本出願人は、70%未満の収率でストロンチウムラネレートを得たにすぎない。
【0012】
本出願人は、ストロンチウムラネレートを優れた収率および優れた純度で得るのを可能にする、工業的な合成方法を開発した。
【0013】
より具体的には、本発明は、式(I)のストロンチウムラネレートを合成する方法であって、式(II):
【0014】
【化8】

【0015】
[式中、RおよびR’は、同じであるか、または異なってもよくて、それぞれ、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基、好ましくはメチル基を表す]
で示される化合物から出発して、これを、水中または水と有機溶媒との混合物中、0〜100℃の温度で、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムと反応させて、式(III):
【0016】
【化9】

【0017】
[式中、Aは、NaまたはKを表す]
で示される塩を得て、これを、水と有機溶媒との混合物中、0〜100℃の温度で塩化ストロンチウムと反応させて、単離した後、ストロンチウムラネレートまたはその水和物の一つを得る方法に関するものである。
【0018】
有機溶媒のうちでは、例示として、テトラヒドロフラン、アセトン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、ならびにメタノール、エタノール、イソプロパノールおよびイソブタノールなどのアルコール溶媒を列挙し得る。
【0019】
意外にも、塩化ストロンチウムによる塩変換の工程における有機溶媒の存在は、収率を非常に実質的に増大させるのを可能にする。
【0020】
水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの量は、好ましくは、式(II)の化合物1モルあたり4モル以上である。
【0021】
鹸化反応のための温度は、好ましくは、20〜70℃である。
【0022】
本発明の実施態様によれば、式(III)の塩は、塩化ストロンチウムとの反応の前に単離する。
【0023】
別の実施態様によれば、式(III)の塩の溶液は、塩化ストロンチウムとの反応に用いる前に清澄化する。
【0024】
別の実施態様によれば、式(III)の塩の溶液は、塩化ストロンチウムとの反応にそのままで用いる。
【0025】
塩化ストロンチウムの量は、好ましくは、式(II)の化合物1モルあたり2モル以上である。
【0026】
塩化ストロンチウムとの反応の温度は、好ましくは、20〜50℃である。
【0027】
本発明に記載の方法では、ストロンチウムラネレートは、好ましくは、濾過によって単離する。濾過によるストロンチウムラネレートの単離の後、水によるか、有機溶媒によるか、もしくは水/有機溶媒混合物による一つもしくはそれ以上の洗浄工程、および乾燥工程を続けるのが好ましい。
【0028】
AがKを表す式(III)の化合物の特定の場合である、式(IIIb):
【0029】
【化10】

【0030】
のカリウム塩は、新規な化合物であって、化学または製薬工業、特にストロンチウムラネレートおよびその水和物の合成における合成中間体として役立ち、さらに、本発明の不可欠な部分を形成する。
【0031】
以下の実施例は、本発明を例示する。
【0032】
実施例1:5−[ビス(カルボキシルメチル)アミノ]−3−カルボキシメチル−4−シアノ―2−チオフェンカルボン酸の二ストロンチウム塩
20〜25℃で、温度測定器およびインペラを備えた800ml入り反応器に、5−[ビス(2−メトキシ−2−オキソエチル)アミノ]−4−シアノ−3−(2−メトキシ−2−オキソエチル)−2−チオフェンカルボン酸メチル50gおよびテトラヒドロフラン75mlを仕込んだ。撹拌を開始し、次いで、NaOH22.9gおよび水216mlを用いて事前に調製しておいた、水酸化ナトリウム水溶液を反応器に仕込んだ。反応混合物の撹拌を4〜6時間続けた。SrCl273.9gおよび水340mlを用いて事前に調製しておいた、塩化ストロンチウム水溶液を加えた。20〜25℃で20時間撹拌を続けた。懸濁液は、徐々に、より顕著に(鮮やかな黄色の懸濁液に)なった。直径100mmの3号フリット越しに濾過し(非常に急速な濾過)、直ちに2x50mlの水でフリット越しに洗浄した。揮発性成分を、減圧下で30分間、生成物から除去した。換気されたオーブン内で30℃で乾燥した。
【0033】
これによって、ストロンチウムラネレートを93.8%の収率で得た。
【0034】
実施例2:5−[ビス(カルボキシルメチル)アミノ]−3−カルボキシメチル−4−シアノ―2−チオフェンカルボン酸の二ストロンチウム塩
用いた方法は、実施例1に記載のものであったが、テトラヒドロフランをアセトンに置き換えた。
【0035】
これによって、ストロンチウムラネレートを92.6%の収率で得た。
【0036】
実施例3:5−[ビス(カルボキシルメチル)アミノ]−3−カルボキシメチル−4−シアノ―2−チオフェンカルボン酸の二ストロンチウム塩
用いた方法は、実施例1に記載のものであったが、水酸化ナトリウムをKOH32.1gに置き換えた。式(IIIb)のカリウム塩の溶液を清澄化してから、塩化ストロンチウムと反応させた。
【0037】
これによって、ストロンチウムラネレートを94%の収率で得た。
【0038】
実施例4:5−[ビス(カルボキシルメチル)アミノ]−3−カルボキシメチル−4−シアノ―2−チオフェンカルボン酸の二ストロンチウム塩
用いた方法は、実施例1に記載のものであったが、テトラヒドロフランをイソプロパノールに置き換えた。
【0039】
これによって、ストロンチウムラネレートを94.8%の収率で得た。
【0040】
実施例5:5−[ビス(カルボキシルメチル)アミノ]−3−カルボキシメチル−4−シアノ―2−チオフェンカルボン酸の二ストロンチウム塩
20〜25℃で、温度測定器およびインペラを備えた800ml入り反応器に、NaOH22.9gおよび水500mlを仕込んだ。撹拌を開始し、5−[ビス(2−メトキシ−2−オキソエチル)アミノ]−4−シアノ−3−(2−メトキシ−2−オキソエチル)−2−チオフェンカルボン酸メチル50gを反応器に仕込んだ。混合物を70℃に30分にわたって加熱し、その温度に25分間保ち、次いで、空隙率4、直径75mmのフリット越しに70℃で清澄化し、水50mlで洗浄した。上記の透明な橙色の濾液を、800ml入り反応器に再び仕込んだ。反応混合物を20℃に冷却し、エタノール75mlを加え、次いで、事前に調製しておいた水137ml中SrCl273.9gの溶液を、15分間にわたって加えた。20〜25℃で2時間撹拌した。懸濁液は、徐々に、より顕著に(鮮やかな黄色の懸濁液に)なった。直径100mmの3号フリット越しに濾過し(瞬間的濾過)、直ちに2x250mlの水とともにフリット越しに再濾過した。換気されたオーブン内で30℃で乾燥した。
【0041】
これによって、ストロンチウムラネレートを94%の収率で得た。
【0042】
実施例6:5−[ビス(カルボキシルメチル)アミノ]−3−カルボキシメチル−4−シアノ―2−チオフェンカルボン酸の二ストロンチウム塩
工程A:5−[ビス(カルボキシルメチル)アミノ]−3−カルボキシメチル−4−シアノ―2−チオフェンカルボン酸のカリウム塩[式(IIIb)の化合物]
20〜25℃で、温度測定器およびインペラを備えた800ml入り反応器に、KOH40.4gおよび水225mlを仕込んだ。撹拌を開始し、次いで、5−[ビス(2−メトキシ−2−オキソエチル)アミノ]−4−シアノ−3−(2−メトキシ−2−オキソエチル)−2−チオフェンカルボン酸メチル60gおよび水50mlを反応器に仕込んだ。反応混合物を55〜60℃に30分にわたって加熱し、2時間それを撹拌し続けた。60℃で清澄化を実施し、次いで、反応混合物を20〜25℃に冷却した。減圧下、40℃で乾燥した。これによって得られた残渣に、酢酸エチル200mlおよびメタノール20mlを加えた。8時間撹拌した。得られた懸濁液を濾過した。揮発性成分を生成物から、減圧下で30分間除去した。換気されたオーブン内で30℃で乾燥した。
【0043】
工程B:5−[ビス(カルボキシルメチル)アミノ]−3−カルボキシメチル−4−シアノ―2−チオフェンカルボン酸の二ストロンチウム塩
先行する工程で得られたカリウム塩62.0gに、テトラヒドロフラン75mlおよび水216mlを加え、次いで、SrCl273.9gおよび水340mlを用いて事前に調製しておいた、塩化ストロンチウム水溶液を加えた。20〜25℃で20時間撹拌した。懸濁液は、徐々に、より顕著になった。直径100mmの3号フリット越しに濾過し、直ちにフリット越しに2x50mlの水で洗浄した。揮発性成分を、減圧下で30分間、生成物から除去した。換気されたオーブン内で30℃で乾燥した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】


で示されるストロンチウムラネレートおよびその水和物を合成する方法であって、式(II):
【化2】


[式中、RおよびR’は、同じであるか、または異なってもよくて、それぞれ、直鎖または分枝鎖C1〜C6アルキル基を表す]
で示される化合物を、水中または水と有機溶媒との混合物中、0〜100℃の温度で水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムと反応させて、式(III):
【化3】


[式中、Aは、NaまたはKを表す]
で示される塩を得て、これを、水と有機溶媒との混合物中、0〜100℃の温度で塩化ストロンチウムと反応させて、単離した後、ストロンチウムラネレートまたはその水和物の一つを得ることを特徴とする方法。
【請求項2】
水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの量が式(II)の化合物1モルあたり4モル以上である、請求項1記載の合成方法。
【請求項3】
式(II)の化合物に対する鹸化反応の温度が20〜70℃である、請求項1または2記載の合成方法。
【請求項4】
式(III)の塩を塩化ストロンチウムとの反応の前に単離する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項5】
式(III)の塩の溶液を、塩化ストロンチウムとの反応に用いる前に清澄化する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項6】
式(III)の塩の溶液を塩化ストロンチウムとの反応にそのままで用いる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項7】
塩化ストロンチウムの量が式(II)の化合物1モルあたり2モル以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項8】
式(III)の化合物に対する塩変換反応の温度が20〜50℃である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項9】
ストロンチウムラネレートを濾過によって単離する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の合成方法。
【請求項10】
濾過工程の後に1回もしくはそれ以上の洗浄工程および乾燥工程を実施する、請求項9記載の合成方法。
【請求項11】
式(IIIb):
【化4】


で示される化合物。
【請求項12】
RおよびR’が、それぞれ、メチル基を表す、請求項1〜10のいずれか一項に記載の合成方法。

【公開番号】特開2009−132676(P2009−132676A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−245193(P2008−245193)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】